ダーク・ファンタジー小説
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- Real-Game
- 日時: 2017/11/18 16:05
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
こんにちは、オアシスという者です。
Web小説はいくつか経験がありますので、精進していきます。
※一部流血描写や殺/人描写等が入ります。
それでもいいという方はどうぞ。
※異能力モノです。作者の痛い上に稚拙な文章にどうぞお付き合いください。
(感想・アドバイス等、どんどんお寄せ頂ければ幸いです。また、質問に関しましては答えられる範囲でお答えします)
- Re: Real-Game ( No.15 )
- 日時: 2017/11/21 22:26
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「ふう…キリがないな」
「200体もいるんだ、しゃあねえだろ?」
兵士を倒して回っている神山達。
どうやら強くなっていく兵士達は他の者にとっても脅威のようで、いくつか共同戦線を張ることもある。
皆が兵士の殲滅に躍起になっている所で、闇討ちする手もあるのだが…
「非効率的だな。そんなことをしてるうちに兵士に殺されるぞ」
原田に一蹴される。
それもそうだ。まずは兵士の殲滅を目指すべきだろう。
だが兵士はもはや神山達やその他の強者と互角に戦うまでに成長している。
実際、兵士による犠牲者も増えているようだ。
「あっ、あれ?」
「どうした、愛佳」
戦闘中のデータを解析していた伊原が困惑の声をあげる。
「私の能力って、出会った相手には好きなように個体識別番号を振れるんですけど…さっきの兵士、前も戦ったような気がして…」
そんなまさか。
「つまり、昂太が危惧していた機械操作系がいるってことか?」
「それは分かりませんが…でも、この現象を説明するにはそれしかないですよね…」
「わざわざ俺達にけしかけてるのか、それともランダムに狙ってるのか…どちらにせよ、脅威だ。今のうちに消そう」
満場一致で合意。
後はどこにいるかだが…
「操るってことは、素体が必要でしょ? 兵士がたくさんいるところの付近とかにいるかもよ」
「希は相変わらず鋭いですね…どうしますか、神山さん?」
「まあ、そんなような箇所をしらみ潰しに当たるしかないな」
危険が伴うやり方だが、これしかないだろう。
そう決めて能力元を探し出す。
途中、いくらかハズレの群れに当たってしまい、戦ったことで疲労が溜まってきた。
そんな時に、怪しい影を見つけた。
前方数m先。物陰のこちらには気付いていない。
周囲に兵士を侍らせている。
兵士の残骸に手を添えると、機械的に兵士が立ち上がり、まるで従者のように恭しく付き従う。
こいつで間違い無さそうだ。
(俺が先手を取る)
仲間に身振り手振りで合図し、神山は刀を手に飛び出す。
目標はもちろん親玉の能力者。
元を落とせば、下も瓦解する。ゲームの鉄則だ。
足音をたてないようにして走りつつ、後ろから相手の脳天を狙って大上段に振りかぶる。
と、振り下ろすと同時に、付き従っていた兵士に素早く刀身を捕まれる。
くそっ。
兵士は刀身を掴んだまま無理に格闘しようとする。
機械故の過ちだが、今回は神山に不利に働いた。無理な力がかかったため、甲高い音をさせて刀身が中程からすっぱりと折れてしまう。
「折れた!?」
思わず声に出して驚愕する。
それでようやくこちらに気付いたかのように、兵士達の王がわざとらしく振り向く。
いや、王などではない。ネクロマンサーだ。
「やっぱり、僕を殺しに来るか。お前達、行け」
最後の言葉は兵士に向けての指示だ。
それを合図に、兵士が一斉に神山に群がる。
「新! 希! 原田! 氷川!」
神山も負けじと仲間達の名を呼ぶ。
打てば響くような良い返事が聞こえ、神山に群がる兵士を食い止める。
神山は折れた刀を捨てパンチングファイターに切り替える。
1体の首根っこを掴むと、胸部に3発の打撃を叩き込む。
内部部品が破損したのか、抵抗の構えをしたまま兵士は動かなくなる。
その兵士の体を他の兵士に向かって投げつけ、体勢を崩させる。
氷川は全方位に対応できるように、全身に神々しい氷の鎧を纏い戦っている。
その姿はさながら中世の騎士だ。
氷の盾で打撃を受け止め、これまた氷の槍で相手を刺し貫く。
組み付かれた時は鎧から氷の棘を生やし、相手を寄せ付けない。
一方希はというと、善戦してはいるものの苦しいようだ。
それもそのはず、兵士が腰のホルスターから武器を抜いている。
形状からして、銃剣のようだ。ハンドガンの銃床に小ぶりの刃が付いている。
兵士が素早く銃剣を振り抜くと、希の肩に血が滲む。
「痛ッ!」
一瞬苦悶の表情を浮かべた後、歯を食い縛り兵士の頭をもぐ。
殆どの繊維を引きちぎられ、数本の繊維で首がぶら下がったまま倒れ伏す。
原田は防御などせず攻撃を全て受け止め、兵士を一撃で的確に停止させる。
しかし倒しても倒しても能力者は新たな兵士を召喚し、倒れた兵士を蘇らせる。
神山は襲い来る兵士の群れを捌きつつ、1体だけ微妙に胸部アーマーが凹んだ個体を発見する。
先程神山が倒した兵士だ。
「くそっ!」
神山は毒づきつつ、その個体に全力のアッパーカットを喰らわす。
胸部が凹んだ次は顎部が砕けるが、それでも諦めず向かってくる。
他の奴らは…?
