ダーク・ファンタジー小説
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- Real-Game
- 日時: 2017/11/18 16:05
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
こんにちは、オアシスという者です。
Web小説はいくつか経験がありますので、精進していきます。
※一部流血描写や殺/人描写等が入ります。
それでもいいという方はどうぞ。
※異能力モノです。作者の痛い上に稚拙な文章にどうぞお付き合いください。
(感想・アドバイス等、どんどんお寄せ頂ければ幸いです。また、質問に関しましては答えられる範囲でお答えします)
- Re: Real-Game ( No.10 )
- 日時: 2017/11/18 18:51
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「…とまあ、そんなことがあったわけで」
神山は起床した仲間に昨夜の事を話す。
伊原との話は伏せてある。というのも、本人から「秘密にして欲しい」とお願いされたのだが。
「なるほど、神山君と伊原君2人なら余裕だっただろうな」
「いや、俺1人なら負けてた。愛佳のお陰だ」
「とっ、とんでもない…です…」
伊原は顔を真っ赤にして縮こまる。
「じゃあ、そろそろ移動するか」
氷川が促す。
ふと窓の外を見ると、東の空が若干だが白んでいる。
「あーあ、そろそろ紅葉の時季なんだけど…早く出たいね」
希が思い出したように呟く。
だが今年は冷え込みが早い。雪も遠からず降るだろう。
「神山君、これからはどうするんだ?」
「ちょっと分かってきたんだが、意外に能力は種類がある。場合によっては『武装』一強じゃない可能性がある」
「と言うと?」
「他の脅威にも目を向けるべきだ」
「まあ、昂太の言う通りだな。今の俺達じゃ太刀打ちできない奴が、必ずいる」
「そいつが勢力デカくしないうちにやっちまおうぜ、ってことか?」
「おおよそ氷川の言ってることで正解だ。愛佳もいるし、戦闘はよりスムーズに進むだろう」
事実、伊原がいるお陰でこのところ苦戦していない。
「そういや気になるんだけどよ。神山は何で伊原を名ングッ!?」
希が素早く氷川の口を塞ぐ。
そして耳元で囁く。
「女の子は色々あるのよ」
「おっ、おう…?」
氷川がやや疑問を感じつつも納得したのを見て、希はそっと手を離す。
「おい何やってんだ、そろそろ行くぞ」
「はーい」
「あいつ恐えよ…」
たまに無駄話を挟みつつ歩いていると、暫くして神山は違和感を感じるようになってきた。
「痛っ…また静電気か」
「多いな。空気が乾燥してるのか?」
それにしては異常だ。
いくらなんでも多すぎる。先程からかなり発生している。
というより、「空気が帯電している」かのような…
神山の思考はそこでぷっつりと途切れる。
目の前に人影が現れたからだ。
しまったと思った時にはもう遅い。神山は相手の拳を頬に受け、反撃の間もなく吹っ飛ばされる。
「神山!」
「神山さん…!」
痛みは遅れてやってきた。殴られた鈍い痛みと、ピリピリとした痛み。
「貴様!」
原田が相手に向かっていく。
だが原田は相手の数歩手前でいきなり膝をつき倒れた。
原田の能力は防御面では無敵と言ってもいいほどの性能を誇る。
その彼が倒れたのだ。
「まさか…電気か…!?」
神山はそう勘づく。
「ご名答。俺の名前は天田健也、能力は『電気』だ」
「そういうことなら!」
今度は希が向かっていく。氷川も一緒だ。
すると、希も電気を纏い始める。
「電気には電気! 電気ウナギは知ってるしょ!?」
希は電気を纏った拳で相手の胴体に連撃を見舞う。
しかし、
「女の力で倒れる程ヤワじゃないんだよ」
と一蹴すると、希の首根っこをがっしりと掴むと壁に叩きつける。
「野郎!」
苦悶の表情を浮かべる希を見て、氷川が攻撃に移る。
氷川が手をかざすと、天田の足が徐々に凍り始めた。
「よし! そのまま凍っちまえ!」
そんな氷川を嘲笑うかのように、氷はあっさりと融解する。
「何ィ!?」
「『電気』は『熱』も司る…あまり舐めるな」
そして氷川も格闘体勢に組まれ、床にしたたかに叩きつけられた。
「新…愛佳を頼む」
神山は短く言い残すと、刀を杖代わりにして立ち上がる。
殴打と同時に電気を打ち込まれたようだ。まだ少しふらつくが、泣き言は言っていられない。
新が頷くのを見届けると、神山は刀を構え天田に突撃する。
数歩手前で刀を大上段に振りかぶり、勢いのままに斬り下ろす。
しかし、神山の全力を込めた斬撃もまた歯が立たない。
刀ごと弾かれたのだ。
「…!? 何故だ!?」
とは言うものの、原因は分かっていた。
腕に電気が走る感触がした。筋肉の不随意反射によるものだろう。
ならばと距離を取りアサルトシューティングを選択するが、ライフルを構えた瞬間に手元から弾き飛ばされる。
「馬鹿だな。その銃は金属だろう。俺の電気が誘導するぞ」
「愛佳! どうすればいい!?」
「…わ、分かりません…!」
何?
