ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- エンゼルフォール 二期スタートっ
- 日時: 2011/05/17 23:41
- 名前: 遮犬 (ID: KnqGOOT/)
- 参照: 二期スタートいたしましたっ!これからも宜しくお願いしますっ
クリックありがとうございます〜w
シリアス・ダークでは二作目となりますwはいw
まだ白夜のトワイライトが終わってないのに出すとか…って自分で思ったのですが…
息抜き程度&修行&何より書きたかったということもあり、書かせていただきますっ!
どうか暖かく見守ってくれると嬉しいです〜!
更新再開しました!色々ありましたが、更新続けたいと思いますw
閃光のテイルと掛け持ち状態ですが、どうぞ宜しくお願いしますっ!
物語を最初から読んでおさらいするのが面倒な方はこちら>>86
〜目次〜(ただいま各話修正を行っております)
一期イメージソング「二足歩行」(初音ミク)>>5
二期イメージソング「ラブアトミック・トランスファー」>>66
旋風のキャラソンとかどうですか?>>53
プロローグ…>>1
〜一期〜
第1話:僕はやがて、天使となる(修正完了。物語一部改変。誤字脱字、描写追加)
♯1>>9 ♯2>>10 ♯3>>11 ♯4>>26 ♯5>>29
第2話:思い、悩み、そして(修正完了。誤字脱字、描写追加)
♯1>>32 ♯2>>35 ♯3>>36 ♯4>>39 ♯5>>40
第3話:異質と異能の交差(修正なう)
♯1>>43 ♯2>>48 ♯3>>62 ♯4>>64
第4話:守るべき温もり(修正予定)
♯1>>76 ♯2>>79 ♯3>>83 ♯4>>84
〜二期〜
序章>>87
第1話:引き合う旋律
♯1>>88
お客さん一覧っ(オリキャラ応募してくださった方も含む)
阿嘉狐さん!
ZEROさん!
Nekopanchiさん!
さわさん!
青銅さん!
ヴィオラさん!
Neonさん!
るりぃさん!
狩人さん!
リコ☆さん!
三咲さん!
樹梨さん!
神凪和乃さん!
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紅蓮の流星さん!
むーみんさん!
司露さん!
るぅらさん!
れぃなさん!
〜オリキャラの方々〜
【天使代行】
友永 勇火(ZEROさん作)…>>19 木下 龍平(青銅さん作)…>>20
音野葉(狩人さん作)…>>22 小山 凛子(ヴィオラさん作)…>>57
罪木 耶麻(ヴィオラさん作)…>>57 アトラ・ダイダロス(ZEROさん作)…>>65
【天使】
獄(ヴィオラさん作)…>>16 戦渦 (Neonさん作)…>>17
青生 命(るりぃさん作)…>>18 覚 (三咲さん作)…>>23
暦(六さん作)…>>37 ルシファー(紅蓮の流星さん作)…>>41
燐光(るぅらさん作)…>>46 恩恵(駒犬さん作)…>>51
氷水 冷華(沙癒或さん作)…>>56
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- Re: エンゼルフォール 久々に4話更新 ( No.84 )
- 日時: 2011/05/06 19:58
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)
守れなかったのか?
大事なものを、目の前にある温もりにやっと気付けたというのに。
後一歩だったんだ。大切なものに気付くまでに。
やっと、やっと気付けたというのに。
「どうして……ッ!!」
雨音がだんだんと強くなる。
その雨は、目の前で目を瞑って倒れている血の気のない旋風に当たっては弾ける。
真っ赤な血が、雨を滲ませていた。
「ははっ! これは傑作だね! 自分が殺したも同然さ。君が望むことを旋風は与えてくれた。
——君は、喜ぶべきなのさ。旋風が死んで」
「僕が……殺した?」
ポツリと呟く陽嗚。
旋風の血の気のない顔を見つめながら旋風との少ない思い出が頭を駆け巡る。
——『旋風……。旋風ですっ!』
——『あなたは一人じゃないですよ。私が、これからは私がついています』
——『思い出なんて、これから作っていけばいいんです! 陽嗚君は……陽嗚君ですから』
——『私もその内の一人なんです。この世界にある"もう一人の自分"を探すために……』
——『私は……陽嗚君の、天使ですよ? 天使は幸せにするってどこの童話にでもあるじゃないですか』
——『だって……ほら、今も温かいじゃないですか』
——『あなたは生きてるんです。ここにいるんです。幸せになれないはずなんてないじゃないですか』
「ずっと……ずっとかよっ! ずっと……! 旋風は、考えてくれていたのか……!
