ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- “幸せ”の意味(※タイトル変更)
- 日時: 2011/05/15 22:35
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
初めましてこんにちは^^
アメブロの方で「てんとう虫ノート」やらせてもらってます、さぼてんと申します。
どういう人間かは、ブログを見ていただければわかると思いますので省きます(笑
本当はブログの方で終わらせようと思ったんですが、急遽こちらでやらせていただくことになりました。
ブログの方で言っていた通り、この話は「ふたごの死神」の番外編ということになります。
単品でも読めないことはないと思いますが、人物に関して全く説明していませんので、わからない方・詳しく知りたい方はお手数ですがブログまでご訪問頂き、頑張ってキャラ紹介のページをご覧下さい。
※ちなみにカテゴリ・「創作」のところであさってもらうか、ブログ内検索で「ライア・ウィンドリア」と検索すれば出てくると思います。お手数おかけします;
まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします^^
誤字脱字? 通常運転ですが何か。(笑
- Re: “幸せ”の意味(※タイトル変更) ( No.21 )
- 日時: 2011/05/27 20:19
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
第九話
(・・・“幸せ”を。みんなを幸せにするために、行かないと)
使命。否、宿命のように刻まれたそれに押され、自ら圧迫するかのごとく復唱。それはまるで何かを忘れないための呪いのようで。
「・・・・・・・・・」
メローネは、険しい表情で、ライアを見ていた。
ライアは何事もなかったかのように笑って、来た方向を向き、
「んじゃオレ、そろそろ戻りますんで・・・」
「チョイ待ちな」
ゼオの方へと行こうとしたのだが、引き留められた。なんですか、と言いながら振り返る。いつも絶えず不敵に笑っているメローネが、いつになく真剣に、佇んでいた。
「アタシ達は、行ってみれば負を司る神だ。つまり負の感情や状態には人一倍鋭敏ってコト。
・・・言ってる意味はわかるね?」
「・・・・・・・・・」
一言一言に、確かな言葉の重みが宿る。
「ライ。アンタに漂う“死臭”は、“他人”によるものか? それとも、“キミ自身”のものかい?」
其れには確かに、頂点の貫禄が窺えた。
本来真面目に答えるべき場面で、それでも、ライアは笑い。
「冗談上手いっすね、メロは! この単純馬鹿がそうそう死ぬわけないでしょう? 丈夫さだけが取り得なんですから!」
とぼけたように、やけに明るく言うライアを見、カツ、カツ、とブーツの音を立てて歩み寄る。
ほとんど自分と同じ高さの視点から、メローネはライアを、抱き締めた。といっても、色っぽいものではなく、いわゆる挨拶のハグ。北欧生まれのライアは動揺など微塵もせず、彼女は耳元に囁く。
「キミがあくまでも白を切り続けるつもりでいるなら、アタシはこの件について黙っておくし関与もしないケド」
「・・・けど?」
メローネは一瞬の逡巡の後、
「ライ。この件は、いくら先延ばしにしていても、必ずいずれ何らかの選択を迫られる時が来る。これは何の根拠もない直感だけど、だからこそアタシは当たると思ってるよ。
その時は、間違えてもいいから、後悔だけはしないようにね」
“間違い”と“後悔”。
その2つには、どのような意味合いが込められていたのか。
無論ライアには知る由もなく。
これでお終い、とばかりに頬へ触れるだけのキスをして、メローネはライアから離れた。
「さ、ゼオの方へ行くといいよ。キミは1秒たりとも時間が惜しいはずだから。けどゼオはある程度覚悟した方がいい。彼は堅さでいったら右に出るものは居ないからネ。
地上行きはあっちの魔法陣だから、気を付けて」
「・・・うん。ありがとう」
促されるまま、地上へ繋がる魔法陣の中心に立つ。途端に陣は薄黄緑色の光を放った。
後ろ髪を引かれるような心残りと、わだかまりめいたものを感じながら、ライアは地上へと旅立つ。
「・・・さァて、アイツは何時まで誤魔化せてる気なんだかねぇ」
残ったメローネは1人呟き、雰囲気を察して別室待機してくれていたロアが戻ってきたのに気付くと、ついでに問いかけた。
「ロア。キミにはどう見えた?」
「・・・どうにもな。生き急いでいる、といった印象だ」
「やっぱりそうかァ」
メローネは巨大な管理画面の前に立ち、宙に指を走らせる。
その後姿を見て、不意に『黙って仕事していれば文句なしに高嶺の花なのに』と思った。実際メローネは抜群のプロポーションとボディを持っており、外観としては何ら問題ない。
「・・・ぉ。これだネ」
解析終了の声に、ハッと現実に引き戻される。
あぁ自分は何を考えていたのかと、愚かしく思う。これでは腹心兼秘書失格だ。
上司に色目を使・・・・・・ったことになるのだろうか?
