ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜
日時: 2012/03/04 15:00
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: ksYmVYP2)

挨拶行きます、どうも初めまして狒牙と申します。
普段、ファジーとコメディのところにしかいないのですが
この度シリアスで初挑戦したいと思います。
パッと思いついたらすぐにしたくなる癖がついております。
と、言う訳でおそらくこれは更新する速度が相当に遅くなります。
もしかしたら月に二、三回になるかもしれません・・・
シリアスではまだ読んでいる作品が無いんですよ・・・
という理由があるのでできればお勧めの物や自分の物を紹介して下さい。
何度も言うように更新おそくなりますが見守ってください。


ついで言うと題名は「アルコバレーノ・ネロ」って多分読むと思います。
翻訳サイトで綴りしか出てきませんでした。
意味は「黒い虹」。なんか虹の呪いってジャンプ漫画のあれみたい・・・


では、始めたいと思います。


プロローグ


 これは遠い、未来の話。
 かつて無い程の大きさの壮絶な戦争が起きて、それまでの人類の文明は完全に廃れてしまった。
 徐々に進んだ文明も逆光の道を辿り、中世のヨーロッパのような街並みにまでなってしまった。
 そのような世の中で、最も多く生き残った民族は日本人だった。
 戦争放棄、平和主義、交戦権を否認していた日本はただ自衛に努め、その結果大した犠牲は出さなかった。
 それでも多少の被害者は現れた。そして残りの一億人ほどの日本人と、各国のほんの少しの生き残りが一同となり、新たに国を築き上げた。
 二度と戦争なんて起こさないために、強大なたった一つの国を。
 公用語はもちろん日本語だが、人々の名は西洋寄りになっていった。
 それだけが唯一世界中の者が日本に頼んだこと。先祖から受け継いだ大事な名字を継ぐことに関しては日本人もあっさり許可した。
 そのようなことの数百年後、世は先ほど述べたように中世のヨーロッパのような街並みになる。
 恒久の平和が続くと人々は信じ、願い、維持してきた。
 しかし平和も束の間、新たな脅威が生まれ出てきた。<呪い>という存在だ。
 国は最初それを静観していたが、ある時急に呪いを弾圧せんと動き始めた。
 その背景には底知れぬような漆黒の虹が、天空を統べるようにかかっていた。


———これは、七人の少年少女の呪いと闘う物語。




 赤い髪、オレンジの髪、黄色い髪、緑色の髪、青い髪、藍色の髪、紫の髪、彼らは口々にこう告げると言う話だ・・・


 ———止めときな———止めておいて———ごめんなさい———待って———止めて下さい———……———どうする?———
 ———アタシに関わったら———オイラに近づいたら———それ以上私に関わると———僕に関わると———そうなりたいなら話は別ですが、関わった場合は———貴殿、そう成りとうなければ———これ以上関わったら軽く———




               —————死んでしまいますよ—————




—————アタシの名前は、レナ・レッディ・ローズ

—————オイラの名前は、スティーク・オーレン・サンセット

—————私(わたし)の名前は、エール・イーロ・サンフラウ

—————僕の名前は、カイル・ヴェルド・フォレス

—————私(わたくし)の名前は、ハリエル・ブルエ・オーシャンズ

—————我の名前は、サムエル・インディガ・ナイトスキィ

—————俺の名前は、ディアス・ヴィオレッティ・グーフォ






 黒き虹の呪いを受けし者——。






——の使用が多いのは今回ぐらいです。
普段も稀に使いますが。


Story

第一話 生い立ち
GREEN>>1RED>>2ORANGE>>3YELLOW>>4BLUE>>5INDIGO>>6VIOLET>>9RAINBOW>>10

第二話 出会い
RED>>11ORANGE>>12YELLOW>>13INDIGO>>14GREEN>>15BLUE>>16VIOLETO>>17

第三話 遭遇
RED>>18GREEN>>19>>21ORANGE>>20YELLOW>>22BLUE>>23

Page:1 2 3 4 5



Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.9 )
日時: 2011/10/22 19:47
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: PIT.hrJ/)
参照: 第一話 生い立ち Violet Side




 その街は、ハリエルも訪れている、誰しもが認める理想の街だった。夜になった今も、各家々の窓から漏れ出る照明の光で街灯が無いというのに道路は驚く程明るかった。
 おそらくその窓の中では幼い子供、とは限らないが息子娘と食卓を囲う団欒とした家族が夕食でも取っているであろう。懐かしいなと、そこにいる素行の悪そうな青年は溜息を吐いた。
 その街の人間は皆、明るい笑顔で大切な人達と接する生活を送っていた。

