ダーク・ファンタジー小説

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半死半生の冒険記
日時: 2020/04/11 10:06
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12739

初めまして。
最近まで読み専だったんですが、
ちょっと書いてみたいなと思い、書くことにしました

目次は、ある程度コメントが増えたら作ろうかと思ってます
文章力はあんまり自信がありませんが、読んでくれたら嬉しいです。

たま〜に、コメントの最初の部分に作者の呟きがあることがあります
コメントや感想は全然書き込んでくれても構わないです!是非!
見返した時に誤字脱字などがあった時はすぐに修正しますので、気にせずにお読みください……

※残酷な表現を使う場合がありますので、苦手な方はご注意ください

1コメに登場人物を書いてありますので、「コイツ誰だっけ……」ってなったら読んでください

目次
人物紹介 >>1 イッキ見用>>0-

プロローグ >>2-4 屋敷編>>5-7 ローナとの出会い >>8-10
悪魔との契約 >>11-12 冒険者の街 >>13-15 冒険者ギルドとクエスト >>16-18
アロマラット >>19-21 魔術師シーナ >>22-23 盗まれた魔法剣 >>24-26
パーティ結成(二人 >>27 閑話 >>28-29 バルク山 >>30-31

Re: 半死半生の冒険記 ( No.8 )
日時: 2020/03/26 09:56
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第2話「ローナとの出会い」




熱が奪われていく感覚が消える。冷めた温もりが、暖かくなっていく。
久しく感じていない、自分の体温が、感じられる

失っていた、この感覚に泣きそうになる
ずっと浸かっていたい。これが夢なら、全力で寝続けてやる


しかし、それは外部からの刺激によって中断される
頬に何かを押し付けられているようだ。


「………ぁ」

目を開いて、最初に視界に入ったのは魔力を使って火を付けたランタン。眩しかったので目をもう一回閉じる。
ゆっくりと体を起こして周りを見渡す。
机や本棚、よくわからない瓶が置いてある棚に、衣装をギュウギュウに詰め込まれたクローゼット
壁は木の繊維が模様となっており、部屋の奥からいい匂いがする



「あ、起きた?」

青い刺繍が入った黒いとんがり帽子、同じく青い刺繍の入った黒いローブは、肩から足のつま先まで繋がっており、随分と長い
黒い衣装とは対照的な、穢れのない肩まで伸ばした白銀の髪、碧眼と、人形のように整った顔立ちをしていた。
随分若く見えるが、身長からして大人の女性に見える。
僕に声をかけてきた女性は、しゃがんで手に持っていた杖で僕をつついてたみたいだ。……ちょっと失礼過ぎるのでは。
彼女はそのまま立ち上がり、机の引き出しから何かを探し始めた

「………あの、ここは───「おーっと、その前にこれを飲みなさい」

謎の女性は、どこからか取り出した青色の丸いフラスコの瓶を投げてきた
咄嗟に受け取って瓶を眺めてみるが、……怪しい臭いしかしない

「え、いや、その」
「一時的なものだけど、それ飲まないと明日には死ぬよ。後、いくつか質問もさせてもらいます」

「──え」

「衰弱しきった体で無理な魔力行使なんてするから、穴、広がっているよ」
「……あ、穴ってなんですか」

「心当たりあるでしょ」
心の中まで透かされたような瞳で見つめられ、思わず俯く。……穴というのは、魔血病で発生した魔力が漏れる穴のことだろう
だが、その穴は非常に小さなもので、この彼女はその穴が広がっていると言った。──それは、見えているということなのだろうか。
にわかに信じられないが、嘘をついている様子はない

「いーから飲みなさい。はーやーく」
「………」

ええい、ままよ!
そこまで量はなかったので一気飲みしたが、口の中に入った瞬間に広がる味わったことのない強烈な苦味に吐きそうになる
急いで口を押さえ、何とか飲み込む。それを見ていた彼女は呆気にとられていたが、何故か拍手をして

