ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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処刑人斬谷断 お知らせあり
日時: 2011/08/16 20:08
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: XL8ucf75)

クリックしたみなさん、ありがとうございます。

新作ですwww

どうぞ読んでいってください!!

感想、意見どんどんお願いします!!


※1話1話が最低でも2000字程度あります。「長い文章苦手」という方は回れ右をするか、十分注意して読んで下さい。

>>54 企画募集のお知らせ


登場人物紹介 >>1

オリキャラ一覧

薬師寺 命(ヤクシジ メイ)紅蓮の流星s作>>2

夢見 黒夢(ユメミ クロム)Neonさん作>>4

紀伊 蜻蛉(キイ トンボ)ZEROs作>>5




プロローグ >>10

Case 1 ≪世を斬る探偵≫   
第1話「もみ消された悪」>>1第1話

第2話「金色の霧の島」>>13

第3話「迫る悪意」>>14

第4話「処刑人」>>15

第5話「悲しみを救うもの」>>16

Case 2 ≪人の道≫

第6話「探偵の朝」>>24

第7話「不良と令嬢」>>26

第8話「潜入捜査」>>27

第9話「暗躍」>>28

第10話「激昂」>>29

第11話「人であること」>>30

Case 3《殺意の疾走》

第12話「探してください」>>32

第13話「恨みと憎しみ」>>33

第14話「アダム」>>34

第15話「生き方」>>37

第16話「憎しみの果て」>>39

第17話「守るべきもの」>>40

《Case4 科学者の信条》

第18話「二酸化炭素と新たな依頼」>>41

第19話「危険な化学式」>>42

第20話「タイムリミット」>>43

第21話「最後の犯行予告」>>44

第22話「科学者の怒り」>>45

第23話「遠い日の約束」>>46

第24話「日が当たる場所」>>47

《Case5 助手だけの依頼》

第25話「衝撃の事件」>>48

第26話「前代未聞の依頼」>>51

第27話「本当の依頼」>>57

第28話「ジョーカー登場」>>58

第29話「奇襲」>>61

第30話「逆襲」>>62

第31話「助手の底力」>>63

第32話「よくやった」>>64

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Re: 処刑人斬谷断 第6話更新!! ( No.26 )
日時: 2010/12/22 20:08
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第7話 「不良と令嬢」