メローネが探し当て解析終了したのは、ついさっき地上へ行ったライア。今、彼の全データが、一画面に映し出されている。
生年月日、血液型、身長体重といった基本的な情報から両親の名前と状態、親交関係に至る情報から何まで、全てが露になっていた。
彼女らが注目したのは、彼の生い立ちの部分。出生ではなく彼が今に至るまでの過程。
ロア、そしてメローネに「生き急いでいる」と思わせた原因。
「・・・そういうコトね。たまに咳してたのにも合点がいった」
「・・・成程。納得だな」
各々が確認すると、すぐにメローネはライアの情報を閉じる。
どかっと椅子に沈み込むと、溜息をついた。
「ヒトって・・・、難儀だよねェ」
「同感だ。あの明るさは、さしずめ空元気というやつか」
「全部が全部とは言わないケド・・・、そうだろうネ。
・・・・・・何ていうか、皮肉な感じ」
よいせ、と立ち上がり、宙に複雑な文字の羅列を描いていく。
それの用途を知るロアは、メローネが何をするつもりなのか容易に想像がついた。というより、数10分前に言っていたことだ。
「夜交界の頂点・メローネルデューロの名の元に」
最後、結びの役割を持つ呼唱を終え、術式は完成。
刹那術式が煌き、目の前に階段が現れた。どこまでも白く神々しいそれは、天空界を思わせる。
「それじゃあ行ってくるケド、留守番頼めるよね?」
「いつものことだ」
「済まないね」
にっと笑い、メローネは黒髪をなびかせながら階段を昇った。
ただひたすらに、白い階段を。夜交界からの扉は既に閉まっている。つまり後戻りはできない。
元より、このルートはそういう風に出来ているモノだ。
「ライ」
それは独り言。誰も返事することなく消えていく。
「アタシが思うに、キミが気に病んでいる事はすべて虚仮だヨ。そんなモノに悩んでいても、誰も喜ばない。勿論『彼』だって喜ばない。何の意味も無いんだよ、そんなのは」
ライアの次に調べた『彼』が頭に浮かぶ。
柔和な笑みに、儚く弱弱しい存在感。けれど、頑として消滅を拒む姿勢。
「在りもしない罪に罪悪感を感じるだなんて、おかしいと思わないかな?
だから『彼』は今も、」
情報の中にあった、とある1つの項目。
“未練:有”
「そんなキミを、心配してるの」
—第9話END
- Re: “幸せ”の意味(※タイトル変更) ( No.22 )
- 日時: 2011/05/27 20:29
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
第9話終了ですー。
とっても久しぶりの更新ですね!
それもこれも忌々しいテストのせいだし・・・。・・・結果? はてさてなんのことやら。
今回は、とある人が名前無しで出てきてますね。この人は最後まで引っ張る人です。後半にならないと名前は出ないかな? どうだろう。
とにかくキーパーソンです。
あ、そうそう今の9話っていうのは、まだ 前半 です♪(・・・え
何故か倍くらいの量になる予定になっちゃってるんですよね・・・;;
最初は「20ページ(4話)くらいで終わるよなー」って思ってたのに・・・!
