二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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ポケットモンスターBW *道標の灯火*
日時: 2020/09/15 16:16
名前: 霧火# (ID: HEG2uMET)

初めまして、霧火と申します。

昔からポケモンが好きで、今回小説を書こうと思いました。
舞台はポケットモンスターブラック・ホワイトの世界です…と言っても舞台はゲーム通り
イッシュ地方ですが、時間軸はゲームの【数年前】でオリジナル・捏造の要素が強いです。
そして、別地方のポケモンも登場します。Nとゲーチスは出ないかもしれません(予定)。


!注意事項!
   ↓
1.本作のメインキャラは【最強】ではありません。負ける事も多く悩んだりもします。
2.書く人間がお馬鹿なので、天才キャラは作れません。なんちゃって天才キャラは居ます。
3.バトル描写や台詞が長いので、とんとん拍子にバトルは進みません。バトルの流れは
 ゲーム<アニメ寄りで、地形を利用したり攻撃を「躱せ」で避けたりします。
4.文才がない上にアイデアが浮かぶのも書くペースも遅いため、亀先輩に土下座するくらい
 超鈍足更新です。
 3〜4ヵ月に1話更新出来たら良い方で、その時の状態により6ヵ月〜1年掛かる事があります。
 申し訳ありません。


新しいタイトルが発表されてポケモン世界が広がる中、BWの小説は需要無いかもしれませんが
1人でも多くの人に「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえるよう精進致しますので、
読んでいただけたら有り難いです。

**コメントをくれたお客様**

白黒さん パーセンターさん プツ男さん シエルさん
もろっちさん 火矢 八重さん かのさん さーちゃんさん

有り難うございます。小説を書く励みになります++


登場人物(※ネタバレが多いのでご注意下さい)
>>77

出会い・旅立ち編
>>1 >>4 >>6 >>7 >>8 >>12 >>15
サンヨウシティ
>>20 >>21 >>22 >>23
vsプラズマ団
>>26 >>29 >>30 >>31
シッポウシティ
>>34 >>35 >>39 >>40 >>43 >>46 >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>55 >>56
ヒウンシティ
>>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>72 >>75 >>76 >>78 >>79
ライモンシティ
>>80 >>82 >>83 >>88 >>89 >>90 >>91 >>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>106 >>116 >>121 >>122 >>123 >>126 >>127 >>128 >>130 >>131 >>134 >>137 >>138 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>148
>>149 >>150 >>151
修行編
>>152 >>153 >>155 >>156 >>157 >>160 >>163 >>166 >>167 >>168 >>169 >>170 >>171 >>173 >>174 >>175 >>176 >>177 >>178 >>180 >>182 >>183
>>185 >>187


番外編(敵side)
>>188

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37



Re: 28章 覚悟の炎 ( No.55 )
日時: 2020/09/07 20:39
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

リオはシビシラスが入ったボールを手に取る。

「最後は貴方に任せるわ。シビシラ 「お、おい!」 ……?」

ボールを投げようとした、その時。
慌てているアキラの声が耳に入り、リオはボールを持つ手を止めた。
一体どうしたのかと観客席を振り返ると——

「ヒトモシ?」

ヒトモシが観客席から飛び降り、こちらに向かって走って来るではないか。
疑問符を浮かべてヒトモシの動きを目で追っていると、ヒトモシは自分の目の前に広がる
バトルフィールドに立った。
予想外のヒトモシの行動にリオは暫し硬直するが、ゆっくりと口を開く。

「何、してるの?ヒトモシ……」

口を震わせて問うリオにヒトモシは何も答えず、ミルホッグと対峙している。

「相手はミルホッグなのよ?観客席に戻って」
『……』
「お願いだから……戻って、ヒトモシ!」

キダチはまだ試合再開の合図を出していないが、このままだとヒトモシは再びミルホッグと戦う事になる。

(でも、まだ貴女は……!)

蘇るミルホッグを前にしたヒトモシの姿。
4年前、50匹のミルホッグに囲まれた時は祖父のムトー1人にバトルを押し付けておいて、自分は
震えるヒトモシを勇気付ける一言もかけずにバトルに釘付けだった。
4年もあったのに、友達で家族でもあるヒトモシがミルホッグを恐れている事さえ知らずに
バトルに出して、泣かせて……ヒトモシは何も悪くないのに責任を感じさせてしまった。


(もうこれ以上、私の甘えや勝手、過ちでヒトモシを傷付けたくないのに——!)