 たった今溜息を吐いた青年と、ハリエルの二人を除いて。

 二人とも大切な人達と接する生活など、送っていなかった。特にハリエルなどはもう二度と送れないだろうと覚悟してさえいた。しかしだ、まるでフクロウが狙いを定める時のような怪しさを発する紫色の髪の毛と瞳を持つ彼はそんな覚悟は杞憂に終わるということを知っていた。なぜなら彼、ディアス・ヴィオレッティ・グーフォは、呪いを受けた者の中で、一番呪いについての知識を持っていた。まあ、それさえ無かったら本当にただの、頭の回らないチャラチャラした不良のような少年だった。
 そして今、ハリエルの止まっている宿を探していた。共に旅をする仲間を見つけるために。あの日々からようやくここまで来れたかと、走馬灯のように五年間を思い返していた。
 父親は死ぬ直前のほんの僅かな時間で自分に伝えられる限りの呪いの特徴を教えてくれていた。

「ここが、最後の宿だな。ここにいないとなると振り出しだが…」

 それでも調べないとならないのだから、眼前に位置する木製の扉を押す。そして、すぐそこの受付に話し掛けた。

「すいませーん、ハリエル様に仕える従者の一人なんですけど、ここにハリエル様は泊まってませんかー?虹について分かったことが一つあるんですけどー」

 本来の自分の話し方とはかけ離れた口調でそう、目の前にいるイーロ家の女性に問う。一瞬不審げな表情が浮かぶが、本人にうかがえば良いと判断したのか案内を始めた。その対応には無用心だと非難したくなったが、今はそれよりハリエルだ。
 そして、ドアの前に立って、受付の女性がノックをしようとするのを抑制し、一つ頼みごとをした。

「あまり聞かれたくない内容ですし、できれば席を外して頂けないでしょうか?心配だというなら階段の辺りから監視していてください」

 そう言ってやると予想外にあっさりと身を退いた。もしかしたら、このような容姿の男を恐れているだけかもしれないと示唆する。ピアスは付けているし、長いチェーンがベルトから垂れている。典型的な不良的な服装な上に、目は鋭く、殺気だっている。
 ご理解早くてありがとうございますと、頭を下げ、ドアに向き直ってノックした。カツカツと、固いものを叩く乾いた音が建物の中に響く。中から昼間の少女の声が返ってくる。

「俺の名前は、ディアス・ヴィオレッティ・グーフォだ」

 声で昼間の奴だとすぐさま気付いたのか、黙りを決め込んでいるようだ。返答が返ってこない。お堅い奴だなと呆れて、ある意味切り札とも呼べる説得の文句を告げる。

「どうした?私と三十分以上共にいたら、死んじまうぞってか?」

 ガタンと、中から物音が聞こえてくる。反応有りとディアスはほくそ笑んだ。その後にその場を支配したのは、再び訪れた静寂だった。どう対応するのか決めあぐねて中で考察している様子が容易にディアスには想像できる。
 さあ、どう決断を下すかと悩んでいるとカチャリと、回すようなものが聞こえた。回した物は言うまでもなく鍵。それも、開ける方の意味でだ。赤の他人で片付けるには惜しい興味深さがあったのか、我が身の境遇を知っている者に頼りたいのか知らないがとにかくドアは開くようになった。
 案の定、中からハリエルは出てきた。

「なぜ、あなたがそのようなことを…」

 目には当然のことながら驚きの表情が浮かんでいた。旧時代の言葉を借りるとしたら、寝耳に水といったところだ。まあ、そんな諺はディアスは知らなかったが。

「なぜかって?それはな、この俺が“俺達”の中で最も良く呪いのことを知っているからだ」

 不可解な色を隠すことなく顕にしている青い髪の少女が、理解しやすくするためにさらに自分についての説明を入れる。だがハリエルが反応したのは、俺達、という言葉だった。擦れるような声で、途切れ途切れにその単語を復唱したハリエルに、さらに細部の説明をディアスは加える。

「お前もしかして呪いを受けた不幸の星の下に生まれたの自分だけだと思ってる系?そんな訳無ぇじゃん、そんなに自分を特別視すんなよ」

 よくもそこまでスラスラと言葉が出るなと、賞賛を超えて侮蔑したくなるほどに、鬱陶しく言葉を続ける。しかしその声は一旦止まった。まるでハリエルに話させる余裕を与えるように、ディアスは沈黙した。