ふと希を見ると、膝をついて伊原に介抱されている。
至るところに血が滲んでいる。中にはそれに留まらず、血が流れている傷もあった。
攻撃を受けすぎたようだ。傷口を押さえつつ、肩で息をしている。
そんな希と、それを手当てする伊原を守るように新が戦う。
初期こそ戦闘能力が無い新だったが、最近は足技にキレが出てきた。
ローキックで相手の足をすくうと、体勢を崩した相手に、空中で独楽のように回転しつつ回し蹴りを喰らわす。
「やるな、新!」
「気を付けろ、昂太! まだ来るぞ!」
お互いに激励と注意を飛ばし、戦いに戻る。
もはや兵士の数は神山達の数倍だ。その中心にはあの能力者。
このままじゃ競り負ける。仕留めに行くか…。
群がる兵士を殴り飛ばし、振り払いつつ、神山は能力者に迫る。
神山は新しい刀を召喚し、相手の喉元に刃を突きつけようとするが、やはり兵士に邪魔される。
だがかなり近くまできた。隙を狙うしかない。
「名を聞こう!」
「僕は鳴戸遊助だ」
「書きづらそうな名前だな! 同情するぞ!」
「負け惜しみかい?」
言葉の応酬を繰り広げつつ、神山は兵士との大立ち回りを演じる。
機械故に、無駄が無い。隙が生まれない。
狙えない!
思い切って刀を隙間から突き入れるが、鳴戸に届く前に兵士に腕を掴まれる。
振りほどこうとするが、力が強く離れない。
そうこうしている内に、兵士に肩も掴まれる。
まずい。そう思った時にはもう遅く、肩に激痛が走っていた。
肩関節を外されたのだ。
手に力が入らず、刀を取り落とす。肩を押さえつつ後退すると、原田が駆け寄る。
「脱臼などラグビーは茶飯事だぞ! 任せろ!」
そう言うやいなや、原田は神山の外れた肩を掴み、無理やり元の関節に戻す。
これまた激痛が走り抜けるが、今度は肩が自由に動くようになる。
「ありがとう!」
「困った時はお互い様だ!」
だが状況はちっとも好転していない。
隣で長槍を操りながら氷川が話しかける。
「このままじゃジリ貧だ。その内全滅しちまう。…ひとつだけ、俺に考えがある」
「考え? …この状況を切り抜けられるなら、やってみろ」
「…ああ」
氷川の目を見ると、その目には悲壮な決意が満ちていた。
「氷川…まさか…」
「俺も丸くなったもんだなあ」
「おい…やめろ…」
「俺が囮になる。その隙にお前達は逃げろ」
「受け入れられるかそんなの!」
「このままじゃ全滅だぞ!?」
神山は押し黙る。
「そもそも俺がここまで生き残れたのも、奇跡みたいなもんだ。誰かの為に自分を犠牲にたぁ、初めてだぜ」
氷川は1人語り続ける。
「俺がお前を群れから弾き飛ばす。そしたら皆を連れて逃げるんだ」
「…クソッ!」
「…ここは俺に任せろ」
その言葉を最後に、氷川は全力で神山を兵士の群れから弾き飛ばす。
他の者は氷で弾き飛ばされたようだ。
「氷川ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「行けぇぇぇぇ、お前らぁぁぁぁ!!!」
他の者も恐らく察したのだろう、一瞬の迷いと躊躇の後に走り出す。
神山も胸中で毒づきつつ走り出す。
「うぉぉぉぉぉッッ!!!」
氷川の声が追いかける。
その後、音が聞こえてこなくなった。
そんな、まさか。
氷川。
神山はくるりと引き返す。
移動したのは短い距離のはずだが、氷川のもとへたどり着くのにとてつもない時間がかかったように思えた。