俺のことを……!」
涙が自然に零れ落ちる。
眠るようにして倒れている旋風は、とても綺麗に見えた。
「冷たいんだよ……! 旋風! お前の……温もりが……ここにはないんだよ……!」
必死に手を握り締める。
その冷たさは雨によって、血の気の引きによって死人そのものだった。
「旋風は……! 僕の天使なんだろ? 幸せにしてくれるんだろ? 僕はこんなの全然幸せじゃない!」
そう言うと陽嗚は旋風の小さく、ものすごく冷たい体を抱き締める。
「旋風がいないと……!
僕は幸せになれないんだよっ!」
その瞬間、何かが弾けた。
陽嗚の中で、何かが。
「……? これは一体……」
少年が途端に笑顔から怪訝な顔に変わり、呟いた。
何か、巨大な力がある。さっきまでは何も感じなかったはずの巨大な力が。
「まさか……こいつが?」
陽嗚を見つめる少年。
すると、陽嗚の周りが揺れているような感覚に陥った。
自分自身の目眩なのか、それとも陽嗚というこの少年が見せている現実なのか。
「旋風……!」
そして、陽嗚の右腕が光った。神々しく、白い光に包まれていく。
「一体何なんだ……?」
その光は、唸りをあげて周り一帯を包み込んだ。
心の中で、陽嗚に何者かの声が語りかけてくる。
『——やっと、気付いてくれたんだね。君の、大切な温もりの在り処を——』
光が消え、視界が戻った時に少年の目に映ったのは——右腕にガントレットを装着した陽嗚だった。
「ガントレット……?」
その他に変わったものは特になかった。
ガントレットが装備されている。それも右腕のみという不思議な状態であった。
「はは……! 何かと思えばガントレットただ一つ!? それも片方のみかい?」
少年は笑う。巨大な力というのは、あの片腕のガントレットだけだと知ったことの安心さゆえだろうか。
「それで一体何をするつもりかな? いくらなんでも……魔天使をナメすぎだよ? 君」
だが、その言葉にも反応しない陽嗚。
ただ、無表情で無感情なように見える。
「……ま、いいや。君もその旋風同様——殺してあげるからさっ!」
少年は思い切りよく駆け出したと思いきや、すぐさま陽嗚の近くに行き、手刀の構えをし——
「じゃあね?」
と、言うとそれを勢いつけて陽嗚の腹に突き刺す——はずだった。
「な——ッ!」
それよりも速く、陽嗚は右腕で少年を殴りつけていた。
少年はそのまま勢いよく吹っ飛ばされる。
「……お前を——破壊する」
陽嗚はそう言い放ち、右腕を少年の前へと突き出した。
(ば、バカな……!)
少年は信じられないことに直面したかのように歯を食いしばる。
(何故……! 何故ここまで急激的に強さが上がっている!?)
