ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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処刑人斬谷断 お知らせあり
日時: 2011/08/16 20:08
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: XL8ucf75)

クリックしたみなさん、ありがとうございます。

新作ですwww

どうぞ読んでいってください!!

感想、意見どんどんお願いします!!


※1話1話が最低でも2000字程度あります。「長い文章苦手」という方は回れ右をするか、十分注意して読んで下さい。

>>54 企画募集のお知らせ


登場人物紹介 >>1

オリキャラ一覧

薬師寺 命(ヤクシジ メイ)紅蓮の流星s作>>2

夢見 黒夢(ユメミ クロム)Neonさん作>>4

紀伊 蜻蛉(キイ トンボ)ZEROs作>>5




プロローグ >>10

Case 1 ≪世を斬る探偵≫   
第1話「もみ消された悪」>>1第1話

第2話「金色の霧の島」>>13

第3話「迫る悪意」>>14

第4話「処刑人」>>15

第5話「悲しみを救うもの」>>16

Case 2 ≪人の道≫

第6話「探偵の朝」>>24

第7話「不良と令嬢」>>26

第8話「潜入捜査」>>27

第9話「暗躍」>>28

第10話「激昂」>>29

第11話「人であること」>>30

Case 3《殺意の疾走》

第12話「探してください」>>32

第13話「恨みと憎しみ」>>33

第14話「アダム」>>34

第15話「生き方」>>37

第16話「憎しみの果て」>>39

第17話「守るべきもの」>>40

《Case4 科学者の信条》

第18話「二酸化炭素と新たな依頼」>>41

第19話「危険な化学式」>>42

第20話「タイムリミット」>>43

第21話「最後の犯行予告」>>44

第22話「科学者の怒り」>>45

第23話「遠い日の約束」>>46

第24話「日が当たる場所」>>47

《Case5 助手だけの依頼》

第25話「衝撃の事件」>>48

第26話「前代未聞の依頼」>>51

第27話「本当の依頼」>>57

第28話「ジョーカー登場」>>58

第29話「奇襲」>>61

第30話「逆襲」>>62

第31話「助手の底力」>>63

第32話「よくやった」>>64

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Re: 処刑人斬谷断 第17話更新!! 参照300突破 ( No.41 )
日時: 2011/01/29 22:55
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第18話 「二酸化炭素と新たな依頼」