「リオ。察してやりな」

黙って成り行きを眺めていたアロエが口を開いた。

「この子は自らここに立ったんだ。つまり、あたしのミルホッグと戦う覚悟が出来たって事だろう?
 それなのに、トレーナーのアンタがその想いを汲み取ってやらないでどうするのさ。
 信じてるんだろう?ヒトモシを」
「勿論です!!」

間髪入れずに答えたリオに、アロエは満足気に口角を上げる。

「それなら見せておくれ。アンタと、その子の愛を」

リオはヒトモシに視線を下ろす。
震えて動けなくなる程に恐がっていたミルホッグを、ヒトモシは目を逸らさずに、真正面から
見つめていた。
その姿は4年前のあの日とも、初めてアロエのミルホッグを前にした時とも違っていた。

「克服なんか出来なくて良い。ゆっくり進んで行こう。恐いと思うけど、私達のバトルを
 最後まで見てて欲しい。……私はまた、無意識に貴女を傷付けてたのね。貴女は私よりずっと
 強かったのに」

ヒトモシが振り返り目と目が合い、リオはしゃがんでヒトモシの手をそっと握る。
この確認は今しか出来ない、何よりも優先すべきだ。
ドキドキと高鳴る心臓に、ヒトモシと出会った時に戻ったみたいだと思った。
だからこそ、リオはヒトモシに問う。

「不甲斐ない私だけど……友達として、家族として。これからもずっと一緒に居てくれる?」

言い終わったと同時にヒトモシがリオに抱き着いた。
リオの目が大きく見開かれ、大粒の涙が零れる。
涙の痕を拭う様に、ヒトモシは手を伸ばしてリオの頬を優しく撫でる。

「……ありがとう。ありがとう、ヒトモシ」

最後にヒトモシをぎゅっと抱き締める。
袖で涙を拭って立ち上がったリオの表情はサッパリしていて、晴れ晴れとしていた。


「お待たせしました、アロエさん。私の最後のポケモンは——ヒトモシです!」
『モシ!!』
「——そうこなくっちゃね。キダチ!」
「はい。それでは……試合再開!」
「ヒトモシ!《弾ける炎》!」

ヒトモシは一回転すると、火花を纏った紫色の炎をミルホッグへ飛ばす。
その炎は、サンヨウジムの時より遥かにパワーアップしていた。

「迎撃するよミルホッグ!《火炎放射》だ!」

しかしその炎も、ミルホッグの《火炎放射》に打ち消される。

「《鬼火》!」

ヒトモシは今度は頭の炎から火の玉を数個生み出し、一気に放つ。
不規則な動きをしながら、数個の火の玉がミルホッグへと向かう。

「そういう動きなら……もう1度《火炎放射》だよ!」

ミルホッグは後ろへ跳んで地面に頭を付けると、尻尾で勢いをつけてコマの様に回って火を吹く。
その事で炎は四方八方に漂っていた《鬼火》を全て掻き消し、ヒトモシにも命中した。

「ヒトモシ、大丈夫!?」

身体に付着した残り火を振り払い、笑顔で頷いたヒトモシにリオはほっと息を吐く。

(ヒトモシはゴーストタイプだから《敵討ち》が効かないのは有り難いけど《火炎放射》が
思った以上に厄介だわ。こっちの攻撃が通らない。ミルホッグがゴーストタイプ対策でハーデリアと
同じ技を覚えている可能性もあるのに……せめて、ミルホッグの動きを封じる事が出来れば、)

「どんどん行くよ!《噛み砕く》!」

リオが思案している間にも時間──バトルは流れる。
体を起こしたミルホッグの前歯が、音を立ててヒトモシの体に食い込む。
それでも大きなダメージになっていないのは、やはりチラーミィのお蔭だ。

(成功するか分からない……ううん、違う。ヒトモシなら成功する。誰が無理だと思っても、
私だけはヒトモシを最後まで信じるのよ!)

