ダーク・ファンタジー小説
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- 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】
- 日時: 2017/01/30 14:07
- 名前: & ◆p1kEDHfk2I (ID: Zodo8Gk0)
&という者です。
短編集書きたいな…なんて思ったらスレ建ててました←
題名からして物凄い暗そうですが、暗いです((何の捻りも無い
ハッピーエンドもバッドエンドもループエンドもオチなしも何でもアリです。多分。
そんなものに付き合っていただけるなら、暇潰しにでもご覧ください。
ちょっとした宣伝です。
SS大会で作品を投稿させていただきました。「すきー!」を押してくださった方、ありがとうございました!作品名は「あおいろ」で、3部構成なので全3スレです。ちょっとリメイクとかしてから、このスレにも載せようと思っています。
それでは。
目次
縛 >>1-5
柱の陰に >>6-10
cigarette >>11-16
おもちゃばこをあけてみて >>17-22
華やかな世に結末を。>>23-28
オチが無さ過ぎて困るこの頃です((
- Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.9 )
- 日時: 2016/03/20 16:22
- 名前: & (ID: bUOIFFcu)
柱の陰に-4
『居場所が無いっていうのは、自分が居られる場所が無いのとは違う』
今度は『誰か』が少女を追い詰める番だった。
何とは言えないが、何か途轍もない威圧感を伴って少女を攻撃する。
『自分が認識されないこととも違う。勿論、自分の家が無いこととも違う。問題は、自分の気の持ちようだよ』
ごろごろ転がっていた体制から身体を起こし、少女と相対する。
『大通りに出られず、裏の仕事しか出来ず、人とまともに渡り合えない。プライドもなければ自尊心もない。生きていくためには汚れ仕事も請け負わないとやってられない。それを恥じているのに、どうすることも出来てない。
———君こそ居場所がないんじゃないのかい?』
突き刺すような言葉の羅列に、少女は瞠目した。
何で知っている?
何で私のこれまでのことを知っている?
こいつは、誰だ。
この、私のことを何でも知ってるかのように振る舞う、こいつは。
『まったく残念だね。自分にこうして説教なんかしてみたようだけど、君こそ何もかもわかってないだろう?自分を虚像で塗り固めた空虚な存在だと、自分でもわかってるんだろう?だから本当はわかってるはずだ、居場所が無いってのも———ね』
ぶちっ。
切れた。
何かが。
「———るっさい!あんたに何がわかる!小さい頃親に捨てられて、何もないままどうにか自分を保ってきた私の、裏仕事とか表に出せない所業をこなしてきた私の、それがいけないとわかっててもそうしなきゃ生きていけなかった私のっ、何が!居場所なんて無いってとっくにわかってて、私の存在意義もないってわかってて!それでもどうにか自分を保ってきた私の何が!」
烈火の如く激昂した。
ずっと孤独に生きてきたはずの自分の、何もかもを知ったような顔をするこいつに一気にまくし立てる。
自分でももう何を言っているかわからないほど叫んだ。
「ぼろぼろに朽ちたも同然な私の———何がわかるってんだよっ!!」
しかし、それを『誰か』に遮られる。
『わかるさ、何でもね』
- Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.10 )
- 日時: 2016/03/24 19:21
- 名前: & (ID: bUOIFFcu)
柱の陰に-5
「.........は」
は?
何でも?
何でも———?
「な...何言ってんの。何にもわかってないだろ。私のことなんか何もわかってないくせに」
どうせ私の猛攻を止めたくて言っただけなんだろ、と思考し、少女は呆けた状態から脱した。何でも知ってるとか、ありえない。
だが、『誰か』がその思考を読んだように言う。
『信じてないだろう?』
図星を指され、しかし冗談だと思っている少女は軽く笑い飛ばした。
「そりゃそうだろ。何でもって、家族でさえその人のこと何でもわかるわけじゃないのに、何で他人のあんたになんか。本人じゃない限り、本人のことはわからない」
そう、親のことなんかちっともわからなかった。
家族なのに家族じゃなかった。
騙されてた。
だから、なんて軽々しく「何でも知ってる」って言えるのか、と少し怒りが込み上げてきた———ところで、『誰か』が少女にとってとんでもないことを言い出した。
『その「本人」だったらどうなんだい?』
え。
本人?
まさかね...?