断はとりあえず依頼人である楠田を家に帰し、助手3人を集めた。

断は今回の依頼内容と、その危険性について話した。

案の定、3人は難色を示した。

「あの西園寺がからんでくるとなると……この間みたいに派手にってわけにもいかないわね……」

薬師寺は何かの薬品を調合しながら他人事のように言った。

「その通りだ。今回の依頼は慎重を期することが重要だ。だから紀伊と俺でやる」

その言葉に、夢見がくいついた。

「ちょっと! それって私が短気ってこと!?」

「実際そうだろ……」

紀伊がボソリと言った。

「聞えたわよ蜻蛉!! 断、こんな嘘つき野郎より、私の方が絶っっっっっ対役に立つわ!!」

「落ち着け、夢見」

断は少し声を張り上げた。

「別にお前が短気だからじゃない。紀伊は俺達の中でも隠密行動に長けている。お前は何かと目立つから、今回は別の仕事を頼むよ」

「………断がそう言うなら」

夢見も紀伊の実力は認めているため、あっさりと引き下がった。

紀伊は準備してくると言って部屋から出て行った。

夢見はムスっとした様子で紀伊の姿を見えなくなるまで見つめた。

「それで? 私は何をするの?」

「お前と薬師寺には、手がかりを追ってもらう。これを見てくれ」

断は上着のポケットから封筒を取り出した。

「これは……?」

「政府の機密文書だ。『ジョーカー』がハッキングして手に入れた。内容はある極秘作戦の報告書だ」

「ある極秘作戦って……?」

薬師寺が手を止めて顔を上げた。

「3年前、東京の某所で行われたテロ組織襲撃作戦だ。報告者の男について調べてくれ」

「3年前のテロ組織襲撃作戦って……まさか…」

薬師寺と夢見が断を見た。







「ああ。俺が殺されかけた時の作戦だ」






楠田悠斗は、幼いころからその天才的な頭脳で大人たちの注目を浴びてきた。

幼稚園にしてすでにそのIQは150を越えるというまさに「神童」だった。

時が経つ程に、彼をおだて、賞賛する人間は増えていった。

加えて彼は、スポーツも勉強にこそ及ばないものの、非凡な才を発揮した。

それは名門命城学園初等部に入学しても変わらなかった。

並み居る天才を押しのけ、彼は常に人々の頂点に君臨し続けた。同級生や教師はもちろん、全国の有名大学教授をしても彼は怪物だった。

次々と常識破りな才を発揮し続け、中等部においても彼の右に立てるものはいなかった。

しかし、人生で初めての試練が彼を襲った。

彼の父親が、脱税と横領の罪で逮捕されたのである。

厳密な捜査の結果、いずれの罪も濡れ衣ということが判明し、彼の社会的な地位はなんらおびやかされることはなかった。

しかし、一回張られた犯罪者の息子というレッテルは、はがれることはなかった。

もともと何をやっても成功続きだった彼をねたむ人間は多かった。

彼に及ばなかったというだけで、親からプレッシャーをかけられてきたほかの生徒は、ここぞとばかりに楠田を攻撃した。

最初はほんの数人だった。しかし、時がたつにつれ、その数はどんどん増えていき、ついには誰も彼に話しかけなくなった。

それまでさんざん楠田をちやほやしてきた教師までもが、彼を無視するようになったのである。

楠田は耐え切れず、心を閉ざし、全てを遠ざけることによって、全てを失った。

これまで挫折がなかった彼にとって、ショックはなおさら大きかった。

それに呼応するように、楠田の成績はズルズルと降下し、半年後には学年でも最下位から数えたほうが早い位置までになってしまった。

親との会話も少なくなり、彼は髪を真っ赤に染め、ワックスで固め、アウトローを装った。

気に入らないと感じれば、人であろうとものであろうと暴力を振るい続けた。

だが、彼が人を遠ざけようとすればするだけ、際限なく虚無感に蝕まれていった。

そしてある日、自殺しようと人があまり通らない校舎裏の大きなスギの木に向かった。

脚立と、首を吊るためのロープを持って。

だが、スギの木には、人がいた。

「な………!!」

なんでここに。思わず楠田はつぶやいた。

スギの木の下で、本を読んでいた生徒—西園寺真冬は、顔を上げると、ニコリと笑った。

「…あなたも本読みに来たの?」

「え? い、いや…」

楠田は慌てて脚立とロープを後ろに置いた。

「ここ、私のお気に入りなの。えっと…楠田君だよね……あなたも、ここがお気に入りなのかな?」

「あー……うん、そうだ」

楠田はとりあえず話をあわせることにした。

「そっか。……少し話をしない? 1度君とは話がしたかったんだ」

楠田は怪訝な顔になった。

「俺と……話を?」

「うん」

楠田は眉をひそめた。

楠田の悪名は学園内に広まっている。

当然、楠田の名前を知っている真冬の耳にも入っているはずだ。

なのに何故、真冬は自分と話したがるのか?

楠田は一種の不信感を覚えた。

「あのさ……西園寺さん?」

「うん、何?」

「自分で言うのもなんだけどさ…俺みたいなのとさ、何で話したがるんだ?」

真冬は少し考えた後、答えた。

「うーん……楠田君って、どういう人なのかなーって思って。みんなは楠田君は犯罪者の息子だって言ってるけど、実際あなたのお父さんは何もしてないし、そもそもそれだけで陰口たたかれる意味も分からないし」

「あ………そうか」

そっけなく答えたが、実のところ、この言葉は楠田が1番言って欲しかった言葉だった。

誰も、本当の自分を見ようとはしない。だが、真冬だけは自分を見ようとしている。

「ね、楠田君。話してもいいでしょ?」

「ああ……いいよ」

この時から、楠田悠斗は西園寺真冬に恋をしたのだった。






断と紀伊は、楠田と真冬の詳しい情報を手に入れるために、命城学園を訪れていた。

「で…………どういうことなんだ。紀伊」

断と紀伊は、2人とも命城学園の制服を着ていた。

「悪いな。年齢を偽ってもぐりこむしかなかった。それ以外だと審査が厳しすぎて」

「そうか………まあいい、やるしかないか」







断は大きくため息をつくと、校舎の敷地に足を踏み入れた。

Re: 処刑人斬谷断 第7話更新!! ( No.27 )
日時: 2010/12/25 21:06
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第8話 「潜入捜査」

