二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- NARUTО 木の葉の里の大食い少女
- 日時: 2012/07/28 22:52
- 名前: わたあめ (ID: tdVIpBZU)
九尾襲撃以前に餓死した狐者異一族の生き残り、「狐者異マナ」が木の葉にて暴れる話。主に食卓の上で。
アンチ・ハーレム・チートはなしの方向で。
1.荒らし・中傷・パクリにきたという方はバックプリーズ
2.この小説はにじファンにて載せたことがあります
3.原作批判・過度な原作キャラマンセー及びキャラアンチはお断り
4.残酷な描写が一部に見られます、ご注意を
5.亀☆更☆新
それでもいいというかたはどうぞ
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第一章 純粋すぎるのもまた罪。
∟アカデミー編 >>1-5
∟班分けと鈴取り編 >>6-11
∟巻き物奪還任務編 >>12-20>>28
∟お見舞い編 >>21-27
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
∟第一試験編 >>29-33
∟第二試験編 >>34-48
∟第三試験予選編 >>
∟第三試験本戦編 >>
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.40 )
- 日時: 2012/07/22 00:36
- 名前: わたあめ (ID: XVANaOes)
「んーぁあー! あー!」
サクラは目を覚ました。ナルトが大きな欠伸をしながら両腕を天に向けて伸ばし、「よく寝たってばよぉ」とまだ些か眠そうな、しかし能天気な声で言う。
「ナルト! ——サスケくん、それにユヅルも」
それに相次いで、手拭いを額に乗せたままのサスケも起き上がり、ユヅルがもぞもぞしながら這い上がった。すぐ近くに視線をやると、見張りをしていたであろうはじめが「起きたのか」と振り返り、マナが木の実を食べているのに気付く。
「……お前が、看病してくれたのか?」
「あったりめーだろ? サクラ頑張ってたんだからな、感謝しろよー」
「ありがとうサクラちゃあん、お陰ですっかりよくなったってばよ!」
「ありがと、サクラ。迷惑かけちゃったね。……それにマナやはじめも」
手拭いとサクラを見比べたサスケの問いかけに、マナが笑いつつ返答する。ナルトが明るい声で礼を言い、ユヅルも穏やかに礼を言ってから、マナやはじめに笑顔を見せた。
「……よかったぁ……」
三人とも回復したことに、嬉しさのあまり思わず涙が出る。しかし直ぐに、ざわざわと茂みの揺れる音がしたような気がして振り返れば、そこには実物より数倍醜悪な大蛇丸が叢の中に立っていた。
「獲物というものは、常に気を張って逃げ惑うものよ……捕食者の前ではね!」
その首が、サスケやユヅルに呪印を施したときと同じように伸びて、蛇のようになって地を這い近づいてくる。サスケとナルト及び九班は今後のことについて語り合っており、大蛇丸に気付く様子もない。真っ直ぐサスケめがけて這ってくる蛇に、サクラは皆に注意を促がそうとする、が。
——声が出ない!
どんなに叫んでも彼等には届かない。その間にも大蛇丸は近づいてくる。お願い、気付いて、気付いて!
急に彼等が遠ざかっていくような気がした。叫ぶ。気付いて。大蛇丸よ。サスケくん! ナルト! マナ、はじめ、ユヅル! ねえ! 気付いて——お願い、気付いて!
