ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜
- 日時: 2012/03/04 15:00
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: ksYmVYP2)
挨拶行きます、どうも初めまして狒牙と申します。
普段、ファジーとコメディのところにしかいないのですが
この度シリアスで初挑戦したいと思います。
パッと思いついたらすぐにしたくなる癖がついております。
と、言う訳でおそらくこれは更新する速度が相当に遅くなります。
もしかしたら月に二、三回になるかもしれません・・・
シリアスではまだ読んでいる作品が無いんですよ・・・
という理由があるのでできればお勧めの物や自分の物を紹介して下さい。
何度も言うように更新おそくなりますが見守ってください。
ついで言うと題名は「アルコバレーノ・ネロ」って多分読むと思います。
翻訳サイトで綴りしか出てきませんでした。
意味は「黒い虹」。なんか虹の呪いってジャンプ漫画のあれみたい・・・
では、始めたいと思います。
プロローグ
これは遠い、未来の話。
かつて無い程の大きさの壮絶な戦争が起きて、それまでの人類の文明は完全に廃れてしまった。
徐々に進んだ文明も逆光の道を辿り、中世のヨーロッパのような街並みにまでなってしまった。
そのような世の中で、最も多く生き残った民族は日本人だった。
戦争放棄、平和主義、交戦権を否認していた日本はただ自衛に努め、その結果大した犠牲は出さなかった。
それでも多少の被害者は現れた。そして残りの一億人ほどの日本人と、各国のほんの少しの生き残りが一同となり、新たに国を築き上げた。
二度と戦争なんて起こさないために、強大なたった一つの国を。
公用語はもちろん日本語だが、人々の名は西洋寄りになっていった。
それだけが唯一世界中の者が日本に頼んだこと。先祖から受け継いだ大事な名字を継ぐことに関しては日本人もあっさり許可した。
そのようなことの数百年後、世は先ほど述べたように中世のヨーロッパのような街並みになる。
恒久の平和が続くと人々は信じ、願い、維持してきた。
しかし平和も束の間、新たな脅威が生まれ出てきた。<呪い>という存在だ。
国は最初それを静観していたが、ある時急に呪いを弾圧せんと動き始めた。
その背景には底知れぬような漆黒の虹が、天空を統べるようにかかっていた。
———これは、七人の少年少女の呪いと闘う物語。
赤い髪、オレンジの髪、黄色い髪、緑色の髪、青い髪、藍色の髪、紫の髪、彼らは口々にこう告げると言う話だ・・・
———止めときな———止めておいて———ごめんなさい———待って———止めて下さい———……———どうする?———
———アタシに関わったら———オイラに近づいたら———それ以上私に関わると———僕に関わると———そうなりたいなら話は別ですが、関わった場合は———貴殿、そう成りとうなければ———これ以上関わったら軽く———
—————死んでしまいますよ—————
—————アタシの名前は、レナ・レッディ・ローズ
—————オイラの名前は、スティーク・オーレン・サンセット
—————私(わたし)の名前は、エール・イーロ・サンフラウ
—————僕の名前は、カイル・ヴェルド・フォレス
—————私(わたくし)の名前は、ハリエル・ブルエ・オーシャンズ
—————我の名前は、サムエル・インディガ・ナイトスキィ
—————俺の名前は、ディアス・ヴィオレッティ・グーフォ
黒き虹の呪いを受けし者——。
——の使用が多いのは今回ぐらいです。
普段も稀に使いますが。
Story
第一話 生い立ち
GREEN>>1RED>>2ORANGE>>3YELLOW>>4BLUE>>5INDIGO>>6VIOLET>>9RAINBOW>>10
第二話 出会い
RED>>11ORANGE>>12YELLOW>>13INDIGO>>14GREEN>>15BLUE>>16VIOLETO>>17
第三話 遭遇
RED>>18GREEN>>19>>21ORANGE>>20YELLOW>>22BLUE>>23
- Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.14 )
- 日時: 2011/11/25 19:42
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 6CqIKfIj)
- 参照: 第二話 出会い Indigo Side
サムエルは今、相当に焦っていた。何しろ目の前に、喉元にナイフを押しつけられた少女がいるのだ。ついさっき出会ったばかりの人間だが、彼は妙な親近感を覚えていた。