なんでこうなったのか私にもさっぱりです。
多分、「しっかりと」一個人が全体を変えていくのを書きたかったんだと思います。(と、いうことにしておく
- Re: “幸せ”の意味(※タイトル変更) ( No.23 )
- 日時: 2011/06/12 11:50
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
第9.5話
——“世界塔”基本業務室。
ライアがメローネを説得・会談しているのと時を同じくして、フォアは天空界へと帰って行った。
久しぶりの2人きりに僅かな懐かしさを覚えつつ作業していると、不意にシナから「ティナ」と声がかかった。仕事熱心な彼が自ら話しかけてくるのは珍しいも珍しい。
「少し、業務を中断して聞いてほしいのですが、いいですか?」
しかも、作業を中断しろときた。珍しいどころの騒ぎではない。明日天変地異が起きるのではないか。
勿論そんなこと口にするはずもなく、手を止めるとシナの方を向く。
「どうかしたの、シナ?」
「彼のことで、少し」
やっぱり。
半ば予想通りの話題である。“彼”が誰かなど言うまでも無い。丁度今、席を外しているヤツのことだ。
「・・・ティナ。結構前に、私が『仲間の心は絶対に読まない』と宣言したことを覚えていますか?」
「ええ。信頼した存在の心を覗くような野暮な真似はしたくない・・・、だったかしら?」
「はい。ですが・・・」
シナは伏目がちに、申し訳無さそうな面持ちで告げる。
「・・・読んでしまったんですよ、ライアの心を」
しかしティナは、別段驚かない。何故ならシナは品定めの用途でしょっちゅう他人の心を読むから、・・・・・・否、彼いわく「『読まない』方が難しい」らしく、ほとんどの人間の心を読んでいるのだ。
今更になって何を、というのがティナの意見。
「私も最初は、値踏みのつもりでした。
この人に責任感は足りているのか、統括性はあるのか・・・。
・・・その程度がわかれば充分なんです。ですが、私は・・・、更に奥、最奥とは言いませんが、深層心理の一片を、ちょっとした気の緩みで読んでしまいました」
シナの瞳にあるのは、「見てはいけないものを見てしまった」後悔一色。
・・・何がそんなに深刻なのか。ティナにはさっぱりである。
「・・・彼は想像以上に“幸福”を求めています。しかも自分ではなく、周りの“幸福”を。あれは・・・、最早異常ですよ。
何故あそこまで、“他人の幸せ”に拘っているのか、私にはわからない」
「心を読んだ貴方にも?」
「言ったでしょう? 私が読んだのは深層心理の、あくまで一片。本当の“深層心理”までは読めませんでした。
ただ・・・」
「ただ?」
シナはティナの眼を見、次いで逸らせた。何を意図していたのかはわからなかったが、聞くべきではないと思って黙していると、シナの方から続きが紡がれた。
「・・・私達の知っているライアは、確かにライアという人間ではありますが、厳密に言えば別人。強いて言うなら、“明るく軽い男であるライア”の仮面を被っている・・・、といったところでしょうか」
「・・・なるほど。つまり、私達と接していたライアは偽物・・・ってことね」
「・・・・・・・・・」
中々綺麗に纏めたつもりだったのだが、シナは納得がいっていないという風に手を額に当てていた。
「偽物・・・・・・。確かにそうなんです。けれど・・・、何となくしっくり来ないと言いますか・・・。
・・・自分で別人と言っておきながら、どうも・・・、納得できないんです。彼もライアで、“あの”彼もライア・・・」
「フォアのような二面性・・・ということ?」
「・・・えぇ。それが最も的確です。
細く筋の通った指を組み、額を当てて項垂れる。
ティナはそっと背中に手を伸ばし、ゆっくりと、それこそ母のように優しく撫でた。
別の人間ならばすぐさま容赦無く撥ね返すのだが、古くからの付き合いである彼女はそれに当てはまらない。
「彼は・・・、表面上には欠片も出さないですが、酷く哀しみや憂いに満ちています」
「憂い・・・」
