ダーク・ファンタジー小説

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幻影 ~魂の業/陽と陰~
日時: 2016/11/16 00:02
名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: 9O29kkFK)

お初に御目にかかります。
忌業 禍穢と申します。
忌みられの業、禍つ穢れと書いて『イミカリ カイエ』と読みます。
以後お見知りおき下さい。

この小説は、この世とあの世を往き来できる力を得た主人公が、あの世の魂を通して、その裏に潜む闇を見つめていくというものです。
この世の、人間の、空虚さを憂う主人公が見たものとは……?

初投稿のため、何かと至らぬ点もあると思いますが、宜しくお願い致します。

Re: 幻影 ~魂の業/陽と陰~ ( No.10 )
日時: 2016/06/03 18:00
名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: lQjP23yG)


「…しかし私は、死後の魂という存在ですよ?それに、貴方の言葉をお借りすると“現し世”を、私は疎んでおります。」
白衣の男─堺理 は絞り出すような声音で問う。
「だからこそ、でもあるのだよ。苦境に戻すようだが、それが必要なんだ。君にはこちらとあちらを跨いで仕事をしてもらいたい。それに、君はまだ死ぬには早すぎる。」

着物の男は堺理に背を向けると、顔だけ振り向き、「どうするんだい?」と尋ねた。
堺理が無言で着物の男の一歩後ろにつく。それが答えだった。
「ありがとう。じゃあ、行こうか。」


わずかに歩を進めたところで、堺理が口を開いた。
「…先ほど、死ぬには早すぎるとおっしゃいましたね?寿命や天命などが定められている訳では無いのですか?」
着物の男は、少し苦い顔をする。
「あったら苦労しないだろう?基本的には前世から続く因業因果、本人の生活状態、それに時の気まぐれが加算される。」
「時の気まぐれ…ですか。私は運命主義者でも偶像崇拝者でもございません。しかし、そういった偶然や確率を司る存在はいらっしゃらないのですか?」
「いや。少なくとも、僕の知る限りではいないね。会ったことがない。そもそも、全ての物事は連鎖的に起こっているんだ。でもそれは未知数だろう?だから僕達は極めて偶発的に起こった連鎖を、“時の気まぐれ”と呼んでいる。」
解説が終わった所で、彼はふっと息をつくと、
「まぁ、君にはそれが幸いしたようだがね?時間と場所、どちらも人気がないという条件が揃って、君が死んだということは誰も知らない。」
と言った。端から聞いていればずいぶんと失礼な話である。それを本人にとうとうと語る着物の男もそうだが、当然のごとき無反応で聞いているだけの堺理も堺理だろう。

しかし、そんな会話をしつつも、彼らの足が止まることは無い。


現し世の時間で15分ほど歩いたところで、着物の男が足を止めた。

 ───

Re: 幻影 ~魂の業/陽と陰~ ( No.11 )
日時: 2016/06/03 17:57
名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: lQjP23yG)


「ここで少し待っていてくれたまえ。君を隠り世と現し世を自由に行き来できる存在にしてあげよう。」
隠り世の男はそう言って、突如蜃気楼のように現れた門へと姿を消した。
しかし、堺理は無表情のまま一礼するだけで、驚いた様子などみじんも無い。道中でも顔面筋が動くのが見えたのは、話している時とまばたきくらいのものだったのだ。その瞳にも、はた目からは何も映っていないように見える。

感情の見えないその表情のまま、彼は近くにある木に寄りかかった。腕を組み、何かを考えているかのようだ。しばしの静寂──しかし。
「ここはいかなる魂であろうと、入ってはならない場所だ!そもそも何人たりとも魂には、見つけることすら不可能。…貴様、何者だ!?」
威勢の良い口上とともに堺理めがけて十数本を超えるクナイが飛来する。
堺理は命中しかけた数本のクナイだけをそつなくかわすと、木の後ろに回り込み、身を隠す。クナイが木に刺さり、高い音が響き渡った。
「ならばいた仕方ない。直接手を下してやる!」
堺理の居た所から100mほど離れた場所に、いつの間にか勇まし気に立つ人の姿があった。輝くような鷲色の長髪を頭の高いところで一本に括り、衣と同色のはちまきをしている。痩躯を紅の地の着物に包んだ─女だった。

堺理めがけて叫び、地を蹴る。
「いくら逃げ隠れしようと、無駄だッ!」
女の動きは人ならざる速さだった。一瞬にして堺理との間の100mほどの距離をつめ、木の背後へと一息に回り込む。
─しかし、そこに堺理は居なかった。女の首筋に四点、長い指が触れ、最後に頭骨の付け根に掌底が吸い込まれるかのごとく突き刺さる。女が木の根元に伏せるように倒れた─はずだった。


突如として堺理の視界が揺れた。

Re: 幻影 ~魂の業/陽と陰~ ( No.12 )
日時: 2016/10/02 09:26
名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: 9O29kkFK)

