ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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処刑人斬谷断 お知らせあり
日時: 2011/08/16 20:08
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: XL8ucf75)

クリックしたみなさん、ありがとうございます。

新作ですwww

どうぞ読んでいってください!!

感想、意見どんどんお願いします!!


※1話1話が最低でも2000字程度あります。「長い文章苦手」という方は回れ右をするか、十分注意して読んで下さい。

>>54 企画募集のお知らせ


登場人物紹介 >>1

オリキャラ一覧

薬師寺 命(ヤクシジ メイ)紅蓮の流星s作>>2

夢見 黒夢(ユメミ クロム)Neonさん作>>4

紀伊 蜻蛉(キイ トンボ)ZEROs作>>5




プロローグ >>10

Case 1 ≪世を斬る探偵≫   
第1話「もみ消された悪」>>1第1話

第2話「金色の霧の島」>>13

第3話「迫る悪意」>>14

第4話「処刑人」>>15

第5話「悲しみを救うもの」>>16

Case 2 ≪人の道≫

第6話「探偵の朝」>>24

第7話「不良と令嬢」>>26

第8話「潜入捜査」>>27

第9話「暗躍」>>28

第10話「激昂」>>29

第11話「人であること」>>30

Case 3《殺意の疾走》

第12話「探してください」>>32

第13話「恨みと憎しみ」>>33

第14話「アダム」>>34

第15話「生き方」>>37

第16話「憎しみの果て」>>39

第17話「守るべきもの」>>40

《Case4 科学者の信条》

第18話「二酸化炭素と新たな依頼」>>41

第19話「危険な化学式」>>42

第20話「タイムリミット」>>43

第21話「最後の犯行予告」>>44

第22話「科学者の怒り」>>45

第23話「遠い日の約束」>>46

第24話「日が当たる場所」>>47

《Case5 助手だけの依頼》

第25話「衝撃の事件」>>48

第26話「前代未聞の依頼」>>51

第27話「本当の依頼」>>57

第28話「ジョーカー登場」>>58

第29話「奇襲」>>61

第30話「逆襲」>>62

第31話「助手の底力」>>63

第32話「よくやった」>>64

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Re: 処刑人斬谷断 オリキャラ募集終了&採用オリキャラ決定 ( No.11 )
日時: 2010/12/12 21:00
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第1話 「もみ消された悪」

宮城県沖—

そこには、地図上から消された島がある。

島の名前は、金霧島(かなぎりしま)。

第2次世界大戦の際、生体実験の研究施設が存在した。

その研究施設ではどんな攻撃を受けても立ち上がる不死身人間を生み出そうとしていた。

が、当然のごとく実験は失敗。巨額の実験費を投じたにもかかわらず成果を挙げられなかった責任を取らされる形で、やむなく施設はそのままに、研究者達は去っていった。

そして、その存在さえ忘れ去られた金霧島には、こんな伝説があったという。

『昔々、とある海、とある島に黄金が眠る島があったそうな。その島では、朝も昼も夜も、金色の霧で覆われていたそうな。そして、地元の住民はその島を指差し、金色の霧の島、金霧島と呼んだそうな』







