ダーク・ファンタジー小説
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- Real-Game
- 日時: 2017/11/18 16:05
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
こんにちは、オアシスという者です。
Web小説はいくつか経験がありますので、精進していきます。
※一部流血描写や殺/人描写等が入ります。
それでもいいという方はどうぞ。
※異能力モノです。作者の痛い上に稚拙な文章にどうぞお付き合いください。
(感想・アドバイス等、どんどんお寄せ頂ければ幸いです。また、質問に関しましては答えられる範囲でお答えします)
- Re: Real-Game ( No.5 )
- 日時: 2017/11/12 13:45
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「おお、戻ったか。ん、そちらの彼女は?」
「博多希です。昂太と新と同じクラス。よろしく」
「ああ、よろしくな!」
初対面の人物に対してやけにコミュ力の高い原田と希の会話を横目に見つつ、神山は氷の生徒を一瞥する。
巻き戻す前の時間では神山が首を落とした生徒だ。
「何見てんだよ…」
どうやら新が時間を巻き戻す前のことは覚えていないらしい。
原田の拘束はないが、動かずにじっとこちらを見ている。
このまま殺してしまうのはなんとなく惜しい気がした神山は、氷の生徒に声を掛ける。
「お前の仲間は俺が殺った。どうする。お前に帰る集団は無いぞ」
半ば脅迫のようになってしまった。
だが氷の生徒はそれに逆上せず、周りを見渡しながら言った。
「そりゃあ数の差がある…仕方がないさ」
このまま一人でいてもいつかは限界が来ると悟ったのだろう。氷の生徒は頷く。
「氷川透だ、よろしくな」
「よろしく。お前の英断に感謝する」
「今のところ、神山だったか? お前が一番『殺ってそう』だ。ここにいる方が合理的だ」
まあ現時点で4人殺してますし。
これで仲間が一人増えた。
自分、新、希、原田、氷川か。
なかなか大所帯になってきたな。
「神山君、これからどうする? 活動の幅も広がってきたが」
「とりあえず、色んな部屋を回ってみよう。今のところ、この階でしか動いていない。他の階を巡って、会う奴を仲間にしていこう」
「では、そうしよう」
そして一行は宛てもなく理科室へと向かう。
そこで、驚くべき光景を目にした。
部屋一面に広がる血痕。一部は天井まで届いている。
それは、この部屋で大規模な殺戮があったことを示していた。
「おえっ…ひでえなオイ」
氷川がさっそく嫌悪感を露にし、不用心に奥へと踏み込んでいく。
「おい、そこに何かいないか?」
氷川が何か見つけたようだ、小声で囁いてくる。
指さす先を見ると、薬品棚の後ろに蹲っている影が見えた。
体を保っているところを見ると、死んではいないようだが…
他の仲間も警戒しつつ様子を窺っている。
だが一向に動く気配が無い。そこで、思い切って呼び掛けてみることにした。
「おい!」
「ひゃうっ!?」
女だ。
恐る恐る薬品棚の影からこちらを覗いてくる。
「ゲームの能力…珍しいですね…」
「なんで俺の能力を!?」
女の発言に神山が動揺していると、希が進み出る。
「あれっ、もしかして愛佳!?」
「希じゃないですか!」
どうやら知り合いらしい。
「もう駄目かと思いました…うっ、グスッ」
「え、ちょ、なんで泣くの!?」
「…その、友情を確かめ合ってる所悪いんだけど、その子の名前は?」
新が刺激しないようやんわりと問い質す。
「伊原愛佳。私の幼馴染み」
「伊原愛佳です…グスッ」
「いい加減泣き止んでよね…もう」
どうやら気弱な女子らしい。
「ところで聞きたい。なんで俺の能力が分かったんだ?」
気になっていた。これまでは相手から申告されるか実際に見るかして能力を判断していた。