「多少の心得はあるようだな。しかし、俺達はあいにく人間なんかより頑丈だ。第一、魂ごときに遅れをとるようでは俺の名が廃る。
…不届き者は厳しく罰するとしよう。」
余裕綽々といった表情で、女は薄く笑っていた。


─倒れたはずの女が、堺理の膝の内側を蹴り、体制を崩させたのだ。同時に、微かに前に出ていた堺理の右足を強く蹴り払い、反時計回りに回転させる。逆に木にもたれ掛かるような体制になった堺理の喉元には、鋭い輝きを放つ短刀の刃が突き付けられていた。

「俺の初撃を避け、逆に迎撃して来たのには驚いたな。どこであんなの覚えた?
…いや、そんなことはどうでもいいか。 お前は何故、この場所に居る?」

刃先で堺理の顎を持ち上げ、女は半ばゆすりをかけるように問う。
しかし、堺理は動じもしなかった。無表情を崩さず、眉一つ動かさない。



「そのようなことより、ご自身はいかがされたのですか?」

堺理がようやく口を開いたその時、女の腹部…人間であれば腹大動脈の位置するところに、クナイが添えられていた。そのたった一言で現在の状況全てを覆してしまうかのように。彼は応えた。

しかし、女は不敵な笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「俺達には人間の急所だの痛点にあたる部分は存在しない。それにそのクナイは俺のだ。それでは俺に危害を加えることなど出来ないな。」

女が言い終えたのと、クナイが堺理の手からこぼれたのはほとんど同時のことだった。


女が、堺理の首元に突き付けた刃に更に力を加える。
「もう一度訊こう。何故、こんな所に入った?ここで、何をしている?」




突き付けられた刃から一筋、鮮血が流れた。

Re: 幻影 ~魂の業/陽と陰~ ( No.13 )
日時: 2016/10/16 13:10
名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: 9O29kkFK)

『既に死亡している魂の身でも、傷付けられて流血する、痛みを感じること等は変わらないのですね…
どういった構造になっているのか興味深い所です。』

堺理は心中でこんなことを考えていた。もちろん、現実逃避などでは無い。現実での自身の死さえ気にもとめなかった彼にとっては、自分の身体が傷付いたことより、その現象やプロセスなどの方がよほど興味深く、今、熟考すべきことなのだ。







普通の人間ならば、切先を見た時点で正気を保つことすら危うい状態になっているだろう。しかし、堺理は違う。無表情を崩さず、短刀よりも冷たく鋭い光を宿した、感情を映さぬ双眸は揺るがない。

「おそらくは貴女と同じ、こちらの住人であろう方に、手伝い…というより、仕事をするよう頼まれましたので。今はこちらでその方をお待ちしている所だったのですが。」

抑揚も焦りも動揺も、一切の欠けた声で彼は応えた。



女が、彼の特異性に気が付かないはずが無い。─彼女もまた、武術を学ぶ者であり、歴戦の戦闘者であり、教育者であるのだから─




堺理の喉元に切先を突き付ける力が僅かに弱められた。

「……何故です?」

少々警戒を孕んだ声色で堺理が問う。
面白い。女は胸中でそう呟くと口端に笑みを浮かべた。

「何故とは何だ?俺が少し力を抜いてやったくらいで。
…それとも、さっきの答えが嘘だとでも言うのか?」

口調こそ侮蔑を孕んでいそうなものの、その笑みは嘲笑では無い。


「いえ、普通であれば疑いを増されるはずだと思いましたので。」

堺理は再び感情の宿らない瞳で答えた。

「嘘にしては突飛過ぎるからな。こちらのことを知らなければその答えは出て来ない。」

女は初めて堺理の表情が見られたその一瞬に笑みを大きくすると、

「お前もそんな顔をするんだな。面白い思いをさせてくれた礼だ、種明かしをしてやろう。俺達は魂の業を視て裁くのが仕事だ。目の前にいる奴の罪が視えない訳が無いだろう?場合によるが、嘘も罪だからな。嘯き逃げようとしたら簡単に分かる上に、罪が加算され、許されはしない。」

そう続けた。彼女の瞳には先程とは異なり、穏やかな光が宿っていた。最後だけを強い口調で言い放つと、堺理の首筋から刀を離し─そして、堺理の目の前にその紅を透かした鋭い輝きをかざし、問うた。



「お前は何故揺るがない?どれだけ武に秀でようと、動揺しないことなど無いはずだ。
それに、何処で、何故あんな技を身に付けた?」


堺理の瞳は金属の輝きが透けるように錯覚させるほどに、何物をも映すことは無かった。

「私は大きな心理的躍動を持ち合わせておりませんので。

それに私は幼い頃から何度か死を目前にして来ました。揺らぎなど、存在しない方がむしろ当然でしょう。そのような物に動かされ、とりとめも無い余計なことを考えるより、現状と構想を考える方が余程有益で良いことです。

格闘的な技術は、住ませて頂いた先で体術などの素舞、武術を学ばせて頂きましたので、習得致しました。痛点や漢方などの東洋医学は学生時代に研究しておりましたので。こちらも使うことは存外多かったですし、経緯はあまり聞き心地の良い代物ではございませんがね。」

