ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 「ようそろ」
- 日時: 2012/08/02 23:44
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: LUJQxpeE)
こんにちは、紫です。ゆかり、じゃないですよ、むらさきです。
設定が分からなくなるほど、久方ぶりの物語(笑)
一年以上書いていませんでしたが、突然、書きたくなりました。設定もだいぶ頭から飛んでいて、少し大変ですが、また書き始めようと思います。昔々の文章なので、思うところが多々ありますが、せっかくのやる気をそぎたくないので、しばらくはこのままにしておきます
おつきあいいただければ幸いです
文章ぐちゃぐちゃ、構成ボロボロ、誤字脱字等連発と、まぁ、相変わらずそんな感じですが、よろしくお願いします。
アドバイス、コメント等は二十四時間募集しています。
- Re: 「ようそろ」 ( No.5 )
- 日時: 2010/04/12 18:29
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: HQL6T6.Y)
三
拭っても、拭っても涙が止まらない。
カエンが見えなくなると、リュウカは何度も振り返った。もしかしたら、考えを変えて付いてきてくれるかもしれない。そんな想像を何度もした。しかしそんな気配は一向にしてこない。ただ不気味な静寂だけが彼女の身体を包む。カエンが本当にもう戦わないと思って悲しすぎたのだろう。彼女は、自分が帰り道を知らないことを思い出せなかった。
「どうしろって、言うの? お兄ちゃんも、カエンさんも……」
少女はふと立ち止まって地面にへたり込んだ。大きな木の幹に背を預け、視線は地面に落とす。
彼女の兄は昔から強かった。“リュウク”という名を真名、つまり漢字で書くと“竜駒”となり、それは天才少年を意味する。彼は名前の通りだった。故郷であるリュウケイ里では負け知らず。それはどこの街に行っても同じで、天才少年の噂は広がって、主に国防を目的とした国の聖具使いに任命され、それから二十歳前にしてその長となった。史上最年少である。そんな兄リュウクが、リュウカにとっては一番の誇りだった。
そんな兄が同い年の親友に負けた。小さな漁村から出てきて、最初にフィンと戦い始めた聖具使い。リュウカは兄と親友の戦いのとき、初めてカエンを目にした。誰もが手も足も出ず倒されてきた中で、兄の親友は互角かそれ以上の動きをしていた。すばやい動きで兄を翻弄する巨大な鳥の聖霊。その上に乗っている赤目の青年。強い。そう言ってしまえばそれに尽きるだろう。だが、リュウカは違う感じ方をしていた。“美しい”と。
リュウカはその戦いを見て以来、聖具使いを目指し始めた。元々聖具が戦闘に特化したものであったのは救いであった。
「あたしの、憧れだったのに。カエンさんみたいになりたかったのにな……」
憧れていた聖具使いは、もういなかった。いたのはただの世捨て人。少なくともそれはかつて英雄と呼ばれた男でもなく、また“最強”を倒した聖具使いでもなかった。それが何より悲しい。今まで何を目指してきたのか。それがどんどん崩れていく。
突然、薄紫のショールが光を放った。リュウカは我に帰って前を見る。
目の前には、怪物というべき生き物がいた。先程のものとは違う。今度はトカゲのような頭部にトラの胴体、尻尾はさそりのように先端が尖っていた。一度攻撃したのだろう。だが、それはリュウクが妹に渡したショールが完全に防いだ。リュウカはその隙にブレスレットに力をため始める。
トカゲ頭がもう一度迫ってきた。しかし、仮にもかつて最強と謳われたリュウクの力がこもった防御はどうしようもない——はずだった。
突然、何の前触れもなくショールの光が消えた。トカゲ頭はそのままリュウカに迫ってくる。まだ力を半分も込めていない。逃げるにしても後ろは大きな木。しかも来る途中の怪我が痛んで上手く動けなかった。