「というわけで、今日からこの2人は転入生としてこの学園に編入しました、斬谷君と紀伊君です。2人とも自己紹介して」

名前を呼ばれた2人は、一歩前に出た。

「斬谷断です。よろしくおねがいします」

「紀伊蜻蛉です。よろしく」

断と紀伊は編入してきた生徒を装い、命城学園に潜入する事に成功した。

依頼人の楠田の学校に潜入する事で、何か情報をつかめるかもしれないと踏んだからだ。

幸いなことに、断も紀伊も年齢よりもだいぶ若く見えるため、潜入は何とか成功した。

しかし、本番はここからである。

いかに早く情報を引き出せるかは、どれだけ早くクラスの和に溶け込めるかにかかっている。

早く受け入れられるには、陽気に振舞うのが手っ取り早い。

「じゃあ、2人とも席について。後ろの空いてる席にね」

担任の小川という女性教師が座るよう言うと、断と紀伊はお互いをかすかに確認して、絶妙のタイミングで足を踏み出した。

結果—

「おわっ!!」

「のわっ!!」

盛大に転んだ。

校則や雰囲気が堅苦しいこの学園とはいっても、通っているのは人間である。

狙い通り、何人かが忍び笑いをした。

(もう少しだ。次いくぞ)

(ああ、分かった)

2人は同じタイミングで立ち上がり、これまた同じタイミングで「お前何すんねん!!」

とお互いの頭を叩いた。

『あははははは!!』

これには笑いをこらえきれず、クラス全体が笑いの渦に包まれた。

(作戦成功だな…)

(こんなの、何が面白いのか知らないけどな)

紀伊は気付かれないよう冷ややかな目で大笑いしている生徒達を見下ろした。

(ま、確かに笑えないやつもいるようだけどな)

(え?)

断は無言である方向を指差した。

紀伊はその方向にあったものを見て、「あー」と言った。

断が指差した先には、未だに狐につままれたような顔をしている楠田悠斗の姿があった。




とある部屋の一室に、西園寺真冬は監禁されていた。

どんなに大声を上げても、壁を蹴っても、時折面倒くさそうに「静かにしろ!!」と言う男の怒鳴り声が聞えるだけだった。

真冬は冷たい地面にしゃがみこみ、頭を抱えた。

彼女が突然見知らぬ男に誘拐されたのは、1週間前のことだった。

家に帰る途中、後ろから殴られたのだった。

それから、誘拐犯のアジトにつれてこられた。

ただし、部屋にはベッドやテレビがあり、さらには風呂場まで用意されていた。

当然、食事もそれなりのものを出してきた。

要は、生活していくのに何の障害もなかった。

しかし、このような状況でくつろぐことは、真冬にはとても出来なかった。

それでも、テレビのニュース番組で自分のことが報道されていないかはチェックした。

ところが、そのようなニュースは今のところ報道されていなかった。

(早く帰りたいよ……お父さん、お母さん、楠田君…)

真冬の頬に、涙が一筋伝った。





「おい、どうなってんだよ!!」

楠田は断にかみつかんばかりの勢いで迫ってきた。

「どうって、潜入捜査だ」

「聞いてないぞ!!」

「君に報告する必要があったのか?」

「当たり前だろ、依頼人だぞ!?」

「金も払わないでか?」

「ぐっ……」

楠田はバツが悪そうに頭をかいた。

「安心しろ。依頼料は特別見逃してやる。ただし、俺のやりかたに合わせるんだ、分かったな?」

断は楠田の目を見て、諭すように言った。

「………分かったよ」

楠田は断から離れると、「何かやる事は?」と小さくつぶやいた。

どうやら、真冬を想う気持ちに嘘は無いようだ。

「手伝うのか?」

断はわざとおどけて聞いた。

「ああ、何でもやるよ」

楠田ははっきりと答えた。

断はその目を見て、楠田がどれほど本気であるかを判断した。

「じゃあ、西園寺真冬の家に案内してくれ」





断たちが誘拐の事件を調査している頃、薬師寺と夢見はとある豪邸の前で張り込みをしていた。

「……夢見ちゃん、来たわよ」

「あいよっ」

豪邸の門からスーツを着た男が姿を現すと、2人は尾行を始めた。

男の名前は万屋寛二(よろずや かんじ)