斬谷探偵事務所地下室、そこは薬師寺命の研究室になっている。

ここでは夜な夜な怪しい実験と開発が繰り返され、所長である斬谷断ですら立ち入りを禁じられている。

「ふふふ……完成ね。強制性格変更薬『キャラチェン』、早速紀伊君で実験開始しましょう」

そしてまた1つ、例によって怪しげな薬が完成した。

薬師寺はニヤリと笑うと「紀伊く〜ん?」と妙に優しい声で言いながら階段を駆け上っていった。










「やっべー!! マジテンション上がるんですけどーみたいなー! アゲアゲでモリモリっすよー!!」

「………蜻蛉が蜻蛉じゃない」

性格を変更されてしまい、妙に明るくなった紀伊蜻蛉を見て、夢見黒夢は絶句した。

「さすがは私の自信作。見事に性格が変更されてるわね」

薬師寺は満足そうにうなずいた。

「性格変更というより……性格破壊だな、これは」

断が冷静に指摘した。

「確かにそうね。強制人格破壊薬『キャラブレイク』と名を改めましょうか」

薬師寺は『キャラチェン』と書かれたラベルの上にもう1枚ラベルを貼り付け、『キャラブレイク』と書いた。

「ちなみにこれ、どうやって戻すんだ?」

夢見が嬉しそうに「実験結果」を見る薬師寺をじと目で見ながらたずねた。

「ああ、それ考えてなかったわ」

薬師寺はあっさりと言ってのけた。

「は…………?」

夢見の表情が凍りつく。

断の顔も険しくなった。

「おい、薬師寺。紀伊は元に戻るんだよな?」

「さあ? ひょっとしたら一生このままかも」

笑顔でそう言い、再び紀伊の観察を始めた。

その後、渋る薬師寺を説得し、紀伊を元に戻すのに実に12時間を要した。










すっかり夜も更け、日付が変わろうかというところ。

1人の女が、斬谷探偵事務所の前にいた。

「薬師寺先輩………ここにいるかな……?」

女の足取りは重く、今にも倒れそうな様子で、ゆっくりドアに進んでいく。

女の服はボロボロでところどころに傷跡が見える。

ようやくドアまでたどり着き、力を振り絞り、ドアをノックする。

そのまま、ズルズルとドアの脇の壁にズルズルと寄りかかる。

「はい、どちら様ですか?」

ドアの内側から、懐かしい声が聞えた。

「薬師寺先輩…………」

体が思うように動かず、女はそのまましゃがみこんだ。

その時、ドアが開き、中から薬師寺が出てきた。

「え………!? 明菜ちゃん!?」

「やっと会えた……薬師寺先輩…」

明菜と呼ばれた女は、そのまま気を失ってしまった。












「それじゃあ、この人はお前の知り合いなんだな? 薬師寺」

「ええ。坂下明菜、大学時代の後輩よ」

薬師寺は明菜の額にタオルを置きながら答えた。

断たちは明菜を一旦事務所の中に運び込み、回復を待つことにした。

「それにしても、あちこちケガだらけだし…何があったんだろうな」

紀伊がつぶやいた。

「何があったのかはともかく、何らかのトラブルに巻き込まれたのは間違いないな」

断は明菜の顔をじっと見ながら言った。

薬師寺は大きくため息をついた。

「命、どうかした?」

夢見が薬師寺の様子を怪しく思い、顔を覗き込んだ。

「ううん、何でもない………ただ、何でこの子がトラブルに巻き込まれたんだろうって思ってさ…」

薬師寺は力なく笑った。

「そっか………」

夢見は心配そうに薬師寺を見つめた。

これほど思いつめた薬師寺の表情を、3人は見たことがなかった。

示し合わせたわけでもなく、薬師寺を残し、部屋から出て行こうとした。

と、その時。

「う………ん…」

明菜が目を覚ました。

「明菜ちゃん!? 明菜ちゃん!?」

薬師寺が明菜の手を握る。

「あ………薬師寺先輩」

明菜は薬師寺を見ると、ニッコリと笑った。

「どうしたの、何があったの!?」

薬師寺は普段は見せない心配そうな表情で明菜に迫る。

「大学の研究室で、実験してたんです……そしたら、いきなり変な人たちに襲われて…」

「変な人たちって?」

「わかんなかったです……でも、1人だけとても怖い人がいました」

「だ、誰なの?」

薬師寺は身を乗り出した。

「名前は言いませんでした……その人は、派手なマスクを着けてて、とにかく……怖かったです」

明菜はそのときのことを思い出したのか、顔が真っ青になっている。

「派手なマスク……?」

夢見が断を見て、断もうなずいた。

「アダムだな………」

「アダムって?」

アダムのことを知らない紀伊は首をかしげた。

「俺のことを殺しかけた男だ」

断は苦々しい表情でつぶやいた。

「で、でも明菜ちゃん。何で襲われたの……? 心当たりとかない?」

薬師寺がなおも質問を重ねた。

「1つだけ………私達の実験のことです」

「実験って………何をしてたの?」

「ネオCO2爆弾の研究です」

その名前を聞いたとたん、薬師寺の表情が変わった。

「ネオCO2爆弾………政府はまだそんなもの…」

「な、何なのその……えっと」