「斬谷探偵事務所」と書かれている門をくぐり、二瓶小百合はドアをノックした。

しばらくすると足音が、近づいてきて、ドアが開けられた。

「はい」

出てきたのは随所に怪しい色のしみがある白衣をを着た女だった。

小百合はわずかに女の姿に引いたが、すぐにここに来た目的を思い出し、口を開いた。

「助けてほしいんです。ある人を探しています」






「斬谷さん。お客さんです」

突然、ノックもせずに怪しい色の白衣の女—薬師寺命が部屋に入ってきた。

部屋の主—斬谷断は読んでいた新聞を机の上に置き、顔を上げた。

彼は、3年前に受けた爆撃によって左目の視力を失い、眼帯をつけていた。

「薬師寺。今度からはノックをしてから入ってくれ」

「この手で?」

そう言って薬師寺が手を差し出した。

断はチラリとそれを見ると「すまない」と言った。

彼女の手にはとてもこの世の物質とは思えないようなおどろおどろしい色の液体がついていたのだ。

断は薬師寺に手を洗うように頼み込むと、応接室に向かった。

Yシャツのわずかなシワを直し、ノックをしてから部屋に入る。

イスに座っていたのは、20代後半と思われる美しい女性だった。

女性は二瓶小百合と名乗った。

「はじめまして、二瓶さん」

断は笑顔で手を差し出した。

小百合は手を握ると、すぐに手を離した。

「それでは、早速本題に入りましょうか」

直ぐに本題に入るのは、小百合が急ぎの用で来たからである。

でなければ握手した手をすぐに離したりはしない、というのが断の読みだ。

小百合は案の定、すぐに依頼内容を話し始めた。

「夫が行方不明なんです。探してください」

断は依頼用紙の依頼内容欄に「行方不明者捜索」と書き込んだ。

「分かりました。おまかせください。早速伺いますが、あなたが最後にご主人を見かけたのはいつごろですか?」

断の経験上、1日2日前なら浮気相手のところにいる可能性、1週間以上前なら犯罪がらみの可能性、1ヶ月以上前だと殺されている可能性が出てくる。

「3年前です」

断はぴくりと片眉を上げた。

「3年前?」

「はい、3年前です」

小百合は歯切れの悪い返事をした。

「失礼ですが、なぜもっと早く相談されなかったのですか?」

「それが……主人とはケンか別れしたんです。離婚届を出すことなく主人が出て行ったので、一応まだ結婚していることになっていますけど」

「ははあ、なるほど」

断はとりあえず小百合の話を最後まで聞くことにした。

「最初は探そうとも思いませんでした。ケンカの原因は主人の浮気だったんで…むしろ、死んでしまえばいいとも思っていました。でも、つい先週、こんな手紙が来たんです」

そう言って、小百合は一通の手紙を取り出した。

『小百合へ

3年前、急に飛び出していってすまなかった。俺は本当は浮気なんかしていなかった。詳しくは話せないけど、君を守るためだったんだ。

何で今手紙を書いたのかって言うと、もうすぐ、俺は死んでしまうだろうから。

黄金に輝く霧の島に、俺は命をささげることにした。

だから、君に伝えたい。

俺は、君のことが大好きだった。今でも、君に会いたい。

でも俺は、たくさんの人々の幸せの為に、やらなきゃいけないことがある。

もしこんな俺を、許してくれるなら、指輪を俺だと思って取っておいてくれ。

君に最高の幸せが訪れることを願う

               二瓶政義』

断は、静かに手紙を折りたたんだ。

「お願いします。もしかしたらもう遅いかもしれないけど、このままだと私は一生後悔します。お願いします。主人を探してください………」

怖くてたまらないのだろう。小百合は泣き崩れた。

「分かりました。必ずご主人を見つけ出します」

断は小百合の方に優しく手を置き、小さく笑った。














必ず見つけ出す。断は心の中でそう誓った

Re: 処刑人斬谷断 オリキャラ募集終了&採用オリキャラ決定 ( No.12 )
日時: 2010/12/13 21:26
名前: 狩人 ◆Puie0VNSjk (ID: /od6a26Q)

次の募集であの子を…

てか更にうまくなってる…

Re: 処刑人斬谷断 オリキャラ募集終了&採用オリキャラ決定 ( No.13 )
日時: 2010/12/13 21:46
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第2話 「金色の霧の島」

いったん小百合を家に帰し、断は3名いる「助手」を集めた。

いつも怪しげな実験を行っているマッドサイエンティスト、薬師寺命。

小さい身長からは想像もつかないような怪力の持ち主、夢見黒夢。

真っ黒のコートの中にいくつもの武器を仕込んでいる男、紀伊蜻蛉。

彼らはそれぞれ「裏事情」があり、断とともに探偵事務所でくいぶちを稼いでいる。

「今回の仕事は行方不明者探しだ」

断が簡単な資料を全員に配りながら話を始めた。

「探すのは二瓶政義37歳。宮城県の県庁に勤めている。依頼人は妻の二瓶小百合だ。彼女も宮城在住だ」

「たかだか行方不明者探しで、全員集める必要があったの?」

薬師寺が資料に目をやりながら断にたずねた。

普段は断と誰か1人か2人が依頼をこなす。全員で取り掛かるのはよっぽどの大仕事だけだ。

「ああ、少し匂うんだ」

「匂う?」

夢見が眉間にしわを寄せた。

「ああ、この手紙を見てくれ」

そう言って断は小百合から預かった手紙を見せた。

3人が手紙を覗き込む。

「あ〜、こりゃ確かに匂うわ」

薬師寺が真っ先に感想を述べた。

「確かに、これは怪しい」

紀伊も同意した。夢見も確かに、といった表情をしている。

「おそらく今回は『処置』が必要な件だ。万全を期して全員で執り行うことにする。文句は無いな?」

3人がうなずいた。断は話を続けた。

「2人ずつに分かれて行動する。俺と薬師寺は宮城に行って、金色の霧の島について調べる。夢見と紀伊は小百合の護衛だ。夫が何者かの陰謀に巻き込まれたとしたら、彼女も狙われる可能性がある。泊まっているホテルの住所だ」

