二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- テイルズオブヴェスペリア 非日常の中の住人達
- 日時: 2011/01/09 13:13
- 名前: リクア (ID: iHbdDjKI)
初めまして。リクアです。
今回が初投稿です。なので、誤字とかはちょっと大目に見て下さい…
ですが、一生懸命頑張りたいと思うので、よろしくお願いしますっ!(ペコリ)
あとできるだけコメントお願いしますっ!
よろしくお願いします!!!!
***主な登場人物***
ユーリ・ローウェル アイリッジュ・グリーン リンク・グリーン イオ・グラン リオ・グラン リタ・モルディオ
***主な登場人物***
- Re: テイルズオブヴェスペリア 日常と非日常 ( No.1 )
- 日時: 2010/06/21 18:57
- 名前: リクア (ID: fYNkPhEq)
第一話
この俺、ユーリ・ローウェルの日常は、下宿している部屋から外を眺め、この世界に絶大な力を働かせている「帝国」の帝国騎士団の騎士が税の徴収に来て、理不尽なことをしていれば制裁する。それが俺の日常のはずだった。しかし、人間とはいつ非日常に引きずれてしまうか分からないものだ。しかし、だからと言って、非日常に引きずり込まれることを恐れ、自分を偽ったりすることはしない。俺はそんな風に生きていた。そう、あの日までは。
雨の降り続く中、俺はいつものように下宿している宿の部屋から外を眺めていた。すると、何処からか女性の悲鳴が聞えた。俺はハッと我に返り、部屋を飛び出す。女性の悲鳴は、何回も聞えた。俺はその声をたどって、その場についた。そこにあったのは———
「もうやめて下さい!お願いです!その子をもういじめないでぇぇっ!」
女の人は、壁にくくりつけられ、身動きができない状態だった。女の人の視線の先にあったのは、血に染まった小さい子供と、刃物を持った男だった。その様子からして、男が子供を傷つけていたのは明らかだった。子供はさるぐつわをかまされ、痛くても叫ぶことができない状態だった。男は俺に気がつくと、
「お前はなんだ!俺を侮辱しに来たのか!?お前もか!?ああっ!?おらああああっ!!!!!」
と喚いて、刃物を俺に向けて走ってきた。完璧に頭に血が上っている。俺はそう判断して、男の刃物を自分が持ってきた剣でパキンッとおってやった。
「お願いします!この子を助けてあげて下さい!」
女の人が叫ぶ。男は女の人を振り返り、折れた刃先を拾い上げ、女の人に向けて投げる。俺は地を蹴り、女の人に届く前に刃を粉砕する。男は俺の腕前に驚いたようだった。一瞬の隙ができる。俺はそれを見逃さなかった。すばやく男の懐に潜り込み、剣の柄の部分で思いっきり腹をついた。男は小さく呻き、その場に倒れ伏した。フゥッと一息つくと、俺は子供に駆け寄り、首筋に手を当てる。出血の量からして、生きている確率はほとんどなかった。しかし、脈はあった。結構力強い。俺はポケットから布を取り出し、一か所だけ刺されていた場所があったから、そこに巻き付け、止血をした。それから女の人に駆け寄り、解放してやる。
「有難うございます!有難うございます!」
女の人は、涙を流しながらお礼を言ってきた。
「いや、別にいいんだ。それより早くあの子供を病院に連れていった方がいいぜ?」
俺はクイッと首を子供に振り、女の人に言った。女の人はハッとしたような表情になり、ペコンとお辞儀をした。
「有難うございます。けれど大丈夫です。あの子は。私の名前はアイリッシュ・グリーンです。どうもありがとうございました。」
アイリッシュと名乗った女の人は、俺の横を通り過ぎ、子供を担ぎあげてどこかへ行ってしまった。俺はなぜあの人は自分の名前を名乗ったのだろう?と思いながら、下宿している部屋へと戻って行った。
〜第二話へ続く〜
- Re: テイルズオブヴェスペリア 日常と非日常 ( No.2 )
- 日時: 2010/06/21 20:41
- 名前: リクア (ID: fYNkPhEq)
第二話
あのアイリッシュと会った日の夜だった。コンコン、と誰かが俺の部屋のドアをノックする音が聞えた。
「はいよ。」