「でも……あなたもそれほど知らないのではなくて?もし完璧に知っていたら呪泉境ぐらいすぐに見つけているでしょう」

 呪泉境、それが自分に与えられた唯一の手掛かり。そこに行けば呪いは解けるかもしれないと、母から聞いた。

「意外に鋭いじゃねぇか。そうだな、流石に人より少しばかり知っている程度だな。それでもお前よりは多くのことを知っている」

 確かにそうだと、ハリエルは黙り込んだ。自分が知っていることはせいぜい呪泉境だけだ。では、目の前のヴィオレッティ家の青年がどこまで知っているのかと、考える。呪いを解く方法はきっと知らないだろう、だとすると一体何を知っているのか…

「俺は呪いを受けた人間の名前は全員知っている。お前が呪いを受けているとはそういう風に分かったっていう訳だ」
「それで、一体何人の人がいるのでしょうか?」

 ようやくディアスのことを信用したのか、詳しい話を自分から訊いてきた。その態度にディアスはガッツポーズを心の中で取った。

「えらく謙虚になったな?ま、その方が俺も助かるってもんだ。呪いを受けた人間の数?七人だ。名前はいるか?」
「存じ上げているならば、教えてくれた方がありがたいですね」
「長くなるけど良く聞けよ。まず、レッディ家のレナ、次にオーレン家のスティーク、さらにイーロ家のエール、ヴェルドのカイルにブルエのハリエル、インディガのサムエルがいて、最後にヴィオレッティのこの俺だ」

 意外に人員が多く、思わず目を見開いてしまった。自分を抜いて六人も同胞がいるなんて、思ってもみなかった。だが、考えれば当然である。
 虹がかかり、そのことが呪いの証と言うのならばその色一つあたり一人の人間、要するに七人の犠牲者がいるということになる。
 そんなことに一人納得した後にディアスは間髪入れずにさらに言葉を付け加える。

「呪いを受けた同士は、呪いで死ぬことは無い」

 それが何だと言うんだ、そう思ったのだがこのことを一々伝えた理由はその次の言葉に繋がっていた。

「そこで提案だ。お前、俺と動く気は無いか?」




                 <to be continued>

Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.10 )
日時: 2011/10/30 17:46
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: RcHXW11o)
参照: 第一話 生い立ち Rainbow Side






レナ:よぉ、今からレインボーサイドの簡単な説明をするぞ

ハリエル:分かりやすく言うと、その話全体の振り返を台本書きで行う総集編です

スティーク:自分の話を自分で解説するんだよ

ディアス:話し方や性格をここで若干固めることもできる

カイル:まあ、制作秘話だと思ってください

サムエル:たまに作者の本音が我らの口から出る



まずはレッドサイドについてです

レナ:んじゃ、まずアタシか。アタシはカイルの次、要するに二番目に出来たキャラクターらしい。
   武術系に秀でた奴があったら良さそうと思ってたら、赤い髪なら戦い好きそうだという理由でアタシがそうなった。
   一応年長組だから多少の相談には乗れる設定だ。
   後ろの名前の由来は薔薇の英語名だ。レッディはレッドをもじっているんだ
   アタシは以上。



次はオレンジサイド

スティーク:オイラは漫画見ながら考えたらしいよ。
      その本の中に料理を作るのも食べるのも好きなキャラクターがいて、
      何となくのほほんとした感じがオレンジのイメージに合ったらしいんだ。
      一番年下っていうのもあってそれでも大丈夫ってことになったんだって。
      アラウンド・バーンは元々オイラのためにできたんだって。
      七人の中での癒し系になって欲しいと思われているそうだよ。
      名前の由来は日の入り、夕日の美しいオレンジ色からサンセット。オーレンはオレンジをもじっているんだよ。
      オイラはこれで終わり。



お次はイエローサイド

エール:私はカイルと最も歳が近い存在、親友のような立ち回りになるように作られたの。
    最初に私が出来た時は一人称に苦労したらしいわ。アタシと私と後一つが問題だったらしいわ。
    そこで出てきたのがハリエルの私(わたくし)。漢字で書くと変わらないのが難点ね。
    イーロの元になっているのはもちろんYELLOWよ。真ん中のELLOに注目したって訳ね。サンフラウはタンポポの英語名のサンフラワーをもじっているわ
    私はこの辺りで終わろうかしら。



お次はグリーンサイド

カイル:僕が最初に、主人公郡の中心キャラとしてできあがりました。だから本来虹は上から順に赤橙黄緑青藍紫なのに、グリーンサイドから始まりました。
    ただし二話はレッドサイドから始まります。    名前の由来なんだけど、ヴェルドっていうのは元々ヴェルデというフランス語で緑を表す単語を改変したそうです。
    作者が調べずに勝手に使っているので信用しない方がいいと思います。
    フォレスは緑に生い茂る森林、フォレストをもじってます。