ライアはまだ20代前半、おそらくは22、3歳である。人間の寿命の5分の1を生きたくらいの存在が味わい、背負うのには重すぎる感情だ。
何故そんなものを、彼が抱いているのか。彼には無縁のはずなのだ。
「2日前、私はライアに『誰かの死を間近で見たことがありますか?』と訊きました。彼は・・・、否定しませんでした。いえ、“否定できなかった”の方が正しいですね。
あの時彼は、確実に動揺していた。『何でそのことを』、と心の中で呟くのが聴こえるほどに」
「どうしてシナは、そんな事をライアに訊いたの?」
「・・・・・・・・・、違和感、ですかね」
ふぅと、心配にも何かにもとれる息を吐き。
「『“幸せにしたい』と口癖のように言う彼が、どうも”懺悔“・・・、”許し“を請うているように見えたんです。周りを幸せにすることで、何かを清算しようとするかのような・・・」
「・・・・・・・・・」
おそらくは、シナの憶測は当たっている。それも、寸分違わずに。
他人の心を読む力。“視心”の能力を持ち、誰よりも心と接してきた彼が言うのだから、他の誰よりも信用できる。
人の、不の感情も、正の感情も、すべて触れ、知った彼だからこそ。
「・・・・・・私達は・・・、それでも・・・、彼を、彼の行く末を・・、見届けなければ。例え、望むものでなかったとしても・・・、彼の邪魔をしてはいけないわ」
シナは、本当はとても世話焼きで心配性、面倒見の良い性格だ。苦手ながらも好意を持ち始めているライアに、何かしないとは限らない。
「・・・わかっていますよ」
シナ自身、わかっている。己の望む結末が、ライアの望む結末ではないことを。決して彼のためにはならないことを。
理解している。
「彼には彼の、目的がありますから」
そう。
“全世界”を“幸せ”にするという目的が。
シナとティナは、何かを祈るように目を伏せた。
—第9.5話END
- Re: “幸せ”の意味(※タイトル変更) ( No.24 )
- 日時: 2011/06/12 11:59
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
第9.5話終了ですー。
久しぶりの更新ですね!
実はこの話、シナ&ティナを書きたかったばっかりに書いたヤツなんです。(笑
丁度シナにしゃべってほしいこともありましたからね。ならいっかー、ぐらいの気持ちで(オイ
そうそう、一番進んでいるやつで、やっと『彼』の名前が出てきました。私としては全く予定になかったキャラが明かしてくれましたよ、ええ。全く何やってるんだあの人。
『彼』の名前は、13、4話で出て着ますね。案外早めでした。
しかしこの話自体が終わるのは20話くらいになりそうです。長いよっ!
ページ計算したら、大体120ページくらい・・・? うっわぁ・・・。
今75ページ目なんですが、あと45ページで終わるかなぁ・・・?
だって今まだゼオ編だし。「〜編」で毎回20ページ前後書いてるし。
ゼオ編はある人が出てきたのでもうちょっと長くなりそうですね。30ページくらいか。
・・・あれ? コレ本当に120ページで終われるか・・・?
- Re: “幸せ”の意味(※タイトル変更) ( No.25 )
- 日時: 2011/06/13 20:57
- 名前: さぼてん (ID: /.uLOIob)
- 参照: http://ameblo.jp/tentoumusino-to/
第十話
カツッ。
いかにもビジネス然とした高層ビルに、とある男が1人の護衛と共に会談から帰還した。
男の外見年齢は36歳程度。実際はもう少し上かもしれない。慎重派172cmそこらで、長身とは呼べないものの、威圧感は180cmの巨漢にも劣らない。
黒髪黒瞳に薄い黄褐色の肌という色彩は、彼が生粋の東洋人だということを示している。
彼が歩みを進めると自然に人々は彼のために道を空ける。まるで王が通るかのごとく。
その、厳かな空気の中で、一際目立つ若い男の声が響いた。
「だぁーかぁーらぁー!! ゼオ様に会いたいんですってば!!」
「了承できません。我が頂点は大変多忙であり、休憩する間も、まして何処の馬の骨ともわからない人物とお会いする時間もありません。お引取り願います。