その時、強い風が吹いた。リュウカは思わず目を瞑る。風が止むと同時に絶叫が響き渡った。そして何か巨大なものが倒れる音。好奇心に負けてそっと目を開けると、そこには巨大な光る鳥と、憧れ続けた大きな背中があった。
「——命を賭してやってきたヒロイン。彼女を泣かせたまま帰らす男って、やっぱし物語的に美しくないよな」
「カエンさん!」
振り向いていつもの口調で言ったカエン。リュウカは輝く笑顔で彼を見た。やっと彼女が憧れ続けた、兄を倒した聖具使いの顔が見えたのだ。そんな親友の妹を見て、カエンは急にそっぽを向いて言った。リュウカに叩かれたせいか、わずかに見える頬は赤かった。
「か、勘違いするなよ。俺は戦わない。お前の馬鹿兄貴を説得しに行くだけだからな」
「はい!」
- Re: 「ようそろ」 ( No.6 )
- 日時: 2010/04/13 17:07
- 名前: こたつとみかん (ID: 7hab4OUo)
- 参照: たまに、キャラのC.Vを考えたくなります……。
よーそろー。
私のことを覚えていたら、お久しぶりです。こんにちは。
紫さんがスレッドを立てているの見て、無意識にクリックしてお気に入りに登録しました。
前作に続いて、心理描写、風景描写、設定・ストーリー構築が感動を覚えるほどの上手さですね。見習いたいのですが、このレヴェルになれる気がしませんw 断言しますが、ここまで他の小説と一線を画している作品はここしかないと思います。
今回の小説もファンタジーなんですね。それなのに世界観を一気に書き表すのではなく、徐々に明らかにしていく書き方は流石だとしか言いようがないです。キャラクターも一人ひとり(二人+話の中で一人しか出ていませんが)特徴的な性格、容姿が出ていてイメージしやすいです。怪物たちも、現存する動物を例えに出すことで姿かたちが判り易くていいと思いました。
聖具の種類がこれからどういう風に増えていくのかがとても楽しみになります。
個人的にはカエンの方が好みです。リュウカへのツンデレは素晴らしいです。はてさて、あの頬が赤く染まっているのは本当にリュウカにぶたれたせいだけなのかでしょうか。
長々と語ってしまいました。迷惑だったりウザいと感じたら叩いてくれても構いません。
これからも頑張ってください。
こたつとみかんでしたっ!
- Re: 「ようそろ」 ( No.7 )
- 日時: 2010/04/16 18:32
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: HQL6T6.Y)
>>6
よーそろー!
CV考えたくなるのはよ〜く分かります^^
私の場合後OPもw
もちろん覚えてますよ〜
どうも、お久しぶりです。
こんな感じにゆっくりゆっくりとしか更新できませんが、お付き合いいただければ幸いです^^
- Re: 「ようそろ」 ( No.8 )
- 日時: 2010/04/16 18:37
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: HQL6T6.Y)
四
樹海の外は思っていた以上にまぶしかった。ちょうど真上まで昇っている太陽の日差しは柔らかく、あちらの草もこちらの草も、それぞれ色取り取りのかわいらしい花をつけている。たまに木の陰から顔をのぞかせる狐。先程まで怪物とも言うべき生き物に襲われていたリュウカとしては、やっと自分の世界に帰ってきたと、少し頬を緩ませた。
「……樹海の土にやられて笑う人間とは見ものだな」
意地の悪い声が聞こえた。低い声は不機嫌さをよりいっそう強調していて、最後に舌打ちまでしてきた。
先に言っておくが、別に彼は樹海を出ることになって怒っているのではない。世間と関わりを自らの意志で絶っていたカエン。それを止めるのも全ては自分自身の意志であった。
ただ、少女を背負って歩かないといけないという事実が気に入らないのだ。
「ですから、何とか歩けますから、降ろしてもらっても大丈夫ですって」
「樹海の土をなめるな。動けば動くほど毒は回って、そのうち死ぬ」
