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ふたりぼっち
日時: 2011/03/01 20:56
名前: ようこ (ID: qDIY9VCZ)
参照: http://bj2336@za2.

悲しい小説をかいてます。
小説は初心者なので良く分からない表現があると思いますが、寛容な心で読んでくれるとありがたいです<(_ _)>







≪悲しみを悲しみぬいて、そこから何かを学ぶ事ができなければ、その悲しみは何の役にも立ちません。
 あなたがどれだけ泣きわめこうが、自分を犠牲にして何かを訴えようが、私の心を掴むことはできません。
 ただ、この悲しみを悲しみ抜いて日々をやり過ごし、そこから何かを学び取り、次に悲しんでいる人と同苦し、時にはその人を慰めてあげる事が、あなたがこの悲しみを最大限に生かせる方法なのです。≫
あの人からの手紙だ。小さく几帳面な字があの人の人間性を表している。僕はその手紙をびりびりに破いて、昨日の雨で増水してる河に流した。いびつな形をした白い蝶々たちは、薄茶色の泥水の流れに乗って、やがて沈んでいった。
「嘘つきだ。さようなら。」






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Re: ふたりぼっち ( No.7 )
日時: 2011/02/25 20:11
名前: ようこ (ID: qDIY9VCZ)
参照: http://bj2336@za2.

「それがさ、ちょっと気障っぽいやつなんだわこれが」
家の塀の上に登ってしまっている大西さんは、私の話しを聞きながら(聞いていないかもしれないが)うらぶれたスーパーで買ったカツオ節を、上品に召しあがっている。
「私の手を握ったのよ?!この、か弱く美しい右手を!絶対下心あるわよね」
「みゃー≪なんと破廉恥なっ≫」と大西さんは歯にくっついた128円のカツオ節を舌で除きながら、天野宗一郎を非難した。
「でもそいつ、結構美男子なのよね。普通の高校生にしては落ち着きがあって、どことなく色っぽいというか…ついくらっときちゃう魅力というか魔力というものをもってるのよ」
言っている自分の頬が桃色に染まっていく。大西さんは呆れた顔をしている。
「あーお≪ほんっとあんたって面食いなんだから。そんなんじゃ男に失敗するわよ。男は顔じゃなく経済力と包容力よ!恋なんてものは盲目。一時の感情に流されてしまってはだめよ≫」
さすが、5人の子持ちの大西さんは言うことが大人だ。私の浮ついた心をぴしゃりと叱咤した。

「そうよね…ちょっと浮かれてたわ。あまりに美少年だったから」
「にゃー≪そんなにきれいな顔してるの?ちょっと、芸能人でいうと誰似?今度紹介しなさいよ!≫」
「大西さん…さっき、男は経済力と包容力がどうのって言ってたじゃない」
「ぁーお≪面倒臭い子ね!この年になったら、若い子に癒しを求めるものなのよ!欲求不満になってくるのよ!名前なんていうんだっけ?≫」

こうして大西さんとの会話は夜が更けて、おまわりさん達が散歩に出歩く時間まで続いた。

Re: ふたりぼっち ( No.8 )
日時: 2011/02/25 22:38
名前: ようこ (ID: qDIY9VCZ)
参照: http://bj2336@za2.

「ただいま」
誰もいない無機質なコンクリートの家に、僕の声が寂しく響き渡る。

僕のお母さんもお父さんも仕事をしていて、夜の10時まで帰ってこない。お父さんは、週に2,3回しか家に戻らない。その理由を何となく僕は知っている。だけど、お父さんを責めたりはしない。お母さんも、僕を疑わせるような様子を見せる時がある。

地味なお母さんの趣味ではない、ブランドの時計。

僕はテレビをつけ、今日の夕飯を考える。
麺類はもう飽きた。肉料理は胃が受け付けない。

テレビでは、痴情の恨みで殺害された若い主婦のニュースで盛り上がっていた。ニュースは嫌いだ。死んだ人間がいた、だけど僕は生きている、ラッキーだった。なんて、不運な人間の情報を自分の人生と比べて、少量の優越感を手に入れる。だからニュースは嫌いだ。こんな事を言ったらあの人はまた笑うのだろうか。
それでも僕がテレビをつけるのは、この静寂を断ち切る音が欲しいからだ。

「寂しがり屋なのね」

いつか言ってたあの人の一言。
寂しいのではなく、孤独の闇にひきずりこまれていくような恐怖感が僕にとって一番怖いんだ。
底がない深い深い闇の中へ。

「大丈夫よ。あなたは気づかないかもしれないけど、一人じゃないの。私もいるわ」

あの人が言った無責任な言葉。でもだれ一人僕の周りにはいなくて、大嫌いなあの人でさえもここにはいない。この現実をあの人はどう説明してくれる?教えてよ。古賀先生。

静かに冷たい涙が頬を伝っていくのがわかった。久しぶりに出てきた涙は、次から次へと惜しみなく流れて、僕の足元を濡らした。



Re: ふたりぼっち ( No.9 )
日時: 2011/02/26 15:46
名前: ようこ (ID: qDIY9VCZ)
参照: http://bj2336@za2.


