ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜
日時: 2012/03/04 15:00
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: ksYmVYP2)

挨拶行きます、どうも初めまして狒牙と申します。
普段、ファジーとコメディのところにしかいないのですが
この度シリアスで初挑戦したいと思います。
パッと思いついたらすぐにしたくなる癖がついております。
と、言う訳でおそらくこれは更新する速度が相当に遅くなります。
もしかしたら月に二、三回になるかもしれません・・・
シリアスではまだ読んでいる作品が無いんですよ・・・
という理由があるのでできればお勧めの物や自分の物を紹介して下さい。
何度も言うように更新おそくなりますが見守ってください。


ついで言うと題名は「アルコバレーノ・ネロ」って多分読むと思います。
翻訳サイトで綴りしか出てきませんでした。
意味は「黒い虹」。なんか虹の呪いってジャンプ漫画のあれみたい・・・


では、始めたいと思います。


プロローグ


 これは遠い、未来の話。
 かつて無い程の大きさの壮絶な戦争が起きて、それまでの人類の文明は完全に廃れてしまった。
 徐々に進んだ文明も逆光の道を辿り、中世のヨーロッパのような街並みにまでなってしまった。
 そのような世の中で、最も多く生き残った民族は日本人だった。
 戦争放棄、平和主義、交戦権を否認していた日本はただ自衛に努め、その結果大した犠牲は出さなかった。
 それでも多少の被害者は現れた。そして残りの一億人ほどの日本人と、各国のほんの少しの生き残りが一同となり、新たに国を築き上げた。
 二度と戦争なんて起こさないために、強大なたった一つの国を。
 公用語はもちろん日本語だが、人々の名は西洋寄りになっていった。
 それだけが唯一世界中の者が日本に頼んだこと。先祖から受け継いだ大事な名字を継ぐことに関しては日本人もあっさり許可した。
 そのようなことの数百年後、世は先ほど述べたように中世のヨーロッパのような街並みになる。
 恒久の平和が続くと人々は信じ、願い、維持してきた。
 しかし平和も束の間、新たな脅威が生まれ出てきた。<呪い>という存在だ。
 国は最初それを静観していたが、ある時急に呪いを弾圧せんと動き始めた。
 その背景には底知れぬような漆黒の虹が、天空を統べるようにかかっていた。


———これは、七人の少年少女の呪いと闘う物語。




 赤い髪、オレンジの髪、黄色い髪、緑色の髪、青い髪、藍色の髪、紫の髪、彼らは口々にこう告げると言う話だ・・・


 ———止めときな———止めておいて———ごめんなさい———待って———止めて下さい———……———どうする?———
 ———アタシに関わったら———オイラに近づいたら———それ以上私に関わると———僕に関わると———そうなりたいなら話は別ですが、関わった場合は———貴殿、そう成りとうなければ———これ以上関わったら軽く———




               —————死んでしまいますよ—————




—————アタシの名前は、レナ・レッディ・ローズ

—————オイラの名前は、スティーク・オーレン・サンセット

—————私(わたし)の名前は、エール・イーロ・サンフラウ

—————僕の名前は、カイル・ヴェルド・フォレス

—————私(わたくし)の名前は、ハリエル・ブルエ・オーシャンズ

—————我の名前は、サムエル・インディガ・ナイトスキィ

—————俺の名前は、ディアス・ヴィオレッティ・グーフォ






 黒き虹の呪いを受けし者——。






——の使用が多いのは今回ぐらいです。
普段も稀に使いますが。


Story

第一話 生い立ち
GREEN>>1RED>>2ORANGE>>3YELLOW>>4BLUE>>5INDIGO>>6VIOLET>>9RAINBOW>>10

第二話 出会い
RED>>11ORANGE>>12YELLOW>>13INDIGO>>14GREEN>>15BLUE>>16VIOLETO>>17

第三話 遭遇
RED>>18GREEN>>19>>21ORANGE>>20YELLOW>>22BLUE>>23

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Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.4 )
日時: 2011/10/06 21:16
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Q9sui1jr)
参照: 第一話 生い立ち Yellow Side



