ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 片雲の黒装束と赤い羽根
- 日時: 2011/01/14 17:19
- 名前: 真瑠 (ID: VJgd52Wn)
これは、
片雲=ちぎれ雲 | ちぎれ雲のようにゆったりと旅をする
黒装束 | 黒装束と
赤い羽根 | 黒い羽帽子についた赤い羽根
を身にまとった青年の話。
*キャラクター*
◆フェーヴル・ロイト
・・・黒装束の旅人。
ある『力』を持っている。
◆メア
・・・フェーヴル捜索隊の権力者の一人。
ある目的から、ロイトを追っている。
◆グラウス
・・・フェーヴル捜索隊の権力者の一人。
主に情報収集を得意とする。
その他キャラクター随時更新予定**
まだ科学が発展しきっていない、西洋の街並みが舞台です。
私の日々の体験から感じたことを、『黒装束の旅人』を通じて皆様にお届けできたら、と思います。
- Re: 片雲の黒装束と赤い羽根 ( No.31 )
- 日時: 2010/11/20 07:37
- 名前: 真瑠 (ID: glYNRe/q)
第一話 麗しの令嬢 Ⅳ
『ねーアッシュ!お菓子を持ってきたの・・・あげる!』
『ありがとう、レイラ・・・』
「俺とレイラは、自分で言うのもなんだけど、仲が良かった。
でも、ある日・・・」
『今日、新しくこの街に住む人が来るらしいぜ』
『え?誰?アッシュは知ってるの?』
『聞いただけ。なんでもすごく美人って話・・・』
「それが、シェリアさん?」
ロイトは聞いた。
「いや・・・これは違う人。そいつも、レイラと同じ大富豪だったんだ・・・」
『くすッ あなたがレイラね?初めまして、私はメア。・・・・大富豪、って聞いてたけど、そんなでもなさそうね!その雑巾みたいな服、はやく脱いでしまったら??』
ロイトは舌打ちして、シェリアは同情した表情を浮かべた。
「レイラは、今までずっと、権力者の娘だったし、皆からチヤホヤされてた。
ずっと、ずっと「可愛い」「綺麗」って言われて育ってきたんだ。
理屈は俺には分からないけど、それですごくダメージ受けて・・・」
『私、絶対、絶対アイツを許さない!!私より、アイツの方が100倍不細工なんだから!!』
「・・・・それ以来、みんなにキツくなって、得意げになってる人を片っ端から不細工だの何だの言い始めた。
それが理由で皆に嫌われ始めたんだ。
またそれが原因で、レイラはひねくれた性格になった。悪循環、ってヤツさ。
最後は、俺を召使にして、散々コキ使ってきた。」
「・・・それで、アッシュさんが恋人作ったら完全否定された、と」
「そうなるな。・・・俺は、レイラの奴隷じゃない。なのに、レイラは・・・・」
完全に、あたりが真っ暗になっていた。
そろそろ帰ろう、と、黒装束の青年は身を翻して歩いて行った。
昼はものすごく目立つ不可思議な装束が、闇夜では完全に闇と同化してしまう。
ロイトが数歩歩いただけで、彼を見失ってしまったシェリアは、勇気を出して叫んだ。
「ロイトさん!!レイラ様は・・・レイラ様は自分以外を全く美しいと思わないようになってしまたんです!!」
ロイトは足を止めた。
それをシェリアは知るはずもなかったが、相変わらず闇に向かって叫ぶ。
「庭に咲く花も・・・街並みも・・・人も・・・全部不細工、汚い、と言って吐き捨てられるのです!!」
「私は・・・レイラ様に・・・」
「・・・・本当に美しいものを知ってほしいんです・・・・!」
しばらくの沈黙は、あたりを包む。
「・・・・シェリアさん。あなたは本当に素敵な方ですね」
闇から、声が聞こえた。囁くような、小さな声。
「僕に出来ることは些細な事ですが、ほんの少しだけならレイラ嬢の背を押すことが出来るでしょう・・・。ですが、全ては彼女次第です。」
- Re: 片雲の黒装束と赤い羽根 ( No.32 )
- 日時: 2010/11/25 21:07
- 名前: 真瑠 (ID: glYNRe/q)
第一話 麗しの令嬢 Ⅴ
宿は、というと、この街の昔ながらの風姿を再現した質素な造りになっており、料理は主人が抜群の料理テクを披露してくれたので、中々快適だった。
夜中に宿へ向かったので、道順はうろ覚えだった。
けれど、黒装束の青年は全く気にしない。
なぜならそれは、彼にとって喜びだから。
この街ならではの工夫して製造された建設物や、独特のレンガの色。
草花の香り、酒場の前で決まって流れる、今人気のミュージック。
それに合わせるように聞こえる、小鳥のさえずり。
