ダーク・ファンタジー小説
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- 命を売り買いする場所。
- 日時: 2019/03/20 18:22
- 名前: とりけらとぷす (ID: iLRtPlK2)
第1話【囚われの身と貴族の僕】
今日も街は、奴隷の売り買いで賑わっている。
奴隷売り達に群がって、ただただ金のことを叫んでいる貴族達の中に、僕の父親がいた。
いつだってそうだ。僕のことなんか構ったこともないくせに。
今日も僕に、奴隷を選ばせるんだ。
誰だっていい。ただ僕は、人間を売り物にしているのが、気に食わないだけだ。
奴隷も、生きてる。僕たちと同じ、”人間”として。
売り買いだなんて、こんな世の中に生きてる僕が恥ずかしい。
「どうかしたのか?レオ。さあ、今日はたくさんいるぞ、どれがいい?」
父親が、まるで子供におもちゃを買ってあげるかのように言った。
人間は、おもちゃじゃない。生き物だ。
僕が睨み付けると、父親は笑った。
「誰でも、命の重さは同じだ」
僕が言うと、父親は鼻で笑った。
「命?何言ってるんだ、レオよ。アレは売り物だ」
「売り物じゃない、人間だ!」
「お前は、本当に分かってないな。奴隷の数は、貴族の誇りの高さであり、貴族の象徴だ」
「うるさい!分かってないのは、父上だ!」
僕は、父親を突き飛ばし、走った。
人混みを抜け、誰もいない場所へと走る。
途中で後ろを振り向くと、石台の上に、奴隷売りと縄に結ばれた奴隷の姿が見えた。
僕は、何もできない。それが、焦れったくて、辛くて、虚しくて、悲しくて、泣いた。
僕は、貴族の子供。僕の立場は、上。だけど…
「何も出来ない。僕には、何も出来ないんだ」
ここで一旦切らせて頂きます!
自己紹介遅れました、とりけらとぷすです(=゜ω゜)ノ
第二作品目となります!よろしくお願いします!
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第1話【囚われの身と貴族の僕】>>3
第2話【誰も救えない】>>4 >>5
第3話【カエルノコハカエル】(父親目線)>>6 >>7
第4話【冷たい夜が明ける】>>8 >>9 >>10
第5話【命を買うこと】>>11
第6話【彼女との日々(1)】>>12 >>13
(シフティの昔話)>>15 >>16 >>17
第6話【彼女との日々(1)】〔続き〕>>18
第7話【偽りの彼と秘密】>>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
第8話【彼女との日々(2)】>>29 >>30
第9話【Witch hunting】>>33 >>34
第10話【Witch huntingーstartー】>>37 >>40
第11話【それぞれの約束を果たすために】>>43 >>44 >>45
第12話【始まりの鐘が鳴る】>>47
【参照500突破記念番外編】
#0-0【プレタリアの街】>>50 >>51
第13話【海の向こうの答え】>>52 >>53 >>54 >>55
【特別企画:キャラ選挙(結果)】 >>67 (現在閲覧不可)
【参照1000突破記念】 >> (現在閲覧不可)
第14話【作戦会議】 >>66 >>75
第15話【新たなはじまり】 >>76
第16話【地下道を行く】 >>77 >>78
第17話【松明の夜】 >>86 >>87 >>88
第18話【王様の秘密】 >>89 >>90 >>91
第19話【空虚な王座と真実の種】>>92 >>93
第20話【罪と報復】>>95 >>97
【訪問者様】
○電波様
この小説に初コメしてくれた方です。
著書:リアルゲーム
○みーこ様
著書:凛花と恐怖のゲーム。〜人生ノ崩壊!〜
○のれり様
別作品でお友達になりました。いつも私の作品にコメを下さる方です。
著書:Amnesia
○泡沫兎様
著書:喪失物語
○榛夛様
とても素敵なお話を書いてらっしゃいます。カキコの中で、私の尊敬している方です。
著書:君の涙に小さな愛を。
○とらじ様