通常の人間だと逆に陽嗚をナメていた少年にとってそれはありえないことだった。
「——神の義肢手だな」
どこからともなく声が聞こえてくる。
その正体は建物の上にいた黒尽くめの男。
「レイヴン……!」
少年は殴られた胸を押さえながら呟く。
それは魔天使側にとって最低最悪の敵たる者だった。
「今はまだ全然だが……磨けばこいつは強くなる」
レイヴンは陽嗚を見ながら呟いた。
陽嗚は目に感情がこもっておらず、まるで生気の抜けた人形のようだった。
(原因は——あれか)
陽嗚の近くにいる旋風の姿。
よほど深い傷を負っているように遠くからでも分かった。
「力を引き出すきっかけになったといえる……か。好都合だ。ご苦労だったな、お前」
少年に向けてレイヴンが言う。
その言葉はどれも冷たく、殺気に満ちているように感じた。
「俺を倒そうっていうのかい? まだ俺は"力"を出していないんだぜ?」
少年は平然を装ってレイヴンを相手に言った。
だが、相手にせずにレイヴンは陽嗚の元へと近寄る。
「お前は、やはり俺の目的に必要な人間だったな」
レイヴンが近づいてきたことを陽嗚は気付くと、ガントレットを唸りながらレイヴンにぶつけようとする。
が、レイヴンは軽々とそれを避け、代わりに凄まじい速度で陽嗚の腹部に拳を打ち込んだ。
「がっ——!」
「もういい。大人しくしていろ」
レイヴンの腕から崩れ落ちる陽嗚。
レイヴンが後ろを振り向いた時には既に少年の姿は消えていた。
「——交換条件だ。旋風とやらを助ける代わりに——お前に、俺の計画を手伝ってもらう」
陽嗚は既に気絶しているというのにレイヴンは陽嗚に語りかけていた。
雨が、並んで倒れている旋風と陽嗚を悲しく彩っていた。
- Re: エンゼルフォール ( No.85 )
- 日時: 2011/03/19 17:23
- 名前: 蒼天の彗星 ◆7dc6rjLZUg (ID: 8keOW9sU)
支援あげまするw
- Re: エンゼルフォール ( No.86 )
- 日時: 2011/05/12 00:10
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)
長く更新していなかったため、物語のあらすじをおさらいしますー。
次回以降から物語更新が始まりますw長らく更新していなく、描写力等も最初の頃とは違いますが、その点の違いはご了承くださいー
心の中で、声が聞こえた。
その声は、柊 陽嗚という一般男子高校生として暮らしていた少年を呼び覚ます。
目が覚め、目覚めた場所は何の変哲もない部屋。その部屋を出た先に続いていたのは、長い長い螺旋階段。
そして、大きな扉を見つける。陽嗚はその扉を開けて、飛び出した。
——エンゼルフォールと呼ばれる、生死の境界線を。
それから再び目を覚ました陽嗚は、幼馴染の遥という女の子に起こされてから気付いたことがあった。
それは、自分に記憶が全くないこと。いわゆる思い出と呼ばれるものが一切削除されていた。
だが、目の前にいる遥という幼馴染らしき女の子は自分のことを知っている。そう、記憶を失う前の自分を、だ。
それから分かったことは色々あるが、学校に行くにつれて登、未来と出会う間に皆を騙しているという自己嫌悪に陥る。
自分のいる意味は何なのか。こうして話しかけてくる友人達は、全く知らない他人であり、または昔の遠い友人。
その事実に、陽嗚はやるせなさを感じざるを得なかった。
その後、自分の部屋から何か記憶に思い当たるものはないか探し始めた陽嗚。
そこで見つけたのは、昔の写真と思わしきものと、ノート。勿論、写真を撮ったなんてことは覚えていない。どこか重要な物の気もするのだが。
ノートを覗くと、そこには『何のために生きて、何のために死んで、何のために生まれ変わるのだろうか』と、意味深な言葉がつづられていた。