 その街は治安が良いながらも、どんよりと曇った街だった。止まぬ雨が降ることから、永遠雨の街〈エターナル・レイニー〉と呼ばれている。本当に雨が止まぬ訳ではないのだが、一年のほとんどが雨季であり、乾季以外はパラパラと落ちてくる小雨やふわふわと舞い降りる霧雨が道を歩く者の服をじっとりと湿らせていく。
 道行く者は皆傘を手に持ち、雨に対し浮かれもせずに、嫌いもせずにただ日常の出来事として無感情に歩いていた。この街はそれほど寒くなく、というよりもそれなりに温暖な地域に属していたので、気温としては丁度良い土地だった。
 道行く者の傘は、各々の家々の色を特徴にした傘なので、道路は上から見ると虹の七色に彩られていた。そう、この街の本当の名前は、虹の街〈レインボー・タウン〉。
 雨の中歩く人々に、鬱蒼とした表情を浮かべている者、雨を嫌がる者は誰もいなかった。

 たった一人の少女を除いて……

 彼女は、唯一この街にいる者の中で雨を毛嫌いしていた。それもそうだ、この街には降水に慣れ切った住民しかいない。このような天候の街に観光客は訪れようとしない。
 そのような街なのになぜ彼女、エール・イーロ・サンフラウは訪れようとしたのだろうか。
 簡単な理由だ、この街の名前はレインボー・タウンであり、虹に執着のあるエールにとってここは調査に値したのだから。実際この街は彼女のお望みの答えは無く、そのことが彼女を陰鬱にしていた。
 雨露の中で咲き誇る向日葵のように、黄金に誇張する綺麗な、黄色くサラサラと揺れる髪の毛。同じように黄色く美しい瞳。そういう人間が暗い顔を浮かべるのは珍しいことだった。
 イーロ家の人間は前述の通り、髪と瞳の色が美しく、いつまでも眺めていたいほどの黄色である。そして、とても温厚な性格で滅多に憤ったり、苦渋そうな表情を浮かべたりはしない。見せない訳ではなく、そもそもそのような負の感情を考えない。慈悲深く、他人の事を第一に考えられる。
 そんな性格の一族がそのような表情を浮かべるなど、並々ならぬことだった。しかもそれは例外的な個性、言うなれば元来彼女の中にある物が原因ではなくて外界から受けたことからだということが、より一層稀有に仕立てあげていた。
 そうなってしまっても仕方ないということである。虹の呪いを受けてしまっては。
 虹の呪い、それは五年前のとある日に彼女が授かってしまった負の遺産。自分が他人と一定時間関わりを持つと、次第にその者に呪いを浴びせて死をもたらしてしまう。その一定の時間は三十分前後だと予測は出来ている。そして死なせた者は最終的に真っ黒に、冥俯に魅入られてしまったかのように、染められる。
 八歳から今まで自分は七人もの人間に死を撒き散らしてきた。何度罪悪感に駆られて絶望し、自殺を考えただろうか。でもその度に心の奥底に潜む弱い自分が邪魔をしていた。いざ思い立ってもすぐに取り消してしまっていた。たった一筋の希望の光のせいで。
 普通の人間に戻る、要するに呪いを解くことができる可能性を秘めている場所である唯一の場所、呪泉境に彼女は向かっていた。しかし、どこにそれがあるか分からずに世界を放浪しているというのが現状だった。一応、この生まれ変わった世の中“倭の国”の一番の基となったかつて日本と呼ばれた土地に出向いたが収穫が無く、現在は東南アジアであった場所に留まっていた。ここでの散策は大体数ヶ月程度しかまだしていない。四年近く旧日本を彷徨っていたのだ、まだその程度しか散策は無い。
 はっきり言うと、ここに手掛かりは無いと直感が告げていた。とりあえず虹の関連していそうなこの街を最後に見に来たのだ。
 エールは父親のことを思い出した。何処かで何かを研究していると母から一度だけ聞いたことがある。確か一緒に働いていた人は、髪を染めているのか、ありえないような漆黒だった。
 いきなり父が帰ってきたかと思うと、すぐさま凄まじい睡魔が体を襲い、目を覚ましたときには看病していたであろう父と母の残骸があった。
 自分が眠っていたのは四十分程度。その間に一体何が起こったのだろうか、それは今でも分からない。一つだけ心のどこかに引っ掛かっているのは、窓の外には、まるで天空を統べるように底知れぬ漆黒の虹がかかっていた。その中でも一際目立って紅、橙、翠が輝いていた。かと思ったその次の瞬間にじっくりと浮き出てくるように黄色も現れた。それはまるでイーロ家の人が、誰か虹に選ばれ、囚われたように彼女の目には映った。
 事実その日から彼女は呪いに侵された。自分と関わった人間が虹に蝕まれる、極めて残酷な。

