ダーク・ファンタジー小説

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暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】
日時: 2017/01/30 14:07
名前: & ◆p1kEDHfk2I (ID: Zodo8Gk0)

&という者です。
短編集書きたいな…なんて思ったらスレ建ててました←

題名からして物凄い暗そうですが、暗いです((何の捻りも無い
ハッピーエンドもバッドエンドもループエンドもオチなしも何でもアリです。多分。

そんなものに付き合っていただけるなら、暇潰しにでもご覧ください。

ちょっとした宣伝です。
SS大会で作品を投稿させていただきました。「すきー!」を押してくださった方、ありがとうございました!作品名は「あおいろ」で、3部構成なので全3スレです。ちょっとリメイクとかしてから、このスレにも載せようと思っています。

それでは。

目次
縛 >>1-5
柱の陰に >>6-10
cigarette >>11-16
おもちゃばこをあけてみて >>17-22
華やかな世に結末を。>>23-28

オチが無さ過ぎて困るこの頃です((

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.19 )
日時: 2016/08/25 18:50
名前: 転寝 (ID: bUOIFFcu)

おもちゃばこをあけてみて-3

そう。
間に合わせ。

ステータスが少しでも高いキャラが出てきたらすぐに後退させられるような、
パーティ組むRPGであれば回復のためのメニュー画面でも使われないような、
逆に「初めの勇者でオールクリア!」とかってやり込みの対象にされるような、

典型的な、最弱キャラ。

『ホンット、理不尽よね』

噛みしめるようにモンスターが呟いた。
そうやって歯噛みするのも、もう何度目かわからない。

だからって何かができるか?
...何もできない。

『しゃーねーよ、俺らは底辺キャラなんだから...大方、お前も"そう"なんだろ』

そう言ってやると、モンスターは少し目を見開いた。何でそれを、みたいな目をしている。俺みたいな奴ならわかるに決まってる。なぜって、それは、

『俺もそうだからだよ、貧民街出身の普通のモンスターさん?』

***

『———アンタは、先天性かと思ってたわ』
『は、何だそれ...ひっでぇ』

なんとか絞り出すようにして言ってやれば、苦笑しながら返される。
貧民街...いわゆる掃き溜め。
最下層で底辺の扱いを受ける者たちが、あるいは金がなくなって住むところのなくなった者たちが、まるで投げ捨てられたように集う、最悪の街。普通はモンスターと勇者じゃ生きていくための条件が違うから、住むところも違うのだが、それさえも区別されなくなった街...というか地区こそが、貧民街。

アタイは...アタイらは、そんなとこの出身なのよ。

だからこそ、アタイらは———

『じゃ、アンタも学校行ってないんでしょ。貧民街出身てことは』
『ああ、勿論。そんな金ねぇし、あっても貧民街出身ってだけで追い返されるだろうし、仮に受け入れてもらえたとしてイジメは免れないだろうからな』
『...じゃ、勇者としての教育は受けてないのね』
『変なこと聞くなお前。当たり前だろ、学校行ってねえんだぞ』
『そうね』

———ろくな教育も受けられずに、

『金持ちだったらちょっとはマシだったのかしら、アタイら』
『さあな。さっきお前が言ったように先天性の奴もいるみたいだし、金持ちだからっていい給料もらえる勇者になれるかはわかんねぇよ...ま、そう思うと、どれだけ頑張っても全然報われねぇ先天性の奴らよりはマシかな、俺たち』
『先天性の人達は、まあ、そういう運命だから』
『それが可哀想って言ってんだよ』

ろくな給料ももらえずに———

『...どちらにしろ、このまま死ぬんだよ、俺たち』

———変われずに、

『アンタもアタイも、もう何回も死んでるじゃない』
『はは...そうだったわ』

きっと消えていくんだ。

『...あ』
『どうしたのよ』
『やべ、そろそろプレイするぞあいつら』
『え?』

「———なぁ兄ちゃん、ゲームってどうやったらうまくなんの?」
「さぁ...オレはやり込んだだけだし」
「じゃあおれもやり込む!」
「ほどほどにしとけよ、目ぇ悪くなるって先生にも言われてるだろ」
「はぁーい。さて、電源、電源...」