体が金縛りにあったかのように動かない。大蛇丸がぱくんと口をあけた。
そしてその口はサスケを一思いに飲み込んでしまった。
「——!!」
頬が濡れる感覚に目を覚ませばそこは先ほどいたのと全く同じ場所で、紅丸が自分の頬を舐めていた。振り返れば三人とマナ、はじめはまだ眠っている。
「わん」
「夢、かぁ……」
紅丸の明るい声にほっとするのと同時に正夢ではないかという不安が過ぎる。ちゅんちゅん、という鳥の声と、明るくなってきた森を鑑みるに、もう朝であるらしい。先ほど眠ってしまったことに思い至り、その失態を恥じるのと同時に誰かもう一人起こさないと、と考える。まずはマナを起こしてみたが、こっちは中々起きなかった。諦めて一番手近にいたはじめの体を揺らすと、彼はあっさり体を起こす。
「もう朝……なのか?」
「……ええ」
「どうして起こさなかった」
些か不機嫌そうな声ではじめが聞く。ごめんなさい、と笑尾喇とのことも眠ってしまったことも口に出せずに俯くと、やはり不機嫌そうな声の彼は溜息をつく。
「……もっと頼って欲しかった」
「っえ? ……そ、そう?」
「私たちは仲間だから……助け合わなければ」
はじめは黙り込む。本当はそうじゃないのだ、仲間だからじゃない、好きだから頼って欲しいのだ。一文字はじめがどうして春野サクラを好きになったのかは、至って簡単だ。とりあえず一文字一族の男はこぞって女顔であり、そしてこぞって強気な女に目がないのだ。ついでに言えば一文字一族の女は皆かなり強気である。はじめの姉に瓜二つな母だって強気だったし、姉である初とて同じだ。初は強気を通り越してバイオレンスだが。
で、何故好きになったのがサクラでいのではないかというと、それはナルトがサクラちゃんサクラちゃん言っている内にサクラのことが気になりだし、それからサクラを目で追っていたら好きになったというだけのことである。
そういうはじめは自分の先輩がサクラに一目惚れしていることをまだ知らないが。
「食べるか?」
「あ、ありがとう」
差し出されたスモモを受け取って一口齧ったその時、がさっという音がした。まさか大蛇丸じゃないかという考えが脳裏に浮ぶ。情況的には違うが、もしかしたらあれは予知夢的なものだったのかもしれない。思いつつクナイをとって握り締める。自分に出来るだろうか。大蛇丸を殺すことが、出来るだろうか——。スモモを転がして、両手でクナイを掴んだ。両手が僅かに震える。それが恐怖からかもしくは武者震いからなのかはわからないが……はじめに目配せすると、はじめはきょとんとした顔で首をかしげ、それからハッという顔つきになる。
「サクラ、お前——!」
大丈夫、私にだって出来る。そう言い聞かせて振り返ると——
「リスを食べるつもりなのか?」
そこにいたのは何かの種を齧っている、一匹のリスがいた。
——リス?
思わず拍子抜けしてしまう。はじめがあまりにどぎまぎした表情で問いかけてくるので、なんだ……とサクラは溜息をついた。しかしその表情も、走ってくるリスの姿を見た途端焦ったものにかわる。
素早くクナイをリスの進路に投擲すると、リスは驚き、慌てて逃げ帰っていく。どうした、と問いかけてくるはじめの耳元に、そこに新たな罠をしかけたんだと耳打ちした。
「よくやったな」
とはじめは感心した顔つきになる。サスケの額に乗せた手拭いを換えて暫くすると、紅丸が何かの気配に感づいたらしい。うううう、と唸り声をあげる紅丸に二人して振り返る。
「寝ずの見張りかい? でももう必要ない。サスケくんを起こしてくれよ。僕達そいつと戦いたいんでね」
振り返ればそこには、ザク・アブミ、ドス・キヌタ、キン・ツチの三人が並んでいる。音の忍び——マナとキバ、そしてカブトを攻撃した忍びだ(正確にはマナとキバを攻撃しようとしていたのをカブトが庇い、そしてマナとキンプラス紅丸が互いに取っ組み合っていた、というべきか)。そしてあの大蛇丸の額当ても、音だった。