警視庁の警視監、いわば警視庁のナンバー2である。

断が入手した機密文書によると、万屋が断が参加した作戦の責任者だった。

この男からは、非常に役に立つ情報を得られる可能性が高い。

ただし、聞きにいって素直に教えてくれるはずもないので、手荒な方法を使う必要がある。

綿密に計画を立てることが重要だ。

そういうわけで、2人は万屋の生活パターンを観察し、何曜日、何時に、どこで万屋に「挨拶」をするか見極めようとしていたのである。

すでに観察を初めて2週間がたった。

そろそろ、動き出してもいい頃だ。

「夢見ちゃん、一番隙が多いのはいつだっけ?」

万屋が警視庁に入るのを確認し、薬師寺は双眼鏡から目を離した。

「日曜日。朝6時からのジョギングの時ね。1人だけになるのはそれぐらいしかない」

「うー……んと、今日は土曜だから、明日決行ね。一応家に帰るまで確認してから、明日の準備に取り掛かりましょう」

「うん」

会話が終わると、薬師寺は上着から小ビンに入った謎の液体を取り出し、地面に一滴たらした。

すると、パンという破裂音がして、地面が少し抉り取られた。

「………それ、明日絶対に使わないでね」

夢見があきれたようにつぶやいた。





断たちは制服を脱ぎ、探偵として西園寺家の屋敷の前に立っていた。

楠田は学校での評判の割には、真冬の両親とも仲が良いらしく、楠田に話を通してもらったら簡単に会えることになった。

執事とおぼしき男に案内され、屋敷の奥の部屋に通された。

「ここでしばらくお待ち下さい」

執事の男はそう言うと部屋から出て行った。

数分後、部屋に1人の男が入ってきた。

断は立ち上がり、おじぎをした。

「初めまして、真冬の父、由蔵です」

「探偵の斬谷です」

断は由蔵と握手し、イスに座った。

「楠田君から聞きましたよ、凄腕の探偵だとか」

由蔵が身を乗り出してきた。

「いえいえ、私はしがない探偵の1人ですよ」

断は薄く笑った。こういった細かい演技は断の得意技だ。

(娘が誘拐されているのに、ずいぶん落ち着いているんだな)

一瞬でそう読み取ることも忘れなかったが。

「能ある鷹は爪を隠す。能力がある人ほど謙遜が上手いですな」

由蔵はハハハと笑った。

断も笑い返しながら、確信した。



この男は何か隠している。

Re: 処刑人斬谷断 第8話更新!! ( No.28 )
日時: 2010/12/29 18:04
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第9話 「暗躍」

