二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄—
日時: 2010/12/30 15:16
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

初めまして。
お久しぶりです。
学園アリスを書いていた時計屋と申します。
今回はテイルズシリーズ唯一プレー経験のあるテイルズ・オブ・ジ・アビスを書きたいと思います。
なお、自分はご都合主義なので赤毛二人とも生存しております。それと、設定が未来となっておりまして子供が主役です。
色々、矛盾点があると思われますがスルーして頂ければ幸いです。
では、オリキャラ達を紹介します。

人物紹介

ローラン(女)
『唄われる音』
年齢 15ぐらい
性格 天然 
容姿 白のロング 栗色の瞳
その他 
ローレライに創り出された存在。一時期ユリア達に預けられていたが、ダアト裏切り時にユリアの手によってローレライの元へと返される。その為、ユリアを裏切ったオリジナルをとても憎んでおり、侮辱する事もしばしば。存在が似ているレプリカ達には寛容で優しく、酷い扱われ方をしているレプリカを見ると後先考えず喧嘩を売ってしまう。現在の社会情勢には疎く、スコールに教わりながら日々勉強している。口調が少し可笑しいユリア大好きっ子。
台詞集
「それに何の問題が有りけるの。」「お前は、嫌いだ。」「失せろと言うのが分からぬか?」「願いは叶わぬのが私という存在なのだから。」

スコール・フォン・ファブレ(男)
『闇を照らす光』
年齢 16
性格 温厚
容姿 朱色の短髪 翡翠の瞳
その他
ルークとティアの息子。ファブレ家の長男であり、リルカの兄。家を継ぐ気はあるが、一人旅をしてみたいという夢も持っている。ルークとティアから訓練は受け、実戦経験も豊富なため戦闘は強いが本人はあまり好きではない。勉強は好きだが、事実を確かめたいと外に遊びに行く事も。ユリアの譜歌も歌える第七音譜師。
台詞集
「世界は外に広がってるんだ。」「お前が犠牲になる世界が本当に正しいのかよ!!」「信頼しなくても良いから信じろ。」「お前が好きだよ。」

ギルフォード・レア・キムラスカ・ランバルディア(男)
『守り通す者』
年齢 17
性格 冷静沈着
容姿 紅の長髪 蒼の瞳
その他
アッシュとナタリアの息子。キムラスカ王国の王位正当後継者でリルカの婚約者。頭が良く物事を判断する能力に長けている。戦闘訓練を受けているため、スコールと同等の腕前を持つ。幼馴染みのスコールとリルカに振り回され頭を抱えながらも、自由な彼を尊敬もしている。表情は豊かだが、演技力抜群。リルカと結婚し国を支える事が目標。常識人な第七音譜師。
台詞集
「お前らは考えて行動しろよ。」「この国を誇りに思ってくれる人が一人でも多くいて欲しいんだ。」「俺は守りたいんだ。大切な奴らを。」「ほんと馬鹿だよな。救われるけどさ。」

リルカ・アウラ・ファブレ(女)
『清らかなる旋律』
年齢 14
性格 世話好き
容姿 栗色のロング 翡翠の瞳
その他
ルークとティアの娘。ギルフォードの婚約者でスコールの妹。何かに付けてサボろうとする兄を叱るのが日課。自立心は高く王家に連なる者としての自覚もあるため、日々民に尽くしている。ヒーラーとしての腕が高く、医療施設に泊まり込みで働くのが好き。将来はギルフォードと結婚し、国のために役立つのが夢。スコールと一緒にギルフォードを込まらせる事もある。
台詞集
「お兄様!!サボりはいけません!!」「いつか私と結婚してくださいね?」「こんなに傷ついて、平気なわけ無いでしょ!!」「精一杯お役に立ちます。」


もう少し出て来ますが、一応主要キャラです。
   

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Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.33 )
日時: 2011/08/02 18:37
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

第三十一幕〜道化の理由〜



地下特有の涼しい風が壁の割れ目から吹き込み、羽織る漆黒のマントが羽のように広がった。と、甲高い音がし入り口である扉から、同じようなマントを羽織った男女が足早に駆け寄る。風音に耳を傾け、天を仰いでいた男は二人に気が付くと穏やかな表情で迎え入れる。