「氷川!!」
叫ぶと同時に目に入ったのは、兵士の群がった山。
その中から伸びている極めて長い鋭利な氷の槍。
それに腹を貫かれている鳴戸。
「か、か…」
鳴戸はそこら中に鮮血を撒き散らしつつ倒れると、吹き込む微風に体をさらわれカードへ変わる。
それと同時に、兵士の山も崩壊する。
中から現れたのは、槍を構えたまま全身から血を迸らせている氷川。
「大丈夫か!!」
すぐさま神山が駆け寄る。他の者も一緒だ。
伊原も隣で氷川の様子を伺うと、
「出血が多すぎます…これでは…」
と涙混じりに訴える。
どうやら銃剣で滅多刺しにされたようだ。致命傷は避けているが、受けた傷が多すぎた。
「神山…か…」
氷川はもはや焦点の合っていない目で神山を見つめる。
肺からの血が混じった咳をすると、震える手で神山の肩を掴む。
「生き延びろ…神山…絶対にだ…!!」
それを言い終えると、役目を終えたとでも言うかのように氷川の手から力が抜ける。
かと思えば、氷川の体は散り散りになりカードへと変わった。
「おい…氷川…嘘だよな…おい…冗談だよな…はは、ははははははは…」
寂しい笑いを浮かべつつ周りを見渡すと、唖然として氷川の残したカードを見ている。
伊原などはもう目の辺りを拭っているが、隠し切れない涙が頬を伝う。
それでようやく認識した。
仲間を失ったのだ。
もう、帰ってこない。
「氷川ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
神山の虚しい叫びがこだました。
あと、126枚…。
- Re: Real-Game ( No.16 )
- 日時: 2017/11/23 19:55
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
無力だなあ、お前は。
やめろ。
人1人救えないなんて、弱いんじゃないのか?
違う。やめろ。
力が欲しくないのか?
……
大切なものを失わずに済む、強い力が。
…欲しい。
力には…代償が伴う…
地獄の底まで…悪魔と寄り添えるかな…?
「…!」
ふと我に返る。
手には氷川の遺したカード。
腕には、氷川を抱き起こした感覚がまだ残っている。
誰もが茫然自失としている。
まるでそこだけ時間が止まってしまったかのように。
「氷…川…」
神山がぼそりと呟く。
どこで間違ったのか。
何が駄目だったのか。
考えても、答えはいつまでも出ない。
ただ一つ、仲間を失ったという残酷な事実だけがその場にはあった。
守れなかった。
氷川は自分達を命がけで守ったというのに。
「昂太…いつまでもいると危険だ。一旦離れよう」
「……ああ」
やや間を置いてから、神山は同意する。
氷川は全滅を恐れていた。ここで襲われることは、彼の望みを断つことに繋がる。
まだ冷静な判断ができる自分の頭を恨みつつ、一行は生徒会室まで後退した。
泣きじゃくる伊原の背中を希がゆっくりとさする。そんな希の唇も、微かに震えているように見える。
原田は腕を組んで下を向いたまま動かない。
新は顔を覆って天井を見つめている。
神山はもう何も考えられない。
黙りこくる仲間を尻目に神山は1人退室した。
誰も追ってはこなかった。
「くそっ!!」
思い切り壁を殴り付ける。
力さえあれば、氷川を死なせることはなかったかもしれない。
俺が弱かったからなのか…?