はじめが似之真絵を口寄せして立ち上がる。紅丸が全身の毛を逆立てた。サクラもホルスターに手を伸ばす。手の震えを悟られないよう、勢いよく立ち上がって、出来るだけ強気に問いかける。
「何言ってんのよ? 一体何が目的なの? ——大蛇丸って奴が、影で糸引いてんのはしってるわ!」
大蛇丸、その名前を出した途端三人の顔色が変わった。余裕に満ちた、小ばかにした表情から驚愕と戸惑いの顔にかわる。
「サスケくんとユヅルの首筋の痣はなんなのよ? サスケくんにこんなことしといて、何が戦いたいよ!」
「……さあて、何をお考えなのかな? あのお方は」
数秒して、ドスがそう言った。ザクも余裕の表情を取り戻して言う。
「しかしそれを聞いちゃあ黙ってられねえなあ……ピンクの女もオレが殺る。サスケとやらも俺が殺る。隣の紫女と犬はお前等に任せたぜ、ドス、キン」
「待てザク」
「ああん?」
ドスは自信に満ちたザクの言葉を否定するでもなく、数歩進むとしゃがみこんで土に手をやる。
「ベタだなあ? ひっくり返されたばかりの土の色……この草、こんなところに生えないでしょう」
「なっ、わ、私の性別について突っ込んでくれるのではなかったのか!?」
最後の一言はニッタリ笑いながら、サクラに問いかけるように言う。一方紫女と言われてしまったはじめは珍しく驚いた顔つきだ。「てめえの性別なんてどうでもいい!」とキンに突っ込まれ、サクラは仕掛けた罠に気付かれた焦りも忘れて溜息をついた。
「トラップってのはほら、バレないように造らなきゃ意味ないよ……」
草の色をした布を剥がすドスに、サクラの頬を汗が伝う。
「チッ、くっだらねえ。あのクナイはリスがトラップにかからないようにするためだったのか……」
ザクのその発言を鑑みるに、どうやらあのリスには起爆札とか閃光球とか、そういった類のものが仕掛けてあったようだ。
「すぐ殺そう」
ドスがそう言ったのが合図だった。
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.41 )
- 日時: 2012/07/22 11:15
- 名前: わたあめ (ID: /OJeLYZk)
「すぐ殺そう」
首を傾げて言い放ったドスの言葉を合図に、三人は空へと飛び上がる。
しかしサクラもちゃんと予防線は張ってあった。自らの傍らに突き刺したクナイから伸びるワイヤーをクナイで断ち切る。それとほぼ同時に、巨大な丸太が三人に襲い掛かる。それは昨晩、はじめがまだ起きていたころ、サスケと大蛇丸との戦闘で落ちたのを、見張りを紅丸に任せて、はじめと悪戦苦闘しつつ仕掛けたものだ。もっともサクラははじめが寝付いてからも新たにトラップを仕掛けていたのだが。
「——はっきりいって才能ないよ君ら」
そんな声と共に、丸太が爆破された。驚愕に目を見開くサクラの前に、似之真絵を握り締めたはじめが立ち塞がる。三対二プラス紅丸では、限りなくこちらが不利だ。その上こちらは寝ている奴等を四人も守らなければいけない。おきろマナ、とはじめが叫んだ。
「そういう奴は、もっと努力しないとだめでしょ!」
「——木ノ葉旋風!!」
三人が蹴り飛ばされ、サクラとはじめの目の前に緑の全身タイツのおかっぱが着地する。サクラはぎょっとして、着地したその少年を見上げた。試験開始早々、まだ幻術を解いて間もない頃に現れて、「僕とお付き合いしましょう! 死ぬまで貴女をお守りしますから!」といきなり告白してきたゲジマユである。
「だったら君達も、努力すべきですね」
その肩に乗っているのは先ほどやってきたリスだ。放心して地面に崩れ落ちたサクラには、リーの姿がいつになく凛々しく見えた。はじめが目を見開き、肩の力を落として「先輩」と呟く。