俺はガチャッとドアを開けた。俺はそこに立っていた人を見て驚いた。アイリッシュと、血を流して倒れていた子供が、傷一つ無く立っていたのだ。
「ア・・・アイリッシュ・・・・・?」
驚いて俺の口からアイリッシュの名前がこぼれおちた。アイリッシュはにっこりとほほ笑むが、その傍らにいる子供は少しも笑わない。表情がない、と言った方がよいのだろうか。しかしその子供の顔は、本当に無表情だった。
「この子は私の子供、リンクって言うんです。可愛いでしょう?」
突然アイリッシュが言い出し、リンクという子供の頭をクシャッとなでた。顔も体つきも、性別は男と女と分からなかった。なんだか気味の悪いものを覚えた。この感覚、どこかで感じたことがある。それもすごく昔に。俺は小さい頃の記憶がないのだ。ないといっても、全くないわけではない。ただぼんやりと覚えていて、はっきりとしない。何を覚えているのか、覚えていないのだ。それが俺をいら立たせていた。
「あの・・・・」
おずおずとアイリッシュが切り出した。キュッと手を胸の前で組んでいた。ハッと俺は回想から現実に引き戻される。
「私達、今さっき住んでいた場所を追い出されてしまったんです・・・・なので、その、ココには知り合いが誰もいなくて、頼れる人がいなくて、その・・・・」
モジモジとアイリッシュが言う。察してほしい。という目をしていた。
「要するに、俺のとこに泊めてほしいってんだろ?ここは狭いけどな。もともと一人部屋だし。」
「ハイ・・・・・」
俺が言ったことに、アイリッシュがは極めて小さい声で答えた。俺が大きく部屋のドアを開けて二人を招き入れる。
「あ、そういえば、寝具がねえな。隣の部屋に2組余ってたから持ってくるな。」
俺はそれだけ言い残し、部屋を出た。廊下を少し歩いて、そこで脚を止めた。・・・・・そういえばなんで俺の部屋を知っているんだ?俺、教えた覚えないのに・・・・・ここの廊下には、部屋がたくさんあるが、全て下宿用だ。この廊下だけで30個は部屋があるのに、何で一回も間違えずに俺の部屋に来たんだ?俺は小さい時からここに下宿している。ここの主が、お金はいらないって言っていたから、ここを選んだけど・・・・なんでだ?あのアイリッシュの顔と名前、ずっと前に聞いた覚えが・・・・でも、いつ?そもそも聞いたかどうかさえ覚えていないのに、どうしてこんなことを感じるんだ?なぜ?まぁそんなことはいい。とりあえず俺は隣の空き部屋に入ったのだった。長い間使っていなかったせいか、埃臭い。ゲホゲホと噎せ返りそうになる。俺は部屋に入ってすぐ横にあった寝具の2組を持ち上げて、俺の部屋に戻った。
「あ・・・!重そうですね、お持ちしましょうか?」
アイリッシュはスッと立ちあがり、俺が肩に担いでいる寝具を受け取ろうとした。けれど俺は、アイリッシュの細い腕をチラリと見て首を振った。そうですか?とアイリッシュのは首を傾げて言った。
「!?」
俺は何かが頭に一瞬だけ蘇った事が分かった。何か遠い日の記憶が思いだせたような気がしたのだ。ヤッパリ、俺はどこか昔にアイリッシュと面識があるのか?だけど、そこは何処でだ?と俺は考えながら、とりあえず部屋の隅に寝具を置いた。
「有難う。この部屋に置いてくれて。一人部屋だというけれど、結構広いのね。そうだ。あなたの事、聞いてもいいかしら?」
アイリッシュは笑顔になって言った。
「まずそっちから話したらどう?」
俺はちょっとご機嫌斜めの感じで言った。
「あら。ごめんなさい。じゃあ改めまして、私はアイリッシュ・グリーン。21歳よ。私はこのリンクと一緒に暮らしていたの。夫は今日あなたが見たあの男です。あの人気のないところで、離婚の話を持ち出したら、急に怒って、持っていた刃物でリンクをいじめだしたの。この子と私は気持ち悪いって。」
アイリッシュは傍らにいたリンクの頭をそっと撫でた。ふと俺の方を見る。ニッコリと笑ってから、また話しだした。
「私、小さいときの記憶が無いんです。全くないというわけではないんですが・・・ぼんやりと覚えているんです。でも何を覚えているのかが自分でも分からなくて、何かをぼんやりと覚えて居ることだけ覚えてるんです。でも私は何かの力を持っていて、思っただけで物を変化させることができるんです。人のけがを治したい。と願えばそれは叶うんです。」