俺は伊原に能力を教えた覚えは無いし、見せてもいない。
「多分…私の能力です。このゲームが始まってから、人を見ると能力が見えるんです」
ああ、情報支援って感じね。
「それと、その人の身体能力とか、体力とか、色々見えるんです」
「なるほどな。新と同じで戦闘向きではないということだな!」
「俺が傷付くからやめて…」
肩を落とす新を尻目に、氷川が口を開く。
「それよりこの状況だろ。一体何があったんだよ」
「それです。私、戦うのが怖くてここに隠れてたんです。そしたら…」
「そしたら?」
「いきなりたくさんの人が雪崩れ込んできました。何かに…怯えてるみたいでした。皆さん、凄く強そうな能力だったのに…」
そこで伊原は一旦言葉を切り、息を整えてから続けた。
「その後にまた一人入ってきました。銃とか剣を持ってました。あの人達は…その一人にやられたんです」
「顔は? 見たのか?」
「いえ…でも、能力は『無限武装』と見えました。10人くらいいたのに…全員…うぁっ…」
「あの、ホラ、愛佳は割と臆病だからさ、こうなっちゃうわけよ。もう、やめたげて?」
「そうだな…すまない」
詫びつつ、神山は考える。
いくら武装が多彩とはいえ、それは神山も同じだ。
その神山が3人相手取るのがやっとなのに対して、その人物は10人程を恐らく一方的に圧殺している。
とんでもないジョーカーだな、これは。
神山は我知らず戦慄を感じていた。
- Re: Real-Game ( No.6 )
- 日時: 2017/11/15 15:01
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「とりあえず、愛佳も連れていこう? 何気に役立つ能力だし」
「え…いいんですか?」
「いいさ。何か足りなくても、俺達がカバーする」
「あっ…ありがとうございます!」
神山と希の提案により、また仲間が増えた。
ここで一旦整理してみよう。
攻撃…神山、希、原田、氷川
防御…神山、原田
補助…新、伊原
面子が揃ってきたな。
「さて、できればその『武装』の奴とは会いたくない。俺達では太刀打ちできない」
神山の言葉に全員が頷いたのを確認して、続ける。
「何にせよ出るにはカードが必要だ。今のところ、俺が保有している分で5枚」
「だが先程伊原君が話した『武装』は10枚程度保有している、ということだな?」
「ああ、既に遅れをとっている…どうだ? ここは全員の能力をフルに活用する『慣らし』って感じで、どこかの集団と当たってみる、ってのは」
なかなか、感覚が麻痺してきた神山だが、この状況ではこれが最も合理的であると皆が判断するというのは分かっていた。
案の定、全員が頷いた。
「なら、戦闘に向いた所で戦おう。向いてるのは体育館辺りかな?」
「新の提案を採用する。一階へ向かうぞ」
そして一行が体育館の扉を開け放つと、ちょうど他のグループが戦っているところだった。
「ふむ。神山君、先客がいたようだが?」
「あれなら心配ない、すぐに決着がつく」
戦っていたのは10人対5人。実力差は明白だった。
しばらく息を潜めていると、10人のグループが5人のグループを一掃してしまった。
神山は仲間達に声をかける。
「『武装』の奴は一人で10人撃破したようだが、俺達は違う。ワンマンプレーではなく、常に連携を意識しよう」
「わかりました。私が皆さんに情報をお伝えします」
「助かる。じゃあ、行くぞ」
カードを得て去ろうとしていた10人の前に、神山達が立ちはだかる。
怪訝な表情の相手を一瞥し、神山は言い放つ。
「御命頂戴する」
それを合図に、神山一行も相手も広く散らばった。
神山はアメイジングスポーツを最大限に出力し、縦横無尽に飛び回り相手を撹乱する。
そして適当な2人を見繕うと、その前に飛び降りる。
無言で向かってくる2人。
どうやら1人は炎を操るらしい、両の拳に炎を纏わせて迫ってくる。
切り落としてやる!
