ダーク・ファンタジー小説

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命を売り買いする場所。
日時: 2019/03/20 18:22
名前: とりけらとぷす (ID: iLRtPlK2)

第1話【囚われの身と貴族の僕】




今日も街は、奴隷の売り買いで賑わっている。
奴隷売り達に群がって、ただただ金のことを叫んでいる貴族達の中に、僕の父親がいた。
いつだってそうだ。僕のことなんか構ったこともないくせに。
今日も僕に、奴隷を選ばせるんだ。
誰だっていい。ただ僕は、人間を売り物にしているのが、気に食わないだけだ。
奴隷も、生きてる。僕たちと同じ、”人間”として。
売り買いだなんて、こんな世の中に生きてる僕が恥ずかしい。
「どうかしたのか?レオ。さあ、今日はたくさんいるぞ、どれがいい?」
父親が、まるで子供におもちゃを買ってあげるかのように言った。
人間は、おもちゃじゃない。生き物だ。
僕が睨み付けると、父親は笑った。
「誰でも、命の重さは同じだ」
僕が言うと、父親は鼻で笑った。
「命?何言ってるんだ、レオよ。アレは売り物だ」
「売り物じゃない、人間だ!」
「お前は、本当に分かってないな。奴隷の数は、貴族の誇りの高さであり、貴族の象徴だ」
「うるさい!分かってないのは、父上だ!」
僕は、父親を突き飛ばし、走った。
人混みを抜け、誰もいない場所へと走る。
途中で後ろを振り向くと、石台の上に、奴隷売りと縄に結ばれた奴隷の姿が見えた。
僕は、何もできない。それが、焦れったくて、辛くて、虚しくて、悲しくて、泣いた。
僕は、貴族の子供。僕の立場は、上。だけど…
「何も出来ない。僕には、何も出来ないんだ」




ここで一旦切らせて頂きます!

自己紹介遅れました、とりけらとぷすです(=゜ω゜)ノ

第二作品目となります!よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第1話【囚われの身と貴族の僕】>>3

第2話【誰も救えない】>>4 >>5

第3話【カエルノコハカエル】(父親目線)>>6 >>7

第4話【冷たい夜が明ける】>>8 >>9 >>10

第5話【命を買うこと】>>11

第6話【彼女との日々(1)】>>12 >>13

(シフティの昔話)>>15 >>16 >>17

第6話【彼女との日々(1)】〔続き〕>>18

第7話【偽りの彼と秘密】>>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24

第8話【彼女との日々(2)】>>29 >>30

第9話【Witch hunting】>>33 >>34

第10話【Witch huntingーstartー】>>37 >>40

第11話【それぞれの約束を果たすために】>>43 >>44 >>45

第12話【始まりの鐘が鳴る】>>47

【参照500突破記念番外編】
#0-0【プレタリアの街】>>50 >>51

第13話【海の向こうの答え】>>52 >>53 >>54 >>55

【特別企画:キャラ選挙(結果)】 >>67 (現在閲覧不可)

【参照1000突破記念イラスト】 >> (現在閲覧不可)

第14話【作戦会議】 >>66 >>75

第15話【新たなはじまり】 >>76

第16話【地下道を行く】 >>77 >>78

第17話【松明の夜】 >>86 >>87 >>88

第18話【王様の秘密】 >>89 >>90 >>91

第19話【空虚な王座と真実の種】>>92 >>93

第20話【罪と報復】>>95 >>97

【訪問者様】

○電波様
この小説に初コメしてくれた方です。
著書:リアルゲーム

○みーこ様
著書:凛花と恐怖のゲーム。〜人生ノ崩壊!〜

○のれり様
別作品でお友達になりました。いつも私の作品にコメを下さる方です。
著書:Amnesia

○泡沫兎様
著書:喪失物語

○榛夛様
とても素敵なお話を書いてらっしゃいます。カキコの中で、私の尊敬している方です。
著書:君の涙に小さな愛を。

○とらじ様
著書:世界を壊す精霊たちー人間たちに復讐しない?ー

○梅酒様
著書:

○はな様
著書:セイギセイギ

○雪様
著書:

○亜咲 りん様
著書:*童話集*白雪姫の林檎

※間違い等ありましたらお知らせ下さい。
※現在特別企画、記念イラストの閲覧が出来ません。申し訳ありませんが、もう暫くお待ちください。

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.89 )
日時: 2018/06/08 09:00
名前: とりけらとぷす (ID: nA9aoCfQ)