そんなはずはない。
「何だか…相手の詳細が…うまく把握できないんです…!」
「そいつの能力回路を少し弄らせてもらっている。脳神経が伝達に電気を用いるくらい知っているだろう?」
くそっ、どうすればいい。
打つ手なしか。
思い切って徒手空拳で挑む。
パンチングファイターを選択すると、天田に駆け寄り、希のように連続パンチをお見舞いする。
だが神山のパンチは天田に到達する前に悉く弾かれる。
もはや拳が痛みを感じなくなってきたところで、天田からの反撃が来た。
鳩尾に入る重いパンチ。体内を電気が通り抜ける痛みが伝わってくる。
さらに顔面にもう一発。体のあらゆる場所に電撃が走る。
ふと鉄の味がして口を拭うと、手の甲にべっとりと血液が付着する。
先程顔面を殴られた際に鼻血が出たようだ。
その時、立ち直った希と氷川、そして意識を取り戻した原田が天田に群がる。
希は最大火力を出せる熊手、氷川は全身に氷の鎧を纏い攻撃する。
「何度やっても、無駄だ」
天田は3人の拳が到達する直前、全身から電気を発した。
希と氷川はおろか、さすがの原田でもエネルギーは衝撃として吸収できないようだ。
3人はふらつきながら膝をつき倒れ伏す。手は動いているので意識を失った訳ではないようだが、大量の電気を浴び動くことすらままならないようだ。
「大丈夫か!?」
「余所見をしていいのか?」
はっと我に返る。その時には再び殴打を受けていた。
空中で派手に回転しながら吹っ飛ぶ。
意識が朦朧とする。
「神山さん…!」
「来るな!!」
神山ははっきりとしない意識のなか、天田が蓄電を始めるのを捉えた。
「新と逃げろ…!」
「でっ、できねえよ、そんなこと!」
これに応じたのは新だ。
伊原はもう何も言わない。先程神山が取り落とした刀やらライフルやらを手当たり次第に天田に投げつける。
どれも天田に届くことはなく、彼の足元に落下する。
「早く行け…!」
「昂太や猛を見捨てられるか! 他の仲間もいるんだぞ!!」
「…!」
そうして神山と新が議論している間に、天田は蓄電を完了する。
「愚かだな、さっさと逃げれば助かったものを」
これまでか。
神山は死を覚悟し目を閉じる。
手足にも力が入らないし、意識は薄れ行くばかり。できることなど何もない。
頭の中で人生が回想される。
これが…走馬灯ってやつか。
その時、体に寄り添うように抱きつく何かがあった。
伊原だ。
そうだ。昨夜語り合った時に、支えてやりたいと思ったばかりだ。
こいつに何かを失わせてはならない。
くそっ。まだ死ねないな。
神山は気力を全身からかき集め、がばっと起き上がると天田を目がけて走り出す。
天田が蓄電を完了してから、ここまで僅か数秒。
もはや神山は何の能力も発動していない。
素の拳を振りかぶりつつ天田に迫る。
「うおおおおおおおおおッッッ!!!!」
言葉にならない叫び声とともに、振り上げた拳を振り下ろす。
それと同時に、視界を放電の閃光が埋め尽くす。
死んだか…。
と、拳に手応えがあった。
神山の拳を顔面に受けた天田は、驚いたような顔をしてよろめく。
何故放電が無効化されたのか。
天田の足元に無造作に落ちている銃や刀に、放電した電気が全て誘導されてしまったからだ。
もはや全身の筋肉が軋んでいる。意識はとうに消えかかっている。
だが神山は、再び拳を振りかぶる。
「うあああああああッッッ!!!」
動揺しているのか、天田は電気を発しない。
再度、顔面に拳が直撃する。
だが、それだけだった。
完全に気力を使い果たした神山は、今度こそ完全に倒れ込む。
「昂太!!」
「神山さんっ!!」
走り寄る新と伊原に応じる力すらない。
「死に損ないが…今度は確実に仕留めてやる!!」
攻撃を受けたことで激昂した天田は、拳に大量の電気を纏わせ神山を狙う。
「やめろ!!」
新が叫ぶ。しかし天田は止まらない。
神山は今度こそ腹をくくる。
覚悟を決め、目を閉じる。
…しかし、予想した痛みは来ない。
その代わりに、ぐしゃっという音が聞こえた。
ゆっくりと目を開ける。