そろそろ警備員を呼びますよ」
受付の女性に無表情であしらわれる金髪の男。余程長く居るのか、隣に座る女性も「やれやれ」といった呆れの表情を浮かべている。
「・・・何だ、アレは」
「どうやら貴方に会いたいと朝から食い下がっているようですね。名前はライア・ウィンドリア。東洋人と西洋人のハーフらしいですが、西洋人の血が色濃く出ています」
「そうか」
可哀想なものを見る視線で金髪の男を一瞥しただけで、彼—、頂点ゼオは、興味を失くし、執務室へ向かう。
「あぁ、そうそう」
手帳に目を走らせていた護衛が懐をまさぐり、一枚の紙切れを取り出す。髪飛行機の形をしているが、よく見るとしばらく前にあった三界頂点会議の書類だった。
「26時頃にメローネルデューロ様から届いたものです」
「・・・重要書類を裏紙に使うとは、彼女らしい。内容は?」
「それが・・・」
護衛は非常に良い難そうに、一旦言葉を切る。
そして1つ大きく深呼吸。
「『多分もうそろそろ変わった子が来ると思うから、入れたげてネ〜。アタシ オ・ス・ス・メ(はぁと)の子だし、ヨロシク。
追記・そうだ、そのうちアタシもそっち行くから、首洗って待ってな』
・・・とのこと」
「・・・・・・・・・」
・・・物騒且つ最重要の一文を最後、しかもおまけに書くとはどういう了見だ。
それとも彼女にとっては、本当にアレが“おまけ”だったのか。
「・・・これだからメローネは疲れる」
「・・・ですね」
頭が痛いという風に、眉間の皺を深くするゼオと、溜息を吐く護衛。
文面からして彼女が上機嫌のルンルンで書いたことは明らかである。でもって、彼女がルンルンでメッセージを送ってきた後は、決まってロクな事がない。戦争でも起こるのではないか。
それに、
「この“変わった子”というのは・・・、」
「まさか・・・・・・」
2人同時にぴたり、と足を止め、もう見えない玄関口を振り返る。
「「・・・・・・・・」」
金髪の男・・・、ライアの叫び声が聞こえた、ような気がした。
—一方、しつこく食い下がっていたライアはというと。
「お願いしますっ! もう下働きでも清掃員でも何でもいいんで、とにかくココに入れてくださいっ!」
まだ折れずにいた。
「残念ですが当館は現在、職員を募集しておりません。お引取りを」
しかし受付嬢も負けない。
互いに疲れていることはわかっている。あと少し、相手より粘れば向こうは折れるのだ。
(——“世界管理塔”・構成員の名にかけて!)
(——受付嬢最優秀者の名にかけて!)
バチバチと火花を散らす2人の間に誰か割って入る余地はなく。そんな不粋な真似そする輩は2人によて鉄建制裁。よって誰にも邪魔することは許されない。
馬鹿馬鹿しく、しかし両方譲れないものを背負った2人はしばし睨み合い——、
「何をしている」
——・・・勝負はつかなかった。
「・・・ロズ様」
「リュア、この男を奥へ通す」
リュアと呼ばれた受付嬢はロズ—、ゼオの護衛兼秘書の登場に狼狽した様子だ。
「し、しかし・・・」
「心配しなくてもおまえの無敗記録はこの男によって崩されはしない」
「・・・それなら・・・」
リュアはキーボードを叩き何らかの信号を送ると、机からカードを取り出し、感知器にかざす。
感知器が光ったことを確認すると、カードをライアに手渡した。
「こちらのキーカードは御客専用となっています。今起動させましたので、これが貴方の入館許可証及び潔白証明書の役目を果たします。紛失した場合、我々は保障しませんので、くれぐれも失くさないよう注意してください。
因みに今回は頂点秘書兼護衛の特権が付加されており、そのカードで最高機密関係以外の場所なら侵入出来ます。
私からの説明は以上で終了です。何か御質問は?」
ライアの頭では半分以上理解できなかったためとりあえず「ありません」と言っておく。
リュアはそうですか、とあくまで平淡。さり気なくライアにビルの見取り図を持たせ、立ち上がり一礼。
「それでは、他の業務中職員に迷惑をかけないよう館内をお楽しみ下さい」
—第10話END