〜2日前〜

「娘さんが誘拐されて、大変でしょう」

断は由蔵に会うや、早速本題を切り出した。

「いやはや、夜も寝られませんね。娘のことを思うと」

「お察しします。ところで、娘さんが誘拐されたことを知ったのはいつごろのことですか?」

「1週間前です。家にこんな物が届いていまして」

由蔵は背広のポケットから封筒を取り出した。

「拝見します」

断は封筒を受け取り、中身を取り出した。

写真と、ワープロで作成したと思われる文書。

写真の方は、猿ぐつわをはめられ、両手を縛られている真冬の写真。

文章には、こうあった。

『娘は預かった。返して欲しければ2週間以内に現金3億円を用意しろ。また連絡する』

断は一目で違和感を感じ取った。

「由蔵さん、警察には連絡しましたか?」

「いえ、連絡はしていません」

「……娘さんが誘拐されたのにですか?」

「ええ。警察に相談して娘に何かあったら……と思いまして」

「そうですか。ちなみに、電話などで誘拐の件を誰かにご相談されましたか?」

「はい。親しい友人に何度か」

「なるほど……犯人からその後は連絡はありましたか?」

「いえ、何も」

「本当に?」

「ええ、本当です」

断はわざと困ったような顔を浮かべた。

「おかしいですね……」

「な、何がです……?」

「いえ、警察には連絡するなといっておきながら、友人への連絡は無視するって、矛盾しているなと思いまして」

由蔵は明らかに動揺し始めた。

「そ、それは………見落としがあったんでしょう」

「犯人はあなたの動きを監視しているはずです。何回かかけた電話を全て見逃す、こんなことがあるんでしょうか?」

断が畳み掛けるように反論すると、由蔵は不意に立ち上がった。

「あなたは何が言いたいんですか? 私は娘を探して欲しいと言っているんだ!! あれこれ詮索しないでいただきたい!!」

「失礼ながら、由蔵さん。それは無理です。娘さんを探す以上、あなたの話から、犯人の情報を探すしかないんです」

「なら、詮索しない探偵を雇う!! 出て行ってくれ!!」

由蔵は完全に我を失っている。

断は成功を確信しながら、立ち上がった。

「いいでしょう、出て行きます。最後に1つ、いいでしょうか」

「な、何だね!?」

「私は、あなたが誘拐に関わっていると思います」

「なっ……何だと!?」

「動機は揃っていますよね? ネクストは最近、ライバル会社の台頭によって経営不振に陥っているとか……今回の事件を使って、上手いこと株主やあなたの協力者からお金をせしめれば……何とかなるんじゃありません?」