さっきから冗談が過ぎる、と少女は心の中で笑い、そしてはたと思い出した。そうだ、こいつ追い出すんだった。
「冗談はいいから出てけよ。...とにかく、居場所の無い迷子を置いておく趣味なんて私にはないからな」
そう言うと、『誰か』は、
『ああ、そうするよ』
と...拍子抜けするくらいあっさりと言った。
あんまりにすんなりそう言うから、少女がぽかんとしている間に、『誰か』はほとんど無いに等しい荷物をちゃちゃっとまとめて出ていく準備をしていった。
『今まで世話になったね。もう自分の目的は達成できたから、出てくことにするよ。...ああ、そうそう、いいこと教えてあげよう』
え、何、何でそんな突然...と少女が戸惑うのをよそに、『誰か』は少女を諭すかのように喋る。
『君はね、今日から2週間くらい後に、素敵な出会いをするよ』
何を言ってる。
何でそんな柔らかい目をしてる?
『柱の陰をよく観察しておくことだね。ほら、そこのやつ』
少女の視線の先にある太いけどぼろぼろの柱を指さし、『誰か』は言った。
何があるっていうんだ。
『じゃあね。...居場所、早く見つけなよ?
私』
最後、去り際にフードとマスクを取って見せた顔は、少女の顔そのものだった———
- Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.11 )
- 日時: 2016/03/28 22:12
- 名前: & (ID: bUOIFFcu)
cigarette-1
苦い。
凄く、苦い。
なのに。
まるでそれが、自分自身かのように。
ゆっくり、噛み締めているんだ。
***
「…ふぅ」
ゆっくりと上る煙、あたりを満たす独特の香り。
煙草だ。
「慣れたもんだね、嬢ちゃん」
「まあね」
話しかけてくるマスターに笑いかけることもなく、手短に返す。そのマスターは、その反応に特に気分を害した様子もなく、他の客に対してカクテルを作っていた。だから好きだ、ここのバーは。
「…つまらない」
ボソッと呟いてみるけど、だからって何が変わるわけじゃない。今日もまた、苦々しい思い出と煙草を味わうだけ。
もしも、お金で心の傷が治せるなら、あたしは全治何週間だろう?
きっと一生掛かっても治せないんだろうな。治療費も恐らくバカにならない。
特に大きな何があったわけでもない。他人から見れば、ありふれた話。
けど、あたしが煙草の味を覚えるのには十分な話だ。
ふと、隣に誰かが座る気配がした。
「何がつまらないんだい?」
…うざったい。
なるだけ手短に返そうと努力する。
「いろいろとね」
「へえ。例えば?」
「そんなこと聞いてどうするのよ。つまらない話よ、聞くだけ後悔するわ」
つまり、これ以上何も聞くなと とどめを刺して、そっぽを向いた。
だが隣に座った人物…声から察するに少しだけ歳上の男は、なおも続ける。
「後悔ねえ。聞いてみないとわからないじゃないか、話してみろよ」
「…随分と馴れ馴れしいことで。話す義理は無いわ」
少々突き放すように言ったつもりだったのだが、男はうるさく喋る口を止めない。しつこい野郎だ。
「義理は無くても、俺が聞きたいんだけどな。というのも、俺も最近退屈してて、同じこと思ってる奴がいるって思うと、なんか話してみたくてさ」
…馬鹿じゃないの。
あんたみたいに退屈してる程度じゃないんだ、こっちは。
もう何もかもがつまらなくて味気なくて苦いんだ。
お前みたいな存在を、視認することすらしたくないくらいに。
出来うる限りの威圧感と嫌悪感を前面に出して、男に言い放った。
「あらそう。話す気はさらさらないから、精々つまらない妄想でもするといいわ」
そう吐き捨てて、「マスター」とバーの主人を呼ぶ。
マスターはにこりと微笑し、奥の部屋に消えていった。続けてあたしは店を出る。
数分後…あたしとマスターはお決まりの場所で落ち合った。
- Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.12 )
- 日時: 2016/04/01 10:02
- 名前: & (ID: bUOIFFcu)
cigarette-2
「また派手にやったもんだな、嬢ちゃん」
マスター・ラヴィットはシシシと笑って言った。