話し終わると、アイリッシュは俺の事をジッと見つめた。そうだ。俺も何か話さなくてはいけない。でも、やっぱり俺はアイリッシュと面識があるような気がしてならなかった。俺は色んな思考を振り払い、話し始めた。
「俺はユーリ・ローウェル。21歳だ。俺は小さいときからここに下宿している。俺も小さいときの記憶がない。覚えているのに覚えていない。まあ、あんたと同じような感じさ。」
と、簡単に説明した。それから俺はまたアイリッシュの事を聞こうと口を開いた時だった。ドンドンドンドン!と乱暴にドアを叩く音がした。
「おらああっ!アイリッシュ!!!俺から逃げられるとでも思ってんのか!?出てこいやあ!お前には発信機を付けてあるから何処に居ても分かるんだよ!帰ってくれば命は助けてやる!」
さっきの男のどなり声も聞えた。アイリッシュの顔からサアッと血の気が引いた。リンクの体を自分の方へ引き寄せていた。そして、アイリッシュは自分の服の上着についていた赤い石のはまった上着を脱いだ。石の中で光が点滅している。これがおそらく発信機なのだろう。俺は部屋に運び込んできたばかりの寝具を窓の外へ投げて、食料と道具を袋に入れ、刀を持った。
「アイリッシュ!ここから下へ飛べ!」
俺は小声で鋭くアイリッシュに言った。男はドンドン!と未だにドアを叩いて喚き続けている。アイリッシュはガチガチと歯を鳴らしながら、リンクと一緒に外へ飛び降りた。おれもその後へ続く。そのまま俺は走り出し、俺についてこい、と目だけでアイリッシュに言った。このままこの街にいたのではいずれあの男に見つかってしまうことになるだろう。そして、俺とアイリッシュとリンクは、町の外へ飛び出したのだった。
〜第三話に続く〜
- Re: テイルズオブヴェスペリア 日常と非日常 ( No.3 )
- 日時: 2010/06/23 21:19
- 名前: リクア (ID: zqqM6H.s)
第三話
あの町は、この世界に存在するもう欠かせないものとなっている魔導器(ブラスティア)の中の一種、結界魔導器(シルトブラスティア)があって魔物が入ってこられないようになっていたが、町の外に出るともう自分たちを守ってくれる結界は無い。襲ってくる魔物であふれているのだ。俺とアイリッシュとリンクは、町を飛び出してから30分ほど走り続けた。そして、もう走りつかれてしまったリンクが脚をもつれさせてしまったところで、野宿をすることになった。
「こんなところで野宿なんて・・・・危険だわ・・・・。」
ボソッとアイリッシュが呟いた。それもそうだ。今までは結界の中にいるだけで、魔物に襲われる恐怖を感じないでいられたのに、今自分たちは無防備な状態で魔物のテリトリーにいるのだ。いつ襲われるか分からない恐怖は、図ることはできないだろう。
「俺が番をしてるから、安心して寝てろ。」
俺はアイリッシュに言った。アイリッシュはまだ不安そうな顔をしていたが、眠さに耐えられなくなって眠ってしまった。しかしリンクは一向に眠る気配がない。
「お前も番をしてくれるのか?けど子供はもう寝る時間だぜ。」
俺はリンクに言ったが、リンクは一言も喋らない。声も発しない。いつもの無表情な顔で、パチパチと燃えている日に視線を投じているだけだ。俺はまじましとリンクを見る。白い肌。ピンク色の唇。生気の無い瞳。金色のまっすぐに伸びた髪。小さい体にチョン、と出た手足は、まだ幼い子供の手足だった。
「オ兄チャン、寝テイイヨ。自分、番、スル。自分、寝ル、行為、シナイ。」
リンクが初めて声を発した。片言言葉で、きちんと文章の構成がされていない。その時、闇にまぎれて魔物のうなり声が聞えてきた。俺は持ち出してきた刀を手に握って立ちあがり、リンクをかばうようにして前に出る。多分こちら側から声が聞えたのだ。しかし、闇の中では目が効かず、何処に魔物がいるのか分からない。ヒュッと白く、細長いものが、俺の後ろから頬を掠めた。
「え?」
俺が驚きの声をあげたのと、魔物の断末魔が聞えたのは、ほぼ同時だった。俺の肩のすぐ横に、白い棒が闇に突っ込んでいるのが見えた。スルスル、と俺の後ろへと引っ込んでいく。俺はバッと後ろを振り返る。後ろにいるのはリンクだけだった。その横にはアイリッシュが眠っている。リンクの手には、魔物の赤い血が滴っていた。リンクはこの闇のかに潜む魔物を、俺の後ろにいながら一回も外さずに魔物に当てた・・・?いやその前にあの白いのはなんだ!?あの白さ、リンクの肌の色と似ていたような気がする。リンクの肌の色は、本当に真っ白に近い色なのだ。