「ヒトモシ!《スモッグ》!」

ヒトモシは口から黒い煙を吐く。
驚いたミルホッグは、ヒトモシに食い込ませていた前歯を離して距離を取る。
煙はあっという間にフィールドを覆い、視界を悪くした。

「煙の中に姿を隠そうって魂胆かい?だけど甘いよ!ミルホッグ!」

ミルホッグはお腹の縞模様を光らせる。
すると《スモッグ》は晴れないものの、光に照らされてヒトモシのシルエットが浮かび上がった。

「そこだ!《火炎放射》!!」
「躱して《ーーー》!」

リオの後半の言葉は聞こえなかったが、攻撃を躱された事と火の玉の様なシルエットと
不規則な動きを見て、アロエは直感で《鬼火》と判断した。

「この数なら避けきれるね。ミルホッグ、動きを観察して躱すんだ。煙が消えたら仕掛けるよ!」

ミルホッグは身構え、回避する為に足に力を入れる。
その時、ミルホッグが足を滑らせて顎を派手に打ち付けた。

『!』

そこへ畳み掛ける様に、倒れたミルホッグの腕と足に残りの火の玉──否、冷気を帯びた
水色の球体が当たり、凍らせた。

「これは……!」
「ヒトモシの《目覚めるパワー》です」

充満していた煙が晴れ、リオとヒトモシ、そして氷漬けになったフィールドが姿を現す。

「《スモッグ》はヒトモシの姿を隠す為の物じゃなくて《目覚めるパワー》を《鬼火》だと
 勘違いさせる為に使いました。形が分かっても《スモッグ》がある程度の光を遮るから、
 正確な色までは分からないかなと思って」
「……先入観に囚われたあたしの判断ミスって訳だね」

リオの言葉にアロエは自嘲する様に微笑する。

(それにしても、リオ。アンタって子は本当に頭のキレる子だね!)

「今度は《鬼火》!」
「《火炎放射》で打ち消すんだよ!」

ヒトモシが頭の炎から飛ばした数個の火の玉に対し、ミルホッグは顔を上げて口から火を吹き出すが、
手足は凍らされて固定されている為、最初に《鬼火》を完封したあの動きは出来ない。
打ち消し損ねた《鬼火》はミルホッグに命中し、ミルホッグを火傷状態にした。

「くっ……!」
「一気に畳み掛けるわよ!《弾ける炎》!」

藻掻くミルホッグに、大きく火花を散らしながら紫色の炎が迫る。

「《敵討ち》!」

ミルホッグは苦痛に顔を歪ませながら咆哮すると、手足に力を込める。
間近に熱を帯びた炎が迫ってた事もあり、手足を捕らえていた氷は砕け、ギリギリの所で攻撃を回避する。

「《噛み砕く》!」
「《目覚めるパワー》!」

口を開けた所に冷気を帯びた水色の球体を叩き込む。
しかしそれに怯む事なく、ミルホッグもまた、前歯でヒトモシを噛み砕く。

『『——』』

互いに疲労困憊、次で勝負が決まる状態だった。

「ヒトモシ」

リオを振り返り、ヒトモシは静かに頷いた。

「そうね。……私達は、絶対に最後まで諦めない!《弾ける炎》ッ!!」

ヒトモシは一回転して、今までで1番大きな炎を飛ばす。
バチバチと火花を散らして、紫色の炎がミルホッグへと飛んで行く。

「迎え撃つよミルホッグ!《火炎放射》だ!!」

それに対抗して、ミルホッグは口から高音の炎を吹く。
そして──


「えっ……!?」

リオが大きく目を見開いた。
ヒトモシが放った紫色の炎が火花を激しくして突然、巨大な竜巻の様に大きく膨れ上がったのだ。
そして勢いを増した炎はミルホッグの《火炎放射》を飲み込み、ミルホッグを包み込む。

「これは──!?」


アロエの声は、激しく燃え上がる火柱の音で掻き消された。

Re: 29章 別れ道 ( No.56 )
日時: 2020/08/24 16:23
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