「悩んでいるね」
ふと男の声がして、伏せていた顔を上げる。
見たことのある顔だ。
「狭山…!?」
「久しぶりだね。可哀想に、1人殺されたな」
身構える神山を、狭山は落ち着いて制止する。
「まあまあ、僕は戦わないからさ。僕はね」
そう言われたものの、神山の体には早くも戦意がみなぎっている。
そんな神山に溜め息をつきつつ、狭山は話を続ける。
「だけど僕もね…君を倒せないと立場が危ういんだ」
立場? 何の事だ?
神山はそう聞こうとするが、狭山に機先を制されてしまう。
「君が力に飢えてる弱者である内に…死んでもらうよ」
狭山が話を終えた途端に、神山をとてつもない痛みが襲う。
体内に手を入れられて、心臓を握り潰される感覚。
失神しそうな自分を叱咤しつつ目を開けると、そこには自分がいた。
全く同じ顔。全く同じ服装。
幻覚を疑う神山に、狭山は嘲るように投げ掛ける。
「君だけじゃない。僕の能力も、日々進化する…こいつは君の中の闇をちょっと引きずり出してやったのさ」
そして死刑を宣告する。
「あいつの為にも死んでもらう。さあ、やれ」
神山の影はしっかりとしない足取りで迫ってくる。
その死んだ魚のような虚ろな視線に睨まれ、神山の背中に戦慄が走る。
その手にはいつの間にか刀が握られている。
「力量は君と全く同じ。勝てるかな」
影は情け容赦無く刀を振り下ろす。
神山は横っ飛びにかわすと、応戦すべく自らも刀を取る。
柄の感触を確かめつつ、影に向かっていく。
充分に間合いを詰め、袈裟懸けに振り抜いた。
が、その刃はいとも容易く弾かれる。
「心を読めば分かる。今の君には気合いが無い。…あーあ、そんなんじゃ君の仲間、殺しちゃおっかな」
「…何を!」
神山は激昂し、体勢を立て直すと再び大上段に振りかぶり、脳天をめがけて振り下ろす。
しかし影はその斬撃をスウェーでかわし、体を戻す反動を利用して縦斬りを放つ。
動揺で僅かに反応が遅れ、肩口に刃先を受けてしまう。
「…ッ!」
床に血の滴が滴り紅い花を咲かせる。
「昂太!!」
そこに事態を察知した新達が駆けつける。
「いやー…君の仲間ってホント面倒だよね」
狭山はそう言い放つと、走り寄る新達の足を固定する。
「何っ、くそ…あっ、お前は狭山…!!」
「えっ!?」
各々が驚愕の表情を見せる。
「バカな、あの時確かに神山君が…」
「ああ、あれ偽者だよ」
狭山がさらりと驚きの事実を口にする。
「仲間にそういう奴がいてね」
狭山が話をしている間にも、神山は影と斬撃の応酬を続ける。
「神山くぅん、もう仲間の所に行っていいんじゃない?」
狭山が茶々を入れる。
神山はいつものような集中力を発揮できていない。
既に幾つか斬撃を受けてしまっている。
まだだ…負けるわけには…
額から流れた血が目に入る。反射的に目を拭った瞬間、影に飛びかかられる。
しまった。
そう思った時には手遅れだった。下に組み敷かれ、全力で首を絞められる。
「昂太!!」
新の声が聞こえる。
視界が白いもやに覆われ霞んで来る。
数秒後、神山の視界は完全に閉ざされた。
…気づくと、見知らぬ場所にいた。
一面真っ白な花が咲く花畑。
空は無い。真っ白な空間に覆われている。
「ここは…」
「ったぁく、何やってんだか…」
振り向くと、そこに氷川がいた。
「あんまり引きずるんじゃねえよ。俺何か悪いことしたみたいだろ」
氷川の周りの花はそれだけ紅く染まっている。
「お前は、まだやることがあるだろ。ほら、見てみろ」
そう言われて振り返ると、そこには仲間がいた。
「昂太」
「昂太」
「神山君」
「神山さん」
そして、
「神山」
氷川は優しげな笑みを浮かべている。
始めて見る表情だ。
「お前にはまだ仲間がいるだろ。お前は悲劇の主人公じゃねえ。負けんじゃねえぞ」
氷川はそう言うと背を向け歩き始める。
「おい…どこ行くんだよ…」
神山は咄嗟に手を伸ばす。
「さあ、これで俺のやれることは終わりだ。後は自分で何とかしやがれ、神山」
