ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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血迷う桜
日時: 2010/06/08 15:43
名前: 角砂糖 (ID: FgvmxuFA)

孤独に寄り添う。

闇に吸い込まれるように

僕は

君を抱きしめた。



『 さぁ、一緒に堕ちていこう 』

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Re: 血迷う桜 ( No.25 )
日時: 2010/06/12 15:17
名前: 角砂糖 (ID: FgvmxuFA)

アキラ様**
そうですね・・・。難しいです。
かのんは本当に純粋な可愛い子なんですよ^^
あたしもお気に入りです♪

Re: 血迷う桜 ( No.26 )
日時: 2010/06/13 14:15
名前: 角砂糖 (ID: FgvmxuFA)

**

縁側から見える月。
その光は酷く優しい光を放っている。
心地良い、ひんやりとした風が紫苑の髪で遊んでいるように吹く。
乱れる髪を軽く押さえながらその月をぼやっと眺めた。
月を眺めてると何故か泣きそうになった。
何故だかは分からない。
でも、涙が溢れそうになった。
溢れそうになる涙を必死に紫苑は止めた。
新羅が、父が心配してくれている事は分かっている。
分かっている。
でも、あのどす黒い色をした気持ちや想いが邪魔をする。
真っ黒な湖の中にもう膝まで浸かっている。
いつまで経っても水の色は水色や透明な綺麗な色にはならない。
それにこの湖から抜け出す事も出来ない。
息が詰まる。
何処かに行きたい。
ここから出たい。
その想いが抑えきれなくなって気が付いたら走り出していた。
草履も履いていない。
足袋だって汚れてる。
でも、そんな事よりも気持ちが焦ってる。
紫苑は足が重たくなるのを感じながらも走った。
森の深くまで入ると走るのを止め、歩き出した。
しばらく歩いてると小さな邸が見えた。
「こんな所に邸なんてあった…?」
紫苑の住んでいる邸よりも少し小さいが、造りはとても立派だ。
邸を囲むように塀があり、中へ通じる門がそびえ立っている。
だが、誰の邸なんだろう。
何のためにこんな森深くに邸を建てたのだろう。
それは紫苑には分からない。
首を傾げていると門が開いた。
「どなた?」
中から桜色の小袖を纏い、紫色の打ち掛けを羽織っている女性が出て来た。
「えっと…」
紫苑が戸惑っていると女性は紫苑の足元に気が付いた。
「あら、何も履いてないじゃない。どうぞ、中へお入り下さい」
そう言って優しく微笑んだ。
その笑顔に懐かしさを感じた。
「はい…」
紫苑が小さく呟くと女性はまた微笑んで門を開けた。
「お名前は?」
「紫苑と申します」
「紫苑…?」
女性は紫苑の名を聞いて少し動きを止めた。
「はい」
「私の娘も同じ名前なの」
「そうなんですか?」
「えぇ。でも今は離れて暮らしてるわ」
「私の母は父から死んだといい聞かされていました」
更に驚いたのか女性は口を開いた。
「そうなの。哀しいわね。娘は今は十八歳くらいかしら」
「私も十八歳です」
紫苑がそう言うと、女性は立ち止まった。
「紫苑なの………?」
父から聞いた母の話。
いつも微笑んでいて優しくて素敵な女性だったと。
そして、他の鬼に殺されたと聞いていた。
「母様……なのですか?」
紫苑の呟きに女性は頷いた。
逢いたかった、死んだと言われていた母が今、目の前にいる。

Re: 血迷う桜 ( No.27 )
日時: 2010/06/13 21:40
名前: 角砂糖 (ID: FgvmxuFA)

