ダーク・ファンタジー小説

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暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】
日時: 2017/01/30 14:07
名前: & ◆p1kEDHfk2I (ID: Zodo8Gk0)

&という者です。
短編集書きたいな…なんて思ったらスレ建ててました←

題名からして物凄い暗そうですが、暗いです((何の捻りも無い
ハッピーエンドもバッドエンドもループエンドもオチなしも何でもアリです。多分。

そんなものに付き合っていただけるなら、暇潰しにでもご覧ください。

ちょっとした宣伝です。
SS大会で作品を投稿させていただきました。「すきー!」を押してくださった方、ありがとうございました!作品名は「あおいろ」で、3部構成なので全3スレです。ちょっとリメイクとかしてから、このスレにも載せようと思っています。

それでは。

目次
縛 >>1-5
柱の陰に >>6-10
cigarette >>11-16
おもちゃばこをあけてみて >>17-22
華やかな世に結末を。>>23-28

オチが無さ過ぎて困るこの頃です((

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.14 )
日時: 2016/04/09 19:25
名前: & (ID: bUOIFFcu)

cigarette-4

「んで、だからこの男、裏で色々...それはもうイロイロやってる奴だってことだ。わかったかい、嬢ちゃん?」
「...ああ、一応はね」
「嘘つけ、目が理解してねえぜ」

...。

ラヴィット、その名に相応しい洞察力だ。
もともと顔には出にくいタイプだし、出しているつもりもなかったのだが...敵わない、と言うべきだろうか。

「ちょっと引っかかることがあってぼーっとしてた。悪いけどもう一回説明してほしい」
「おいおい、幸先悪いな?まあいいが...。まずこの男、女癖がかなり悪くてな。何人もとっかえひっかえして、その度に金巻き上げたり大事な一線を奪ったり一夜だけ一緒に過ごしてあとは捨てたり、な」
「理解した。それで?」
「おう、目が覚めて何よりだ。んで、それ以外にも、カジノ行って賭け事したり、地位に物言わせて脅しつけたり...あ、こいつ、裏商事で結構お偉いさんなんだと。裏だからそうでもないが、やっぱりお偉いさんがこんなのだとガックリくるよな」
「まあ、そうだな」

あんなのがお偉いかと思うと、裏商事も大丈夫なのかと心配になる。あんなへらへらした奴がな...。世の中わからない。

「極めつけに、なんとこいつ、過去に大事な女と娘捨ててるらしくてな」
「大事な?女癖悪いんじゃなかったのか」
「まあ聞けって...その女は格別なんだよ。最初の女だ。そいつとこいつは結婚して、子供もひとり生まれて、幸せだった。ところがな、これが聞いて驚いたんだが...」
「...なんだよ」
「その女、そいつの他に10人を超す男がいたらしくてな。しかも———

娘がそれを告発した」

「...なんだって?」

10人を超す男と遊ばれていて、それを娘に告発されて、その後やさぐれた...、そんな男、あたしはひとりしか———

「この男の名はエルヴィ・サーチャック。マヴァ—ナ・サーチャックよ、この名に覚えはないか」

———ひとりしか、知らない。

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.15 )
日時: 2016/04/16 21:08
名前: & (ID: bUOIFFcu)

cigarette-5

「おい」

あのバーに来ていた。
勿論、マスター・ラヴィットのバーだ。

「...何かな?」
「顔を見ろって言ったのはお前だ」

質問に対する答えになってないというのはわかってたが、なんというか、そうとしか言えなかった。いや、それを言うなら、質問の方だって漠然としているのだし、どんな答えだっていいだろう。
座っている相手に対して、立っているあたしはそいつを見下すように睨み付ける。相手は引き攣ったような顔をして言った。

「はは、そりゃそうだけどね...そんなに怒った顔されてると、何だろうなって思うじゃないか?」
「そうかよ」
「そりゃ、そうだよ。...で、急に見る気になったようだけど?」

