二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ポケットモンスターBW *道標の灯火*
- 日時: 2020/09/15 16:16
- 名前: 霧火# (ID: HEG2uMET)
初めまして、霧火と申します。
昔からポケモンが好きで、今回小説を書こうと思いました。
舞台はポケットモンスターブラック・ホワイトの世界です…と言っても舞台はゲーム通り
イッシュ地方ですが、時間軸はゲームの【数年前】でオリジナル・捏造の要素が強いです。
そして、別地方のポケモンも登場します。Nとゲーチスは出ないかもしれません(予定)。
!注意事項!
↓
1.本作のメインキャラは【最強】ではありません。負ける事も多く悩んだりもします。
2.書く人間がお馬鹿なので、天才キャラは作れません。なんちゃって天才キャラは居ます。
3.バトル描写や台詞が長いので、とんとん拍子にバトルは進みません。バトルの流れは
ゲーム<アニメ寄りで、地形を利用したり攻撃を「躱せ」で避けたりします。
4.文才がない上にアイデアが浮かぶのも書くペースも遅いため、亀先輩に土下座するくらい
超鈍足更新です。
3〜4ヵ月に1話更新出来たら良い方で、その時の状態により6ヵ月〜1年掛かる事があります。
申し訳ありません。
新しいタイトルが発表されてポケモン世界が広がる中、BWの小説は需要無いかもしれませんが
1人でも多くの人に「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえるよう精進致しますので、
読んでいただけたら有り難いです。
**コメントをくれたお客様**
白黒さん パーセンターさん プツ男さん シエルさん
もろっちさん 火矢 八重さん かのさん さーちゃんさん
有り難うございます。小説を書く励みになります++
登場人物(※ネタバレが多いのでご注意下さい)
>>77
出会い・旅立ち編
>>1 >>4 >>6 >>7 >>8 >>12 >>15
サンヨウシティ
>>20 >>21 >>22 >>23
vsプラズマ団
>>26 >>29 >>30 >>31
シッポウシティ
>>34 >>35 >>39 >>40 >>43 >>46 >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>55 >>56
ヒウンシティ
>>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>72 >>75 >>76 >>78 >>79
ライモンシティ
>>80 >>82 >>83 >>88 >>89 >>90 >>91 >>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>106 >>116 >>121 >>122 >>123 >>126 >>127 >>128 >>130 >>131 >>134 >>137 >>138 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>148
>>149 >>150 >>151
修行編
>>152 >>153 >>155 >>156 >>157 >>160 >>163 >>166 >>167 >>168 >>169 >>170 >>171 >>173 >>174 >>175 >>176 >>177 >>178 >>180 >>182 >>183
>>185 >>187
番外編(敵side)
>>188
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37
- Re: 70章 不安 ( No.141 )
- 日時: 2018/06/09 12:18
- 名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)
目の前に広がる色は青と緑、そして赤。
その後に浮遊感が襲って、今度は水色と金色に変わる。
「 !」
そして白い世界で呼ぶんだ──
「…リオ。リーオ」
「………おかあ、さん?」
何度も自分を呼ぶ声に重い瞼を開けると、リオを見下ろす形でリマが立っていた。
「うふふ。やっと起きた〜」
「あれ……何で?ここ、は…どこ?」
ぼんやりと呟いたリオに、リマは苦笑する。
「あらあら。まだ寝坊助さんかしら?ここはアキラ君の家で、私とはさっき会ったじゃない」
「そっか…ごめんなさい。私、今の今まで夢を見てたから…」
「どんな夢を見てたの〜?」
楽しそうに尋ねたリマに、リオは暫く考えてから、
「……忘れちゃった」
そう、静かに返した。
「あらら…残念」
とても残念そうには見えない笑顔で言うと、リマは近くに置いてあった椅子に腰掛ける。
「それにしても…こんな遅くまでお昼寝だなんて、よっぽど疲れてたのね〜」
リオが徐に窓から外を見ると、すっかり日が暮れていた。
窓から目を逸らし、バツが悪そうに目を泳がせるリオの頬と耳は赤い。
「…どうだった?カミツレさんとのバトルは」
「ジムその物がバトルフィールドで、トレーナーの動き次第で戦況があんなに変わるバトルは
初めてだったから…正直、凄く緊張したし疲れた」
言葉を止めて振り返ったリオは、へにゃり、と笑った。
「…でもね、それ以上に楽しかった」
「そう…良かった」
目を細めて柔らかく微笑むリマ。
しかし急に、細められていた目が大きく開いた。
「どっ、どうしたの!?」
「ねぇリオ」
「な、何…?」
コロコロ変わる母の表情に若干怯えながらも聞き返すリオ。
「明日アキラ君と組んで、お母さん達とタッグバトルしてみない?」
「………はい?」
笑顔で出された提案に、思わず疑問系で答えるリオだった…
┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼
そして翌日──
大きな跳開橋の前に、リオは立っていた。
「どうしてこうなった」
真顔で呟いたアキラの視線の先──そこにはリオとアキラ、2人に向かい合う様にリマとアヤネが並んで
立っていた。
前を見つめ大きく溜め息を吐いたアキラにリオは目を吊り上げる。
「そんなに嫌なら断れば良かったじゃない」
「…俺だって、こうなるって分かってたら断ってたっての」
複雑そうにリオに言い返し、アキラは昨晩リマと交わした会話を話した。
┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼
「今日の夕飯はいつも以上に豪華で、凄い量だったな…」
食事を済ませたアキラはお腹を擦ると、浸けてあった食器を洗っていく。
次々と綺麗になっていく食器を目で追いながら、イーブイも賛同する様に鳴いた。
「リマさんは涼しい顔で平らげてたけど…もしかして大食いなのか?でも細ぇよな…」
『ブイ、…ケプッ』
「…明日からいっぱい動かなきゃな。俺もお前も」
最後の食器を洗い終えた頃、お風呂上がりのリマがひょっこりと顔を出した。
「男の子なのに偉いわね〜アキラ君は」
「リ、リマさん!いえ、俺なんて全然ですよ!」
「うふふ…謙遜しちゃって。リオにも見習ってほしいわ〜」
(これは、好感度大幅アップ!?)