第18話【王様の秘密】


「やあ、目が覚めたかい?」

まだおぼつかない意識の中声の方へ目を向けると、僕と同じ歳くらいの真っ白な少年がいた。
身体中が痛い。きっと落とされた時にぶつけでもしたのだろう。
ここは?と聞く前に、白い少年が言った。

「僕を殺しに来たのかい?」

「え?」

「じゃあ、僕の身体の一部が欲しくて来たとか」

僕は首を振った。この少年が何を言っているのか、僕にはさっぱりだった。

「なぁんだ、じゃあ、この短刀は何?まさか護身用?」

少年が短刀の入った黒革のホルダーをぶらぶらと縁を描くように振り回した。
その時、ふと気付く。その少年に、片腕がない事に。
少年は僕の視線に気づいたのか、あぁ、これ?と自分を嘲笑うかのように言った。

「ちょうど7歳の時だったかな…切られたんだ」

「どうして…」

「見てわかる通り、僕がアルビノとして生まれて来たからだよ。この国ではアルビノは高価格で買い取られる…だけど、他国では違う。アルビノは神の子だとか、その身体の一部を手に入れたら幸せになるとか言われてるんだ。でも、奴隷としては全く売れなくてね、とても低い値段で売買されているし、好き好んで買う奴なんかいない。じゃあ、アルビノがなぜこの国の中では高価格だかわかる?人々に物珍しさ故に高く取引されてる。アルビノを美しいとみなす感覚を、国家が植え付けてるから。まあ、売れるかどうかは奴隷売りの腕次第だから、場合によっては安く手に入ることもあるだろうけどね」

「でも、腕を切られるなんて」

「あぁ、もちろんこの国の者にされたんじゃないよ。他国の人だ。この国では、身体の一部を手に入れたら幸せになれるなんて馬鹿な考えを生み出さないようにしてるから」

「当たり前のことだろ。アルビノだって人間だ」

僕が言うと、少年は空笑いした。

「全くその通りだよ。起き上がれる?」

少年は手を差し伸べてくれたが、僕は自力で起き上がった。
少年がソファに座る様僕に指示した。
腰を下ろして、改めて部屋の中を見渡してみると、なかなかの家具が揃っている。床も寝ていたので気づかなかったが、僕の家と同じ様に大理石でできていた。ソファの前の白いアンティーク調のテーブルには、金の縁取りが施されており、中央の部分はすかしガラスになっていて、中には宝石と思われる色とりどりの石が入っている。
少年がポットを持って来て、紅茶を入れてくれた。

「さぁ、一息ついたところで、君の名前を教えてくれるかい?」

「あぁ、そうだな…僕の名は、アルドリア・レオだ」

「アルドリアって、あのアルドリア一族の?へぇ、そんな君がなぜここに?ーーと聞きたいところだけど、僕も名乗らなくちゃね。僕の名前は……リエイル。此処ではリイって呼ばれてるから、君もそう呼んで」

紅茶を一口飲んでから、リイはところでさ、と話を始めた。

「王の秘書の子息が、どうしてこんなところに?」

「………」

「答える気はないんだね……じゃあ、言わせてもらうけど。君、国を何とかしようと企んでいるそうじゃないか」

「何のことだ」

「とぼけても無駄だよ。王宮の人達はみんな知ってる」

「君も王宮に使える一族なのか…?」

「あぁ、まぁ…そんなところだね」

「みんな知ってるって…どういうことだ?この計画は誰にも」

僕がそう言いかけて、レイの頬が僅かにつり上がった。
どうやら僕は、まんまと敵の仕掛けた罠にかかってしまったらしい。

「おや、気付いてしまったかい?でも、これで確信したよ」

僕が身構えていると、レイは優しく笑った。

「そんな顔しないでおくれよ。僕は君の敵ではないのだからーーー」

ーーー味方でも、ないけどね。
レイはそう付け加えた。

「君の本心を確かめたかっただけなんだ。まぁーーー僕だったから良かったけど、君は、もうちょっと慎重にやった方がいいよ。国家を動かすつもりなら、なおさらだ」

レイは紅茶を飲み終えると、もっとはなしたいことがあるから、とギャラリーへ手招きした。

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.90 )
日時: 2018/07/10 09:08
名前: とりけらとぷす (ID: wf9BiJaf)