「クラウン様。準備が整いました。」

耳打ちする女性に そうか と一言だけ呟くと二人は入り口を開けその場を去っていった。二人の後ろ姿を見送ると決意を表したかのような強い光を込めた紅の瞳と下ろしていた剣先をローランへと向ける。

「それではこれより儀式を執り行う。・・・何かあればこれが最期だ。言っておくといい。」

告げられたローランの心にはスコールの事ばかりが浮かび、思わず零れたのは涙ではなく幸福そのもののような笑顔だった。予想に反したローランの反応に男は内心驚愕するが、そんな事ローランには関係ない。一頻り幸福感に浸り思いついたように小さく、それでも聞き届けられるよう願いを込めて言葉を紡ぐ。

「なら・・・・もし貴様がいつかファブレの子息に出会った時伝えてくれないか。」
「・・・・・・」

一端言葉を起きローランは少し迷った。が、最期ぐらいはと気を持ち直し、己を消そうとしている男に笑みを浮かべ見上げる。

「貴方を信じて良かった と・・・。」

切なく、儚く、しかしとても綺麗に笑うその少女に男は驚きつつも、了承の意を示す為首肯を返す。

「承知した。我らの願いが叶った暁にはファブレの子に貴女の言葉を伝えよう。」

男の言葉にローランは小さく礼を言う。
きっと、どんな言葉を残してもスコールはは悲しむだろうとローランは知っていた。信じる事を諦めるなと、生きる事から逃げるなと、あの時自身に怒った朱の髪を持つ少年はとても優しい人なのだから。けれど、だからこそ男の情を借りてでも伝えねばならないと思ったのだ。スコール。その名の通り自身には彼が光だったから。彼が側にいてくれたからこそ自分は自分であれたのだ。
男は哀しげにローランを見つめると、手にした剣を掲げ力を込め床に突き刺し鍵のように一回りさせた。すると、光を帯びた線が透明な床を這い広がり、何かの陣を描く。微かに力を帯びているその線が最期中央で終結すると、ローランを囲うように緑の光が立ちこめた。
暖かなそれに囲まれたローランは自身の第七音素が乖離していく感覚を覚える。しかし、舞踏会の時のような痛みは感じられず、眠りに落ちる時の微睡みを与えてくれる。痛みも恐怖もなく穏やかな日だまりにも似たそれは、例えこの光の先に自身の消滅が在ろうと溢れる程の幸せを感じられた。


恐れはない。厭いはない。
恨む事でしか繋げられなかった私を。憎む事でしか生きられなかった私を。貴方は救ってくれたから。
大嫌いなこの世界が。大嫌いな人達が。少しだけ赦せるようになったのは紛れもなく貴方が生きていたから。生きて大好きだと笑っていたから。
貴方が生きているこの世界を。貴方が大好きだと云っている生きている人達を。傷つけずに済むのならこんなに幸せな事はない。
だから、どうか幸せで。
願う事はいつも貴方が幸せな世界を・・・・


光に身を任せ、消えるのだと思い閉じつつある瞳に爆発のような大きな音と共に映り込んだ今の今まで思い描いてた揺れる朱の髪は、迷いも躊躇いもなく離れていた男との距離を一気に詰め、防ぐ間を与えず手の剣で攻撃する。が、振り下ろされる剣に男は瞬時に反応し、刃物のぶつかる音が辺りに短く響いた。

「これはこれは、ファブレの子供ではないか。良く此処だと分かったな。」
「うるせぇよ。」

余裕を表すかのような男の言葉をスコールは低い声で一蹴する。
怒りを隠さず左右上下に振り回されるその太刀筋は、しかし鮮麗されており、防戦一方の男は仕方なしにローランの後方に跳びスコールとも距離を取と、今まで男の影が覆い隠していたローランが現れ、その姿にスコールは男が居る事も忘れ駆け寄り膝を突き抱える。

「ローラン!!!!!!!!!!」
「・・・ス・・・コー・・ル・・・・」

弱々しいながらも自身の名を呼ぶローランにスコールは少なからず安堵するが、緑の光と同化するように包まれるローランの左腕がその光に吸い込まれるように第七音素となり消えていた。