すぐさま刀剣無双を選択し、相手の腕を切り落とそうとする。
すると、降り下ろす途中の刀が下から跳ね上げられた。
反射的に見やると、もう1人の足。
この刀に斬れないとなれば、もう1人の能力は硬質化の類いだろう。
そう判断するや、ゲームをアサルトシューティングに切り替える。
間を置かず硬質化の生徒の首に手を掛け自分に引き寄せる。
そうした後に生徒を盾にするように構え、炎の生徒に向けてひたすらに銃撃する。
炎の生徒は身を低くしてやり過ごすと、カウンターパンチを喰らわそうと拳を繰り出す。
そこに、硬質化の生徒が抵抗の為に振り回した拳が炎の生徒にクリーンヒットする。
もんどりうって倒れた炎の生徒はぴくりとも動かない。意識を失ったようだ。
神山は容赦なく頭に一発撃ち込むと、カードを拾い上げつつ氷川に叫ぶ。
「氷川! こいつを頼む!」
「やってやるよ!」
こいつとはもちろん硬質化の生徒のことだ。
下手な物理攻撃は通用しない。弱点を探りつつ倒すしかないだろう。
神山は希の援護に向かう。
希は1人で3人を相手にしていた。善戦してはいるが、多勢に無勢といったところだ。
3人を一気に排除すべく、神山は「デンジャラスレーシング」を選択した。
相手の妨害、衝突、何でもありのレーシングゲームだ。
神山は自分の横に大型のバギーを召喚すると、すぐさま乗り込みアクセルを蒸かす。
暖機が終了した所で、目一杯アクセルペダルを踏み込んだ。
車はすぐに発進し、瞬く間に希の相手へと迫る。
希との戦いでかなり疲弊していたのだろう、相手が神山に気付くのは衝突の直前だった。
3つの衝撃があったかと思えば、3人は既に宙を舞っていた。
ボトボトと叩き落とされた蚊のように地面へ落下すると、3人はたちどころにカードへ変わる。
「ありがと、助かった!」
「あの時の借りは返したぞ。カードはお前が持ってろ」
照れ隠しで無愛想な返事になったが、まだ油断はできない。
なにしろまだ6人もいるのだ。油断すると足元をすくわれる。
希に新と伊原を守れと指示し、原田のもとへ向かう。
どうやら原田は既に1人仕留めているようだが、まだまだ動きは鋭い。
さすがはラグビー部エース。体力がある。
だが攻めあぐねているようで、原田が得意とする正面切っての戦闘では防御力が高い相手だ。
「神山さん、後ろから!」
伊原の声が神山の耳に届く。
相手は原田に集中しているので、不意討ちしろということだろう。
神山はスリリングイントルードで気配を消すと、
相手の後ろから近づき、ノックアウトファイターに変更。
後ろからのパンチで躊躇わず相手の頸椎をへし折った。
相手は鮮血が混じった赤い泡を吹くと、膝から崩れ落ちカードに変わる。
「神山君、まだいるぞ」
仲間を倒された相手の1人が激昂して飛び掛かってくる。
聞くに堪えない罵詈雑言を喚き散らしながら、手の甲から生えた鉤爪を無闇に振り回す。
何も狙っていないだけに、近づいて当たると危険だ。
「神山君! 俺を殴れ!」
一瞬何の事かと思ったが、すぐに理解した。
初対面の時を再現しようというのだ。
了解した神山は、パンチングファイターで全力を込めて原田を殴り飛ばした。
原田は仁王立ちで衝撃を吸収すると、おもむろに鉤爪の生徒に詰め寄り、衝撃の全てを込めたパンチを放った。
鉤爪の生徒は一瞬迎撃の構えを見せたが、原田の全力を受けて爪は砕け、顔面に見事に拳をねじ込まれ数メートルほど吹き飛んだ。
頭蓋骨が砕け散ったのか、どろりとした体液やら脳髄やら鮮血やらが混ざったものを垂らしつつカードへと変わった。
「ハアッ…ハアッ…俺の事はいい! 氷川君の所に行け!」
拳を打ち込んだ姿勢のまま神山へ指示を飛ばす原田。
「承ったぞ」
短く残し、神山は氷川の援護へ向かう。
仲間の中でも特に戦闘向きな氷川の能力。
既に1人葬り去り、もう1人ももはや瀕死。あとは神山から任された硬質化の生徒だ。
と、神山が駆けつけている途中に氷川が瀕死の生徒の腹部を氷で貫いた。
相手はカードへ変わるが、氷川は相当疲れ果てているようで、明らかに動きが鈍い。
だが肝心の硬質化の生徒が無傷で残っている。
「物理攻撃は通用しません! 内側から砕いてください!」
伊原がアナライズの結果からアドバイスをする。