「あっ…」

 いきなり隣を歩いていた若い、二十代前半ぐらいの女性がバスケットを落とした。中からは梨や林檎といった果物が飛び跳ねていく。それを起こした女性は、確かに慌てているのだが、それでも動きがノロノロとしていて多少の人間なら苛立ちを覚える程だ。
 その人の髪は日の出を思わせるようなオレンジ色だった。オーレン家はおっとりした性格だからなぁ、とゆっくり溜息を吐いた。その人の元へとエールは駆け寄った。
 ここで彼女を見過ごすことは自らの意思に反する。二十分程度で片付ければ呪いもかからないだろう。落ちて、自分の元に転がってきた果物を拾い上げる。橙色で粒のように色々角張っているようにザラザラした果皮から察するに温州蜜柑の類だろう。

「すみません、ありがとうございます……」

 心底助かったような笑顔で目の前のオーレン家の彼女は笑いかけてきた。そう、イーロ家の人間はこの、人の喜んだ笑顔だけが善行の原動力となっている。そのはずなのだが、エールにとっては今は早く拾い上げることに意識を注いでいた。呪いにかけないように。今の彼女の原動力は呪いから解放されて、平和の下でたくさんの人と暮らせるようにすること。
 黙々と拾い続けるエールに返事をして欲しかったのか、そのオーレンの人間は少し動揺のような感情を抱えていた。元々人との繋がりが濃い人なのだろうとエールはすぐさま察して言葉を返してやった。ここはやはりイーロ家の者だと言うべきところだ。

「大丈夫ですか?」

 短いながらも思いやりのある言葉に目の前の女性はほっと胸を下ろした。そうして、エールに対して言葉をさらに返す。

「すいません、生まれつき鈍臭いもので……」

 そんなことは気にしなくても良いんですよと、にっこりと微笑んで言葉を返しながら最後の果実を手渡した。それもあなたらしさの一つなのだからと付け加えて。それを聞くとたちまちその頬が朱に染まった。そんな風に褒められたのが初めてなのか、対応に困っている。それに耐えかねてオレンジ色の髪の女性は呼び掛けた。

「あの、何かお礼でも…」

 そう言いかけたのを遮ってエールは語った。

「ごめんなさい……それ以上私に関わると死んでしまう」

 そう伝えられた彼女は目を丸くした。言っている事の意味が分からないと。
 だが、引き止めるより先にその姿は消えていた。



                 〈to be continued〉

Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.5 )
日時: 2011/10/09 21:53
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Q9sui1jr)
参照: 第一話 生い立ち Blue Side