「おお、豪快。私なら吐いてる自信しかないよ」

ならそんな物を飲まさないでくれ………、と思ったがいちいちツッコんでいれば話は進まないので飲み込むとする
まだ口に残る苦味に耐えながら、どうにか顔を保つ

「体のほうは……足が折れてたね。後で包帯もってくるから待ってて。具合はどう?」
「あ、はい。大丈夫です」

倒れそうなのに変わりはないが、ここに来る前よりずっと良くなった
椅子の上でだらけている彼女のほうを向いて、できるだけ真剣な表情を作って話す。

「さっき、この薬のこと、一時的なものって言ってましたよね。つまり、もう少し時間が経てば僕は死ぬ、ということですか」

ここがどこで、あなたは誰なのかも気になるが、彼女がさらっと言った言葉を逃さなかった
窓の外は暗く、ランタンの明かりが反射してるのでよく見えない
彼女は、しばらく考え込んだ後、指をこちらに向けて説明してきた

「うんうん。人の話をよく聞いているね。えとね、君が今かかっている魔血病は確かに『漏れ』が止まっている」

彼女が言った言葉に反応するが、黙ってきく

「けど、穴は塞がってないし、むしろ広がった。だから魔力が少し回復した明日にはその大きな穴からどんどんと魔力が漏れて、今みたいに弱りきった体じゃ、明日か明後日が限界ってこと」

「私が渡した薬は、魔力の流れ一時的に止める薬。あれ一本しか作ってないし、薬の効果が切れたら再び漏れは続くから死ぬ、ってこと」
「あの、」
「むしろ、そんな体でよく頑張ったねって思うよ。生きたいっていう相当強い意志を感じたもん」
「あのー」
「ん?何?」

流れるように説明をした魔血病については後でじっくり考えるとして、
さっきから台所でぐつぐつと音を立てて鍋の蓋を揺らしているのが気になって仕方がない

「火、大丈夫ですか」
「ひ?………て、あああぁぁぁ!!?」


髪の毛をいじってた手が止まり、顔が一瞬固まった後、
彼女は慌てて飛ぶように台所に走って魔力コンロの火を止めた




鍋の中身はギリギリセーフだったが、彼女の手は何も考えずに急いで触ってしまったので焼けどを負って泣いた
テーブルで向かい合わせに座り、
二人分の可愛いウサギのおわんが並べられ、それぞれにスープが入れられる
二人分?と思ったが、すぐに僕の分も入れてくれてると気づき、慌てて手を振る

「あ、いや、悪いです……」

「ただでさえ細いんだから、しっかり食べなさい。」
「そうじゃなくて、夜ご飯、食べました」
「嘘。全然お腹すいる人の体形だよ」

……いや、元々病気のせいで食えないんじゃい!
その後、何回か否定したが押し切られ、結局一杯飲むことにした。


………普通に美味しかったです



─────────────────────



夜はもう遅く、食器を洗った後、改まって彼女は真剣な表情でこちらを見てきた



「で、君はこれからどうするの?」



…………



どう、するのだろう。


残りの短い命で、何ができるのだろう。

生きるために頑張った
行動するのは遅かったが、一生懸命頑張った。


でも、無理だった



暗い顔でもしてたのか、彼女はため息を吐くと、咳払いをして
「あー、質問を変えます!」


「君は生きたいの?」

目をそらさず、真っ直ぐに向いてきた


───。



そんなの、決まっている

自分の心に聞いても、きっと帰ってくる答えは同じだろう






「────生きたい」



彼女は、その言葉を待っていたと言わんばかりに大きく頷き、カッコつけるように指を鳴らした




「じゃあ、契約しよう」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.9 )
日時: 2020/03/26 21:02
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第3話「お話」