心の中でガッツポーズするアキラ。
そんなアキラに、頬を上気させたリマが口を開いた。
「…あのね、アキラ君。明日私と「喜んでっ!!!」あらあら。即答してくれるなんて嬉しいわ〜」
「勿論です!リマさんからのお誘いですから!!」
「うふふ。じゃあ明日の9時に、リオと一緒に5番道路に来てね〜」
「はい!……って、え?リオと?」
頭に疑問符を浮かべるアキラに、リマは手を振って廊下へと歩いて行った──
┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼
「アキラも大抵人の話聞かないわよね」
話を聞き終えたリオの口から真っ先に出たのがその言葉だった。
全くその通りである。
「し、仕方ねぇだろ!?頬染めて、明日私と…なんて言われたらデートと勘違いするだろ男なら!」
「お風呂上がりで赤かっただけでしょ」
冷めた目でバッサリと切り捨てたリオにアキラは目を見開くと、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「嘘だろ…!?それじゃあ俺、ただの勘違いヤローじゃねぇか…!」
「知らないわよ。じゃあ今からでも遅くないから、断ってくれば?」
そう言ってリオはリマ達を指差す。
「リマと組むのなんて何年ぶりですかね…腕は鈍ってない?」
「うふふ。こう見えても暇な時はバリバリ鍛えてるのよ♪問題ないわ〜」
和やかに交わされる会話。
しかしその一方で会話を一通り聞いたアキラの顔は、これでもかと言うくらい無表情になる。
「断るか、現状を受け入れるか…どっちにするか決めなさい。優柔不断な男の子は嫌われるわよ」
「あんな会話を聞いて、楽しそうなリマさんを見て、断れるワケねぇだろ……」
がっくりと肩を落とすアキラ。
リオもまた、これから始まるバトルに一抹の不安を感じるのだった。
タイトルが大袈裟ですが、リオの心情を表しているだけなので、特に深い意味はありません(えっ
- Re: 71章 プランA ( No.142 )
- 日時: 2018/06/09 12:23
- 名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)
そんなこんなで、リオ&アキラvsリマ&アヤネの、タッグバトルの始まりである。
「使用ポケモンは皆1体ずつ。2体共戦闘不能になったコンビが負けで良いかしら〜?」
「OK!」
「その方が手っ取り早いし、私も構いませんよ」
「俺も意義無しです!」
人差し指を立てて提案したリマに、リオ、アヤネ、アキラの順で返事する。
それを確認してからリマはボールを手に、アヤネに目配せをする。
アヤネは頷くとボールを手に取る。
続けてリオとアキラもボールを構える。
「それでは早速始めましょう。出てらっしゃいバチュルちゃん!」
「私はこの子で行くわね♪ママンボウ〜」
アヤネのポケモンはダニの様に小さくて黄色い身体に、青い目をしたポケモン──くっ付きポケモンの
バチュル。
リマのポケモンはピンク色で、ハートの形をしたマンボウの様なポケモン──介抱ポケモンのママンボウだ。
(母さんはバチュル、リマさんはママンボウか…)
(電気・虫タイプと水タイプが相手ね)
((それなら!))