 その街は清楚で清潔で、とても美しい町並みで、誰もが憧れるような理想の街だった。道路を縦断する川のような用水路を流れる水は澄み、和気あいあいと人々は語り合い、雲がまばらに散っている素晴らしき晴天の下の街だった。
 街を歩く人の顔をよく眺めてみると、皆やる気と活気に満ち溢れた快活そうな顔をしていた。環境も良くて人々も善良な者だけ住まうこの土地は暮らしているだけで人の性格をも変えてしまいそうな程だ。事実、ここで暮らし始めたことで荒んだ人にもその活気が伝染したように人が変わったこともあるらしい。

 例外無く、つい今しがた訪れた少女、普段は暗くこの世に絶望している者までもその力を感じた。

 ただでさえ上品そうな彼女がこのような街を好むのも至極当然のようなことでもあった。まるで貴族上がりかのようなふわふわした煌びやかなドレスを着て、大きなスーツケースを引っ張っていた。爽快で壮大な海を思わせるような澄んだ青い髪に瞳。その面持ちには自立してしっかりとしている頼もしさもあった。青い髪は後頭部の高い位置で一つにまとめて束ねられていた。旧時代でポニーテールと呼ばれていたらしい。
 その蒼眼には久々に生気が宿っていた。こういうことは彼女、ハリエル・ブルエ・オーシャンズには珍しかった。
 ブルエ家のオーシャンズの姓は世界的にも有名な貴族と同じ名前だった。と言うよりもその家の者だった、ハリエル・ブルエ・オーシャンズという娘は。
 生まれた時より英才教育を叩き込まれたからか、博識で学に強く、使用人に甘えてはならないという家訓のせいかとても器用な、生きるために必要最小限のことはなんでもできる少女だった。あまり口は開かないが、その口調であるですます調や堅苦しい言葉も板に付いていて、上品そうに振る舞っていた。
 そのように振る舞っても傲慢さは欠片も感じられなかった。高貴さや綺麗さ、行儀良さ等が伝わってくる。このような理想的な街に来れたことでハリエルはこの五年間の間での数少ない楽しさのような気持ちを得ることができていた。
 全ては、あの日から始まっていた。
 ブルエ家の人間というのは皆が皆という訳ではないが、器用な者が多い一族である。面倒見も良いので教師や家庭教師、使用人など他の人を育てたり繋がり合ったりする仕事や複雑な事務に就く。

「宿を探したいところですね。どこかに建っていないでしょうか」

 街に気を取られていたハリエルは我に帰り、少し考え始めた。本日自分の泊まる宿がまだ決まっていないと。これだけ整備された街なら宿の一つや二つ簡単に見つかるだろうと歩いているが一向に見つからない。
 街は広く、宿は中心部にほとんど固まってしまっているために、今朝着いたばかりのハリエルはそのようなことを知らずに彷徨っていた。
 これほど迷うのならばさっさと街の者に訊いた方が早いと察し、訊いてみることにした。
 すぐそこに紫色の髪と瞳とを持つヴィォレッティ家の者を見かけて話し掛けてみた。自分とはかなり年の差があるようで身長差もかなりあり、見上げる形になる。青春真っ盛りといった十七、八ぐらいだ。耳にはピアスを着けていかついベルトを締めてそこにチャラチャラとチェーンを付けている。パッと見は柄が悪い青年だが、目付きはそれほど鋭くない。安心してハリエルは質問を続けた。

「すいません、この辺りに宿が無いかお知りではないでしょうか?本日泊まる所がまだ見当たらずに困っていて…」

 いきなり道を訊かれたことに対し、何の躊躇も無く何かを思い出そうと、思考を始める。まあ、十歳の少女が何かを企んでいたら世も末だなと身の内で溜息を吐いた。思い出そうとする際にスッと目が細められた時に、少し怖そうな目付きになったが、ようやく思い出して目を丸めた時の表情は、旧時代のチャラ男のようなものだった。