「契…約……?」


思わず聞き返した僕の言葉に、彼女は手横にを振りながら話す

「まぁ、契約するのは私じゃないんだけどね。」

この部屋には、他に誰も居ない。じゃあ誰なんだと考えているのが分かったのか、
何かを言う前に彼女は持っていた杖で地面を叩いた

「その前に!まずは自己紹介からしましょうか。お互いの名前しらないし」


そう言えば、何も聞いていなかったな……
目覚めてからまず最初に思った疑問を思い出して、忘れる前に口に出す

「僕は、アランです。それで、……ここはどこで、あなたは誰ですか」


「うんうん。アラン君ね。それじゃあ……、面倒くさいから簡単に言うけど、ここはさっきまでアラン君が必死になって歩いてた森、カルジュラの森の中です。それで、私はローナ。わけあってこの辺に隠居しているただの魔法使いです。」

カルジュラの森は、確かに僕がさっきまで走ってた森の名前だ。
でも、カルジュラの森はそこまで大きいわけではないし、小さい頃に何度も行ったが、この森に一軒家なんてなかったはずだ。

「まぁ、家は隠蔽魔法で意識阻害をしていたから地図にも載ってないし、知らなかったでしょ。」
「………この家全体に魔法を?」

隠蔽魔法というのは、文字通り隠す魔法だ。まず使える者が少ないが、一軒家に丸ごとかけるような魔法ではなかったはずだ
当然、馬鹿みたいな魔力量も必要だし、それを今まで維持してたというのなら、にわかに信じ難い。

「……そういう属性の魔法が得意でして。」

「はぁ」

「とにかく!」

ローナは咳払いをすると、机から一枚の紙を取り出した。随分と古い、魔方陣のようなものが描かれた紙だ。
「魔術スクロール?」

確か、強い魔法を行使するのに必要な詠唱を紙に書いて簡略化したものだったはずだ。
今まで何枚か見たことはあるが、………こんなに複雑に書き込まれたスクロールは見たことがない。
一体どれほどの魔法を使うつもりなのか……、そんな不安を他所に、ローナは元気に説明を続ける


「そう!今から、君と契約する悪魔を召喚します!」

「あくま………悪魔!?」
「そうそう!あまり言いたくないけど、すでに君の体は限界に近いからね。無理矢理行使した魔力回路も崩壊寸前だし、長い間放置した漏れた魔力が魂まで侵食している。今は大丈夫だけど、後何日かしたら本当に死んじゃうような状態なの。だから、悪魔との契約内容に自分の魂の半分を悪魔に住まわせる!代償に魂を使う分、授かる力は大きいものになるし、魂の半分を住まわせることで体も今の状態から回復できるし、魔力回路も悪魔を住ませることで魔力が融合し、強固なものになる!どうよ!」

「ま、待ってください」

情報量が多すぎる………。人に聞かせる気はあるのだろうか。
今聞いたことを一つ一つ頭に入れて、次に質問を考える

「悪魔に住まわせるって意味がわかりませんし、まず第一に、何で普通の魔法使いが悪魔を呼び出せるんですか!」


悪魔の召喚は、魔法使いにとって禁忌のようなものだったはずだ。そんなスクロールを何故持っているのか気になるし、それに、何で悪魔についてそんなに詳しいのかも気になる

僕の言った疑問に対して、ローナは腕を組んでしばらく考え込んだ。
数秒、あるいは数十秒の沈黙が流れた後、ローナはゆっくりと口を開いた。


「………ふむふむ、もっともな意見だね。じゃあ、一つ話しをしよう」






「自分で言うような話じゃないんだけど………、三大魔女って知ってる?」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.10 )
日時: 2020/03/27 09:10
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「1話で4000〜5000文字ぐらいと言ったな、アレは嘘だ。」
2000文字ぐらいです……すいません。

───────────────────

第4話「魔女のお話」



「三大……魔女」

「そう。」

知っているも何も、小さい子供に聞かせる怖い本の代表作じゃないのか……。
火・水・風の魔女が居て、
夜遅くまで遊んでいると魔女に食べられちゃうぞ〜って親が子供に言うことを聞かせるために作られたお伽話
僕も昔母から聞いたし、この国では有名だ。