彼女は自分はただ不幸を周りに撒き散らすだけの存在と、言い様のないほど辛そうな顔色と声音で述べた。過去にその身に何が起こったのかは分からないが、不幸を周囲にばらまいているのは自分も同じだからだ。
それに彼女は今までサムエルが関わった者のどれとも違っていた。自分の心の中の、人と関わりたくない部分を敏感に察知したのか深く追及せずに立ち去ろうとしてくれた。そんなに人の心を読んで、その者のために動こうとする人間は今まで見たことが無かった。
たった一人だけを除いて————。
サムエルは、腰に差した短刀をぐっと握り締めた。歯をおもいっきり噛み締めて、全身に力が入る。短刀を握る手は、ワナワナと震えだす。
「あなたは一体、何をしたのですか?」
ふと、何かを気取ったイーロ家の少女は、自分にナイフを突き付けてきている男に声をかけた。いきなり何を言いだすかとサムエルは疑問符を浮かべるが、彼の思いの外、言われたオーレンの者は目を見開いて叫んだ。
「お前が知る必要は無い!」
見間違うことのないほど明らかなまでの激しい動揺がすぐに分かった。知る必要は無いと言いながら結局その語調で物語っているぞと場違いに少し呆れる。だが深刻な事態であることは分かり切っているので気を抜くことはできない。
そうこうサムエルが考えていると、彼の視界に映るオーレンの者の顔が先程までの緊張したものから、悲痛で今にも泣きだしそうなものに変わっていた。
「やはり貴殿、何も無かった訳が無かろう。吐けとは言わぬが一人で抱え込むな」
説得し、説き伏せるようにして、サムエルは話し掛ける。警戒心を少しでも減らしてもらえるように刀から手を離して。
「何が起きたか……だと?聞いたところで何になる?どうせ何をすることもできないだろう!!」
それでもその男は頑なに心を閉ざし、その中にある感情、起こった惨劇を見せようとしない。だが一つだけ確かなのは、その者の心はもうすでにひび割れていて、今にも泣き崩れそうだということ。そんな吹けば飛ぶようなあやふやな心に、無事に踏み込む技術などサムエルには無かった。
そう、彼にはだ。そこにいるもう一人の者ならばそれは可能だった。
「あなたは何を言っているのですか?今、武士の方が言ったのは、何が起こったか言え、ではなく一人で抱え込むなですよ。知ったところでどうすることもできないとそれでも言うのは、それはあなたの我が儘です」
さっきまでの普通の少女の声や、ナイフを突き付けられて慌てる声からは想像しがたい、語調がかなり強い言葉を発した。首のすぐ傍に刃物があるというのに堂々とした態度で、毅然として言ってのけた。その言の葉に紡がれた感情は決して怒りなどという醜悪なものではなく、その人を助けたい、そう願う強い意志だった。
「う……るさ…い…………五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!」
彼女の言葉を受け取ったオレンジの髪の男は、何かしらの強い感情に声を揺らした後に、黙れと言うかのように五月蝿いと何度も叫んだ。首にナイフを突き付けた相手の気迫に、男は押されていた。男の、罪を犯しても仕方がないという決心は、イーロ家の少女、エール・イーロ・サンフラウの意志の前で容易く瓦解した。
「別に私達にはあなたを取って食おうなんてつもりも、ましてやあなたの境遇を嘲笑うつもりもありません。ですからどうか、剣を置いて話してください」
カランと、小さな音を立てて小さな刄は地へと転がり落ちる。見れば、オーレン家の彼は頬を涙に濡らしていた。とんでもないことをしてしまったと、消え入りそうな声で何度も何度も繰り返している。男はそのまま泣き崩れて、抵抗する意志が無いことを明らかにするために手元のそのナイフを誰もいない茂みにへと投げ放った。
きれいな放物線を描いてその銀に煌めく小さな刄は深緑の中へとその姿を隠した。投げた者が悩みを断ち切り、その後に自分の中の悪性を投げ去る。それを表すように、ナイフは命を象徴するような緑に溶け込んだ。
それを見届けた男は、自ら何が起きたかを語りだした。
「初めは……ただの不運だったんだ」
そこからの話が、聞き手の二人の想像を遥かに超える内容だった。
まず初めに、彼の息子がとても重い病に、生まれつき蝕まれていた。幸い症状は軽く何も起こらない日々が続いていた。掛かり付けの医者の投薬治療のおかげだったのかもしれないが、とりあえず十年の間は無事に過ごしていた。
だが、十年目にしてとあるミスのせいで事態は急変した。その薬をグレープフルーツのジュースで飲んでしまったがために、薬は思いもよらない症状を出した。旧時代ならこれは知っていて当然のことだが、科学技術すら二十世紀程度に収まっているこの時代ではそんなこと誰も知らなかった。そしてそのせいで、その人の息子はそのまま…………
「そんな……ことが……」