それは何故なのか———おそらく、知ってて訊いているんだ、こいつは。

なら。

非情で残酷な事実を、言葉にして叩き付けてやろうか。

「まあな。...、父さん」

呼びたくもないその呼称で、よもやお前を呼ぶことになろうとはな。

残念だ———と、目を眇めて言い放てたら。
父さん、なんて呼ばずに、ゴミクズと吐き捨てるように呼べたら。
返事や会話なんかしないで、無視を決め込めたのなら———あるいは、放つ言葉という言葉、すべて暴言で埋め尽くせたのなら。

なんて幸せだったんだろうか、あの頃のあたしは。

「...はは、気づいたか...それはアレか、ラヴィットの差し金なのか」
「言う義理はない」
「そうか、まあいい。...さて」

ぎしっと音を立てて椅子から立ち上がり、薄い笑みをにやりと浮かべるゴミクズ。ゴミクズだというのに、確かな威圧感と迫力を以て迫ってくる。思わず、なんて言うのは気に食わないが...思わずあたしは、後ずさった。ドクンドクンと心臓が速くなり始める。
それが、あの時と重なる。

『そうか、まあいい。...さて』
「せっかくこうして会えたんだ。するべきことをしようか」
『せっかくこうして二人きりなんだ。するべきことをしようか』

そのセリフのすべてが、確かにあの時のセリフと重なる。
そしてまた、一歩後ずさったあたしの挙動も、あの時と全くズレずにぴったり重なってゆく。
それに合わせるかのように、ドクドク、心臓の動きがもっと早くなってゆく。

「ほら、ここじゃ目立つから、場所を移そうか?」
『ほら、ここじゃ声が漏れてしまうから、場所を移そうか?』
「前よりさらに、ずっと美しくなったその姿で———」
『お母さんよりもずっと美しくて穢れのないその姿で———』

ドクドクと心臓が更に速く動いてみせる。
ついに後ずさることもできなくなったあたしの耳元にそいつの口が寄せられ、

「『精一杯喘いでみせろ』」

醜いほど妖艶で、小さすぎて聞き取れないはっきりとした大きな声が———爆ぜた。

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.16 )
日時: 2016/04/24 19:25
名前: & (ID: bUOIFFcu)

cigarette-6

「—————あ、ア———」

声にもならない声が小さく出る。
それを聞き取ってか聞き取れずか、ニヤリとさらに醜く顔を歪ませ、そいつは迫ってきて、あたしの手首を掴む———

「おい」

———寸前で、マスター・ラヴィットに絞め上げられた。
おそらくだが、壮年の爺さんとは思えない力と速さでそいつを行動不能に陥らせる。既に口から少し泡が吹き出ていた。

「...怪我はないですか、お客様」
「ふ、ふぁ...え...ええ」

あくまであたしを客として扱いつつも、柔らかい声で問いかけてくるマスターのその声に安心してしまった。情けない声を出しつつ、殊更情けなく腰から崩れ落ちる。

「まったく...困りますよ、店内で荒事を起こされては。...ねえ、お客様?」

にっこりと悪魔のような笑顔でそいつに笑いかけるマスター。後ろに悪魔か死神かのオーラが浮かんできそうな形相である。

「とりあえず、警察には連絡いたしましたので。貴方には他にもたっぷりと余罪がありまして———悪しからず」

言葉とは裏腹に、顔には「地獄に堕ちろドクズ」と書いてあるようだった。

その後、警察が来てそいつは引き渡された。あまりにもあっけなく引き渡された。マスターの手配で、事前に呼んであったようだが、それにしても来るのが早かった。

そして———

「マヴァ—ナ」
「...え、ええ、何?マスター」
「怪我はないようだが...『また』、か」
「.........ええ」

いつもの場所に、2人で一緒に行った。
いつもならバラバラに行くが、そんなものは今は無理だった。

「あいつも懲りないな...10年も前から」

そう、10年も前から。
あいつは、ひとりの女を愛してから、気が狂った。
その女があまりにも美しくて、あまりにも残酷だったから。
そして狂った感情、つまり欲情の行き先と言えば———