『じゃ、またな。プレイ中は意識なくなるから』
『そうね、じゃあまt———』


ぴーーーーー。

ゲームが、はじまるおと。

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.20 )
日時: 2016/11/13 14:18
名前: & (ID: bUOIFFcu)

おもちゃばこをあけてみて-4

『…やっぱ痛ぇ』

死を覚悟する程の激痛に鈍痛が余りにもあんまりで、奇声だか何だかわからない声を上げて叫びながらそこら中を転がり回る…ような元気はなく、俺はただ寝ていた。ちなみに死を覚悟するほどの激痛に((ry))転がり回っていたのはモンスターの方だ。死を覚悟する痛みと共に、文字通りあいつは死んだ。さっきのプレイで俺に倒された。倒されて、消滅した。

倒されて、消滅した。

『………モンスターだもんな』

最初からそういう運命なのだ、モンスターというのは。勇者に倒され消滅する。それは一時的なものではなく、本当に消滅するのだ。本当に、消滅してしまうのだ。

例によって。

さっき、俺が倒したモンスターは、消滅した。

消滅した。


消 え た 。


『……………』

知っていたはずだ。前からわかっていたはずだ。消えてしまうなんて当たり前のはずだ。それがこの世界のルールのはずだ。だからそれは何でもないことのはずだ。

そのはずだ。

《しょうがないわよ、アタイら下流階級の貧乏人なんだから》

アレをあいつはどういう気持ちで言ったのだろう。
下流階級であろうがなかろうが、あいつは消えるのだ。
俺らの寿命が幾つなのかなんて知らないが、少なくとも、倒されなければもっと長く生きられるのだ。

…あいつはもう10回死んでた。

俺の死んだ回数はそんなもんじゃないが、勇者にとっての「死ぬ」とモンスターにとっての「死ぬ」は重みが全く違う。基本的に何回でも生き返って敵と戦わされる勇者と違い、モンスターは1度倒されたら本当は死ぬのだ。消滅するのだ。それは下級のスライムとかの敵でも同じ。

だけどあいつは、11回生きた。

何でそんなに生きられたのかなんて知らない。何でそんなに生きようと思ったのかも知らない。

けど、

《アンタもアタイも、もう何回も死んでるじゃない》

———アレをあいつは、どういう気持ちで言ったのだろう。

何度でも生き返る俺と違って、あいつは死ぬはずだったのだ。
死ねずに何度も痛い思いをするのも辛い。それは俺がよく知ってる、伝説になれない勇者なら誰でもわかる。…けど、やっぱり死ぬ怖さというのは格別だろう。俺だって、痛い思いをしたくないとは思っても、じゃあ死ぬかと言われたら嫌だと答えると思う。

だから、怖かったのだろうか?
何度痛い思いをしても、死ぬのは嫌だったのだろうか?

『…なら…わからなくは…』

…いや。

前に言っていた。あいつは前に言っていた。

『死ぬのが怖いなんて、贅沢な悩みよね…だったか』

それは人間に対する皮肉だった。
死ぬのが怖いなんて言ってる人間たちは贅沢すぎると。
こっちは何回死んでると思ってんだ、と。
そして出来ることなら、痛い思いなんてもうしたくないから、早く死にたいのだと…。

死ねなかったのか?
死にたかったけど、特異体質か何かで死ねなかったのか?

…わからない。

わかるためには知らなければならない、という言葉は誰に言われたのだったか。…これもあいつから聞いたんだったか?

