ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 「ようそろ」
- 日時: 2012/08/02 23:44
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: LUJQxpeE)
こんにちは、紫です。ゆかり、じゃないですよ、むらさきです。
設定が分からなくなるほど、久方ぶりの物語(笑)
一年以上書いていませんでしたが、突然、書きたくなりました。設定もだいぶ頭から飛んでいて、少し大変ですが、また書き始めようと思います。昔々の文章なので、思うところが多々ありますが、せっかくのやる気をそぎたくないので、しばらくはこのままにしておきます
おつきあいいただければ幸いです
文章ぐちゃぐちゃ、構成ボロボロ、誤字脱字等連発と、まぁ、相変わらずそんな感じですが、よろしくお願いします。
アドバイス、コメント等は二十四時間募集しています。
- Re: 「ようそろ」 ( No.20 )
- 日時: 2012/08/03 00:18
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: LUJQxpeE)
八
いかに二人旅をしてきたとはいえ、一つの部屋に二人となると、その気まずさは他人が推し量れるものではないらしい。
一休みする間もなく、リュウカは居た堪れなくなって、「散歩」と称してそそくさと部屋を出た。
宿の外はやはり先程のように人通りが多く、さらに奥まで進んでいくと、にぎやかな夜市に辿り着いた。飴だけを売っている店もあれば、チャーシューの専門店、乾物屋、香辛料屋、氷屋、果ては葉巻屋までその種類は様々である。どこの店も煌々とランプが点いていて、田舎育ちのリュウカには、まるでこの町だけ夜から切り離された常昼の空間のように思えた。
はじめは好奇心が勝る。祭りのような陽気さに触発されたリュウカは、あの店、この店、またあの店と、次から次へと何を買うでもなく小走りで見て歩いていた。
だが、慣れない人混みは実のところ意外と体力を使う。
すっかりへとへとになったリュウカは大粒の飴玉を買うと、それを口に放り投げて、足早に夜市を後にした。
部屋に戻るとカエンはすでに眠っていた。オーナーが気を使ったのだろう。その隣には新たにベッドがひとつ置いてある。リュウカは持っていたかばんを部屋の隅に置くとベッドで行き倒れのように倒れこんだ。およそ年頃の少女が人前でするような格好ではない。しかし、それを気にしている余裕はなかった。外ではまだにぎやかな話し声が聞こえるが、暗い部屋の中では寝息だけが不規則に聞こえていた。
天を仰げば透き通った青空が広がり、その海を鳥が群れを成して泳いでいく。
耳を澄ませば近くを流れる渓流のせせらぎが耳を撫で、ひんやりとした風が頬をくすぐる。
どこだろうか。いつの間にかそんなところに立っていたリュウカはふと考える——までもなかった。木と藁でできた質素な家がぽつぽつと並ぶ。だんだんとせせらぎの音のほかに鶏の声も混じってくる。そして後ろに立つかわいらしい花を付けた桃の木。リュウカは確信する。
そこは、彼女の故郷である“リュウケイ里”であった。
「リュウカ!」
そんな声が聞こえた。リュウカはきょろきょろと辺りを見回す。しかし誰もいない。
「リュウカ、ここだ!」
若い男の声だ。それもリュウカのよく知る……。
いつからいたのだろうか。いつの間にか桃の木の下に一人の青年が立っていた。髪はリュウカと同じ赤で、何をつけているのか空に向かって棘のように立っている。黒いコートはこの里の自警団所属であることの証で、さらにいろいろな飾りが付いていることから相応の地位にあることは容易に想像できる。
「お兄ちゃん!」
リュウカは転がるように桃の木へと駆けていく。喧嘩別れしたとはいえ、それでも大好きな兄であることに変わりはない。ただ純粋に兄との再会がうれしかった。
一方で兄は妹を見て笑ったかと思うと、すぐに何か思い悩むような表情になってしまった。リュウカもそれに気付き、兄の前まで来るときょとんとした顔で彼を見つめた。
「すまない……」
「え?」
風が吹いて花びらが散る。尋常でない量だ。すぐに花吹雪はリュウカを包み込む。隙間からわずかに見える兄は儚げで、リュウカは必至になって手を伸ばす、が、全く届きそうにもない。とうとう花びらが視界を閉ざした。何も見えなくなる。せせらぎも風も、何も感じなくなっていく。その中でただ一言だけ響いていた。