断は紀伊に住所が書いてあるメモを渡した。

「みんな、気を抜かずに、細心の注意を払え。よし、行こう」

10分後、4人は事務所を出て行った。







宮城に着き、最初に断と薬師寺が向かったのは、県立図書館だ。

2人が事前に調べた結果、宮城県に黄金に輝く霧の島と呼ばれる島はなかった。

だが、断には1つの読みがあった。

二瓶政義の手紙には「たくさんの人の幸せのために」とあった。

たくさんの人とはつまり、国民もしくは宮城県民のことである。

たくさんの人のためにすること、それは県民の為になること。

転じて、宮城県には県民の生活に関わる何らかの「汚点」があり、二瓶政義はその汚点をどうにかするべく、家を飛び出したのだ。

そう考えれば、宮城県庁の人間は何らかの陰謀を張り巡らせていることになる。

そしてそれは、宮城県のどこかで行われている。

もし、宮城県に一般に知られていない島があったら、隠し事をするのにこれ以上の場所は無い。

そう考えた断は、図書館にある昔の宮城県の地図を探しに来たのだった。

探していたものは、案外あっさり見つかった。

「これが、明治時代の宮城県の地図です」

「ありがとうございます」

断は地図を受け取ると、早速薄い茶色の地図を広げた。

「薬師寺、今の地図を」

「ほい」

薬師寺は現代の宮城県の地図を広げ、古い地図の真横に置いた。

5分ほど地図を眺めていた断は、不意ににやりと笑った。

「どうしたの? 急にニヤニヤして」

薬師寺が若干退きながらたずねる。

「見ろ。ここのとこ」

そう言って断が指差したところを見て、薬師寺はあっと声を上げた。

断が指差した古い地図のその箇所は、現代の地図には存在しない場所だった。

「ここって、島でしょ?」

「そう、島だ。けど、もっと驚くべきは島の名前」

「名前………? ………あっ!」

薬師寺がなるほどといった顔をした。

その島の名前は「金霧島」だった。







一方、二瓶小百合の護衛をしていた夢見と紀伊は、3日目にして、怪しい人物を発見した。

小百合のあとをずっとつけているヤクザ風の男2人。

「バレバレね」

夢見があきれたようにつぶやいた。

「ああ、バレバレだ」

紀伊もため息をついた。

『じゃ、行きますか』

2人は声をそろえて、面倒くさそうにヤクザ男を追った。

しばらく後をつけていたヤクザ男は、小百合が人通りの少ない路地裏に入ったのを見ると、急に歩みを速めた。

「全然尾行になってない。素人だね」

夢見が小走りで走り出した。

紀伊も歩調を速める。

2人が路地裏に飛び込むと、案の定ヤクザ男2人は小百合にナイフを向けていた。

「悪いなあ、べっぴんさんよ。あんたに生きててもらっちゃあ困る人がいるんだよ」

「おとなしくしてればすぐに終わらせてやるからよぉ!!」

小百合は声も出せずに震えている。

その光景を見て、夢見の中の何かが音を立てて切れた。

ヤクザ男のところに猛ダッシュで走ると、有無を言わさずジャンピングキックを叩き込んだ。

「おわっ!!」

不運なヤクザ男は壁に頭を打ちつけ、そのまま気を失ってしまった。

もう片方のヤクザ男はしばらくわけが分からないといった表情をしていたが、やがてナイフをかざして

「なんだてめえは!!」

と怒声を上げ、ナイフを振り上げる。

しかし、すばやく後ろに回りこんだ紀伊が首にスタンガンを当てると、もう片方の男も気絶してしまった。

「え、あ、あなたたちは……?」

小百合がたずねてくるのを無視して、紀伊は断に電話をかけた。

ワンコールで断は電話に出た。

『どうした?』

「当たりだ。チンピラが依頼人を襲ってきた」

『生け捕りにしたか?』

「ああ、2人とも気絶している」

『何をすればいいか、分かるな?』

「ああ」

紀伊は電話を切り、気絶しているヤクザ男をじっと見つめた。








だがこのとき、断たちは知らなかった。これはただの始まりに過ぎないことを。

Re: 処刑人斬谷断 オリキャラ募集終了&採用オリキャラ決定 ( No.14 )
日時: 2010/12/15 20:45
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第3話  「迫る悪意」