緑はこの辺りで終わりましょうか。



お次はブルーサイド

ハリエル:私は先程のエールさんの台詞から察することができるでしょうが、最後に生まれたキャラクターです。
     サムエルの賞金だけで生きていけるか怪しいので資金調達のために貴族になったという訳です。
     貴族だからと言って何もできない訳ではございませんよ。
     ブルーサイドに出てきた通り大概の事は自分でできますから。
     もうそろそろお察しでしょうが、ブルエの元はブルー、オーシャンズの由来は真っ青な海です。



お次はインディゴサイド

サムエル:我が出来たのはかなり後の方とのことだが、刀を持っているから作者のお気に入りらしい。
     刀を持っていたら何となく好きなんだと言うていた。
     主人公カイルよりもらしいが、果たしてどこまでが真なのやら。
     刀があったら七人の中で最強。無かったらレナに負けるらしいな。
     女子に負けるのは気落ちするが、レッディ家の神童ならそれも納得だな。
     インディガは、藍色の染料インディゴから生まれ、ナイトスキィの姓はNIGHT SKY、濃紺の夜空からとってある。

藍色にもそろそろ終止符を打とうか。



ラスト、バイオレットサイドです

ディアス:さあ、俺が最後か?俺の名はディアス、『走れメロス』の暴君ディオニスが元だ。
     レナも年長だが俺が一番年上でな、最も呪いについて知っている。
     さすがに親父の方が知っているけどもう死んじまってる。
     単純な腕力なら七人最強だ。喧嘩は三位だがな
     ヴィオレッティはバイオレットから生まれたぞ。
     グーフォはフクロウって意味だ。紫は怪しい感じだからな、同じように何かを企みそうなフクロウって訳だ。
     とまあな、色々あったがレインボーサイドはこれにて終わり。
     第二話もよろしく頼むぜ

カイル:では、次回に続きまーす

Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.11 )
日時: 2011/11/07 22:05
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 91QMlNea)
参照: 第二話 出会い Red Side





 その少女は、最近悩みを抱えていた。今までも心の闇を払うことはできていなかったが、今回感じる悩みは新たなものだった。
 最近ずっと尾行されている気がしている。いや、もう犯人の面は拝んだ。だからこそ余計に悩んでいた。今までのものと比べると相当に微笑ましいのだから。
 追ってきているのは十歳にも満たないオーレン家の少年だったからだ。
 つい先日、違う街でチンピラに囲まれたところを助けてからというもの、ずっと付きまとわれていた。感謝のつもりか、違う理由か分からないが何だか変な感じがする。
 子供である以上武士達に言ったところで対応してくれる筈もない。結局は自分で何とかするしか方法が無いということなのだが、やはり自分にもあどけない幼子をなぶる趣味は無い。
 やはり話し合ってみるのが一番だろう、普通の人間にとっては。だがそれは彼女、レナ・レッディ・ローズにはできない相談だった。
 彼女は十二、三の頃に何かのきっかけで虹の呪いを受けた。時間にしておおよそ三十分、それだけの時間を自分と共に過ごした者を死に至らしめる呪い。
 大切な人を次々と殺していく反面、直接呪いを受けた者が死ぬことは無かった。
 愛する者、肉親、友人、全てを失ってもこの世に止まらされる絶対的な孤独。想像するだけで辛さが伝わりそうなそれを、彼女は五年間も耐えてきたのだ。
 ただしそれは、後を尾けているオーレンの幼子、スティーク・オーレン・サンセットも同じだと、彼女は知らない。

「アタシにどうしろって言うんだよ……」

 言葉をあまり知らない自分より遥かに幼い子供に三十分以内で納得させてどこかへ追いやる手段は思いつかなかった。
 彼女自身も日本語というものを深く理解していないからだ。分かりやすく説明できる訳が無い。

「でも、子供に手を出すのはなぁ……」

 よくガラの悪い非行少女だと思われがちだが、レッディ家に生まれ、レッディ家らしい道を歩んできたので武道の精神は深く心に居座っている。子供に手を上げるなどということはしたくない。正確には子供だけでなく、例外を除くほとんどの者だ。身にかかる火の粉を払う以外に力の使い道はない。

「さてと……生活費がまずいんだよなぁ……とりあえずアラウンド・バーン行くか」

 ポケットを確認してみてもわずか二枚のコインが金属音を奏でただけだった。例のオーレンの少年を助けた日の四十円、それがいつの間にか二円にまで減っていた。
 不本意ながらカツアゲしてくる奴がいないかな、と考えてみた。正当防衛の流れで勝手に向こうから金を置いて去ることもかなり頻繁に起こることだ。
 そんな要らぬ願いが天に通じたのか、鋭い目付きの、顔に切り傷の傷痕が何本も残ったブルエ家の中年男性が絡んできた。