話を聞いた二人はただ呆然とした。だが、この程度はまだ初めにしか過ぎなかった。息子を失った悲しみに、彼とその妻は酒に溺れた。今まで救ってくれていたのが医者のため、医者には文句が言えなかった。それこそ恩を仇で返すような裏切りなのだから。
誰に救われもしない世界に嫌気が差した妻は、危ない薬に手を出し始めた。そうこうしている間に、借金は積み重なり、不味いと思っていたら、会話をしているエールとサムエルを見つけた。その瞬間、彼はポケットに手を入れると小さなナイフが入っていた。
彼の中の悪性が目覚めてしまった……
「という訳だ」
嗚咽を漏らしながら話したので、声は震えてところどころ聞こえなかった。その時々に言い直してくれたから最後にはちゃんと聞けたが。
そんなことがあったのかと、サムエルが口を閉じたまま、何とも言い難い眼光で目の前の彼を見ていた。すると、エールの方に首を向けたであろう彼の表情が一変したのを見つけた。
何事かと、つられてサムエルも横に目をやる。すると驚いたことに、彼女は泣いていた。
「そんなことがあったんですね……それも知らずに好き勝手言っちゃって、本当……本当にごめんなさい」
決して自分のことではないのに、エールはそれに涙を流していた。他人のために、その悲しみを感じて同情ではなく、心からその感情に共感して。
その優しさに、男はさらに涙を流した。どんな者にでも、自分の立場に置き換えるような感性豊かな人間は、初めてだった。
だが、どんなことにも終わりというものがある。オーレンの彼の腕は、紅に染まっている——。
〈to be continued〉
- Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.15 )
- 日時: 2011/12/01 12:46
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Rc3WawKG)
- 参照: 第二話 出会い Green Side
少年は、ずっと森を歩いていた。朝起きて、街を出てからずっと、休むことなく森の中を。サラサラと綺麗な音を立てて、木の葉は枝の上で踊り、その葉の間から漏れる光もつられて揺れる。ふとした拍子にその光が目に入ったので、緑の髪の少年は顔をしかめた。景色に溶け込むような髪も、風に当たって木の葉のように揺れる。たかだか十二、三頃のその少年はとても知的な雰囲気を放っていて、端正な顔立ちをしていた。
「落ち着く森だな……」
今朝までいたギュルムも良い所だったが、個人的にはこういう自然の中の方が遥かに落ち着いた。賑わう街並みも良いのだが、やはり豊かな緑の方が心が落ち着く。呼吸をすると雄大な生命の息吹きが口から入り込んでくるような気がする。
「それに街にいる人と違って、植物は呪いを受けないし……」
そうこう呟きながら歩いていくと、ついに森にも終わりが見えてきた。この先七百メートルで森と街との出入口と、看板に書かれていた。もうすぐ、また情報収集の数日間が始まると思うと、面倒臭さが押し寄せてくる。
それでも、その面倒なことでも、やり抜けばきっと報われると彼は信じている。かならず呪泉境を見つけて、そこでこの身に宿る忌々しい呪いを破る。その後に、普通の人らしく生きるのがせめてもの、唯一の彼の願い。
「さてと……そろそろ手掛かりが見えてきても良いんだけどな」
五年も探しているのに、今まで呪泉境を知っている人は誰一人いなかった。途中何度かカイルは挫けそうになったが、その度に首を横に振ってきた。父さんが呪泉境に向かえば良いと言ったんだ、間違っているはずも、嘘を吐いているはずも無いのだと。カイルの中ではパンドラは、英雄のような存在であり、どんな事にも判断や選択を間違ったことは無かったうえ、嘘を吐いたことも無かった。
「だから、絶対に探すんだ。必ず……」
どんな時でも気を強く持とうとできた理由はいくつかあった。一つは今述べたようにパンドラを信じているため。もう一つは、呪いから解放されたその先の未来はとても輝いた、美しいものになると思っているからだ。人間が人間である一番の理由である他者との繋がりを遮断された今、八歳までの日々がたまらなく綺麗に見える。呪いに侵される前の日々が……
この呪縛から解き放たれたとき、長らく封じられてきた人を愛することもできるようになる。人が好きで、他者との絆を持ちたいカイルにとってこの呪いは、言い表わせないほどに邪魔だった。その心を、半分閉ざしてしまうほどに。
「見えてきた……あれが次の目的地……」
カイルは旧時代の、古いながらも正しい地図を持っていた。そして、倭の国の中心である、旧日本国を拠点として、少しずつ虱潰しに探していた。小さなその島国に始まり、シベリアと呼ばれていた土地も乗り越えて来た。つい先日から中国という、シベリアには劣るがそれでも広大な土地に踏み込んだ。ギュルムとはその中国の今の姿なのだ。当時も今も、食の都というのは変わっていないらしい。
