ダーク・ファンタジー小説
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- 狂精神世界での覚醒願望Ⅰ
- 日時: 2017/02/18 09:34
- 名前: 瀬良真澄 (ID: .ZWwmuJW)
1章 日常
ここは実郷町、埼魂県の端の町だ。
放課後、一人の少年が歩いていた。
髪を後ろで束ねた長髪の少年だ。
「はぁ、寝っむ...」
給食を食べ、5,6時間目が座学だったため、少年は目を擦りながらあくびをして家路を急いでいた。
彼の名は、瀬良真澄、癒剣学園2-3の男子生徒だ。
今日発売の小説の限定版を買うため、いつもなら帰ってすぐ寝てしまうが今日は寝むらず、近場の行き付けの書店へ行くつもりだ。
マンションのエレベーターを使い7階を目指す。自分の部屋の扉を開け自室に行き、今日、購買でパンを買ったときのお釣りと貯金した金を足して本を買っても、お釣りがくる位持って本屋へ向かった。
路地にはいって、駄菓子屋の横に出てそのまま本屋へ続く道を小走りでたどる。が肩に重い衝撃がはしる。
「ッ!?」
見ると金髪の少年が大袈裟に呻いていた。
「あー、痛ってぇー」
「おいおい大丈夫かぁ、ってうわぁ。これ折れてんじゃね?」
ピアスをした男が同意する。そんなに強くあたって無いけどな。
(こいつら確か学校の不良グループの奴等だよな。厄介なことになったな)
「おい、慰謝料払えよ」
凄い一般的なパターンの金の巻き上げ方をしてきた。
「すいません、僕全然お金持って無いんです」
俺はそう言ってその場を後にしようとするが、ガッ と強く腕を捕まれて止められた。
「おいおい何逃げようとしてんだよ、あ?ちょっと面貸せや」
そのまま俺が来た方とは逆の路地へ連れて行かれる。
「本当にすいませんって、でもお金持って無ッ!?」
肺から空気が絞り出される。膝蹴りされたと気付いたのは地面に倒れ付した後だった。
「あぁん、聞こえねえ...なっ!」
倒れた俺におもいっきり蹴りをいれてきた。
「ガハッ、クゥッ」
「おいおいおーい、こっちは骨折してんだぜ?こんなんじゃまだ全然足りねぇぜ。おらっ!」
無理矢理俺を立たせ殴り倒した。すると俺の制服のポケットから財布が滑り落ちた。ピアスをした男が俺の財布を探った。
「なんだ、金持ってんじゃん」
そして俺の財布から本を買うための2300円を取って空の財布を嘲笑うように投げつけてきた。そして不良達は立ち去って行った。
俺はそのまま路地で寝転んだまましばらく力を抜いていたが、しばらくして立ち上がり、路地を出た。
2章 異常
本屋から帰るときは、駄菓子屋の横の路地を抜けると近道なので、路地にはいって行く。もう暗くなって来たのでそわそわと家路を急いだ。
最近何もかもついてない。今日の不良もそうだが、両親が最近離婚して、俺はそれを理由に家を出た。幸いにもバイトでそこそこ貯金はあったし、自炊も出来た。苦では無かったが、仲の良かった両親が離婚したのが衝撃だった。他にも通り魔にあったり、友達が怪我したりで他にも色々ある。正直なところ神を恨んだ。
そのまま路地を出て駄菓子屋の横の路地にはいって行く。こっちの道の方が近道だ。
ふと、小説のことを思い出した。
「そこまで人気じゃないし大丈夫だろ」
明日また行けばいい。そう思った。
そうして路地を抜けて正面の駄菓子屋の横の路地にはいって行く。家に帰ろうとだけ考えていた。
「えっ」
今気が付いた
俺は今
一体何処を歩いてる?
今まで同じ風景だから気付かなかった。この道は、あまり目印がない。でも今日だけで何回この路地にはいった?
心臓の音が聞こえる。
(不味い、とにかく戻らないと)
振り返ると目の前に赤い霧を出している門があった。鉄格子の洋風の門だ。普通じゃないとしたら赤い光が門の奥から湧き出ていることだ。
「なんだ、これ」
俺は手を伸ばして指先で触れる。
その時めが覚めた!