「お嬢ちゃん……お金、少しは持ってんじゃないのぉ?」

 本当に来やがったなと、少し呆れる。しかし、都合が良いのだ、文句は言わずにこれまで通りやってやれば大丈夫だろう。
 世の中、たった一人で世界を渡り歩くなんて所業はそれなりに金を持っていないとそうそうできることではない。そのために、そのような人間と判断されるとそこいらの奴に絡まれる。
 まあ自分の場合はそんなことは無いのだがと苦笑する。そのうえで、今回はまあまあ珍しいかもしれないとも思った。
 この手の輩にはヴィオレッティの奴が多いのだが、今回は珍しくブルエ家の男だった。時折レッディやヴェルドが入り込むが、イーロやブルエは珍しい。その顔の傷痕から、堅気の者ではないと、即断する。
 家柄で性格の主な部分が入り込むケースは多々あるが、本来人格形成に家柄は関係無いだろうと常々レナは思っていた。旧時代でA型はどうこうB型ならそうとか言っていたようなものだ。それだけのはずなのにやはり家柄は個人の性格に根強く反映されていた。

「それが……二円しか無いんだ。それに、勝って得るものの無い勝負はしない主義なんでね」

 できる範囲で、威嚇の意味を込めて彼女は不敵に笑った。勝ちに確信のあるその男は受けて立ってやると、やはり不敵な笑みを作った。

「じゃあ、お前が負けたら俺たちの組織の末端として入ってもらうか」

 レナは一旦大股で後ろに下がり、じりじりと間合いを詰め寄っていく。間合いを調整しようとするレナに対してブルエの男は落ち着いてどっしりと構えている。
 まず始めに動いたのはレナ、爪先で力強く大地を踏みつけて宙に浮く。その瞬間に地を蹴った反対側の脚の膝を突き出した。
 その鋭い飛び膝蹴は、彼女の思いの外、両の手であっさり受け止められた。勢いを完全に殺された彼女が再び地上に降り立つと、ブルエの男の握りこぶしが眼前に迫っているのに気付く。
 一撃目が防がれた時とは対照的に一切動じることなく冷静に振る舞い、左腕の払いで横にずらす。相手が突き出した左腕が、右腕で殴ろうとする通路を邪魔して手が出せない。その作り出した隙をレナは突いた。
 がら空きになった横っ面に渾身の右フックをたたき込む。バキッと鈍い音がしたが、骨が砕けるような感覚は拳を通して伝わってこなかったのでそれは無いと、追撃を始める。
 右フックの勢いでそのまま体を反時計周りに回転する。丁度三分の二ぐらい回ったところでレナはまたしても宙空に飛び立った。慣性の法則で螺旋運動は続き、ついにその首筋に蹴が入る。
 うっと低く呻いて蹴られた部位を押さえて男は倒れこんだ。深めに蹴りこみ、爪先が後頭部に食い込むように足を入れたので脳が揺れて上手く起き上がれないようだ。

「勝負あったか?」
「あったと言わざるを……得ないだろう」

 悔しそうに顔を歪めてポケットに手を入れてガサゴソと中を漁るようにしている。

「二円しか無いならこれでも大金だろう」

 取り出されたお札には旧時代の偉人、“ヒグチイチヨウ”が描いてある。
 彼の言う通り、レナにとって五千円はかなりの大金だった。異常に物価の安い現代では食事抜きの宿泊料金は千円未満と相当なものだ。
 だがそれは逆に、その額は少なくとも五日暮らせるという、普通の人にとってもそれなりの額であるとも言える。

「こんなに……アンタ、生活大丈夫なのか?」

 これだけ受け取るとそっちの日常に支障が出ると、もう少し少なくて構わないとした。が、敗北した男は別に大丈夫だと手の平をかざして律した後に、ふらつく足で立ち上がった。

「こんなんばっかりしていると結構金が入るもんでな」

 ああ、そうと呆れるように苦笑したレナは礼を示すために会釈して、三十分経っていないことを確認して立ち去った。
 その様子も全て、スティークは見ていた。



                 <to be continued>

Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.12 )
日時: 2011/11/13 21:31
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: z9DnoDxA)
参照: 第二話 出会い Orange Side