夢見が遠慮がちに話しに加わった。

「ネオCO2爆弾。特殊加工された二酸化炭素であらゆる生物を窒息死させる兵器よ」

「え? ………なんでそんなものを…」

「昔バカな政治家が北朝鮮やら中国の侵攻に備えるための自衛兵器だとかいう理由で作ったのよ。結局盗まれてテログループに渡ったけどね」

「しかし………二酸化炭素でそう簡単に人を殺せるのか?」

断が眉をひそめた。

「特殊加工するって言ったでしょ。空気の壁を作って対称を囲む二酸化炭素、そして周りの酸素や窒素に反応して爆発的に増殖する二酸化炭素があるの」

「つまり、せまい空間の中に閉じ込め、爆発的に増えた二酸化炭素で中毒を引き起こすわけか」

「そんな兵器があったなんて………」

「……本来なら封印されるべきものだった! でも、殺すって脅されて……怖くなって、作ってしまったんです」

明菜が震える声で言った。

「いいのよ………仕方なかった、気にしなくていいのよ」

薬師寺が明菜を抱きしめた。

「お願いします………兵器は多分持ち去られました! 誰かに使われる前に止めてください……!!」

明菜は泣きながら言った。

「分かった………俺達が止める」

断とその助手達の目に強い光が宿った。

Re: 処刑人斬谷断 第18話更新!! 参照300突破 ( No.42 )
日時: 2011/02/02 20:24
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第19話 「危険な化学式」

警視庁—

一通の脅迫状が届いた。

文書の類はなく、また差出人の名前もなかった。

だが、そこには一枚、ネオCO2爆弾の写真があった。

この危険な爆弾の流出先は以前より密かに捜査されていた。

警視庁は事態を重く捉え、極秘に緊急テロ対策チームを組織した。





「写真の背景にあった鏡に東京タワーが映っていたことから、爆弾は東京のどこかに存在するものと思われます。主要な政府施設、皇居などの警備を強化するとともに、爆弾の捜査に当たってください。では、解散」

操作本部長が言うと、刑事達はクモの子を散らすように部屋から出て行った。

警視庁警部、風間健介も資料をまとめ、部屋から出て行こうとした。

「ああ、風間くん」

「本部長?」

急に呼び止められ、風間は怪訝な顔をした。

「君だけに言っておきたい情報がある。実は最近、政府からある男に注意するように連絡が来ているんだ」

「ある男?」

風間は持っていた資料を机の上に置き、本部長と向き合った。

「こいつだ」

本部長は風間に資料を手渡した。

風間はすぐに確認した。

「斬谷……断」

「身元を調べたが、ただの探偵だった。正直政府が何でこの男をマークするように言ったのかは分からないんでな」

「でも最高機密の情報なんですよね? 何故私に?」

「私が信用できるのは君だけだ。ひょっとしたらこの男が何らかの形でテロに関わっているのかもしれない。単独で彼と接触してもらいたい」

風間はしばらく資料に目をやり、やがて顔を上げた。

「分かりました。行きます」

「助かるよ。爆弾の捜査に協力させて、動向をうかがってくれ。必要ならどんな情報でも与えるんだ」

「了解です。では失礼します」

風間は新たな資料とともに部屋から去っていった。

本部長は風間が廊下の奥に消えていくのを確認すると、携帯電話を取り出し、番号をプッシュした。

『どうしましたか?』

「アダム。風間健介を斬谷断のもとに向かわせました」

『そうですか。ふふふ………今から楽しみですよ』

アダムは乾いた笑い声を上げた。

「それにしても、何故風間を斬谷のところに向かわせたんです? 斬谷を消したいんなら私が—」

『本部長。私は斬谷断を消したいわけではありません。ただ彼と、ゲームがしたいだけですよ』

「ゲーム?」

『そう、ゲームですよ。彼が爆弾を見つければ彼の勝ち。爆弾が作動すれば私の勝ち。それだけです』

本部長は心底アダムを恐ろしく思った。が、逆らえる相手ではないことも十分に承知していた。

『それに、気になりませんか?』

「と、いいますと?」

『国家が定めた法で罪人を裁くのも正義、自らの法で罪人を裁くのも正義、相反する2つの正義がぶつかれば、一体どうなるのか? くくくく………ははははははははは!!』

悪魔の忍び笑いは、やがて哄笑へと変わる。

そしてアダムが仕掛けた、負の化学式が作動する。















「止めるっていっても、爆弾がどこか分からないんじゃなー」

夢見が頭をかいた。

「確かに手がかりナシってのはきついな。何か情報があれば…」

紀伊も腕組みをして難しそうな顔をしている。

「薬師寺。何か特定できる情報は無いか?」

断が薬師寺にたずねた。

「爆弾は大型で、バラすと元に戻すのに時間がかかりすぎるから、どこか広い場所に隠されていると思う。けど首都圏なら広くて見つからない場所なんていくらでもある。はっきり言って先手を打つのは無理ね」