自分の弱点を見抜かれ焦ったのだろう、硬質化の生徒は標的を伊原に設定し、走って距離を詰める。
「希!! 守れ!!」
もちろん希は新と共に伊原を守ろうとするが、攻撃が通用しない。
2人ははね除けられ、伊原は硬質化の生徒のボディーブローをもろに喰らってしまった。
「ッ…!!」
伊原の顔に苦悶の表情が浮かび、その口許からは赤い血が滴り始める。
恐らく内臓破裂だ。伊原は腹を押さえてその場に倒れた。
伊原の体が霧散し始める。
「クソッ、間に合え!!」
新が叫び、時間が巻き戻る。
マックスの10秒前。硬質化の生徒が走り出してからだ。
記憶を引き継いでいる全員が、対処法を心得ていた。
遠くにいる原田は間に合わない。だが念のため走らせる。
神山はアメイジングスポーツで伊原に近寄り、抱き抱え素早く退避する。
希と新は変わらず迎撃。
切り札は氷川だ。
「今だ! やれ!!」
神山が叫ぶ。
氷川はそれに応じるように、硬質化の生徒を「内側から」凍結した。
これで彼はただの氷の塊と化す。
そこに、希の熊手パンチと新の上段回し蹴りが直撃する。
放射状のヒビが見えたのも束の間、氷の破片が飛び散った。
破片はそれぞれで蒸発するように消え、塊が砕けた場所にカードが残った。
「終わったか…」
神山はほっと一息つき、座り込もうとしたが、ふと伊原を抱えたままだということに気がついた。
形振り構っていられなかったことから、期せずしてお姫様抱っこのような形になっている。
「おっと、こりゃすまねえな」
「あの……ありがとうございました……」
「礼なら俺以外に言え。お前のアシスト、中々良かったぞ」
神山は伊原の肩をぽんぽんと叩いてから仲間の方へ歩いて行く。
伊原は頬を微かに赤らめつつ、希のもとへ向かった。
仲間と先程の戦いのことを誉め称えつつ、神山は考える。
これなら、『武装』とも戦えるのではないか。
勝利の余韻も程ほどに、神山は頭を回していた。
あと、130枚。
- Re: Real-Game ( No.7 )
- 日時: 2017/11/15 16:53
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
10人を倒した分のカード、さらに彼らが持っていた5枚のカード…
一度の戦闘で収穫15枚。上出来じゃないか。
先程得たカードを順繰りに眺めつつ、神山はふと笑みを浮かべそうになる。
慌てて笑みを消す。これは人を殺して得たカード。自分が業を背負っていることを忘れてはいけない。
ここから出る為に。
「おい神山、考え事か?」
気付けば、氷川に顔を覗き込まれていた。
「いや、何も。心配させてすまないな」
「それにしても、一体誰がこんな戦いを考えたんだ? ふざけんじゃねえって話だ」
氷川はぶつぶつとゲームに対しての愚痴を話し始める。
「俺達を人殺しにして、何がしたいんだろうな。まさかこの様子見てほくそ笑んでるんじゃないだろうな」
「この異能力の正体も、黒幕も分からない。俺達にできるのは、勝ち抜いてここから出ることだ」
「まるで人殺しを正当化してるみたいだな、神山?」
その言葉に神山は動揺する。
俺が人殺しを正当化だと? そんなはずはない。
絶対に。絶対にだ。
「悪い悪い、冗談だ。俺も殺してるからな、お互い様だ」
「透君、あんまり悪ノリしないでよ?」
氷川に希が釘を刺す。
氷川も言い過ぎたようで、神山に小さく両手を合わせてくる。
それに応じつつ、神山は今後を考える。
『武装』の奴が大量に殺して回っている以上、どこかで当たることは避けられない。
話して分かる相手なら交渉するところだが…
なかなか難しいところだな。戦力的には何も問題ないのだが。
いや、非戦闘要員が1、2人いるのがネック…
そこでなんとなく伊原に視線を向ける。
伊原は神山の視線に気付くと、さっと顔を紅潮させて目を逸らしてしまった。
先程の戦いが終わってから、何故か少しだけ様子がおかしい。
まあ、気にしないことにする。
この極限状態だ。少しばかり気分が振るわない時もあるだろう。
神山が1人で納得していると、希が声をかけてくる。
「ねえ…あそこに、誰かいない?」
言われてみれば、前方数十メートルに人影が見えた。
人数は…1人。
まさか、『武装』か!?