そうだ。
俺はあいつのことを何も知らないのだ。
あいつが何を思ってたかも、何を信じていたかも、何が好きだったかも、何を見て生きてきたかも。
何より、俺は、

あいつの名前すら、知らないのだ。

『あぁクッソ…!』

わかるためには知らなければならない。
俺はあいつのことを知らないから、わかるわけがない。

『わかんねぇ…わかんねぇ、知らねえ』

…もうすぐ朝が来る。
あの兄弟は、特に兄は、かなりのゲーマーだから、朝早くに起きて少しこのゲームをやるのだ。こちらとしては、ゲーマーなんてたまったもんじゃないが。

『痛い』

痛い。

『痛い』

痛い。

『痛い…』

痛いんだ。

身体中が。身体中が。この身体のそこかしこが。全身くまなくどこでも。どこでも。全部。全部、全部。

痛いんだよ。

『………』

———死を覚悟するほど———

痛いんだ。

ぴっ。

「うし…やるか」

ぴこん。

げーむが、はじまるおと。

てくてく。

ぼくが、あるくおと。

ぱしっ。

ぼくが、てきをなぐるおと。

ぼかっ。

てきが、ぼくをなぐるおと。

「…おかしいな…」

どこっ、ばきっ、ごすっ。

てきが、ぼくをなぐるおと。
なぐりつづけるおと。

「何でだよ…バグか…?全然操作通りに動かねえ…」

どすん、どすん、どすっ。

てきのやりが、ぼくを、つらぬくおと。

ぴーーーー。

ぼくが。

しんじゃう、おと。

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.21 )
日時: 2016/12/16 17:22
名前: & (ID: Zodo8Gk0)

おもちゃばこをあけてみて-5
モンスターの独白

…死んだのね。
そりゃアタイだって消えたけど。
勇者にしては早いわよ、アンタ?

長かったわ。
11回も生きるなんておかしいわよね。普通1回しか生きられないのよ?アタイらモンスターは。特にアタイなんて最下級のモンスターだから、早々に倒されて消えて、次のモンスターに交代する運命だったわけよ。

最下級のモンスター…か。

ねえ。
アンタには言ってなかったけど。
アタイは…

…わたしは、本当は超級ボスとして生まれてきたの。

アンタ…あなたたち勇者で言うところの、『伝説』として生まれてきたの、元々はね。

わたしは。
本当は、最下級に堕ちるなんてあり得ない身分だったのよ。あなたも聞いたことあるでしょ、超級の血筋トーハって。
…わたしの真名は、イヴィーラ・アリアドネ・トーハ。トーハ家の一人娘で、超級ボス職は確実だって言われてた。小さい頃からそれなりの教育も受けたわ。

…でも、トーハは、呪われた血筋だった。
それを知った時はもう、そんなに幼くなかったわ。教育も完璧に受けて、そろそろ超級になるための試験を受ける頃だった。試験といっても、本当に超級の血が入ってるかどうかの検査だけだったけど。

超級目前で、私に呪いはバレた。

わたしのお父さんが切っ掛けで、わたしのお父さんが、トーハの血筋が、『勇者の呪い』にかかっていると、知ったの。

勇者の呪い。

勇者の如く———

———何回でも生き返る呪い。

それを知った時、わたしは嫌でも悟ったわ。
うちの血筋は、勇者から堕ちたモンスターなのだと。

本当は勇者とモンスターは、決して交わらない運命にある。けれど時々、勇者の資格無しと断定されてモンスターに堕ちた勇者がいる。堕ちた勇者は、何度でも生き返る苦痛のみを残してモンスターとなる———

勇者なら誰でも教えられる知識らしい。学校に行っていれば、だけど。だからあなたは知らなかった。

………。

わたしは結局、超級ボス職に就いた。

けど、わたしは生き返った。
自分の意思で生き返った。
今まで先代達は、勇者に倒されたら自分で特殊な毒を飲んで自害していたそうだ。呪われている事を知られないために。
わたしはそれをしなかった。それは何故か?

あなたを…

アンタを見たからよ、バーカ…!