著書:世界を壊す精霊たちー人間たちに復讐しない?ー
○梅酒様
著書:
○はな様
著書:セイギセイギ
○雪様
著書:
○亜咲 りん様
著書:*童話集*白雪姫の林檎
※間違い等ありましたらお知らせ下さい。
※現在特別企画、記念イラストの閲覧が出来ません。申し訳ありませんが、もう暫くお待ちください。
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.16 )
- 日時: 2015/05/30 15:46
- 名前: とりけらとぷす (ID: LpTTulAV)
次の日から、私達は一緒だった。
「ねぇ、390あなた、プレタリアなんでしょ?」
390は、コクリと頷いた。
動揺する様子も見せず、ただ、少し不安そうな表情で。
「綺麗ですね、その髪。145姉さんも、アルビノでしょう?」
その言葉に、私はギクリとした。
そう、私はアルビノだ。色が抜けてしまって真っ白になってしまった髪。何故か赤い目。
私は、何処かで誤作動を起こして生まれてきてしまった、化け物。
私が一瞬暗い顔をすると、390は微笑んだ。
「私達、似てますね」
「そうかもしれない」
私達は、同じ化け物。
生まれてきたことを後悔されるような、どうしようもないもの。
皆と違うから、避けられる。
皆と違うから、酷いことを言われても、しょうがない。
きっとこの子も、私と同じ。
そう思うと、世界って理不尽だ。
私は、二人で、また、146と過ごした時のように、牢屋で生活し、仕事をした。
そして、少しずつ、少しずつ私は、元のように元気を取り戻していった。
そんな生活が、二年続いた。
もう、146の居なくなった悲しみは消えていた。
このまま、この子と仕事をして、牢屋で過ごす日々が、続くと思っていた。
そんなある日、私は、番人に呼び出された。
「何ですか?」
何も知らない私は、のこのこと番人室に入り、番人の前まで行った。
「お前は、今日、いや、今すぐだ」
最初、番人が何を言ってるのか、わからなかった。
「お前は、売られる」
「え……?」
ーーーーーーーー売られる?
頭の中を、この言葉が連呼した。
「どういうことですか?私、聞いてません」
必死になって止めようとした。
だけど、番人室に奴隷売りが入ってきてやっと、後戻り出来ないことに気づく。
「アルビノの子はどこ…ああ、この子か。早く、広場はもうお客きてるよ」
「ああ、奴隷売りか。この子だよ」
番人に背中を押され、私は奴隷売りの前に立たされた。
「ご苦労さん。じゃあ、この子売ってくるよ」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
奴隷売りが私の手を引くのを突き放し、番人の方へ向く。
「せめて、お別れさせて下さい!」
番人は、少し考えたが、あっさりと許可してくれた。
「よかろう。十分別れを言ってから、広場へ行くといい」
「ありがとうございます」
私は、自分の牢屋へと走った。
真っ先に、あの子へ伝えなくちゃいけない。
心臓の音が、次第に大きくなっていく。
泣きそうになるのを堪えて、私は390に別れを告げに行った。
「390!」
「何です?姉さん……?」
私の顔をみて、390は驚いたような顔をした。
「姉さん?」
「売られる」
「へ?」
「私、今日、いや、今すぐ売られ…!」
最後まで言葉が出なかった。
涙が顔を覆ってしまって、何も言えない。
嗚咽ばかり漏れて、今までありがとうって、言いたいのに言えない。
そのうち、奴隷売りが私のところへ来て、もう時間切れだ、と言って私を無理やり引っ張った。
「……さよなら」
咄嗟に出てきた言葉は、これだけだった。
今なら、146の気持ちが、わかるような気がする。
伝えたいことはいっぱいあるのに、言えない。
言おうとするほど、此処にいたいと思ってしまう。一緒にいたいと思ってしまう。
390は、何もわからないまま、泣くだけで、追いかけることはしなかった。
あの時の、私みたい。
きっと390は、私の事を冷たいと思うだろう。
そして、あの時の私みたいに、一晩中わんわん泣くだろう。
でも、それでいいと思った。
いつかは、390も売られる。