「あの人が……仮面の人達が言っていた、僕の友達なのかな?」

 あっさりと大の大人、それも男を力でねじ伏せたレッディ家の女性をその夕日のような橙色の瞳で眺めながら、オレンジ色の煌めく髪を風に揺らして、小さく少年は呟いた。
 その、柱の陰に隠れて様子を伺う姿はストーカーに見えなくもなかった。もしもその少年がまだ幼く、たかだか八歳やそこらの少年でなかったらの話だが。
 華麗な拳闘術でブルエの男性をねじ伏せたまだ二十歳にも届いていないほど若い彼女が誰なのか未だ彼は知らない。
 でも、三歳の時から彼を育てた『仮面の人達』が言っていたことと、酷似していたのだ。そのレッディ家の女性は。
 小さい身に付く、まだまだ未成熟の頭で彼、スティーク・オーレン・サンセットは思い出した。自分の育ての親の言葉を。

〈君には友達が六人できる。一人は紅い髪の颯爽とした女、一人は黄色い髪の柔和な女、一人は緑の髪の利発そうな男、一人は青い髪の気品ある女、一人は藍色の髪の堅気な男、一人は紫色の一見凶暴そうな男〉

「あの人、言われた通りの紅い髪の人にそっくりなんだよなぁー」

 声をかけるかかけないか迷う彼は、心情とは対照的に呑気そうな声で呟いた。違っていた時に恥ずかしいというのもそうだが、違っていたら呪いのせいで死なせてしまうことが恐ろしかった。
 そういう葛藤が彼をその場に縫い付けて動かそうとしなかった。
 しかし、このような年頃から絶対的な孤独感を感じているスティークにとってこれは、ようやく人の暖かさに触れるチャンスだった。
 そういう機会を逃したくない、引き返したくないという思いも、彼をここに留まらせる要因となっていた。
 行くか行かないか、退くか退かないか、その選択肢が幼い頭の中でぐるぐると回っている。
 どうしようかと頭を抱えて後退してしまった時に彼は武士と同じ着物を着た女性にぶつかってしまった。
 その人は、武士が凶悪な犯罪に対抗するのと対照的に市民のために地元のパトロールや道案内などをこなす同心の人だった。旧時代ならば交番という場所で働くものだが、今は自宅から出ても良い。

「ボク、迷子になっちゃったのかな?」

 優しい声音でスティークにそう訊いてきたのは、柔和な四十頃の、イーロ家の女性だった。普通の幼い子供に接するように、しゃがみこんで目線を合わせて、ボクと言ってスティークを指した。
 精神年齢は年不相応に高かったため、そんな言い方でなくとも良いのにと、子供らしくムッとした。

「いや、オイラは迷子じゃなくて……その……」

 発生している問題は二つだ。どのように誤魔化してこの同心を説得するかということ。正直に人を追っていると答えたら、何と怒られるか分からない上に、下手に答えるとやはり迷子扱いされて、連れていかれる。
 そうなった時に発動する問題が、二つ目の問題、この同心に対して虹の呪いが発現することだ。ちょっと話をさせてと言われたらもうお終い、確実に三十分以上話すこととなり、この人は確実に死ぬ。

「お名前は?お父さんお母さんが何家か分かる?」

 そんなに慌てるスティークを尻目に同心の女はべらべらと喋り続けて質問攻めにしてくる。
 自分の思うように事が一つたりとも運ばず、焦りと苛立ちで我を忘れてしまったスティークは、あろうことか現実を全て曝け出した。

「名前はスティーク!スティーク・オーレン・サンセット!お父さんもお母さんもオーレン、でも……二人とも死んじゃったんだ!虹の、虹の呪いのせいで!」

 声を荒げて、所々どもりながらも彼は言い切った。辛い過去を思い出した緊張感と大声で怒鳴った疲労とで、息が少し切れていた。肩も大きく動いている。
 その様子を見ている女性は、初め茫然として、じっとスティークを見つめていた。この子供の言っている事のどこまでが本当なのか、判断に悩んでいるようだ。
 ほんの数秒だけだが、僅かに吹く風の音すらも聞こえる沈黙が訪れる。何も聞く音は無いのに、感覚はどんどん鋭敏になり、少し離れた所で遊ぶ無邪気な少年少女の声が鮮明に耳に入る。その声に我を取り戻した同心はまたしてもスティークの説得に戻った。

「じゃあとりあえず、私の上司に話してあげるから……着いて来てくれる?」

 優しい言葉を発したはずだが、その声は動揺で震えていたため、ほぼ強要するようなものになっていた。
 それとは関係ないが、スティークは彼女に抵抗した。

「もう……もう十分経ったよ、後二十分。それでおばさんも死ぬんだよ!」

 また、虹の呪いの被害者が出る。それはスティークにとって最も耐え難い苦痛だった。自分は、自分は死を撒き散らすために生まれてきた訳じゃないのに——。

「放…してっ!」

 幼い体で必死で抵抗するも大人の力の前ではあっさりと押さえつけられる。
 その時に、脇から、不意にスティークの味方が現れた。

「スティーク、こんな所で何やってんだよ。迷子になるなってあれほど言っただろ?」

 助け船を出したのは、彼が追い掛けていたレッディ家の女性だった。騒ぎを聞きつけて助けようとしてくれたのかどうかは一概には決められないが、手を差し伸べてくれたのは確かだった。