そう言って氷川は消失した。
その代わりに、神山の影が現れる。
先程まで戦っていた、自分の影がいた。
影はぼそりと呟く。
「力には…代償が伴う…お前は…受け入れるか…?」
神山は影をしっかりと見据えて返す。
「もう誰かを失いたくない。その為なら、この命、喜んで捧げてやる」
「いいだろう…契約成立だ」
影も消失する。
その瞬間、足元の全ての花が真っ赤に染まる。
血の紅だ。
「さあ…行くぞ」
そして花は燃え上がる。
次の瞬間、現実に引き戻される。
状況は変わっていない。
神山は自分の首を絞めている手を掴むと、逆に捻り上げ首を脱出させる。
あの世界にいたのは一瞬のようだ。
だが確実に神山は変わっている。
その証拠に、立ち上がって見た眼前のゲームディスプレイの中には、新しいゲームが入っている。
「デビルクライシス…」
思わず呟く。
全てを失った男が「自分」を貫く為に戦うゲーム。
神山は迷わずタッチする。
すぐに、両手に双剣が召喚される。
やけに体も軽い。今なら何でも出来そうだ。
不気味な煌めきを放つ双剣の刃を打ち付けると、神山は一瞬で影との距離を詰める。
そして双剣を同時に突き入れる。
一方は弾かれるが、もう一方は影に深々と突き刺さる。
腕を掴まれる前に剣を引き抜くと、両腕を広げ独楽のように回転し斬り払う。
その斬撃で、影は片方の腕を落とされる。
「これで終わりだ」
神山は後ろに回り込むと、左右の双剣を別々に舞わせ影を斬りつける。
そして斬撃の締めに、2本を首筋に突き入れ、背骨に沿って一気に斬り下ろした。
「すごい…身体能力が大幅に上がってます…!」
伊原が感嘆の声を漏らす。
影が完全に倒され消え去るのを見ると、神山は狭山へ視線を移す。
「ちっ、これじゃ興醒め…」
神山はそう言う狭山に構わず距離を詰め、容赦無く腹に双剣を突き入れようとする。
直前で狭山が避けようとする。そのため、傷は脇腹の肉を多少抉るに留まった。
「くそっ、あの人に何て報告すれば…」
狭山は脇腹を押さえそう毒づくと、一目散に駆けて行った。
神山は深追いせず能力を解除する。
狭山の能力が及ばなくなった仲間も駆け寄ってくる。
「神山君…あの力は一体…」
原田が驚愕しつつも賞賛してくる。
だが伊原は不安そうな表情を浮かべて投げ掛ける。
「でも神山さん…その能力って…」
「ああ…代償だろ?」
伊原は依然として不安そうにしたままこくりと頷く。
「こいつの代償…『命を削る』代償だ。愛佳は分かってたんだろ?」
仲間が、正確には神山と伊原を除いた全員が驚愕する。
「電撃とは違う、突発的な発作じゃなく…継続的に体を蝕む力だ」
「その力は危険です…できる限り、使わないで下さい…」
「そうだ。いつ、どこで昂太の体にリミットが来るか分からない。だから…」
「分かってる。ただ申し訳ないが、これは俺の能力で、これは俺の体だ。我儘ですまないが、使うときは使わせて欲しい」
全員が黙り込む。
「大丈夫だ。必ず生き延びてみせる。あいつのためにも」
新が無言で背中を叩いてくる。
「…そうだな」
それだけ言って、新は後は何も言わなかった。
神山は自分の体で、何かが目覚めるのを感じていた。
- Re: Real-Game ( No.17 )
- 日時: 2017/11/28 19:15
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「ハアッ…ハアッ…」
くそ、何でこんなことに。
神山があんな力に目覚めるとは予想外だ。
男、狭山和樹は血が滴る脇腹を押さえつつ廊下を駆けていた。
何と報告すればいいんだ…。
そう一人問答している内に、狭山の本拠地へたどり着く。
怪我のせいでやや乱暴に扉をノックする。
トトントン、トントンと独特のリズムで叩く。
これが合図だ。即座に扉が横に滑り中への道が開かれる。
「あっ、狭山じゃないか! おい、手当てができる者を呼べ!」
入ってきた狭山を見た仲間が叫ぶ。
