ダーク・ファンタジー小説
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- Real-Game
- 日時: 2017/11/18 16:05
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
こんにちは、オアシスという者です。
Web小説はいくつか経験がありますので、精進していきます。
※一部流血描写や殺/人描写等が入ります。
それでもいいという方はどうぞ。
※異能力モノです。作者の痛い上に稚拙な文章にどうぞお付き合いください。
(感想・アドバイス等、どんどんお寄せ頂ければ幸いです。また、質問に関しましては答えられる範囲でお答えします)
- Re: Real-Game ( No.20 )
- 日時: 2017/12/08 19:42
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
暗い空間に一人。
周囲が氷で埋め尽くされているような冷たい感覚。
実体が無い、意識だけの存在の周りには、大量の血痕。
まだある程度の粘度を保っているそれは、自分のものだろう。
それを自覚した瞬間、周囲の空間が弾け飛ぶ。
眠りと目覚めの中間、即ち微睡みのようなものすら無いまま、神山は意識を取り戻した。
まだ思うように体が動かない。精神と体を繋ぐ接点のようなものが役に立っていない。
視界はチカチカと明滅し、全身が飛び上がる程痛いというのに、身をよじることすらできない。
自分が横たわっていることと、隣にもう一人いること。それだけは認識できた。
「昂太、目が覚めたか!?」
名前で呼ぶということは、新だ。駆け寄ってくる震動が伝わる。
それに対し、呻き声で応えることしかできない神山。
「無理に喋るな、傷が開く」
言われてみれば、全身くまなく痛い中でも、腹部に一際強い痛みを感じる。
戦闘時より治まってはいるが、それでも痛いものは痛い。
呼吸が昂進し、体の傷が脈打つような感覚が届く。
「他の…奴は?」
壊れた機械が上げる小さな軋みのような声で、神山が新に問う。
「希が全身打撲に少し意識混濁、原田はほぼ無傷、俺は脱臼と軽い捻挫で済んだ」
それから新は一呼吸おいてから続ける。
「お前は酷い状態だった。全身に裂傷や打撲、脇腹に一撃、そして腹部に大きな斬撃跡。おまけに出血多量ときた。死んでない方がおかしいよ」
どうやら運が良かったようだ。しかし神山は自分より他を優先した。
「愛佳…は…」
「見た目傷は浅かったが、結構深めだったみたいだ…。止血は、してある」
それを聞いて神山は、痛みに耐えるため歯を食い縛り、力を入れて上半身を起こす。
「やめろ! 傷が…」
「ほっといてくれ…」
新を振り払いつつ、隣に横たわる人物を見て神山は絶句した。
横たわっているのは伊原。額にはびっしりと汗が浮かび、苦しげに息をしている。
治療の為に露出している腹には夥しい量の包帯が不安定に巻かれており、脇腹にあたる部分にのみ、鮮血に彩られた深紅の花が咲いている。
「俺の、俺のせいで」
「…もう、夜だ。しっかり休養を取れ」
新は軽く神山の肩を叩くと、壁にもたれて床に座り込んだ。
しばらくして、規則的な呼吸音が聞こえてくる。
「愛…佳」
思わず伊原の手を取る。
いくらなんでも、この程度で死ぬはずはない。そう分かってはいたが、どうしても冷静になれない。
そこで、伊原が微かに目を開き、虚ろな目の焦点を神山に合わせる。
「神山さん…私…死にたくないです」
微かに見開かれた目から涙が一筋こぼれ落ちる。
そして生まれたばかりの赤子のように、神山の手を強く握り返した。
「そばに…いて…下さい…」
神山は深く頷くと、伊原に寄り添うように横になる。
「…すまない」
「…何が、ですか…?」
「俺のせいで、愛佳が苦しむことに…」
「…やりたくて…やったことなので…気に病むこと、ないですよ」