「え、死!?」
静かに、淡々とそう言ったカエン。背中で降りようと動いていたリュウカはその一言でピタリと動きを止める。まさか、この足の痛みがそこまで大事だとは思っていなかったのだ。
「樹海に何故あんな化け物がいるか知ってるか? リュウク妹」
「いるからいるんじゃないんですか? それに私の名前はリュウ——」
「——樹海は元々フィンの研究所だったんだよ。何十年も昔のな」
“リュウク妹”と言う言葉に反応してリュウカは言い返そうとするが、また途中で何事もなかったかのように遮られてしまった。親友の妹としか見られていないのは少し悲しい。彼が尊敬する人間であるからこそ、“リュウカ”として見て欲しかったのだ。
しかし、そんな不満は意外なカエンの答えでどこかに飛んでしまった。
「フィンと戦うなら覚えておけ。フィンは樹海で生体兵器の研究をしていた。自分達に従順で、手足となる兵器。結局、完成には至らなかった。その結果樹海の土は汚れて、猛毒となり、生体兵器の失敗作である怪物が蔓延るようになった」
カエンはやはり無表情でそう言うと、トレードマークである赤い帽子を深く被り直す。後ろからその様子を見ていたリュウカは、めったに彼が見せない心が少しだけ垣間見られたように感じた。そしてふと思う。
「私、カエンさんに勧められて水飲みましたよね? あれって……」
「あの水だけ、大丈夫だ。あの場所は元々汚れが少なかった。だから俺も何とか浄水できた。だが他は、川すらない。神様を怒らせた天罰ってところか……と、それはどうとして」
カエンは突然道の真ん中で立ち止まった。そして何かを考えるように上を向く。そして一言。
「……金が、ない」
「はい?」
「だから、俺は金を持っていない。さて、その足の治療費、治せる医者は知ってるが、ある程度、金がかかる。どうするか」
わざわざ聞く必要もないだろう。先程死ぬという話を聞いた後である。リュウカとしては、今持っている有り金を叩いてでもその医者に掛かりたいところだ。リュウカは懐から巾着袋を取り出した。ここから故郷に帰っても余るほどは入っている。
だが、それを見てカエンはため息をついた。
「そんなはした金じゃ引き受けてくれない」
少し、リュウカは傷ついた。彼女にとっては大金なのだ。喧嘩別れしたとはいえ、リュウクは妹のことが心配だったらしい。里を出たリュウカを部下に追わせて、この巾着と自分で細工したショールを持たせた。そんな兄の想いが“はした金”。リュウカはむっとしてカエンを睨んだ。
「カエンさん、フィンを倒したときの報奨金とかってどうしたんですか? お兄ちゃんが使い切れないほどもらったんですから」
「使い切った」
「何に!? あんなにたくさん。ギャンブルですか!? ギャンブルですね? カエンさん金の亡者過ぎます! もっとお金を大切にしてですね——」
一方的に捲くし立てるリュウカに、カエンは疲れたとでも言うように、大きなため息をついて、それから帽子を取った。真面目で面白味に欠けた兄とは正反対である。一度こうと思ったら変えられない。リュウカは、そんな面倒くさい少女だった。
そんな時、カエンは帽子のつばに何かがいるのを見つけた。それは小さな黒い幼虫であった。虫は自分の足場が動いたことに驚いたようで、帽子の頂上まで上ってきて、そしてその場所が気に入ったかのように、とぐろを巻いてしまった。ただでさえ面倒なことが続いているのだ。これでカエンのテンションは最下層に達した。
- Re: 「ようそろ」 ( No.9 )
- 日時: 2010/04/20 20:20
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: HQL6T6.Y)
「あ、あの、もし! そこ行く御方!」
忌々しげに幼虫を道端に放り投げようとしたカエンは、その声でピタリと動きを止める。道の横にある深い茂みから、確かに聞こえてきた。だが、目をやっても誰がいるわけでもない。空耳かとも思い、カエンは再び無視を投げようとする。