(何で俺、これに躊躇なく触れようとしたんだ?)
何かがおかしい。そう思い手を引っ込める。だが指が吸い込まれる。
「!?なんだよこれ、クソッ抜けねぇ!」
大した力じゃないのにゆっくりと俺の体を呑み込もうとする。
指、手、腕、胴体、足、そして全て流れるように呑まれた。呼吸ができない…けど苦しくない。
(何なんだよ、これ)
そして俺は意識を手放した。
3章 狂精神世界
目が覚めると見慣れた路地だった。 壊れていなければ。
大地が割れている。塀にひびが入り、いたるところが壊れたり、崩れている。
俺は慎重に歩いて路地を出た。そして気付いた。
「空が、黒い………」
そこはもう、俺の知ってる実郷じゃなかった。
気が付いたら俺は走っていた。絶望した。混乱した。世界に恐怖した。
立ち止まって空を仰いだ。やっぱり黒だ。そして仰向けに倒れた。
どれくらい経っただろう。一つの足音が近づいてきた。
俺は顔だけ起こしてそれを見た。目の赤い、黒い巨人がいた。3メートルほどで顔がなく、ジャミラの様だ。そして、恐ろしい顔が胴に描かれていた。
『ガヴォ…オォ………ア』
俺の思考は停止した。体がガタガタと震えている。少しずつ後ろへ後退すると巨人が腕を降り下ろした。とっさに横に飛び退いたが、俺がいたところの地面は深く抉れている。
そうこうしている合間に巨人は剛腕をアスファルトを削りながら横に振るう。両腕で衝撃を受け流し、身体を出来るだけひねり、衝撃に耐えようとしたが、俺の身体は、軽々と吹き飛び、さっきまでいた場所とは逆の方の[店だった]所の商品棚に激突。小物や、皿等が飛散し、身体全体に激痛がはしった。全身がバラバラになりそうだ。
「うわああああぁぁぁぁぁ!!…がああぁ………あ あああああああぁぁぁ!!!」
巨人は、その巨体からは想像出来ないほど速かった。そして何よりその腕からの衝撃は並みじゃない。俺は商品棚から剥がれ落ち上から降ってきた小皿の破片が俺の頬を掠める。
俺は身体を引きずるように店から出て路地に逃げ込んだ。あの巨体なら入って来れないだろう。しかし、巨人は塀や、壁を破壊しながら近づいて来る。
「ガハッ…クソッ、そんなの、ありかよ!」
俺は路地を痛みに耐えながら出来るだけ速く歩いて脱出。空き地を抜けて住宅地へ逃げようとした…………が…
「ッ!?なっ」
勢いよく地面に倒れた。足下を見ると形の歪んだ赤い目の怪物が、地面から上半身だけだして俺の脚を掴んでいた。そして、俺の脚を強く握ってきた。嘲笑うように、ゆっくりと。
「あああああぁぁ」
怪物を蹴りつけ脱出を試みるが、さらにきつく握りしめる。
『オォ……ア?』
怪物は、不気味な声を出し、俺をもう一方の腕で殴り付ける。
「ぐあぁ、クッ!」
そしてそこにあの黒い巨人がやって来る。そして俺を剛腕で殴るように腕を降り上げた。目を瞑り死を覚悟した。
「クソオオオオオォォォォォ!」
しかし、いつまでたっても衝撃は来ない。恐る恐る目を開けると目前まで拳は迫っていた。だが、そこで時が止まったように静止している。
すると俺の斜め前に黒い木製の扉が出現する。そして『キィ』と言う音と共に中から一人のコートを着たロングヘアーの女性が現れた。
「あら?ずいぶんかわいい子ね」
女性は俺を見ると微笑み大人っぽい声で言う。
「あの、俺男なんですけど。ってそんなことより助けてくれたんですか?」
「助かった訳じゃないわ。私の力じゃ時間を遅くするので限界だから」
そう言って扉のドアノブに手を掛ける。
「話は中でしましょう。大丈夫。その距離と速度なら40分位余裕があるわ。私の力で1秒を12000秒にしているから」
さらっと凄いこと言ってるな。とりあえず俺も身体を起こしてついていく。俺の身体は剥がれるように別れ、二つになり、一つは脚を掴まれ殴られる寸前だ。そして俺は女性と共に扉の向こうへ入っていった。
4章 覚醒願望