彼女はどこまで人を慈しむのだろうか。お互い痛くて辛くて苦しいはずなのに、自然と安らぎを感じる。
「うっ、ん…」
伊原が寝返りじみた無理な姿勢変更をした関係で、元々不慣れな者が巻いたのであろう伊原の包帯が少しほどける。
白磁のような色をした肌に、まだ完全に塞がっていない傷。
露出した臍が妙に扇情的で、神山を困惑させる。
当の伊原は既に寝付いているようで、時折顔を歪ませ呻くものの、すぐにどうにかなることは無いようだ。
その穏やかな寝顔を見ながら、
「ありがとう」
と呟き、続けて
「…お休み」
と耳元で囁いた。
- Re: Real-Game ( No.21 )
- 日時: 2017/12/13 17:39
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「…おい、成瀬」
「何でしょう、黒田さん」
「相手を速攻で始末するには、即ちブレーンを倒すこと」
「…と言いますと?」
「神山の女、あの小せえ方だ。あれを持って帰ってこい」
「殺してはいけない?」
「勿論だ。能力が中々厄介でな…情報戦の為だ」
「…了解しました。では行って参ります」
「昂太、もう大丈夫だな」
「ああ、この体になってから傷の治りが早い」
神山は応じつつ腹を撫でる。
綺麗に切られていたが、今はもう傷跡を残すのみとなっている。
「愛佳もかなり良くなったしね」
「…はいっ…もう大丈夫です」
伊原も、脇腹に僅かに癒着痕が残ってはいるものの、体は問題ないらしい。
「そうだ昂太。お前が起きたら話そうと思ってたんだ」
新はおもむろに話し始めた。
「武装のことだが…ここからは伊原の方が詳しいかな」
「…神山さんや皆さんを運んだ後、色々聞けました。まず…名前は荒木英二郎」
「荒木…か。聞いたことがあるな。教師陣も手を焼く不良だとか」
「はい。でも…話に聞くような人じゃなかったです。…『何かあったら、また協力するかもな』とも…」
「友好的なのか敵対的なのか…まだ分からんな」
「それと…これは狭山さんのことなんですけど」
伊原は機を伺いつつ話題を転換した。
「戦闘中、あの人の解析がうまくいきませんでした。何か…別の能力の干渉があったみたいで…」
「干渉?」
伊原の話の内容に新が興味を示す。
「他に別の能力を植え付けられたみたいな…そんな感じなんですけど…」
「つまり、狭山も組織に所属してて、元締めがいるってことか」
「どうせなら叩こうじゃないか! なあ皆!」
原田が気勢を上げる。
「よしっと…それじゃ、行きますかね」
そして一行は部屋を引き払う。
そしてしばらく歩いたころ、神山は殺気を感じた。
…危ねえっ!!
反射的に首を傾げて避ける。
前方から刃のようなものが飛んできたのだ。
後ろの仲間にも幸い当たらず、とんでもない勢いなのか、壁に突き立った。
見てみると、案の定カッターナイフの刃だ。しかもひどく加熱している。
咄嗟に出所を探る。しかし、それは案外すぐに見つかった。
なぜなら、相手が自分から姿を現したからだ。
まるで機械のように規則正しく踏み出される足。
電灯のついていない暗闇の中で、眼鏡が僅かな光を反射し煌めく。
「君達、取引しないか」
男がいきなり問いかけてくる。
「お前は誰だ」
神山が静かに問い返す。しかし男は無視して続けた。
「我々が求めているのは…そこの女。解析系能力の女だ」
男は文脈を切らずに話し続ける。
「その女を引き渡せ。その代わり、君達には今後一切手出しはしない。これでどうだ」
「呑めないね」
神山は即答した。
「仲間を売る奴がどこにいる。皆、行くぞ」
それを合図に全員が戦闘体勢をとった。
「…愚かな」
男が手をかざす。
その途端、全身が沸騰するような感覚に襲われる。
身体中の水分を含むありとあらゆる細胞が熱せられている。
何だこれは。
「これは…マイクロ波の能力です! 相手は熱に耐性を持ってます!」
灼熱地獄から逃れていた伊原が解析結果を述べる。