「リンク・・・・・お前、今何をした?」
俺はリンクに問いかける。
「僕が持っている力を使っただけ。あのままだと、お兄ちゃんが死んじゃったから。魔物が結構近くにいたから。力を使った。それだけ。」
リンクはそれだけ言って、また黙ってしまった。俺はそれから5分くらい起きていたが、リンクに話しかけようと口を開いたとたん、つよい睡魔に襲われ、眠ってしまった。
「ん・・・・」
俺が起きたのは翌日のもう日が高い頃。起き上がると、リンクは赤く塗られていた。周りには死んだ魔物がたくさんいた事から、リンクがしたことだというのが分かった。
「おはようございます。ユーリさん。」
アイリッシュが挨拶をしてきた。俺もおはよう、と言って返したが、それきり口を開かなかった。一体どれだけそうして過ごしていたのか、俺は自分の荷物から携帯食料を取り出し、口に放り込んだ。アイリッシュとリンクの分も取り出し、二人に投げてやる。
「あ・・・有難うございます・・・・でも私達何も食べなくても生きられるんです。だから、これはユーリさんが・・・・」
アイリッシュは口ごもらせていった。俺はアイリッシュが気を遣っているんだろうと思った。
「おいおいアイリッシュ。遠慮すんなって。何も食べなくても生きていけるなんて冗談はいけないぜ。」
俺はアイリッシュが返そうとした食べ物を、そっと押し返した。・・・・本当は今こんな状況で食べたくなどなかった。魔物の死体の山の真ん中で、あまり美味しいとは言えない携帯食料をボソボソと食べるのは。アイリッシュは少しず食べてはいたが、リンクは一口も手をつけなかった。
「リンク、子供が遠慮してんじゃねえよ。ちゃんと食え。」
俺はケタケタ笑いながらリンクの口に食料を押し込む。リンクは一口で結構大きかったパンを飲み下した。少し驚いたが、まあ食べたのだしいいか、と受け止めた。
「アイリッシュ、聞きたいことがあるんだが。」
「はい?」
俺はアイリッシュを呼んだ。それにアイリッシュは高い声で答える。
「お前とリンクの力って、なんなんだ?」
アイリッシュの表情が曇る。聞かない方が良かったかな。と少しだけ俺は後悔した。もうこの時点で、日常から非日常に引きずり込まれてしまっていたのだから。
「・・・それがよくわからないんです。この力、私が小さいときから持っているということだけ覚えているんです。記憶がはっきりしないと、なんかイライラしちゃうんですよね。小さい時と言っても、15歳くらいなんですけれど。」
とアイリッシュは笑いながら言った。15歳くらい寄り前の記憶がない・・・俺はその点が共通していると思った。俺も15歳くらいより前の記憶がはっきりしていていない。同じころの記憶が無い二人・・・・?こんな偶然とは、あり得るのだろうか・・・・。ま、いいか。難しい事は考えても分かんねえし。
「へー。」
と、取り合えず俺は言った。そうだ!と急にアイリッシュが言って立ちあがった。
「今回せっかく町の外に出たんですし、自分たちの記憶探しの旅っていうのはどうですか?」
笑顔でアイリッシュが言う。記憶探しの旅・・・か。面白そうだ。
「いいな。それ。んじゃ記憶探しに出ますか!ついでにアイリッシュの力が何なのかが知りたい。」
俺もパンッと手を打って立ちあがる。リンクは座ったままだったが。
「リンク、立って。」
アイリッシュがリンクの手を握り、立たせる。俺は荷物を担いで歩きだす。
「じゃ、行こうぜ。」
「はい!」
アイリッシュとリンクも俺の後に続いて走り出す。新たな旅が自分を待っている。非日常にもう引きずり込まれていても、その中で旅をすることで、俺の記憶を取り戻したい。それはもう無理な事なのかもしれないけれど、昔を思い出したい。その気持ちが俺の脚を突き動かす。旅に出る。三人で。
〜第四話へ続く〜
- Re: テイルズオブヴェスペリア 日常と非日常 ( No.4 )
- 日時: 2010/06/22 18:32
- 名前: 横田 真澄 (ID: bbfUlH82)
こんにちは
ヴェスペリアの小説を探していて見つけたのでよんでみました!