「警察は……どうだ?」

紀伊が提案した。

「信じるかどうか怪しいな。仮に信じても動き出すまでの時間がかかる。その前に起爆されたらアウトだ」

断がすかさず反論した。

「じゃあ、どうすれば……」

部屋に、重い雰囲気が流れる。

その時、玄関からノックの音が聞えた。

「新しい依頼人か?」

紀伊があからさまに、こんなタイミングで、といった顔をした。

「俺が断ってくる」

断が立ち上がり、玄関に向かった。

ドアを開けると、スーツ姿の若い男がいた。

「すみません、今別の依頼で……」

「斬谷さん、緊急の要件です。私はこういうものですが」

男は警察手帳を見せた。

手帳には風間健介と書かれていた。

「警部さんが……うちに何か?」

「実は、テロリストと思われる人物から爆弾テロの犯行予告が来まして。あなたに極秘で捜査協力を頼みたいんです」

「テロ捜査に私が?」

断は眉をひそめた。

「あなたは非常に腕のいい探偵だと聞きましてね。警視庁も、まさに猫の手も借りたい状態ですから、あなたのような優秀な探偵が必要なんですよ」

風間はそう言って笑った。

「……そうですか。ではお入り下さい」

断は風間を中に入れた。








絶対何かある。断は心の中でそう確信した。

Re: 処刑人斬谷断 第19話更新!! 参照300突破 ( No.43 )
日時: 2011/02/06 11:10
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第20話 「タイムリミット」

「それじゃ……爆弾は東京のどこかにあると?」

「ええ。現在主要な政府施設などに厳戒警備体制をしいています」

突然斬谷探偵事務所にやってきた警視庁警部、風間健介は捜査資料を見せながら言った。

「皇居、国会議事堂、各省庁……造幣所…狙われそうなとこならいくらでもありそうですね」

断は東京の地図を見ながら言った。

薬師寺、夢見、紀伊の3人は少し離れたところから2人のやり取りを見ている。

「確かに、時間も場所も分からないので捜査は難航しています。ただ、犯人は例の写真を送った次の日に、こんなものを送ってきたんです」

風間は内ポケットから一枚の紙を取り出した。

「これは……?」

「これが今回、あなたに協力を要請した理由です」

『やあ、親愛なる探偵、斬谷断。

前回は見事な腕前を見せてもらったよ。

今度は爆弾テロを仕掛けさせてもらった。さて、これを君は止められるかな?

ヒントをあげよう。

天使は堕ちた。

さあ、よく考えてこの私を止めて見せてくれ。

A』

断は手紙に目を通すと、小さくため息をついた。

「やっぱりあの男か…」

「Aと言う男について、何か心当たりはあるんですか?」

風間が身を乗り出した。

「ええ」

「何者ですか?」

「奴の名はアダム。全てが謎に包まれている男です」

「アダム………?」

風間は怪訝そうな顔をした。

「奴については俺もまだよく分かってないんです。それより今は、奴のヒントを解読しないと」

「天使は堕ちた………ですか」

「そうです………これは何を意味しているのか…」

断は再び東京の地図を見た。

「天使が堕ちた場所が、起爆する場所なんでしょうか?」

「今のところはなんとも………風間さん、送られてきた爆弾の写真はありますか?」

「これです」

断は写真を受け取った。

爆弾は大きな球の形をしており、見ただけで不気味な印象を与える。

断は穴が開くほど写真を見つめた。

「爆弾に何か?」

断は無視して観察を続けた。

そして不意に、顔を上げた。

「a fallen angel…」

断は小さくつぶやいた。

「え?」

「ここを見てください……ほら、この爆弾の上の部分」

風間は断が指差したところを見た。そこには、小さな文字で「a fallen angel」と書かれてあった。

「これは………」

「a fallen angel…つまり、堕天使。アダムはこの爆弾こそが滅びをもたらす堕天使と言いたいんでしょう」

「なるほど………」

「問題は場所ですが…………」

「東京の主要施設で、天使もしくは堕天使に関わるキーワードが存在するものを調べます」

風間はそう言って電話をかけ始めた。

断は横目でその様子を見ると、すぐに東京の地図に視線を戻した。

(堕天使は神に逆らい、天から地に落とされた…どこか、上から下に落ちるような建物は無いか…?)