そして今向かっているのは、アバブ・オーシャン。海のすぐ近くに立地していて、誰かが「まるで海の上にいるようだ」と言ったことからそう名前が付いた。かなり発展した都市であり、数少ない二十一世紀以上の技術を備えている街でもある。ついでにここもギュルム同様に食文化が栄えている。
そんな時にふと思い出した。この街には自分の親戚の一人がいたのだと。お母さんのお母さんの従兄弟の人。オーレン家の人間で、年の割に若く見える初老の男性。庭師の仕事をしていたはずだ。もし会ったとしたならば、五年以上ぶりになるのだが。彼はお葬式に出席していなかった。そうでないとカイルと関わり、他の参列者同様に死んでいただろう。その事件の後に、皆を殺した原因となる我が身に宿る虹の呪いの存在に気付いた。
「あの人は、良い人だったからな……できれば巻き込みたくない」
そんなことを呟きながら歩いていると、とうとう森の入り口にまで到着した。ここからは、気を引き締めていかないといけないと、顔を強ばらせる。森の中でリラックスし、緩みきった彼の雰囲気は途端に凛々しくなった。
森を抜けるとそこには、大海を一望できる見事な眺望が、眼前一杯に広がっていた。標高が高めの所に出たようで、すぐそこには街へと続く長い長い階段があった。そんなことよりも彼はその目の前に広がる二つの青に目を奪われていた。生命の母たる蒼海、この世を絶えず変化させる天候の住みかである青空。それらの境界線は、遥か彼方の地平線。そしてその先には、生れ故郷の、かつて日本と呼ばれた島が浮かんでいるのだなと思い返した。
「……街に行こうか」
どれぐらいの間意識を持っていかれただろうか。体感的には相当に長く感じたが、流れる雲はほんの少ししか動いていないことからたかだか数秒だと予測する。はっと意識が戻った時には全身に悪寒が走ったような気がした。
「空……か。母さんが懐かしい……」
何年も、何年も昔、呪いを受けるよりもさらに昔に母親は言っていた。
「海が青いのは、空が青いからよ。空が青いから、その光を反射した海も青いの」
それを初めて聞いた時に、幼いながら疑問に思ったことを母に訊き返した。いや、幼かったからこそ訊けたのだろうか、何にせよ質問した覚えがある。その辺りにある空気は透明で色なんて付いていないと。
「それはね、空の上の方にはオゾンという空気があってね、そのオゾンが青い色をしているのよ」
カイルの父、パンドラも、母も両方がヴェルドのように科学者だった。ただし、パンドラは新しい物の探求。母は昔の人が残した書物から読み取ったことから、旧時代の優れた技術をサルベージしていたらしい。
「ところで、サルベージってどんな意味だったっけ?」
オゾンや海の青さの理由を覚えているのはただ単に興味があったからだ。興味があることはいくらでも知識を溜め込められるのだが、サルベージという言葉には自分の好きな科学にはあまりまつわらない単語なので、鮮明に記憶に残っていなかった。
「この街では、どんなことが起きるかな?」
哀しみか、手掛かりか。それとも仲間か——。
〈to be continued〉
次回ブルーサイドです
- Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.16 )
- 日時: 2011/12/08 19:38
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: xOnerCAx)
- 参照: 第二話 出会い Blue Side
とある旅館の一室。そこには一人の少女がたった一人で宿泊していた。親がいるいないとか、金銭の有無などは全く気に掛けないようにして。ベッドから起き上がり、歩いている時の立ち振る舞いや、身に付ける高価な品の数々から、彼女が良家に生まれたのはすぐに察することができる。口を開けば丁寧と表現するより、その言葉遣いは子供にしては固すぎると注意されそうなものだが、話し相手がいないので関係ない。
あくまでも、今日まではの話だが。今日から彼女は昨日までとは違う暮らしになる。することに変化は無いのだが、行動するのが一人ではなくなる。
射し込んだ朝日が顔を照らす、その眩しさに彼女は穏やかに起こされた。昨日は眠りに就くのが遅かったために、寝覚めはいつもと比べるとまだ眠い。
だがそんなことは言っていられないと、眠たいと叫ぶ意思に鞭打って上体を起こした。途端に、それに眠気は掻き消され、朝の気持ち良さがすっと入ってきた。
カーテンの隙間から射し込む程度の陽射しを、カーテンを全開にして身体中に当てるととても気分が良かった。今日から新しい事が始まるのだと思うと、眠っている暇はない。すぐにベッドから降りて着替えを始める。家を出てからずっと愛用している車輪の付いた引いて動かす鞄から着替えを取り出した。