とても面白いです
続きを楽しみにしています!
- Re: テイルズオブヴェスペリア 日常と非日常 ( No.5 )
- 日時: 2010/06/23 22:41
- 名前: リクア (ID: zqqM6H.s)
第四話
俺たちがまず最初に足を運んだ街は、新しくできたという街、ホープという場所に来ていた。ここは新しくできたという割には人が溢れ、店もたくさんあった。しかし俺たちは記憶探しの旅と言っても、一体何から手をつけたらいいのか分からず、とりあえず宿に泊って考えることにした。地上4階建てだった。俺達が泊った部屋は3階にあった4人部屋で、ベランダから街の風景を見ることができる。
「この街、活気があっていいですね!」
アイリッシュはベランダから街を見て言った。俺もその声につられて、ベランダの外を椅子に腰かけたまま見る。青く晴れた空に、白い雲がゆっくりと流れていた。リンクの様子は俺が座っている椅子と向かいあうように置かれた一人掛けの椅子に座ったまま喋らない。
「アイリッシュ、はしゃぐのもいいが、これからどうするんだ?自分の記憶探しの旅って言っても、手がかりが無いんじゃ探しようもねえじゃねえか。」
俺は一人だけハテンションなアイリッシュに言った。アイリッシュは振り向き、
「え?別に全くないってわけじゃないのよ?たまに頭に浮かぶ場所があるんだけど、そこで声がするのよ。ここに来なさいって。」
と言った。その時、俺の頭がズキンッと痛んだ。どこかの遺跡のような場所が頭に浮かぶ。苔の生えた、クリーム色とオレンジ色の中間くらいのひびの入った壁。やがてスーッと頭の中に浮かんだモノは消えていった。
「ユーリさん?」
アイリッシュが心配そうな顔をして俺の顔を覗き込む。ハッとして俺は手をヒラヒラさせて大丈夫だ、とジェスチャーを送る。・・・これがアイリッシュの言っていた場所なのか?声はしなかったけど・・・俺はそれを確かめようと口を開いたが、ヤッパリ閉じた。
「とりあえず、調べ物なら図書館でも行きゃいいんじゃねえか?」
と俺は手がかりを探す手段の提案をした。
「あ、それ賛成。」
アイリッシュは微笑んで言った。俺はチラリとリンクを見た。リンクはさっき俺が見たときの姿勢をまったく崩していなかった。まるで人形のようだ、と俺は思った。アイリッシュはリンクのそばまで行き、リンクを立ちあがらせた。
「じゃあユーリさん。善は急げですからさっそく行きましょう!」
アイリッシュはそう言って、足早にドアに駆け寄った。俺はふっと笑ってドアを開け、アイリッシュとリンクと一緒に、街へと出かけて行った。宿を出てすぐに案内版があった。俺はそれに駆け寄り、図書館をさがす。
「図書館っと・・・」
指を巡らせ、やがてここから一番近い大きな図書館を見つけた。
「見つけた。ここの道をまっすぐ行ったところにあるぜ。」
俺はアイリッシュに言い走り出した。
その図書館は予想以上に大きかった。大きながっしりとした門の横に「お気軽にどうぞ」と書かれた看板が立っていた。そして門を通り、10mくらい歩いたところに建物はあったのだが、7階建ての建物は、少し圧迫感さえ感じさせた。ドアは自動ドアで、勝手に開いた。入ってすぐに左右に廊下が分かれていて、片方には映像、片方には書物、と書かれていた。俺達はもちろん書物、と書かれている方に行き、廊下に置いてあった1つの新聞が目にとまった。
「これ・・・俺達と同じような人が2人特集されてる・・・」
俺は新聞を手に取り、内容を一通り読んでいった。アイリッシュはえっ?と小さく言って、新聞を覗き込んできた。
「ほんとだ・・・あ、私、ここ知ってますよ。この街にはありませんけど。」