「ねえ、斬谷君……」

遠慮がちに薬師寺が話しかけてきた。

「どうした?」

「あの人風間さんだっけ……何者なの?」

「警視庁警部で、俺に捜査を協力を求めてやってきた………とは言ってるが、嘘だ。目的はもっと別なところにあるはずだ」

「目的…?」

「例えば、あの手紙が来たことで俺が事件と関わってるんじゃないかと疑うことが出来る。俺に近づけば爆弾の場所が分かるかもしれないから、捜査協力の要請を装って近づいてきたとか……な」

「そんなことが……」

「ありえる。相手はアダムだ」

断は地図から目を離した。

「いよいよ奴との真剣勝負が始まるんだ」









「今のところは動きはありません。捜査協力に応じているようです」

『そうか。引き続き頼んだぞ』

「はい………しかし、本部長。私は斬谷はシロだと思いますが」

『そうか……実を言うとな、俺も斬谷は犯人じゃないと思うんだよな……でも、確実な証拠が出ないと…分かるよな?』

「ええ。それでは失礼します」

『頼んだぞ』

携帯をしまい、風間はふうっと息をついた。

(斬谷断……彼は一体…)

風間は疑問を抱きながら、再び探偵事務所に入っていった。








風間が戻ると、断はホワイトボードに何やら書き込んでいた。

「斬谷さん……?」

「堕天使が意味する事…………それは……」

断は風間がいるのに気付かないぐらい猛烈な勢いでホワイトボードにペンを走らせていた。

風間はあえて邪魔せず、書かれた文字を見つめた。

それらの意味を少しでも理解しようとホワイトボードに近づいた瞬間、断の手が止まった。

「そうか………」

「斬谷さん、何か分かりましたか?」

「堕天使は神に逆らう存在、神に逆らうとはすなわち、神を冒涜すること……つまり、信じないこと………」

「それが、どうかしましたか?」

「つまり、神を信じない場所に爆弾は仕掛けられる……」

「神を信じない場所?」

「仏教は神を信じるという考えはありません。仏教で言う神とは、人間と同等の存在……要するに、仏教に関わる場所…寺や神社に爆弾を仕掛けられます」

「す、すぐに確認します!」

風間は電話を取り出し、すぐさま本部に連絡を取った。

「もしもし、私です! 急いで東京中の寺と神社で、政府関係者の予定がある場所を調べてください!!」

数分が過ぎ、風間の我慢も限界に近づいた頃、結果が返ってきた。

「靖国神社………総理大臣の訪問が……日時は? ……今日!?」

風間の顔に戦慄が走る。

断の顔にも険しい表情が浮かんだ。

風間は硬い表情で電話を切った。

断は風間を見据えていった。






「行きましょう、靖国神社に」




Re: 処刑人斬谷断 第20話更新!! 参照400突破 ( No.44 )
日時: 2011/02/11 22:13
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第21話 「最後の犯行予告」

断たちを乗せたパトカーが道をひた走る。

「くそっ………間に合ってくれ…!!」

風間が必死の形相でアクセルを踏み込む。

パトカーには「道具」を持った断と薬師寺、そして風間が乗っている。

「神社に着いたら人気のないところに直ぐ向かおう。薬師寺、爆弾をとめられるか?」

「私が開発に携わっていた頃と起爆方法が変わっていなければ、何とかなる」

その言葉に風間が反応する。

「あなたも開発に関わっていたんですか?」

「ええ、昔ですけど…………」

「………そうですか。事件が解決したらお話を伺っても?」

「どうぞ」

薬師寺は素っ気無く返した。

(薬師寺……)