「返事は?」
「あっ……う、うん!」

 頭では理解したがまだ固まっているスティークにレッディの女が念を入れるように問い掛ける。動揺の残る声だったが、力強く彼は頷いた。

「失礼ですがあなたは……」
「施設の中の姉貴分みたいなもんさ。文句あるかい?」

 さばさばとした口調で流れるように説得する。もうすでに施設に入っていると分かったからか、予想以上にあっさりと同心の女は引き下がった。

「そうでしたか……なら、その子はよろしくお願いします」

 最後に軽く一礼だけして、そのイーロ家の同心は、安心して踵を反して去っていった。
 解放されたと、ほっと息を吐いた時に、今度は助けてくれた人間が尋問を始めた。

「アンタ……虹の呪いって言ったよな?」
「えっ?」
「さっき確かにお前は虹の呪いって叫んだよな?」
「う、うん!」
「あたしだけじゃ、なかったのか」

 私だけじゃなかった。何について自分だけじゃなかったかなんて、この文脈では虹の呪い以外考えられない。
 ということはだ、この女性も虹の呪いを受けしものだ。

「やっと見つけた!」
「ハァ!?」

 沸々と沸き上がる喜びを押さえ切れず、紅潮させた顔で叫んだ。いきなりの突飛な行動で、目の前の子供に対してレナは目を丸くした。

「あなたが、ネロの後継者の一人ですよね」




                 〈to be continued〉



レナがスティークの名前が分かった理由は勿論スティークが叫んだからです

Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.13 )
日時: 2011/11/20 21:55
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 01wfR6nM)
参照: 第二話 出会い Yellow Side




 雨の降り続ける街を抜けた先には、廃れた道が真っ直ぐ続いていた。整備という言葉を知らないかのように、地面はひび割れて鬱蒼と雑草が生い茂っている。
 道を歩く者は自分以外に一人も見受けられず、本当にこの道は誰からも必要とされていないかのように思えると、エールは少し陰鬱とした気分になった。目的を遂げ、忘れ去られたその道を悲しく思い、自分もこうなるのではないかと、恐ろしくなる。光を受けるとキラキラと金に近い色に輝く髪の毛は、曇り空の下で煌めきを失っていた。

「これ……一体どこに通じているのかしら?」

 そんな道を小一時間ほど歩きながら、エール・イーロ・サンフラウは呟いた。なんだか危ない方向に進んでいる気しかしなくてならない彼女は、やや不安げに振る舞っている。
 オロオロとしながらどうしようか決めあぐねていた時に、前の方から人が歩いてくるのを見つけた。服装と、一人でいることから察する限り、一目で浪人だろうと検討を付ける。袴を着て、髷を結い、赤の短刀と藍色の長刀、二本の剣を持つインディガの青年だ。年齢は雰囲気から察する限り二十歳程度だろう。そのように予想したエールは彼に声をかけた。

「すいません、この先には一体何があるのでしょうか?」
「…………知らないのか?」

 少し驚いたような表情を取り、何と返せば良いのか考えたのか、しばし沈黙する。かと思えばそのインディガの青年は口を開いた。この先にある世界的に有名な街を知らないのか、と。

「女子供が一人で行くような街ではない。貴殿にはあまり推奨できん」
「どういうことですか?この先には何という街が?」
「名前はない。世界一の犯罪の集落と言えば分かるか」

 そしてようやく彼女は察した。この先には危険な街があると。行く前にそれを教えてもらって良かったと彼女はほっと胸を下ろした。
 安堵したエールは別のことに気付いた。急いでいるのか知らないが、その青年は急いているように、そわそわしていた。早く進みたいのか、話を早く終わらせたいのか分からないが、あまり長居できないようだ。
 それは自分も同じだと、彼女は気を引き締める。心を許して際限なく話し続けると、この人は死ぬと自分に言い聞かせる。