なるほど、聞いたことがある。詰まる所電子レンジというわけだ。
早く仕留めなければ…
そう思うのには理由があった。
まず熱の増減がない。常に一定の割合で熱される。最初こそある程度我慢できたが、もう耐えられなくなってきたこと。
そして何より、自分はもとより仲間の中で誰も熱への耐性を持っていないこと。
希は熱に強い動物を宿すことこそ出来るが、マイクロ波は直接的な熱ではなく波長のため、耐火能力を貫通してしまうのである。
神山は戦意を高めようとするが、高まる熱さがそれを挫く。
思わず床に倒れ込む。
あまりの熱さに、身をよじる力も残さず搾り取られてゆく。
やはり原田も、エネルギーや波長には対抗できないようだ。這いつくばり悶え苦しんでいる。
神山は一矢報いる為に刀を召喚するものの、刀身がひどく加熱してしまい思わず手を離した。
あのまま持っていたら確実に手が焼け焦げていただろう。
動けない神山達を尻目に、男は伊原に詰め寄る。
「あっ…嫌…嫌だ…」
「っぐ…や…めろ…!」
神山はよろよろと立ち上がり、刀を控えめに握り男に切りかかる。
相手は油断していたのか、回避が少し遅れた。
相手の肉を抉る感触が伝わる。
しかし浅い。
全身を熱せられたせいか、斬撃に力が入らなかった。
男はふらつく神山を蹴り飛ばすと、傷口に手を当てる。
手を離した時には、流れていた血は止まっていた。
「な…何…!?」
「マイクロ波によるたんぱく質凝固による止血方法を知ってるか…? 甘いな…」
そして男は怯える伊原の胸ぐらを掴むと、床に張り倒し引きずって運んでいく。
「新…戻せ…!!」
神山がか細い声で新に指示する。
そして時間が数秒巻き戻る。
神山は渾身の力を込めてマイクロ波地獄から這い出ると、全身から湯気を立ち上らせながら男に走り寄る。
もはや刀は握らない。パンチングファイターでの格闘戦を仕掛ける。
「待ちやがれ…!!」
神山は大きく拳を振りかぶり男に叩きつけようとする。
しかし気合いの乗っていない神山の拳が届くはずもなく、男はあっさりと攻撃を避けた。
しかも逆に殴り返された挙げ句、さらに大量のマイクロ波を浴びせられた。
「ぐ、あああああ…」
血液が沸騰する熱に襲われ、神山は無意識に手を伸ばす。
その姿はさながら亡霊のようだ。
もちろん、その手は虚しく空を掴むばかりだ。
「神山さん…!」
伊原の声が聞こえる。
その後、何かはたく音が聞こえた後、骨がどうにかなったような鈍い音が聞こえた。
「あ………い…」
声を出すことも辛い。
そして熱が冷め、意識が明瞭になった頃、男と伊原の姿は見えなかった。
- Re: Real-Game ( No.22 )
- 日時: 2017/12/13 19:06
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
誰もいない、冷たい部屋で目が覚めた。
…えっ、どこ?
姿勢に違和感を感じて目をやると、自分は椅子に座らされて、後ろ手に縛られていた。
私…確か…。
そうだ、眼鏡の人に抵抗したら…気を失って…。
伊原が考えを巡らせていると、騒々しくドアを開けて誰かが入ってきた。
「えーっと…伊原愛佳だな?」
軽薄そうな口調だが、明らかに味方では無さそうだ。
伊原は唇を噛み締めて黙り込む。
「だんまりか…ま、いいよ。分かりきったこと聞いちゃったな」
頭を掻きながらぶつぶつと呟く男に対して、伊原は上目使いで睨み付ける。
「まあまあそんな目しないでって…とりあえずさ、君を拷問したいんだよね」
拷問。そのワードが出た途端に、伊原の心を恐怖が満たす。
何をされるのだろうか。逃れる術はあるのか。
「泣くなって…今、仲間の情報を吐いたら見逃してやってもいいよ?」
仲間の情報を、吐けば…。
一瞬、言ってしまおうかと思った。
でも、神山さんはあの時に私を売らなかった。
私も、彼に報いたい。
言わない。何があっても。
きっと必ず、彼が助けに来てくれる。
「…言いません」
「へー、案外芯はあるんだね…じゃ、覚悟しなよ」