「頼んだぞモグリュー!」
「シビシラス、お願い!」
対するアキラはモグリュー、リオはシビシラスを繰り出した。
「モグリューちゃんに電気タイプの技は効果が無い。そしてママンボウちゃんが苦手なシビシラスちゃんを
選択…うん、悪くない判断ですね」
「でも相性だけじゃ決まらないのがポケモンバトルよ〜」
「ええ。そう簡単に勝てるとは思ってないわ。でも…」
「悪ぃけど勝つのは俺達ですよ!」
ポケモン達は共に戦うパートナーに笑いかけ、そして倒すべき相手を睨む。
「先制は頂きますよ。バチュルちゃん!シビシラスちゃんに毒突き!」
「ママンボウ。モグリューにアクアジェットよ〜」
バチュルは毒に染まった手を前に出してシビシラスに突っ込み、ママンボウは背びれと尾びれを
左右に動かして水を纏うと、目にも留らぬ速さでモグリューに迫る。
「シビシラス!右に移動してチャージビーム!」
「モグリュー左に移動!切り裂く!」
シビシラスは突っ込んで来たママンボウを束状の電気を発射して吹き飛ばす。
そしてモグリューもまた、鋭く丈夫な爪でバチュルの攻撃を耐え抜くと、そのまま空いた爪で
バチュルを切り裂く。
「あらあら。返り討ちにされちゃったわね〜」
「咄嗟に配置を換えて対処するなんてやりますね。先制を貰ったのはこっちなのに…少し悔しいかも」
「アヤネ。ここは1つ、プランA発動よ〜」
「発案者はリマなんですから、失敗しても文句言わないでね」
(プランAが何なのかは気になるけど、相手は私達のお母さんで遥かに経験があるトレーナー。
余裕を持たせちゃいけない)
「…どんなプランか知らないけど、ガンガン行くわよ!ママンボウにスパーク!」
「迎え撃つわよ〜アクアジェット〜」
シビシラスは体内から放出した電気を自ら纏うと、そのままママンボウへと突進する。
ママンボウも水を纏ってシビシラスへと突っ込む。
「モグリュー!バチュルに切り裂く!」
『グリュ〜…』
負けじとアキラも早口でモグリューに指示を出す。
しかしモグリューは困った顔で首を横に振るだけで、動く気配は無い。
「どうしたんだ?バチュルはそこに居……」
言いかけて、止める。
先程まで小さくても確認出来たバチュルの姿が──消えていた。
┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼
(何だ…プランAって言うから警戒してたけど、特に何も無さそうね)
突進するシビシラスと迎え撃つママンボウ。
水色と黄色がぶつかり合うのは直ぐだろう。そして、衝撃で両者が後方に下がるのも想像出来る。
(そこをどう攻めるか…それがカギね)
シビシラスとママンボウの距離が10m、5m…と縮まっていく。
そして1mを切った時──突然ママンボウが急上昇した。
『!?』
驚いて上を見るシビシラスにつられて、リオも顔を挙げるが、風を切る何かの存在に気付いて前を見る。
「…!シビシラス、前よっ!!」
『!』
切迫したリオの声に、シビシラスは数秒遅れて前を見る。
「遅いわリオちゃん!バチュルちゃん、シザークロス!」
『バチュッ!』
風を切りながら、バチュルは交差させた爪でシビシラスを真正面から切り裂いた。
不意打ちの攻撃を喰らったシビシラスは目を瞑ってヨロヨロと後ずさる。
「何…今の攻撃のスピードは…?速すぎる…!」
狼狽えるリオ。目にも留らぬ速さとは、正にこの事を言うのだろう。
それ程、今の攻撃は《アクアジェット》にも勝る速さだった。
(いつ目の前に?それに、まだ何か忘れて……)
分かりそうで分からない、モヤモヤした物がリオの中を駆け巡る。
モヤモヤが解消されたのは水滴が落ちる音と、のんびりしたリマの声が聞こえた時だった。
「まだ終わってないわよ〜」
「!」
(そうよ、終わってないじゃない……ママンボウの攻撃は!)
ママンボウはシビシラスとぶつかる直前に上昇した。
ポケモンは攻撃を躱されると驚きとショックからか、今まで出していた技を中断するが、自ら…意図的に
攻撃をしなかったとなると話は別だ。
リオが上を見ると、ママンボウは上空でアクアジェットを維持した状態で待機していた。
「攻撃再開よ〜」
リマの指示でママンボウは顔を下に向けるとそのまま急降下、再びシビシラスへと迫る。
「チャージビーム!」
シビシラスは上に向かって束状の電撃を発射するが、向こうは落下の勢いも加わって威力が増している。
《チャージビーム》を受け続けているのに一向に止まらないママンボウに、リオは汗を流す。
「動きを止めて!電磁波!!」
「残念。もう遅いわ〜」
リマが言ったと同時にママンボウが地面に激突した。
大きな音がした刹那、砂埃が舞い、水飛沫が飛び散る。
「まずはシビシラスちゃん撃破ですね」
「…いいえ。まだ決まってないわ〜」
「え?」
嬉しそうに言ったリマにアヤネは首を傾げる。
「あれを見て〜」
リマが指差す先には、ママンボウと…大きく亀裂が入ったコンクリート。
しかし攻撃を喰らった筈のシビシラスは、バチュルの近くへと移動していた。
ダメージを負った様子は無さそうだ。
「あの状況で躱したの?でもどうやって…」
「ママンボウの横に、穴が空いてるでしょ〜?ママンボウの攻撃が当たる前にモグリューが穴を掘って、