天田の、首から上が潰れている。
なんだあれは。金属バットか何かだろうか。
天田が呆気なくカードに変わると、それを拾い上げながら、突如現れた人物が呟く。
「ひでえ有り様だな…おい」
人物が神山の近くにしゃがみこむ気配がする。
「今は見逃してやる。本調子の時に殺り合おうぜ」
それだけ言い残し、人物は去っていった。
「『武装』…」
伊原の声が聞こえる。
感動も、驚きもなかった。それを感じるだけの気力は神山には残っていない。
伊原が自分を抱き起こす感触がする。
「大丈夫ですか…!? しっかりしてください…!」
その言葉が聞こえた後、神山の意識は消失した。
- Re: Real-Game ( No.11 )
- 日時: 2017/11/18 18:55
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
>>9
遅ればせながら、ありがとうございます。
これからもお楽しみください。
- Re: Real-Game ( No.12 )
- 日時: 2017/11/19 13:53
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
…ここはどこだ?
…俺は何者だ?
何も見えない。見渡す限りの暗闇に、1人。
誰かの声が聞こえる。
『…ん!』
『か…まさ…ん!』
『神山さん!』
神山?
…そうだ、俺は神山昂太。
俺は…どうなってる?
こんな場所に1人にしないでくれ。
糸が切れるように途切れた意識が戻るのは、湧水の如く緩やかだった。
何も見えない。瞼が重い。しかし耳だけは、最初から自分のものとして周囲の音を拾う。
「どう? 昂太の具合は」
「快方に向かってはいますが…まだ意識が…」
「こいつが一番重症だな。もう半日くらい経つぞ」
「無理もないだろう。あれだけ攻撃を浴びてしまえばな」
「昂太…頑張れよ…」
…情報量が多すぎる。
重症? 何のことだ?
何だっけ、あいつだ。あま…あま何とか…
そうだ、天田。
確か、電撃を喰らって…
ようやく飲み込めてきた。
どうやら何かの上に横になっているようだ。
そばに仲間たちがいるらしい。
「神山さん…どうか…」
手足はまだ痺れているが、瞼はどうにか動くようになってきた。
鉛が入っているように重い瞼を、思い切って上げる。
視界は焦点の合わないレンズのように判然としない。
艶やかな黒髪を備えた少女が顔を覗き込んでいる。
「あっ…かっ…神山さん…!?」
「うぅ…」
呻き声で返すことしかできない。
伊原の声を聞いて誰かが飛び付く。
「昂太!? 大丈夫か? 名前は言えるか? 体の痺れはないか? 頭が痛んだりはしないか?」
「新、程々にしろ」
軽くパニックを起こしている新を原田が宥める。
「ようやくお目覚めときたか。無茶しやがって」
氷川が冗談混じりに呟く。
「良かった…本当に…うっ、グスッ」
伊原が不意にしゃくり上げ始める。
神山が意識を取り戻したことで、緊張の糸が切れたのだろう。
その時、部屋の外から罵声や爆音が聞こえてくる。
「すまねえ、ちょっと出てくる」
氷川が言い残し、神山と伊原を除く全員が退室する。
ようやく手足の感覚が戻ってきた。力を入れて上半身を起こそうとする。
「あっ、まだ起き上がっちゃ駄目ですよ!」
伊原が慌てて神山を止める。
「熱傷がひどいです。それに、長い間目を覚まさなかったから…どうなることかと…」
「…あれから…どうなった」
ややかすれてはいるが、声が出せるようになってきた。
「他の方は意識を失ってなかったので、皆で神山さんを運んできました。もう半日程経過してます」
「…そうか」
「ひどい状態で…意識消失の上、体のあちこちに熱傷や打撲…一部出血もありました」
「ありがとう…」
「……心配、したんですよ。神山さん、死んじゃったらどうしようって…うぅっ、ひっく」
伊原は神山の袖を掴んで号泣し始める。
泣き顔は見慣れているが、これほど顔をくしゃくしゃにして泣いているのは初めて見た。