「ロ・・・・これ・・・・」

乖離の進行かとも浮かぶ考えをスコールは頭を振る事で追い払う。どんな形であれローランの消滅を受け入れられる程スコールは強くない。
これ以上の進行を止めるため第七音素を集めようと剣を翳すと フッ と嘲るような笑いが聞こえ、体勢はそのまま顔だけを上げ、男へと向ける。睨むように男を捉えるスコールは、しかし言葉を発さず男の言葉を待つ。それを分かっているのか、男はもう一度だけ笑いを零すと細めた紅の目でローランを見つめた。

「それは私の行い故の結果。世界を在るべき姿へ戻す為の一手だ。」
「何でローランを消さなきゃ成らないんだ。ローランがあんたに何かしたのか!!!」
「・・・分かって居るだろうにな。私の望みは預言の復活。それだけだ。」

男の返答を聞き奥歯を噛みしめた。
分かっている。ジェイドからも言われていたスコールにとってもローランがこの状況であるならそれ以外の目的はないと。
しかし、知っていたからと言ってそれを認める訳にはいかない。預言のない世界は父であるルーク達が命がけで成しえた事。それを選りにも選ってローランの消滅という形で壊すなど許す訳にはいかない。自由であるこの世界を望み戦った人達のために。なにより覆された世界崩壊の預言を繰り返さない為にも止めなければならない。

「何故だ!!!預言のないこの世界にも人は生きていける!!!絶対の未来が無くても俺たちは幸せであれるのに!!何故!!!」

届いて欲しくて。この世界にも、預言のないこの世界でも人は生きていける事を。ローランを犠牲に預言を再び復活させなくともそこまで人は弱くない事を。
しかし男はスコールのそこ言葉こそ嘲笑っていた

「預言のない世界で生きる・・・か。ならば預言の世界で死んでいった者達はどうなる!!!!・・・・・教えておこう。ファブレの子よ。私の最愛の妻は預言に詠まれ死んでいった。だから私は預言を復活させねばならないのだよ。」

男の言葉は悲しみを湛えスコール達の中に響いた。





つづく

Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.34 )
日時: 2011/08/03 15:31
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

第三十二幕〜最後の願い事〜




「私は嘗てバチカルの外れで妻と共に暮らしていた。妻は熱心なローレライ教徒で、寄付として毎月少ないながらも教団に捧げていた。日々の暮らしは貧しい中でも私達は幸せだった。・・・だから幸せは脆いものだと気付かなかったのかもしれんな・・・・・」

語る男はどこか遠くを見ているかのように天を仰ぎ、懐かしさからか目を細め微かにその紅が優しくなった。が、再びローランへと向けた視線は侮蔑以外なにもない冷たさだけが際立っているものだった。

「ある日妻は預言に詠まれたと云ってベルケンドへ行き、その途中遭遇した魔物に殺された・・・・・」
「!!!!・・・・だったら何故預言撤廃に反対する。預言の所為で奥さんを亡くしたのなら預言のない世界をどうして喜ばない。」
「・・・・預言を無くしてどうするのだ・・・」

低く、暗く呟くような小さな声にスコールは寒気が襲った。目の前に立つ男は既に後戻りできないほどの憎しみにが記憶を話す事で膨れあがり、正気を保つ事も放棄していた。

「預言を無くしてしまったら、我妻の死は無意味なものに成り下がってしまう!!!それだけは許す訳にはいかない!!!!!」

怒声と共に握られた剣は男の手により再び床に突き刺さり、光を纏う。

「預言の否定は我妻の否定!!!そのような世界滅んでしまえばいい!!!!!!!!!!!」

男の剣と呼応するかのようにローランの身体が一層光り出す。残されていた第七音素が引かれ合いながら剣に収束していった。力なくずり落ちるローランの手を蒼白にした顔でスコールが見つめる。支える身体が震え剣を握る手に力がこもる。
スコールはローランに微笑みを向けると抱える彼女を一度床に横たえ、未だ剣に力を送り続けている男を睨む。自身の勝利を確信しているのか、あるだけの力を込める男はそれでも倒れまいと突き刺した剣に寄りかかり光るそれを見つめる。
悔しさで乱れる心をそのままに足に力を入れ、一気に距離を詰めた。