「……何者です?」
「——木ノ葉の美しき青い野獣、ロック・リーだ!」
状況が状況じゃなかったら、思いっきり「はぁ?」な台詞だったが、しかし今のサクラにはそれより、なんで彼がここにいるのかが問題だった。
「何故先輩が……ここに」
「ふふ、出来ればそれはサクラさんに聞いてもらいたかったですね……。何故ならはじめくん、君は恋というものを知っていますか?」
「恋……? それって、」
「ええ。サクラさん、僕は貴女がピンチの時は、いつでも現れますよ」
なんてね、と呟きながらリーはリスを地面に下ろして、「ほんとは君のお陰だよ」と囁く。リスは数秒きょろきょろしていたが、リーの「さあお行き」という言葉に去っていった。
「でも、今は、貴方にとっても私は敵よ? ……はじめも、だけれど」
僅かに顔の表情筋を緩めつつも、切なげにサクラが俯けば、「前に一度言いましたね」とリーは柔らかな微笑を崩さずに言う。
「——死ぬまで貴女を守るって」
その顔に、サクラは勿論だが、ナルト以外の恋敵を見つけたはじめもはっとした顔になる。その言葉にサクラは何と言っていいのかわからず、消え入りそうにか細い声で、「ぁ、ぁりが、と……」と呟いた。
勿論そのサクラとその傍にいるはじめに、嬉し涙を零しながら(くーッ! 決まった! 決まった! 決まりましたよガイ先生!!)とガッツポーズをとるリーの顔は見えていない。
「サクラさんはそこにいて、サスケくんたちを見ててあげてください。いきますよ、はじめくん」
「……承知した」
「仕方ないなあ……ザク、サスケくんは君にあげるよ」
言って、ドスは地の巻き物を懐から出し、後ろにいるザクに向かって抛る。それを受け止めたザクに、「こいつらは僕が殺す」とドスは腰を落とし、サクラとリーを見据えて構えを取る。
「じゃあ、あたしはお隣の紫と、青い髪のチビでいいわよね?」
「……お好きにどうぞ」
キンがはじめと、まだ寝ているマナに視線をやって嗜虐的に笑みを浮かべた。ドスは答えるなり、リーを見据え、そして袖をまくって機械を取り付けた腕を露出させるとリーの方へ向かって駆けていく。咄嗟にサクラが投げたクナイを飛び上がって回避する。それを看たリーは右腕を土の中に潜り込ませた。そしてその中に埋まっていた木の根っ子を——恐らくずっと前に、何かの術で土に埋まった木が残っていたのだろう——を無理矢理引っ張り上げてドスの攻撃を防ぐ。
「君の攻撃には、何かネタがあるんだろう? 馬鹿正直には避けないよ! 君の技は、前に見せて貰ったからね!」
前に見せてもらった、というのはマナとキバをカブトが庇った時だ。カブトは完全に見切ったはずなのに、それでも吐いた。ということはきっと何かのトリックがある。
ちらりと近くに目をやると、キンの背後に回りこんだはじめが似之真絵を振り上げていた。
「——!!」
間一髪それに気付き、右に飛びのいて回避することが出来たキンは千本をはじめに食らわさんとするが、はじめは一歩下がって回避するなり刀でそれを弾く。キンが印を結ぼうとしたが、そうさせるほどはじめは甘くない。似之真絵を振りかぶってキンを攻撃する。回避を余儀なくされたキンは印を結べずに、鈴を結わえ付けた千本を投擲した。
はじめはそれを弾いたが、しかし彼は鈴のついていない千本がその下で飛んでいたのに気づけず、内一本がその頬を掠る。流れ出た血を看て顔を顰めると、再びキンに向き直った。
「わん!」
紅丸が背後からザクに襲い掛かり、その首を噛み千切らんとする。クナイで突き刺されそうになるのを間一髪で避け、紅丸は唸り声を上げた。
「犬っころが……調子にのるなよ!」
投擲された手裏剣を上手く避けて、紅丸は穴を掘り始める。ザクの罵声は気にした風もなく、投げられた手裏剣も回避して、それから紅丸は掘り出した骨を咥えて走り出す。