扉の向こうは、少し暗い雰囲気のお店のような場所で、一見アンティークショップのような宝石店だ。だが普通の宝石店とは大きく違うところがある。ガラスケース等で覆わず丸出しの所だ。
「随分堂々と置いてるな。って顔ね」
女性がクスッと微笑む。
「………すいません、名前は?」
「そういうのは普通、男性が先に名乗るものよ」
「真澄、瀬良真澄です」
俺はしぶしぶそう答える。
「瀬良君ね。解った覚えたわ。私は倉崎結羽よろしく。見たところ学生ね。高校生?」
「そうです。そう言うあな…倉崎さんは?」
「23よ」
想像以上に若かった。
部屋を見渡してあることに気付いた。どの宝石も剣や、斧などの中世風の武器にはめられている。しかし、どの武器も木製だ。
「此所にある宝石は全て武器に変化する。その木は変化後の武器の形をしているの」
俺の考えていたことを簡単に答え、俺は少し驚いた。
話によると宝石はマインドジェムと言い、それぞれ違う人間の精神の形。スピリットが宿るらしい。そして使用者と、精神の形(性格)が似ているマインドジェルを使えるらしい。そして、一度契約すると、死ぬまで契約は続く。契約したマインドジェムを使い、武器を顕現させるとその武器で怪物を倒すことができる。
「さあ、選んで。あなたのスピリットはどれ?」
「………」
同じ武器でも形や、ブレードの大きさが微妙に違ったり、マインドジェムの色が違ったりする。
黒いダガー、が目に止まった。軽装備の方が攻撃を交わすのに良い。元々筋力は少ないので、あんな化け物と剣で肉弾戦なんてする気は毛頭無い。
「あっ、いい忘れてたけど一度マインドジェムに触れたら契約開始して、もし精神の形が合わないと死んじゃうから」
それを聞いて俺は慌てて手を引っ込める。(そう言うことは早く言って欲しかった)
「そ、そうですか。は、ははは」
(ねェ、きコエる?)
「!?だ、誰だ!」
「どうしたの?」
倉崎さんが心配そうに聞いてくる。
「!えっ、聞こえないんですか?今の声」
「声?まさか」
(ここ、いる)
変化後の武器の無い黒いジェムがあった。
続く
- Re: 狂精神世界での覚醒願望Ⅰ ( No.26 )
- 日時: 2017/06/16 22:05
- 名前: 瀬良真澄 (ID: eH6OJcrU)
1章 試験
見慣れない天井があった。
……もう何度目だろう、この感じ。
俺は布団をどかして荷物をまとめた。荷物といっても本や、服、本や本、本、本、本、本ぐらいだった。多くの本は転移術式を組み込ませたコアを使って移動させ、持てるだけの荷物を持って部屋を出た。
黒い長袖のシャツ、ズボンはジャージという寝るときも運動するときもOKな服装だった。
廊下からリビングに行った。そこにはジャージを羽織ったセリアさんがいた。
「真澄?どうした?」
「セリアさん、今日までありがとうございました」
「えっ?」
「今日まで勉強や戦術等を教えてくれてありがとうございました。また機会があれば色々話しましょう」
すると彼女は驚いたような顔をしてあたふたし始めた。
「えっ、えっ?……どう言うことだ?何で急に?」
「……えっ?だって寮の修復も終わってもう自室に帰れますし」
「えっ、あぁそうか」
彼女は安堵して胸を撫で下ろす。小さな声で「そうか、よかった」と言ったが、俺には聞こえなかった。
俺は彼女の正面の椅子に座り、荷物を床に置いた。
「それじゃ改めまして、今までありがとうございました」
深く俺は頭を垂れた。
「……あの、真澄」
「ん?……なんだ?」
「……お前、何者なんだ?」
その瞬間、俺は何かが胸にズキリと刺さるような痛みに襲われた
「…………どういう……意味ですか?」
ゆっくりと顔を上げると、彼女は真剣な顔で此方を見ていた。
おまけ
目が覚めると、俺はソファーに座っていた。目の前には同じソファーに座っている男がいた。
作者 Hello、瀬良くん
瀬良 …………今度は何ですか?