僕が先生と出会ったのは、中学2年の春だった。
その年はなぜか雨が多く、僕が初めて先生を見つけた日も、しとしとと静かに雨が桜の花びらを濡らしていた。

「古賀 花枝と言います。これから一年間宜しくお願いします」

セミロングの真っすぐ伸びた黒い髪。真っ黒くてまん丸な眼を教室にいる生徒達に向ける。教壇に立つのが慣れてないせいなのか、顔が少し上気して、肌の白さがよりいっそう頬の赤さを際立たせている。そして、おっとりとした先生の雰囲気に合った穏やかな声で話しをする。


「まだ新人なので、他の先生より皆と合う話しも多いかもね。いつでも気軽に声をかけてください。何か私に質問ある人ー!体重と年齢以外なら快く答えます!」

はーいと間延びした声を出し、手を挙げる一人の男子生徒。

「ハイ。そこの…谷野君」出席簿で一々生徒の名前を確認して呼ぶ。

「せんせ、彼氏いるんすか?」
教室内でぎゃははと笑い声が上がる。
『お前それ定番だろー』『や、結構大事だからコレ』『せんせー答えはー?』
先生はあきれ顔をし、んーそうねーと少し躊躇しながら言った。 

「います」

一気に盛り上がる教室内。『うそー』『きゃー』と女子達のキンキン声が耳の鼓膜を割くように響く。

「太宰でしょ、井上靖に遠藤周作、それからヘルマン・ヘッセにユゴー…」

『えー作家かよ』と皆のブーイングの嵐が吹く。先生はそんな皆の反応にくすくすと笑い、「彼氏がいるかなんて質問は愚問です。私には何百人もの本という恋人がいます。谷野君が納得する答えではないかも知れないけど」

「納得いくかよー」頬をぷっくりと膨らませて不満そうな顔をする男子生徒。

「次の質問はありますかー?」

一番後ろの席でゆっくりと、だけど真っすぐと、伸びた手。
先生はその手の方を指差し、
「じゃあ、そこの…天野宗一郎君」
初めて僕の名前を呼んだ。

「先生は嘘つきですか」

Re: ふたりぼっち ( No.10 )
日時: 2011/03/01 21:54
名前: ようこ (ID: qDIY9VCZ)
参照: http://bj2336@za2.


風が窓を叩く音で目が覚めた。

 (ユメか)

水色のカーテンを開けて部屋の窓から外を見ると、昨日青色しか見えなかった空が、今日は灰色の雲に覆われている。顔を窓にくっつけると、風がびゅうぅという声をあげているのがわかる。

久々にあの人の夢を見た。普段はっきりと思い出せない顔が、夢の中では瞳の色も、肌の色も何もかもが鮮明だった。

まぶたがまだ熱い。昨日の涙で腫れてるのかもしれない。

窓にまぶたを押し付け、ガラスの冷たさで熱を冷ます。
そして自分に言い聞かす。

あの人はもういなくなったんだ。うそつきで卑怯者の最悪な人間は、僕の前から消えたんだ。


「宗一郎、起きてるー?」母の少しかすれた声が下の階から聞こえてきた。
「朝ご飯作ったからねー。もうお母さん出かけるから、戸締りよろしくねー」

僕は部屋のドアを開けて下に続く階段に向かって「わかった」と一言叫ぶ。

これが僕と母の一日分の会話である。特別な日を除いて、一字一句違わず、毎日同じ台詞を僕と母は顔を合わさずに言いあう。

母が玄関から外へ出た音を確認すると、僕は下の階に行き、いつも通りのご飯、目玉焼き、鮭の切り身、薄味の味噌汁といった朝食セットを残さず食べる。

朝食を作る事が母の僕に対する最上の愛であり、残さず食べる事でその母の愛に応えることになる。
    
    「あなたはそれで満足しているの?」

おせっかいなあの人の声が聞こえる。
あの人も母も同じ種類の人間だ。

いつの間にか玄関に増えている母の趣味じゃない靴、そして細い腕に巻かれたゴテゴテした見栄っ張りの時計。

あの人の胸元から見えた、ネックレスについているシルバーの指輪。

あの人も母も同じ「女」という卑しく弱い、人間なんだ。

Re: ふたりぼっち ( No.11 )
日時: 2011/03/01 22:39
名前: ようこ (ID: qDIY9VCZ)
参照: http://bj2336@za2.

まだ小雨さえも降っていない。にも関わらず、小さな花柄模様がついた、桃色の傘を広げ、るんるんと歩いてる乙女がいる。その乙女の髪は、カラスのように真っ黒い。こんな例えは適切でない事はわかっているが、歩く乙女の髪を襲撃するカラス軍が跡を絶たないので筆者(乙女)はついこう表現してしまう。
今日は傘を差しているから平気だけど。

恋しちゃったんだ たぶん♪

なんて数年前流行った歌謡曲(古典)を口ずさむ乙女(わたし)。すっかり心はこの傘と同じ桃色気分。この気持ちわかるかしら諸君。
なんて、信号待ちの小学生に、ほほえみかける怪しい女子高生(痛い)。

私の心はすっかり天野宗一郎に染められてしまった(勝手に)。
気分が高まると共に、くるくると傘の柄を回す。

宗一郎なんて古風で気品があるお名前。お父様は、ホンダの自動車を贔屓にしているのかしら。
諸君、恋の初めを知っているか。初めは気持ちが異様に高ぶるのものである。いわゆる躁状態に陥る。乙女のこの飛躍っぷりは、恋が成したものである。すべて恋のせいである。諸君。

しかし天野宗一郎、謎が多い。

私が手元に持っている情報は、①美男子②成績優秀③むっつり(乙女の言葉は誤解を生むことが多いが、助平という意味ではない)。

初めて天野宗一郎という人間を知ったのはつい先週の事だった。



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