「なんだあ、食べ物持って逃げようってか?」
「うううう!」
紅丸は一歩後ろに飛んで、骨をザクの片目めがけて投げつけた。目を押さえて一歩よろめくザクの足に噛み付き、前足でその足を抱え込み、後ろ足でザクを蹴り飛ばす。
「んだようぜえ!」
振り下ろされるクナイはまたしても回避、こんどはもう一方の足に噛み付く。紅丸なりに、ザクをドスやキンに加勢させないようにと考えた結果だ。キンの千本とはじめの水車輪がぶつかり合い、そして一方ではリーが、両腕に巻いたサポーターを緩めていた。
走ってくるドスを見据えて、緩めたサポーターを地面に垂らす。
——今こそ、
「——大切な人を、守る時!!」
瞬間、リーがドスの前から消えた。ドスがリーの姿を探す暇を与えず、下方からその顎を蹴り上げてドスの体を宙へと跳ね上げる。なんてスピードなの、とサクラは目を見開いた。
そして片手で地面を弾いて跳び上がり、ドスの背後を跳んだ。
「まだまだ!」
腕のサポーターをドスの体に巻きつけ、縄抜けの術を使用出来ないよう両手を固定。頭からドスともども逆さまに急降下。紅丸を遠くに投げ飛ばして、ザクは印を切った。
「ったく! あれじゃ受身も取れねえ」
「喰らえぇえええ! 表蓮華!」
紅丸が掘った穴に両手を突っ込み、穿った穴から風を送る。ぼこぼこと土の表面が盛り上がり、そしてドスが地面に激突し、リーが空へ飛び上がった。
「フッ、やれやれ……どうにか間に合ったぜ」
ドスの下半身がザクの送った風で盛り上がった土から突き出ている。風によって盛り上がったその土の内部は真空になっているはずだ。ドスが本来受けていたであろうダメージはかなり減っただろう。
「っ馬鹿な!」
「……恐ろしい技ですね……土のスポンジの上に落ちたんじゃなかったら、これだけじゃ済まされなかった」
ふるふると頭を振りながら、起き上がったドスが言う。
しかしこれはリーにも負担を与える技らしい。リーの息が乱れてきていた。
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.42 )
- 日時: 2012/07/22 23:22
- 名前: わたあめ (ID: HyoQZB6O)
「次は……僕の番だ」
袖をまくって、機械を取り付けた腕を見せ付ける。リーの体はまだあの技の反動から回復していない。振られる腕を一歩下がって咄嗟に避けるが、しかしドスの腕にはリーの言った通りネタがある。ぐわん、と目の前が不意に歪んだように思えて、そして痛みが左耳を襲った。
目の前のドスの波打つように歪み、その声質もかわって聞えた。彼が何をいっているのかはよくわからない。水の中で話される声を聞いているかのようだった。
リーは膝から崩れ落ちた。眩暈と痛みが酷い。
なんてことだ、とリーは思った。サクラのピンチを救いに来たはずが、自分もピンチに陥ってしまっている。
ふと脳裏にチームメイトの顔が浮かび上がった。そういえばもう集合時間だった。彼等は心配しているだろうかと、一瞬関係のないことを考えた。
そしてリーは、吐いた。あの時のカブトと同じように。左耳から血が流れ落ちるのを感じる。
「リーさん!」
「ちょっとした仕掛けがあってね……交わしても駄目なんだよ、僕の攻撃はね……」
ドスの腕の機械は音を発することが出来る。拳をかわせても、音は見えないからかわせない。音は震動だ。音が聞えるというのは空気の震えを鼓膜がキャッチするということ。人間の鼓膜は百五十ホーンを越える音で破れる。その更に置くにある三半規管に更に衝撃を与えると、全身のバランスが崩れる。それが音であるとわからせない為には、人間には聞えないくらいの高音を発すれば問題はない。
「君は当分、満足に体を動かすこともできない……」
「俺達に古臭せー体術なんて通じねーんだよ……まー途中まではよかったが、オレの術まで披露したんだ、そう上手くは……っ」