紀伊が小百合を襲ったヤクザの男2人に手荒な「質問」した結果、彼らは宮城県の県庁職員によって差し向けられたと白状した。

職員の名前は矢代浩介。宮城県知事の秘書で、大量の裏金を所持しているらしい。

紀伊はそれだけ聞くと再びスタンガンで2人を気絶させ、小百合を残し、警察を呼んで夢見とともにその場を後にした。






紀伊と夢見が宮城県行きの新幹線に乗り込んだ頃、断は釣り船のレンタルの手続きをしていた。

「へ? 1日貸し出し?」

「そう、1日貸し出しだ」

船を1日中貸しきる客など普通はいない。受付の中年の男の反応は当然のものであった。

「まあ、できるけど………高いよ?」

「いくらだ?」

「1時間で500円だから……24時間で12000円……それで、何人乗るの?」

「4人だ」

「4人で……48000円」

断は財布からきっちり48000円抜き出し、受付の男に渡した。

「出発は?」

「2人がこっちに向かっている途中だ。着き次第出してくれ」

「はいよ」

受付の男は船の操縦もかねているらしく、すぐそこに止めてある船に向かっていった。

断はそれを見ると、受付から去った。







日が暮れかけた頃、紀伊と夢見が大量の荷物を抱えてやってきた。

「お疲れさん。早速だけど出発するから準備してくれ。『道具』は持ってきたか?」

「ああ」

紀伊は荷物の中から布に包まれた細長い棒を断に放り投げた。

断は受け取ると、紐で胴に巻きつけた。

「聞いてくれ。これから金霧島に向かう。おそらくは何らかの抵抗があるだろうが、どうせ公には知られていない島だ。好きに暴れていい」

それを聞いて、紀伊と夢見がニヤリと笑った。

「それはありがたいね」

「ああ、最近おとなしい仕事ばっかりだったからな」

2人もそれぞれの『道具』を手に待ちきれないといった顔をしている。

「薬師寺は船の中で待機だ」

「了解、死にそうになったらいつでもおいで」

「やめろ、縁起でもない」

断はため息をつくと、操縦士の男がこちらを見ているのに気付き、顔を引き締めた。

「さて、出発だ」








船に揺られること30分。

断たちは目的の場所まで船が行き着いたことを確認した。

薬師寺が適当に振っていた釣竿を座っていた場所に置き、操縦室に向かった。

数秒後、船は動きを止めた。

「よし」

断も続いて操縦室に向かった。

ドアを開けると、注射器を持った薬師寺と、ぐったりとしている操縦士の姿があった。

薬師寺は元政府の科学者で、薬などを作る技術に長けている。

時々この世のものとは思えないような色をした「新作」を作り出すことを除いては、非常に優秀な助手の1人である。

「殺してないよな?」

「もちろん。ただ24時間は何しても起きないよ」

「十分だ」

断は操縦士の体を操縦席からどかし、船の操縦を始めた。

座標をセットし、船の進路を変える。

「ここからはそう遠くない。20分ぐらいで着くはずだ」

「そうなの? 知られざる島だったらもっと遠いのかと思ってた」

「確かに……ま、行ってみれば分かるだろ」

断は船の速度を上げ、まっすぐに金霧島へと向かった。

すぐに、断はなぜ金霧島が今まで知られなかったのかを知ることになる。





島に近づくにつれ、霧が濃くなってきた。

「………あれか」

断は前方に、光に包まれる島を発見した。

「何あれ?」

「サーチライトだな。辺境の島にしてはずいぶん高価なオモチャだ。どうやらここで当たりらしいな」

断は船の速度を落とし、慎重に島に近づく。