「本で、みたことがあります。」

「ふむふむ。じゃあ、どれくらいまで知っている?」


悪い魔女達が、互いに争ってるうちに強くなり、やがて国を無茶苦茶にしてしまうという本
だから、悪いことをしていると魔女達がやってきて、食べられてしまう
僕を知っている限りではこんな感じの話だったはずだ。

だが、ローラはこの話が気に入らなかったらしく、近づいてきて何故か僕の胸をポカポカ叩き始めた

「??…?」
「何だい何だい!その『子供が悪さしないように作られた童話』みたいな話は!」

いや、実際にそうなんですけど……。ここでそれを言ったらさらに怒らせてしまうので黙っておく

「何でローナさんが怒ってるんですか?」

「君はその魔女についてどれくらいしってるの!?」
あ、無視された。

「?……えっと、『炎獄のカミラ』、『嵐絶のソフィア』、『常闇のろー………な」


……あれ、ローナて名前最近聞いたな。あ、目の前の人じゃないか。ハハ、まさか、そんなわけ……


目の前の彼女はカッコつけるように杖をかざし、胸に手を当て大きな声で言った




「そう!私は三大魔女の一人!常闇の魔女ローナよ!」


───────────────────

常闇のローナ
氷、水、闇を操る魔女。かつてカミラと争い、とある草原を荒地にしたのは有名な話だ。
屋敷にも何本かそういう本はあったのである程度魔女については知っている

「……どう?ビックリした?」

驚いた、というより固まった僕を見て、何故か得意な顔をして聞いてきた
「……いや、びっくりていうか……、納得しました。」

この家にかかってるらしい隠蔽魔法も、何故もっているのか分からなかった悪魔のスクロールも、
常闇の魔女ということを信じるなら説明がつく。その話を信じるならの話だが。

「うんうん。話が早い子は嫌いじゃないよ!ただ、一つ知っていて欲しいのは……私は人間は食べません!ってか、私も人間だし!だいたい、そういうのはドラゴンとかに付けるべき設定でしょ!」
「あ、はい」

本当に食べられると思っているのは純粋な子供だけなんで安心してください……




椅子に座って杖を回し、改まって話しをしようとするローナさんを前に、僕は体の方が疲れているので横に寝かせてもらっている

「……まぁとにかく、私が闇魔法が得意なのは知っているね?で、闇魔法って言っても色々種類があって、悪魔召喚っていうのはその中でもちょっと特殊な部類に入るの」
「はい」

まず、闇魔法は光魔法と違ってあまりよく思われていないので、自ら覚えようとする者は本当に僅かだ。
だから図書館などに行ってもあまり闇魔法について書かれている書物は少ないし、
貴族は初級魔法を覚えるのが教育の一環なのだが、闇魔法は習わないことになっているので僕もほとんど知らない


「今日はもう遅いから召喚は明日だけど、呼ぶ悪魔は見た目はそんなに怖くないし、むしろ可愛いの。」
「え」
「それに、口調は普段は偉そうだけど、根は素直で、とっても優しい子なの!」
「悪魔なのに?」
「悪魔なのに!そもそも、悪魔全員が童話に出てくるような性格のイカれた畜生ってわけじゃないの!」

悪魔について熱く語るローナさんに、僕はある疑問を抱いた

「あの、会ったこと、……あるんですか?」
「そりゃ、何体も契約してるんだしあるよ。」

あるのか……。まず悪魔と契約してる時点で常識的におかしいと思いつつも、常闇の魔女ならおかしくはないかと納得している自分がいる
ちょっと感覚が麻痺してきてるかも……

「それと、呼びした時に過度に反応しないこと。優しく接してね?心がちょっと弱いから……」
「悪魔なのに?」
「悪魔なのに。姿は翼と角が生えた羊をイメージするいいよ〜」

