ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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「ようそろ」
日時: 2012/08/02 23:44
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: LUJQxpeE)

 こんにちは、紫です。ゆかり、じゃないですよ、むらさきです。

 設定が分からなくなるほど、久方ぶりの物語(笑)

 一年以上書いていませんでしたが、突然、書きたくなりました。設定もだいぶ頭から飛んでいて、少し大変ですが、また書き始めようと思います。昔々の文章なので、思うところが多々ありますが、せっかくのやる気をそぎたくないので、しばらくはこのままにしておきます
 おつきあいいただければ幸いです

 文章ぐちゃぐちゃ、構成ボロボロ、誤字脱字等連発と、まぁ、相変わらずそんな感じですが、よろしくお願いします。

 アドバイス、コメント等は二十四時間募集しています。

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Re: 「ようそろ」 ( No.10 )
日時: 2010/04/27 23:41
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: HQL6T6.Y)

 五

 それからしばらく道を行くと、だんだんと畑や民家が見え始めた。村人でもない限り樹海のほうから人がやってくることはめったにない。農作業をしていた農民達はそんな珍しい来客を、呆けたように、忙しく動かしていた手をぱたりと止めて見つめていた。
 それにかまわず、世界最強と謳われる聖具使いは歩く。先程から気を使っているのか、足早ではあるが極力体に振動を与えないという、至極面倒くさい歩き方をしていた。そして樹海からずっと少女を背負っている。普通ならもう体力の大半が奪われていてもおかしくないのだが、息一つ乱さないのは“最強”の名が決して伊達でないことの証だろう。

「あ、あの、カエンさん? そのすごーいお医者様って、こんな田舎に住んでるんですか?」

 リュウカは何となく思った素朴な疑問を口にしただけのつもりだった。
 しかし近くの村人達はその言葉と同時にキッとリュウカを睨む。その視線が痛い。リュウカは戸惑うように顔を背ける。するとそれを見たカエンが小声でつぶやいた。

「……口に気をつけろ、リュウク妹。ここの連中はここが一番の都会だと思ってる」
「……やっぱりリュウク妹」
「事実として、一世紀前、ここは国で有数の都市だった。フィンなんてもんができる前までは、な」

 カエンはリュウカの小さな抗議を無視して続けた。さすがにフィンと正面から戦っただけあって彼の組織に対する知識量は一般人の域を超えている。樹海があの樹海になった理由すらほとんどの人間が知らない。フィンとはつまりそう言う組織なのだ。悪いことをしているらしい。それは皆知っている。だが、具体的に何をしているのか、ということは恐ろしいまでの情報操作で公に出ることがほとんどなかった。
 少し行った村はずれの牛小屋でカエンは立ち止まった。中からは低くうなるような牛の声が聞こえてくるだけ。カエンが何を思っているのか。リュウカは全く掴めず、ただ彼の肩を握って様子を見つめていた。

「ようそろ。イハク先生、いるか?」

 カエンは牛小屋の戸を叩きながら大声で呼んだ。リュウカはぎょっとする。こんなところに名医がいるとは思っていなかったのだ。
 何度も何度もカエンは戸を叩く。しかし返事は全くない。相変わらず牛の声しか聞こえなかった。

「カエンさん、もしかして、お留守、とか?」
「いや、いる。しょうがないな、まったく」

 カエンは一度大きくため息をついた。それから自分を落ち着かせるように、身だしなみをある程度整えると、大きく息を吸って再び戸を叩いた。

「レディ・イハク! あんたに用がある! レディ・イハ——」

 その時、突然戸が力強く開いた。ある程度動きを予測していたカエンは、すでに戸から数歩離れていたため、事なきを得た。
 出てきたのは、三十路近くであろう金髪碧眼の女性だった。純白の白衣姿のまま牛小屋から出てきたのにはさすがのリュウカも面食らったが、それを取り払ってしまえば、世間一般的な母性あふれる“女医さん”のイメージにピタリと合うだろう。

「——あっらー! カエンちゃーん。樹海に行ったって聞いたからもう死んじゃったかと思ったわ!」

 “女医さん”は、戸を開けるなりそう言って、両手を広げてカエンに飛びつこうとした。
 だが、彼が背中に少女を背負っているのを確認するや否や、大げさな動きで後ずさり、目をかっと見開いて口を両手で押さえた。肩はわなわなと震えている。大きな目は潤んでいて今にも泣き出しそうだった。