だとしたら危険極まりない。
「皆、あの人影が見えるな? 俺1人で行く。お前たちは下がってろ」
「大丈夫か、神山君?」
同じく人影が『武装』である可能性に気付いたのだろう、原田が気を遣う。
「心配ない」
神山は原田も下がらせた。
自分を除く全員がついてこないことを確認すると、神山は人影の前に進み出る。
念のため刀剣無双を選択しようとすると、相手がスッと体の前に手をかざす。
「まあ、落ち着いて」
男だ。その手にはカードが3枚。
「僕は狭山和樹。君を占ってあげよう」
狭山の声はなぜだか不思議な拘束力があった。
体が動くことを拒否する。
「君はこの戦いにおいて、人を殺すことを楽しんでいる」
なっ。
そんなはずは…。
後ろの仲間が固唾を飲む気配が伝わってくる。
「君はこの戦いにおいて、カードを得てここから出ることを口実に、ただ人を殺している」
こいつ、何者だ…?
いや、俺はそんなことは考えていない。
絶対に。絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に…
「君は殺戮を楽しんでいるのさ」
狭山の「占い」は続く。
「君はヘビーゲーマーだろう。誰も自分についてこれない、退屈な日常に辟易していたはずだ。そこに飛び込んできた非日常。革命。嬉しかったよなあ、ワクワクしたよなあ!? 自分が強力な力を発揮し、敵を薙ぎ倒す。君にとって、こんなに楽しいことはないじゃないか!?」
「違う…」
「何も、否定しなくていいんだよ。事実なんだから。君はこの戦いの黒幕に感謝の念さえ覚えているはずだ」
狭山の精神攻撃に耐えられなくなった神山は、膝をついてうなだれる。
もはや何も考えることができない。体が動かない。
なけなしの戦意も、湧き上がるそばから吸い取られていくようだ。
「君はただの異常者だァ!!!」
「…それ以上言うな!!!」
原田が駆け寄ろうとする。が、
「おっと、部外者はお断りだ」
「ん、ぐっ…!?」
原田は操られるように足を動かし後退する。
その行動は彼の本意ではないようだ、その証拠に四肢は小刻みに震えている。
「これで気付いただろう。自分がどれだけ異常か。君には生きている価値などない。サイコパスが。いっそ死んだらどうだい?」
駄目だ、乗ってはいけない。
頭の片隅では分かっていても、もはや思考が乖離しており、まとまった考え方をすることができない。
精神と理性と体がばらばらに引き裂かれるような感覚。
「僕の能力は精神干渉。相手の記憶や深層心理を引き出し、また逆に精神に働きかける能力」
もはや狭山が何を言っているのか聞き取れない。
だが手だけは迷いなく伸び、刀剣無双をタッチする。
刀を掴んだ神山の手は、そこだけ別人のように、神山の胸に刃先をあてがう。
「正気を保て、神山君! やめろ!!」
「やめて、昂太!!」
「無駄だ。彼の精神はとっくに崩壊済み。君達の言葉など届かない」
「昂太! くそ、この足さえ動けば…!」
「全員、彼が自分の業を償う様を、指をくわえて見ているがいい!」
神山の手の震えは収まらないが、刃先だけはしっかり心臓の位置で固定されている。
力が入ってきた。制服のジャケットの繊維がいくつかほつれ始める。
これが死か。
「じゃあ神山君、さよなら」
「あ…ぐ…」
神山は呻くことしかできない。
もう駄目か…
「あっ…あなたに! 神山さんの何がわかるんですか!!!」
「ん?」
伊原が形振り構わず叫ぶ。狭山がそちらに気をとられ、神山の手の力が少し抜ける。
「まだっ、出会って間もないのに、こんな私を心配してくれて、足手まといの私を助けてくれて!!」
その目からは既に涙が溢れ出している。
「正気か君は? こんな男に価値など無い」
「あなたより、神山さんの方がよっぽど人間らしい!!」
「何?」
だんだんと狭山にも熱が入ってきた。それにつれて神山の思考も回復してくる。