伊原には本当に心配をかけた。その上、おそらく介抱もしてくれたのだろう。
神山は腕と腹筋を総動員し無理やり体を起こすと、伊原の背中に手を回し抱き寄せた。
伊原が驚いたように大きく息を吸う音が聞こえる。
なぜこんな行動をしたのだろう。
「…すまない」
「い、いえ……もう少しだけ、このままでいていいですか…?」
「…ああ」
伊原は自分の腕も神山の背中に回すと、肩に顎をのせ一層激しく泣き始めた。
「はぁっ、うぅぅぅ…はっ…」
不規則に、伊原の熱を帯びた吐息が耳朶を揺らす。
伊原はしばらくそのまま泣きはらすと、神山に体を預けもたれかかった。
泣き疲れて眠ったようだ。
神山は痛みに顔をしかめつつ伊原を椅子に座らせてやると、自分は起き上がり体を確認する。
頬にはガーゼが貼ってある。殴られた跡だろう。
手足に、電撃が流れた際の熱傷が数ヶ所。
血も大分流れたようだ。頭がくらくらする。
耐えかねて頭を下げると、自分の左手首が目に入る。
血管の紋様がしっかりと手首に焼き付いていた。
いわゆる電紋と呼ばれるものだろう。
痛々しい模様に少しばかり嫌悪感を覚えつつ、神山は再び横になる。
見覚えのある天井。生徒会室だ。
ベッドなどはない。神山が寝ているのも、椅子を並べた即席の寝台だ。
相当疲れているようだ。すぐに眠気が襲ってくる。
本来なら不用意に寝るのは危険だが、どちらにせよ何かが起こっても自分にはどうしようもない。
防衛は新達に任せて、しっかりと休養をとることにする。
目を閉じると、すぐに意識が深淵に引きずり込まれていく。
目を覚ますと、既に西日が沈んでいた。
仲間も既に帰還しており、各々で休養をとっているようだ。
伊原は相変わらずうなだれて眠っている。頬にはまだ涙の跡が刻まれたままだ。
ふと思いつき、仲間を起こさないようにしつつ、ジャケットを羽織って部屋の外に出る。
まだ体の節々が痛むが、試したいことがあった。
腕を捲り、左腕の電紋を露出させる。
しばらくそれを見つめた後、左腕に気力を集中させる。
血行が良くなってくる。電紋が紅く染まってくる。
最大限に気合を高めると、左腕を高く掲げる。
すると、周囲の空気が一挙に帯電する。
天田の能力の一部が、神山に継承されたのだ。
こんなこともあるんだなと、更に色々と試してみようと能力を行使しようとしたが、さすがに体が限界を迎えた。
がっくりと片膝をつき、全力疾走をしたときのように息を切らす。
自分の能力ではないからか、体力の消耗が激しいようだ。
そこに、伊原が慌てた様子で出てくる。
「駄目じゃないですか…! また気を失ったりしたら…」
もはや力が入らない神山は、伊原にやや強引に部屋に連れ込まれる。
「もう、寝ててくださいよ…? 私が見てますから…」
「悪いことをした…」
「…私は、神山さんにいなくなってほしくないんです。…ずっと…神山さんといたいんです」
「ありがとう…俺も1人は嫌だ」
伊原は安心したように頷くと、頬を赤らめて聞いてくる。
「…そっ、その…神山さんは…その…彼女…とかは…いないん…ですか?」
「いない」
「そっ、そう…ですか」
伊原は何故かほっと胸をなでおろす。何が聞きたかったのだろう。
「…寒いですね」
季節は秋だが、冷え込みが早い。室内でも指先が白くかじかむのも珍しくない。
「人肌が結構暖かいのって…知ってますか?」
伊原はそう言うと神山の手をとって両手で優しく包み込む。
「はは…おい愛佳、まるでカップルだな」
「かっ、かかかかかカップル!?」
伊原は耳まで真っ赤にすると、
「でっ、でも…神山さんなら…私…」
そこまで続けて、
「…なんでもないです」
とぎこちない笑みを浮かべた。
「…じゃあ、神山さんは早く寝てくださいね。怪我人なんですから…」
「ああ、そうする」
神山が目を閉じると、伊原が耳元で「おやすみなさい」と囁く。
その声に言い表せない優しさを感じ、神山の意識は深く落ちて行くのだった。
- Re: Real-Game ( No.13 )
- 日時: 2017/11/19 16:09