「ひ、ひどい! カエンちゃん、私というものがありながらそんな、そんな!」

 涙声になって顔を覆ってしまったイハク。それにカエンはつかつかと近づく。そしてすばやく脳天に一発こぶしを叩き込んだ。

「な、何するのよ!?」
「何度も言わせるな! 俺に、男色の、趣味はない! 気色悪い、虫唾が走る。仕事だ、イハク」

 カエンはうずくまるイハクをこれでもかというほど見下して——背中で「嘘、男?」とショックを受ける少女に気を止めることなく——彼にしては珍しく感情を表に出して怒鳴った。本当に嫌だったのだろう。背中にいたリュウカは、カエンの首筋に鳥肌がはっきりと立ったのを見逃さなかった。
 “仕事”と、その単語を聞くとイハクはころりと様子を変えて、何故か膨らんだ胸の前で手を組んだ。そして、先程とは打って変わった高圧的な調子で、カエンとリュウカを品定めでもするかのように見始めた。

「樹海の毒でしょ? 高くつくわよ」
「……紹介状だ。さっさと仕事しろ」

 一歩も退かないとでも言うように足を一歩踏み出して言い切ったイハク。それに対してカエンは聞いていなかったかのように目の前に一枚の紙を突き出す。先ほど、道で出会った少女、もとい女性からもらったものだ。
 イハクはそれを胡散臭そうに受け取った。まだこの頃は高圧的な態度のままであった。だが、いざ紙を見ると目に見えて顔が青くなっていく。同じ震えでも先程のような震え方ではない。心の底から、と言ったら良いのだろうか。とにかく紙の内容に尋常でない怯え方をしているのは確かだった。

「ヒョウキ……何よ、何よ! 私を虐めてそんなに楽しいわけ? もう知らない、あんな変人、変態、虫オタク!」

 イハクは手紙をくしゃくしゃに丸めると大声で叫んだ。小屋からは牛の声が聞こえる。飼い主と心が繋がっているのかと思うほど、そのタイミングは合っていた。

「……当の自分のこと棚に上げて人のことを変人、変態か」
「うーん、カエンさんも人のことは言えないと思います」
「俺は常識人だ。少なくともあの虫オタクとかこの変態から見れば、な」

 自信を持ってそう言いきったカエン。リュウカはただ苦笑いをするだけだった。世間一般的に、二年間樹海で引きこもった人間を、常識人とはまず言わない。件の二人と比べたら、ちょうどつりあうくらいではないだろうか。それだけ、あの樹海で生活するというのは非常識なことであった。

「もういいわ、分かったわよ。入んなさい、泥棒猫。私にかかれば樹海の毒なんて瞬殺よ、瞬殺」

 そう言うとイハクはカエンの背中からリュウカを降ろして、見かけからは想像もつかないほど軽々と彼女を抱えると、ぶつぶつと文句を言いながら牛小屋へと入っていった。
 そして——この世の終わりかと思うほどの叫び声が聞こえた後に——涙目になってリュウカは出てきた。脚には包帯が巻いてあるが、ほとんど痛みはない。ただ治療の恐怖が、頭の中で消えずに何度も繰り返されるだけであった。
 小屋の戸の前。そこには勝ち誇ったような顔をして佇む、優しげな女医の仮面を被った医者。リュウカは一度恐る恐る振り返って礼をすると、またあの恐怖が鮮明に蘇ったのか、背を向けてカエンの手をぎゅっと握った。

Re: 「ようそろ」 ( No.11 )
日時: 2010/04/28 16:38
名前: こたつとみかん (ID: wH27GNaO)
参照: たまに、キャラのC.Vを考えたくなります……。

おーいえ!
ストーリーが進んでいることに気付かずに吃驚していた私です。
やはり、キャラクターが個性的で素晴らしいです! 見習いたいけど私には(ry

関係ない話ですけど、リュウカとかのキャラクターたちのC.Vってどんなんですか? 次から脳内再生してみたいので^^

こたつとみかんでしたっ!