伊原…
「人をいたぶって喜んでるあなたより、罪に苦しんでる神山さんの方が…神山さんの方が…うっ…」
「どいつもこいつも…仕方ない。君達の精神も引き剥がして殺してやっ!?」
狭山は呆然と自分の腹を見やる。
背後から刀が貫通していた。既に床には血の池が広がっている。
「なぜ動ける…なぜ…」
「サンキュー伊原。お前のお陰でこいつの拘束が緩まった。集中してないと拘束できないみたいだな」
「女ァ…!!」
狭山に鬼の形相で睨まれた伊原はびくっと震えてしゃがみこむ。
「だが君の心に傷は残せた…僕は…満足さ…」
途端に刀の手応えが無くなる。
実体が消えたせいだ。神山の足元には4枚のカード。
狭山の犠牲者は、俺のようなことをされて殺されたのだろうか。
仲間がいたから切り抜けられた。
「神山君…」
原田が口を開く。他の仲間も心配そうにこちらを見ている。
「あいつが精神干渉の能力だったなら、言ってたことは本当なんだと思う」
神山はあえてぶっきらぼうに返すと、反応を確かめもせず続ける。
「こんな異常者に付き合う必要は無い。去りたければ、去ってくれ」
刀の血を払いながら言う。仲間たち、特に伊原は悲しそうな顔をしている。
「…昂太。伊原も言ってたが、罪や自責の念に押し潰されそうになる方が、より人間らしいと俺達は思っている。あまり卑下するな」
新が全員の思いを代弁する。その言葉に全員が頷いた。
「ああ…そうなのか…ありがとう。ありがとう…」
新の肩に手をつき、深くうなだれる。
「それも神山らしさ、ってやつなんじゃないか?」
「生き残ることを放棄する理由にはならないでしょ?」
原田もうんうんと頷く。
そこに伊原が控えめに挟む。
「あっ…あの…神山さんは…すごくいい人…だと…思ってます。だから、その…生き残って欲しい…です」
「お前にはちゃんと礼を言いたいな。ありがとう、伊原。助かった」
「…!!」
かあっと顔を赤くして希の影に隠れてしまう。
俺は礼を言っただけなんだが…?
「さあ行こうぜ神山。うじうじしてる暇は無いぜ?」
心を新たに、神山は立ち上がる。
あと、126枚。
- Re: Real-Game ( No.8 )
- 日時: 2017/11/17 18:09
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「…そろそろ夜っぽいな」
窓の外を見ながら、氷川がふと呟く。
この戦いが始まったのが昼間から夕方にかけての時間。
思っているより時間が経ったようだ。
「確か、『脱出に期限は設けない』って言ってたよね? この中で何日も暮らすことも想定しなきゃダメかも…」
「暮らすと言ったら水と食料だが…そういや、腹が減ってないな」
仲間たちも気付いたようだ。疲れこそ感じるものの、全く空腹を覚えていない。
「能力の影響だろう。だが適当に睡眠をとらないと体に毒だぞ」
なるほど、原田にしては当たってそうな予想だ。
だが現在死活問題なのは睡眠。
原田の言う通り、睡眠をとらなければ集中力の低下を招き、戦闘に支障が出る可能性がある。
事実、伊原等はさっきからしきりに目を擦っている。
しかし、寝込みを襲われては元も子もない。
「見張りをたてるか。交代制で二人ずつ。1時間ごとに交代、って感じにするか」
神山の提案に全員が賛成する。
あまり長く眠っていては危険だ。情報が伝わり徒党を組んで襲い掛かられる可能性がある。
1人あたり2時間。仮眠程度にはなるか…
「それはいいとして、組み合わせはどうするんだ? 俺と伊原とかじゃ戦えないぞ」
新の言うことももっともである。どうするか…
「ええい面倒だ、能力の釣り合いがあればいいんだろう? 俺と氷川君、新と博多君、神山君と伊原君でいいじゃないか」
「ハッ、脳筋にしてはバランスいいじゃねえか。いいぜ、付き合ってやるよ」
脳筋は言い過ぎじゃないか?