作者 今回は僕に直接届いた疑問を解決します!
瀬良 ちょっ、俺の質問に答e
作者 今回来た疑問はズバリこれ!「倉崎結羽さんはなぜ瀬良くんを助けたときに、タイラントを殺さなかったんですか?」と言うものです!
瀬良 ……ああ、それ俺も気になっていたんだよ。出来れば倒してほしかったんですよね、あのとき。
作者 と言うわけで、今回は本人に来ていただいています!どうぞー
倉崎 ドウモー、倉崎結羽でーす
瀬良 (この人こんなキャラだっけ)
作者 はい、では早速ですが、なぜ瀬良くんを助けたときにタイラントを倒さなかったのですか?
倉崎 ああ、あれね、
作者、瀬良 はい、あのとき
倉崎 あのとき倒さなかった理由は……
作瀬 理由は……
倉崎 ……面白そうだったから。
瀬良 ………………………………………………………………………………………へ?
倉崎 じゃあさようならー
瀬良 ちょっ、ちょっと!
作者 はい、答え合わせです。「倉崎結羽さんはなぜ瀬良くんを助けたときにタイラントを殺さなかったんですか」の疑問、答えは「倉崎さんがそういう気分だったから」でした。
━終━
- Re: 狂精神世界での覚醒願望Ⅰ ( No.27 )
- 日時: 2017/07/04 20:33
- 名前: 瀬良真澄 (ID: eH6OJcrU)
1章 試験
俺の頬をゆっくりと汗が流れる。やっぱりそうだ。彼女は知っていたのだ。あのときの見られていた。もう、後戻りは出来ない。
覚悟を決めようとぎゅっと拳を握るが、頭で浮かぶのは軽蔑された姿だけだった。今はセリアさんにすら恐怖を抱いていた。
「……セリアさん、俺は──」
「──あー、そうだな、話したくなければ話さなくていい」
だが、俺の言葉は彼女のやや大きい声に掻き消された。彼女は頬を掻きながら決まり悪そうに笑った。
「それに、何でも話し合えるほど親密な関係じゃ無いしな」
にっこりと笑った。俺もつられるように自然と口角が上がった。改めてこの学園を守れるようになりたいと心の中で思った。
- Re: 狂精神世界での覚醒願望Ⅰ ( No.28 )
- 日時: 2017/07/20 21:36
- 名前: 瀬良真澄 (ID: eH6OJcrU)
それから一週間と少し経った。
「……教科書オッケー、精具オッケー、コアもオッケーっと」
鞄のチャックを閉め部屋を出た。
3月1日。試験当日。運命の日がやって来た。
1,2,3時間目は座額。1時間目はタイラントの特徴。2時間目はスペルとスピリットの属性について。そして3時間目はこの世界の歴史や、役人の名前、組織の役割についてなどだ。4時間目は休憩とし、5,6時間目は武器の扱いとスペル、スキルカードの熟練度を数値化する結晶で戦闘力を図る。
そして後日タイラントを模したダミー、そして対人決闘の実技試験がある。
しかし、今は目の前の座学に集中しなければならない。
教室に入り席についた。
テストで45点以上なら訓練生卒業。そして90点以上と実技試験A評価なら再試験を受けられる。再試験で50点以上でクラスフォースに飛び級。80点以上、再実技試験A
評価ならクラスサードに入れる。
「時間です、席について」
木田先生の呼び掛けで一斉に席についた。パチンと指を鳴らすと答案用紙と問題用紙が机の前に裏返しで出現した。
目を閉じると地獄のような数日間。学校で授業。帰るとスピリット二人の実技と座額の嵐。
(そうだ、俺はこの日のために汗と涙を━━)
「それでは始め!」
(………………………完全に出遅れたーー!!)