Re: 「ようそろ」 ( No.12 )
日時: 2010/04/30 23:05
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: HQL6T6.Y)

 こんにちは!

 変な人物は実は秘かにこの物語を書くうえで目標にしていることの一つなんです。どうも特徴のある人物が書けなくて……今でもまだ不自然な変人になってしまっているとは思いますが、上手く書けるようになるといいなーと

 CV……私もおぼろげなのでこれとは言えないんですが、リュウカは妹キャラの声(?)でカエンは無口一筋みたいな(?)虫大好きヒョウキはアニメで言うところの女生徒Aとか、オカマ(?)のイハクは声の高い男? ……そんな感じに考えて適当に知っているアニメの声に勝手に当てはめて物語を作っています^^

Re: 「ようそろ」 ( No.13 )
日時: 2010/04/30 23:08
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: HQL6T6.Y)

 六

 しばらく歩いても、牛の声はまだ微かに聞こえていた。村からは完全に出て、だんだんと暗くなっていく道に人影はない。というより道の真ん中にまで雑草は生い茂っていて、長い間この道が使われることはなかったようだ。
 カエンの歩くペースは早い。ほぼ一定の速度で黙々と歩き続ける。この分では野宿になるだろう。何もカエンは言わないが、リュウカは薄々そう考えていた。イハクの住んでいる村に泊まるのが一番だったのではなかろうか。リュウカはそう思って村を出る直前カエンに訊いた。だが当の本人は苦々しい顔をして「誰があんな変態がいるところで泊まるか」と言って、さらに歩く速度を速めてしまった。どうやら、よほどイハクが苦手と見える。
 とうとう牛の声も聞こえなくなった。道は完全に闇と化し、リュウカはもっていた小型のランプに火をつけた。そこでカエンはふと立ち止まる。

「……休憩」

 そうとだけ言うと、カエンは急にその場で座り込んだ。首にかけてあった鉄の首飾りが光る。ランプの光とは比べ物にならないほどまばゆい。その光が大きくなる。すると彼の頭上に大きな金色に輝く鳥が現れてどこかへ飛んでいった。
 その鳥にばかり目が言っていたリュウカ。鳥が見えなくなると、彼女は足が棒のようであることをやっと思い出してカエンの隣に腰掛けた。
 ぼんやりしていたリュウカの肩に、こつりと何かが当たる。それは意外にもカエンだった。疲れたのだろう。リュウカに寄りかかってきても起きる気配は全くなく、静かな道端でただ寝息だけがかすかに聞こえていた。
 それからどれだけ時間が経っただろうか。いつの間にか寝てしまっていたリュウカは突然辺りが明るくなったのを感じて目を覚ました。隣のカエンはもう起きている。そしてその頭上には輝く大きな鳥。カエンは鳥から何かを受け取ってまた聖具である首飾りにしまった。

「食え」
「え、あ……ありがとうございます」

 鳥から受け取ったのは木の実だったようだ。カエンから赤い果実を受け取ると、リュウカはそれを口に含む。なかなかおいしいようで、口元は自然と綻んでいた。
 
「さて、リュウク妹。どうやら、やっこさん方が現れたようだ」
「え……?」

 リュウカは呼ばれ方に気を止めることもなく、桃色の木の実を食べるカエンを見つめた。どこを見渡しても何もない森。どんなに耳を澄ましても二人の会話以外何も聞こえない道。戦うべき相手がいるとは到底考えられなかった。

「ここじゃない。さっきの村だ。鳥が、フィンの格好をした連中が村に入ったのを見た」
「で、でも……あんな村に何の用が?」
「言っただろう? あの場は昔都市だった。それに、国が誇る天才科学者、もとい名医がいるからな。大方目的はその二つだろ。ま、俺としちゃあ、あの変態がくたばるならむしろ歓迎だが、奴が敵の手に渡ると勝ち目が半減する」

 カエンは感情のこもらない口調で言うと、スッと立ち上がった。帽子をかぶって、一度大きく背伸びをする。そして、リュウカをじっと見つめた。

「決めろ。この物語の主役はお前だ。俺はお前の指示に従う。行く先はお前の故郷か、それとも村か」
「……村へ、向かいましょう。イハク先生には大恩がありますから」

 リュウカがそう言うと分かっていたのか、言い終わる頃には、すでにカエンは数歩先へと進んでいた。リュウカもランプを持ってその後に続く。前を行く背中は、間違いなく追い続けた背中であり、どことなく喧嘩別れした兄を感じさせた。