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「おっ、昂太。もう大丈夫なのか?」
「お陰様でな」
「無理しないでよ。死なない程度にね」
神山は起床した仲間の話に応じつつ、左手首の電紋を見る。
電撃の力は強力だが、いかんせん体力の消耗が激しい。
ここぞというときの切り札に使うべきだ。
「おう、ひでえ傷だな。痛みが残るようなら、言えよ」
氷川が気を遣う。
「そうだな。しばらくは、神山君に無理をさせてはいけない。彼が一番重症だったからな」
原田もそれに同調する。
昨日も神山抜きで戦い、撃退にとどめたようだが戦闘に勝利しているらしい。
戦闘能力に不足はないだろう。
「よし、それじゃあ行くぞ」
神山が号令をかけ、部屋を引き払う。
「そういえば、天田に殺されかけた時は『武装』が助けてくれたんだよな。意外と悪いやつじゃねえかもな」
「いや、俺に『本調子の時に殺り合おう』と言っていた。どこかでぶつかることは避けられない」
「…あっ、あの…あの時に能力を計測したんですけど…皆さんの身体能力をかなり上回っています。今後しばらくは避けた方が…」
「じゃあ、ひとまずは愛佳の言う通りにしとこう」
確かに、しばらくは『武装』を避けなければならない。
神山も今一つ本調子ではない。今戦うのは危険だ。
「昂太。それはいいんだが…ここら辺、やけに水浸しだな」
「…ああ」
こういう時は大抵何かある。経験則でわかっていた。
「全員、止まれ」
仲間に指示をした後、神山は挑発する。
「隠れているのは分かってる。出てこい!」
すると、不思議なことに床一面に広がっていた水が1か所に集まり、人の形を作り出す。
形が整ってくると、水が着色され人が姿を現す。
「見つけた所でなんだってんだ…俺に攻撃できるかな」
男だ。おそらく能力は液状化の類いか。
だとしたら…まあ…そうだろう。
無駄と分かりつつ刀剣無双を選択。相手との距離を詰め、躊躇なく刀を横薙ぎにする。
だがやはりというべきか、神山の斬撃は相手の体を綺麗にすり抜ける。
斬られた部分を液状化して、斬撃を無効化したのだ。
「神山君は無理をするな! 下がれ!」
原田が勇敢に向かって行くが、相手は原田に向かって水を噴射する。
ウォーターカッターだろう。だが原田は衝撃を吸収し、パンチで衝撃を返す。
しかし原田の攻撃もまた、相手にダメージを与えるには至らない。
多少水が弾けた程度で、また部位を再生し始める。
まともな物理攻撃は効きそうにない。
ここは電撃を使うしかないのだろうか。
そんな時、後ろで待機していた伊原の方から悲鳴が聞こえる。
はっと振り向くと、伊原がこれまではいなかった人間に首を絞められている。
女だ。完全に気配が感じ取れなかった。
どこから現れた!?
「が…くぅっ…」
伊原が苦しげに抵抗する。
水の生徒と女の生徒。どちらを相手取るか神山が迷っているうちに、新が伊原を拘束している女の頭を上段回し蹴りで蹴り飛ばす。
突然横から頭を蹴られた女はすぐに伊原を離し、風景に同化して見えなくなる。
なるほど、透明化か。
2人して厄介だな。どうするか…
「くそっ、速え! これじゃ凍らせられない!」
氷川が吐き捨てる。
どうやら水の生徒に苦戦しているようだ。
液状化した状態で床や壁を高速で這い回っている。
追随できない。
透明化の生徒も、位置が捕捉できない以上は攻撃できない。
その時、神山の後ろから首に手を回される気配がする。
「昂太!」
新に警告を飛ばされるより早く、神山は体を回転させ相手のこめかみに肘鉄を入れる。
相手はよろめくとまたも透明化して姿を消す。
「まずい…このままじゃ埒があかないよ!」
「愛佳…どうすれば!?」
「ケホッ…こっ、広範囲攻撃が有効…です…」
首を絞められたからなのか、咳き込みつつ弱点を分析する。
広範囲攻撃…やはり、使うべきか。
「全員、退け!」
「えっ…だが」
「いいから!!」
神山の剣幕に誰も異論を挟めず、神山の言う通りに離れる。