みんなもう書き始めてる中、俺は鉛筆を持とうとして手を滑らせ鉛筆を落として、その後プリントに名前を書いていた。
だが、ミスはそれだけ。そこから俺は面白いようにすらすらと答案を解いていき、三教科全て時間15分以上残して見直しまで出来た。先生は答案を回収。授業終了の合図をして部屋を出た。
俺は疲労がどっと来てガタンと椅子にもたれかかった。
「ふぃー……疲れたぁ」
朝買ったホットココアの蓋を開け、飲み始めると俺の席に二人の男子が近づいてきた。
「よう、お疲れ」
「お疲れ真澄、テストどうだった?」
「あぁ阪田。なんとか終わったよ。多分クラスサードには入れる……って、いやいや入れればすごいねってだけなんだけど」
俺は慌てて付け足した。俺は初日でデュエルでボコボコにされた落ちこぼれだ。こんなの二人からしたら馬鹿げてるよな。
だが帰ってきた言葉は予想外のものだった。
「えっ?瀬良なら入れるでしょ?」
「ぶっ!!」
俺は盛大にココアを吹き出した。
「瀬良、汚ない」
「あぁごめん阪田、これハンカチ……ってそうじゃなくて!金津可、なんで俺がクラスサードに入れると思うの?」
阪田は眼鏡をはずしてココアをハンカチで拭いていた。それを見て少し笑いながら金津河は答えた。
「そりゃお前、セリア先輩に勝ってたじゃん」
「えっ、だっておれあのとき20秒で……」
しかしそこに阪田が割って入った。
「なに言ってんのさ。僕たちを結果しか見ないバカ連中と一緒にしないでよ」
「……それってどういう意味?」
「瀬良はセリア嬢に勝ったってことだよ。見たよあの試合。油断していたとはいえあの試合の意味はセリア嬢の20秒で勝利ではなく、完全決着なら序列8位を20秒でKOした訓練生って見出しでしょ」
それを聞いて唖然とした。周りで見ていた生徒の中にはクラスサードや、セカンドもいたはず。それらが見破れなかったことをあっさり見抜いた。
「二人は一体…」
“何者なんだ”そう言いきる前に返事が来た。
「「クラスサード狙いの一般訓練生だよ!」」
純粋な、一片の淀みのない言葉が俺に届いた。
- Re: 狂精神世界での覚醒願望Ⅰ ( No.29 )
- 日時: 2017/08/08 16:22
- 名前: 瀬良真澄 (ID: eH6OJcrU)
「クラスサード狙いって……」
俺は息を飲んだ。クラスサードはタイラントとの戦いを許される学年だ。そこには序列300位から150位のメンバーだ。そんな実力者集団に訓練兵が食い込んでいくなんて普通の事じゃない。
「俺は座学は苦手じゃないけどそれだけじゃ届かないから、実技をメインにしているんだ。阪田はその逆。実技が苦手で座学は得意なんだよ」
「ははぁ、二人は対照的なんだね」
「まあな、でも対照的だからこそよく組合わさるんだよ。俺が前衛。スペルやスキルカードを使って阪田が後衛って感じだ」
「互いの得意不得意を補い合う感じだね」
そこでひとつの疑問が生まれた。
「二人はどうやって知り合ったの?」
二人の年齢は17歳で俺と同い年。それでいて訓練兵だということは最近この学園。この世界に来たことになる。
もっと若いときに来たのならもうとっくにクラスサード辺りにいるはず。未だに訓練兵止まりとは考えにくい。となると、この900人、訓練兵だけで300人いる生徒からここまで対照的な人を短期間で見つけるのは難しいだろう。そこが疑問だった。
「アプリだよ」
阪田が言った。
「アプリ?」
「パートナー探し専用のアプリがあるんだ。それで俺と阪田は出会ったんだ。よかったら入れてみるか?明日の実践練習のメンバー補充もかねて」
「メンバー補充?」
「うん。まだ僕と金津可と瀬良の3人しかいないからね」
ちゃっかり俺がメンバーに入っていることはおいておこう。
「わかった、探してみるよ」
金津可に教わって狂精神世界専用のアプリを入れてメンバーを探した。俺のアバターネームはseraに設定。探したいタイプの人を検索した。
タイプは剣や槍、斧などを豪快に使う前衛の職『第一職』呪詛や、スキルカードを得意とする『第二職』暗殺、偵察、回復などのその他担当をする『第三職』があった。
阪田が俺の携帯端末の画面を指差しながら丁寧に説明した。