『人は一度死ぬとエンゼルフォールという世界の天秤の場へと行く。そこは生まれ変わるのか、ただ死ぬのかが決められる場。世界のバランスを保つ場でもある』
陽嗚は「エンゼルフォール」という言葉を深く考える。
そう、自分は滝に落ちたのだ。そのことを思い出すと、途端にゾッとした。
『生まれ変わるためにはエンゼルフォールへと落ちなければならない。だが、生まれ変われる可能性は0.01%である。そして、生まれ変わった者は——』
と、書かれていたのだから。
つまり自分は——死んだことがあるのだ。そして、生まれ変わった。あの滝が、エンゼルフォールだとするならばの話だが、確信が持てた。
普通の日常で記憶が途端に失われるなんてことはまず起きないだろう。この事実は陽嗚にとって衝撃の走るものだった。
『生まれ変わった者は、もう一度自分へ生き返る。だが記憶は全て失われる、さらに天使代行として天使の力を授かる』
その次の文章にはこう書かれていたことにより、自分は0.01%の確率で生き返ったのだと知る。
すると、ノートの中から翡翠色のネックレスが出てくる。それを手に取った瞬間、目の前が輝きに包まれる。
そして、目の前にいたのは——女の子だった。
その少女は自分のことを堕天使と呼び、陽嗚のことをマスターと呼ぶ。
あのノートに書かれていた天使代行というもの。それはまさに陽嗚のことを差していた。
天使代行は堕天使と契約を結び、力を100%発揮できる。それは堕天使にも同じことは言える。
その少女は様々なことを陽嗚に教える。
天使と呼ばれるものは人の記憶を喰らい、存在を破壊している。それを滅するのが堕天使。
天使代行の目的は神のコンピューターと呼ばれる、ゴッドイレギュラーを破壊すること。それは世界の調律を狂わせている根源だ、と。
天使と出会い、陽嗚と少女は対峙する。そこでようやく、陽嗚はその少女の名前を知ることになる。
「旋風……(つむじ)。旋風ですっ!」
これが、始まりだった。
天使によって人の存在が消える。
そのことによって、ゴッドイレギュラーに力が加えられる。
世界の調律を制御しているコンピューターであるゴッドイレギュラーは、世界の改変——エンゼルフォールシステムと呼ばれるものをプログラミングされていた。
エンゼルフォールシステムとは、ゴッドイレギュラーを唯一操れる者、フォルティスによって作られたもの。
ゴッドイレギュラーは普通の打撃などでは決して壊れることはない。場所も不特定。
では、どうすれば破壊できるか? それはエンゼルフォールシステムを勝ち抜くことだった。
エンゼルフォールから記憶を喰らうために召喚される天使、天使代行、堕天使によるサバイバルがこのシステムの主な目的。
このシステムによって得られるもの。勝者はどうであれ、ゴッドイレギュラーに膨大な力を蓄えるということだった。
つまり、どうであれ世界の改変はとどまることを知らない。それを止めるには、今やプログラムだけの存在となったフォルティスを見つけださなくてはならない。
旋風は陽嗚にゴッドイレギュラーの破壊を共にすることを懇願するが、陽嗚にとって、自分のことで精一杯の状態で引き受けることは出来なかった。
しかし、旋風はそんな陽嗚を優しく抱き締めて声をかける。陽嗚にとって、それほど安らかなものは他になかった。
旋風には隠していることがあった。それは、本当に此処にいる理由だった。
もう一人の自分を探すためにこの現世界に来たということも目的の旋風を陽嗚はどう声をかけていいかよく分からなかったが、なんとなく心の境遇は分かった気がした。
旋風にも、記憶がない。自分と同じような気がした。
それから陽嗚たちは同じ天使代行という人物と出会うことになる。その者も同じように堕天使をつれて。
しかし、その者は陽嗚ではなく、旋風のみを痛めつける。そのことに陽嗚は怒り、駆けつけるがそこで見たものは、旋風のボロボロになった姿。
窮地に追いやられるが、レイヴンと名乗る男に助けられる。その後、陽嗚は旋風を治療したあと、よかったと胸を撫で下ろしたのであった。