そう、いつかはわかる。
私は、奴隷売りの言うことを聞いて、素直について行った。
抵抗はしない。あの時の、146の様に。
私達の未来は、決まってこうなんだ。
そう、残酷なんだ。
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.17 )
- 日時: 2015/06/04 17:48
- 名前: とりけらとぷす (ID: Hh73DxLo)
私は、奴隷売りに連れられ、広場の方へ出た。
次第に明るくなる、私の視界。
次第に煩くなる、消えない耳鳴りのような、貴族達の歓声。
私は、内心耳を塞いだ。何も聞こえないように。
本当は、嫌だ。売られるなら、私は誰に避けられようと、罵られようと、どうだっていい。私は、牢屋に残っただろう。
暗くて、冷たいとあの場所に。
「おい、遅かったじゃないか!」
「あれ、アルビノか?」
「値はいくらだ?私はいくらであっても買うぞ!」
色々な声が飛び交っていた。
「すまんねぇ、貴族さん。はいよ、持ってきたよ」
”連れてきた”じゃなくて、”持ってきた”なんだ。私達の扱いは。
それを聞いて、私は苛立ちを感じた。
もう、悲しいなんて、辛いだなんて思わない。
私達がモノ扱いされてるのも、気づかなかっただけで、昔からずっとーーーーーーーーーそうだったんだ。
「さあ、貴族さんよ、今日はアルビノだよー!珍しいから値もあがるよー!はい、どんどん言って!」
奴隷売りの、命の売り買いの合図が上った。
それとともに、私の値がどんと飛んできた。
「1500万はどうだ?」
「いや、わしなら3000万で買うぞ!」
「いや、それならば……!」
お金の話が飛び交う中、私は一人、目を瞑った。
見たくない、何も。
石台の上に乗る人を、何度も見てきた。
可哀想だと思ってた。でも、今は私なの。私の番なの。
私はもうーーーーーーーーー子供じゃないんだ。
耳を塞いだ。何も聞こえないように。
それでも、耳にへばりつくような貴族達の声は、消えなかった。
そんな中、男の貴族の声がした。その人が何か言うと、皆、静かになったのがわかった。
少しずつ、目を開ける。
そこには、金髪の男の貴族が立っていた。
「私が、この子を5000万で買おう」
皆、諦めたように石台から離れていく。
「ア、アルドリア一族の、お買い上げー!!」
私、買われたんだ。
帰っていく大勢の貴族達は、アルドリア一族なら諦めるしかない、と皆が皆言って去っていく。
「お代は、5000万+金貨3枚です。毎度ありー」
「ああ、そうだな。これで足りるか?」
男の人が、服から札束と金貨3枚を取り出した。
そして、私の方に手を伸ばして、降りられる?と言った。
「大丈夫です……」
売られてみると、意外とあっけなかった気がする。
私は、売られた。今日から、この人の元で、働くんだ。
私は、石台を降り、その人の側についた。
すると、男の人は細い路地に体を向けて、
「ミレイ、こっちだ!」
と叫んだ。
遠くの方に、黒いロングドレスを着た女の人が見えた。
「あ、カナリオ!もう、どこに行ったのかと思ったわ!」
その声には、聞き覚えがあった。いや、聞き覚えがあるどころじゃない、あの声は……。
「146……?」
私の声を聞いて、遠くの女の人が立ち止まった。
「145?145なの?」
私は、駆け出した。本当は、ご主人様の側にいなきゃいけない。だけど、どうか、今だけはーーーーー。
私が駆け出したのと同時に、女の人もこっちに走って来た。
近づくほどに、泣きそうになる。もう、二度と会えないと思っていた。
「145なのね!」
「146だよね?」
私達は、お互い抱き合った。
「何故、ここに?」
「私、売られたの。それで、買われたの。だから、だから……」
「誰に買われたの?」
私が買われた事を聞いて、146は、急に不安そうな顔をした。
この声を、聞くまでは。
「ミレイ。ハッピーバースデー」
そう、あの男の人の声だった。
「カナリオ……?どういうこと?」
「俺が、買ったんだ」
146の顔が、一瞬くしゃっとなった。そして、カナリオという男の人に抱きついて、ありがとう、と言って泣いた。