狭山の周りに人が集まってくる。狭山は椅子に座らされ、脇腹の手当てを受ける。
包帯も巻き終え一通りの処置が済むと、狭山の前に中肉中背の男が進み出る。
「首尾はどうだった。神山とやらは始末できたか」
「いえ、それが…」
狭山が弁明しようとすると、
「役立たずが!!」
と男が言い放ち狭山の胸ぐらを掴む。
「お前には期待していた。あの鬱陶しい虫を始末できると思ったからな。だが何だこのザマは。殺されたいのか!?」
「黒田さん、怪我人ですよ!」
周りの人間が止めに入る。
黒田と呼ばれた男は、軽く舌打ちすると狭山を解放する。
そして、息を整えた狭山からの報告を聞く。
「新しい力か…厄介だな」
「早急に消した方が宜しいかと…」
「それもそうだが、狭山、お前の処遇だが」
「はっ、はい!」
「周りの奴らに聞いてみよう、どうだお前ら?」
周りからは狭山にもう一度チャンスを、という声が大半を占めた。
「なるほどな…だが狭山、今のお前じゃ神山に勝てない」
「でっ、ではどうすれば…」
「俺の力をやる」
黒田はそう言い放つと、身体中から黒い水晶のようなものを生やす。
「黒田さん、まさか『黒死無爪』を?」
黒田の側近らしき者が問いかける。
「ああそうだ…狭山、動くなよ」
そう言うと黒田は両手で狭山をがっちりとホールドすると、背中の棘を曲げて軽く狭山に突き刺す。
「うっ、がぁぁぁぁ…」
呻き声を上げる狭山を尻目に、黒田は棘を抜く。
「これでお前も、俺の能力が使える。これで神山を始末してこい」
「こっ、これは…」
「俺の能力『黒死無爪』だ。至る所から殺傷能力の高い黒い棘を生やす事ができるし、俺程になれば身体中に纏って鎧にすることもできる」
「ありがとうございます! 仰せの通りに!」
黒田の話を聞き終えた狭山は、喜び勇んで拠点を飛び出す。
しばらくして、側近が黒田に問いかける。
「いいんですか? 黒死無爪は他人に使わせると直に能力に取り込まれ異形となる…あなたはそう言っていました」
「ああいいんだ。どうせあいつはもう期待できない。事後処理も面倒だ」
黒田は二度と帰ってくることのない狭山を思い、不気味な笑みを浮かべた。
「またお前か」
「神山…今度こそ殺ってやる! この新しい力で!!」
「何度向かってこようが、倒すだけだ」
神山は刀を構えじっと狭山の目を見据えた。
- Re: Real-Game ( No.18 )
- 日時: 2017/12/01 19:02
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
神山は宙を舞っていた。
…何?
状況を把握した頃には、神山は床に強かに打ち付けられる。
衝撃で一瞬息が詰まる。
…そうだ。狭山がとんぼ返りしてきて、それで…
どうやら一瞬の意識喪失があったようだ。記憶が混濁している。
見ると、正面には禍々しい姿の狭山。
全身に黒い棘を生やし、数本に血がべっとりと付着している。
おそらく神山の血だろう。
狭山の目は大きく見開かれ、その瞳孔は血走ったような色をしている。
「ハハハハハ…ざまあねえな、神山!」
狭山の挑発に立ち上がろうとする神山だが、凄まじい痛みに倒れ伏す。
既にそばには血溜まりができている。神山の脇腹も赤く染まっている。
切られたような、貫かれたような、複雑な痛みが襲い来る。
「痛いだろう? 動くこともままならないはずだ」
「よくも!」
原田と希が共同で狭山に立ち向かう。
標的とされた狭山は棘を飛ばすなり伸ばすなりして攻撃を行う。
原田は吸収しつつ、希は防ぎ捌きつつ狭山に接近する。
しかし希の攻撃が届く直前で、希は棘に弾き飛ばされる。
「あぁっ!」
そのままの勢いで壁に激突する。
神山が見た限り鳩尾に強打を受けたようだ。更に背骨も打ち付けている。
ぐったりして動かない。しばらく戦えないだろう。
そして狭山が希に気を取られている隙に、原田が吸収した衝撃を拳から全力で放出する。
狭山は素早い反応で棘でガードする。