エンゼルフォールシステムが遂に始動され、第一の関門とされる大量天使召喚を乗り越える陽嗚たち。
しかし、そこで見た者は天使は元々は人だという事実。
その残酷な現実を前に陽嗚は嘆くが、その声は誰の耳にも届かない。
それが、世界の本当の姿なのだから。
朝目覚めると、旋風の姿がなかった。それは旋風の決断でもあった。
旋風は——陽嗚を守るため、自らを犠牲にしようとしていた。
大切な何かをようやく知ることの出来た陽嗚。目の前に旋風がいない。それだけでこんなにも心に空白が出来るものだとは思わなかった。
力の限り探し、ようやく見つけ出すことに成功するが——既に遅かった。
旋風は血だらけの状態で陽嗚の名前を呼ぶ。落ちる冷たい手。雨がポツポツと陽嗚の全身を濡らしていく。
旋風の真下には真っ赤に染まった水溜まり。生気の抜けた顔と目に血色。それらを見て、悟った。
——死んでしまったのだと。無くしてしまったのだと。
悲しみと憤怒をあらわにした陽嗚にようやく天使の力が発揮される。
右腕に煌くガントレット。神の義肢手と呼ばれるものだった。
それにより、旋風を殺した魔天使と呼ばれるものを追い払うことが出来たが、レイヴンによって力の抑止をされる。
とどまること出来ない悲しみの力を抑えながらも豪雨の中、レイヴンは呟いた。
「交換条件だ。旋風とやらを助ける代わりに——お前に、俺の計画を手伝ってもらう」
並んで倒れる陽嗚と旋風を悲しく、雨が彩っていた。
こんなものですかねーw色々ややこしいとこ飛ばしたりもしたので、気になるとこがあれば読んで下さい(殴
それでは、再スタートと同時に新たな展開へと走っていきますwオリキャラも出させていただきますw
更新、閃光のテイルと掛け持ちになりますが、どうぞ宜しくお願いします;
(なお、修正等は少しずつしていきます。その点、ご了承くださいっ)
- Re: エンゼルフォール 更新開始しますっ ( No.87 )
- 日時: 2011/05/13 22:39
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)
- 参照: エンゼルフォール、二期スタート。
貴方は私の知らないところで見え隠れする残像のように、儚く目の前から去っていってしまった。
取り戻したいのに、この手を貴方の体に触れさせたいのに、どうして届かないのだろう?
貴方はこんなにもすぐ傍にいるのに。どうしてこんだけ遠いんだろう?
いくら名前を叫んでも、貴方は——としか聞こえない。
私はいくら苦しめられたとしても、傷つけられたとしても、貴方は成長していくんですね。
私はずっと待っていた。貴方が、貴方であるように。私がどれだけ傷つこうが、貴方を——待っていた。
全て、貴方が微笑む姿を見たいから。私は、私を殺さずにはいられないんです。
貴方が成長する過程に、私が道を塞いではならないのだから。
ジメジメとした空気、そして陽が長時間にわたって照らされたアスファルトは蜃気楼のように歪んで見える。
季節は、夏だった。夏風というものは全て生暖かく、冷たいと感じるものは何一つ感じられない。
セミの鳴き声が都会の方でも煩く鳴き、住宅街では所々風鈴の鈴の音が少しだけ聞こえる。風自体があまり吹いていないのだから、それもそうだろう。
ついこの間までは春風が心地よく、梅雨の時期で時折雨が降ったりもしていたが、今ではすっかり夏という感じだった。
「暑いな……」
一人、少年がそんな真夏に近い温度であるアスファルトの上を歩いていた。人々が多数行き交う中、少年は太陽に手を振りかざしながら歩く。
「そろそろ、かな」
立ち止まり、少年は右手を上空に振りかざした。すると、右手がどんどん鉄の塊で侵食されていく。最後に形状されたものは——ガントレットだった。
「テスト……開始」