まあいい。とにかく、寝るなら部屋が欲しい。
「部屋ね…出入り口が一つの方がいいよね」
「ああ。出入り口が二つで防衛力を分散させたくない」
「なら、生徒会室とかでどうだろう。近いしな」
決まりだ。
生徒会室に着くと、神山がそっと中をクリアリングする。
「よし、入れ」
中は若干埃っぽいが、この際気にしていられない。
神山と新は椅子を引っ張り出して、どっかりと座り込む。
「ベッドなんて贅沢なの無いもんね…」
希が軽く落胆しつつ伊原を伴って座る。
「原田、氷川、頼んだぞ」
「ああ、頼まれたぜ」
氷川の小気味良い返事と共に、ドアがぴしゃりと閉まる。
ふと寝息が聞こえるので目を向けると、伊原が既に寝付いている。
先程からかなり眠たそうにしていた。無理もないだろう、本人の性格もあって、ここまでの道のりは過酷だったはずだ。
俺も寝ないとな…
目を閉じて瞑想していると、次第に眠気がやってくる。
…気が付くと、新が顔を覗き込んでいた。
「起きたか。見張りの時間だ」
もうそんなに?
なるほど、これでは多少の物音では容易に気付けない。
見張りを立てて正解だった。
起こされた神山は立ち上がり、すやすやと寝息を立てている伊原を起こしに行く。
「おい伊原、起きろ」
「んぅ…あ…えと…あっ、神山さん…」
「見張りだ、行くぞ」
「はっ、はい…!」
ドアを開けると希。
「交代だね。よろしく」
希と入れ違いに外へ出ると、ドアをしっかりと閉め、壁にもたれて座り込む。
伊原もおずおずと隣に座る。
暫く無言が続く。
伊原は相変わらず目を合わせない。たまにこちらを見ている気配は感じるのだが、こちらから目をやるとすぐに下を向いてしまう。
だが、意を決したように伊原が話しかけてくる。
「話しても…いいですか?」
「…ああ」
「こうして2人だけで話すのは…初めてですよね」
若干熱を帯びたような話し方だ。
「神山さんの目って…すごく、辛そうですよ」
「そうか?」
「…はい。何だか、狭山さんの件を引きずってるみたいな…」
そこで失言に気付いたのだろう、伊原は慌てて謝罪する。
「すいません、その、そんなつもりじゃ」
「いい。続けてくれ」
伊原は一瞬意外そうな顔をしたあと、気を取り直して続ける。
「あの時はああいう風に言いましたけど…神山さんは、本当にいい人ですよ」
慈しむような声。
「私を、一生懸命助けてくれたじゃないですか。普通は…あんなことできませんよ」
伊原は1人語り続ける。
「本当に…感謝してるんです」
ふと伊原の目を見る。
今度は目が合った。
小柄故の上目遣い。その目は若干潤んでいるようにも見える。
きちんと見たことはなかった。
「…綺麗な目をしてるな」
思ったことがつい口をついて出る。
「え!? えっと、あ、えと…」
途端にしどろもどろになり始める伊原。
「…ありがとうございます」
恐らく、仲間たちの中で彼女が一番恐怖を感じているはずだ。
彼女は異能力や身体的能力、そして曖昧ながら弱点などが分かる。
勝ち目の無い戦いが分かるということだ。
手に入れた仲間を失うかもしれない。そんな恐怖に囚われているのではないだろうか。
そんなとき、伊原が神山の手を取ってきた。
やや驚いている神山に、伊原はまた陶酔したように語る。
「神山さんの手って、あったかいですね…」
神山の手を両手でしっかりと包みながら、伊原は続ける。
「私、怖いんです。自分のために、何かを失ってしまうのが、すごく怖いんです…」
伊原の独白を聞いて、ああ、やっぱりと思う。
俺にできることなら、支えてやりたい。
「あの、私…その…」
さっきとは口調が違う。照れているような語り方だ。