天井近くまで燃え盛っていた炎は、やがて音を立てて崩れ落ちた。
そして炎の中から所々火傷を負ったミルホッグが歩いて来た。

『……ッグ』

頭の炎を大きく膨らませて身構えるヒトモシ。
あの時とは違う、闘志を燃やした瞳にミルホッグは笑い、そして──

「ミルホッグ!!」

ミルホッグは、ゆっくりと前のめりに倒れた。

「ミ、ミルホッグ戦闘不能!よって、勝者は……リオちゃんなのです!」

呆然とミルホッグを見つめるリオとヒトモシ。
しかし観客席から聞こえる拍手と祝福の声で、状況を理解する。

「……ヒトモシ」
『モ……』

振り返ったヒトモシは、今にも泣きそうな顔をしていた。
恐怖からじゃない、申し訳無さからじゃない。
1歩を踏み出せた喜びから、ヒトモシは心から涙を流した。

「本当にありがとう。貴女はやっぱり最高だわ!」
『モシシ!』

そして感謝を告げて抱き締めるリオに、ヒトモシは久しぶりの笑顔を見せた。

「ご苦労だったね、ミルホッグ。ゆっくり休みな」

アロエはミルホッグのボールをじっと見つめた後、ヒトモシを見る。

(《弾ける炎》なんて生易しい物じゃなかった。今の技は、間違いなく《煉獄》。
でも、ヒトモシのレベルはそこまで達してない筈だ。リオの想いに応えようと、ヒトモシが一時的に
強力な技を出したって言うのかい?)

「——だとしたら完敗だね、本当に」
「ママ?」

アロエはキダチの前を通り過ぎ、リオ達に近付く。

「大したもんだよ、リオ。女なのに惚れちゃうじゃないか」
「アロエさん」
「こちらの先入観を逆手に取った戦術と技の応用力。無駄の無い決断力と予想を上回る攻撃。
 そして何より、互いに支え合い高め合う強く深い絆!しっかり見させて貰ったよ。こんなに
 熱くなったのも、負けても清々しい気分なのも久しぶりだ」

リオとヒトモシを交互に見てアロエはくしゃりと笑う。
口を大きく開いて体全体を震わせて豪快に笑っていたアロエが見せた、とても柔らかで優しい笑みに
その場に居た全員が見惚れた。
アロエは周りの視線に気付かず、笑みを浮かべたままエプロンのポケットに手を入れる。

「このベーシックバッジを受け取るのに相応しいポケモントレーナーだよ、アンタは」

アロエは紫色で黄色の縁取りがされたバッジを取り出してリオに差し出した。

「受け取りな。あたしに勝った証だよ」
「あ……ありがとうございます!」

リオはバッジを両手で受け取り、上に掲げる。
証明の明かりとヒトモシの炎でバッジはキラキラと輝く。


斯くしてリオは2個目のジムバッジをゲットし、ヒトモシは大きな1歩を踏み出したのだった。


 ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼


「次のジムはヒウンシティにあるみたいだな」

ポケモンセンターでヒトモシ達を回復するのを長椅子に座って待っていると、隣に腰掛けていた
アキラがパンフレットを広げ、地図を指差した。

「そっか。でもその前に長ーい橋があるわよね?」

(いくら夜目が利くとはいえ、視界が悪い夜に長い橋を黙々と渡るのは嫌なのよね。ジム戦を
終えたばかりのチラーミィとヒトモシにこれ以上負担も掛けたくない。とても頑張ってくれた
2人にお礼を兼ねて、張り切って沢山特訓してくれたのに出番を作ってあげられなかった
シビシラスにお詫びを兼ねて、今日はご飯をいつもより豪華に作ってあげたいし……別に無理して
今日中に渡らなくても良いかな)

リオは隣に座っていたアキラにも意見を聞く事にした。

「私は、もう夕方だし今日はポケモンセンターに泊まろうと思ってるんだけど、アキラはどうする?
 この後出発するなら、」
「リオ」

リオの言葉を途中で遮り、アキラは立ち上がる。


「ここから先は──別行動だ」
「……え」

掠れた声が漏れる。

アキラの突然の言葉に、リオは戸惑いを隠せない。
呆けている幼馴染に、アキラは苦笑して話し始める。

「リオとの旅が楽しいから最近まで忘れてたけど、さ。俺達は幼馴染みで親友で、仲間であると
 同時に……ライバルなんだよな」

それはリオも理解していた。

「盗難事件の時、俺はリオに本当に励まされたし気持ち的にも助けられた。でもその日の夜、
 じっちゃんに聞かれたんだ」



———
——————
—————————


2人組の盗人からチラーミィを取り返した日の夜。
毛布で包んだポケモンのタマゴを抱いて、ポケモン達と夜風を浴びる為に外に出たリオを見送り、
アキラは寝室に向かった。
部屋に入り、専用のベッドで一足先に熟睡しているイーブイを一瞥して自分もベッドに横になる。
大の字になって手足を伸ばして力を抜き、瞳を閉じて深い眠りへと——