その瞬間、行き交う人々が全員立ち止まる。機械音や、セミの鳴き声もピタリと止まった。立ち止まった人間全員ニヤリ、と顔を綻ばせて不気味な笑顔を作り、少年——柊 陽嗚(ひいらぎ ひお)を見た。
一斉に陽嗚へと目掛けて飛び掛ってくる周りの一般人のはずの者たち。しかしそれらの正体全て——天使であった。
四方八方から襲ってくる人々を右、前、上、後ろ、右、左、上……と、順序を決めて右腕で殴り飛ばしていく。
だが、その刹那、後方にいた天使が陽嗚を殴りかからんと手を大きく振り上げていた。
「——ッ!」
陽嗚が後ろを振り向いて避けようとした時、凄まじい勢いでそこにいた天使が殴り飛ばされ、天使の団体の元へとぶっ飛んでいく。
「大丈夫ですかっ!?」
可愛らしい声が陽嗚の耳に届く。大切な人の声だった。もう二度と、離したくない。失いたくない声。
陽嗚は今ここにいて、その声を聞いている現実に嬉しさを込み上げる。
「旋風っ! (つむじ)」
「遅れてすみませんっ! 洗濯物を——!」
旋風の後ろに更に天使が。しかし陽嗚はそれを逃さずに右腕を溜めて、押し放つ。
ドンッ! と、重い音がしたと思いきや、そこにいた天使は大きく吹き飛ばされていた。陽嗚のガントレットには緑色の何かが纏わりついている。
「早く倒そうっ!」
「はいっ!」
陽嗚と旋風は声を合わせて背中合わせに向かう。その時に陽嗚は旋風の手を握った。
すると、旋風の体に異変が起き、翡翠色の光を全身に溢出させる。その光が消えたと思うと、そこにいたのは——6本の翡翠色の翼の生えた旋風の姿。
「"こっちの旋風"もちゃんと守りきれよ?」
「ふっ、分かっている。マスター」
凛々しい状態の旋風はそれだけ言うと、瞬く間の間に目の前にいる無数の天使を薙ぎ払っていく。
負けじと陽嗚も右腕を振るい、目の前の敵を殴り飛ばす。それを繰り返し続けていった結果、天使は全滅を喫した。
フリーズしていたかのように、どれもこれもが止まっていたその場の風景は再び夏を感じさせる現実に戻る。
セミの鳴き声、そして車の音や機械の音。どこから現れたのか人々もまた、その場に復活していた。
「よし……! 帰ろう、旋風」
「はいっ!」
〜エンゼルフォール:二期開幕〜
- Re: エンゼルフォール 二期スタートっ ( No.88 )
- 日時: 2011/05/19 16:26
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)
あれから数週間が経った。
レイヴンが旋風の体を回復させ、見事旋風は生きながらえることが出来た。しかし、その代償は——
「失われし存在を探せ」
その言葉を残し、レイヴンは去っていった。失われし存在。それは一体何を意味するのか。そして一体それはどこにあるのか。形あるものなのか。
存在、と名についてあるぐらいなので形のあるものなのではないのか。そう思考錯誤するが、今のところ情報的に皆無であった。
エンゼルフォールシステムは始まりを見せてから早くも数週間が経ったとは思えない穏やかな時間が二人に訪れていた。
ただ、陽嗚はレイヴンから教えてもらったとある人物の元に通うことが義務付けられた。
それもすべて、強くなるため。もう何も失わないため。現実に目を背けず、しっかりと前を歩いていくため。
強くなるだけで、こんなにも重い。しかし、その重い足取りが陽嗚を動かしているのもまた事実だった。
「陽嗚君? そろそろ出かける時間ですか?」
「え? あぁ、うん」
陽嗚は出かける用意をしながら考え事をしていた。
それは、遥のこと。遥は前以上にハキハキと陽嗚に話しかけてくる。しかし、家には来てくれないし、一緒に行こうなんてことも言わない。
陽嗚が旋風と通っているからなのか。それともまた別の何かか。
どちらにせよ、どこか他人のような感じに違和感を感じていた。一体遥に何があったんだろう。そんなことを思いながら、陽嗚は靴紐を結んでいた。
あれから龍尾もどうなったか陽嗚には分からない。助けてくれたお礼も十分にいえないままで、時は過ぎ去っていた。