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

微笑みながら集まる第七音素を愛おしそうに見つめていた男に向け剣を突き刺し、体重を乗せ思いっきり払う。
そのまま動かない両者を破ったのは突き刺したままの男の剣だった。ぱきんっ と二つに割られた剣は、集まり掛けていた第七音素が拡散すると共に形状を維持出来なくなった音素がはがれ墜ちていくように消滅し、男の身体も崩れ落ちる。

「・・・所詮は紛い物。本物には勝てなかったか・・・」

膝を突き悔しそうに、しかし笑う男からは切られた腹部から止めどない血が流れていた。咳き込む度に吐き出される血は男の命が長くはないと告げている。

「・・・・あんたはやり方を間違えた。預言のない世界を否定する前に奥さんの死に向き合うべきだったんだ。奥さんだってきっとそれを望んでたと思う。」
「・・・・妻の気持ちが・・・何故お前に分かる。」
「確かに・・・・俺はあんたの奥さんの事は何も知らない。けど、大切な人が悲しむ姿なんて見たくないと俺は思う。あんたの奥さんはどうだったんだ。あんたが、自分の大切な人が自分の死の所為で世界を否定する。そんな事を望む人だったのかよ!!」

弾かれるように男は一瞬スコールを見たが、泣きそうに笑うと俯き自嘲するように笑いを零す。

「・・・・今となってはもう・・・分からんな・・・・」

呟くと立ち上がり、床の縁まで揺らぐ身体で引きずるように歩きスコールを見据える。

「ファブレの子よ。私を止めたとて再び同じ者は産まれる。・・・世界を否定し、預言を渇望し、人々を。終わる事のない憎しみからこの世界を護る事が果たしてお前に出来るか?」
「・・・分からない。でも、護りたいと思う。」

何もなく、けれど何かを秘めた紅はこれ以上ない程優しく和らぐ。

「ならば、見届けよう。お前が選んだ道の結果を。」
「!!おい!!」

一歩ずつ下がる男は足場を無くし、斜めりながら墜ちる寸前天の光に顔を上げた。

「サイラよ・・・お前の所には逝けないな・・・・」

吸い込まれるように墜ちていく男は、最期眠るように目を閉じて逝った。





戦いの跡が残るその場に佇むスコールをローランは見つめる。
最後彼とクラウンが何を話していたのか、ローランには聞き取れなかった。何を話し何を思ったのかローランは分からないが、それでも彼がクラウンの死を悼んでいる事は伝わる。

何かを云いたくて、でもどんな言葉も浮かんでは来ない。
背負うばかりの背中はとても悲しく思えた。


「ローラン・・・大丈夫か・・・・?」

抱え上げる彼女に声を掛ける。しかし言葉に力はなくそれでも微笑み頷くローランはとても儚いく見えた。
本当は分かっている。此処まで乖離が進行しているのなら、消滅は逃れられない。万が一この場は凌げても、この状態では遠からず彼女は消えてしまう。

「ローラン・・・・ローラン・・・・」

名を呼ぶ事しかできない自分に腹が立った。あの時、初めてローランの乖離を目の当たりにした時、護ると決めたのに。二度と離さないと誓ったのに。それから自分は何の成長もしては居ない。力もないままでローランを苦しめているだけ。
ふと気が付くと消えかかった右手をスコールの頬に添え微笑むローランが居た。

「ん?」

出来るだけ優しく、悲しみを見せないように笑顔を向けると、更に声を上げローランは笑う。

「・・・何だよ。」
「・・・私が受け止めるから・・・・だから泣いていいよ・・・」

その言葉にスコールは目に手を当て驚く。堪えていたつもりの涙はその意に反し、流れ落ちていた。ローランは初めて見たスコールの涙が嬉しいのか、優しく拭いながらコロコロ笑う。
一頻り笑った後ローランは今までにない程の幸せそうな笑顔を見せ、唄うように言葉を紡いだ。

「スコール・・・私が世界に融けたらきっと貴方に逢いに行くよ。・・・・だから、笑っていて。」

ね?と悪戯そうに首を傾げたローランの手にスコールは自身の手を重ね、出来るだけの笑顔を作った。

「・・・・分かったよ・・・・いつかまた逢う為に笑ってる。」

約束だと呟くスコールにローランは嬉しそうに頷いた。





つづく

Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.35 )
日時: 2011/08/04 12:17
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