しかし原田はそのまま砕くつもりで拳を放つ。
だが、原田の拳は黒い棘にわずかにヒビを入れるに留まった。
「何ィ!?」
動揺した原田は狭山に組み付かれると首を絞められ意識を失った。
脱力した原田を乱暴に投げ捨てると、狭山はゆっくりと神山に歩み寄ってくる。
先程から意識が途切れがちになっている。自分を介抱する伊原にも気づいていない。
新が神山を守ろうと飛び掛かるが、あっさりと狭山に払い除けられる。
叩き落とされ苦悶の表情を浮かべる新を見て、神山は刀を杖代わりにして立ち上がる。
腹筋に力を入れたため、脇腹からボタボタと鮮血が滴り落ちる。
「次は…俺が相手だ」
「来たよ本命…雪辱を晴らす時だ」
狭山は恍惚とした表情を浮かべると、やたらめったら棘を振り回してくる。
神山は残り少ない体力を消耗しないよう必要最小限の動きで避ける。
避け切れない攻撃は刀で捌く。
しかし脇腹の傷が想像以上に深いようだ。
刀がいつもより重く感じる。素早く動くこともできず、ほぼ摺り足移動のようになっている。
意識が朦朧とする。さらに体がふらついてくる。
貧血だ。血を失い過ぎたのだろう。
耐えかねて足を止めてしまった所に、狭山の攻撃が飛んでくる。
終わったか…。
と、
「危ない!!」
の声と同時に突き飛ばされる。
突然の事に反応できず、勢いで倒れ込んでから理解する。
誰かが身代わりになったのだ。
誰が!?
「かっ、く…」
伊原だ。
神山と同じく脇腹に攻撃を受けたようだ。
幸い内臓は逸れているし、傷も浅いようだ。
しかし戦闘や痛みに慣れない彼女は思わず倒れ込む。
「愛佳!!」
「あっ、か、神山さん…」
「すまない、俺のせいで…」
「そんなこと…ないです…無事なら…良かった」
伊原は痛みに顔を歪ませると、恐怖に震える手で神山の手を取ってくる。
「ちっ、雑魚が。仕留め損なったじゃねえか」
狭山は吐き捨てると、巨大な棘で伊原もろとも神山を貫こうとする。
しかし神山はそれを片手で押さえた。
「何?」
狭山が初めて動揺の表情を見せる。
しかし神山はそれに構わず手に力を入れる。
棘は呆気なく砕け散った。
思わず後退りする狭山を尻目に、神山は立ち上がり双剣を召喚する。
「神山…さん…」
神山は伊原の手を安心させるように握り返すと、目にも止まらぬ早さで狭山との距離を詰める。
狭山が闇雲に棘を繰り出すが、神山はそれを避けつつ余裕があれば切り落としていく。
通常の攻撃では歯が立たなかったが、デビルクライシスの力であれば切れるようだ。
先程より意識も鮮明になり、むしろさらに鋭くなっている。
体は芯から冷えきり、反対にその目は怒りに燃えている。
神山は双剣を操る速度をさらに加速する。
身体中の棘は瞬く間に切り離され、狭山の体は切り傷で埋め尽くされていく。
狭山が苦し紛れの抵抗に出ようとするが、神山はその頭を左手で掴み、構わず電撃を発動する。
「ああああああああ!!!」
狭山は苦しみの叫びを上げると、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
まだ死なないのか…しぶとい奴だ。
神山がとどめを刺そうとすると、またもや狭山の全身から棘が生えてくる。
しかし狭山は意識を失っている。棘はそれ自体がまるで意思を持つかのように、狭山の体を取り込み、肥大化し、異形へと変貌する。
形容するならば、怪物。
人間より一回り大きい、人狼のような姿。
神山が戦闘を継続しようとしたところで、電撃の反動が襲う。
動悸が激しくなり、肺が充分な仕事をしない。
頭を金槌で殴られるような痛みが響き、苦しみから演技ではなく喉をかきむしる。
四肢の震えも止まらない。
「神山っ…さん…!」
伊原の苦しげな声もどこか遠く聞こえる。
神山は異形の前で、悶絶し続けるのだった。
- Re: Real-Game ( No.19 )
- 日時: 2017/12/06 21:59
- 名前: オアシス (ID: x40/.lqv)