「ディアス・ヴィオレッティ・グーフォ……一体何者なのでしょうかね。あんなことをすでに知っているとは」
ハリエルは昨日現れた男のことを思い出していた。その昨日現れた男、ディアスこそが今日から行動を共にする相棒のようなもの。
昨夜起こった事をハリエルは思い返す。確か彼が、呪いを受けた者同士はお互いに呪いを受けるということは無い、そう告げた後のことだ。いきなり彼は共に動こうと提案した。
最初は迷った、共に行動するかどうか。自分が死ぬこともそうだが、これ以上死人を出すことも。誰であろうとも目の前で、それも自分のせいで死なせてしまうのは忍びない。だが彼は自分に呪いが効かないことを証明するために、ハリエルと一時間以上同じ空間にいた。
結果は言うまでもなく、こうしてハリエルがディアスのことを待っているのだから彼の言った事は真実だと分かっている。つまりはディアスの言うように、ディアス自身も呪いを受けし者。
ふと、木製の品が叩かれる軽やかな音がする。コツコツと、小さく聞き取りやすい音だ。支配人か板前か、ディアスかの三人のうちの一人だとすぐに察した。「はい」と短く返答しながら考える。ディアスはもっと乱暴そうな風貌だったのでまず無いな、とも思った。
「朝食のご用意が出来ましたよ」
やはりそうかと、少し得意げになる。支配人のイーロ家の女性が朝の食事を知らせてくれた様子だ。了承しましたと、了解の意を示す。ではお好きな時間にどうぞと、引き下がった。
そしてまずは着替えを完全に終わらせようと今日着る服に手を伸ばした。どれにしようかやや迷ったが、新しい門出なのだから、ブルエらしい青い服にしようと、キャリーバッグを開いた。畳まれたいくつもの服が目に入る。その中から一着、胸元に蝶の刺繍の入ったものを取り出す。透き通った海のような蒼、蝶の色は何かを含んでいるようだけれども、美しい紺碧。これに限らずこの鞄にある服は全て、母の選んでくれた……形見だ。
ハリエルはそれに、優しく、ゆっくりと袖を通した。絹だろうか、綿だろうか、それとも羊毛だろうか。素材は知らないが、とてもその生地は肌に触れるとサラサラと心地よかった。
「さて……着替えも済みましたし、朝食を取ることにしましょうか」
足音をあまり立てずに歩みだす。ドアに手を掛けて開けると、当然のことながら誰もいなかった。しかし、ディアスはどこに泊まっているのだろうかと考える。昨日はあの後にすぐ、「じゃあな」とだけ残して去って行った。
窓から旅館の入り口を眺めてみると、事実彼は旅館から出ていった。その時は夜も更けていたのですぐに床に就いた。まだ、たかだか十歳の少女なのだ、睡眠時間というものは必要だ。
階段を降りて食堂に着くと、言われた通りそこには朝食が置いてあった。トーストにサラダ、ソーセージやハム、そして飲み物という簡素なものだったが、下手に凝った作品が出てくると、大概不味かったりするので質素な方が当たり外れが無いので良かった。
そのような食事を軽く終わらせて、その日の出発の支度をするために自分の止まる部屋に戻った。ひとまず荷物を鞄の中に全てしまわないといけない。大して散乱している訳ではないのだが、ディアスがいつ来るか、彼自身が言わなかったので知った事ではない。早めに支度を終わらせておくに越したことは無い。
それで二階に戻った訳だが鞄から出ているものなどついさっきまで着ていた寝間着だけで、後はほとんどバッグの中に入っていた。時間を潰しがてら彼女はその中を整理し始めた。傘や服などの日用品、小切手代わりの身分証明書など色々入っている。身分証明書は何か金がいる時に店の者に見せると家から金が引き落とされる、旧時代で言うクレジットカードだ。
「あのお屋敷も、五年ぶりでしょうか……こんな幼いうちから、こんなにも時を早く感じるなんて……あまり良い事では無いでしょうね」
鞄の奥底、一際大切に管理されているやや黄ばんだ、古い小さな正方形の紙片を取り出した。そこには母と、その膝の上で笑う自分の姿があった。そして、写真の中に座る母に話し掛けるようにハリエルは呟いた。その瞳は少しだけ光が反射し、ぼやけているように見えた。
「ちゃんとお母様の言い付け通り……仲間と呼べそうな者が現われましたよ」
彼女の母は、やはり虹の呪いで死なせてしまっていた。それが自分のせいだと気付いた時にはとても、五歳の我が身には抱えきれないほどの……重すぎる何かが押し潰してきた。私がそんな呪いにかかったから……当時のハリエルはそれだけしか言わなかった。
彼女の母は色々な人から好かれる人間だった。家を出てどこかで働き始めてからは、なかなか家にいなかったが、帰ってきた時にはとびきりの笑顔を皆に見せてくれた。そんな人が自分が原因で……そう考えると胸が張り裂けそうで、涙が止まらなかった。