断は心配そうに薬師寺を見た。

昔の薬師寺に何があったのかは断は知らない。

しかし、何かの研究でトラブルがあったと言うことは容易に想像できた。

「………着きました!」

断が一瞬考え込んでいると、風間が駐車場のスペースに素早く車を入れた。

断たちは飛び降り、すぐさま神社に走る。


総理大臣が今まさに訪問中というだけあって、人ごみでごった返している。

思うように進むことが出来ない。

「くそっ……通してください、警察です!」

風間が警察手帳をかざすも、ほとんど誰の目にも映っていない。

断は何とか人ごみを潜り抜けようとする中で、横にいたスーツ姿にサングラスをかけた男に目が移った。

(あいつは………)

しかし、そのサングラスの男も人ごみの中に消えてしまった。

見かねた断は風間のポケットから拳銃を取り出すと、上に向かって2回引き金を引いた。

突然の轟音にその場が静まり返る。

「警察です! 緊急事態ですから通してください!」

断が大声を上げて叫んだ。

人々は次々に道を開けた。

「行きましょう」

断は風間に拳銃を返すと、開いた道を走り始めた。















「何を考えているんですか! 斬谷さん!」

風間が呆れたような声を出す。

「緊急事態です、多少強引な手もやむをえないでしょう」

断は平然と返した。

「日本の警察官は一発撃つごとに始末書書かなきゃならないんですよ!? それに群衆を静めるなら別に拳銃使う必要ないでしょう? あれじゃ私達がテロリストになってしまいます!!」

「いいんですよ、それで。さっきの銃声を総理の周囲にいたSPが聞いていたはずです。彼らは即座に総理をこの場から退避させるでしょう」

風間の顔に衝撃が走る。

「では、まさか………最初からこれが目的で……?」

「目の前の出来事だけに惑わされては、本当に大事なことが見えなくなりますからね」

断はそれ以上は何も言わなかった。

(信じられない……この人はただの探偵なのか!?)