アンタは、自分が最下級と知っていながら、自分の運命に絶望しながら、それでも死ななかった!
最下級の勇者は、1度死んだら本当に死ぬのが道理。それは精神力が持たないから。自分の状況に絶望するから、心が折れて死んでしまうの。

けどアンタは生き返りやがったわよね!?

5回以上も生き返ってたわよね!ゲーマーのくせに下手くそなあの人間の兄弟の弟の方のせいで!全然敵を倒せずに死んでしまって、でも生き返ってた!見てたわ!ずっと!

それは、最下級の勇者が普通は1回で死ぬ事を知らなかったからだけじゃないはずよ!

自分の運命に抗う姿を、不覚にもかっこいいと思ったわ。血の運命に流されず、状況に流されず、自分の決断で自分の生死を決めていたのよ。それは…それは、わたしにはなかった選択肢だったの。

だからアタイは生き返った。
毒なんて飲まなかった。
お父さんには怒られたし、世間からは白い目で見られるし、わたしは最下級のモンスターに堕とされたわ。
そこで初めてアンタと出会って話をした。それまでは最終面で鎮座するばかりだったもの。風の噂で、死なない最下級勇者がいるって聞いたから覗いてみただけだったもの。

アンタは卑屈で皮肉な奴だったけど、やっぱり生き返ったわね。

ねえ。

アタイが何で死ななかったのか、どうして聞かなかったの?
それだけじゃない。
どうしてアタイの名を聞かなかったの?

アタイはアンタの名を知ってた。

アンタの名前は———

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.22 )
日時: 2016/11/03 20:24
名前: & (ID: bUOIFFcu)

おもちゃばこをあけてみて-6
勇者の独り言

俺の名前はアンだった。
アンなんて女っぽい名前、つけられたくもなかった。
両親に訊いてみれば、「アン」っていうのは、とある伝説の勇者の名前らしい。それも、ただの伝説の勇者ではなく、正真正銘《伝説》として語り継がれている勇者の名だ。聞けば、その勇者は、元々貧民街出身の普通の勇者だったのだが、想像を絶する厳しさの鍛錬やモンスターとの交戦の結果、なんと『伝説』の勇者になったという。だが普通そんなことはありえないし、マジでその勇者が存在したのかはわからないため、《伝説》として語られているのだった。

…何でそんな偉大な人の名前を俺にって。
俺なんか、何も出来ない、ただの木偶の坊なのに。そのくせ何度でも生き返るから最初の面で使われまくる。出来損ないの、死に損ない。
だから俺はこの名前が嫌いだった。

アイツに出会ったのは確か…5年くらい前?

見た目すごく強そうなのにステータスは雑魚で、なんともやるせないキャラだった。本人は「見た目が強そうに見えるって、損になることもあるのね」と他人事のように言っててなんか可笑しかったのを覚えてる。

最初に俺が驚いたのは、モンスターのくせに何回も生き返ること。
それから、最下級のくせになぜか身のこなしが洗練されていたこと。
おかげでプレイが終わった瞬間の痛みがヤバかった。こいつの前に戦っていたモンスターでは、そこまで痛まなかったのに。

…あいつは何回も生き返ってて、俺は何度も痛みを食らわされた。

何であんなに生き返ったのか、そんなのわかりはしない。わかることはできない。だって俺はあいつのことを何も知らない。

…ただひとつ、知ってることは、俺も死ぬ運命にあったことだ。
俺のような最下級勇者は、精神力がすごく低いのが大抵だ。俺も卑屈で自傷的な性格だから、メンタル的に弱いということになるのだろう。メンタルが弱いものだから、生きる気力がわかなくて、最下級勇者は3回くらい戦ったら精神力が尽きて死ぬ。それが道理。

けど俺は生きた。
その理由のひとつは皮肉にも、大嫌いな『アン』の名前のせいだった。

俺は、我ながら物凄く馬鹿らしいのだが…どうやら、《伝説》になりたかったようだ。

もしかしたら、俺も『伝説』になれるかも。
もしかしたら、俺も《伝説》になれるかも。
もしかしたら、こんな俺でも、誰かが語り継いでくれるような人物になれるかもーーー。

それが動機だ。それのおかげで、メンタルが折れなかったのだ。
では、他の理由とは何か?