シビシラスを穴の中に引っ張って助けたのね〜」
「正解です」
自分の方を見て話すリマにアキラは頷いた。
「俺のモグリューは攻撃の対象から外れてたんで、シビシラスの援護に回りました。間に合うかどうか、
正直ヒヤヒヤしましたけど」
「モグリューが《穴を掘る》でシビシラスを助ける事は想像してたけど、あの決断の速さは
想定外だったわね〜…1歩間違えればモグリューも巻き添えを食らう可能性もあるのに…
凄いわ〜」
「それは俺の台詞ですよ」
リマは何の事か分からず首を傾げる。
「攻撃をするんなら、わざわざ正面から仕掛けなくても済むハズです。それこそ背後から攻めた方が
良い…にも関わらずわざと真っ向勝負を仕掛けたのは、シビシラスの視界にママンボウだけが
映る様にして、本命──尾びれの後ろに隠れたバチュルの存在に気付かせない為ですよね?」
アキラの言葉に、今まで静かに聞いていたリオは目を見開く。
「そっか…あの速い攻撃は《アクアジェット》の勢いを利用した物で、急に目の前にバチュルが現れたのも、
バチュルがママンボウと一緒に移動していたから。バチュルは一際身体が小さいから、ママンボウの大きな
尾びれで見えなかったんだわ」
「コレがリマさんの言ってたプランA…ですよね?」
「本当ならママンボウの攻撃が決まって、初めてプランAと言えるんだけどね〜」
小さく息を吐くリマ。
落ち込んでいるのだろうか──そう思ったリオとアキラだったが、次に出たリマの言葉は、
2人が想像していた物とは全く違う物だった。
「…でも失敗して良かったかもね〜バトルを続けられるし、別のプランも試す事が出来るんだから♪」
笑みを深くしたリマに、リオ達は戦慄に似た何かを感じるのだった──
- Re: 72章 勝利の糸口を握るのは、 ( No.143 )
- 日時: 2018/06/09 12:26
- 名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)
「うふふ。今度はプランBを実行してみましょうか〜」
朗らかに笑うリマだが、娘故か──リオは母から放たれる気迫を感じ取り後ろへ下がりそうになる。
しかし不安そうに自分を振り返ったシビシラスを見て、下がりかけた足を踏み留める。
「……私はお母さん達に勝てる程、経験と知識を持ってるワケじゃない。自分は弱いって自負してるよ」
突然喋りだしたリオに全員の視線が集まるが、リオは静かに言葉を続ける。
「今だって焦るどころか純粋にバトルを楽しんでいるお母さんに、一瞬だけ敵わないって思って…
気付いたら足が勝手に動いてたわ。どんなに強がっても、私は結局臆病なの」
リオは目を閉じて自嘲に似た笑みを浮かべた。
臆病──その言葉を聞いたリマは目を伏せ、アキラは眉を顰めた。
「リオ、」
「だけど…臆病でも勝ちたい、負けたくないって気持ちだけは誰よりも強いのよね」
小さく苦笑を漏らすと、リオはアキラを見た。
「我ながら思うけどメンドーな性格でしょ?」
「………つーかさ、ずっと言おうと思ってたけど…誰が臆病?」
「え?」
ぽかん、とするリオに「だってさ…」とアキラは人差し指を立てる。
「時速300キロで飛ぶエアームドの背中に涼しい顔で乗ってたり、野宿に抵抗無かったり、バイク乗った
詩人気取りの変なオッサンに初対面ながら説教する奴が、臆病?」
「な…!そんな真顔で聞き返さないでよ!しかも最後の方は小さい頃の黒歴史!」
「他の人の迷惑なんでバイクを止めて下さい、ねぇ…俺には出来ねぇ説教だわ」
「うっ」
シリアスな雰囲気はどこへやら。
ニヤけ顔で見てくるアキラに一気に顔を赤くしてリオは怒鳴るが、直ぐにアキラの言葉で反論する声は
唸り声へと変わる。
恨めしそうに自分を睨むリオに吹き出してから、
「まぁ要するに、お前に臆病なんて言葉似合わねぇよ。…昔っからリオは強いよ」
アキラはリオの頭を一撫でして微笑んだ。
リオは頭に乗せられた少しだけ大きな手を見上げた後、唇を尖らせる。
(何よ…急にお兄ちゃんぶっちゃって)
心の中でそう思っても、リオの口許はいつの間にか弧を描いていた。
「よし!それじゃあ「反撃開始といくか!」…って、私の台詞取るな!シビシラス、バチュルに体当たりっ!!」
リオは言葉を遮ったアキラの背中を叩いて、シビシラスに指示を出す。
シビシラスは小さく頷くと身体をバネの様に縮ませ、近くに居たバチュルに勢いをつけて突っ込む。
「避けて下さい!」
アヤネの指示も、その指示にバチュルが反応したのも遅くなかった──むしろ早いレベルだ。
にも拘らず、バチュルが動く前にシビシラスの《体当たり》がクリーンヒットし、バチュルの身体は橋の方へ
吹っ飛ばされた。
「バチュルちゃん!」
「ママンボウ、受け止めるのよ〜」
橋にぶつかる前にママンボウが《アクアジェット》で橋とバチュルの間に移動して尾びれで
受け止めた事により、バチュルのダメージは最小限に抑えられた。
「ありがとう」
「どういたしまして〜♪」
リマにお礼を言い、アヤネはシビシラスを見つめる。
(明らかに威力もスピードも上がってる…リオちゃんの勢いに、シビシラスちゃんが影響されてる?)