ふさふさの白髪と小柄な体躯、少し曲がった猫背という容姿。人の善さそうな垂れ目に、物腰柔らかな態度から温厚そうに見えるが、実際は凶暴で何をやらかすかわからない…といったところからつけられたあだ名が、兎-----ラヴィットだ。
凶暴とはいえ、結構歳食ってるから肉体的にどうこうというわけではない。ただ…、
考え方と立ち回りが悪質なだけだ。
そしてそんなマスターに、あたしはお決まりの言葉を返した。
「まあね」
素っ気なく言ったのを特に咎める様子もなく、マスターはまたシシシと笑った。
「今度はどうしたんだ?急に呼びつけたりして、随分と儂が恋しそうじゃないか?」
「バカ言うな。誰がじーさんを恋しがるか」
「おーおー、そりゃすんませんね…でも、まだ儂50だけどな?じーさんっちゃあ少し言い過ぎじゃないか」
「じゃあおっさんか」
「おっさんか、そんならじーさんとどっちも変わんねえな」
薄い笑みを浮かべ、ヘラヘラと軽口を叩くじーさん(もしくはおっさん)を胡散臭そうに見る。
が。
「…で、本当にどうしたよ」
薄い笑みが更に薄くなり、眼差しが鋭く変わる。…本気になったってことか。
「いつものこと。また胡っ散臭そうな野郎がいるわけ」
その一言で、マスターは全てを察したように頷いた。相変わらずヘラヘラした笑みは剥がれていないが、目が据わっている。
「そりゃまた面倒くさそうなこったな。嬢ちゃんも大変だなぁ、爺さん心配だよ」
「やっぱりじーさんじゃないか」
「そりゃ自分で言うからいいんだよ。他人様からじーさん言われるのはどうも不快だね」
「じゃあ言い続けてやろう。不快なんだろ?」
「おいおい、参ったなこりゃ…とにかく」
マスターはまたシシシ、と笑い、
「そいつのこと洗い出して、白か黒か見極めろってことだろ、嬢ちゃん?」
「まあね」
そして煙草をふかす。
その後は苦い話だ。煙草が似合う。
つまり-----怪しい奴を調べ上げて、証拠を片手に責め立てるのが仕事であり娯楽なのだった。
つまらないこと、この上ないだろ?
- Re: 暗闇を黒く塗り潰せ【短編集】 ( No.13 )
- 日時: 2016/04/04 18:08
- 名前: & (ID: bUOIFFcu)
cigarette-3
近況報告、というのは大事なことだ。
自分がどこまで仕事をやりきっていて、これから何をすればいいのか。
下手をすると相手方がもうすでにやり終えている仕事をすることになりかねない。それは時間の無駄だ。
つまり、また例のバーに訪れた、ということ。
「慣れたもんだね、嬢ちゃん」
「まあね」
お決まりの会話を交わす。やはりあたしの返答は素っ気ない。
勿論今も煙草をふかしている。...苦い。
ふと、隣に誰かが———覚えのある雰囲気の誰かが座る気配がした。
この前のあいつだ。怪しい奴...。
「よ。また会ったな...ところで、俺の顔をちゃんと見てくれないか?」
「結構よ」
顔なんか見ない。この前も見なかったし、見てしまえば親密さが少しだけでも上がる。...それは避けなくては。
「そう言うなって。見てほしいのには理由があるんだ、だから、な?」
「結構———と、言ったのが聞こえなかったのかしら」
ぐさりぐさり、突き刺すように言葉を放つ。
自分としては最高に威圧感を放っているつもりなのだが。
「そりゃ聞こえていたけど。それでも俺は、君に俺の顔を見てほしいんだよ。勿論理由もあるし...なあ、頼む」
「頼まれごとなら断るわ」
ぴしゃり。
断る、つまり見ない、と完全な意思表示をして、話を切り上げ、今日も「マスター」と呼んだ。
だが。
店を出たあと、何かが引っかかる感覚をぬぐえないでいた。
何が引っかかっているのか?...何だろう。
男が不審な件については、考える由もないだろうし、マスターやバーが何か変わった様子があるかといえばそうでもない。あたし自身も別にさしておかしくない。
ならば...?
まあいいか、と考え直す。
違和感がぬぐえないのは正直嫌だが、あの男を絞めるのには何ら不都合もないだろう。それとも、何かまずい事態になっても、取り返しがつかなくなるようなことはほぼない。
「...不味い」
煙草の味だけが、苦くて不味いのであれば、それが1番だ。
染みわたる苦さに顔をしかめでもすれば、あたしは負けてしまうから。
そういえばあの男、声が『あいつ』と似てたような———