アイリッシュは新聞に書かれたその2人がいる建物の名前を指差した。「青の空」それがその建物の名前だった。街の名前はヘリオスを言う名前だった。ヘリオスという神を祀っている神殿があるからそいう名前だとアイリッシュが言った。
「といっても私はそれだけしか知りませんから、何処にあるのか知らないんですけど。」
とアイリッシュは笑いながら言った。
「それならここで調べればいい話だ。」
俺はそう言って、地図などが置かれている本棚のところへと歩いて行った。人差し指をたて、ヘリオスなど、神を祀っている神殿がある街を探した。意外なことに、それだけでかなり候補は絞られ、少し薄い本を3冊選ぶだけで済んだ。近くにあった机の上に本を置き、椅子に腰をおろして俺とアイリッシュは調べ始める。リンクはただ何もしないで椅子に座っているだけだった。それもそうか、子供だから地図の見方なんて知らねえもんな。と俺は納得して調べていた。しばらくして、アイリッシュが
「ありましたよ!この街から北東です。」
と小声で言った。俺もそのページを覗く。確かにそこにはヘリオスと書かれていた。
「よしっ!アイリッシュ、サンキュな。」
と俺も小声で返し、無料サービスでコピーをした。
「んじゃ宿に戻りますか。こいつらも何か知っているかも知れねえ。俺達のこの記憶について。」
アイリッシュはコクンとうなずき、リンクの手を引きながら、宿へと戻っていく俺の後についてきた。
宿に戻った頃には、もう日が暮れていた。帰り道で、色々店に寄って食べてきたからだ。俺はベッドに横たわる。リンクは小さい椅子に腰かけ、アイリッシュはベッドに腰かけた。もちろん、ベッドは別々だが。俺はリンクを改めて見てみた。なぜか前にまじまじと見たときよりも、人形のような印象をうけた。人形のように動かず、瞳に意志は宿っていない。
「アイリッシュ、本当にリンクは人間なのか?」
俺は思わず聞いてしまった。だって、本当にリンクが感情を持った人間には思えないからだ。口数の少ない人はこれまでに何人か会ってきたが、ここまで口数が少ない人は初めてだった。それどころか、生きている人間独特のオーラが出ていない。まるで人形に命という単細胞を入れたような感じだった。アイリッシュは一瞬顔を曇らせた。しかし、話し始めてくれた。
「・・・リンクは人間じゃないの。私が16歳のときにもらったクマのぬいぐるみがあったの。それはもう今はいないお父さんから貰った大切なぬいぐるみ。私はそれを本当に大切にしたわ。私の誕生日からすぐにお父さんは死んでしまったから・・・それにはいつしか魂が宿るようになったの。だから本当に簡単な事しか喋れないけど、話すことができた。でもそれは壊れてしまった。私はそれがとても悲しかった。本体を戻そうと私の力を使ったけど、駄目だった・・・だからせめて宿っていた魂だけでも、ここにとどめたいと思って、いとこの身体にあのぬいぐるみに宿った魂を入れたの。だから正確にはこの子の身体は人間だけど、中にあるのは人間じゃないの。まあ私はこの子をあの人との間にできた子供だって周りには言っていたわ・・・それだけ。」
アイリッシュは力無い声で語った。そうか、だからリンクには人間独特の感じがしないと思ったんだ。
「ん。何かすげー話だったけど、話してくれてアリガトな。じゃもう今日は寝ようぜ。明日は早くここを出て、ヘリオスに向かうぞ。んじゃ。」
と俺はベッドに横たわったまま言った。あそこで新しい手がかりが見つかるのだろうか?いや、見つかるかも知れない。俺は期待と不安を胸に抱いたまま、俺は眠ってしまった。
〜第五話へ続く〜
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