「どうやって近づくの? あんだけサーチライトがあったら、バレないでってのは無理でしょ?」

薬師寺が他人事のように言う。

「確かに、一気に突っ込むしかないな」

断は席を立つと、甲板に座っている紀伊と夢見のもとに向かった。

2人は島をじっと見つめていた。

「紀伊、夢見」

2人はすぐに断の方を向いた。

「これから島に突っ込む。何が来てもいいように備えておけ」

それだけ言って断は操縦室に戻った。

紀伊と夢見は顔を見合わせてニヤリと笑うと、それぞれの道具を取り出した。

紀伊は2丁の拳銃、夢見は自分の身の丈よりも大きい両手剣を構えた。

薬師寺はそれを見ると、断のところに向かい、「準備OK」と言った。

「よし、突っ込むぞ!!」

おもむろに船のスピードを上げ、断はサーチライトが照らす海の中に突っ込んだ。

2秒と立たないうちに、けたたましいサイレンが鳴る。

『侵入者を排除せよ!! 侵入者を排除せよ!!』

港に武装した男が何人も出てくる。

「服装がばらばらだな……小百合を襲ったチンピラの一味かもな」

断は構わずスピードを上げ、港にまっすぐ船を走らせる。

射程距離にはいるや、男達は次々に発砲してきた。数センチ横を銃弾がかすめるが、断は顔色1つ変えずに船を操縦した。

そして、男達との距離が数メートルに近づいた瞬間。

一気にエンジンを切り、船首を逆方向にし、スクリューが男達に向くようにした。

船が壊れかねない荒技である。

だが、そんな無茶が功を奏し、スクリューがはじいた海水が男達に降りかかった。

男達の銃弾の火薬は濡れ、これで使い物にならなくなった。

「行け!!」

断は大声で叫んだ。

紀伊と夢見が港に飛び降りるのを確認した断は、操縦室からはい出て、船を下りた。

同時に、紐を外し、巻きつけていた布を取り払った。

布に包まれていたのは、黒光りする日本刀、いわゆる太刀だった。

その太刀の名は「童子切」と言った。

断は静かに童子切を鞘から抜くと、ゆっくりと歩き出した。

左手に童子切、右手にその鞘を持つ。

その面妖な姿に男達は一瞬たじろいだが、やがて大声を上げ、取り囲むようにして、断に襲い掛かってきた。

真っ先に襲ってきた男のナイフが断の首筋に迫る—

その瞬間、断の姿はその場から掻き消え、男達の包囲網の外に一瞬にして移動していた。

「一刀流—『撫で斬り』」

断が剣を鞘に収めると同時に、男達は1人残らず地面に倒れた。











断は振り返ることもなく、再び歩き出した。

Re: 処刑人斬谷断 第3話更新!! ( No.15 )
日時: 2010/12/17 22:15
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第4話 「処刑人」

矢代浩介は島の中心部にある建物の一室で、侵入者の快進撃をなすすべなく見つめていた。

300人いたはずのヤクザは、あっという間にその数を減らしていた。

「くそっ!! 何なんだあいつらは!?」

矢代は20年間、県知事の秘書という地位にいながら、裏で税金を騙し取っていた。

そして、存在自体知られていないこの金霧島に騙し取った税金を隠し持っているのだった。

この島がある限り、いつまでも安心して税金を騙し取れる—

しかし、そんな矢代の目論見はたった3人の侵入者によって潰えようとしていた。

誰にも知られるはずのない島を調べ上げ、明らかな敵意を持って踏み込んできた。

万が一にも、侵入者を生きて島から帰せば、それだけで矢代は破滅する。

そんな事態は絶対に避けなければならない。

(少し高くつくが……やむをえんな)