そんな彼女を救ったのは父親の懸命な説得と、母の残した言葉だった。父親は誰のせいでもないと必死で説いた。姉も一緒だったと思う。そして、母はハリエルに「いつか誰か……心を許せる人が何人か現れます。だから……生きてください。呪泉境に向かいなさい」と残した。
「さて……そろそろ時間のようですね」
窓から外を眺め続けている彼女はそう小さく呟いた後に、立ち上がった。鞄の中に全ての荷物があることを確認し、洋服の裾を軽くはたいた。目に見えるか見えないか程度の微細な糸くずが舞う。
ディアスが辿り着いたのを見届け、ハリエルは部屋を出た。今日が、新しい呪い探求の第一歩となる。
〈to be continued〉
こんだけ話数重ねて中身が薄いとは……
でも、そろそろ動き出します。次回はバイオレットサイドの話です。
- Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.17 )
- 日時: 2011/12/14 22:51
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 2RWcUGdy)
- 参照: 第二話 出会い Violeto Side
「準備……できたみてぇだな」
「はい。勿論ですとも。昨晩からいくら時が経ったとお思いで?」
「勘違いすんなよ。心の、だ」
乱暴な口調でディアスがハリエルにまず話し掛けた。その言葉遣いはやや刺があるが、声音には全くそのようなものは無かった。まるで兄が妹を眺めるかのような、恥ずかしがりながらも気に掛けるような暖かさがあった。元来の性格に暖かさがある者だとすぐに納得したハリエルは、なだめるように当然だと返答をした。
だが、その回答はお門違いだとディアスは釘を刺す。あくまでも自分が訊いたのは気持ちの整理が付いたかどうかなのだと。そう言われてもたかだか身長百三十センチメートル程度の彼女は怯まずにさらに返す。
「そんなもの、とうの昔にできていますよ」
この呪縛から解き放たれるための覚悟など、とうの昔の旅立つあの日に出来ている。今更そんなもの作り直す必要性が無い。どちらかと言うと今回よりも一人で旅立つことを決意したあの日の方がよほど勇気が要った。頼れる者がいなくなる淋しさと恐怖に打ち勝った時、何処にでも行けて何でもできるような気分になった。
元々負けず嫌いで根性の座った娘だとディアスは聞いていたが、これは相当なものだとクスクスと笑った。その笑い方に少しハリエルはムッとする。
「何が可笑しいと言うのですか?」
「いや、少しな……てかお前全然子供らしくないな」
「大きなお世話です」
そんな事は昔から言われ続けていると補足した後にハリエルは溜息を吐いた。だが、それもディアスには貫禄のある四十代に突入していそうな人間のものに見えた。より一層彼の笑う声は大きくなる。苛々しながら睨み付けるハリエルの姿を見て、ようやく彼はその笑いを止めた。
「悪ぃな。そろそろ行くとするか?」
「そうですね。じゃあ次は誰を仲間に?」
「そうだな。まずは年少組を保護しないとと思っていたからやはりスティークか」
「どのような少年で?」
ハリエルが次の目的を訊くと、彼はスティークという少年を探すと答えた。昨日ディアスはまずは呪泉境に向かう前に七人全員を集めると言い切った。
そこからスティークについての説明が始まった。スティーク・オーレン・サンセット、名前通りオーレン家の少年である。親が料理人であったため、自らもその道に進もうとしていたために、八歳ながら大人顔負けの実力を持っている。食の都の一つ“ギュルム”で生まれ育ったため知らぬ食材はほとんど無い。
そして今言った通り食べ物に関しては確かに天才的なのだが。語尾を濁らせてディアスはそう呟く。何か問題があるのかとハリエルは疑問符を浮かべた。
「性格が俺らには考えられないほどマイペースなんだ」
「それだけですか? その程度別に気に掛ける程の事とは思えませんが……」
「会えば分かるだろ。ま、俺も親父から聞いただけなんだけどな」
どういう事を父親から聞かされたのかは知らないが、あまり良くは無かったのだろう。ディアスの表情は明らかに引きつっている。まあ、今は聞かない方が賢明だろうとハリエルは問い詰めるのを控えた。その代わりに次に自分たちの向かう目的地について訪ねてみることにした。
「その……スティークを探すのは良いのですが、どこに向かうおつもりで?」
「アバブ・オーシャンだ」
アバブ・オーシャン、元々中国と呼ばれていた国の中でも特に栄えていた街。旧時代の名前は上海だ。現在では世界有数の大都市であり、海にも近く景色が綺麗なことから、皆が一度は訪れたいと思う場所だ。
なぜそこに向かおうとするのか。その理由はかなり簡単だ。そこに目的の存在がいる可能性が高い、ただそれだけの話なのだ。スティークが旅を始めて、ギュルムを出たのはつい先日である、との事だ。それならばまだギュルムに一番近い都市を回っているところだろう。そのような予想を立て、一番確実性が高いのはアバブ・オーシャンだとなった訳だ。