後半に変わった口調に、伊原は思わず生唾を飲み込む。
縛られている四肢は震え、目には涙が溜まる。
落ち着く為に深呼吸すると、急にバケツの水をぶちまけられた。
「ごほっ、ごほっ…」
心の準備ができておらず、水が気管に入ってしまった。
涙目で咳き込む伊原を見た男は何も言わず、伊原を殴り付け始める。
「ぐぅっ、かはっ…」
鳩尾に一発。
一瞬息ができず、鈍い痛みが全身に広がる。
「どう、ほら、言わないの? ほら、ほら」
そう言って男は伊原を殴り続ける。
「はっ…はっ…言い…ません…」
「仲間の能力とか、弱点とか、ほら、言いなよ」
「言いません…!」
そう言うと、男はまたもや黙って部屋の隅に立て掛けてあった木刀を持ち出す。
伊原の横で構えると、野球の要領で伊原のこめかみを打ち付けた。
「ぐっ…!」
視界がモノクロームに変わってゆく。
が、絶妙な加減のせいか、意識は失わなかった。
さらに顔面に蹴りを叩き込まれる。
なまじ意識があるせいで、痛みは倍増する。
気を失っていた方がマシだった。
「ちょっと、アレ持ってきてー」
男が部屋の外に待機しているであろう仲間に呼び掛ける。
しばらくすると、ドアの隙間から大量の釘が投げ入れられた。
「サンキュー」
いつの間にか男の手には金槌が握られている。
…まさか。
「さっさと吐けばこんなに痛くしなかったのに…」
「い…嫌…やめて…」
「まあ、自業自得ってことで」
「やだ…やだ…」
頬を伝うのは、涙か、先程の水なのか。
男は迷わず伊原の太股に釘の先をあてがう。
「かみや………」
そして躊躇わずに金槌を打ち付けた。
肉を貫通する感触が伝わってくる。
「…っあああああああ!!!」
自然と刺された部分から血が流れる。
「はぁっ…はっ…」
あまりの痛みに、不規則に呼吸を繰り返す。
「まだ死なないでくれよ」
男が残酷に言い放つ。
そして男は壁に掛けてあるノコギリを手に取った。
「もう…やめて…」
しかし男は聞き入れない。
ノコギリを振り上げると、肩口にそのまま切り下ろした。
「っく、あああ…」
制服の肩の繊維が切り裂かれ、鋸刃によって複雑な切り傷がつけられている。
「君さ、弾丸アリって知ってる?」
伊原は答えない。
いや、答えられないと言った方が正しい。
「噛まれるとすげー痛いんだけどさ、現物あったんだよねー、生物部に」
そう言って男は虫かごを顔の前に持ってくる。
中で屈強そうなアリが大量に蠢いている。
「君に全部ぶちまけるけど良いよね。いつまでたっても吐かないし」
言うが早いか、男は虫かごの蓋を開け、アリを伊原にけしかけた。
「くっ…やぁっ…あっ…!」
自由の効かない体勢で身をよじって払い落とそうとするが、アリは伊原の露出している部分に容赦なく噛みつく。
その瞬間、弾丸に貫かれたような痛みが走る。
「っくううううううう!!」
ありとあらゆる所を噛まれる。
さらに服の中にも侵入し、全身にアリが広がる。
そして、意識を失った覚えが無いにも関わらず「目が覚めた」。
痛すぎて気を失っていたようだ。
「あ、起きた?」
男の声にびくっと反応する。
男は何も言わずに椅子の背もたれを蹴り飛ばす。
伊原は縛られているため、抵抗できずに床に転がる。
「いやー、冷めなくて良かった良かった」
見ると、男の手には湯気を立ち上らせたやかん。
もう、だめかな…。
会いたい…。
「口閉じるなよ」
男は伊原の開いた口に躊躇なく熱湯を注ぎ込む。
「がっ…ん…んんんん!!」
当然口に入りきるはずもなく、横から頬に伝って溢れる。
ずっと口のなかに留めてはおけず、思わず熱湯を吐き出した。
「がはっ、げほっ…」
熱湯を出した時に軽い吐き気も誘発される。
「ふう…ふうっ…か…神山、さん…」
無意識に名前が口をついて出る。
「たす、けて…」
いたい。こわい。あつい。それだけが心を埋め尽くす。
たすけて。
「さぁて、お次は…」
男が道具を物色し始める。
「なあ、次は何が良…が、ぐふっ…」
…え?