風間は内心断の判断力に舌を巻いていた。

「とにかく急ぎましょう。薬師寺、爆弾の大きさは?」

「直径5メートルぐらい。結構大きいから、周りが開けている場所には置けない」

薬師寺がそう言った瞬間、断は足を止めた。

「………斬谷さん?」

風間と薬師寺が戸惑った表情で断を見つめた。

「…………やられた」

断は悔しそうに拳を握り締めた。

「……どういうことですか?」

風間が眉をひそめた。

と、その時、風間の携帯電話が鳴った。

「はい、もしもし………えっ!? 総理が?」

みるみるうちに風間の顔色が青ざめていく。

「はい、はい………それで、犯人の要求は…? ……クソッ! 了解しました、すぐに向かいます」

風間は震える手で通話終了ボタンを押した。

「何があったんですか、風間さん」

断が押し殺した声で聞いた。

「…総理が誘拐されたそうです。おそらくは犯人グループに」

薬師寺の表情も曇る。

「爆弾騒ぎは最初からハッタリ……まんまと動きを読まれた……! 総理と爆弾、2つの切り札を手にしたってわけだ……それで、要求は?」

「要求は1つ。緊急事態と称して現在環境サミットで日本に滞在している外国の代表団を全て浅草プライムホテルに集合させることです」

「代表団を爆弾で皆殺しにする気……!?」

薬師寺が吐き捨てるように言った。

「俺達にヒントを与えて、まんまと神社に誘い出し、しかも総理を無理矢理退避させることまで予想済みだった……アダムに完全にやられた」

断が悔恨の表情をあらわにする。

「ただ、爆弾を仕掛けるだけじゃ警察にバレる。だから総理という脅迫材料が必要だった……そういうことですね」

風間がうなだれる。

状況は絶望的といっても良かった。

代表団が殺されても、総理が殺されても、日本は大きな打撃を受ける。

「ここまでか………!」

風間が天を仰ぐ。

だが。

「いや、まだだ」

断が強い口調で言った。

「……斬谷さん?」

「総理を助けられれば、爆弾はとめられる」

「でも…………誘拐されたんじゃ場所も」

断はポケットから小型のモニターのようなものを取り出した。

「これで分かります」

モニターには赤い点が明滅している。

「これは………?」

「さっき人ごみの中に犯人グループの1人を確認しました。そいつに発信機を仕込んだんです」

「犯人グループ……!?」

風間は信じられないといった顔をしている。

「スーツ姿にサングラス姿の男、見ました?」

「あ………そういえばいた気も…」

「そいつのポケットからわずかにクロロホルムと手錠が見えました。いざというときに自分で総理を誘拐できるように持っていたんでしょう」

「じゃあ、あなたは総理が誘拐されることまで想定して…!?」

「まさか男が予備の計画だったとは思いませんでしたが…仕掛けておいて正解だったようですね」

風間は驚きの表情で断を見つめる。

(ただ者じゃない……!)

「二手に分かれましょう。俺は総理を助けに行きます、風間さんと薬師寺は浅草のホテルに爆弾を止めに行ってください」

「OK」

薬師寺は早速走り出した。

だが、風間は断を見つめたまま動かない。

「……風間さん?」

断がいぶかしんで声をかけた。

「……あ、いえ。すいません、僕も向かいます。1人で大丈夫なんですか?」

「ええ、大人数だとかえって危ないですし」

「そう、ですか…」

通常、誘拐された総理大臣をたった1人、それも民間人が助けに行くなど言語道断だ。

しかし、風間は断に賭けることにした。

「分かりました、爆弾は必ずとめます。総理をお願いします」

一礼して、薬師寺の後を追った。

断はその様子を見ると、自分も息を吸い込み、走り出した。

Re: 処刑人斬谷断 第21話更新!! 参照400突破 ( No.45 )
日時: 2011/03/05 12:04
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第22話 「科学者の怒り」

「………ここね」

薬師寺命と風間健介は、爆弾を仕掛けたと言われた浅草プライムホテルの前に立っていた。

「監視の数はそれ程多くは無いはずです。行きましょう」

風間は拳銃を構え、ホテルの中に足を踏み入れた。

フロントにいた従業員が風間を見て目の色を変えたが、風間が警察手帳をかざすとすぐにおとなしくなった。

「爆弾はどこにあると思いますか?」

「おそらくは換気ダクトのそばに。特殊加工した二酸化炭素をホテル全体にばら撒くならそれが一番」

「なるほど」

風間はフロントに近づいた。

「換気ダクトはどこにありますか?」

「え、えっと………そこの扉から階段を一番下まで下がった所にあります」

「そうですか。ありがとうございます」

「あの! 今は業者さんが来てますよ!!」

従業員が大声で言ったが、風間と薬師寺は無視して扉の先に進んだ。

「足音を立てないように……ゆっくりと進んで」

銃を油断なく構えながら、風間と薬師寺はゆっくり地下室に下りていく。

地下に近づくにつれ、なにやら声が聞えてきた。

「業者が作業中のようね」

薬師寺が真顔で冗談を言った。

ほどなくして、2人は扉までたどり着いた。

風間は音を立てないように、そっと扉を開けた。

中には黒服を着た男が数人、直径5メートルほどの球体に向かい、作業をしている。

2人は音を立てずに忍び込んだ。

風間が薬師寺に目で尋ねる。

薬師寺は無言でうなずいた。

2人の目の前にある球体は間違いなく、ネオCO2爆弾だった。













一方、追跡装置によって総理大臣の監禁場所をつかんだ断は、救出の隙をうかがっていた。

確認できただけで、30人はいる。

監禁場所は東京湾のとある倉庫だった。

倉庫の中には、もっと多くの人数がいるだろう。

(さて、どうでるか………)