この予想はあながち間違ってはいなかった。ハリエルは世界地図を頭の中に少し思い浮かべた。ギュルムからシューチェという、昔はシェンチェンと呼ばれた街を通ると目的地に辿り着く。ハリエル自身よりも幼い少年がそこに着くのとこんな所にいる自分たちが其処に着くのはほぼ同タイミングだと考えられる。
現在二人が位置しているのは倭の国の中心となる旧日本の四国と名乗っていた地方だ。
「行く手段は勿論、鉄道でよろしいですね?」
「そうして欲しいとこだな。じゃねぇと間に合わねぇだろうし」
「分かりました。では駅へと向かいましょう」
文明の廃れたこの時代、遠くまで旅行するための足は大概蒸気機関車か大型船に限られる。内陸部を移動するなら鉄道を利用するのが最も早い。ただし相当の距離を移動する場合、かかる代金は尋常ではない。一番最初に会ったのがハリエルで助かった。そのようにディアスは感じた。そのお陰で二人目を迎えに行く手間と時間が幾分か節約された。
そのような事を必死でディアスは考えていた。そう思い込もうとしていた。決して、最初にハリエルとスティークを迎えようとしているのは良心からではないと。ただ単に自分が利用してやるだけだと。もし本当に自分が幼い子供たちを救うために動いていると思うと、自分が良い人に見えてならない。所詮、我が身に宿る呪いを解くために仲間を集めているだけ。そのせいで自分が偽善者に見えてしまい、素直に自分と共に他人をも救いたいという本心が隠れてしまったいた。
だがディアスは子供を勘違いしていた。黙っていれば心情なんて伝わらないとでも思っているらしいが、そんな事は決して無い。子供という者は敏感で、無意識に目の前の者の胸中の思いを悟ってしまうものなのだ。ディアスの中には必ず優しさがある。そう思っていない限りハリエルは着いて行こうとしないだろう。元々貴族で、初見の人を中々信用しないハリエルが共に進むことを認めたのだから、ディアスとはやはり信用に足る存在という訳だ。
「何していらっしゃるのでしょうか? 早く行きますよ」
「ん? ああ、そうだな。目的地はアバブ・オーシャンで良いな?」
「そうですね。さっきの流れはきっと間違ってないでしょうから其処でよろしいのでは?」
「さてと、どんな所か分かるか?」
「勿論ですよ。と言うよりも、当然、でしょうか?」
「やけに自信があるな」
得意げに笑みを作って、その自信の源が分からず怪訝そうにしているディアスに理由を突き付けてやる。
「貴族が一員、ハリエル・ブルエ・オーシャンズ、生まれも育ちも、いつしか帰る家も全て、アバブ・オーシャンですとも」
〈to be continued〉
- Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.18 )
- 日時: 2011/12/18 20:37
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 4.fDTnfO)
- 参照: 第三話 遭遇 Red Side
今回RAINBOW SIDE省略です
「ネロの……後継者……だと?」
「うん。あれ? お姉さん聞いてない? 僕はそんな感じで言われたんだよ」
「聞いたって……誰からだよ?」
「仮面の人たちだよ」
その瞬間に、質問攻めしたレナは一旦口を閉じた。流石に年端もいかない少年を問い詰めるのは短気な事だと思ったからだ。
「仮面の?」
「うん、ちょっと前まで僕を育ててくれたんだ」
レナには、彼が言う仮面の人たちというのが誰なのか、さっぱり分からなかった。彼を、呪われた少年をつい最近まで育てていた、ならばなぜその者たちは死することが無かったのかと考えても答えが出てこない。それに自分はネロの後継者と呼ばれたが、ネロという名の人間に会ったことすら無い。しかしレナは思い出す。目の前の少年は、自分があの呪いを受けていると言い、レナが同じだと告知したのと共に、ネロの後継者だと宣告した。
まあ、この段階でなんとなくの想像はできていた。まず、この少年、名は確かスティークだったこの子、そして当然のように自分は虹の呪いにかかっている。それでいて、スティークは“ネロの後継者”という別名を持つ、虹の呪いに侵された者を探していた。なぜだかは分からないが、呪いが発動しなかった“仮面の人たち”にそうしろと言われたから。
「で、そいつらはお前にどんな風に命令した訳だ?」
「別に命令……って言わないと思うよ。確か……」
〈君には、周りの人を殺してしまうものが体の中に入っている。だからしばらくは友達なんてできないかもしれない。それでも、たった六人だけ例外がいる〉
そう、回想して説明した後にレナの方をもう一度よく見た。一人目の、紅い髪の颯爽とした女の人、その条件にぴったりはまっていた。短い髪を風になびかせて、華麗に舞うようにブルエの男に快勝したのはまさに神業で、颯爽としていた。