神山は左手首の電紋を露出させると、精神を集中させる。
瞬く間に、禍々しい紅色に染まる。
「…! 神山さん、それは!」
「これしかないだろ…!!」
パワーがみなぎってくるが、その代わりに神山の額には大量の玉汗が浮かぶ。
歯を食い縛ると、左手を高く掲げる。
途端に、周囲の空気が帯電し、すばしっこく逃げ回っていた水の生徒を灼く。
自分の体が水と化している時に電気を浴びたのだ。無事では済むまい。
さらに、居場所が分からなかった透明化の生徒も、電気が自動的に誘導して感電する。
おぞましい悲鳴をあげつつ、姿を現して倒れる。
「おい神山…いつの間にそんな力が…」
「天田に攻撃受けすぎたみたいでな…」
唖然としている仲間に簡単に事情を説明し、2枚カードを拾い上げる。
手札に加えようとして、ふと違和感に気づく。
「…数枚足りないな」
これまでは25枚持っていたが、20枚に減っている。
「どっかで落としたかな」
まあ、盗られたのだとしても取り返せばいい。
カードを懐にしまい込むと、途端に動悸が激しくなる。
能力の反動が来たのだ。手足は震え、力が入らない。
肺が破れそうなほどに痛む。頭の中に破鐘のような音が響き、耐えがたい頭痛が襲う。
体の中から湧き上がる痛みに、無意識で床をのたうち回る。
「神山さん!!」
伊原が駆け寄り介抱する。
酸素を充分に取り込めない。気管がひゅうひゅうと虚しい音を奏でる。
「神山さん…! しっかり…!」
「昂太!」
新と希も心配して走り寄る。
「神山さん! 落ち着いて…! そう…ゆっくり息を吸って…!」
手足の震えが治まってきた。
「はっ…はっ…悪い…」
「こんなもんだよな。そんな都合よく能力が手に入る訳ねえんだ…」
「神山君、その能力は反動が付き物だ。緊急時以外は使わない方がいい」
仲間から一斉に言葉を投げ掛けられる。
落ち着いてきた神山を伊原が助け起こす。
「…本当に…無理しないでくださいね…」
伊原にも諭される。
だが、この能力を無反動で扱えるようになれば強力無比な武器になる。
神山は自分の能力に新たな可能性を感じていた。
あと…128枚?
- Re: Real-Game ( No.14 )
- 日時: 2017/11/21 16:12
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「諸君。頑張っているようだね」
校内に久し振りに放送が響く。
開始の時と変わらない、厳粛な男の声が流れる。
「多数の勢力が展開し、なかなか面白くなってきた。そこで、君達に試練を与える」
男の声はそこで一旦途切れ、焦らすように間を置いてから続ける。
「試練とは、《兵士》の導入だ」
兵士の語に力を入れて口にする。
「君達と同じ数…つまり200体を投入する。この機械兵士には最新鋭の学習型AIが搭載されており、全機で情報を共有する」
淡々と男の話は続いて行く。
「聡明な諸君ならもう分かるだろう。即ち、1体が蓄積した戦闘データは全機体に送信される。そして、戦う度に強くなる」
そして男は話を締めくくる。
「この兵士達を倒し、君達が生き残ることが果たしてできるのか…楽しみにしている。では、健闘を祈る」
その後は特に何もなく、無機質に放送は終わった。
「…だってよ。面倒なことになったな」
「ていうか、黒幕は私達のことリアルタイムで監視してる感じなのかな?」
「おそらくそうだろう。しかし、俺達の戦いを見て楽しんでいるとは。断じて許せん」
「そうだな、猛の言う通りだ。…だが、あの声はどこかで聞いた事が…」
「…聞いたことはあるんですけど…思い出せませんよね…」
「何にせよ、降りかかる火の粉は払う。それだけだ」
神山の一行は各々の推測なり何なりを語り始める。
「神山。機械ってことは、案外戦闘ではちょろい感じなんじゃないか?」
「いや、そうとも言い切れない。機械だからこそ、感情がない。躊躇なくこちらを殺しにかかってくるはずだ」
神山は己の予想を披露する。