第三十三幕〜いつか、きっと〜


知ってた。分かってた。
こうなるんじゃないかって・・・・
でもね。願っても居たんだよ。
ずっと側にいられる未来を・・・・
届かなかったけど、それでも願う事は出来たから。
だから、ありがとう。貴方に逢えて幸せでした・・・・



穏やかな時間が二人の間に流れる。この時が自身の一番の幸せなのではないかと思う程流れる時は優しく、と同時に切ない。
永遠に進まなければいいと思う何処かで決して長くは続く筈のないとどこかで知っている自身が居る。ローランの身体は既に取り返しが付かない程乖離が進行し、最早少しの振動だけでもその形を保てず音素が剥がれるように融けているだろう。スコールもきっと知っている。だからこそ、無闇に移動せず少しでも長い間側にいたいとこの場を動かない。
迸る第七音素はきっと天へと昇り空に、世界に融けるだろう。それを怖いとは思わない。産まれた時からローランはローレライの元へ還る事を望んでいたのだから。不完全に産まれたから、必要とされていなかったから、浮かぶどれもが理由であり、しかしどれも違って。ユリアの元にいた時には迷い無く理由を選べたローランに疑念が生まれたのはスコールと暮らすようになってから。当たり前のように他と同じ接し方をしてくれる彼と過ごす中で生まれるそれは不安と称してもよかった。人ならざる自身は少なからず悪影響を与えている。ならば、離れるべきではないのかと、そう望まれるようになるのかと。声に出してしまえば、言葉にしてしまえば現実になるような気がしてずっと口を噤んでいた。考えるたび闇に墜ちそうになるローランを救ってくれたのは他ならないスコール自身だった。笑顔を浮かべ、ローランをローランとして接する彼に、やっとローランの霧が晴れた。


(あぁ・・・そうか私は私を見て欲しかったんだ。)


その答えは欠けていた何かを取り戻した時のように心の中へ広がる。
ローレライと似た響きを持つ自身の名を呼ばれるたび、自分はローレライの変わりだと思わずには要られなかった。勿論ユリア達はそんな事思いもしないと分かっていてもローランの中で知らず内に育つ劣等感は拭えはしなかった。けれど、スコールはその生まれを知りながらもローランを個人として見てくれていた。預言が無くなりローレライとの繋がりが以前より軽薄になったお陰とも云えるが、どんな理由であろうとそれがローランの望みだった。個人として見てくれる、それだけが理由ではないが、スコールを好きになった時初めてこの世界を信じてみようかと思った。
そこで ふ と思い出されたユリアが残した言葉の意味が少しだけ分かった気がした。

大好きなはずの世界に、大切なはずの仲間に、護りたかったはずの人達に。裏切られても笑っていたユリア。
絶望から恨んでも可笑しくはないはずなのに、彼女は幸せだったと繰り返していた。
今なら分かるよ。大好きだから。護りたいから。だから、幸せだったんでしょ?幾度裏切られてもそれでも信じていたいと思う世界に生まれてこられたのだから。