「……やっべ、眠れねぇ」

ベッドの上で体勢を変えてみたり、籠った熱を逃がしてから再度ベッドに体を預けてみても
アキラの脳は覚醒したままで、目を閉じても草木が揺れる微かな音でさえ耳が拾ってしまい、
それを気にしない様に意識すればする程、眠気が無くなる。

(さっきまで思いっ切り欠伸出てたじゃねぇか。どんだけ気紛れなんだよ俺の灰色の脳細胞)

アキラは深い溜め息を吐いて体を起こし、窓の外を見る。
リオを見送った時は綺麗な姿を見せていた月も、今は雲の中に隠れてしまっている。

「リオに説得されて、じっちゃんにも励まされたってのに……まだ納得出来てねぇのかよ、情けねぇ」

バトルには勝ったが勝負には負けた。
チラーミィを取り戻せたのも、盗人の1人が律儀に約束を守ったからだ。

(じっちゃんとばっちゃん、母さんと保母さんと園児達、盗まれたチラーミィに怪我は無かった。
それでも皆は不安に思った筈だ、恐い思いだってきっとした。俺の大切なモンに傷跡を残して、
元凶の盗人様はご丁寧に名乗ってとんずらだ?)

「——ふざけんじゃねぇ」
『……ブイィ?』

片耳を上げて目を覚ましたイーブイに気付かない程、アキラは盗人と、詰めが甘い上にリオに
怒鳴ってしまった自身に苛ついていた。

(これだとまた同じ事が起こる。それは駄目だ)

『ブイッ!』
「うおっ!……イーブイか。起こしちまって悪い、でも丁度良かった」

再度外を見るとリオの姿はどこにも無く、家の中に入ったのが確認出来た。
アキラはイーブイと共に部屋から出て、向かいの客室でぐっすり眠っているであろうリオを
起こさない様に外に出た。


 ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼


「《電光石火》!」

イーブイの攻撃が鮮やかに決まり、既に戦闘不能になっているシママの上にミネズミが倒れ込む。
ミネズミが戦闘不能になったのを目視して、アキラはふっと短めに息を吐いた。

アキラとイーブイが向かったのは【地下水脈の穴】の入口前の草むらで、同じヘマをしない為に
ポケモン達のレベルアップと、今度またあのコンビに会っても熱くなり過ぎて力を発揮出来ない
なんて事にならぬ様に、同じポケモンを相手に自身の心を鍛えていた。
午後11時に家を出て、特訓を始めてから2時間が経ち、現在午前1時。

「……流石にそろそろ戻らないとな」

祖父母の仕事を何度か手伝った事のあるアキラには分かるが、育て屋夫婦の仕事は分担制だ。
受付とタマゴの有無確認とは別に、祖母のハツは毎朝育て屋周囲の掃除と昼行性のポケモンの世話を、
祖父のハジは毎夜巡回と夜行性のポケモンの世話をしている。
ハジが床に就くのは早くて午前2時なので、少なくともあと30分は特訓出来るが、明日——否、
今日にはシッポウシティに向けて出発する予定なので、今から寝なければ道中支障が出るだろう。

「結果も上々だしな。付き合ってくれてサンキューな、イーブイ」
『イ、ブァ〜……』

大欠伸をするイーブイを小脇に抱え、アキラは育て屋方面に向かって歩き出す。
歩いて5分、育て屋の屋根と、ドアの前に立っているハジの姿が見えた。

「精が出るのう。今まで特訓しとったのか?」
「ただいま、じっちゃん。特訓に熱が入りすぎちまって……遅くなってごめん」
「構わんよ。わしもリオちゃんと話をしていたら盛り上がってのう。いつもより仕事を始めるのが
 遅くなってしまったわい」
「へえ、リオと……って、遅くなった割には寝られる格好してるけど」

普段この時間は作務衣を着ているハジが、今は寝間着として愛用している紺色の甚平を着ている。
首を傾げて疑問を口にしたアキラにハジは照れ臭そうに笑った。

「若い娘さんと夜に話すのは久々だったんでのう。テンションが上がって、仕事が速く終わったんじゃ」
「俺も俺だけど、じっちゃんもじっちゃんだよな」
「否定はせん。それより特訓した成果はどうじゃ?」
「俺的には上々。また盗人が来ても俺とリオなら完全勝利出来ると思えるくらいにはさ!」