…ああ、そうなんだ、やっと…
「大丈夫か!?」
誰かの声が聞こえる。
「………か…」
言い切らない内に意識は切断された。
- Re: Real-Game ( No.23 )
- 日時: 2017/12/19 18:05
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「愛佳…!!」
神山は伊原を椅子に縛り付けている縄を素早く切断すると、すぐさま伊原を介抱する。
意識を失っているようだ。全身には殴打の痕跡が生々しく残り、こめかみの皮膚も切れて出血している他、太股は血みどろになっている。
「これは…」
神山は伊原の太股の血をあらかた拭うと、その肉に深々と五寸釘が刺さっているのを見つけた。
「可哀想に…無理に抜くと出血が酷くなるな」
「私が運ぶ」
「じゃあ頼む、希」
希に伊原を任せ、廊下へ出ていくのを見届けると、神山は原田、新と共に別の部屋へ繋がる扉を思い切り蹴破った。
「のこのことやって来たのか…死にたいようだな」
眼鏡の男だ。
「死にたいのはお前だろ? 殺さない内に、名前を聞いておく」
新はその神山の声に、体が総毛立つのを感じた。
冷たいが、とてつもない怒りがこもっている声。
神山とは小さい頃からの付き合いだったが、これ程怒りに打ち震えた神山を新は見たことがなかった。
「今日がお前の命日となる…俺は成瀬彰だ」
成瀬と名乗った男が、大仰に両手を広げて挑発する。
「お前に攻撃のチャンスをやろう。最初で最後の、な」
「舐められたもんだ…新、原田、手を出さないでくれ。こいつは俺が倒す」
そう言うが早いか、神山はいきなりデビルクライシスを発動して成瀬に飛びかかる。
そして双剣の切っ先を合わせV字を作ると、腹の肉を丸ごと削ぎ取るつもりで切りつける。
あと少しで斬撃が相手に到達するというところで、剣がひどく加熱し始める。
神山は歯を食い縛り耐えるものの、完全には制御しきれずに、繰り出したのは浅い斬撃となった。
「フン…」
成瀬は痛みも感じていない様子で、わずかに傷付いた脇腹に手を当てる。
その手を離した時には、傷口は完全に止血されていた。
「俺にどんな攻撃をしたとしても、それはすぐさま治される…お前たちに勝ち目はない」
「んなもん、やってみなきゃ分かんねえよな? …足元見ろ」
足元を指差す神山の動きに釣られて、成瀬は思わず自らの足元に目をやる。
「なっ…貴様…!」
双剣の片割れが成瀬の片方の足を貫通し、床に釘付けにしていたのである。
「さっきの一撃でそこまで…!?」
神山は成瀬の言葉には耳を貸さず、剣を抜くのに必死になっている成瀬の頭に構わず回し蹴りをぶち当てる。
成瀬は呻きつつようやく剣を引き抜くと、自棄になって神山に剣を投げつける。
神山は自分の剣にも関わらずそれを剣で弾き飛ばすと、勢いのままに成瀬の腹を貫く。
しかし成瀬は剣が刺さった状態のまま無理やり止血しようとする。
なので神山は剣を貫通させたまま無慈悲に垂直に切り下ろした。
背骨に沿って肉を切る心地好い感触が伝わってくる。
「があああああああっ!!!」
成瀬が苦悶の叫び声を上げる。
神山は黙って胴体から剣を抜くと、流れるように成瀬の両手首から先を切り落とした。
「これでお前もただの人間だ。マイクロ波は使えない」
既に周辺は血の海だ。そこに成瀬の手首から噴水の如く湧き出る血が赤みを足していく。
「遺言はあるか?」
「遺言など無い…ただ…黒田大秦には気を付けろ」
「黒田大秦? 誰だそいつは」
「これ以上は何も言わない…さあ、殺せ」
「…昂太、もう」
「…ああ」
神山は黙って成瀬の首をはねた。
そしてカードを拾い上げ、デビルクライシスを解除する。
その時、激しい咳に襲われた。
「うっ、ごほっごほっ…げほっ…」
「お、おい…昂太、大丈夫か?」
「…! …ああ、大丈夫だ」
彼が口を押さえた手のひらに赤いものが付着していたことは、神山以外気付かなかった。
- Re: Real-Game ( No.24 )
- 日時: 2018/02/09 19:42
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「成瀬が殺られた。鳳…念願の格上げだ」
「黒田さん…ありがとうございます」
「お前の能力を使えば、奴等を始末することも容易い…奴等はいずれ邪魔になる。頼んだぞ」
「ええ、確かに」
「…俺は、あいつと話をつけてくる」
少し前、意識喪失状態であった伊原が目を覚ました時は、それはそれは嬉しかったものだ。
だが神山には懸念があった。
あの成瀬という男の言っていた、『黒田大秦』の存在。
相手にとって伊原がかなり厄介で、排除したい存在であること。