「スコール・・・・」

消えかけているローランは、か細い声で愛しい名を呼ぶ。呼ばれたスコールも、微笑みその声に耳を傾けた。

「唄って・・・・欲しいな・・・・。」

一瞬驚いたように目を見開いたスコールは直ぐにその意図を察したのか、頷き小さく息を吸い込んだ。


トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ


静かに響くそれは遙か彼方に契約として紡がれた唄


クロア リゥオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ


世界を愛し、それ故に儚い生をそれでも精一杯生き抜いた聖女の唄


ヴァ レイ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リュオ トゥエ クロア


再び甦ったその世界は、彼女の願いとはかけ離れていたけど生きる人は同じように世界で生きていた


リュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ


変わらぬその旋律は、二千年の時を経て約束を果たしてくれた


ヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ


聖女が願った世界は不安定で、彼女が望んだようにはいかないけれど
それでもこんなにも自由だから


クロア リュオ クロア ネゥ ズェ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ


苦しみや憎しみもあるけれど、幸せや愛おしさもあると分かったから
だから・・・・・


レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ


嘗て約束と祈りを込め唄われた旋律が空気に溶けるように消え、その瞬間ローランが纏う光が強さを増し、姿を薄れさせていく。

「ありがとう・・・・」

朧気になりながら見せる笑顔は、とても綺麗で。閉じられゆく瞳からは幸せしか感じられない。

「・・・私ね・・・大好きだよ・・スコールが・・・・」

段々と薄れる意識をそれでも思いを伝えようと拒むローランを、スコールは強く抱きしめた。

「・・・・だから・・・だからね・・・・私は・・・産まれてきて良かった・・・・幸せ・・・・だったよ・・・・・」
「・・・ローラン・・・・俺・・・俺は・・・」

伝えたい。
初めて己の生を喜べた彼女は否定し続けて、拒み続けた、でも消える瞬間でやっと『幸せだ』と切ない程綺麗に強く思えたのだ。
だから、伝えたい。想いを。

「俺も・・・・俺も・・・・」

涙を堪える声は震え、意志とは反し音がででは来ない。
突然ローランの顔が目一杯に広がり、一瞬唇に温かい何かが当たる。何が起こったのか理解出来ないで居ると見下ろすローランが微笑み、声を出さず口だけを動かした。それを読み取り、分かった と頷けば、輝くような笑顔がローランに広がり、次の瞬間融けるようにローランの身体が消えた。



「・・・・ローラン・・・・・俺も・・・・好きだよ・・・・・ずっと・・・・・」


スコールは昇る緑の光へ祈るように言葉を紡ぐと、俯き静かに涙を流した。






つづく

Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.36 )
日時: 2011/08/06 16:47
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

最終幕〜唄を唄おう 果たされるその日まで〜



それは、形を持つものではなかった。
漂わせ閉じる意識の中響くそれの声の主を少女は知っている。

『望みはあるか・・・・』

まるで確認のようなその声は、肯定する事を見越しているようだった。何もかも見透かされるその空間で、少女は小さく、だがしっかりと頷いた。

『ならば問おう。汝の望みを・・・』

[約束を・・・・守りたいです・・・・]

懇願するように、祈るように伝える少女は、きっと泣いていた。

『・・・・承知した・・・ならば還そう・・・今一度・・・・彼らの元へ・・・・・』

包む光は温かく、漂う意識の中少女は確かに視た。
辛そうに、それでも嬉しそうに笑う主の笑顔を・・・・・






見上げた空はとても綺麗な蒼で
いつか君が綺麗だと云っていた色によく似ていて
幸せそうに消えていった彼女は
本当に幸せだったのだろうか・・・・


開け放たれた窓からは穏やかな風が流れ込み、息吹く草花の香りを部屋の中まで運ばれてくる。その度に括られていないカーテンがなびき、その隙間から慌ただしく庭を往来する使用人達が垣間見え、隠そうとはせずに笑みを零した。
アブソーブゲートの戦いから早四年が過ぎ、スコールはこの日成人を迎える。その為に城では華やかな式と宴が催され、何週間も前からファブレ家は準備に大忙しなのだ。度々上がる様々な種類の声色に交ざり、部屋の扉が叩かれる音が届いた。来訪者を告げるそれは、特有の癖を持ち扉の前で待つ人物を浮かばせる。了承の合図も待たず開けるその人は、想像道理自身の妹で。

「そろそろ時間ですわよお兄様。」
「あぁ・・・・」

扉から覗かせた正装姿のリルカに、同じく正装姿のスコールは振り向くことなく短く答えはするが、動きはしない。それを分かっていたのか、急かす様子も見せないリルカは少々呆れた、しかし寂しそうな面持ちで日の光に手を伸ばす自身の兄を見つめる。


アブソーブゲートの最深部からギル達の手により連れ出されたスコールは、そこで見聞きした事全てを報告した後戦いで負った傷が癒えるまで一ヶ月間屋敷の中で過ごす事をルーク達に厳命さたが、肉体的外傷は帰宅直後のティアから治療を受けた為それ程日常生活に支障を来す事などない。しかし、精神的な傷までは癒せはしない。
発見された直後、スコールは泣いていたとギルフォードは云う。大切な人を失った悲しみと、約束をした事を護れなかった悔しさと、自身の不甲斐なさを嘆いていたと。けれどその時間は恐ろしい程短く、その後彼が泣く事はなかった。それと同時に人前で笑う事もなくなった。正確には何かを堪えるように笑うのだ。唯、風が凪ぐ時、セレニアの花を見つめる時、彼は唯一と言っていい程の笑顔を見せるだけ。理由を聞けば約束だからと呟くだけで、それ以上はギルフォードにも告げはしない。それでもいいと、笑っているなら安らぎがあるなら、何も聞かず見守ろうとギルフォードは誓った。


