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ポゴリツァ戦史
日時: 2010/03/20 17:18
名前: ポゴリツァ脱走兵 (ID: fjWEAApA)

どうも、ポゴリツァ脱走兵です。
前の作品、消されてしまったのかと思っていたら実はエラーで一時的に見えなくなっていただけのようです。
早やとちってすみません。
よろしければ『タホ戦争 ある兵士の記録』と並行して見てってやってください。

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Re: ポゴリツァ戦史 ( No.14 )
日時: 2010/04/24 18:01
名前: ポゴリツァ脱走兵# (ID: fjWEAApA)

もう誰の目に見ても敗北は明らかだった。
残りの戦車が後退し始める。
交差点の向こう側にいる1台目はそのまま向こうに進んでいったようだった。
アージルは急いで走りながら後ろを振り返ると、ポゴリツァ戦車と敵の歩兵数名がこちらに追撃をかけてきていた。
走る途中で後ろから撃たれた仲間が次々と倒れていく。
砲弾が当たり、4台目のアーティールが撃破される。
幸運にもアージルとディッキスはわき道にそれたことで敵の追撃から逃れることができた。



アーティール戦車・・・2919年にミン=グァンで独自開発された戦車。今でもミン=グァンでは一線で使用している。
エンジンの出力不足の関係上装甲が極めて薄く重機関銃の弾が貫通してしまうほど。
生産性は良く、数で勝負な兵器。

ポゴリツァ戦車・・・キルヒフ産のボレロ2の輸出型。
先進国から見れば三流だが、ポゴリツァでは重宝されている。

Re: ポゴリツァ戦史 ( No.15 )
日時: 2010/04/24 18:29
名前: ポゴリツァ脱走兵# (ID: fjWEAApA)

基地に戻ったアージルたちは緊張から解放されたはずみに脱力してその場でへたり込んでしまった。
すぐに味方の指揮官がやってきてキーキーとわめき散らしながら、早く立って自分のテントに戻れと言いながら1人ずつ思いっきり殴り、足で蹴り飛ばした。
アージルたちは殴られた時に口の中を切り、口から血を滴らせながら自分のテントへと戻った。
痛みをこらえながら食事を摂ったが血の味しかしなかった。
とは言っても、味がしたところで毎日出てくるくそまずい軍用食なので残念な気持ちはしなかったが・・・。


食事を終えてからしばらくして他の兵士と話をしていると、今回の攻勢で無残にも敗走したところはアージルたちの部隊だけだったということが分かった。
だが、まだあちこちでポゴリツァ勢力の抵抗は衰えておらず、膠着状態になっているところも少なくないようだ。
とはいえ大事な一戦での負け戦は厳しかった。アージルは、今回の敗走で自分達がどんな処罰を受けるのかと想像して恐ろしさに震えていた。

良くて強制収容所行き・・・
悪かったら・・・


だが、強制収容所であろうとあまり関係ないのである。
過酷な労働で命を落とす者も少なくないし、仮に生きて外に出られたとしても弱った体でまともに生きていけるとは思えなかった。
家族にも迷惑がかかるだろう。
俺が生きている限り、『裏切り者の家族』と後ろ指を指されながら暮らしていかねばならなくなり、配給の量もぐっと減らされるだろう。

アージルは眠れぬ夜を過ごすことになった。

Re: ポゴリツァ戦史 ( No.16 )
日時: 2010/04/24 19:17
名前: ポゴリツァ脱走兵# (ID: fjWEAApA)

翌日。

意外にもアージルたちに処罰は下されなかったのだ。
唯一責任を問われたのは部隊の指揮官だけだった。

強制収容所行き・・・・・・ご愁傷様だ。


アージルはほっとしてディッキスとともに自分達のテントへと戻った。
今日は消耗した部隊の再編成が行なわれる関係で日没までは装備の手入れ以外何もすることはなかった。

ディッキス「なあ、アージル。」

ディッキスがやや猫なで声で話し掛ける。
嫌な予感がしたアージルは顔をしかめながら応えた。

アージル「どうした?頼みごとなら聞かないぞ。」
ディッキス「そんなんじゃねえよ。お前、この戦争終わったら何するつもりなのか聞きたかっただけなのに何を勘違いしてんだか。」

予想外の応えに少し戸惑いながらもアージルは応える。

アージル「んー、とりあえずはパン屋に再就職かな・・・。他にすることないし・・・。」
ディッキス「おいおい、もしかしてお前彼女なしか?」

ディッキスがいやらしく微笑む。アージルは真っ赤になって反論した。

アージル「出会いがないんだよ!うるさいな。そういうお前は・・・なめたこと言うからにはいるんだろうな?」

そう言うと、ディッキスはうれしそうにポケットの中から写真を取り出しながら言った。

ディッキス「この人なんだけどな、この戦争が終わったら結婚することになってんだぜ。いーだろー。」

その写真にディッキスと写っている人を見ると非常にかわいらしく、ディッキスにはもったいないぐらいだった。
笑顔のかわいい彼女に少々見惚れながらアージルは言う。

アージル「予想外にはかいいじゃないかもっとごつい奴を想像してたんだけどなぁ。惚気やがって。それ言うためにこの話切り出したのかよ。」

Re: ポゴリツァ戦史 ( No.17 )
日時: 2010/04/24 19:41
名前: ポゴリツァ脱走兵# (ID: fjWEAApA)

アージル「こういう話すると映画じゃあこの後死んじまうんだぜ?」
ディッキス「ほざけほざけ。そんなの物語の中だけの話だ。俺はそうはなんねーよ。」

そう言いつつもディッキスは少し不安げな顔になっていた。
アージルは冗談にしては縁起が悪すぎたかなと少々反省し、慰めの言葉でフォローする。

アージル「本気にするなよ。いざとなったら俺がついてるだろ?」
ディッキス「ありがとな。頼りにしてるぜ相棒。」

その後も会話は続いたがアージルはその後の会話は何を言ったのか覚えていなかった。
いざとなったら・・・本当に俺はディッキスを助けられるのだろうか?
そればかり考えていた。
もうこれ以上仲間を失いたくなかった。
だが、自分はというといつも逃げ回ってばかり・・・。
見殺しにしてきた戦友たちの中には自分の頑張り次第では助かった者もいたのではないか・・・?
どの口が白々しくも『俺がついてる』なんて言えるだろうか?

お前がついていたせいで何人もの仲間が死んだんだぞ。

アージルは心の中で自分を責めていた。

Re: ポゴリツァ戦史 ( No.18 )
日時: 2010/05/01 16:32
名前: ポゴリツァ脱走兵# (ID: fjWEAApA)

話が一段落して気づくともう夕方になっていた。
仮設事務所の掲示板に再編成の掲示がなされていた。

・・・俺とディッキスは別の部隊か・・・。

そこには少し安心している自分がいた。

別の部隊ならもうしばらくは会うこともないだろうし、その途中でディッキスがどうなろうとも仕方のない・・・

そう思いかけている自分に腹が立った。
アージルは自分で自分の頭に1発パンチを入れ、一緒に掲示を見にきていたディッキスに別れを告げた。

アージル「またな。元気でやれよ。」
ディッキス「ああ、次に会うときはハルバラ—(ポゴリツァの首都)だ。死ぬんじゃないぞ。」

そう言うとお互い一瞬神妙な顔になり、くるりと後ろを向いてその場を立ち去った。
お互いの姿が見えなくなるまで両人とも後ろを振り向くことはなかった。


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