知らない道を歩くこと、見たことのない風景を見ること、会ったことのない人と話すこと。
全てが彼にとっての日常で、一番の幸せだった。
——————だからこそ、彼は道に迷いやすい。
「えっと・・・・ここはどこかな・・・?」
なんて、独り言を呟く。
目の前にある、見たこともない豪華な屋敷への感動もあるが、流石に『迷った』ということは、方向オンチのロイトにも分かる。
気分のまま行動すると、こういう事になる事は分かっていた。
分かっていたけれど、やはりこの性格は天性のモノらしい。
ロイトの独り言を、ふと耳にした男性が、声を張り上げた。
「何ネボけた事言ってんだ?そこの黒服!この屋敷は・・・」
「アリーシャ様の屋敷だぜ!?」
「・・・・アリーシャ?」
全く聞き慣れない、といった反応に、男は、彼がこの街に来て数日経たないということが分かった。
「アリーシャ・ゴズラ男爵と、その令嬢、アリーシャ・レイラ嬢の屋敷さ。いくらお前でも、ファーストネームくらいは耳にしたことがあるだろ?」
レイラ嬢、とう単語を聞いて、ロイトはすぐに反応した。
「ええ。知っています・・・あの、僕みたいな旅人でも、面会することは出来るのでしょうか?」
さぁな、とぶっきらぼうに男は言い放ち、早々に去って行ってしまった。
どっちみち、レイラに会うつもりだったので、ロイトは迷いもせずインターホンを押す。
ポーン・・・
しばらく間が空いた。
失礼を承知で、もう一度押そうとした時、メイドらしき声がインターホンから聞こえた。
『どちら様でしょうか?』
「ただの旅人です・・・・。フェーヴル・ロイトと言います。少々厳しい願いだと思いますが、レイラ嬢に面会できないでしょうか?」
『ロイト?昼間の?』
またか・・・、とガックリと肩を落とすロイト。
僕の名前が、たくさんの人に知れ渡ると、まずい。
早くこの街を出ないと・・・・。
「・・・ええそうです。アッシュさんとシェリアさんの事について、レイラ嬢に話を聞きたいのですが」
しばらくの沈黙。
『・・・分かりました。本来なら門前払いですが・・・ロイト様なら歓迎いたします』
まだ声しか聞いていないのに、即「様」付けをする精神は、やはりメイドとしての職業が身に沁みついているのだろう。
しばらくして、門が開けられた。
- Re: 片雲の黒装束と赤い羽根 ( No.33 )
- 日時: 2010/11/30 16:20
- 名前: 真瑠 (ID: glYNRe/q)
第一話 麗しの令嬢 Ⅵ
中から出てきたのは、黒いタキシードを着た青年。
もちろん、ロイトはその顔を知っていた。
「・・・こんにちは、アッシュさん」
「ロイトさん・・・昨晩は色々あったけど・・・シェリアが言った事、俺からもお願いします・・・」
召使アッシュは彼に近づき、耳もとで囁くようにそう言った。
屋敷の中は赤い絨毯が満遍なく敷き詰められ、壁には、有名な画家の描いた絵が飾ってある。
いたるところに設置されている花瓶には、色とりどりの花がさしてあった。
「素晴らしい屋敷ですね、アッシュさん?」
「ええ・・・でも、お嬢様は・・・ほとんどこの美しさを楽しんでなくて・・・あ、いや、楽しんでおられなくて・・・」
つい口調に困るアッシュ。
先ほどのメイドと違い、アッシュはどうやら召使には向いていないようだ。
「気を遣わなくて結構ですよ。僕は別に、口外したり訴えたりしませんから」
アッシュは、ほっ・・・と胸を撫で下ろした。
階段をのぼっていると、踊り場に大きな窓があった。
そこからは、昨日ロイトが騒ぎを起こした広場がよく見える。
昨日と同じベンチに、あのハト使いの老婆が座っているのを見て、ロイトはふとアッシュに聞いた。
「レイラ嬢は・・・動物を飼っておられないのですか?」
アッシュは不思議そうな顔をして、首を横に振った。
「ああ・・・一度も」
それを聞いて、かわいいのになぁ、とロイトは小さく呟いた。
どれくらい歩いただろう。
「ついたぜ。ここが、レイラの部屋・・・」
そう言い、アッシュはドアを二回程ノックした。
「お嬢様。先ほどお話しした、お客様がいらしております」
どうやら、もうレイラ嬢から面会の許可はもらっているらしい。
もしかしたら、本人に断られるかも、と少し思っていたロイトは安堵の表情を浮かべた。
中から「入って」と、冷静な声がした。
アッシュはロイトの方を振り向いて言った。
「俺は、ここまでしか案内できないんだ。あの・・・・頑張れ、よ?」
ロイトは無言で頷き、ドアノブに手をかけ、ドアを開けた。