「街の中心部にいくつも集まってるらしいぜ。っていうかお前一人旅?女の子なのに格好良いことしてんなあんた」

 答えてくれたかと思うと急にまくしたてるように話し掛けてくる。剣幕と呼べるものは無かったが、流れるような話し方には止める隙が中々見つからなかった。あんた、と言い終わった後に答えろと言わんばかりに黙り始めた。

「ええ、一人旅です。放浪と言った方が良いかもしれませんね」
「そうか、じゃあ…」
「ストップです」

 質問に対する答えを訊いたヴィォレッティ家の人間はさらに会話を続けようとする。その言葉を今度こそと彼女は遮った。

「止めて下さい、死にたいなら話は別ですが」

 ハリエルは忘れない、その昔、あの運命の日にまるで天空を統べるように底知れぬ漆黒の虹がかかっていたことを。その中でも一際明るく赤、橙、黄、緑が輝いていた。
 この手の輩にはこれぐらい言わないと手を引かない奴が多い。道案内には感謝しているが、それ以上は余計だ。
 不適な笑みを一瞬だけ浮かべたように見えたが、その次の瞬間にはもう元の表情に戻っていた。ここであることに疑問を持たなかったのがハリエルらしからぬことだった。なぜかその男はこの言葉を聞いても、怒りもせずに怪訝そうにもせずにあっさりと身を退いたことに。
 それよりも早く去らないとこの者に呪いを与えてしまうと危惧していた彼女にとっては好機と、街の中心部に向かって歩きだした。

———それをじっとヴィォレッティ家の青年は眺めていた。


「呪いの一角、ハリエル・ブルエ・オーシャンズか。じゃあ俺はあいつと行動するかな」

 上手い具合に出会うことができたと彼は安堵からか、慢心からか、笑っていた——。



 時刻は夕刻、まばらに散らばる雲の群れが沈みゆく夕日に濃い朱色に染まっている。その昔、有名な者の書いたエッセイである『枕草子』にある通り、烏もその夕暮れどきの紅空に雲と同じようにまばらに飛んでいた。
 その頃ようやく、ハリエルは宿を見つけていた。ただのお嬢様育ちでも、特殊な家に生まれたから体力が無い訳ではなく、それなりに体力には自信がある彼女にも一日中歩き回るという所行には体力を浪費する要因になりえる。今日はゆっくり風呂にでも入ろうと宿の戸を開けた。

「すいません、お部屋は空いていませんか?」

 真っ直ぐにフロントへと向かって行き、慣れた口調で受付の支配人に問い掛けた。空いている部屋は無いか、と。まさか十歳程度の少女がそんなことを聞いてくるとは思わなかったイーロ家の女性の受付と、たまたまそこに居合わせた板前のオーレンの男は目を丸くした。
 その態度にもそろそろ慣れてきたハリエルは淡々と今までしてきたように一つの事実を言い放つ。

「私(わたくし)の右手の甲を御覧なさい。私、ハリエル・ブルエ・オーシャンズと申します」

 その言葉にハッとした彼らはそこに眼をやる。そこには大海の波を模した刺青があった。

「どうぞ、こちらへ……」

 途端に二人の態度が変わった。オーシャンズと言えばこの宿の後ろ盾の一つ。貴族の力は思っているよりも及んでいる。


                 <to be continued>

Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.6 )
日時: 2011/10/22 19:49
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: PIT.hrJ/)
参照: 第一話 生い立ち Indigo Side



 その街は、お世辞にも良い街とは決して言えなかった。街を吹き抜ける風には埃が浮かび、むせ返しそうになる汚い空気が支配していた。そんな汚い街にまっとうな人間が集まってくる訳が無かった。というよりも、集まった無法者に追い出されてしまったと形容するのが正しいか。事実、そこにいるのはおおよそ正義とは呼べない輩だけだった。

