ダーク・ファンタジー小説
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- 幻影 ~魂の業/陽と陰~
- 日時: 2016/11/16 00:02
- 名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: 9O29kkFK)
お初に御目にかかります。
忌業 禍穢と申します。
忌みられの業、禍つ穢れと書いて『イミカリ カイエ』と読みます。
以後お見知りおき下さい。
この小説は、この世とあの世を往き来できる力を得た主人公が、あの世の魂を通して、その裏に潜む闇を見つめていくというものです。
この世の、人間の、空虚さを憂う主人公が見たものとは……?
初投稿のため、何かと至らぬ点もあると思いますが、宜しくお願い致します。
- Re: 幻影 ~魂の業/陽と陰~ ( No.1 )
- 日時: 2016/10/02 09:10
- 名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: 9O29kkFK)
【登場人物紹介】※物語に一貫して登場する者のみ
《人間》
・卯月 堺理(うづき かいり)
無口で無表情、常に冷静かつ冷徹で無関心な態度の男性。完璧主義者で博学であるが、計算高く、口調こそ丁寧だが毒舌。人に苦痛を与えることをためらわない性格。
感情という概念が存在しない。
実は一度死んでいるが、その特性を見込んだ隠り世によって魂を裁くことを命じられ、生きながらえている。左目は銀のオッドアイで、魂の業を見る力などがあり、隠り世から与えられた。自由に隠り世と現し世を往き来でき、魂などの存在も見ることができる。
科学研究所の研究者であり、人間の虚無さをうれう思想家でもある。本作の主人公。
彼自身が抱える物も多い。
《隠り世の住人》
・業
隠り世をまとめる存在。その名の通り魂の因業をはかる。現在の業と現し世のあり方を危険視する。堺理を生きながらえさせた張本人。話し方は少年のようで、どこか人を食ったような態度をとる。
・紅花
罪をとがめる機関の長であり、魂に贖罪をさせる機関の補佐もしている。尋問官のような存在。長の中でただ一人の女性だが、男勝りな性格で武術に秀でる。人望は厚いが、手厳しく冷酷な一面も。堺理を長の中で最初に認め、彼に様々な事を教える反面、自身の補佐を務めさせる。
・剛毅
魂に贖罪をさせる機関の長。豪放磊落な人物で、堺理にも気さくに話しかけ、しばしば自身の機関の仕事をさせる。加減をせずに苦痛を与える性格を見込んでのことだが、やり過ぎる堺理を止めるハメになることも多い。
・六徳
最良の魂たちをより良い存在に昇格させ、新たな魂を作り出すための機関の長。争いや人が傷付くことを嫌う穏和な性格で、少々おっとりしていて抜けた様な所がある。他の長と異なり、優しく紳士的だが、弱々しいと思われることも多い。
・栄弥
魂を浄化し、転生を行うための機関の長。堺理は異質な存在だとして相容れようとしない。元々罪をつぐなった後の魂を浄化し転生させる仕事であるため、他の長と考え方が異なり、ぶつかることも少なくなく、しばしば仕事柄親しい六徳に注意される。紅花をおそれる節がある。
【語句説明】
・業…
今の自分をつくる素となる行いのこと。また、罪を呼ぶ原因となるもののことも業と呼ぶ。罪を犯すことによって魂に重ねられ、これが多いほど死後につぐなう物が多く、罰が重くなる。
- Re: 幻影 ~魂の業/陽と陰~ ( No.2 )
- 日時: 2016/05/15 17:13
- 名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: 9O29kkFK)
【場所の紹介】
・隠り世
いわゆる“あの世”。いくつかの機関や世界に別れており、各機関には長がいる。長の決定により、補佐をつけることもある。ここでは、輪廻転生とは異なり、六道に別れる訳ではないとするが、魂は循環を繰り返す。
・現し世
私達が生きる現世。ここでは、いくつかの世界が混在する、隠り世の一つ。
- Re: 幻影 ~魂の業/陽と陰~ ( No.3 )
- 日時: 2016/10/02 09:12
- 名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: 9O29kkFK)
─人は誰しも何かを抱えて生きている。
そして、それは時として業となり、
また、業から生まれる─。
『此処にも報われない魂がいらっしゃる…
人はどれ程の罪を重ねるのでしょうね?
虚偽を塗り重ねた空虚な存在…
…それが人間です。
さぁ、あなたの業をお見せ下さい。
根源は、断ち切って差し上げますよ。
しかし─
…業の本体は御自身に、
償っていただきますので。』
- Re: 幻影 ~魂の業/陽と陰~ ( No.4 )
- 日時: 2016/10/02 09:16
- 名前: 忌業 禍穢 (イミカリ カイエ) (ID: 9O29kkFK)
「こちら、研究結果と論文です。資料は後程お持ち致します。」
無表情に言葉を紡いだのは、長髪を首の後ろ辺りで一つに括った長身痩躯の男。研究者らしくキチンと着こなされた白衣以外、服は全て黒に統一され、病的な肌の白さが浮き立っている。
「完璧よ。ホント、此処に勤めてたった三年なんて、思えないわね」
男の前に居たのは彼とは全く対照的な印象の女だった。受け取った論文をパラパラと捲りながら、上機嫌にそう呟く彼女の髪は明るい茶色で、肩くらいのボブに切り揃えられている。こちらも同様に白衣を着ているが、袖を捲るなど着方はラフで、中に着ている物の色合いは明るく、見る者に好印象を与えるだろう。何よりの違いは明るい微笑みを湛え、はしゃぐように彼を誉めそやしていることだ。
対して黒服の男は無言、無表情で佇んでいる。女は一通り目を通したのか、パタリと論文を閉じ、横にある棚にそれらを置くと、毛先を指で弄び始めた。
「絶対うちの部所に来てもらうんだから」
期待の色を滲ませて、呟かれた言葉が聞こえていないのか、はたまた聞く気が無いのか…
男は無表情に一礼すると
「本日中に資料を整理し、お持ち致しますので。一度失礼させていただきます。」
そう言い残して踵を返した。
…が、女の声がその足を阻む。
「あぁ、待ちなさい!あなた、ちょっと作業が早すぎるわよ?」
女は悪戯っぽい笑みを浮かべて茶化すように言った後、言葉を続けた。
「今日はあがりなさい。もう遅いし、私も帰るわ。」
ヒラヒラと手を振る女の態度は傍目から見ると煩わし気でぞんざいだが、今の状況下では当然と言えるかも知れない。何言おう、現在時刻は22:47である。研究所には定時などほとんど無く、自身の研究のため、また手伝いのために遅い時間まで残る者も多いが、それと比較しても遅い時間である。現に彼らが話している廊下には勿論、彼ら以外の人の姿は見えないし、近くの部屋には灯りさえ点いていない。男もそれは察したらしい。
「それでは、明日早朝の内にお伺い致します。私は、本日中に片付けさせていただきたい資料がもう少々残っておりますので。お疲れ様でした。」
半身の状態でそう言うと首肯し、今度こそ女に背を向け、歩き始めた。
「そう言うトコは強情なんだから…」
彼の背中に向けて女が溜め息混じりに呟いた言葉は男の靴音に掻き消され、廊下の淡い闇に吸い込まれていった。そのどこか嬉しそうな響きは、この後起こる事実を知って尚、保たれるだろうか……?
少し先には、静寂と靴音だけがそこを包んだ。