ローナさんは椅子から立ち上がると魔法のランタンの光を弱くした
どうやらもう寝るらしい。……さて、僕はどこで寝るとするかな。
外で寝るのは流石に厳しいので、床を指しながら寝てもいいかを聞く

「あの、床でいいので今夜はここで寝かせて貰っていいですか」

すると、ローナさんは呆れたように頬を掻きながらため息を吐いた。

「あのね、確かに私は魔女だけど、病人を雑魚寝させるほど人情がないわけじゃないわよ。ちゃんとベッドで寝なよ。」
「でも、それだとローナさんはどこで……」
「適当にソファーで寝ているからいーよ。」


本当に……、人間味の溢れた魔女さんだな……。
ここで否定しても仕方がないので、有難くベッドを使わせてもらった

「ありがとうございます……」
「いいって。」




こんな話の後に大変申し訳なくなったが、ベッドはむっちゃイイ匂いがしました。
ほんと、すいません……

Re: 半死半生の冒険記 ( No.11 )
日時: 2020/03/27 20:00
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第5話「悪魔との契約」


翌朝、まだ朝日が出始めたばかりの早朝に起きたが、ローナさんはいなかった
衰弱感はまだ抜けていない。けど、昨日貰った薬のおかげで幾分か様態がマシになった。

けど、悪魔と契約しなければいずれ死ぬ。
ローナさんのお勧めだから不安ではあるものの、これまでの医師や白魔道士でも治せなかった魔血病と、今日でおさらばできるのではないかという期待のほうが大きい

「……悪魔との、契約か。」

可愛いぬいぐるみのあるベッドから出て、所々散らばったポーション瓶やスクロールを見て、夢じゃなかったんだと認識する
周りを見てもローナさんはいないが、外に出ているのだろうか。とりあえず折れた足が痛まないようにゆっくりと動かし、窓を見る

───窓から外を覗くと、謎の模様やどの属性にもない印がある、禍々しさを感じる大きな魔方陣を地面に描くローナさんの姿があった。

「───っ」

あれが、今から悪魔を呼び出すための魔法陣だろうか。

まず地面に描かれた魔法陣なんてダンジョンでしか見たことないが、……アレって人工的に作れる物だったのか。
朝早いんだな……って思ったが、本人は眠そうに目を擦りながら描いていた。