顔も、暗闇でも分かるほど赤みを増している。
「その…神山さんの…こっ、ことが…す…す…」
その時、神山の耳が物音を捉える。
「すまない、後で聞いてやる。…ったく、この期に及んでお出ましか」
「敵ですか…!?」
神山は答えない。
姿は見えないが、必ずいる。
どこだ。
「伊原、俺がやる。下がってろ」
「えっ、でも…」
「下がれ、危険だ」
伊原はそれを聞いて扉の前に立つ。
神山の手には既に刀。全方位に注意を向ける。
どこだ、どこにいる。
その時、神山の足元からぬっと手が現れる。
咄嗟に蹴り飛ばすと、少し離れたところから人が現れた。
「痛えなあ…まさか気付くとは」
御託を聞いている暇はない。神山は首をはねるべく走り出す。
「甘いぜ」
人物は溶けた。
いや、正確には同化した。何かに。
「神山さん…どうやら影に同化する能力みたいです」
なるほど。夜にはうってつけだな。
「対処法は?」
「えと…光を当てて、影を消したらいいと…思います…」
光?
懐中電灯など持ってはいないし、発光の能力も無い。
どうする?
神山が考えを巡らせていると、後ろから物音がする。
そこか。
刀を構えて振り向くと、伊原が拘束されている。
「こいつは一緒には切れねえよなあ…ヒヒヒ」
「下衆が…!!」
斬撃が無理なら刀で突くまでだ。
神山が走り寄ると、影の生徒は手を離し再び潜った。
神山が突き出した刀は伊原の頭すれすれを通過し壁に深々と刺さる。
伊原は既に目から涙を溢れさせている。
「おっと…すまないな、すまない…」
「うっ、ひっく…だ、大丈…夫…です…」
伊原の背中を軽くさすってから、神山は再び考える。
光…考えろ。
光か。何せここにはライトになるものがないからな…
ライト…ライト?
そうか。
「ありがとう伊原。もう少しだけ待ってくれ」
神山はデンジャラスレーシングを選択する。
小さめのゴーカートじみた車を召喚すると、すぐさまヘッドライトを点灯する。
そのままアクセルとブレーキを同時に踏み、ハンドルを切る。
車はその場でスピンし始める。
暗い小ホールが光に彩られる。
非常に幻想的な光景だが、影の生徒が現れるのを見逃してはいけない。
車を大体270度ほど回したところで、奇声とともに影の生徒が現れた。
ちょうどライトに照らされている。ビンゴだ。
神山は座席を蹴って飛び降りると、刀で相手の頸動脈を素早く切り裂いた。
骨もろとも切断する感触とともに、相手の首が宙に舞う。
首がちょうど浮遊の頂点に達するところで、体は蒸発しカードへと変わる。
カードを拾い上げ、懐にしまい込みながら伊原に歩み寄る。
「ありがとう。どうにも攻略の糸口が見えなかったんだが…伊原の手柄だな」
「わっ、私は、そんな…」
「で、何か言いかけてただろ。何だったんだ?」
その言葉を神山が口にすると、伊原はすぐさま顔を真っ赤にし、やや間を置いてから、
「その…あ…えと………『伊原』じゃなくて、その…『愛佳』って…呼んで欲しい…です…」
なんだ、そんなことか。
やけに照れているが、どうしたのだろうか?
「そういうことなら、遠慮なく呼ばせてもらうぞ、愛佳」
すると、伊原はいきなりぽろぽろと涙をこぼし始める。
「え、えっと、俺何か言った?」
「いっ…いえ…嬉しくて…」
そんなやり取りを、戦闘が終わってから目を覚ました希が、扉を隔てて微笑ましい思いで聞いていた。
あと、125枚。
- Re: Real-Game ( No.9 )
- 日時: 2017/11/18 13:57
- 名前: たろしゃん (ID: 1i8B7xBH)
マジで面白い