ギャラリーには、たくさんの絵画が飾られていた。どれも淡い色のタッチで、同じ画家が描いたものかと思われた。
その中でも特に僕の目を引いたのは、一番奥の壁一面を飾る風景画だった。
僕が無意識にその絵に歩み寄り眺めていると、気に入った?とリイも横に来て絵を見上げた。

「僕、この絵が一番好きなんだ」

そう言うリイは、どこか遠くの方を見ているような気がした。
山間に描かれたいくつもの白い建物。それらはドーム型で、ここらではあまり目にしない建造物だった。とても細々としたタッチで、色とりどりの花も描かれている。
ただ、人がいるというような描写は一切されておらず、でもその閑散とした感じを淡い色とりどりの色で感じさせないようにしていた。
この絵からは、人が描かれていないにもかかわらず、ぽかぽかとした人のぬくもりを感じた。

「ここの絵は全て同じタッチで描かれているけど、リイはこの画家が好きなのか?」

「いや、これは、僕の先代が描いたものだよ」

「へえ…凄いな。なら、リイは画家の家に生まれたのか。じゃあ君は、王宮直属の画家ってわけか。画家は重宝されていると聞くし…といっても、こんなに優遇されているとは知らなかったよ」

僕が1人で納得していると、リイは静かに首を振った。

「違うよ、僕は画家じゃないし、お爺さんもそう」

そう言って、リイはまた絵に目を向けた。

「これはね、先代が故郷を思って描いたものなんだ…題名はーーーーー『プレタリアの街』……」

「プレ…タリア……?」

「ああ、知ってるかい?何百年も前、神の子の呼ばれた者たちだ。……虐殺で、ほとんど殺されてしまったけれど。
ここに住む人達は、皆、白い着衣を着ていたらしい。白い布は、『純白』『純潔』を意味するんだ」

「それで、君も白い布を?」

おかしいと思っていた。貴族や身分の高い者であるなら、黒い着衣を着ているはずだからだ。

「なぜ、奴隷達が白い布を身にまとっているか知ってるかい?
ーーー対して、貴族や身分の高い者達が、黒い布を纏うようになったかを。
貴族達はーーー今も昔も変わらないかもしれないけど、その昔、悪魔に魂を売ったんだ。人が血を流すのに一種の快感を覚えたり…例えば、闘技場や魔女狩りなどがそう。あんなのに、意味なんてないんだよ。人々を愉しませるための、一種のショーに過ぎない。
あと、貴族達は金や地位にたいそうこだわる。全ての人がそうとは限らないけれど、欲深さを具現化した生き物にさえ思えてくる…。
ああ、少し話が逸れてしまったけれど。
つまりは、悪魔に魂を売っても、身までは売るなってことだ。黒い布を纏い、悪魔を装う事で、心身を蝕まれるのを避けたということ。
それに対して奴隷達が白い布を纏っているのは、いわば、悪魔(貴族達)に身を売っても魂までは売るなということ。心の白きを忘れず、世の汚れを知りながらも、自らはその色に染まらぬようにという願いが込められている。
神は白い布を纏っているだろう?プレタリアもそう。
人は、生まれながらにして善悪を決められているわけじゃないよね。だから、赤子を取り上げる時なんかは、白い布が使われる。人は生まれた時は、皆神の子なんだ。それでも、貴族らは黒い布を纏い続ける。長い年月欲望のままに生きてきた罪があるからだ。
そうとは知らず、白い布を纏う下層民達を蔑み、黒を貴の象徴とするーーー全く、無知も良いもんだね」

僕は自分の服の黒色が目に入って嫌になった。僕も、その血を継いでいる。長い年月をかけて溶かされた罪の血が僕にも流れているのだと思うとぞっとした。
僕もいつかは悪魔に魂を売るのだろうか。それとも、知らずして、もう売ってしまっているのだろうか。
リイの身分が高いにも関わらず白い布を纏う勇気に僕はただ立ち尽くすしかなかった。あくまでも僕は、貴族という身分があるし、家系のこともあるので、白を着るのを避けてきた。白は下層民が着る物だから…どこかでそう思っていたのかと思うと、自分で自分が許せなくなる。
だったら国家を変えようというこの計画も全て、実は僕のためでしかなくて、皆のためという偽善を掲げ、皆を巻き込んで…。
それなら、ロベルトに裏切られたとしても、仕方なかったのかもしれない。彼はーーー理由は知らないが、僕の父親に酷く恨みを持っているらしい。
なら、計画に同意したふりをして僕を暗殺しようとしたのも納得がいく。彼は頭がいい。
僕が独断で王宮へ忍び込むことを決断し、それをロベルトが止めようとしたが兵士らに見つかり刺殺された…など、いくらでも話は作れる。また、もしロベルトが疑われ、打ち首になったとしても…彼は恨みを晴らせたのだから、一層本望かもしれない。復讐とはそういうものだ。