「さらに、学習機能も脅威だ。全機体で共有ということは、1体と戦えば200体がレベルアップするんだぞ。余計な情報を与えず、一撃で仕留めることが重要だと思う」
さらに神山は情報戦も仕掛ける。
「愛佳、できればその兵士達の情報も探ってほしい。できるか?」
「はい…やってみます…!」
「昂太も、なかなか策士だな」
「死因が機械に殺害なんて俺は御免だしな」
軽口を叩きつつ、話し合いを続ける。
「うちの学校は生徒数に見合わねえほどバカでかい…兵士で学校が溢れかえることは無いだろう」
そのおぞましい光景を想像してしまったのか、伊原がブルッと体を震わせる。
「あと考えたくはないが…機械操作の能力がいたら厄介だ。見つけ次第始末してくれ」
「オーケーだ。よし、じゃあ行こうか?」
「神山君。早速お出ましのようだぞ」
廊下の向こう側から、数人の集団が歩いてくるのが見える。
規則正しい歩幅とリズム。無機質に振られる腕。
機械の特徴そのものだ。
少し近づくと、装いもよく見える。
上半身は軍用のアーマーじみたものにプロテクトされている。
下半身はさっぱりとしているが、アンダースーツに膝、脛のアーマー。
頭は黒を基調としたつるりとしたメットに覆われており、中を伺い知ることはできない。
腰のホルスターには銃ともナイフともつかない武器が収まっている。
「よし、やってみよう。愛佳、頼むぞ」
「はい…!」
神山、希、氷川が走り出すと同時に、伊原が解析を開始する。
相手は5体。まだ学習記録がないからか、至近距離まで近付いても無反応だ。
神山は手始めに1体の首部分を刀で刺し貫くと、そのまま横に薙いで切り開く。
その横薙ぎで隣のもう1体の首を勢いのまま飛ばす。
神山の無駄の無い斬撃を受けた兵士は火花を散らして機能停止する。
希はカンガルーの足で飛び蹴りをお見舞いし、相手を横倒しにした後に、足を象の足に素早く変化させ頭を踏み潰す。
メットや回路の破片と共に、潤滑液のようなものが飛び散る。
その頃氷川も、2体の兵士の胸部を氷の槍で串刺しにしていた。
氷川の氷の槍が砕けると同時に、ヒビが入っていた兵士の胸部も一部崩壊する。
「やっぱ学習してねえと、大したこと無いな」
だがここから強化されていく。案の定、また向こう側から集団がやって来る。
「今のうちに解析結果を聞いておこう…愛佳、どうだった?」
「身体能力その他は全機体で共通だと思います…能力はありません…常人より少し強い程度、です」
「そうか、ありがとう」
伊原が照れつつ少し嬉しそうな顔をすると同時に、神山は兵士に意識を戻す。
今度は3体。他の所でも戦いが始まっているのだろう、学習速度も早いはずだ。
その証拠に、若干小走りで向かってくる。
間合いに入った所を居合い抜きで倒してやる。
神山は抜刀の姿勢で待機する他、希は上腕部から拳にかけてをゴリラに変化させ、氷川は腕に氷の鎧を形成する。
間合いに入った。
その事を認識すると、神山は1歩踏み込み刀を高速で抜くと、兵士の胴体を逆袈裟に斬ろうと試みる。
しかし兵士は、神山の刃が届く直前で停止する。
「何っ!?」
まさか、こんなにも学習が早いのか?
斬撃が空振りし、体勢を崩した神山に、斬撃をかわした兵士が組み付く。
機械故に、人間では出せない力が出ている。このままだと関節が壊される。
神山は素早く決断し、左手首に力を込めると、一瞬だけごく小さく放電する。
神山の電気に駆動系を狂わされたのだろう、兵士はしばらく死の舞踊を踏むと、関節がちぎれ自壊した。
念の為パンチングファイターで頭を砕いておく。
若干息は苦しいが、反動は行った攻撃に相応らしい。
希は神山とは逆に、兵士に一方的に組み付くと、首を無理やり回して捻り引きちぎる。
首部分はアーマーに覆われていない繊維の束なので、攻撃が容易に通るらしい。
それを見てとった氷川は、氷の刃で神山のように相手の首を飛ばす。
これまでで8体。連戦の上、段々と強くなっていく相手だ。さすがに少し疲れを感じる。
さらに神山は僅かながら電撃を使った反動が残っている。
これ以上は厳しいか…?