ネクストが経営不振に陥ったことは、事前に断が調査していた。

「ふっ…ふざけるな! 侮辱もはなはだしい! さっさと出て行け!!」

由蔵は怒りで完全に頭がいっぱいだ。

断は後ろを向きながら、とどめの一撃を放った。

「証拠さえつかめば……あなたはおしまいだ。覚悟する事ですね」

「………!!」

由蔵は先程までの勢いとは逆に、黙り込んでしまった。

「失礼します」

由蔵は落ちた。そう断は確信した。

〜2日後〜

「そういや、断。決定的な証拠って何なんだ?」

紀伊が断に尋ねた。

断は無言でICレコードを取り出し、スイッチを入れた。

『おい、私だ!! まずいぞ、探偵が私を疑っている! 証拠をつかむかもしれない、私が娘を誘拐したと知られてしまっては会社はおしまいだ! 何とかしてくれ!!』


紀伊は「盗聴したのか」とつぶやいた。

「握手したとき、腕時計に磁石がついてる盗聴器を仕掛けた。すぐに動くだろうと踏んでいたが、大当たりだったな」

断はニヤリと笑った。

「毎度毎度、お見事な腕だねえ…」

「探偵だからな」

「普通の探偵は盗聴なんかしないっての…っと、出てきたぞ」

由蔵が回りを気にしながら出てきた。手にはスーツケースが握られている。

目立ちたくないのか、サングラスにコートを着用し、さらに徒歩で移動している。

「完璧だ」

断と紀伊はすぐにあとを追った。

由蔵は、しばらく歩き、銀行に入っていった。

「スーツケースもって銀行か………」

紀伊があきれたような声でつぶやいた。

「現金を手元に置いておこうと考えたんだな。典型的な疑心暗鬼に陥った人間の行動パターンだ」

待つこと十数分、由蔵が銀行から出てきた。

家から出てきたときよりも周りを気にしている。

「行くぞ」

断と紀伊は再び尾行を始めた。

由蔵は早歩きになっている。

常にあたりを見渡しながら、スーツケースを大事そうに抱えて歩いていく。

「よし、次の門で追い込むぞ」

「了解」

紀伊はそのまま由蔵を追い、断は走って別の道に曲がった。

由蔵は尾行には全く気付かず、そのまま人が通らない西園寺邸の脇の道を曲がった。

と、その時—

「由蔵さん」

断が前に立ちふさがった。

「おっ……お前は!?」

慌てて逃げ出そうとしたが、紀伊が後ろに回りこんでいた。

「なっ…何のマネだ!?」

「スーツケースの中身、拝見したいですね…」

断が一歩前に出た。

「ふっ…ふざける—」

全て言い終わる前に、紀伊がナイフを由蔵の首に押し付けた。

「ひっ…」

「あんた、娘の誘拐に関わってるんだろ」

断は態度を変えて、ぶっきらぼうに言った。

由蔵は消え入りそうな声で「そ。そうだ…」と言った。

「理由を聞こう」

「お前の言ったとおりだ…会社が、傾きかけて……社員を路頭に迷わせるわけにはいかなかった……!!」

「娘より、社員を優先させた?」

「うちには数え切れないほどの社員がいる。娘を犠牲にしてでも、彼らの生活は守らねばならなかったんだ…」

紀伊は由蔵を見たまま「どうする?」と言った。

断は少しうつむき、考えた後…不意に顔を上げた。

「娘はどこだ」

「分からない。私が裏切らないように、娘の管理は全て任せろと言ってきたんだ」

「それじゃ、やつらの思うつぼ—」

と、その時、電話が鳴った。

「私の携帯だ」

由蔵はおそるおそる通話ボタンを押した。

「はい……え? わっ…分かった」

由蔵は携帯を断に渡した。

「あんただ」

「……?」

断は携帯を耳に当てた。

「俺に何の用だ」

『やあ、君か。我々の邪魔をする探偵は』

「用件を言え」

『取引をしようじゃないか。由蔵が集めた金をもってこい。出なければ娘は殺す』

Re: 処刑人斬谷断 第9話更新!! ( No.29 )
日時: 2010/12/31 13:16
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: q7/5/h0o)