だから、彼女はネロの後継者であり、スティークが今まで恋い焦がれてきた、友達と呼べる存在に成り得る数少ない人間なのだ。でも……そのようにスティークは心配する。そういう友達になるかどうかの最終的な決定権を握っているのはレナなのだから。いくら自分が誠意を示して、心から懇願したとしても、レナが信用できないから嫌だと一言で切り捨てたならば自分には止める権利が無い。幼いながらもその程度は当然の事だと納得していた。
「お前……親は?」
「死んじゃったよ。聞いてた……でしょ?」
「ああ……そうだった、な」
「お姉さんは?」
「一緒だよ。死んじまった。五年前のあの日」
二人の間に静寂が訪れる。二人とも共に、自分の父母がいなくなった時の事を思い出していた。スティークは後から亡くなったと連絡を受けた。レナは我が眼前で両親が揃って黒い人形になった。何やら深い後悔と懺悔の思いの乗った表情をしていた。なぜだろうかと誰に問うても、答えてくれる者は誰一人いなかった。唯一解答を知る人がいなくなったのだから。
スティークの場合、一本の電話が入ったかと思うと、番号を確認した後に父親が出た。そして二言三言喋ったかと思うと、いきなり声を荒げてひどく驚いていた。とりあえず分かったと父は言い残し、受話器を置いた。そして何かから逃げるように部屋を出た。母さんを連れて。その後にスティークに、両親が死んだと報告が入る。そしてその翌日に“仮面の人たち”が来たのだ。
「…………なぁ」
最初にその静寂を破ったのはレナの方だった。俯いていた顔を、スティークは上げる。答えが出る、そう思った彼は少し緊張した。
「今までにあの日みたいな事に遭遇したの、何回ある?」
「あの日っていつ? 助けてくれた日の事?」
「そうさ。で……あるのか?」
「ううん、初めて。だからどうして良いか分かんなかった」
しばしの会話の途中にまたしてもレナは黙り込んだ。どうしたのだろうかと、スティークは顔色を窺うが、人生経験の少ない彼に年長者の心情を表情から察するなど、不可能な話だった。
「お前、どうやって暮らしてる?」
「アラウンド・バーンで食べ物貰って生活してる」
「寝る時は、どうしてる?」
「アラウンド・バーンのすぐ傍で大概は寝ているよ」
もう一度、沈黙を破ったのはスティークに対する質問だった。衣食住の住について。衣については訊くまでもないと判断したレナはようやく答えを決めた。ゆっくりとその口が開く。結果がどう出ても良いように幼き彼は身構えた。それに気付いたレナは優しく話し掛けた。
「そんなガチガチになんなよ。アンタが何を心配してるかは知らないけど、生憎私はね……目の前にいる助けを求める小さい子供を見捨てる程の鬼じゃないよ」
「じゃあ……」
「一緒に行ってやるさ。前みたいな連中からは私が守ってやる」
その瞬間、緊張と恐れで暗く冷たく固まっていた彼の顔がパッと輝いた。まるでこの世の終わりが訪れた時のように見えていた、沈んで黒みがかったように見えていたオレンジの瞳は、普段の夕日のような色を通り越して、より鮮やかな昇る途中の朝日のように見えた。雲の隙間から射し込んだ日が、スティークの全身に当たる。その日光を受けて煌めく橙色の髪の毛は、言い様が無いほど美しかった。
「本当に!?」
「マジだっての。アンタが嫌なら別にいいけど」
「そんな訳無いよ。嫌ならオイラは今、こんな事頼んでないし」
「それもそうか」
レナは軽く微笑した。そして思い出す。自分の事も少しは言っておかないといけないな、と。それ以前に目の前の少年に至っても名前しか知らないのだが。
「アタシはレナ。レナ・レッディ・ローズ」
「オイラはスティーク・オーレン・サンセット」
「ま、それだけ分かりゃ良いだろ。で、どこ行くよ?」
「それが、分かんないんだよね。どこに行けば何とかなるなんて誰からも聞いてないし」
自分は聞いているのに、なぜスティークは聞かされていないのだろうかと、レナは首を傾げた。だが、やはりそんな理由は彼女が知る由も無い。
「呪泉境に向かえばいいんだ」
「……? どこにあるの?」
「分からない……だから探してる」
「じゃあさ、大きな街に行ってみようよ」
どうせ行き先が分からないならば、人が多い所の方が分かりやすいのではなかろうかと思ったのだろうか、スティークはそのように進言した。
「そうだな、良い考えだ」
顎の辺りに手を添えて、最寄りの大都市は……と何度も呟きながら思い浮べているようだ。不意にレナは顔を上げて、少し声を荒げた。どうやら見つかったようだ。
「つまりは、アバブ・オーシャンだな」
〈to be continued〉
次回、グリーンサイド
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