「おい、もうすぐ日が落ちるぞ。ミレイのバースデーパーティーが始まるのを皆待ってる。さぁ、三人で帰ろう」
146は、頷いた。そして、私の手を引っ張って、行こう、と言った。
細い路地を抜け、三人で歩いていた。
二年も会っていない、親友。たった二年だけど、私にとっては、凄く長い二年間だった。
私は、2人に、寂しかったこと、新しい友達が出来たこと…みんな話した。
146は、昔のように、真剣に私の話を聞いてくれた。そして、話が終わると、私の話もしていい?と言った。
「私ね、名前がついたの。ミレリア。愛称は、ミレイ。145も、そう呼んでね」
「もちろん」
私が返事をすると、ミレイは、思いついたように手を叩き、彼女の旦那さんの耳元で何か言った。
そして、明るい笑顔で、私の方へ顔を向けた。
「シフティ」
「え?何、それ」
「貴女の名前。今日から貴女はシフティ!」
嬉しかった。単純に、名前が出来たことに。
私は、ありがとうと言って笑った。
この日の夜、ミレイのバースデーパーティーは夜遅くまで行われた。私とミレイは、昔のように話して、笑った。
この日は、私にとって、特別な日。
でも、そんなことではしゃぐ私って、恐ろしい。
だって、390と別れた悲しみなんて、もうとっくに忘れていたのだから。
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.18 )
- 日時: 2015/06/13 13:33
- 名前: とりけらとぷす (ID: EjFgzOZO)
ここから下、現代になります。
話が途切れてしまったので、分かりにくいと思い、
一応書きました。
「それでね……嬉しかったの。だから、私は…貴女に名前があればいいと思ったの。でも、なんか、本当に悪いことしちゃったな」
「そうだったんですか…。お気遣いありがとうございます。でも、私、大丈夫です。それに、私とあの方は出会ってからまだ時間も短いですしね」
僕はまだ、ドアにぴったりと耳を当てて、2人の話を聞いていた。
シフティが、軽々しく名前を付けたら、と言ったのでは無かった事なんて、僕は解っていた。
シフティの話を聞いて、名前がある事の嬉しさもよくわかった。僕は生まれた時からあるものが、彼女には無いんだ。それを、僕は勘違いして、犬に名前を付けるようだ、なんて。
また、僕の正義感が1人の人を傷つけてしまった。
そんなことを1人ドアに腰掛けて反省していると、急にドアが開いた。
「レオ様!?」
腰掛けていた僕が倒れたのを見て、シフティが目を見開いて言う。
そして、直ぐに僕の体を起こさせて、首を捻って僕に尋ねた。
「あの、レオ様…ここで、何を…?」
それを聞いて、僕の目が泳いだ。
正義感の強い僕が、2人の話を盗み聞きしていたなんて、とても言えない。
僕が動揺していると、390が落ち着いた声で言った。
「全部聞いてたんですね、レオ様」
「ああ……、すまない」
僕は、これしか言えなかった。''言えなかった”というより、言わなかった。別に、言い訳しようなんて思わない。失態を起こした時は、素直に謝るのが一番だ。その後に、何を言われようと、僕の失態だから仕方がない。
微妙な空気に圧倒されて、心が苦しくなるのを感じていると、窓から夕日が差し込んできて、僕たちをくれないに染めた。
しばらく沈黙が続く中、急にシフティが思い出したように手を打った。
「私も、レオ様に謝らなければいけない事が…」
そう言って、シフティは申し訳なさそうに身を縮めた。
「私ったら、なんていう失態…!申し訳ありませんでした!」
僕は、何故シフティが謝るのか理解出来なかった。
盗み聞きをしていたのは僕だし、2人は話をしていただけだ。
「だから、つまり…シフティ、君は何を言いたいんだ?何故謝る?」
「家庭教師の方が…レオ様は、家庭教師のお勉強の時間であったのに…!私は、私ごとではしゃいでしまい、レオ様をお部屋にご案内するのを忘れてしまいました…」
家庭教師…そういえば、シフティが広間に入っていた時に入っていたような気がする。
今日は火曜日。僕はいつもなら、四時には勉強部屋に入り、家庭教師に教わっているはずだった。