前のように旋風を襲いにこないし、どこか龍尾さんは堕天使というより、人間臭かった。そのせいか、どうしても敵だと思えないのだ。
陽嗚は手元付近にあるバッグを右肩にかけて立ち上がる。
「どうしました? 何か考え事、とか?」
「いや、なんでもないよ。旋風、何かあったら僕のところに——」
「分かってます。陽嗚君も強くなるために頑張ってるんですから、私も頑張ります」
笑顔で旋風は陽嗚に言った。その笑顔が凄く温かくて、陽嗚にとってその笑顔はまるで女神のようだった。
癒される、そんな感覚とは別に、ありがたいという気持ちすらも湧いてくる。
「ありがとう」
「え?」
つい呟いてしまったお礼の言葉に、陽嗚は自分で言ったにも関わらず、口を押さえる。
「い、いやっ! な、なんでもないよっ!」
「?」
首を傾げてこちらを不思議そうに見る旋風から逃げるようにして「いってきます!」と声を大きくあげて出て行った。
外に出ると、まだ朝方だからか、眩しい日差しが陽嗚の目元に差し込む。眩しそうに右腕で顔を隠し、陽嗚は太陽を見上げた。
旋風は自分のもう一人の存在を探す。そのためにも頑張っている。フォルティスの居場所もいまだ分からないし、エンゼルフォールシステム自体もちょくちょく発動するぐらいで、天使の大量発生ぐらいしか起きない。
並大抵の天使相手なら陽嗚は一人で戦えるレベルになっていた。
セミの鳴き声が夏なのだと感じさせられる。その鳴き声を聞くことで少し脳裏に過ぎる言葉の羅列。
『——でしょ?』
「っ……!」
痛みが頭に走り、咄嗟に手で押さえる。この痛みがあると、毎度のことのように何かの言葉が陽嗚の脳裏に響き渡る。
それが何か意味があるような気がして、陽嗚は苦しみの中に希望を望んでいた。
しかしそれも一瞬のこと。それで何が分かるというわけでもない。
「……行こう」
陽嗚は一言、呟いて歩き出した。
向かった先は、陽嗚の家から徒歩で30分程度の場所にある坂道上の神社。
周りに林が生えており、坂道を登りきらなければ神社の状態がどうにもわかりづらい。
都会から外れた郊外に位置し、どうにも殺風景な場所である。
「ふう……登るか……」
気合をいれ、頬を両手で叩いた後、「よしっ!」と掛け声を出して陽嗚は坂道を登り始めた。
何分経っただろう。あまり経った気がしないような、したような。変な感覚である。
ようやく見えてきた神社の輪郭は、さながら日本の文化を思い出させる風格。
昔から建っていたのだと分かる古びた感じの匂いと振る舞いが何ともいえない。敷地はなかなか広く、坂道を登りきった場所から本堂まで少し距離がある。
こんなところで鬼ごっこなんてやったら楽しいかもしれない。そう思いながら陽尾は少し慣れてきた本堂への道を歩く。
が、その時だった。
「ッ!?」
ガツッ! と、何かが当たる音がする。陽嗚は反射的にその場から退き、避ける。
陽嗚がいた場所には、いつの間にか巫女服を着た可愛らしい女の子がいた。そのすぐ隣には弓矢が刺さっている。
「もう避けられるようになっちゃったか」
その女の子は、可愛らしい風貌に似合わず、弓矢を持ちながら笑う。その笑顔には大抵の男は惚気ることだろう。
緑の長髪、黄緑の瞳が陽嗚を見つめていた。
「いや、まだ遅いっ!」
本堂の方から声が聞こえる。この声の持ち主こそ、陽嗚を鍛える師匠たる人であった。
ゆっくりと歩いてくるその人物は、凛とした感じの美女だった。
綺麗な長い黒髪は惚れ惚れするように煌いている。同じく巫女服を着ているが、とても似合っている感じがする。一言で言うと、大和撫子といったところか。
「恩恵、手加減は無用だ。先ほどの攻撃も甘かろう」
「そうですか? 半ば本気だったんですけど……神無月さんからすると遅かったですか?」
可愛らしく、恩恵と呼ばれた——堕天使は言った。
神無月、という名前の陽嗚の師匠たる人は恩恵の言葉をスルーし、陽嗚を見つめる。
「早く」