「あー! 待ってください! ストップ! 捨てちゃだめ!」
確かに茂みから声がした。カエンはもう一度そちらを見る。するとガサガサと、何かが動いている音が聞こえた。
そしてその後すぐ、カエンの胸ほどまで伸びた草の中から、麦藁帽子を被った少女が現れた。
「わ!」
「……ようそろ」
突然の登場に驚いて声を上げたリュウカ。それとは対照的にカエンは大して動じず、いつものように挨拶らしき言葉を口にした。
対する少女は挨拶に答えようともせず、カエンの帽子を指差した。
「それ! その虫! 譲ってもらえませんか?」
「は?」
どこから見ても、普通の少女である。いや、どこか儚げな美しさを持った、と付け加えても良いだろう。黄緑色の髪は細く、二つ結びにしている。線も細く、少し触れただけでも壊れてしまいそうだ。しかし、汚く黒い虫をらんらんと狂気的に輝いた目で見つめていることが、せっかくの風情を台無しにしてしまっているのだが。
「だから、その虫をください! お礼ならちゃんとしますから」
「別にいいけど、何に使うんだ? こんな虫」
「“こんな”ってひどいです! いいですか、この虫はですね、樹海の奥のそのまた奥にごくわずかだけ生息していると語り継がれている、伝説の蝶“オオムラサキコロモチョウ”の幼虫なんです! ああ! なんて美しい、なんて神々しいの! 生きているうちにこんな素晴らしい子と出会えるなんて……神様仏様お天道様お月様、ありがとうございます!」
少女は唖然とするカエンとリュウカを無視して手を合わせる。その様子だけは、どこかで修道女をしていても不思議はないだろう。慎ましく、清楚な少女。もっとも見かけだけは、である。
カエンは少女に虫をつまんで手渡すと、「変人はいるもんだな」と——自分のことを棚に上げて——つぶやくと、面倒ごとから逃げるように歩き出した。ただでさえ、リュウカの傷は制限時間があるのだ。こんなところで足止めを食うわけにはいかなかった。
「あれ? もしかしてその子、樹海の毒ですか? たまにここを通るんですよね、そういう患者さん」
「ああ、先を急いでるから礼は気にしないでくれ」
「それなら私、治せる先生知ってますよ?」
少女はさらりとそう言った。樹海の毒に詳しい医者など、国中探してもほとんどいない。どういうことかと、あれこれ考えているカエンを尻目に、少女は懐から紙とペンを取り出して、それから何かを手早く書き始め、最後に印鑑を出して紙に押し付けた。
「イハク先生。通常は法外なお金を取りますけど、この紙を見せればただでやってくれます」
そう言うと、少女は紙をカエンに手渡した。おそらく紹介状なのだろう。カエンは、その医者を知っている。だからこそ、不思議でならなかった。彼が言った「治せる医者」とは少女が紹介状を書いたイハクその人。何故彼がこの少女の書いた紙切れ一枚で言うことを聞くのか。
「あんた、あの変人とはどういう関係だ?」
「んー、私が関係あるって言うより、あの人は私の恋人に恩があるんです。私を怒らせたらイハクは八方塞になりますよ」
にっこりと笑う少女。その笑顔が恐い。カエンはイハクと先の戦いで何度か顔を合わせていて、あまり仲が良かったわけではないが、今度ばかりは少し哀れんだ。
ともあれ、これで毒の心配はなくなった。イハクは樹海近くの町に住んでいるから、今から行けば夕方までには着けるだろう。樹海の毒の侵食は遅い。それがせめてもの救いだった。
鼻歌を歌い、ニコニコと笑って黒い虫を手に去っていく少女。その後姿を見ていたカエンはふとつぶやいた。
「あれか? 思春期にありがちな変な趣味か?」
それを聞いて、リュウカはふと考えるように上を向いた。そしてもう一度、すでにかなり遠くまで行ってしまった少女の後ろ姿をまじまじと見つめる。
「カエンさん、あの人たぶんカエンさんより年上ですよ。二十代後半くらいじゃないでしょうか」
「……は?」
少し冷たい横殴りの風に揺れる草。カエンの鼻頭にひらひらと黄色い花びらが舞い降りた。
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