——すま、ない。
目を覚ますとまだ外は暗かった。
リュウカは水を飲もうとベッドから起き上がる。そこで気付いた。カエンの様子が変であることに。
額には汗がにじんでいる。眉間にはしわが寄っていて、息は不規則で苦しげだった。リュウカは即座にカエンの額に手を乗せる。ひどい熱であった。
夜中ではあるが幸い受付に従業員は数名いた。この時間ではまず医者は呼べない。とりあえず水桶と手ぬぐいを借りると、リュウカはこぼさないように気をつけながら早歩きで部屋に戻っていった。
何をするべきなのか、医学の心得のないリュウカにはよく分からない。だが、こういったときのある一種の“お決まり”と言えば、額に冷えた布を乗せることだろう。手ぬぐいを固く絞ったリュウカはカエンの前髪を横に寄せるとそっと置いた。
「すま……ない」
「カエンさん?」
小さな、本当に小さな、聞き逃してしまいそうな声だったが、リュウカには確かに聞こえた。
一向に起きる気配はない。熱に浮かされたただのうわ言であった。奇しくもそれは先程の夢でリュウクが言っていたものと同じ。いや、もしかしたらずっとカエンは言い続けていたのかもしれない。今のように苦しみながら、ずっと。
「すまない…………ツ……」
カエンは謝り続ける。ここにいない誰かへ向けられた言葉は、ただ虚しく空を切る。
何かを思ったわけではなかった。苦しげなカエンを見つめながら、リュウカの手はごく自然とポケットに伸びていた。その中には何の因縁か“聖具の破片”。
「カエンさんはぁ、過去にぃ、何があったんですか?」
ずいぶん前に使うのをやめた故郷の訛りが自然と口から出てくる。
リュウカはポケットから手を出してカエンの手を握った。すると、カエンも何かにすがるかのように、微かにだが握り返してきた。それからも荒い息の中、ひたすらに懺悔が続く。しかし、肝心な誰が何をどうした、という内容は一向に見えてこない。
「どうしてぇ、何を、そんなに苦しんでるんか? 私じゃ——」
——役に立たないんか?
と、紡ごうとした訛りのひどい言葉は嗚咽の中に消えてしまった。
兄であるリュウクも知っている。イハクも知っている。その二人と同等に扱ってほしいと言うのはいささか無理な話ではある。無理な話であるが、リュウカは泣くしかなかった。
その時、不意にカエンの目が開いた。ぼんやりと泣きじゃくるリュウカを見つめる目。どこかいつもと違うのは気のせいではなかろう。
「……ようそろ。どうした? リュウク妹」
カエンはいつもの調子でゆっくりと口を開いた。月明かりで照らされた端正な顔立ちは、どこか儚さをかもし出していて、答えることもできずにリュウカは涙を拭った。
「……もしかして、何か、俺は言ってたか?」
「大丈夫です、言って、ないです。なんも。ごめんなさい、ちょっとお兄ちゃんと喧嘩したのを、思い出してただけ、ですから……」
「そうか」
訛りを戻したリュウカの必死のごまかしに、カエンは心底安心したように息を吐くと、突然起き上がった。そして、室内履きに足を突っ込むと、ふらつく身体で何とか立ち上がった。
「ね、寝ててください! カエンさん。まだ……」
「顔洗って、水飲んでくるだけだ。せっかくの宿だからな、リュウク妹。ちゃんと寝とけ」
「あ……」
扉の閉まる音が、何故かひどく重く、誰もいない寝台を照らす月の光だけが、不自然なほど明るく差していた。
- Re: 「ようそろ」 ( No.21 )
- 日時: 2010/08/20 00:59
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: XySDzvXC)
九
それから数日の間、リュウカはシュクエキでの滞在を余儀なくされていた。というのも、カエンが全く部屋から出ようとしないのだ。ずっと思案顔で天井を見つめている。原因は聖具の欠片とそれと繋がる過去の“トラウマ”だろう。ここからリュウケイ里まではそれなりに距離がある。出発できるなら早いほうがいいのだが、カエンがこの状態ではどうしようもない。
その間でリュウカはだいぶこの町の地理に明るくなった。のんびり歩いてみると店めぐり以外でも面白いことはたくさんある。古くからある図書館の建物はどこか厳かで、その周りを散歩してみると、遥かなる時を遡ったような気分になる。広場では毎日旅の芸人達によって様々なパフォーマンスが次から次へと繰り広げられ、一日中いても飽きることは決してない。