Re: 「ようそろ」 ( No.14 )
日時: 2010/05/08 22:17
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: HQL6T6.Y)

 村へと戻る道。整然と植えられていた苗は踏み潰され、どこの家畜小屋からも耳を劈くような鳴き声がひたすら聞こえる。村人の姿は見えない。夜だからというだけではあるまい。リュウカもカエンもそれぞれの聖霊を出して、慎重に暗い道を照らしながら先へと進んでいった。
 村はずれにあるイハクの牛小屋の荒れようは、他の比ではなかった。
 戸は押し倒され、中では干草や農具類が散乱していて、イハクがいる気配はなかった。ふと見た先には出入り口へと向かう血痕。それを残された牛が懸命に舐めていた。リュウカは牛の頭を軽く撫でると、カエンと共に小屋を出る。そして聖霊の光を最小限に留めると、村の中心部へと走っていった。
 ある程度のところまで来たところで、走っていたリュウカの口が後ろから何かで塞がれた。はっとして振り向くとそこには真剣な顔つきで彼女を見つめるカエンの姿。そして問答無用で民家の後ろへと引きずりこまれる。

「……これからは俺に合わせろ」

 低い声でカエンはそう言うと、そっと民家の陰から広場を覗く。それからすぐに再び身を隠すと、光を抑えた聖霊の怪鳥を空高く飛ばした。
 その後、ほとんど間を開けずに一筋の風が吹いた。カエンはリュウカの手を握ってそのまま陰から飛び出す。リュウカは見た。広場には武器を突きつけられている村人、そして黒装束の集団の真ん中ではイハクが両手を縄で固く結ばれて臥せっていた。
 広場に二人が躍り出ると同時に、飛び上がっていた鳥が再び地面に戻ってきて、目が眩むほどの強い光を発した。何をしたのかすぐ隣にいたリュウカも分からなかった。光が収まる頃には、拘束されていたイハクはいつの間にか村人達の中で倒れていて、その村人たちの周りには彼らを守るかのように光のドームができていた。

「な、何者だ!」
「邪魔をするか、愚か者!」

 連携の取れていた集団は状況が掴めず取り乱しはじめた。呆然とする者もいれば喚きだす者も。当たり前だろう。今の今まで全てうまくいっていたのに一瞬にして状況を覆されたのだ。

「村人はどうでもいい。その学者だけ奪い返せ!」

 リーダーと思しき男がそう叫ぶと、集団の混乱は急速に回復していく。この動きだけを見てもただの寄せ集めではない。リュウカはごくりと生唾を飲む。対フィン戦はこれが初めてなのだ。そんな様子から彼女の心情を察したらしく、カエンは肩に軽く手を乗せて、トレードマークの赤い帽子を深く被り直した。リュウカはそんな些細なことがうれしくて、自分達を取り囲む敵を静かに見つめる。
 だが、それから続くたったの一言で、リュウカのときめきは音を立てて崩れ落ちた。
 
「主人公はお前だ。俺は戦わない。頑張れよ」
「……はい?」

 リュウカは思わず聞き返した。新手のジョークか何かだろうか。だとしたら、敵に囲まれたこの状況で、そんな冗談のようなことを言ってのけるセンスが分からない。しかも真顔で。訳が分からず困惑するリュウカを尻目にカエンは淡々と続けた。

「だから、樹海を出る時に言っただろう? 俺はもう“かつての”主人公なんだよ」

 何も言葉が続かなかった。夜の寒さが身に沁みる。呆れも通り過ぎて半ば絶望したような表情で“最強”を見上げる少女。そんな会話を聞いていたのだろう。黒装束の集団は勝ち誇ったように、感じの悪い薄ら笑いを浮かべていた。

「行け」

 その中でひたすら無表情を貫いていたリーダー格の男の一言で、集団は一斉に距離を縮めてくる。全員が戦闘用の聖具使いなのだろう。傍らには光輝く聖霊の姿。リュウカはもう一度だけ懇願するようにカエンを見る。返答は、何もなかった。


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