このまま見続けても何もないので、扉を開けて外に出る


「おはようございます」

「……んぅー、おふぁよ」

呂律が回ってませんけど……。大丈夫なのだろうか。

「これが……、僕と契約する悪魔を召喚する魔法陣ですか……?」
「ですですぅ。ただ、契約する際に全裸になって貰うので後で脱いどいてね。」

「はい。わかりま………………???」
今、この方は何とおっしゃった。
……いや、恐らく聞き間違いだろう。

「あの、よく聞こえなかったんだけど……」

耳に手を当ててもう一度聞く。……何故だろう、聞かないほうがよかった気がする。


「魔法陣描き終わったら全裸になってね。」


………………ふぅぅーーー

いや、恐らく何かの比喩だ。契約する時は心の中の邪念を一切残すなって意味に違いない。


「……何で?」

何故か冷や汗をかきながら聞いた質問に対して、ローナさんはさも当然のように答えた

「裸のお付き合いって言うじゃん。」

……………




僕は早々に痛いのを我慢して早足で逃げる。

知っていたと言わんばかりにローナさんに腕がガッシリ捕まれて動けなくなる

力じゃ流石に勝てるだろう…………何だコレ、全然勝てないぞ。


「いやだぁ!」

「やい、待つんだ少年。私は意味のあることしか言わないぞ。」

「じゃあ意味って何ですか!」

「悪魔を魂に表意させる際に、余計な物を見につけていると魔力が散らばって成功しにくくなるから、極力着る物は減らすの!」

意外とまともな答えが返ってきた、が。
僕はジトっとした目でローナさんを見た。信用するにはちょっと危険すぎる……。

「何だい、その疑いの眼差しは。」
「僕があまりそういうのに詳しくないのを知っててソレっぽく言ってる可能性も……。」

「私にそういう趣味はねぇーっ!少年!私を信じるのだ!それに、しゃべり口調も敬語じゃなくなったってことは、ある程度私を信用してるってことでしょ!?」

あ、そういえばそうかも。

「……すいません」
「おーぅ!直さなくていいよ!」
「いや、でも」

うーん……、でも、こんだけ助けてもらった人にタメ口は駄目な気がする。
すると、ローナさんはわざとらしく両手を目に当て、泣きまねを始めた


「しくしく………(チラッ)しくしく………」
「………」

……絶望的に下手だ。時折指の間から覗いてるのも微妙にウザったい……。

「あぁ、わかりましたって」
「よろしいっ!」

本当に、元気な人だな。
僕が話しをしたせいで魔法陣を描く手が止まっていた。
……ここは描いて貰うまでどこかで待っていたほうがいいな。


「じゃあ、その魔法陣ができたら脱ぎます。」


脱ぎたくないけど、覚悟を決めるしかない。
いや、まず変な事されるわけでもないんだし、悪魔と契約する覚悟を決めたほうがいいな。


「後で、ここら一体に隠蔽魔法かけるから、ちょっと時間かかるかも!」

─────────────────

「それじゃあ、あんまり見ないようにするけど、覚悟はいい?」

「はい」

ローナさんの一軒家の周りに広がる庭、そこに描かれた大きな魔法陣の前で、僕は全裸で立っている。
全裸と言っても、自分の男としての尊厳を保つためにパンツは許された。


「…………」



これで、僕の病気が本当に治ったとする。


いや、失敗する可能性を考えてもしょうがないな……



病気が治ったら、何をしよう。
今まで質素な食事だった分、味の濃くて美味しい料理も食べたいな。

ベッドの中に居た分、もっと色んな所を見てみたいな。

そうだ、治ったら冒険者になろう。元々、そのために大銀貨やナイフを持ってきたわけだし。



「……そんな心配しなくても治るよ。私が自信を持って言ってやろう!」
「常闇の魔女のお墨付きなら、安心ですね。」



「それじゃあ、行くよ。」


ローナさんが杖をかざして目を閉じる。辺りの空気が変わったように風の音が大きくなる。
光が吸い込まれていくように、周りが暗くなるのに比例して、魔法陣の中央がどんどんと黒くなっていく

「……これが……」

常闇の魔女の力。
肌をピリピリするように激しく魔力が動いているのを感じる。
一体どれほどの魔力がこの空気中を動いているのだろうか。

「地獄を駆け抜ける者 夜を支配するものよ 汝 夜を旅する者 闇の朋友にして同伴者よ 影の中をさまよう者よ あまたの人間に恐怖を抱かしめる者よ 悠久を持つ汝の庇護のもとに 我が友の声に答え 契約を結ばん」



中央に集まって言った黒い光は膨張していき、やがて僕の身長を超えていった
風は吹き荒れ、揺れる木の枝から飛んでいった葉っぱが魔法陣を囲むように舞っていく


「ふぅ……。完了!」

ローラさんは疲れたように大きく息を吐くと、かざしていた杖をおろした
いやまて、一仕事終えたぜっ!って感じで汗をぬぐってますけど、全然終わったようには見えないんだが!むしろ現在進行形で続いてないかこれ!

「あの……!全ッ然光がっていうか、……止まんないんですが!」

「だいじょーぶ。見てなって。」

大丈夫じゃ、ない!