「ご、ごめん。そんなに思い悩むとは思わなくて」

僕があまりに黙っているものだから、リイは心配してくれたが、僕は首を横に振るだけで何も答えられなかった。

「さっきも言ったけどね、全ての人がそうって訳じゃないんだよ」

今ではそのリイの慰めの言葉でさえも、なんの意味も持たない、薄っぺらい表面だけの言葉に聞こえた。

「…僕は、裏切られたんだ。こんなだから……信頼できると思っていた相手に。僕は本当に大馬鹿者だ」

僕がふてくされて言うと、レイは真っ直ぐに言った。

「それは多分、違う」

彼の銀色の瞳が、今少しばかり黄色がかって見えた。きっと電灯の光が反射したためだろう。
でも、その時僕は、レイの瞳の中に強い意志を持って一輪の花が咲いたように見えた。

「本当に、それは君の信頼している者だったのかい?見間違いの可能性は?…人の記憶なんて、曖昧なものだよ。あまり、過信しない方がいい。何せ、君のいた所はあの惑いの地下道だったのだから」

その時、ボーンボーンと何処からか柱時計が大きな音を立ててなるのが聞こえた。

「あと1時間で夜明けだ」

「もう夜明けなのか?」

「ああ、君はよく眠っていたからね。君は家へ帰ったほうがいい。きっと、確かめたいことがあるはずだ」

部屋へ戻ってくると、リイは指を鳴らして、召使いをよこした。

「ごめんね、僕はここから出られないんだ」

送り側、リイは寂しげに言った。

「また、会えるかな?」

「わからない。だけど、君が本気で国を変えようとするとき、僕は力になるよ」



部屋を出て廊下を抜けていくと、長い廊下の先に人が何人も乗れそうな大きな箱があった。

「こちらにお乗りください。私はここで引き上げますので」

「これは?」

「エレベーターというものです。ロープで巻き上げることにより、上へ上ることができます」

僕は今まで見たことのない乗り物に戸惑いながらも、不安定な箱に足を踏み入れた。

「本当に、大丈夫なんだろうな?」

「ええ。皆さんいつもこれを利用しておりますので」

「お前は来ないのか?」

「申し訳ございません、人手が足りないもので。ご安心ください、上に迎えを呼んでおります」

そう言うと、召使いは横にある錆びきった巻上げ機を巻いた。

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.91 )
日時: 2018/07/19 13:03
名前: とりけらとぷす (ID: P747iv5N)


だんだん視界がひらけてきて、大きな振動と共に止まったのは王宮の食料庫か何処かだろうか。まだ少し地下の冷たい空気を含んでいる空間だった。
あの召使いは迎えを呼んだと言っていたが、何処にもそれらしき人はいない。
食料庫の中を探し回っていると、後ろでガチャンと言う音がした。
ーーーーー嫌な予感がした。
その僕の予感は的中していたようで、エレベーターはまた上へと上っていってしまった。
あの錆びた巻上げ機から想像するに、止まったりすることもあるだろうに、僕は迂闊にもエレベーターを降りてしまった。
食料庫と思われた部屋は、どうやら資料室でもあったらしく、今では使われていないのか、歩くたびに埃が舞った。
隙間からの採光を頼りに出口の扉までたどり着いたものの、錆びているのか鍵がかかっているのか開けられない。

「またエレベーターが来るまで待つか…地上に近いみたいだし…」

僕が脱力して本棚にもたれかかっった時だった。相当古いもので脆くなっていたのだろうか、ミシと木にヒビが入る音がしたかと思うと、本棚から本がどさっと落ちてきた。

「……っ」

本当にもう、災難ばっかりだ。
落ちてきた書物を睨みつけると、その書物の中に気になる題があった。

「王宮回路図……?」

随分と分厚い本だった。赤い表紙に、金色で印字されている。埃をかぶっていたものの払ってみると本自体は意外と綺麗な状態だった。

もしかすると、僕が今何処にいるのかわかるかもしれない。

些細ながらも差した希望の光だった。
ページをめくっていくと、王宮の内部が細やかに描かれていた。

「地下一階…資料室……多分これだ!他に出口は……さっき開けようとしたところと……それ、だけ…」

出口はひとつ…エレベーターもここにちゃんと止まるとは限らないし、乗り方を間違えたら挟まれて死んでしまう。
僕がまた絶望の淵に浸りながら、訳もなくページをめくっていると、一枚の紙が挟まれていた。手にとってみると、何やらか細い字で書かれている。