それはアイツを見ていたから。

モンスターのくせに何回でも生き返るアイツを見て、運命に逆らう生き様を見て、なんだか俺も負けていられなくなったのだ。勝手に負けん気出して、アイツが死ぬまで俺も死んでやらないからな、と強く決めてしまったのだ。

それだけに…

アイツが真の意味で死んだのなら、俺の生きる意味なんて、無いに等しい。
結局、いくら生き返っても、『伝説』になんてなれやしなかったし。
まして、《伝説》になるなんて叶うはずもなく。
俺だって本当に死んでいったのだ。

アイツに会えるのかなって、思ったりした。
アイツがまた、軽口を叩いて、物理的に俺を叩いて、それでもへこたれずにバカやりあったり出来んのかなって。出来たらどれほど幸せだろうって。

結局俺は、最後まで出来損ないで死に損ないだった。
名だたる伝説の勇者たちは、出来るエリートで、死ぬのを惜しまれる価値ある人間なのに。
俺は何も出来なくて、早く死ねと言われても仕方のない、価値の無い奴なのだ。

それでも。

アイツと過ごした時間くらい、価値のあるものだって、誰かそう言ってくれないだろうか。

…それだけを宝物として、死ねたのなら、

なんて俺は…

幸せなのだろう?

…あぁ、もう眠らなくちゃ。
最後にまた、アイツの声が聞こえたら、よかったな。

………。

………。

…………………………。

***

此はとある御伽噺
昔の御話
弱者として産まれた勇者は
伝説として語られる
死なない呪いの掛けられた勇者は
死なない呪いの掛けられたモンスターを倒し
伝説を創り上げて、

悲しく死んで逝くのです

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.23 )
日時: 2016/11/13 14:22
名前: & (ID: bUOIFFcu)

華やかな世に結末を。-1

華世。
私はこの名が好きだ。
華やかな世をつくれ、という親の願いによってつけられた、この名前が。
外見も中身も相応に「華やか」で、今のこの「世」において人々の羨望の的となるに違いないであろう完璧なステータスを持つこの私にぴったりな名前。
この名前を背負う人物として、私が適任でなくて誰が適任と言うのだろうか?

華世。
私はこの名が嫌いだ。
華やかな世界で自分らしく生きろ、という願いをもってつけられたこの名前が。
外見も中身も相応に「華やか」とは掛け離れていて、今のこの「世」において人々に侮蔑の目を向けられるであろう、出来損ないの完成形のような私には不釣り合いな名前。
この名前を背負う人物として、私はなんて不適合な人間なのだろうか?

この日、私たちは出逢ってしまった。
この日、私たちはわかってしまった。

絶対に私たちは相容れない。

***

「華世」
「んー、何?りっちゃん」

うららかな陽射しが窓から差し込む。
そうやって言うと春かと思うけど、実は今は冬。冬の時期の教室における窓辺の席っていうのは、どうしてこんなにあったかいのか。いや、勿論、教室の室温が下がりきっているから、相対的に窓際が暖かくなるのだということくらいわかっているけど。私はそんなこともわからないような馬鹿ではないのだ。

さて、今日の朝の席替えで、このぽかぽかする最高の席を手に入れた私に、親友のりっちゃんが話し掛けてきた。ちなみに本名は莉架りつか

「何って、大体わかるでしょ」
「んー?わかんないなー」

わざととぼけた言い方をする。勿論、何のことかは大体察している。だけどにこにこしながらりっちゃんを見ると、「はぁ」と軽くため息をつきながら、仕方がないというように言った。

「まったく…テストだよテスト。中間テスト!どうだったの」

あぁ、やっぱり。
今朝返された中間テストの成績のことを言っているのだ。予想通り。
どうだったの、と言いつつも、りっちゃんは訊く必要もないというような顔でこっちを見ていた。まぁ、そりゃそうか。なら、至っていつも通り返すとしよう。