アキラは笑顔でハジを見る。
ハジもそんなアキラに笑顔を返してくれるかと思いきや——

「じっちゃん?」

照れ臭そうな笑みから一変、ハジは真剣な顔でアキラを見つめていた。
アキラは顔を強張らせ、何か不味い発言をしたかと少し考えてから、思い当たる単語を口にした。

「ごめん。盗人が来ても、なんて縁起でも無ぇよな。俺もそんなの御免だし、配慮が足りなかった」
「違うんじゃ。わしが言いたいのはそんな事ではない」

悲し気に頭を振り、ハジはアキラを見た。

「アキラ。これから先……ずっとリオちゃんを縛り付けて、あの子に甘えて旅を続けるのか?」
「——え?」

突然過ぎて、何を言われたのか分からなかった。
いや、言われた事は分かったが意味を理解出来なかった。

「……に、言ってるんだよじっちゃん。俺は別にリオを縛った事も甘えた事も無い」
「自覚が無いとしたら重症じゃな。言ったであろう?俺とリオなら、と」
「それが、どうしたんだ?」

声が震える。
夜風は涼しい筈なのに、体はどんどん熱くなる。

「リオちゃんが大怪我をしていたら?病気で絶対安静だったら?それでもお前さんはリオちゃんに
 力を貸してくれと甘えて、物事を解決しようとするのか?」
「そんな馬鹿な事するわけねぇだろうが!!」

ハジの極論にアキラは思わず声を荒げる。

(俺はリオに笑ってて欲しい。その俺が、リオを苦しめる事をするわけが、)

アキラはそこで思い出す。
手を貸してくれたリオに、逃亡する盗人を追うのを制止されただけで怒鳴ってしまった事を。
口を震わせながら閉口して静かになるアキラに、ハジは容赦無く言葉を続ける。

「リオちゃんは強い。弱さを見せる時があっても、お前さん達が出会った頃よりずっと強くなった。
 昔を知るアキラがリオちゃんを心配して傍に置きたい気持ちも、強い彼女に甘えたくなる気持ちも
 とても良く分かる。しかしトレーナーとして旅立った今、あの子にはあの子の、アキラには
 アキラの旅がある。くっ付いたままでは、同じ物しか見られない」
「……っ」
「もう1度問おう」


「これから先、ずっとリオちゃんを縛り付けて、あの子に甘えて旅を続けるのか?」


—————————
——————
———



「結局、俺はその問いに何も返せなかった。それで思ったんだ。何も返せないのは、心の何処かで
 じっちゃんが発言を撤回してくれると信じて甘えているからだって。そこで、自分のあまりの
 格好悪さに気付いたよ。今の現状に甘えたままの俺じゃあ、絶対に後悔するし駄目なんだって」

アキラは拳を握る。

「お前と一緒に旅すんのは楽しい。一瞬一瞬を共感出来る相手が居るのは素晴らしい事だって、
 昔じっちゃんも言ってた」

拳を映していた目が、今度はリオを映す。

「……けど、俺はお前に頼らずに自分で道を切り開けるくらい、強くなる。大切な人を全員守れる
 くらいに。何も出来ずに突っ立ってる事しか出来ない、そんな無力な人間で終わらない」

言葉を止め、アキラは足元に座っていたイーブイを抱き上げる。

「本当に強くなりてぇなら、いつまでもリオに甘えてられねぇ。お前にも、負担掛けちまうし。
 そう思いながら未練がましくズルズルと今日まで来ちまったけど……ヒトモシのバトルを見て、
 やっと決心がついた」

そう言って微笑んだアキラの表情は大人びていた。

「はぁ……黙って聞いてれば、なーにカッコつけてるのよ」

やっと口から出たのは溜め息混じりの言葉だった。
しかしそれは決して馬鹿にした言い方でなく、拗ねた様な、そんな言い方だった。

「甘えてた?負担を掛けてる?……そんなの、全部私の台詞じゃない。それなのにハジさんも
 アキラも、まるで全部アキラが悪いみたいに言わないでよ!」

眉根を寄せるリオに、アキラは言葉を失う。

「……別行動の件は分かったわ。でも、これだけは言わせて」

リオは一息置いて、胸に手を当てる。

「私は負担を掛けられてるなんて、1度も思った事ない。どうしても上手く行かなくて困った時は
 お互い相手に甘えて、支え合って、助け合って良いと思うの。遠慮せずに接せられる——それが
 親友って物でしょ?」