「パーティを作る上で第一職、第二職は二人ずつ。で第三職を一人の計5人がいいかな」
そのぐらいがバランスがいいらしい。中にはパーティのうち3人同じ職とか、一人で二職やる多才な人もいるらしい。
「俺が第一職で阪田は第二職。真澄は……多分エンチャンターだろうから第三職だな」
「エンチャンター?」
「エンチャンターって言うのは味方のステータスを強化したりする人だよ。ゲームで言う『バフ』のこと」
「へぇ」
俺は自分にできることが援護支援ということに少し驚いた。確かに〔追い風の加護〕や、〔保護防具〕が使えるが、そもそもこれも初歩のスキルだ。イヨいわく「これくらいならできるだろう」程度のスキルだ。
「瀬良、一つ言っておくとお前って物凄く凄いんだからな!」
金津可が机をドンッと叩いて言った。幸いテストが終わり皆は学園のテラスや食堂に行っていなかったが、廊下にいるのでは?という不安感に襲われた。
「そ、そうなの?どの辺が?」
俺の問いに阪田が答えた。
「瀬良、思い出して。スキルカードは呪文の詠唱は要らないけど、君がアルガーデ嬢と戦ったとき使ったのはスキルカード?」
「えっと……呪詛?……ッあ!」
「そう。君は詠唱無しで呪詛を使えるんだ」
「そうだ!お前は瞬時に攻撃呪詛も使えるし…」
「……あ、でもダメだ」
俺はある事実を思い出した。
大浴場
「〔保護防具〕……ッと、ちゃんとできるな。じゃあ次は、〔黒炎の弾丸〕…………………あれ?」
現在
「攻撃呪詛は使えないってこと?」
「うん、バフしかできないみたい」
「まぁそれでも驚異的だし大丈夫じゃね?」
金津可が笑いながら言った。
その時、手に持っていた端末が音をたてて震えた。
「おっ、早速来たな」
3人で画面を見た。
そこにはよくわからない事が書かれていた。
『第一職と第二職のペアパーティです。あなた方のパーティに入れて欲しいです。ただし、絶対に“私達と会わないでください”』
- Re: 狂精神世界での覚醒願望Ⅰ ( No.30 )
- 日時: 2017/08/17 07:54
- 名前: 瀬良真澄 (ID: eH6OJcrU)
午後
俺を含めて訓練生全員が、そろって廊下に整列していた。
300人全員が廊下に揃うとやはり狭い。
精具、コア、ジェムを腰に携え皆が緊張に頬をひきつらせている。
ただ一人を除いて。
俺、瀬良真澄は一切顔に緊張を出さずに悠然とその場に立っていた。
魔力測定試験は、専用の実験室で一人一人測る。そのため周りを気にせずに、全力を出せる。
覚醒願望を使ってネヴァンを纏えば学園を破壊する勢いが出るが、正体がばれるうえに目立ってしまう。それだけはなんとしても阻止したい。
そんなことを考えていると男性教師の声が響き渡る。
「まずは1番の相川から順にいくぞ。2番の浅川、3番の飯田まで並べ」
そう言われ、一人の少年は部屋に、二人の少女はドアの前で待機した。
目立った問題は起きずに俺の番はまわってきた。
部屋に入ると左に椅子に座りノートと筆記具を持った教師が3人いた。うち一人は担任の木田先生だ。俺を見るとにっこり微笑んでくれた。俺も笑顔をかえして的を見つめた。
そして部屋に入って正面を見てあるのは、10メートル先に設置された直径50センチメートルの水色のクリスタルだった。所々黒くなっていたりしている。だが一番目立つのは中央にある大きな穴だ。貫通はしていないものの、深い穴が抉じ開けられている。おそらく穴の形から一撃だけでこの穴を開けたのだろう。
「誰だよこれやったの」
小さく呟いた。
「それでは始めてください」
「あっはい」
俺は指に絡まるジェムに意識を集中させた。
すると答えるように漆黒の炎が膨れ上がる。
スキルカードは精具を展開しなければ使えないが、呪詛は呪文だけでも使える。俺は右手をつきだしクリスタルに狙いを定める。
「何にも染まらぬ無の衝撃」
右手から白い縦横10センチぼどの弾丸が放たれ、クリスタルに見事に命中した。白い炎が上がりクリスタルの破片が飛び散った。
「よし、下がっていいぞ」
「ありがとうございました」
廊下に出て教室に戻ったとき、阪田と金津可が出迎えた。