「どうだったって、今回も変わらずだよ」
「ああ…そう」

今度はりっちゃんが「そりゃそうか」という顔を見せた。私はりっちゃんに成績表を見せる。

楢葉 華世 という名前の下に、国語、社会、数学…と1教科ずつの名前が横並びに書かれ、その下には上から自分の点数、平均点数、順位が書かれている。その横には合計点数と平均合計点数、総合での順位。無機質な数字たちが並べられている。

1番下の数字は、一様に、1。

「その頭、ぱかっと開いて見てみたいわ」
「えぇー、やめてよりっちゃん」

またにこにこしてりっちゃんを見れば、りっちゃんはまた「はぁ」とため息をついた。

「全教科1位とか…まったく、華世はいつでも完璧だね」
「そんなことないよ」

嘘だ。

「そうでしょ。この前体育で測った1000m走も凄まじく速かったじゃん…2分45だっけ?」
「でも、陸上部には同じくらいの速さの子、いるし。大した事ないよ」

嘘だ。

「それにあんた、美少女だしスタイルいいし。羨ましいわ」
「りっちゃんの方が美少女だよー」

———嘘だ。

嘘をついている。
本当はそんなこと思っちゃいない。
私は完璧だと自分で思っているし、勉強も運動もできれば見た目も最高だと思ってる。それは私の努力の賜物だし、それを抜きにしても元々の才能があるのだ。だってそうでなければ、こんなステータスあり得ない。

だから私は完璧でなくてはならない。
勉強、運動、芸術方面、対人関係、名声に地位、全て手に入れなければ。
高校だって全国的にハイレベルな桜高に行かなければ。
そして最終的には自分の夢を叶えて、みんなから褒められて尊敬される、一次元上の存在にならなければ。

だから失敗なんて出来ない。
失敗なんて許されるはずがない。
パッと見天然に見えるような言動も、完璧なステータスの割に近付きやすい雰囲気も、それでいて生徒会長になるこの技量も、全て兼ね備えてこそ、この私だ。
そのためには、友人すら選ばなければ。りっちゃんはそれに足る人格者だし、私ほどでなくても彼女も相当なレベルのステータスを持っているうえ、私と気が合うという、この上なく私の友人としてぴったりな子だ。

そう、私は、完璧でいるべきだ。

それが私の存在意義なのだ。

だから、間違っても、この心の内を誰かに見透かされてはいけない。こんなに必死になってることがバレて、誰かに見下されてはいけない。私を見下していい人間なんてこの世界に存在しない。私の見ているこの世界は、私がいることで華やかになっているのだ。それが「華世」の名の為す意義なのだ。

『華』やかな『世』は、私がいるから創られるべきなのだ———

「…よ、華世?」
「えっ?」
「どうしたの、華世。考え事?」
「え…あ、あぁ、うん、そう!1位とはいえ、その…ほら、社会の点数下がったから、どうしようかなって」
「嫌だ、社会96点でしょ?そんなんじゃいつまで経ってもあたしが華世に追っつけないわ。万年2位はもうこりごりなのに」
「あはは、そっ、そっかー」

まずい、気を抜いていた。
気を抜いた瞬間を見られるのは嫌だ。例えそれがりっちゃんであろうと。

「ほらりっちゃん、1時間目始まっちゃう。いいの?」
「あ、ヤバ。んじゃ、戻るわ」
「うんー、またねー」

…授業中はいい、誰にも邪魔されない。
隣の男子は前の席の人と喋っているし、私は授業を真剣に受けているので、誰も私に無駄話は持ち掛けない。

私を馬鹿にする奴は誰もいない。
私が完璧になるのを邪魔する奴は誰もいない。
いては、いけない。

なのに。

そのはずなのに!

「…あの…な、らば、さん?」
「えっ?」

こいつは、どうして私の前に現れたんだ!!


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