「あたし...か」

その女にそっくりに生まれてきた、娘だったわけだ。
性欲のすべてを娘にぶつけ、自分の欲求を満たすためだけに小さな体を何度も蹂躙した。めちゃくちゃになってぼろぼろになってもまだ使われるボロ雑巾のように、身体の各部分を解体されたかのような感覚に陥ってもまだ、そいつに何度も抉られ掘られ食いつくされ、最早自分の身体が自分のものであるかすら疑わしくなった時期もあった。

救ってくれた光は、マスター・ラヴィット———そいつの兄である。

その光にすがり、これまで生きてきて、そして恩返しのため協力するようになった。

それが、このあたし、マヴァ—ナである。

「煙草、いるか?」
「ええ、お願い」

叔父はとても気が利く性分だ。
少し眠くなってきた。そのまま眠気は加速していくが、それでも叔父に煙草をもらう。そして火を点けて吸った。
その叔父が煙草を吸っていたから、逆に、あいつが煙草のことを嫌っていたから、あたしは煙草を吸うようになった。まだ幼い少女だったが。

曰く。

『煙草』———シガレットの通り名がつくほどには、あたしは煙草に依存した。

依存した。
依存した。
依存、したのだ。

そしてそのまま、溺れるように眠りにつく———。

「おやすみ」

叔父の声が聞こえる。

「今度目を醒ましたら、今度は俺が———てやるから———」

最後の方は、何も聞こえなかった。

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.17 )
日時: 2016/11/03 20:27
名前: & (ID: bUOIFFcu)

おもちゃばこをあけてみて-1

此はとある御伽噺
昔の御話
弱者として産まれた勇者は
伝説として語られる
死なない呪いの掛けられた勇者は
死なない呪いの掛けられたモンスターを倒し
伝説を創り上げてーーー

***

がつん。
ハンマーでなぐられるおと。

がつん、がつん。
つづけて、なぐられるおと。

ぐしゃっ。

ぼくが、しんじゃうおと。

「あーくっそ、死んだー!」
「お前やっぱ下手くそだろ、ここで死ぬとか...。貸してみろって」
「何でだよー...」

ぴこん。

ぼくが、いきかえるおと。

がつん。
ぼくが、ハンマーでなぐるおと。

がつん、がつん、がつん。
つづけて、なぐるおと。

ぐしゃっ。

てきが、しんじゃうおと。

「うわマジで!?今秒殺だったじゃんやべぇー!」
「舐めんじゃねーよ、これでもやりこんだから」
「やらせてやらせて!おれも!おれも出来るまでやる!」
「やってみろよ」

すたすた。

つぎのがめんにすすむおと。

「そろそろご飯よー」
「はぁーい!」
「じゃ、一回セーブすっか」
「わかったー」

しゅうん。

データが、セーブされるおと。

「兄ちゃん、今日のご飯何かな?」
「母さんがカレーって言ってただろ。お前ほんと、きお...りょく、な...」

どんどん、とおざかっていくおと———いや、こえ。

そして。

覚醒する、意識———。

『痛ったぁーーー!!?』

これまで朦朧としていた意識が覚醒し、同時に痛みが迫りくる。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い!!?