『頭上◻◻王の座◻◻◻。王◻◻国は滅び◻◻』

随分古いものなのだろう、読めるのはこれだけだった。少し虫が食っていたり、インクが薄まっていたりして判断できない。

「頭上に王の座…?…まさか、いや、そんなわけ…」

何となく天井を見渡してみると、天井に不自然な丸が刻まれているのが見えた。

「そんな、馬鹿なこと、あるわけない」

自分に期待するなと言い聞かせながらも、僕は丈夫そうな本棚を見つけ、登っていた。
あっという間に本棚の上まで登ると、天井に不自然な切り込みがあった。
力一杯押してみると、はしごのようなものが見えた。何処まで続いているのかわからない。ただ、そのはしごのずっと先に、かすかに白い光を帯びている気がする。

「…落ちたら大変だ。慎重にいかないと……」

その時、僕はここから脱出することばかり考えていて、重要なことに気づけなかった。
僕はこの後、このことを後悔することになる。

Re: 命を売り買いする場所。 ( No.92 )
日時: 2018/09/05 22:10
名前: とりけらとぷす (ID: z0poZTP7)


第19話【空虚な王座と真実の種】


思い蓋のようなものを押すと、光ある場所へ出た。白いカーテンに、様々な足が見える。運の悪いことに、会議中の長テーブルの下に出てしまったらしかった。


「さて、本題へ入りましょうか」

「こんな早くに緊急会議とは何事ですかな。わしゃ眠くてたまらん」

「まあまあ、国家の一大事です。ゴホン。何やら国家の安泰を壊そうと企んでいる輩がいるようで…」

「アルドリア一族の一人息子。名はーーーアルドリア・レオ」


ーーーえ?
僕の心臓はこれまでにないほどバクバクと音を立てていた。まるで、心臓のポンプが無理やり血液を押し出すように。


「ハッハッハッ、アルドリア一族の息子とは。カナリア様もとんだ恥をかかされたものだ」

「まぁ、何かあれば打ち首か絞首刑にすればよかろう」

「そうだな。そんな小僧一人に我らが動くまでもなかろう。放っておきたまえよ。いざとなれば、手段はいくらでもある」


「さあ、今は亡き王に、我らの自由奔放な国家に祝杯をあげようじゃないか!」


グラスが動く音がしたから、きっと乾杯でもしたに違いない。
どうやら、会話内容から察するに、国家の幹部か何かには違いないが、一つ、気になる点がある。
それは、彼らが「今は亡き王」「我らの自由奔放な国家」と言ったことだった。
ここが会議室なら、昔一度来たことがあるところかもしれない。2歳か3歳くらいの事だからよく覚えてはいないが、窓ガラスのあたりに王座があったはずだ。立派な、黄金の椅子が。
僕は気づかれないよう最新の注意を払いながら、床を這って光の一番当たっている所へ向かった。
会議の長机は幅が広いから、誰かが足を伸ばしたりしない限り容易に移動できる。


「それで、戦争の件はどうなったのかね」

戦争…確か魔女狩りが始まるとロベルトから聞いた時、そんな事を言っていたような。

「他国が攻めてくるというのはデマだよ。分かっているものを」

デマ?どういうことだ?