そこは、物凄くキラキラした部屋だった。
全く、そうしか例えようがない。
ほとんどの装飾に宝石が使われていて、窓から差し込む光を、己の独特の色と反射し合っている。
シャンデリアも異常なほど大きい。
だが、自然の草花は全く見受けられない。
そして、窓際の白い椅子に腰かけている女性が一人。
アリーシャ・レイラ嬢その人だった。
- Re: 片雲の黒装束と赤い羽根 ( No.34 )
- 日時: 2011/01/14 17:09
- 名前: 真瑠 (ID: VJgd52Wn)
第一話 麗しの令嬢 Ⅶ
レイラは、ロイトが部屋に入ったのを気配で察すると、ゆっくり立ち上がった。
彼女のドレスは、やはり眼に生える鮮やかな紅色。
「お初にお目にかかります、レイラ嬢。僕は、フェーヴル・ロイトと申します・・・。噂通り、薔薇色のドレスがとても良くお似合いですね。」
こういった挨拶には慣れているのか、ロイトはスラスラと話した。
「噂、ね・・・・。クス、どういう内容の噂かは大体想像できるわ」
レイラは嫌味ったらしい笑みを浮かべながらも、自分の服を褒められて上機嫌の様子だった。
本当なら、もっと時間をかけて打ち解けてから本題に入りたいのだが、生憎ロイトは焦っていた。
「僕、へりくだった事は苦手なので・・・。ハッキリとお聞きします。アッシュとシェリアという名はご存じですよね?その二人の関係について、どう思われていらっしゃるのですか?」
「ふん・・・・そんなくだらない事を聞きにここまで来たの?・・・・嫌いよ。あんな奴ら・・・目障りだわ・・・。」
「目障り?それはまた・・・何故?」
「・・・アッシュが悪いのよ・・・。私より、あの女とばかり一緒にいて!!何度禁止してもこっそり何処かで会って!!挙句の果てに、私を、この私を、美しくないと言ったわ!あの女の方が、美しいって・・・・!!!」
レイラはすっかり取り乱していた。
怒りにまかせてテーブルを思い切り叩き、象の大きさ程あるカーテンと窓を思い切り開けた。
少し薄暗かった部屋が、一気に明るくなる。
その窓から少し下を見下ろして、レイラは甲高く笑った。
「・・・ッほら、ロイトさん?こっちへ来て?面白いものをみせてあげる」
そういうと、また笑い出す。
居心地が悪くなったが、レイラの言う通りに窓の方へ歩み寄り、外を見下ろしてみる。
そこには、ベンチで楽しそうに話すアッシュとシェリアに姿があった。
「・・・アッシュさん・・・?さっきまでここに居たのに・・・」
と、ついつい口に出てしまい、ロイトは焦ってチラリとレイラ嬢の方を見た。
そして、ロイトは一瞬、思考が回らなくなった。
レイラは泣いていた。
大泣きしているわけではない。
瞳が潤い、一粒の涙が零れる程度。
けれど、それでも。
彼女は泣いていた。言葉に出来ない怒りと悲しみの表情で。
- Re: 片雲の黒装束と赤い羽根 ( No.35 )
- 日時: 2011/01/14 17:09
- 名前: 真瑠 (ID: VJgd52Wn)
第一話 麗しの令嬢 Ⅷ
レイラは思い切り顔を振り、涙を払い飛ばした。
まるで何事もなかったかのように。
・・・・彼女は皮肉な笑みを浮かべていた。
・・・・いや、違う。
ロイトは思った。
『かなりの我儘と凶暴さと荒々しさがあって・・・・』
警備員はそう言った。
街の人々も、それを否定している風ではなかった。
確かに一般の人々から見れば、彼女の笑みは魔女の笑みと等しく、射すくめられて、心に中に蟠りを感じるだろう。
でも、間近で見ると、こんなにも違う。
レイラ嬢の笑みは、単なる皮肉ではない。
困惑と、戸惑いと、代え難い怒りと悲しみ。そして、何か大切なものを失った、喪失感。
そんな感情が、素直に彼女の表情には表れているから。
彼女は、気付いていないのだ。
何かに嫉妬している自分の気持ちと、全ての『美しさ』に。
「アッシュさんの事・・・気になっていらっしゃるようですね。好きなんですか?」
ロイトは、茶化すように笑ってみせた。
一方レイラ嬢は気を悪くしたようで、勢いよくロイトの方へ向き直り、怒鳴った。
「そんな訳ないでしょ!?あんな奴、嫌いよ!私を侮辱した人間なんて大嫌い!」
「それはまた、どうして?」
「間違ってるからよ」
「間違ってる?」
そう、と彼女は頷く。
「私の美しさは、絶対だもの」
彼女は不敵に笑った。
・・・・魔女のように。
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