ポケットからペンダントの時計を取り出し、時刻を確認する。
短い針は、5を指していた。
「いや、シフティ。まだ、間に合うかもしれない。普段なら、6時までだから」
「いえ、しかし…レオ様の勉強時間を半分以上削ってしまいました」
「じゃあ、これでおあいこだな。僕が盗み聞きしていた事と」
そんな会話をして3人で笑っていると、遠くから、かーんかーんと大理石の床を駆ける音が響いてきた。
遠くに見えるとんがり帽子を被った、全身茶色の男の人。そう、あれは、僕の家庭教師だった。
周りをきょろきょろと確認している様子から、僕を探しているのがわかる。
ーーーーーーーーまずい。
僕は振り返ってシフティと390に言った。
「早く、僕から離れろ!君達が疑われる!裏出口から屋敷を出るんだ!」
2人が僕の近くにいれば、2人は間違いなく疑われる。僕を勉強部屋に連れて行かなかったことで、2人は罪を問われてしまう。
「しかし…これは、私の責任です」
シフティが何の焦りもなく言うので、僕は2人の手を引き、駆け出した。
「いいから、早く裏出口へ行くんだ!これは、命令だ!僕はこっちで話を付けておくから、早く!」
僕が走りながら言うと、2人はこくりと頷いて駆け出した。僕は2人の手を離し、家庭教師のいたところを目指して歩く。
遠くの方で見えている家庭教師が、ようやく僕に気づいたのか、こっちに向かって来る。僕は何も知らないような顔をして、彼に近づいた。
一旦ここで切ります⊂((・x・))⊃
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.19 )
- 日時: 2015/07/11 20:08
- 名前: とりけらとぷす (ID: KIugb2Tf)
第7話【偽りの彼と秘密】
「レオ様!どこへいらしたのです?」
家庭教師に連れられ、勉強部屋に入れられた僕に、彼は僕を探るようにして鋭い目つきで僕を見た。
彼の名はピーター・ロベルト。この街では、有名な家庭教師だった。まだ20という若さだが、生まれながらの天才と言われていて、学問については完璧だった。
そんな優等生の彼が、僕を放っておくはずがない。
「ああ、そのことか。ちょっと用事があって…明日にしてくれないか?」
「嘘をついていますね、レオ様。貴方は実に興味深い生き物です。正義感の強い貴方に嘘はつけませんよ。顔に出てますよ」
そう言って、彼は金髪を靡かせて笑った。
僕は、何も言えず黙っていた。
頭が良いだけに、何も言い返せない。
しばらく沈黙が続いていると、彼はため息を着き、茶色のとんがり帽子を被った。
「図星…でしたか。そうですか、私は貴方に失望しましたよ、レオ様。男の癖に、何も言い返せない。嘘もつけない。これでは、この世で生き抜けませんよ。貴方は、カナリオ様の言う通りの人だ。はっきり言わせていただきましょう。貴方はバカです」
そう言って、勉強部屋を出ようとした。
そんな彼の手首を掴み、無理やり引っ張った。
「確かに、僕はバカかも知れない。だけど、僕は…何時だって真実を求める。嘘は吐きたくないし、人を騙したくもない。たとえ、それがこの世を生き抜く手段であろうとも」
そう言いながら、心が燃えるように熱くなっていくのを感じていた。
彼に、激しい憎悪を感じていた。今までにないくらい、強く。
いや、もしかしたら、彼自体ではなく、この世全体に対してなのかも知れない。彼の様なずるい人間を生み出すようなこの世に。
「ああ、そうですか。そうするなら、そうすればいいじゃないですか。じゃあ、貴方に真実を伝えて差し上げよう。私は、シフティと新人メイドがさっき逃げていくのを見ました」
僕は息を呑んだ。まさかーーーー。
「私は、4時半から貴方を探していたのですよ?いつもなら時間通りの貴方が勉強部屋に来なかったのですからね。それにしても、貴方が広間の扉にへばり付いて盗み聞きをする様子といったら、傑作でしたよ。貴方が盗み聞きをするなんてね。私はずーっと見ていたのですよ?レオ様」
彼の言葉に、息ができなくなるのを感じていた。
彼は、全てを見て居たんだ。
だとすると…僕を探していたのも、探している”フリ”だったというのか…?