 たった一人の青年を除いて。

 ここには平気で拳銃の類や危ない薬が横行する、平和とはかけ離れた街である。住んでいるのは一般人ではない。世を追われる職に就いた者がこぞってここに住もうとする。こんなに治安の悪い街には政府の役人だって来たくないだろうからだ。
 だが、腕の立つ浪人にとってはここは賞金稼ぎの絶好のポイントだった。どこを見てもお尋ね者が見受けられる。ここにいる者は、敵対心こそ無いものの、妙な仲間意識も無い。誰か一人がしょっぴかれても構わないという連中の集落と言ったところだ。
 世の中には武士という職業がある。唯一帯刀を認められている仕事、旧時代の言葉を借りるとしたら警察である。
 しかし、武士のようで武士でない職の者がいる。武士が集団のしがらみに囚われる中で、自由に世界を渡り歩き、賞金稼ぎのように独立した存在が浪人だ。浪人は一人で行動している以上、それなりに強くなければならない。
 つまり、浪人とは実力を認められた者であり、その実、そこを歩いている青年への階段を上っている大人びた少年、サムエル・インディガ・ナイトスキィもそうであった。
 その瞳、その髪の毛、まるで夜の闇のような邪悪めいた美しさの濃紺。まるで吸い込まれるかと錯覚しそうなほどの深奥までも潜りこめそうなほどの深み。端正な顔立ちは、彼の印象をより一層少年から遠ざけていた。まだ十代後半だというのに、軽く二十歳ぐらいに見える。インディガ家の者らしく、腰には一本の藍色の柄の長刀と一本の赤色の小刀を差していた。
 そして、武士や浪人特有の、特徴的な髪型をしていた。他の者とは一風変わった、頭頂部分に髪をまとめた姿。旧時代の中のとある時期に同じ名前の人々が結っていた、髷(まげ)という物だ。
 当面の生活費を稼ぎたい彼は、できるだけ懸賞金の高い標的はいないかと、辺りを見回すが、それらしい者はいない。根気よく探そうと、一歩足を踏み出した時、ふと視線を前方に戻すと行く手は一人の人間が塞いでいた。
 大物がかかったと、藍色の髪の少年は心の中で気分が昂ぶるような感覚になった。目の前にいる敵は十人の人を斬って全国的に指名手配されているインディガ家の人間で、かかっている賞金は千万ほど。それだけあれば一年は修行だけで暮らせるなと、頭の中で計算する。
 もちろんここにいる者共は捕まりたい訳が無い。入ってきた正義はすぐに叩き潰さないとしょっぴかれると分かっているのか、帯刀している奴にはすぐさま声をかけるらしい。その言葉には焦り以外の感情はこもっていなく、大概は同じようなことしか言わないという噂だ。

「死ねやぁっ!」

 やはりなと、彼は呆れるような気分になる。来て欲しくないと思っている連中は全て死ねだの帰れだの叫ぶ。落ち着き払った奴は逃げ出すが、その方が遥かに賢い選択だ。基本的に大犯罪を犯す輩には後先考えずに行動する阿呆が多い。その内の一人がこの今対峙している男。浪人はそれなりに強いということが、インディガ家のくせに分かっていないらしい。

「聞こえないのか!死ねと…」
「貴殿…」

 死ねと言われても全く顔色一つ変えずに冷静を装っているサムエルに、敵対する罪を犯した者はもう一度叫ぼうとする。今さら突き出されて刑を施行されては堪らないと、その焦燥が物語っていた。
 だがその怒号さえもあっさりと、サムエルが貴殿という、ようするに呼び掛けの言葉で遮る。その態度に、そろそろ堪忍袋が限界になった彼は、手元のナイフを取り出して今にも襲い掛かろうとした時に、ゆっくりとサムエルは腰に差してある藍色の鞘に納められた、持ち手が藍色の白銀に刀身が光を反射させる一本の長刀を抜いた。スラリと綺麗な音を立ててゆっくりとその姿を現したその鋭利な刄に、ナイフなどで襲おうとした彼はたじろいだ。しかし、ここで退く訳にはにかないという半分使命感のような感情が、皮肉にも彼を突き動かした。