ただ人数が多いだけなら、断にとっては何の障害にもならない。

しかし、今回は総理大臣という人質がいる。

暴れまわって彼らを全滅させたところで、総理大臣に万が一のことがあれば意味がない。

断は何か使えるものは無いかと倉庫の辺りを見渡した。

すると、断の目に一艘のモーターボートが目に留まった。

「…………!!」

名案が浮かび、断はニヤリと笑った。

作戦の手始めに、彼は携帯でタクシー会社に電話した。










「動くな!!」

風間は銃を構えて作業をしている男達に向かって怒鳴った。

男達は一瞬驚愕の色を浮かべたが、風間の拳銃が目に入るや、慌てて扉の外に逃げていった。

「薬師寺さん。解除できますか?」

「やってみる」

薬師寺は慣れた手つきで起爆装置の外板を外す。

配線をしばらく見つめた後、小さくした打ちした。

「どうかしましたか?」

「私が開発したときと配線が微妙に変わってる。ある程度までは完全に解除できるけど、そこから先は自信がない」

「解除は無理ですか?」

「分からない。やってみないと」

「そうですか。では大使たちに避難命令を……」

「時間がない。これを見て」

風間は薬師寺が指差したものを見た。

「………これは」

起爆装置の隣には、タイマーが設置されていた。

残り時間は10分。

「10分で各国の大使たちを全員非難させるのは無理。多分あなたが銃を向けた瞬間にあいつらが時間を早めたんだと思う。何にしろ、これを解除するしか道は無い」

薬師寺はそう言いながら男達が机の上に残していった工具やカッターなどを取り出し、解除にかかった。

流れるような手つきで線を切り、ねじを外していく。

静寂の中に、薬師寺が作業する音だけが響いた。

そして残り時間7分になったとき。

「ここが最大のヤマね」

薬師寺はカッターを置いてつぶやいた。

ほとんどの線が切られていたが、2本残っていた。

「赤と、青の線……」

「テレビドラマじゃあるまいし、ベタすぎるわよ」

薬師寺が投げやりな口調で言った。

「どっちかが当たり、どっちかがはずれってことですよね……」

「そう。こればっかりは設定した人間にしか分からない。勘で行くしかないってこと」

風間がゴクリとつばを飲み込んだ。

単純な死の恐怖と、これによって日本が受ける尋常ではない被害。

その場に緊張感が張り詰める。

だが、その時。

「そこまでだ」

突然銃を持った男達が現れた。

20人ほどいる。

「そいつは大事な切り札なんでね。離れてもらおうか」

2人は両手を上げておとなしくその場から離れた。

集団のリーダーと思われる男が爆弾に近づく。

「ほう。ここまで解除していたか。危ないところだった、さすがだな、薬師寺命」

「私を知ってるの………?」

薬師寺が眉をひそめた。

「お前だけじゃない。夢見黒夢も、紀伊蜻蛉も、斬谷断も知っている」

リーダーの男が不敵に笑った。

「もちろん、お前が普通の人間だということも知っている。残念だったな、斬谷断なら、俺達なんてあっという間に斬り捨てられるのに」

薬師寺はしばらく黙っていたが、不意に笑った。

「何がおかしい?」

「私が、普通の、人間?」

ゆっくりと、はっきりと薬師寺が「嘘」を指摘する。

「残念、それは大きな間違いよ」

言うや否や、懐から試験管を取り出し、リーダーの男に投げつけた。

「うわっ!! 何だこれは!?」

男はモロにかかった液体の匂いをかいだ。

次の瞬間、男は糸の切れた操り人形のように倒れた。

後ろにいたほかの男達の目の色が変わる。

「貴様、何を—」

言い終わる前に、薬師寺は2本の試験管を投げていた。

空中でぶつかりあい、割れた試験管の中身が化合される—

「うわっ!!」

突然出てきた妙な気体で男達はせきこんだ。

薬師寺はさらに試験管を放り投げる。

「目、目がっ!」

今度は目が開けられないような激痛に襲われる。

「ゆ、許さんぞ! 撃て!!」

誰かがそういった瞬間、薬師寺は風間体を引き倒し、自分も床に伏せた。

そして誰かが引き金を引いたと同時に。




爆発が起きた。




男達は残らず吹っ飛び、全滅した。

薬師寺がゆっくりと立ち上がった。

「ガスの中で銃を発射したら、爆発するに決まってるじゃない」

冷たく言い残し、メガネをくいっと上げた。


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