「…やっぱりこのバトルは正解だったわね」
不意に聞こえた安堵した声。
アヤネが隣を見ると、リマは前を見据えたまま微笑んでいた。
何が正解なのかアヤネには理解出来なかったが、今はバトルに集中すべきだと息を吐き
気持ちを落ち着かせる。
「お返しです!シビシラスちゃんにシグナルビーム!」
「私達も続くわよ〜アクアジェット〜」
バチュルは不思議な光を発射し、ママンボウは水を纏って光の横に並ぶ。
「させるか!モグリュー、岩雪崩!」
モグリューが爪を上に挙げると、突如バチュルの頭上に巨大な岩の塊が現れてバチュルを押し潰す。
ママンボウは次々と落ちて来る岩を身体を捻って躱して行く。
進路を断つ為に目の前に落とした岩も、ママンボウは細い身体を利用して僅かな隙間を通り、
シビシラスへ接近する。
「リオ!」
「任せて!シビシラス、電磁波!」
シビシラスは向かって来たママンボウに微弱な電気を飛ばす。
《アクアジェット》で全身に水を纏っていたママンボウに電気が行き届くのは直ぐだった。
「アキラ!」
「サンキュー!モグリュー、切り裂く!」
動きを止めたママンボウにモグリューの鋭い爪が閃き、赤い痕を付ける。
バチュルは岩に邪魔されて身動きが取れず、ママンボウは痛みにもがいている。
「…今までの戦いで分かった?」
「ああ」
前を見据えたまま問い掛けたリオにアキラもまた、首を動かさず返事をする。
「攻撃を一点に絞るわよ」
「了解。ヘマすんなよ」
リオとアキラの間で交わされた作戦。
内容は聞こえずとも、只1人…リマには2人が何を考えているのか、手に取る様に分かっていた。
何故なら…
「…うふふ。リオ達のお蔭でプランBの発動条件成立ね」
リオとアキラが辿り着いた作戦は、2人がその考えに行き着く様に……リマが最初から
仕向けていた物なのだから。
「行くわよシビシラス!」
「準備は良いかモグリュー!」
リマの笑顔の裏に隠された戦略に気付かずに、リオとアキラは勝利を掴み取ろうとする。
その姿はまるで、吊るされた糸に気付かない哀れで滑稽な操り人形──
お久し振りです、霧火です。連絡もせず約1ヵ月更新しないですみませんでした…!
4月に入ってから異常とも言える程多忙で、パソコンの電源を入れる事も出来ずにズルズルと日にちが
過ぎてしまいました。
今回やっっと時間が取れたので所々修正してあげました…が、また直ぐに多忙な日々が待っているので
5月になるまで更新が出来ないかもしれません。
しかし次の話は半分執筆が終わっているので、追加と修正を繰り返せば
もう1話は4月中に更新出来そうです。
謝罪と言い訳と報告はこのくらいにして…次回、プランB発動、そして決着です。
それでは次回もお楽しみに!
- Re: 73章 プランB ( No.144 )
- 日時: 2018/06/09 12:30
- 名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)
風を遮る建物が少ないこの場所は風が特に強く吹き、木々と草むらを大きく揺らす。
吹き荒れる風にポケモン達はお互い抱き合ったり、木にしがみついたりと、知恵を振り絞って風に耐える。
『……』
そんな彼等を尻目に、1匹のポケモンは木の陰から繰り広げられるバトルと──金髪の少女をじっと見つめていた。
「バチュルにチャージビームよ!」
リオは顔にかかる髪を抑えながら指示を出す。
シビシラスは身体に蓄積していた電気を帯状のビームにして一気に放つ。
ビームは風を突き抜け、行く手を遮る岩をも砕きバチュルに迫る。
「避け切れない…なら、突破です!」
岩の中から這い出したバチュルは躊躇う事無く光の中へ突っ込んだ。
バチッ、バリバリバリッ、と電気を破る様な音が暫く続き──
「そろそろですね。シザークロス!」
アヤネが言い終えた刹那。
《チャージビーム》の中から爪を交差させたバチュルが現れ、勢いを殺さずシビシラスを切り裂いた。
攻撃が通って得意気に小さく鳴くバチュルだが、コレは1対1のバトルではない。
「背中がガラ空きだぜ!モグリュー、切り裂く!」
密かに《穴を掘る》で地中を移動していたモグリューがバチュルの背後を取り、鋭い爪で薙ぎ払う。
「宙返りで回避!」
しかしバチュルは自分の身軽さを活かして横に振られた爪を宙返りで躱すと、モグリューの頭に着地した。
目を細め、嬉しそうに一鳴きしたバチュルにアキラの顔が引き攣る。
「しまっ…捕まえろ!!」
モグリューは頭の上のバチュルを抑えようと爪を伸ばすが、バチュルはひらり、ひらりと爪を掻い潜る。
「続けて毒突きです!」
そうこうしてる間にバチュルは毒素を含めた爪でモグリューの額を力強く突く。
バチュルが爪を離すと、そこには顔色を悪くしたモグリューが居た。
アキラは眉間に皺を寄せて小さく舌打ちをする。
(効果はいまひとつだが、こんな時に毒が回りやがった…!)