しばらく魔力の膨張のような波は続いたが、やがて黒い光は平べったくなっていき、コンパクトなサイズになった。

「……これは何ですか?」

「それが悪魔だよ。手を近づけたら、契約は完了。」

「?」

言われた通りに近づいて見ると、黒い物体が僕の腕に絡み付いてきた

「うぉわっ!!」

絡みついた、じゃなくて、……張り付いた?
指先まで真っ黒で尖ったような指になり、黒く侵食していく黒い物体は、
肩の近くまで侵食してきたが、そこから先は普通の体のままだった。



次の瞬間、体の奥にゾっとするような、深く、冷たい寒気が襲った


「………ッ!?」

体の中心に虚無感を感じたのと、同時に何かが入ってくるような、奇妙な感覚だった。
大事な何かを、取られた……?あ、僕の魂を半分与えるって内容だった、な……。
覚悟はしていたはずなのに、心のどこかでまだ怯えている自分がいる、




身震いした僕を見て、近くにいたローナさんが声かける

「落ち着いて。融合しないと君の壊れた魔力回路がそのまんまだよ?」
「!……は、い!」



感覚がある程度落ち着いたその時、体全体に薄い炎のような青いオーラが現れた


オーラっていうか………、腕と足普通に燃えてないか!?
「ああぁっつぅ!!…………くない?ローラさん!これ何ですかぁ!」
何故か距離を置いていたローナさんに声をかける。

「それがたぶん呼び出した悪魔の能力何だと思う!とりあえず落ち着く!」






落ち着け僕……、これは契約だ。深呼吸をして、乱れた呼吸を正す。


息を整えていると、自分の右肩辺りに重みを感じた。
気になって見てみると、そこには、逆にこちらをじっと見つめてくる



羊がいた。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.12 )
日時: 2020/03/29 10:35
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第6話「大悪魔との自己紹介」



丸くシンプルな目に羊の口、小さな赤い角が生えていて、羊毛は黒く、尻尾はくるんとはねている

「全く。随分とちんけな人間とけーやくしてしまったようだな!」


……しかも喋った


「……ローナさん。これが呼び出した悪魔でしょうか。」
「待てい!コレとは何だ。お前ごときが我をもの扱いするでない!」

いちいちうるさい……。
ローナさんはポカンと口を空けていて、その後「あれ……角赤いんですけど……。スクロール間違えたかな……?」と独り言を言っている

「しょうしょう不満だが、僕ちんとけーやくしたからにはしっかりして貰うぞ!」
「う、うん」

僕ちん。
それと、所々舌足らずな感じがするが、適当に頷いておく。

「あの、ローナさーん?」

さっきから何かをぶつぶつ言っているローナさんに声をかける。
声をかけた後もしばらく何か考えていたが、やがて「………………可愛いしいっか!」と諦めたように笑顔になった