「あっ…が…」
吸えない酸素を求め、神山は呼吸を繰り返す。
しかし電撃の反動で、肺が充分に膨らまない。
息苦しさに悶え続ける神山の前には、狭山「だった」異形。
2m半を超す巨体。頭部に覗く牙、鋭く伸びる爪。
モンスターとしか形容できないその姿に、神山は思わず戦慄する。
「神山っ…さん…!!」
傷の痛みに耐えつつ、伊原が這いずって神山に近付こうとする。
脇腹から少量ではあるが出血している為、自然と床に赤い血の帯を描く。
しかし剣を取ることもままならない神山は、抵抗することも出来ず、目の前の異形に捕らえられた。
巨大な黒い手に掴まれ、あっという間に持ち上げられた。
と思えば、風を感じた後、フルスイングで思い切り壁に叩き付けられた。
一瞬視界が白い閃光に埋め尽くされ、すぐに赤く染まる。
激烈な痛みが襲い来るが、頭を抱えることすらできない。
口に違和感を感じ、吐き出すと血にまみれた小さな固いものが落ちてきた。
恐らく折れた歯だろう。口の中もズタズタになっているに違いない。
顎から自然に赤いものが滴ってゆく。両方の鼻腔から出血しているようだ。
強大な衝撃を受け、神山は異形の拳の中でがっくりと頭を垂れている。
それから何回攻撃されただろうか。壁に投げ付けられ、床に叩き付けられ、これでもかというほど攻撃された。
もはや意識を保っているのが奇跡のような状態で、神山は飽きられたかのように投げ捨てられる。
しかし本当に相手が飽きた訳ではないだろう。攻撃様式を変えるのだ。
異形は爪をちらつかせると、おもむろに横たわっている神山を切りつけた。
大気が切り裂かれる音を聞いた後、痛みが襲ってくる。
腹を切りつけられたようだ。
これ幸い、主要な臓器は損傷していないようだが、割合深く切られている。
あまりの痛みに、一周回って痛覚が麻痺してくる。
「神山さん…すぐに手当てしないと…!!」
神山に近付いた伊原が、神山の処置をしようとする。
しかし環境が悪い上に彼女自身も決して浅くはない傷を負っている。
実際、彼女の額には嫌な玉汗が浮かんでいる。
新や、原田も希もすぐには動けない状態だ。
万事休す。すでにブラックアウト寸前の意識で、神山が思い浮かべたのはそれだけ。
しかし、とどめを刺そうとする異形の動きが不意に停止する。
戸惑うような挙動を見せた後、突然脚部が爆発した。
「これまたひでえな。まさかもう一回貸しを作るたあよ」
聞き覚えのある声だ。
そうだ、『武装』。
なぜ、ここに…。
そんな神山の疑問は、武装の鮮やかな戦闘によって吹き飛ぶ。
闇雲に繰り出された異形の拳を大袈裟なモーションで避けると、腕にしがみつき胴体へと登り始める。
猿の木登りのように首筋まで辿り着くと、ドスのようなものを召喚し棘のわずかな隙間に差し込む。
そして隙間を広げると、一方の手に手榴弾を召喚し、口でくわえ安全ピンを抜くと、隙間の中に放り背中を蹴って離脱する。
次の瞬間、異形の中から光が漏れ出て、異形は爆発四散した。
棘の破片が周囲に散らばり、中からは一枚カードが出てくる。
やはり狭山は既に中で死んでいたようだ。
「助けた礼ってことで、こいつは貰っておくぜ」
抜け目なく武装はカードを拾い上げる。
そして神山たちに近寄ると、
「こいつは…ひでえ傷だ。さっさと手当てしねえとこいつ死ぬぞ」
神山を一瞥してから所見を述べた。
「そんな…神山さん!」
「おい女、お前の怪我はこいつに比べりゃ大したこと無い。運ぶの手伝え」
「はっ、はい…!」
脇腹を押さえて血を垂らしながら伊原が立ち上がって他の者を介抱し起こす。
「俺達に…どうして…そこまで…する」
神山が息を切らして問い掛ける。
「お前は俺が倒すからだ」
「どういう…」
「喋るな、傷が悪化する」
短い言葉だがその剣幕に神山は押し黙る。
正確には喋る気力が尽きてしまったというのが正しい。
「よし、運ぶぞ」
どこかへ運ばれていく気配を感じながら、神山はゆっくりと意識を失った。