後はご自由にどうぞ、とでも言うかのように、彼は口を閉ざした。




女は、彼の答えた内容がこの先、彼女、または彼女等にとって、利点になると思っていた。─この時は、“まだ”─

Re: 幻影 ~魂の業/陽と陰~ ( No.14 )
日時: 2016/07/11 09:56
名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: y36L2xkt)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おっかしいなぁー」
あぁもう…と吐く声が聞こえる。
側頭部をガリガリと苛立たし気に掻きながら、先程の着物の男が蜃気楼の門の奥から姿を現した。
「コレは言うべきか言わざるべきか…
僕一人でどうこう出来るものだとは思えないんだけどねぇ…」
ブツブツと呟きながらも、彼は堺理が待っているはずの大樹へと歩を進めていた。

悪い足場を慣れた足取りで難無く進み、ガサリと障害物を掻き分ける。人にはなるべく早く認識してもらいたいタチだ。
「やぁ、かぃ…」
裏返り、掠れて消えた声の続きは、おそらく「堺理くん、お待たせ」だったのだろう。

そこに、堺理は、居なかった。

その瞬間は、まさに、クナイが堺理に襲い掛かる所だったのだ。ヒラヒラと振りかけた手が、必死に伸ばされる。間に合うはずは無いなど、分かっていた。しかし─
堺理は平然と、命中しそうなクナイだけを避けて見せた。

「ほぅ…」
着物の男は、思わず感嘆の声を漏らした。
伸ばした手が、口元に添えられる。
「もう少し見せてもらおうかなぁ」
先程までの焦燥は何処へやら。
『面白いもの見ぃつけた』とでも言わん顔だ。男の目がキラリと光る。その輝きはどこか狡猾でもあった。
クナイを一目見た瞬間、堺理を強襲した人物は誰か、彼は瞬時に理解した。そして同時に、安堵した。彼女なら、堺理を殺すことはしないだろう。上手くすれば、その能力を見抜き、自分と同じ意見に辿り着くかも知れない。それは、彼にとって望ましいことだった。
そして彼は、次の瞬間に見えた堺理の痛点刺激に、陰ながら賞賛を送ったのだった─








───…

…そして、現在に至る。
彼は、相も変わらず、物陰から堺理達を見守っていた。傍から見たら悪趣味極まりないが、それは置いておこう。
「やっぱり核心は言わないし、突かないね。後で僕から言ってあげようかな。」
少々上機嫌なのは、好都合なことに、彼女も堺理を認めつつあるからだろう。
「さぁ、ここからどう出るか…」
そんなことを一人ごちた矢先、女が、堺理の眼前に翳したクナイを高々と真上に掲げた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



スゥ…と息を吸う音が響く。

静寂─

「俺の名は紅花!この隠り世にて、罪を咎め、業を裁く者!
そこな侵入者、許可するに代わり、我が元に下れ!」
高らかに叫ぶ声が谺した。キラリと刃を光らせ、下方─堺理の居る方向だ─に払う。
「俺が名乗ったんだ。お前も名乗れ。そして、応えろ。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あの紅花が初対面で何の紹介も無い者に名乗るとは…しかも、相手に名乗らせるより先に!
「どれだけいい人材に会ったのか、しみじみ分かった気がするよ…楽しみダネ」
感嘆と共に、隠し切れない嬉しさが滲む。男は、口端を吊り上げ、ニヤリと笑った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「何故です?そもそも、そう易々と信じられてよろしいのですか?少々安直過ぎるのでは?」
堺理が、逆に不信そうな態度をとる。

「何度も言わせるな。さっきも言った通り、業を裁くのが俺達の仕事だ。俺達はお前達の罪を見ることができる。嘘を吐けば、その場で罪として見えるからな。嘘も誤魔化しも、俺には通用せん。
…理由なんぞ、ただ使えそうだからだ。それ以外にあると思っているのか?」
口調だけは呆れたようにしつつ、女が不敵に笑う。

堺理は声を出さずにため息を吐いた。
「私は卯月堺理と申します。応え…、とは言え、許可する代わりということは、是しか認められないのでしょう?」
「お前がそう解釈したなら、そうなんだろうな。それが応えか?」
まるで言葉遊びでもしているかのようなやり取りだ。紅花が目を細める。
「えぇ。しかし、生憎ですが、私には他の方との先約がございますので。先方の了承がいただけた場合のみ、其方との掛け持ちとなりますが。」
「そちらの心配は無用だがな。よろしく頼もう。」
紅花の瞳が穏やかな光を帯びる。彼女は自信ありげに笑っていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

紅花が刀を下ろし、堺理が立ち上がるのを見届けたところで、男も屈んでいた上体を起こす。
「さぁ、僕も行こうかな!まだ先約の僕は名乗ってもいないことだしね。」

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背後から窺う眼には、誰も気付かない──


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