「神山君、下がれ。後は俺がやろう」
神山を押し退け、原田が進み出る。
その目には自信が満ち溢れている。
「ああ…じゃあ頼んだ…」
神山は胸を押さえつつ下がる。
後ろで待機していた伊原に抱き止められる。
「大丈夫ですか…?」
「ああ、平気だ…」
「でも、顔色が少し…」
平気だとは言いつつ、息が苦しいのは事実だ。神山は何も言えない。
原田達は第三陣の兵士と戦い始めた。
兵士の動きはキレが増してきたようだ。希や氷川は攻撃をかわされることが増えてきた。
息を整えつつ成り行きを見守っていると、もう1つの廊下から数体の兵士が出現する。
神山ははっと息を呑むと、対抗すべく立ち上がるが、やはりまだふらついてしまう。
「昂太、無理するな。俺がやる」
とは言うものの、新の能力では限界がある。
しかも強さを増してきた兵士達。猛攻に耐えられるとは思えない。
案の定、新は必死に戦うがどうしても取りこぼしが出てしまう。
さらに戦っている3人は手を離せない。
新が取りこぼした兵士は、神山と伊原に向かってくる。
どうやら非戦闘員を狙う思考ルーチンもあるようだ。
「昂太!」
神山は刀で抵抗するが、動きにキレの無い神山と無傷の兵士達。
差は明白だった。
神山の斬撃はガードされる。
もうガードを覚えたのか!?
驚愕しつつ体勢を崩す神山を尻目に、兵士は伊原へ向かう。
「チッ!」
神山は舌打ちして刀を槍投げの要領で兵士に投げつける。
刀は綺麗に胴体を貫通し、兵士の機能を停止させる。
しかしもう3体ほどが迫ってくる。
「くそっ!」
神山は懐に入られた場合の振り払う手段を電撃しか持たない。
しかしその電撃も連発はできない。
第一、こんな所で撃ったら伊原に被害が及ぶ。
打つ手なし。
しかしこのままでは伊原が危ない。
とっさに伊原に覆い被さる。
「…!? 神山さん!? 何やってるんですか…!?」
盾にしている自らの背中に殴られる痛みが広がる。
兵士が群がっているようだ。
くそっ、無駄な戦略覚えやがって。
神山は胸中で毒づくと、パンチングファイターで思い切り裏拳を放つ。
ごしゃっという音をさせて1体の兵士が機能停止する。
しかし仲間の死にも構わず兵士達は神山を攻撃し続ける。
「神山さん…! そんな…!」
涙を流しながら自分のことはいいと懇願する伊原。
しかし伊原を失えばそれは作戦中枢を失うのと同義だ。
さらに、伊原とは深く語り合った仲だ。失うのは何となく、惜しい気がした。
そろそろ痛みが我慢できなくなってきた。
神山の苦悶の表情に、伊原は神山の袖を固く握り締める。
その時、兵士の1人が蹴り飛ばされた。
「何やってんだよ…ったく、昔っからお前は…」
新だ。
あらかた片付け終わったのだろう、神山の援護に回るようだ。
神山からもう1人引き剥がすと、床に倒して頭部に踵落としを決める。
モーターが空回りする虚しい音を奏でながら兵士は機能停止する。
戦っていた3人もとどめを刺したようだ。
「案外手こずるね…こいつら」
「面倒になってきたな…くそっ」
「ほら昂太、立てよ」
新が手を差し伸べる。神山はその手をしっかりと取ると体を起こす。
「お前は昔っからそんな性格だよな…論理的に見えて意外に直情径行なんだよ」
「生きてるし結果オーライだろ」
「あっ…ありがとうございました…! 怪我とかは…無いですか…?」
「大丈夫だ」
「毎度のことだが、無理をするなよ、神山君」
原田に応じつつ、痛む背中をさする神山だった。
「5枚か…案外盗れなかったか」
男がカードを眺めつつ歩いている。
「あー…あいつ、磨けば強いな。次会うときは…」
男はそこで言葉を切り、両の拳を打ち付ける。
そこに、兵士の集団が現れる。
「あ? 何だお前ら」
男の問いには答えず、兵士は問答無用で攻撃を仕掛ける。
数はざっと10体。
「めんどくせえなオイ…さっさと逝けや」
男は長めのドスを召喚すると、一挙に3体の胸部を串刺しにする。
その隙に迫ってくる1体の頭部にハイキック。
さらにハンドガンを召喚し、馬賊撃ちの要領で流れるように3体の頭部を確実に貫く。
そして再びドスを召喚。1体の首を飛ばし、足を引っ掴むと体を乱暴に振り回す。
それでもう2体を巻き添えにして、一気に勝負を決めた。
「ったく、迷惑だなぁ……そういや俺って、『武装』って呼ばれてんだよな。なかなかイカすな」
男はニヤニヤと笑みを浮かべると、余韻もそのままにその場を立ち去った。