「ハハハ、そうだったそうだった。では、例の件の事かね」

「ああ、そうさ。例の件だよ」

「順調か?」

「ああ、全く計画通りだよ。ピエタ君、結果報告をしたまえ」

「ははっ、現状を述べますと、青目は現在562人、アルビノは14人、プレタリアはまだ見つかっておりません」

その声に聞き覚えがあったが、ピエタなんて聞いたこともなかった。きっと声の似ている人なのだろう。
例の件とは、あの島のことだろうか。何故か青い目、アルビノ、プレタリアの女性を集めているという、前代未聞の魔女狩り。そして、その人達はある島へ集められ、しかも、何故か殺されていないという…。

「結構。それでは、実験結果は」

「細胞の取り出しには成功した様ですが…現実的にはまだまだ……」

「そうか…後何年かかる」

「最低でも10年は…」

「何?それでは遅い!!」

この中で一番偉いと思われる人がダンっと机を突いて立ち上がった。

「15の齢になればカナリア様の息子であるレオ様が王宮に使えることになる…それまでに完成せねばいかんのだ!完成すれば我が国は繁栄すること間違いなし、作り上げた人間ならば、問題となっている奴隷問題にも対処できよう!この実験が完成して初めて、我が国は安定を取り戻し、誰もが身分秩序を気にかけることなく生活することができるのだ!」

内容から判断するに、作り上げた人間を奴隷として売ることで、生身の人間を売らなくて済むということらしい。
でも、作り上げた人間って…?それが、あの島で行われていることなのか。
この大臣と思わしき人が平等な世を作ろうとしているのは確かだが…何だか、僕の考えとは違うような気がした。

「そうです!そうして四民平等を実現することができれば、ルドルフ大臣の王座は間違いなしでございます!」

「とにかく…後5年だ。後5年…いや、その前にカナリオ様に気づかれては…。いや、もう勘付かれているかもしれない。なるべく早く…事を進めてくれ」

「はい…それでは…」

ピエタという男は下がったらしい。部屋から出て行った。

「さぁ、ピエタも出て行った事だし、本当の本題に入ろうではないか」

拍手喝采が起き、急に雰囲気が変わった。その異様な雰囲気に僕は思わず足を止めた。

「ルドルフ大臣が王座に着くとなりますと、問題はやはり、カナリオ様でございますな」

「ええ。庶民どもは王様の顔を知りますまい。しかも、まだ王様が存命だと思っておるわい」

「ならば、カナリオ様をどうにかする必要がありますな」

「それなら、丁度いいのがココへ入り込んだらしいじゃないか。レオ様がまだ此処にいるらしいからな。他の二人は捕まえたが」

二人が捕まった…?

「それをダシにすれば、カナリオ様の左遷は確定かと」

「いいや、それじゃ足りん。もっと大きな問題を起こさせて…濡れ衣をかぶせるのだ。それが王族直下の家臣のした事となれば、首はもう無い」

ガハハハっとルドルフ大臣は大笑いして、こう続けた。

「国民の信頼と、アルドリアの名誉を失った彼奴の顔が眼に浮かぶわ」

ルドルフ大臣に連れ、周りの人達も甲高い声を上げて笑い出した。
これは…僕の父親の左遷…いや、暗殺計画なのか?
いつからそうなんだ?父上は気付いているのか?

「カナリオ様は厄介だ。何せ、奴隷を買いあさっているからな」

「それはいいんじゃ無いですか?」

「いや、良くない。それは、一族の名誉のためでもなんでもなく、彼自身のためだからだ」

「と言いますと?」

「カナリオ様は、昔大きな罪を犯されている。それで救えなかった者たちを自分の金で買う事で救っているおつもりなのだよ」

罪を…?僕の父親が…?いや、まさか。そんな事、聞いたこともない。そんなこと、一度だって…。
それに、救えなかった者たちって…?一体、何がどうなってるんだ。

「それでは駄目なのだ。それでは、国家の繁栄は望めん。王族直下のものが払った金で王国を運営していてどうする。これじゃまるで利益がないじゃないか」

「そこで、ルドルフ大臣が他国へ奴隷を売る計画を思いついたわけですな」

「そう、しかも、これが成功すれば莫大な利益が望めるぞ。…研究費もそれなりにかかっているが…」

「そんなもの、完成して仕舞えば馬鹿にならんよ」

「そうだ。完成すれば、完成しさえすれば…我らは架空の四民平等を元に国民を自由に扱えよう。ただでさえ独裁国家を刷り込んで置いたのだ。そんなもの、いとも簡単さ」

「しかし…アルドリアが国家へ払ってきたものは莫大な額でございます。それをなくしてしまって宜しいのでしょうか…」

「良いだろう。消すのはカナリオ様のみだ。その際ギロチン台の前で命乞いの代わりに全財産を国家へ寄付する事を制約させれば良い」

「ルドルフ大臣、素晴らしゅうございます!流石次期王座につく者!」

また不気味な笑い声が響いた。
僕の拳は無意識に力が入っていて、手から少し血が出ても気付かなかった。
僕は怒りに震え、自分が壊れるのを感じた。
何処からか湧いてくる憎悪感は滝のようにとどまる事なく流れ出て、僕の身体中を駆け巡って熱くした。