**

広い部屋に月の優しい光が差し込む。
その部屋の真ん中に紫苑と母、色葉はいた。
たくさんの話をした。
新羅の話、かのんの話。
それに母の甥、朔の話をした。
後は父、鎖灰の話。
「母様はまだ父様を愛してるんですか?」
紫苑はずっと思ってきた質問を母に問いかけた。
母は少しだけ黙り込んだが、すぐにふわりと微笑んで答えた。
「えぇ。愛してるわ。今も愛してるわ」
とても幸せそうな笑顔で。
「そうですか…」
その笑顔を見るのが何故か切なくなって紫苑は俯いた。
「紫苑」
顔を上げると母がそっと微笑んでいた。
父は母を護るために、紫苑に嘘をついた。
母は他の鬼に殺された、と。
人間と鬼は愛し合ってはならない。
その掟を父と母は破ってしまった。
掟を破ってしまった二人の間に、新羅と紫苑が生まれたのだ。
父は前よりももっと命が狙われやすくなった母を護るためにこの邸を建てた。
全て、母のため。
優しく、でも残酷な嘘。
「分かっています。父様は母様を護るために…」
「そう、あの方は私を今もお護り下さっているの」
母は父を愛してる。
その気持ちが痛いほど、分かった。
「そして今も欠かさず逢いに来て下さるわ」
母の言葉に紫苑は俯いていた顔を上げた。
「父様が…?」
「えぇ」
父は母に逢いに来ている。
知らなかった。
紫苑の瞳から、涙が溢れ出した。
「紫苑?」
「ごめんなさいっ……」
涙が止まらない。
必死で涙を拭うが、しれは止まってはくれないようだった。
「そんなに泣かないで。あの方は紫苑と新羅の事も愛してるわ」
優しく背中を撫でてくれた。
その優しい手から父への想いが伝わってきて、もっと泣けた。

Re: 血迷う桜 ( No.28 )
日時: 2010/06/13 21:58
名前: 角砂糖 (ID: FgvmxuFA)

薬袋 朔(ミナイ サク)
男。十八歳。薬袋家嫡子。
色葉の甥でもある。
彼も鬼と人間のハーフ。
紫苑と同じような心の闇を持つ。

Re: 血迷う桜 ( No.29 )
日時: 2010/06/15 15:50
名前: 角砂糖 (ID: FgvmxuFA)

**

日の昇る前の暁の頃、紫苑は母、色葉の邸の門を出た。
紫苑の隣には母の甥、朔もいる。
朔が紫苑の隣にいる理由ははちゃんとある。
「もうじき朝だし、帰る」と紫苑が言ったら、
「山道は危険だから」と母が朔に紫苑を送ってくれと言ったのだ。
紫苑は「大丈夫」と言って遠慮したが、朔は引き受けてくれた。
そして芋に至るのだ。
「……」
「……」
だが、二人の間に会話はない。
聞こえるのは二人の足音と風に揺れる木の音だけだ。
「あの…母が無理言って来てもらって、すみません」
想い沈黙を破ったのは、紫苑だった。
「いや、大丈夫だ。こんな山奥を歩くのは危険だ。気にするな」
「はい」
朔の言葉に少し驚いたが、紫苑は慌ててこくりと頷いた。
また沈黙が戻ってくる。
少し歩いていると次は朔が口を開いた。
「あんなに嬉しそうな叔母上を見たのは初めてだ」
「そうなの?」
「ああ。本当にお前が大切なんだな」
それを聞いて、紫苑は嬉しそうに笑った。
だが、笑顔はすぐに消えた。
「物心ついた時から、母様はいなかった。だから、母様が生きていて本当に嬉しかったわ」
二人が話している時、その場に朔もいた。
穏やかに話している母子を黙って眺めていた。
「私達の話を黙って聞いてくれてありがとう」
「ああ」
それから黙って歩いた。
しばらく歩いてると森を抜けたのが分かった。
「今日はありがとうございました」
紫苑は立ち止まり、朔に深く頭を下げた。
朔はそんな紫苑をしばらく黙ったまま見つめ、口を開いた。
「紫苑」
「何?」
朔の声が頭の上から聞こえ、紫苑が顔を上げた。
「また、来てくれ。きっと叔母上も喜ぶ」
「えぇ。また、行くわ」
「ああ。頼む」
「うん」
朔の言葉にこくりと頷く。
その瞬間に、何か気配を感じた。
パッと紫苑が振り返る。
誰もいない……………。
そう思ったのも束の間。
「危ない……!!」
紫苑が叫ぶと同時に朔の背後で鬼が持っていた刀が振り下ろされた。
朔を庇うように紫苑は彼に抱きついた。
「……!!」
紫苑の背中が鬼の刀によって斬られた。
そのまま倒れこんだ紫苑の身体を朔が抱きとめた。
紫苑の腰にある刀が手に当たった。
そして、それを抜き取った。
紫苑を安全な場所に寝かした。
近づいてきた鬼を一瞬で斬り殺した。
刀身を鞘に収めて、紫苑に近づき小さな身体を抱き起こした。
紫苑が薄っすらと唇を開いた。
「大丈夫……私は、鬼だから、傷なんて、すぐに治るよ…………」
「喋るな」
そう言って朔は紫苑の身体を抱き上げた。
そして、父である鎖灰の邸ではなく母、色葉の邸の紫苑を抱いて戻った。


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