矢代はこの島で1番腕が立つ「殺し屋」の電話番号を押した。

相手は直ぐに出た。

「もしもし」

「俺だ。島で騒ぎが起きているのは知ってるな。ネズミどもを始末してくれ」

「人数は?」

「3人だ。1人500万出そう」

「1000万だ」

矢代は一瞬ためらったが、この男なしには切り抜けられないと直ぐに判断した。

「いいだろう、1人1000万だ」

「引き受けた。あんたはそこで高みの見物でもしてな」

殺し屋は電話を切った。

矢代は携帯電話をデスクの上に置くと、大きなため息をついた。

あとは、殺し屋がうまくやってくれることを祈るしかない。





断は建物に向かってどんどん近づいていった。

時折ヤクザが襲ってくるが、断の剣技の前では赤子も同然だった。

そして、あと建物まで300メートルほどまで迫ってきたとき。

断は、足元に違和感を覚えた。

顔を下に向けると、断がいる場所だけ地面が柔らかくなっているようだった。

「……まさか」

断はやわらかくなっている部分の土を払った。

すると、現れたのは肌が青白くなった男の死体だった。

首にペンダントをぶら下げている。

断はそっとペンダントに手を伸ばすと、蓋を開けた。

中には、二瓶小百合と仲良く並んでいる男の姿があった。

「………くそっ」

断は唇を噛みしめた。

この男こそ、依頼人の二瓶小百合が探していた男、二瓶政義に違いなかった。

断はペンダントを男の首から外し、ポケットの中に入れた。

「その男は俺が殺した」

刹那、断は背後に殺気を感じた。

振り向くと、2メートルはあろうかという大男が立っていた。

手には斧が握られており、その姿は獰猛な獣を思わせる。

「お前が殺した…?」

断は低い声で言った。

「ああそうさ、うちの依頼人は金持ちでね。そんな男1人に500万の報酬をかけてくれたんだよ」

大男は大声を上げて笑った。

断はすっと目を細め、童子切を抜いた。

「おいおい、俺とやろうってのか? やめとけ、おとなしくしていれば一瞬で終わらせてやる」

「それ以上しゃべるな。一瞬で終わるのはお前だ」

男は一瞬面食らったような顔をしていたが、すぐにその顔は怒りにゆがめられた。

「どうやら貴様は俺を知らないらしいな。俺は裏の世界じゃあちっとは知られた殺し屋だぜ!」

「それがどうした。俺は裏の世界には興味がない」

「減らず口を……後悔するなよ、小僧!!」

大男は、吠えながら突進してきた。

断はその場から一歩も動かない。

「ふははは!! 俺に恐れをなしたか!?」

大男は斧を振り下ろした。

断は童子切を突き出し、斧の軌道を変えた。

一切の無駄が省かれた動き。

勢いあまった大男はそのまま転んだ。

「どうした? 一瞬で終わるんじゃなかったのか?」

断はニヤリと笑いながら言った。

「貴様ァ…!! 俺を誰だと思っっている!! 俺は『斧振りの鬼頭』だぞォ!?」

大男、鬼頭は再び斧を振り上げた。

「驕れる者は久しからず—」

不意に、断が童子切を鞘に収めた。

「あ?」

「その脆きこと、風の前の塵のごとくなり—」

「何をごちゃごちゃと! 死ねっ!!」

鬼頭が斧を振り下ろした。

が、斧は空を切り、地面に突き刺さった。

「……!?」

鬼頭が慌てて回りを確認する。

「……あの野郎!!」

断はすでに建物に向かって歩き出していた。

「なめやがって……!!」

追いかけようと、一歩踏み出した瞬間—

鬼頭は血しぶきをあげて倒れた。

「一刀流居合—『盛者必衰』」

断は童子切を左右に払って血を払ったとき、すでに建物は目の前にあった。






なんということだ。斧振りの鬼頭までもが殺されてしまった。

矢代は悪夢を見ている気分になった。

このままでは、金どころか命までもが危うい。

急いで逃げなければ—

矢代は無線で船を用意するように言うと、急いで部屋から出ようと扉に向かった。

しかし、扉の目の前に来たとき、不意に扉が開いた。

「うわっ!?」

矢代は後ずさりし、尻餅をついた。

入ってきたのは、断だった。

「ひっ……!」

「あんたを探していた。矢代浩介」

断は冷たい目で矢代を見下ろした。

「わっ、私に何のようだ!?」

「とぼけるな。分かっているだろう」

「な、何のことだか……」

あくまでも矢代はシラを切る気らしい。

断は無言でデジタルレコーダーを取り出すと、スイッチを入れた。

『俺の名前は佐々木金蔵。暴力団、黄山会の組員です。矢代浩介は20年間に渡り宮城県の税金を横領し続けました—』

「もういい! 止めろ!!」

矢代は苦虫を噛み潰したような顔になった。

このときのため、断は二瓶小百合を襲ったヤクザに証言をさせたのであった。

矢代は黙り込んだままだ。

断は童子切を抜いた、すると矢代は目の色を変えた。

「私を殺す気か?」

矢代の目に恐怖の色が映っている。

「や、やめろ……やめてくれ!!」

「あんたは、あまりに多くの人を苦しめすぎた。往生しな」

「頼む、やめてくれ! 金ならいくらでも払う!」

「1ついいことを教えてやるよ、矢代さんよ」

断は顔を矢代の耳元に近づけた。

「人の命は金じゃ買えないんだ」

「や、やめ—」

全て言い終わる前に、断は矢代を斬り捨てた。

そしてゆっくりと、童子切を鞘に収めた。





「斬り捨て、御免」


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