爪をだらん…と下ろし、荒い息を繰り返しながらその場に座り込むモグリュー。
バチュルは再び攻撃する為か、モグリューの頭に乗ったまま動かない。
その様子を見ていたリオはシビシラスが起き上がったのを確認してから、静かに口を開いた。
「シビシラス。モグリューに電磁波」
「「!?」」
リオの言葉にアヤネは驚愕する。
《電磁波》は電気タイプの技で地面タイプであるモグリューには効かない。
しかし効かないと言っても味方を攻撃する事実には変わりなくて、アヤネはリオの真意が理解出来なかった。
「おい!何考え「シビシラス。遠慮はいらないわ、やっちゃって」…リオ!」
仲間であるアキラの抗議を遮り、リオは困惑しているシビシラスに声を掛ける。
シビシラスは狼狽えていたが、目を瞑ると微弱な電気をモグリュー目掛けて飛ばした。
電気は真っ直ぐモグリューへと向かい、やがて命中した。
『…ッ!』
モグリューの頭の上に居たバチュルに。
「──え?」
音を立ててモグリューの目の前に落ちたバチュルに、アヤネは目を瞬かせる。
「よし!バチュルは麻痺状態になった。大成功ね」
口角を上げたリオにアヤネは視線を送る。
「簡単且つ単純な作戦だったんですけどね」
説明を求める視線に気付いたリオはそう前置きして話し始める。
「《電磁波》はモグリューには効きませんよね?でも効かないと言っても、電気自体を弾くワケじゃなくて、
1度はモグリューの身体を通ると思うんです。そして最後に行き場を無くした電気は地面へ流れて行く……
この時もし地面に流れる途中にモグリューに密着している子が居たら、どうなるのかと疑問に思って」
「そうして試した結果──電気はモグリューちゃんに密着していたバチュルちゃんの身体を通って、
バチュルちゃんは麻痺状態になったという事ですか。モグリューちゃんへ攻撃を指示したのは、
作戦を悟られない為ですね」
「バチュルを狙ってもモグリューを盾にされるか、あの身軽さと素早さで躱されると思いましたから」
肩を竦めてみせたリオに苦笑して、アヤネは視線をアキラへ向ける。
「……アキラのあの慌てようも演技だったのね。すっかり騙されましたよ」
「流石私の幼馴染み。名演技だったわよ、アキラ!」
「ふっ…当然だろ?」
親指を立てたリオにアキラは前髪を手で払い、眼鏡を押し上げる。
(ガチで焦ってたなんて、口が裂けても言えねぇ……)
心の中では何とも情けない事を呟いていたけれども。
「バチュルまで麻痺状態になっちゃったわね〜…ママンボウ、動ける〜?」
一方、完全に蚊帳の外状態のリマはママンボウに声を掛ける。
リマの問い掛けにママンボウは身体を動かすが、直ぐに電流が走って地面に倒れてしまう。
「あらあら。じゃあ動くのは次にしましょ〜」
そうリマが微笑むと、ママンボウの身体が鈍い光で包まれた。
┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼
「シビシラス、スパーク!」
電気を纏ったシビシラスの攻撃がバチュルに命中する。
踏ん張っているのか、バチュルはしっかりとシビシラスの顔にしがみついていたが、限界だったのか
パッと離れた。
「…?」
バチュルを見たリオが目を細めた。
その後に目を擦り、何度も瞬きをするリオにアキラが首を傾げる。
(今、バチュルの口から何かが漏れた様な……目の錯覚?)