第10話 「激昂」

「狙いは最初から金か」

『そうとも。いくら会社が経営難だからといって、あんなに簡単にだまされるとは、哀れな男だよ』

電話越しの政府の役人は大声をあげて笑った。

断は湧き上がる怒りをこらえ、冷静に話を進めた。

「金を渡せば、娘は開放するんだな?」

『もちろん、金さえ手に入れば、あんな女に用はない。殺すと後始末が面倒だし、ぜひ引き取ってもらいたいね』

人の命をモノとしか見ない役人に断はさらに怒りを募らせた。

「わかった。場所を言え」

『15分後、尾瀬港の12番倉庫だ』

役人はそれだけ言うと電話を切った。

断は携帯を耳から離すと、すべてを由蔵に打ち明けた。

由蔵は案の定絶望的な表情になった。

「そんな……」

すべてをかけてやってきたことがすべて水泡に帰した。

当然の反応だった。

断はあえて何も言わず、紀伊に「行くぞ」と言った。

すると、由蔵はあわてて断の前に立ちふさがった。

「待ってくれ!! 頼む、娘を助けてくれ!!」

断はしばし間を開けてから口を開いた。

「俺は最初からそのつもりだった。あんたに言われるまでもなく」

「………」

「だが、協力するというなら、その金を俺に預けてくれ」

由蔵はすぐにスーツケースを断に渡した。

「お前たちをだまして悪かった。だが……」

「由蔵さん。あんたはもう何も言うな」

由蔵は口をつぐんだ。

「あんたが何でこんなことをしたか。理由は十分わかった。もうあんたを責めはしない、だが1つ約束しろ。娘が帰ってきたら全てを話すと」

由蔵は断の目を見据えてはっきり答えた。

「約束する」

「なら、家で待っていてくれ」

断は踵を返し、港へ向かった。








約束の時間まであと3分となったころ、断と紀伊は12番倉庫に到着した。

倉庫の扉の前には、スーツを着た男が複数人いた。

「あいつらはプロだな」

断は一目で彼らの正体を察した。

「どうする?」

紀伊はすでに銃を構えている。

「入口は1つ。だがその入り口はしっかり固められている。ということは—」

「正面突破、ね。相変わらず無茶苦茶だ」

紀伊はため息をついた。

「悪いな。これも探偵の仕事だ」

「普通の探偵は太刀はかまえないって、っの!!」

言いながら紀伊が男たちに向って発砲した。

不意を突かれた男たちだったが、すぐに体勢を立て直し反撃してきた。

そこへ—

断が躍り出た。

一直線に男たちのところへ向かっていく。

「なんだあいつは!?」

「刀でやる気か!?」

「構わねえ! 撃て!!」

男たちは一斉に断に発砲した。

しかし、銃弾は全て断のもとにたどり着く前に弾き飛ばされた。

「何だ!? どうなってる!?」

「一刀流—」

断はそのまま突っ込み、男たちをもすり抜けた。

そして扉までたどり着き、刀を納めた。

「『風曝し』」

男たちは声もなく、全員崩れ落ちた。

「ったく、走り抜けるだけで風起こすって……」

紀伊があきれた声でつぶやき、後に続いた。









「紀伊、準備はいいか」

断は紀伊がつくなり、倉庫に入ろうとした。

「いつでもどうぞ」

2人は顔を見合わせ、同時にに扉を蹴り倒した。




「ようこそ、お二方」




中には、300人ほどの男と、電話をかけてきたと思われる役人がいた。

「……罠か」

紀伊がつぶやいた。

「まさか、素直に娘を返すとでも? ………もっとも、君たちも金は持ってきていないようだが」

男たちは全員武装している。

「娘は返してもらう。抵抗するなら命も貰う。これが条件だ」

断は平然と言ってのけた。

これには役人も呆けた顔をした。

「…いやはや、驚いた。君は頭のいい人間だと思っていたが、存外そうでもないようだ。これだけの数相手に君は何を言っている?」

「同じことを何べんも言わすな。娘は返してもらう。抵抗するなら……命をもらう!!」

断は童子切を抜き出した。

男たちは断の迫力に一瞬たじろいだが、ほどなく一斉に銃を構えた。

「紀伊、下がってろ」

断が静かに言った。

紀伊はすぐに意味を察して、後ろに下がった。

「何をしようというのかね? まさかそんな刀1本で我々に勝つ気か?」

断は無視して、その場で剣をふるい始めた。

最初はゆっくりと、だが、どんどん速く。

剣を振る速度は加速度的に上がっていく。

男たちも、役人も、攻撃することを忘れて見入っている。

その後もどんどん速度は上がっていき、ついには目視できない早さになった。




不意に、風が吹いた。




「まさか………剣を振って風を起こしているのか!?」

役人が上ずった声でつぶやいた。

風は勢いを増し、立っているのも困難なほどになった。

「ウソだろ……!?」

「ヤバいぞ……!?」

断はすっと身を低くした。

「風よ、巨悪を引き裂く斬撃と為れ—」

次の瞬間、断の姿は掻き消えた。

「………!?」

刹那、一陣の暴風が吹き荒れた。

『うわああああああああああああああ!!』

男たちは1人残らず吹き飛ばされた。

「一刀流—『荒乱死』(あらし)」

風がおさまると、立っていたのは役人1人だった。

役人は、口をあけてその場から動かない。

断がゆっくりと近づくと、初めてあせりだした。

「ま、待ってくれ!! 待て!! 話し合おう!!」

断は男の眼の前で歩みを止めた。

「お前は人に裏切られたことがあるか?」

「……え?」

「全てをかけ、何かを守ろうとしたことがあるか?」

「…………」

役人は押し黙った。

「お前にはわからないんだろう、な」

断は刀を振り上げた。

「ま、待って—」

断は言葉の続きを待つことなく、刀を振り下ろした。






「斬り捨て、御免」

Re: 処刑人斬谷断 第10話更新!! ( No.30 )
日時: 2011/01/01 16:36
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: q7/5/h0o)

第11話 「人であること」

『……ここで速報が入ってきました。国会議員速水宗助さんの秘書、角谷平太さんが、尾瀬港12番倉庫で遺体で発見されました。角谷さんの他にも多数のスーツの男の遺体が発見され、警察は大量殺人事件とみて捜査を開始しました……』