見つめるリルカは掛けられた時計に目を向け、焦りと共に自らが開けた扉を再度叩く。と、意図が伝わったのか、苦笑混じりに伸ばす手を下ろし、立てかける装飾用の剣を腰に差す。

「準備終了。ギルは?先行ったか?」
「既に式場でお兄様をお待ちしておりますよ。」

呆れと急かすような言い方にスコールは苦笑を返すと、リルカの叱咤が倍になり返ってきた。事が事だけにスコールは言い返しはせず宥め、兎に角式場へ足を進めるよう促した。


バチカル城の中庭は、昔と程変わらずにスコールを迎え入れ、唯一異なる色とりどりの草花がこれからの式典を祝福するかのように咲き乱れる。その中に、嘗てはなかった白のを見つけ思わず笑みが零れた。質素にけれど凛と咲くその姿を彼の人と重ねる。

彼女との出会いは本当に偶然。暇つぶしに出た街で虐げられるレプリカを見ていられず、助け出そうとして。怒らせるつもりはないのだけどと、聞き届けない相手の剣を避けようとした時、振るように彼女は目の前へと降り立った。大の男に怯まず嫌われ者であるはずのレプリカを助けるその姿は綺麗だと思わずには居られなかった。倒れた時寝かせたベットで魘される彼女を見ているのは辛くて、目覚めた後の叫びは哀しくて、セレニアを見せた時の顔が切なくて。
笑って欲しいと思った。
恨んでいる世界の中で、憎んでいる人々の中で、それでも一緒にいたいと云ってくれたから。隣を望んでくれるなら何が有っても護ろうと、そう決めたのに。
消えていく光の欠片を止める事が出来なかった。

彼女の髪と同じ白が揺れる。この日にこの場所に咲いてくれた事が何か意味のある事だと思えて、一輪手で優しく折ると風が凪がれた。花が飛ばされないよう手で覆う。

「・・・大丈夫。泣いてないからさ。」

消える間際に交わされた約束を呟き、涙の変わりに笑みを返す。

大丈夫。君との約束を違えたり何かしない。残された想いを裏切ったり何かしない。
だから、安心していいよ。約束が守られるその日まで僕は笑って居続けるから。

突然強く風が吹いた。予期せぬ事態にその場にいた使用人は悲鳴を上げる。スコールも身をかがめセレニアを覆うがセレニアの花びらは舞い上がり、スコールを通り抜け風が乗せて流れる。修まる頃には城の花びらは一輪残さず空へと飛んでいってしまっていた。
思わず出たため息と、鈴のような笑い声が重なった。ばっ と顔を上げ見つめる先には、城の髪をなびかせる待ち焦がれた彼女があの時のまま佇んでいる。

「ただいま。」

届いた声に、流れる涙に、愛おしさが込み上げ、駆け出す勢いのまま彼女を抱きしめた。
凪ぐ風が二人を包み、運ばれる白の花は祝福するかのように舞う。


つづく


Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.37 )
日時: 2011/08/08 11:02
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

エピロローグ


例えば 唄が語り継ぐ旋律のように 例えば 記憶が流れる時のように

想いが世界の中へと吹き込む風ならば

歩いていこう

それがどれ程の痛みを持とうとも それがどれ程の悲しみを与えようとも

行き着く先には 光があると信じて・・・・・










こんにちは。時計屋です。
やっと終わりました。長かったです。途中放棄もしていましたが、何とか書き終わる事が出来ました。
最後のシーン、オリジナルのラストをイメージして書いたのですが、あまり似ていませんで・・・・。少しでも伝わって頂ければ幸いです。
兎にも角にも、テイルズオブジアビス—誰が為の唄—無事終了出来ました。
雪姫さん。コメントを本当にありがとうございました。本気で嬉しかったです!!!!!
そして、今作を少しでも見て下さった方。本当にありがとうございました。




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