そんな中でリュウカが一番気に入ったのは町外れにある公園だった。
宿街からだいぶ離れているため、いつも行っても閑散としている。もったいないと、この日も歩きながらリュウカは思う。立派な噴水、彫刻、さらに公園の歩道の周りには色とりどりの花がこれでもかというほど植えられているのだ。彼女の生まれ故郷であるリュウケイ里の桃とはまた違った美しさがある。花だけではない。甘い香りに誘われて蝶や蜜蜂も集まってきている。通りはにぎやかで休む暇もないほどだが、ここだけは静かで時間を忘れさせてくれるようだった。
しばらくリュウカは公園を歩く。だんだんと日は真上へと上がっていき、どこかで腹の虫がなった。そろそろ戻ろうか。そんなことを思いながらリュウカは公園の宿街側の出口へと向かった。
するとほとんど人のいない公園に、珍しく誰かがいるのに気付いた。旅人らしく、マントを頭まですっぽりと被って花畑を見つめている。
人が来たことに気づいたのか、マントの旅人はそっとリュウカの方を向いた。そこで二人とも目を大きく見開き、互いを指差した。
「リュウカさん!?」
「カヨウちゃん!?」
リュウカも旅人も両手を広げて駆けていく。頭を隠していたフードが風で後ろへとずり落ちて、桃色の短髪があらわになった。丸顔で大きな緑色の目をした少女で、右手にはかわいらしいクマのぬいぐるみ。歳は十五歳前後だろう。マントの下は薄着で、少し露出させている腹回りはその見た目に反してしっかりと筋肉が付いていて割れていた。
「どうしたの? カヨウちゃん、こんなところで」
リュウカは再会を楽しみつつ、予想外すぎる展開に驚いて訊いた。カヨウは二年ほど前からリュウケイ里で暮らしているのだ。幼い顔つきをしているが、これでも彼女は戦闘においてリュウケイ里でも指折りの実力者で、自警団のカヨウと言えば“いろいろな意味”で、里の人間で知らない者はいない。
「えへへ、ちょっと里帰りの帰り。弟がね、生まれたんだよ。いいでしょ」
「兄弟何人いたっけ?」
「弟五人に妹二人、お姉が一人」
桃色の髪の少女は、呆れた顔をする友を前にして誇らしげに笑った。
名誉のために断っておくと、彼女はそんなにたくさんの子を育てる親の苦労が分かっていないわけではない。分かっているからこそ、彼女は十歳の頃から聖具使いとして、親元を離れて仕送りをしながら暮らしていたのだ。国の機関にいた頃、彼女は期待の新人としてそれはもうどこへ行っても引っ張りだこであり、健気で親孝行な娘であった。
というのも、まあ、過去の話で、三年ほど前に当時の聖具使い長リュウクに心酔してからというもの、今では才能の無駄遣いといえるほど安月給の自警団勤めであるのだが。
「リュウカさんは……えっと、カエン殿を探してる最中?」
「んー、見つかった、んだけどね」
カヨウの言葉にリュウカは苦い顔をしながら口を開いた。ひらひらと色鮮やかな蝶が目の前を舞う。綺麗だ。しかしそれからすぐに、疲れたのだろうか、カヨウの肩で羽を休めてしまった。
「何か訳アリみたいだね。あたし行こうか? まんざら知らない仲ってわけでもないし」
何かを察したらしく、カヨウは肩に止まっている蝶を人差し指の先に止めながら言った。
リュウカとしてはカヨウのほうが年下でもあるからつい忘れがちになる。だが、この年下の少女が先の対フィン戦において、目覚しい働きをしたことは確かなのだ。常に聖具使い長リュウクの隣にあり、あるときは先陣を切り、またあるときは後方から、と。当然その戦いで英雄と称された男とも肩を並べて戦った仲であった。
「そう、だね。ちょっと一緒に来て。何が何でもリュウケイ里まで来てもらわないと」
「あはは、苦労してるみたいだね」
クマのぬいぐるみを脇に抱えながらカヨウは苦笑いした。ある程度の予想はもう付いているのだろう。もしかしたら、彼女はカエンの過去の出来事までしっかりと分かっているのかもしれない。
カヨウに纏わりついていた蝶は歩き出すと同時に人差し指から離れていってしまった。それでも公園を出るまでは彼女の頭の上をくるくると舞っていた。
- Re: 「ようそろ」 ( No.22 )
- 日時: 2010/11/06 21:55
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: jXNvrQsU)
十、
宿のドアを開けると、そこには予想外の光景が広がっていた。