「えぇ、ところで、どうしてアルドリア一族はそんなに莫大な財産を持っているのでしょう?」

あまり喋っていなかった男が期限を伺うように聞いた。
ルドルフ大臣は、なんだ、そんなことも知らんのかというばかりに鼻で笑った。

「アルドリア一族は、元王族だからだよ。この国は元々ーーーーーアルドリア王国であったのだ」


Re: 命を売り買いする場所。 ( No.93 )
日時: 2018/10/05 08:13
名前: とりけらとぷす (ID: 4Sz5tcpQ)


その声が聞こえたのと同時に、僕は古びた王座の上に見慣れた紋章を目にしたのだった。
盾の形をした、アルドリアの紋章。赤地に黒いライオンのマーク、その頭上に金の冠が施されたそれは、間違いなく僕の一族のものだった。
僕の知らないところで世界は廻っている。これはきっと、僕なんかが首を突っ込んではいけないことだったのだ。
ふと左の脇腹に強い痛みを感じた。

「ん?何だどうした」

「いや、何か今足に当たった様な」

まずいと思った時には、時すでに遅し。

「おや、いいカモがおりますぞ」

僕は机の下から引きずり出され、初めて大臣全員の顔を見たのだった。恰幅が良く、カツラでも被っているのだろうか、パーマのかかった白い髪を一つに結っている。
ルドルフ大臣は二人に拘束され睨みつける僕を見て腹を抱えて笑った。

「…何がおかしい」

「いや、ははは。まさか御本人自ら出向いてくれるとは。私どもが手を下す手間が省けたわい」

「いつからここにいたのかわかりませんが、どうします?話を聞かれたからには、処分するのが適切かと」

処分だって?そんな、まだまだしないといけない事が沢山あるのに。父上に伝えなければ。一刻も早く、父上に伝えなければならないんだ。
僕が必死に抵抗すると、ルドルフ大臣は哀れむ様な目で見て、予想外のことを言い出した。

「いや、落ち着きたまえ。国家の反逆者たるものと雖も、まだ子供ではないか。処罰というのは少しばかり重すぎる。…捉えた二人とともに返してやれ」

「しかし…」

「早急にだ」

「はい、わかりました」

こうして僕はほぼ6時間ぶりにロベルトとおじさんと再会したのだった。ロベルトは裏切り者かもしれない。会ったら一度殴らなくては済まないほど煮え立っていた僕の心は、ロベルトを前にしたところで何も起こらなかった。そんなことより、さっきの会話と空虚な王座の上の紋章が何度も何度も脳裏をよぎった。
僕らは貧相な馬車に乗せられ、早急に家へと帰された。
何も出来なかった。僕は人を巻き込んだ上に、親族までもを危険な目に合わせるきっかけを作ってしまったかもしれない。自分の無力さを噛み締める他なかった。大人の世界に首を突っ込めるほど、僕はまだ大きくなかったし、子供だった。僕が直談判すれば聞いてくれると思っていた王様はすでに存在不明。いや、そもそもそんな理想像は呆気なく崩れ落ち、貪欲な大臣らの下、独裁国家が作り上げられていたというのだから、僕らはありもしない相手に立ち向かっていたに過ぎなかった。
何も、手掛かりすらつかめなかった。島の事だって、何か実験が行われているという事だけで。


ーーー沈んだ空気の中、馬の蹄の音だけが軽快に鳴っていた。教会の鐘の音がこの街に朝を与える。虚構の世界で生かされているとも知らずに、沢山の人が操り人形のように動かされている。
全ての人に自由を与えるなんてただのエゴは、掲げたところで何の役にも立たず、呆気なく消えてしまうのだろう。
カーテンの隙間から今日もあの石台の上で、命の売り買いが行われていた。
街の喧騒が、嫌に煩かった。












「しかし、本当によろしかったのですか、帰してしまって。きっとカナリオ様に言い付けるに違いありません」



「カナリオ様も前々から勘付かれていた事であろう。少しばかり時期が早まっただけだ」



「只今、王子から、興味深いものが届きましたよ。資料室で使用人が見つけたものだそうです」



「…良いものを残してくれたな。さぁ、我々も準備に掛かろうではないかーーー」







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