「とりあえず、この体に纏ってるオーラみたいなのを止めて欲しいんだけど……。後、何か僕の腕が黒いんだけど……。」


「なんじ!名は何と?」
ここまで綺麗なガン無視は始めてだな……。
肩に乗りながら姿勢変えるのやめて欲しい……。時々落ちそうになる……。


「アラン・ベルモンド。えっと、よろしく。」
「ふむ、いい名前だな!」

悪魔、と聞いていた割には、随分と優しそうな感じがする。
「そ、そう?」

「名前負けもいいとこだがな!」
「そ、そう……。」

………なるほど。今のうちに主従関係はきっちりしておかないとな……。

「君の名前は?」
「ないぞ」

え?悪魔ってそういうモンなの?よく分かんないな……。
隣では、吹っ切れた顔のローナさんが僕の肩にいた羊を抱き上げ、もふもふし始めた

「こら!おい女!僕ちんに気安く、触れ……触れ………ひゃふん」
「じゃあアラン君、名前つけないとね!」

「……そうですね。」


ローナさんにKOされた羊がだらしなく腕の中でもたれかかっている

いや、なんて言うか……、悪魔の召喚ってもっと禍々しいイメージだったのだが……、拍子抜けと言うか……。
いや、禍々しいよりかはこっちの方が気は楽何だけど……。


でも、名前か……。
話を進めないと、体に纏っているオーラを消してくれなさそうだし、早く決めよう


「うーん、……くろすけは?」

「「………」」

二人からジトっとした視線を感じる。さ、流石に安直すぎたかな。

名の無い羊をじっと見つめる。赤い角、黒い羊毛、丸い眼、はねた尻尾。全体的に丸い姿

「…………くろ丸」

我ながらイイ線いってるのではないだろうか。
悪魔だけど、何かペットみたいな感じだし、呼びやすくて特徴も捉えている。

「……まぁ、いいだろう!」

よし、何とか合格は貰えたようだ。ローナさんも頷いている


「それで……」

この僕身に纏っている炎のような青いオーラは何だろうか……。さっきから気になって仕方が無い。
ローナさんの言った通り、これがくろ丸の能力なのだろうか。
別に熱いわけじゃないのだが、何かこう……体の芯が轟々と燃えているような、不思議な感覚だ。
ぶっちゃけカッコいいのだが、いつもこの状態となると嫌だ

「あぁ、そうだったな。僕ちんの能力、『適正属性強化』と『魔力纏』によるものだ!」

僕ちん。……まぁ置いておくとして、

「これが……」


くろ丸の能力……。………うーん、強そうなのだが、
魂の半分を代償にして手に入れたにしてはちょっと地味だな……。

「魔力纏っていうのは具体的にどんなスキルなの?……後、この腕が黒くて硬いんだけど、これも君の能力?」

「纏っている時は適正属性の魔力行使にかかるまりょく量が減るのと、単純な身体きょーかもだ!腕は……アレだ、僕とけーやくした証って奴だ!」

纏っている時は、てことは、魔力纏は任意で始動できるんだな。
ちょっとカッコいいし、是非とも使いこなしたい。

腕は……契約した証、か。試しに右腕を指で叩いてみるが、随分と硬い。
「これってもしかして武器になる?」
「武器なるというか、普通はそういう使い方だな。指もえいりになっているだろう?どんな攻撃がきても僕ちんの力を超えない限りかすりきず一つもつかんぞ!」

相変わらずの舌足らずなのはもう受け入れるとして、
腕を何回か振ってみたが、別に以前のなんら変わらない質感だった。
いや、強いのは分かったけど、人前で見せるのはちょっと嫌だな……

「これって隠したりできないの?」
「いや、別に腕に力を込めてひっぱるようにすればできるが……、……かっこいいだろ?何で?」

こういうカッコいいのは人前でやるにはちょっと無理かな……。
腕に力を込めて、体の奥に引っ張るように魔力を集める。あ、できた。

さっきまでジーっと僕の手を見つめてたローナさんが、不思議そうな顔で再び元に戻った僕の手を見ている
「ほえー」
「ローナさんでも、こういうのは初めてなんですか?」

常闇の魔女が知らないことってあんまりないと思ってたから、この悪魔がそういう能力があるのを知ってて召喚したと思っていた

「魔力纏は見たことあるけど、今のアラン君みたいな色は見たことないよ。」

「我は数ある悪魔の中でもさいじょういだからな!」

さいじょういなのか。

「魔力纏も、任意で纏うことができるから、体の中心に魔力を集めるようにすると消えると思うよ。発動するときはその逆。」
「分かりました」

さっきので感覚は掴んだから、次からはすんなりと使えこなせそうだ。
ずっとローナさんに抱かれていた羊がモゾモゾと動き出し、脱出した。

「一通り我の能力については説明したな!何か聞きたいことがあれば後で聞くがよい!」


またこちらの肩に戻ってきた。……と思ったら消えた。
「って、えぇ!?」

「あー、落ち着いてアラン君。悪魔は魔力で作った仮初の姿で滞在しているから、今みたいに自由に消えたりすることができるの。」

あ、そうなのか……。まぁ常に肩に居られたら困るし、有難いのは変わりない



まぁ、これからよろしく



悪魔との契約にしては随分の緊張感のない時間だったが、


この時の僕はまだ、くろ丸がどれほど強い悪魔なのか分かっていなかった



ようやく顔を出してきた朝日が、木の葉の隙間を抜けてこちらに降りかかる。


────何か、新しく大きなことが始まりそうだ


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