引きこもり中であるはずの最強の聖具使いが、綺麗な女医さん——もとい、オカマの偉大なる医師に羽交い絞めにされていたのだった。騒々しいことこの上ない。しかし隣にいるオーナーも夫人もほほえましい団欒でも見るかのように穏やかな表情を浮かべている。二人もカエンの引きこもりを心配していたのだ。この光景の理由がどうであれ、それはうれしいだろう。
「イハク殿! イハク殿ではありませんか!」
「あらあら、カーヨウちゃーん!」
思いもしない懐かしい人物との対面。笑顔のカヨウにイハクは助走をつけて跳び上がり、そのまま思い切って彼女の懐に飛び込む。いや、飛び込もうとしたのだが、カヨウは笑顔のままそれを華麗にかわして、次はカエンの元へと走っていった。
何かと何かがぶつかる大事故でも起こったかのような音とうめき声が聞こえる中、カヨウは平然とした様子で、カエンに対して略式であるがそれなりの伝統ある礼をしていた。
「リュウク妹、少し寄り道をする。この変態の情報だが」
カエンはやれやれといった表情をして、半べそをかきながら頭を押さえて地面にうずくまっている医者を指差した。
「この町の外れにある製薬会社がフィンの拠点になっているらしい。変態は変態なりに、まあ、変態仲間も多くてな。こいつの医術と情報は昔から役に立つ」
「カエンさん、だから変態って……」
リュウカは呆れ顔をしてつぶやいた、が、無駄なのは分かっているため、それ以上は言わなかった。自覚のない変人の扱いは難しいものである。
「うふふふふ、ふふふふ、アハハハハ」
不気味な笑い声が聞こえた。リュウカはぞっとして振り返る。そこには膝立ちで両手を天に向ける医者の姿があった。輝いている。何故か春の日差しを受けた湖畔のようにキラキラ輝いて見える。幻覚ではあるまい。元々変人ではあるが、今はその“変人”の枠を突き破るほどの様だった。
「ええ、ええ! もう変態でも何でもいいわ! カエンちゃんが、カエンちゃんが私のことを役に立つって言ってくれた! ああ、もう私今この瞬間に死んでも——ウゴホッ」
「——もっとも、人としては最低最悪、気色悪さは国宝級だがな」
カエンはこぶしを握り締めたままさらりとそう言い放つと、「行くぞ」とだけ言ってリュウカにかばんを投げた。突然のことに身体が反応しきれずかばんを受け止めると少しよろめいたが、その間にもカエンは先へと進んでいた。
「おい、カエン!」
今の今まで口を開かなかったオーナーが、扉を開こうとするカエンを呼び止めた。振り返った彼のほうへは勢いよく小さな木の板が飛んでいく。たいした苦もなくそれを受け取ると、オーナーはカエンのほうへと早足で近寄った。
「大きな町にはたいていうちの系列の宿がある。それを見せれば例えどんなに混んでいても、即座に、タダで部屋を用意する」
「いいのか?」
「ああ。……二年前、金もなく家族もなく、後は樹海で死を待つだけだった見ず知らずの俺にお前は持っていたすべての金をくれた。報奨金だったんだろ? フィンを倒したときの。それを元手に俺は宿を始めて、運が強かったんだな、今じゃ全国に展開している。こんな板一枚で恩を返しきれるなんて思っちゃいねぇ。思っちゃいねぇが受け取ってくれ」
言い終わるとオーナーは手を差し出した。カエンは少し頬を緩めて握り返す。「また会おう」と、そうとだけ言って同時に手を離し、カエンはにぎやかな外へと出て行った。
- Re: 「ようそろ」 ( No.23 )
- 日時: 2010/11/06 22:52
- 名前: しーらぃ ◆Nbi4DgASvs (ID: yA6Y/.Us)
どうも、こんばんは。
文章に圧倒されました…本当に凄いですね!
自分も受験生ですが、こんなに素晴らしい小説はとてもじゃないですが書けないです。
更新頑張ってください、楽しみに待っております^^
- Re: 「ようそろ」 ( No.24 )
- 日時: 2010/11/11 16:33
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: jXNvrQsU)
>>23
文化祭の再来かってくらい仕事が山積みになっていた間に、コ、コメントが……!
気付くのが遅くて、本当にごめんなさい……
素晴らしい……うわぁぁぁああ、もったいないは世界共通語です。ありがとうございます!
まだ受験生じゃないやー、って思ってたらこの前先生に「何を言っている? 文化祭が終わった高校二年生はみんな受験生だろ?」とか怒られました。
そんなこんなで更新はのろのろ亀さんですが、お付き合いいただければ幸いです^^
この掲示板は過去ログ化されています。