訝し気にバチュルを見つめるリオ。
バトルが激化する中、1つの人影が動いた。
「…うーん。そろそろ良いかしらね〜」
体を伸ばし、リマはモグリューを指差す。
そして口許に笑みを浮かべて、ゆっくりと言い放つ。
「水浸し〜」
ママンボウの口から大量の水が発射された。
麻痺になってからバトルに干渉しなかったママンボウの突然の攻撃に避ける間もなく、モグリューは
全身に大量の水を浴びる。
「モグリュー大丈夫か!?」
『モグ〜〜〜』
びしょ濡れになり元気を無くした様だが、ダメージは受けてなさそうだ。
ほっとするアキラだったが、モグリューの身体を包む様にして現れた水のベールに眉間の皺を寄せた。
「何だアレは…?モグリュー、破っちまえ!」
モグリューは自慢の鋭い爪で自分を覆うベールを切り裂いたり引っ張ったりしてみたが、
一向に破れる気配は無い。
「リマ…遅いです」
「ごめんね〜でも、バチュルの調子は整ったでしょ?」
「お蔭さまで」
「…整った?」
「どういう意味ですか?」
リマの言葉にリオ達は食いつく。
2人を見てリマは微笑み、そして──目を細めた。
「攻撃の要はバチュルで、ママンボウの攻撃手段は《アクアジェット》だけ。バチュルを集中攻撃して倒せば
勝利は決まったも同然、こっちには相性が良いシビシラスが居るから大丈夫」
「「!?」」
驚くリオ達にリマはいつもの笑顔を向ける。
「うふふ。補助系は恐るるに足らず、なんて大間違いよ〜?」
「そういう事です。…バチュルちゃん、放電!」
「ママンボウ、守る〜」
ママンボウが緑色の球体に包まれる。
それから直ぐにバチュルの身体から電撃が膨れ上がった。
「…っ」
電撃の眩しさに、リオとアキラは一瞬目を瞑った。
光が止み、2人が目を開けると…シビシラスとモグリューが目を回して倒れていた。
2匹共、戦闘不能だ。
「どうしてモグリューが…?」
「それにバチュルは麻痺状態で直ぐには動けねぇハズ…!」
バチュルとの攻防で体力を削られていたシビシラスが今の攻撃で戦闘不能になるのは分かるが、
地面タイプであるモグリューに何故《放電》が効いたのか不可解だった。
バチュルがあんなに速く動けたのも疑問だ。
そんな2人の疑問にリマとアヤネがそれぞれ答える。
「《水浸し》は相手のタイプを水タイプ単体に変える技なの〜他のタイプを併せ持ってるポケモンも
水タイプ単体に出来るのよ〜♪」
「そしてバチュルちゃんが直ぐ動けたのは、ママンボウちゃんの特性【癒しの心】のお蔭なの。
この特性は1/3の確率で味方の状態異常を治してくれるんです。運が良い事に、
バチュルちゃんの麻痺が治ったのは麻痺状態になった直ぐ後でした」
「…そんな技があるなんてね」
「成る程な。ママンボウの身体が鈍く光ってんのは見えたが、それは特性が発動してる光だったのか」
謎が解消されたリオとアキラはボールを手に取る。
「ありがとうシビシラス。戻って休んでて」
「サンキューな、モグリュー。ゆっくり休んでくれ」
リオはシビシラスを、アキラはモグリューをボールに戻す。
『……』
バトルを陰から見ていたポケモンはリオ達がボールを仕舞うのを確認すると、満足げに頷いて
雲の中へと消えて行った。
- Re: 74章 密かに、 ( No.145 )
- 日時: 2018/06/09 12:36
- 名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)
シビシラス達を回復させるべく、ポケモンセンターに向かうリオ達。
その途中でリオは気になった事を聞いてみる事にした。
「ところで…何で直ぐに《水浸し》を使わなかったの?最初から使ってれば、あっという間に
決着はついたのに」
「命中すれば、ね〜…でも、もし技を躱されたら?リオ達は警戒してママンボウを集中攻撃するでしょう?
《アクアジェット》で先制攻撃は出来るけど、元々ママンボウの素早さは低いの。最初から使うには
リスクが高すぎる技なのよ〜」
リオの問いにそう返してから、リマは隣を歩くアヤネを見る。
「そこでアヤネに頼んでおいたの。ママンボウから興味を無くさせる為に、
バチュルを積極的に動かして…ってね♪」
可愛らしくウインクしたリマにアヤネが頷く。
「私もリマの作戦に乗っかりました。バチュルちゃんが攻撃役に回る事でママンボウちゃんが
狙われる可能性が低くなり、結果バチュルちゃんの《放電》の威力が上がってバトルが有利に
進む事は事実だから」
「──そうか」
暫し考え込んでいたアキラが口を開いた。
「母さん…吸い取ったな?」
アキラの言葉にアヤネと、そしてリマは微笑む。
「…私にも分かるように言ってよ」
拗ね気味に袖を引っ張るリオに、アキラはスケッチブックと鉛筆を取り出した。
アキラは鉛筆を握る手を動かしながら続ける。
「バチュルは電気タイプだが、自分で電気を作れねぇんだ。だが、電気タイプのポケモンにとって
電気は生命線…ソレが作れねぇとなると衰弱して行く一方だ。そこで、バチュルは他から電気を
貰う事を思いついた。街中のバチュルは民家のコンセントから、野生のは他のポケモンから静電気を
吸い取って生きて来たんだ」
言い終えるとアキラは鉛筆を仕舞い、スケッチブックをリオに見せる。
真っ白だったページにはバチュルが描いてあって、バチュルの下には枝分かれした矢印が引かれてあり、
その先には家とシキジカがそれぞれ描かれている。
「相変わらず完成度が高い絵ね」
「サンキュ。…で、ここまでは分かったか?」
「ええ」