僕は、いや、僕達三人は嵌められた。
全てが彼の計算済み。思い通り。
「あれ、またお黙りになるのですか?」
そう、得意げに言う彼に苛立ちを隠せず、僕はつい、彼に殴りかかってしまった。
しかし、それも彼の計算済みだったらしい。
僕の殴りかかった拳は、彼の片手で止められてしまう。
「こういうことなんですよ、レオ様」
「何なんだ!ロベルト、お前は僕に何をしたい!」
涙が喉まで来ていた。悔しくて、でもどうすることも出来ない。そんな自分が惨めで、悲しい。
ロベルトは、僕の拳を掴んだ手をゆっくり離した。
「つまり、こういう事ですよ、レオ様。貴方も、ずるい人間だ。人間は、皆ずるい生き物ですよ。貴方も、私も。いつか貴方も汚れた人間になる。嘘を吐く他にどうにも出来ない事が起こった時、貴方はきっと嘘を吐く。それが、貴方の”正義”だと信じて。でも、レオ様。それは、私のした事と同じ事ですよ。貴方自分に”正義”だと信じ込ませているだけ。そんな貴方は、私よりもっとずるい人間だ」
頬を冷たいものが流れるのがわかった。
”ずるい人間だ”その言葉が、頭から離れなかった。
正義は、悪なのだろうかーーーーーーー。
瞳から溢れる液体が、涙だと知るのに時間が掛かった。
ロベルトは、頭を下げて部屋を出て行った。
- Re: 命を売り買いする場所。 ( No.20 )
- 日時: 2018/06/07 17:27
- 名前: とりけらとぷす (ID: nA9aoCfQ)
何故、皆が皆、僕を馬鹿だといい、苦しめるのだろう。父親も、ロベルトも。
何故、嘘を吐くことが世間で生きることなんだ。
人間は、嘘を吐かなきゃ生きていけないのか?
頭の中をぐるぐる回る”嘘”という厄介なものは、一層僕を苦しめた。
ロベルトが、僕の父親に二人のメイドの事を言った所で、二人が仕事を辞めることにも、罰を受けることにもならないだろう。
だとしたら、あの時、僕は何故二人に逃げるように言ったのだろう。
…ああ見えて僕の父親は慈悲深い所がある。罰を与えたとしても、仕事を増やされるくらいで、体罰なんかは与えない性だ。
ーーーー僕は知らぬ間に、この世で生き残るための術というものを、身につけてしまったのだろうか。
普通の貴族の屋敷だと、二人はきっと追い出されて、罰を受ける。
僕は、この世のルールを知っているのに。
本当は、全部知ってるかもしれないのに。
「大丈夫ですか、レオ様!」
僕が机にうつ伏せになっていると、いきなりドアが開き、シフティと390が駆け込んできた。
「ああ、大丈夫だよ」
そう言って顔を上げたが、少し頭痛とめまいがした。
二人は心配そうな顔をして僕を見たが、少し安心したように表情を緩めた。
短いですが、ここで一旦切ります(。-_-。)
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