そんなニュースが世間を騒がせているころ、断は再び西園寺邸を訪れた。

西園寺真冬を連れて、である。

西園寺真冬は角谷が乗ってきた車に乗せられており、断が無事救出した。

「本当に、何とお礼を言えばよいのやら……」

由蔵は断にひたすら頭を下げ続けた。

「いや、俺は俺なりに動いただけだから」

断はそっけなく返した。

「改めて、謝らせてほしい。娘のことでいろいろと苦労をかけた」

「俺に謝る必要はない。謝るなら、娘さんと、楠田に謝るんだな」

断はそれだけ言うと、由蔵に背を向け、帰りかけたのだが、

「−そういえば、これを渡すの忘れてた」

不意に立ち止り、由蔵に1枚の小切手を渡した。

「これは……?」

小切手には、由蔵が必死になって集めた金額と同じ、1億5000万円と記されていた。

「……やり方が間違っていたとはいえ、あんたは大事なものを守ろうとした。誰よりも、人らしく。それに免じて、今回の狂言誘拐は見逃してやるよ」

「………!!」

由蔵の眼に涙が浮かんだ。

「必ず会社を立て直して、あんたの守りたかったもの、全て守り抜け。それが条件だ」

由蔵は涙を流し、何度もうなずいた。

断は由蔵の肩をポンと叩くと、その場から静かに立ち去った。











西園寺邸の門のところで、今回の最初の依頼人、楠田悠斗が断を待っていた。

「……よう」

楠田は断をみると、小さく手を挙げた。

「よう。彼女とは再会できたのか?」

「ああ、さっき。………ありがとう、真冬を助けてくれて」

楠田は頭を下げた。

「俺は俺なりにやりたいことをやった。ついでだから気にしないでくれ」

「やりたいこと…?」

楠田は首をかしげた。

「お前は知らなくていい。多分、そのほうが幸せに生きていられる」

「……?」

楠田はますます不思議そうな顔をしている。

「お前とは、もう会うことはないだろうな。しっかりやれよ」

断は無理やり話を終わらせ、手を振りながらゆっくりと歩き出した。

「……本当にありがとう! 俺あんたのこと忘れないから!!」

断は振り向き、小さく笑った。

そして、また歩き出し、2度と振り返ることはなかった。








「………さあ、吐きなさい。あなたは誰に命令されて作戦を行ったの?」

薬師寺が、注射器を片手に男を尋問していた。

「さっさと言っちゃったほうがいいよ。命の自白剤キツイから」

椅子に座りながら夢見が諭すように言った。

2人は尋問しているのは、ほかでもない警視庁警視監、万屋寛治だった。

「………頼む、やめてくれ。金ならほしいだけやる。私は何も知らないんだ」

万屋は小さく呻いた。

「残念。私金には興味ないの。知りたいことは今聞いたこと。分からないようだから、また教えてあげるわ!」

薬師寺は特製の自白剤をさらに注射器で男に注射した。

すると、万屋は痙攣し始めた。

「さあ、吐きなさい! 吐けば全部終わりよ!!」

「………やめろおおおおおおおおお!!」

「名前を言いなさい!!」

「…分かった、言う!! 命令したのは『アダム』と呼ばれる男だ!」

「……本名は?」

「知らない。奴の正体は誰も知らない。分かっているのは日本政府に協力しているってことだけだ。本当にそれ以上は知らないんだ!!」

万屋は一気にまくしたてた。

「夢見ちゃん、発見機は?」

夢見は嘘発見器の反応を確認した。

「本当のこと言ってる。それ以上は本当に知らないみたい」

「いいわ」

薬師寺は注射器をしまった。

「行きましょ、これ以上は時間の無駄だから」

「はいよっ」

夢見は椅子から飛び降り、薬師寺のあとについて行った。

「待ってくれ! 私はどうなるんだ!?」

万屋が叫んだ。

「まあ、後で警察呼んどいてあげるわ。死にはしないでしょ」

薬師寺は軽く返し、そのまま部屋から出て行った。





その数時間後

万屋のもとに、黒い服を着た男が入ってきた。

「万屋寛治様。あなたを秘密漏洩(ろうえい)の罪により、この場で処刑させていただきます」

男は銃を向けた。

「や…やめ…」

次の瞬間、乾いた銃声が響き、万屋は処刑された。









「……というわけね。特に有力な情報でもないけど、まずは一歩前進したってとこかしら」

薬師寺からの報告を聞き、断は両腕を組んだ。

「『アダム』か。当面はそいつを探るしかないな」

「それより、そっちのほうはどうだったの?」

夢見が紀伊をチラリと見ながら尋ねた。

「ああ、特に問題はなかった。いつも通り—」

「断が悪い奴を懲らしめてハッピーエンド」

続きを紀伊がつまらなそうに言った。

夢見は紀伊をジロジロ見て、「ふーん?」と言った。

「……何だチビ」

「誰がチビよ! 嘘つきヘタレ野郎!!」

「………誰がヘタレだって? 腹ばっかり成長を続ける哀れな夢見さんよ」

「お腹は、あんたに関係ないでしょうが……!!」

夢見はどこからか愛用の大剣を振りかざした。

「……紀伊くん、あなたって人は…なんてデリカシーがないの。もっとオブラートを有効活用しなさいよ。そういう時は太ってるって言うのよ」

「命〜? 今のもう1回言ってくれる?」

夢見は不自然な笑顔で薬師寺のほうを向いた。

「……あら、ヤバいとこ突いちゃったかしら」

「命。お前もデリカシーないぞ」

紀伊が笑いをこらえながら言った。

「2人ともよ!! もういいわ、私の気のすむまでスライスしてあげるわッ!!」

夢見は完全にキレてしまった。

「ウソだろ……断、止めてくれ!!」

(……また始まったよ)

断は深いため息をつき、毎度繰り広げられる醜い争いの仲裁をしようと腰を上げたのだった。






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