「へ……?」
その一連のやり取りに少々戸惑っている陽嗚は早く、といった神無月の言葉を間の抜けた声で返してしまう。
「早く着替えて来いといっておるっ! 早く行け!!」
「は、はいぃっ!!」
神無月の怒鳴り声に、急いで陽嗚は本堂へと逃げ込んだ。
「全く……」
神無月は手に持っていた刀を抜き、振るう。綺麗な白刃が太陽に照らされて煌く。
「これで何回目だ?」
「えーと、5回ですね」
「違う。あのバカの間抜けた行動の回数ではない。……あの"クソなシステム"が繰り返された回数だ」
「それはー……何回目でしょう?」
恩恵の気まずそうな声に、神無月はふっ、と鼻で笑う。
「それもそうか。全てリセットされるのだからな」
「神無月さん……」
「恩恵。今度こそは、このシステムをシャットダウンさせる。……いいな?」
神無月の凛とした顔が恩恵を捉える。
その表情にしばしば返答に困ったが、恩恵は大きく頷いて笑った。
「はいっ! 私も、自然におかされた環境を変えなくてはなりませんから!」
「あぁ。きっと叶える。きっとだ」
神無月はそう言い切った後、刀を鞘の中へと納めた後に太陽を見上げた。
眩しい光が、神無月に降り注いだ。
旋風はその頃、家の家事などを済ませた後に向かう場所があった。
それも、レイヴンからの指定された場所でもある。
『お前は、お前の中にいる旋風と向き合え』
その言葉の意味がよく理解は出来なかったが、そのことが自分の人間だった時の記憶に繋がるという。
私はそのために、記憶の手がかりを探すためにある場所を目指す。
そこは、古ぼけた図書館だった。活動しているのかさえも分からないその古ぼけた図書館は、入り口が封鎖されていた。
やはり活動そのものはしていないようだ。しかし、ここが指定場所のはず。よく見ると、その入り口の中に一つだけギリギリ入り込める場所があることを見つけた。
「ここから……」
旋風はその中を何とか入り込み、図書館内へと侵入した。
ギィィッと、いかにも年代物の感じを漂わせる音が扉を開くと同時に聞こえた。
「お邪魔しまーす……」
律儀にお邪魔します、と言ってから旋風は中を覗いた。
簡単に言えば、その中は本の山だった。
山積みにされた本や、本棚の上にまた本棚、というふうに連続的に本が連なっている。まるで御伽話の世界のような感じがした。
その時、ガタガタガタっと物音が奥の方から聞こえた。誰かいるのかと旋風は急いで中に入った。
「うわぁあっ!」
それから少し遅れて悲鳴に似たもの。それが奥の方から聞こえるのだから、これは誰かいるに違いない。確信へと変わった瞬間だった。
「だ、誰かそこにいるのかい? 助けてくれないか?」
本の山に下敷きになっているのであろう。奥には本の山が詰まれており、その中から声が聞こえたのだ。
「い、今待っててくださいね! すぐ助けます!」
旋風は急いで本の山を動かしにかかった。
一つ一つが重く、分厚かったため時間は少々かかってしまったが、中から出てきた一人の人間は何とも怪我が見られなかった。
「あ、ありがとう。助かったよー……」
ふぅ、とため息を吐いて安堵するその眼鏡をかけたボサボサ頭で何故か白衣に似たものを着ているその男は、どうにも異様な感じがした。
「あ、僕は西崎 守(にしざき まもる)。通称、埋もれ本っていうあだ名がついてる。よろしくー……えーっと、旋風さん?」
「は、はい! ……えっと、どうして私の名前を?」
すると、西崎は眼鏡をクイッと上にあげて自信有り気に答えた。
「超能力だよっ!」
「は、はぁ……」
「あ、もう一つ。別名で変人オカルトマニアと呼ばれるけど、それは気にしないでね!」
もう一つの別名に妙に納得してしまった旋風であった。
一体ここで何を取り戻すというのだろう。そんな疑問を抱えながら、旋風はこの西崎という男を見つめていた。
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