「頭が回らぬ程の焦りに襲われた人間は、最初から勝ちの目は無いと、我は父上に教わったのだがな」

 その銀色に輝く鋼の刀身を傾けながら、藍色の少年は走りだした。見る間にそのスピードは上がっていく。重量のあるはずの長刀を抱えている上に、腰には動きを制限する一本の大きめの鞘と短刀が差してあるというのに、難なくあっさりとその加速は滑らかに続いている。

 二人が交錯する瞬間にお互いの刄が衝突し、甲高い音が鳴り響いたかと思った次の瞬間に金属製品の折れる鈍い音と一緒に短い刃が上空に上がる。

 それの次には、無法者のインディガの者が地に臥した。

「案ずるな、峰打ちだ、などと決まり切った台詞を吐く気はない。ちゃんと刃で斬った。まあ浅かったから動けない程度だろうがな」

 サムエルは動きを止めるために四肢の腱だけを斬った。それほど深い傷ではなく命にも直接は問題ないがもうすでに抵抗はできなかった。
 手足を襲う鋭い痛みに顔を歪ませて呻くような泣き声を上げて、諦めて逃走に走ろうとするも腱が切れていては話にならない。どれほど強靱な筋肉であってもだ。
 その光景を目の当たりにしても、政府の使いに憤り、それを止めようとする者など当然のごとくいなかった。歯向かえば斬られるという恐怖と、あんなのに勝てるかとぼやくような諦め、そして最後に、愚かにも歯向かった抵抗者に対する侮蔑。
 そのような目線は気にもせずに、サムエルは呻く男を一応縛っておいて、縄をおもむろに掴んで持ち上げた。止めてくれ、警察だけは勘弁してくれと、痛みを差し置いて必死に懇願する悲痛な声をサムエルには聞く気が無かった。今まで何度そう言った人間を殺してきたのだと、きつく睨み付けると嘘のように静まりかえった。
 父上の置き土産も役に立っているなと、検挙している時は毎度感じる。彼の父親、ヒュントキールもとても優秀な武士だった。その腕を見込まれて警備として重要な施設の配置に付いていた。
 いつの日だったか、数年ほど前にその父も死んだ。村一帯を覆い尽くす伝染病の類だった。サムエルだけが生き残り、他の者は残らず死に絶えた。さしもの剣豪も病には勝てなかったということだ。

「さてと、村外れまで五分ぐらいであったな」

 早くせねばこの人が死んでしまうと、彼は歩きだした。そうして、過去のことを思い出す。
 まるで天空を統べるかのように、底知れぬ漆黒の虹がかかっていた。紫以外の全ての色が、悪魔に惚れられたかのように、怪しく輝いていた。


                 <to be continued>

Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.7 )
日時: 2011/10/18 18:06
名前: ハーマイお兄 (ID: blFCHlg4)

初めまして。面白いですね。そして、美しいです。


一つだけ、そう思うのは自分だけかもしれませんが、明日のために。
人物があんまりしゃべらないな、と感じました。世界はよく見えますが、今までのところ、人があまり立ち上がってこない感じがします。人をもう少ししゃべらせてみては、いかがかな?

                  −−応援しています。

Re: Arcobaleno Nero〜黒き虹の呪い〜 ( No.8 )
日時: 2011/10/18 20:27
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: VMvMkRLZ)
参照: 第一話 生い立ち Deep Blue Side

ハーマイお兄さん、初めまして。
褒め言葉が二つも・・・ありがとうございます。
でもやはりこのサイトの方々に文章では劣っていそうなのでもっと精進したいですね。

会話が少ない第一話は許してください、何しろ話相手がいないのです。
現在書いている話ではようやく会話らしい会話が出てきますので。

応援、ありがとうございます。
もし書いているようであったら作品を教えて下さい。


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