「お知らせくださりありがとうございますね。ところで、御侍様はどういった用件で?」

 このようなやりとりは社交辞令で、当然のようにエールは問い掛けた。
 そんなもの、仕事に決まっているだろうと冷淡に返される。普通の者ならここで怒ったりムッとするものだが、エールはこれを気に障ることだとは思わなかった。
 単に心やさしいだけでなく、感受性の豊かな彼女は、人の隠してある感情を読み取ることが容易にできる。エールには、彼の胸中の深奥に救う哀しみに気付いていた。
 だが、そんなところに見ず知らずの者がズカズカと土足で踏み込むのは野暮なことだと、自分を抑えた。誰にも触れられたくない過去や思いがあるのだから。

「そうですか、ではありがとうございました」

 踵を返して立ち去ろうとした時に、少し勘に触れたのか少々奇妙そうな顔を浮かべてそのインディガの青年はエールに声をかけた。ゆっくりと彼女が振り替えると、見据えた先の男の瞳には怒りは浮かんでいなかった。
 呼び掛けていておいて何も言葉を発しない青年に苛立ちは覚えていなかった。その表情は、まるで大昔の異国の者が鏡を見たようだった。見ることのできるはずのない、自分によく似た虚像を見たような、そんな表情。

「どうか……しましたか?」
「いや、申し訳ないが特には……今のは忘れてもらえた方が助かる」

 どうやら、ふと無意識のうちに口から出たようだ。そんなこともあるものかと彼女は首を傾げた。不審げなその態度を見て悪く思ったのか、彼は一礼した。

「すまない、どうやら我に似ていたのでな」
「私が……あなたと?まっさか」

 エールは失礼だと思いながら楽しそうにクスクスと笑った。エールは彼が言っていることは真実とは思えなかった。大層強い浪人と一概の少女に接点も共通点などないのだから。それがとても可笑しくて、彼女は笑った。

「似てませんよ私なんか……人を助けるなんて……それどころか不幸に陥れることしか……」

 そう言った瞬間に気付く、しんみりとした話や顔を見せたのは失敗だったと。きっと不審に思って何があったのか訊いてくるだろうと。
 だが、予想に反してその空間には沈黙が走った。真空の世界に迷い込んだかのような心境。何事かと思って顔を上げたエールの瞳に、さらに驚きの色を強くしたインディガの男はいた。

「今、貴殿は何と……」

 何やら意に反して驚いているようだったが、そんなことは気にもせずに、強く風は吹いた。濃紺の髪を、黄色く沈む髪を。
 雲の間から、晴れた青が見え始めた。ようやく暗い黄色は、明るい黄金に輝いた、それでもまだまだ弱い光だが。
 気を抜いてしまったのが不味かった。特にエールは。背後にゆっくりと回り込んだ者の存在に気付かなかったせいで窮地に陥ることとなる。
 ただし皮肉にもその一時の恐怖はその先の自分の居場所を作ることとなる。
 ガサッと茂みから音がしたかと思うと、一人の無法者が飛び出してきた。髪の色から察するにオーレンの者のようだ。悲鳴を上げる間もなく、抵抗することすらできぬまま、エールは肩を掴まれて、喉元にナイフを押しつけられた。

「えっ、ナイフ!?わたっ、つかまっ……えぇ!!」

 慌てたエールが整わない日本語で叫ぶと後ろの奴は上手く事が運んでいる愉快そうに嗤う。

「そこの兄ちゃん。刀持ったあんただよ」
「我のことか?」
「そうさ。刀って高く売れるらしいな。ちょっとそこに置いて行ってもらおうか?」

 それまで動かなかった青年の眼に真剣な眼光が宿る。眉間に皺は寄り、目は吊り上がり殺気立ったオーラが放たれる。その気迫にたじろいだ無法者は冷や汗を浮かべた。速くなる動悸、感じる焦燥、戦場に赴いた兵士の感覚。

「それはできない。父の形見と……これは絶対に譲れない」
「そうかよ、人質いんだぞ!浪人なら困っている奴は助けろよ!あぁ!?」
「貴殿は金が欲しいのだろう?ならば現金をやるから早くその女子おなごを離せ」
「なんだ、話が分かるじゃねぇか」

 一旦は近づいたナイフがまた遠ざけられる。エールの中の緊張も溶けていく。その時に、エールは見つけた。ナイフを突き付けるその手が震えているのを。
 何やら事情があるようだとエールは感じた。そうでないとオーレンの人間がこんな緊張感を持って動くことは無い。

「あなた一体何をしたのですか?」

 やさしく、ゆっくりとエールは問い掛けた。胸中を見透かされて動揺したオーレンの者は叫ぶ。

「お前が知る必要は無い!」

 そして一つの悲しみと、希望に繋がる細い細い光が射し込む————。




                 〈to be continued〉

次回、一旦Green Sideを飛ばしてIndigo Sideです


Page:1 2 3 4 5



この掲示板は過去ログ化されています。