『頭、頭が割れるぅぅぅぁぁぁ!!』
『そりゃこっちのせりふだボッケェ!』
『あだぁーっ!?』

ものすごい痛みの頭にチョップを食らって、危うく気絶しかけるが、なんとか踏みとどまった。何者が俺の頭にチョップなんか...と思ったら、敵役のモンスターが仁王立ちしている。

『さっきはアタイの頭にハンマーぶち込みやがって!レディーになんてことすんだよアンタ!』
『しょうがないだろ!?ていうかそんなこと言ったらお前だって俺の頭にハンマーぶち込んだし!』
『アンタは男だからいいじゃない!』
『お前はモンスターだからいいだろ!?』

モンスターとはいえ、一応女...いや、メスである。見た目こそごっつい竜型の巨鳥(意味わかんない説明だけどこれが一番しっくりくる)なのだが、中身は乙女...いや、メスである。

『まったく...ほんと災難な生涯よね。アタイら』
『まあな...』

俺たちは何者かというと、端的に言って、ゲームの登場人物だ。いや、モンスターは人じゃないから、人物と言えるかは微妙だけど。

『下手くそがプレイすれば俺が困るし、上手な奴がプレイすればお前が困るもんな...』
『ほんとそうよね...』

今日も今日とて、人間の子供に(加虐)プレイされる日々なのだった。
…死んでも生き返るから、何度も何度も(加虐)プレイされるのだった。

Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.18 )
日時: 2016/08/25 18:50
名前: & (ID: bUOIFFcu)

おもちゃばこをあけてみて-2

『あー、いいよな超級ボス職とか伝説職の奴らは…滅多に死なねえじゃん?』
『しょうがないわよ、アタイら下流階級の貧乏人なんだから』

その通りだ。大した学歴も無く、良いとこの生まれでもなく、ステータスが優秀なわけでもなく、端的に言って《クズキャラ》な俺たちにはこんな職しかないのだった。
モンスターであるこいつは、見た目こそ豪勢だが逆にそれが小物っぽいのと、ステータスが尋常じゃなく低いのでそれも相まって小物っぽさが助長され、1面の1番ルームのボス敵にされている。一応見た目はデカイしそれなりの格好はつくのでボス敵ではあるが、所詮1面1番。手先が器用な奴なら1発でクリアできるレベルの低さだ。

『…俺も、伝説の勇者に生まれたかったな』

いつものように、もう何回言ったかも知れないことを呟く。
伝説職の中でも最高ランクの位置づけになる、伝説の勇者。
普通の勇者として生まれたら、子供の頃頑張って自分を磨けば、中の上くらいの勇者にはなれるのだろう。実際、そういう奴らはたくさんいるし、勇者として生まれたのならそれが一番妥当で安定した職である。大体このゲームで言うなら、全20面構成の中で5〜15面くらいで出現する勇者がそれに値する。これは、一応誰でもなれるのだ。
が、伝説の勇者は———

『それこそしょうがないわよ。アンタもアタイも、そもそも生まれたときに伝説として生まれてこれなかったんだから』

———そう、「生まれつき」そうでなければいけないのだ。

ゲームをどんどんクリアしていって、努力で伝説の勇者になるゲームもあるが、それは生まれつきその勇者が《伝説》だったのであって、決して普通の勇者がプレイヤーの努力で伝説の勇者になるわけではない。
そんなことを人間の子供たちが知ればどうなるのか...と思ったが、伝説の勇者だって、そのゲーム内ではプレイヤーが努力しないと《伝説》にはなれないのだから、別にモチベーション下がったりはしないのか、と妙にがっくりした。

つまり、普通の勇者は伝説の勇者にはなれないから、伝説の勇者が出現する面より前の面において一番高い面で使ってもらえるように頑張るのだ。このゲームで言うと、伝説の勇者をゲットできるのが16〜17面だから、普通の勇者で1番高い面は15面とかだろう。

じゃあ、俺は?

1面の1番ルームのボス敵と戦って、プレイヤーが下手くそだったとはいえ1度死ぬくらい弱いステータスしか持ってない———つまり、ゲームを始めるときに最初に与えられる、とりあえずゲームを進めるためだけに出現する、俺は?

普通の勇者が努力したわけではなく。
初めから伝説の勇者として生まれたわけでもなく。

普通の勇者が、「努力する環境を与えられなかった」果てに、《最弱》の名を冠した存在———

すなわち。

『...所詮、間に合わせだよな』


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