「じゃあ、問題だ。バチュルがあんな強力な《放電》をブチかませたのは何でだと思う?」
アキラの分かりやすい解説のお蔭で、リオには既に答えが分かっていた。
「シビシラスから電気を吸い取っていたから…でしょ?」
「厳密に言えば電気の他に《チャージビーム》で上がってた力も一緒に吸い取ったからだろうな。
シビシラスを重点的に攻撃してたのは、接触しねぇと電気を吸い取れねぇから。
何度もぶつかって行ったのは、1度だけの接触じゃ吸い取れる電気もたかが知れてるから…だろ?」
確認するようにこちらを見たアキラに、アヤネは拍手を贈る。
「正解ですアキラ。良かった、ちゃんと知識は身に付いているみたいね」
「当然だろ?」
「ただ残念なのは、それをバトル中に活かせなかった事ですね」
「うっ…」
鋭い指摘に顔を引き攣らせるアキラに溜め息を吐いてから、リオは先程のバトルを思い返す。
(向かって来るバチュルに対して、シビシラスも迎え撃つ形でバチュルに攻撃をして、
アタッカーであるバチュルを集中攻撃すると決めてからは、必然的に2匹の接触は増えた。
……まさか、)
「まさかとは思うけど、私達がどう動くか最初から分かってて考えた作戦なの?」
「うふふ。さぁね〜」
「アヤネさん!」
リオの問い掛けにリマが笑顔ではぐらかした時、第三者の声が聞こえた。
全員が振り返ると、痩せ細った1人の男が走って来た。
何事かと顔を見合わせるリオとアキラを余所に、名前を呼ばれたアヤネが男へ近寄る。
「どうでしたか?」
「青年の方は用心深いのか、周到なのか、カメラが粉々に破壊されていて…中央監視室の方も、突然停電が
起こったとかで、映像が録画されておらず…悔しいですが、青年の追跡は不可能かと…」
「そうですか…お忙しい中、有り難うございました」
長い距離を走って来たのだろう、息を切らして話す男にアヤネが労いの言葉を掛けると、
男は慌てて言葉を付け加える。
「で、でも主犯である少女の方はバッチリですよ!唯一無事だったカメラに顔も服装も映っていましたから!
捕まるのも時間の問題かと!」
「…顔も、服装もですか」
腑に落ちない顔をしているアヤネに男は不思議そうに首を傾げるが、腕時計に視線を落として目を見開くと
頭を下げて慌てて観覧車の方へと走って行った。
「…アヤネさん」
「何ですか?」
一部始終を見ていたリオがアヤネを呼ぶ。
振り返り、人当たりが良い笑みを向けたアヤネに、リオは意を決して口を開いた。
「防犯カメラに映っていた少女って……もしかして、あの人ですか?」
リオの問いに一瞬躊躇ったが、アヤネは静かに頷いた。
「はい。防犯カメラに映っていたのは2人が相見えた、フェイクという方です」
┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼
地下へと続く階段を降りて行く3つの影。
そのうちの1つの影が、大きく動いた。
「ふぇっくしゅ!…へーっくしゅん!」
「色気がねークシャミだな、オイ」
「誰かボクの悪い噂をしてるなー?むかつくー」
「だ、だいじょうぶですか?フェイクさん」
クシャミをしたフェイクにビッシュは呆れた眼差しを向け、シャルロットはポケットティッシュを差し出す。
「大丈夫じゃなーい。重症、目眩がするー」
「えぇっ!?」
「思いっきり棒読みじゃねーか。シャルロットをからかうな」
ビッシュは額に手を当てて蹌踉けるフェイクの頭にチョップを入れる。
その瞬間、フェイクは頭を抑えて唸り声をあげた。
「頭がっ!脳がっ!割れるー!!」
「いっそ割れちまえ。ライモンで壊したカメラみたいにな」
「…カメラで思い出したけど、あの時は指導サンキューね、シャルロット。ボク機械には疎いからさー、
どこまで壊せば良いか分かんなくて」
(…痛そうにしてたのはやっぱ嘘か)
何事も無かった様に再び階段を降り始めたフェイクの背中を見つめながら、ビッシュは溜め息を吐く。
「ダミーカメラが1台も無くて焦りました…壊すのに時間が掛かって、その間に中央監視室の停電が
復旧したらどうしようかと思いましたが、フェイクさんの仕事が速くて助かりました。
クラッキングして監視室その物を無力化させる事も可能ですが、データに侵入して改竄、破壊…と
段階を踏まえてやってたら、もっと時間が掛かりますし…」
「おー、頭脳モード入った。とても8歳とは思えないよー☆」
「茶化すな」
「体は子供、頭脳は「 や め ろ 」…いっ!」
拳骨でフェイクを黙らせてから、未だ何かを呟いているシャルロットの髪を撫でる。
「シャルロット」
「!…あ、すみません。わたしばっかり、おしゃべりして。…フェイクさんどうしたんですか?」
「気にすんな。そろそろ時間だし行くぞ」
ビッシュは困惑顔のシャルロットの手を引き、本気で痛がっているフェイクの横を通り過ぎる。
数段降りると、銀色の扉が見えてきた。
「でも…本当によかったんでしょうか?フェイクさんが映ったカメラをこわさなくて」
「大丈夫だよ。アイツを捕まえんのは不可能だから」
不安そうに呟いたシャルロットに、ビッシュは軽く言った。
どうして断言出来るのか──それが分からずに、シャルロットはただ首を傾げる。
「……うん。だってボクはフェイク【嘘】だよ?今のこの姿が本物とは限らないじゃん」
後ろから聞こえた声に気付かぬフリをして、ビッシュは扉を開けた。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37
この掲示板は過去ログ化されています。