ニヤリ、と悪戯っぽく笑ったリオに、アキラは小さく笑う。

「……確かに、どうしても上手く行かない時はあるな」
「そうよ。上手く行かないのに意地張って失敗したら、それこそ後悔するわ」
「支え合い、助け合いか。あれ、その言い方だとリオも俺を頼ってくれんの?」
「私が頼りたくなるくらい頼もしくなってくれたらね。私も逞しく成長出来るように鍛えるわ」
「若干上から目線なのに男らしくて反論出来ねぇ!」

腕を組むリオに小さく吹き出して、アキラは荷物を担ぐ。

「……もう行くの?」
「ああ。一度じっちゃん家に戻って、イーブイ達をもう少し鍛える」
「そっか。じゃあ一応ここでお別れね」

しゃがんでイーブイを撫でるリオ。
イーブイは嬉しそうに一鳴きすると、アキラの肩に乗っかった。

「姿とか見掛けたら、声ぐらい掛けてよ?」
「分かってる」

ポケモンセンターの出口へと歩いて行くアキラの背中に、リオは声を大きくする。

「悩みや、困った事があったら遠慮しないで電話してよ?相談に乗るし、近くを通り掛かったら
 絶対に力になるから」
「リオこそ変な男にホイホイついて行くなよ?」

互いに笑い合って手を上げる。


「またね!/またな!」


去って行くアキラの後ろ姿を、リオは見えなくなるまで見送っていた。



今回はアロエ戦決着、そしてアキラとの別れでした。
リオとアキラが一緒に旅する話を執筆するのも好きなんですが、この2人はライバルなので
アロエ戦の終わりを機に、こういう形を取りました。

そんなワケで次回からリオの一人旅、スタートです!
それでは次回もお楽しみに!

Re: ポケットモンスターBW 道標の灯火*参照800突破感謝* ( No.57 )
日時: 2011/12/25 17:31
名前: プッツンプリン (ID: 6saKl71G)

アキラとリオが別々に行動することになりましたか。

アキラは何気に好きです。私の中では。

今回は何気にイケメンっぽいですねw(←黙らっしゃい

Re: ポケットモンスターBW 道標の灯火*参照900突破感謝* ( No.58 )
日時: 2011/12/25 22:21
名前: 霧火 (ID: um7OQR3E)

プッツンプリンさん

アキラを好きと言っていただき、ありがとうございます!
今回、自分でも「無駄にイケメンにしすぎたなー」と思いましたが、彼がイケメンになるのは
ごく稀なので、たまには良いと思います(ぁ

Re: ポケットモンスターBW 道標の灯火 ( No.59 )
日時: 2012/03/10 09:35
名前: 霧火 (ID: rtUefBQN)

*本作の登場人物〜身内〜*

名前:マオ 性別:女 年齢:15歳

容姿:腰まであるゆるいウェーブがかった金髪で赤い瞳で、目は吊り上がっている。
   スリットが入った、派手な赤いドレスを着ている。

性格:我が儘でプライドが高い完璧主義者。
   常に相手を小馬鹿にしたような態度を取るが、母親であるリマの事は
   尊敬しているらしく、リマと一緒に居る時は割と大人しくて素直。

備考:リオの姉。
   現在ポケモンリーグに挑戦するために修行中。


手持ち
ドレディア♀(特性:マイペース)
技 :花弁の舞・エナジーボール・眠り粉・蝶の舞
性格:真面目、物音に敏感
備考:マオが初めてゲットしたポケモン。
   1番付き合いが長く、マオが最も信頼出来るパートナー。
   頭に綺麗に咲いている花は、マオに大切にされている証。

スワンナ♀(特性:鳩胸)
技 :冷凍ビーム・暴風・熱湯・燕返し
性格:冷静、考え事が多い
備考:コアルヒーの時にマオに《熱湯》を浴びせ、激昂したマオによってゲットされた。
   進化する前は悪戯が好きな問題児だったが、進化して随分と大人しくなった。

ムーランド♀(特性:威嚇)
技 :ギガインパクト・ワイルドボルト・炎の牙・起死回生
性格:頑張り屋、力が自慢
備考:忠実な性格を気に入られ、2番目にゲットされた。
   マオは、野宿の時はムーランドのマントを布団代わりにして寝ているらしい。

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