…自分の体が、デビルクライシスの力に蝕まれていること。
最後については仲間の誰にも言っていない。余計な心配をかける訳にはいかないからだ。
なるべく能力を使わないようにするべきか、ということも考えた。
しかし激化していく戦いの中で、デビルクライシスを使わずにいることは不可能に近い。
だから誰にも言わない。神山はそう決めていた。
しかしそんな思考も、目の前の男の介在で吹き飛んだ。
鮮やかに靡く赤毛の頭髪。この学校に赤毛の人間など一人しか居ない。
「お前は確か…鳳、っつったか」
記憶を確かめながら、神山は問いかける。
おそらく、スウェーデンと日本とのクォーターだったはずだ。
「そうだ。僕は鳳サクヤ」
「こんなところで何をしている。まさか戦うつもりか?」
「君達に知る必要は無いよ。ただ、黙って死んでくれれば良い」
その言葉に、神山達は臨戦態勢をとる。
「君達じゃ、僕には勝てない」
鳳はそう言い放つと、その場で能力を解放した。
背中からその髪と同じ翼が顕現する。
その両拳には熱く燃え盛る炎。
「ならこっちも、文字通り火の粉を払うだけだ」
神山は応じ、太刀を握りしめ鳳の許に駆ける。
振りかぶった刀を鳳が翼でガードする。
そのまま切り捨てようとした神山だが、翼は鋼のごとき堅牢さで、神山の斬撃は呆気なく弾き返された。
神山は怯まずに刀を投げ捨て、鳳が警戒していない自分のもう一方の手にライフルを召喚すると、がら空きの胴体にフルオートの連続射撃を叩き込んだ。
間を置かず連なる衝撃に鳳の体は小刻みに振動し、その勢いのまま仰向けに倒れ伏した。
「見かけ倒しだったか…」
しかし神山はある違和感に気付いた。咄嗟に振り向き、新に同意を求める。
「ああ…おかしい。気を付けろ」
新が言い終わるが早いか、体を蜂の巣にされたはずの鳳がむくりと起き上がった。
「痛いなあ…これはお返ししなきゃね」
途端に視界が紅蓮の炎に包まれる。
熱された空気に気管を侵され息をすることも叶わず、顔を腕で庇いながら神山は炎熱地獄を転がり出た。
ところどころ制服に焦げ目がついているが、それより気になるのは『鳳がなぜ死んでいないのか』だ。
「神山さん…! 彼の能力は『不死鳥』です!」
分析を終えたのだろう、伊原がアドバイスする。
「不死鳥!?」
「はい…! 死に至る傷を負うと、体力も傷も完全に回復して復活します…!」
「傷? 傷、か…」
「何か光明を見出だしたのか知らないけど、いずれ君達はここで倒れる」
そう言って鳳は炎弾を連発してくる。
神山がそれを避けつつ刀を投擲すると、やはり翼に防がれる。
その隙に神山はアメイジングスポーツで鳳の背後に回ると、素早く能力をパンチングファイターに切り替える。
そして背後から組み付き、鳳の右腕をがっしりと拘束する。
「なっ…やめろ!」
「オォラァ!!」
神山が渾身の力を込めて腕を引っ張ると、鳳の右腕はあっさりと千切れ飛んだ。
「ぐああああああああっっ!!!!」
悶絶する鳳に構わず、神山はみたび刀を召喚し、鳳の腹部を背後から刺し貫いた。
脊椎をかすめて筋繊維を切り裂く感覚を覚えた後、刀に貫かれたまま鳳は膝をついて倒れた。
しかしまたすぐさま起き上がってくる。
神山につけられた刀傷は治癒しているが、千切れた右腕は再生していない。
「見つけた。お前の能力の穴」
「何…!?」
「大抵の傷は治る。ただし大規模な欠損は修復出来ない」
神山の指摘に鳳はたじろぐ。どうやら図星だったようだ。
「はは…まさかこの不死の能力が破られるなんて、ね」
鳳は観念したのか、ひざまずいて神山を見つめる。
「さあ、殺してくれ。…その前に、聞きたいことはないのかい?」
「組織を背信するのか?」
「どう捉えようと構いはしないよ」
「じゃあ聞く。…黒田大秦とは何者だ?」
「…黒田大秦は、僕達のボス。派閥が出来上がったこの状況で、一、二を争う強者」
「…」
「彼は能力が『覚醒』している。他人の能力に介入できる」
「『覚醒』? 『覚醒』とは何だ」
「文字通りさ。極限の状況に追い込まれた時に、能力が増えたり、強化されたりすることだよ」
「…昂太。案外、情報が出てくる。一旦捕らえたままにしておかないか?」
「そうだな。生徒会室に拘束しておこう」
「ははは…まあ、それでもいいよ」
鳳の口からは、乾いた笑い声が零れていた。
「荒木英二郎だな」
「ん、そのツラ…黒田ってやつか?」
「手を組まないか? いや、組んでもらう」
「俺は独りが好きだ。いずれお前も、神山も俺が倒す」
「俺やお前ならまだしも、あいつは『覚醒』していない」
「関係ねえさ」
「…相容れないか」
「いんや。俺はお前が気に入らないだけさ」