「声東撃西!」
そんな声がして、咄嗟に振り返ると目の前に銀色の光が迫っていた。咄嗟に地面に伏せてそれを回避すると、逆手に握った刀でこちらを攻撃してきていたはじめは刀を手の中で回転させて、順手に持ち返る。
「東に声して西を撃つ……私がお前のチームメイトと戦っているからと油断するのはよくないな」
すっと刀を振るい、ザクを攻撃すると見せかけ、順手から逆手に握り替えてリーの前に立っているドスの片腕に命中させる。刀が肉を破る、気持ち悪い音がした。
「っく……! やってくれますね!」
「チッ……オレの能力は超音波と空気圧を自由に操る能力……古臭ぇ剣術でどうにかできると思うなよ!」
ザクとドスが同時に攻撃を放った。はじめは体を屈めて空へ飛び上がり、木の枝に飛び移ると口寄せを解いて刀を消す。確かに彼等の力は剣術でどうにかなるものではないだろう。紅丸もキンから離れて枝に飛び移る。はじめは記憶を辿って、一度も使ったことのないその術の印を組みだした。
「ふん……そっちは任せたよ、ザク、キン。次は君だぁああああ!」
言うなりドスは身を翻してサクラに襲い掛かった。
咄嗟にクナイを構えるサクラとドスの間に、リーが割って入る。バランスを失っているはずなのになぜそんなことが出来るのだろうかと目を見開くドスに向かって木ノ葉旋風を放とうとするリーだが、しかしさっきの攻撃が利いているのだろう、足に力が入らない。
「さっきの攻撃……やっぱり利いていたみたいだね! 少々驚かされましたが——あの閃光のような体術が、面影もないじゃないですか!」
そしてドスの拳がリーに向かって飛ぶ。咄嗟に左耳を庇うリーだが、ドスの腕から出る音は彼自身のチャクラによって方向を決めることが出来る。スピーカー作用を持つその腕から放たれた音はリーの左耳を穿ち、絶叫をあげてリーは前に崩れ落ちた。
「リーさん!!」
「先輩!!」
気を失ったリーには目もくれず、ドスはサクラに向き直る。次はサスケを殺る気だ、そう悟ったサクラの目が見開かれた。
「させないわ!」
一気に三本のクナイを投擲するが、それは全て防がれてしまう。ドスが腕を振り上げて迫ってきた。はじめは振り向いて、自らに変化した紅丸に合図を出す。ポーチの中から出したハッカ特製・ミント味の兵糧丸を口に含み、サクラとドスの間に飛び降りた。
はじめの目の前から水が湧き出る。それがぐるりと仲間達全員——当然、四人が寝ている、野宿用に使っていた大樹も含む——をぐるりと囲み、上からこられないように上部をドーム状に封鎖する。
「水陣壁!!」
水の無い場所でチャクラを水に変えて、七人を囲んで守り、尚且つ水が崩れないよう維持し続けるのは、はじめのような下忍如きには高等すぎる技だ。出来たくらいでも奇跡だろうし、はじめはこの技に必要な最低限のチャクラ量が掴めていない。だからハッカ特製の、一般よりもチャクラ増量の多い兵糧丸を食べてでもかなりのチャクラを消耗してしまうくらいだ。
「はじめ……!」
「マナだけでも起こしてくれ! それだけで随分違うはずだし、私のこの術もそうはもたない……」
「わ、わかったわ」
サクラはマナの体を揺らした。暫くするとマナが体を起こして、ぼんやりと目を擦りだす。もっと早く起きなさいよと叱咤しつつサクラは襲われている現状を説明し、リーがつい先ほど倒れたこととドス、ザクの能力について説明している。
後ろで女子二人なんで起こさなかったんだだの起きなかったそっちが悪いなどと騒いでいるのが聞えるが、今はそれどころじゃない。水牢の術を発動させようと試みるが、三人分は今のチャクラ量では結構きつい。
「マナ! 兵糧丸を三つくれ!」
「おーけー、持ってけドロボー」
ミントの爽やかな味が口内に広がって、口の中がすうっと涼しくなるのと同時に、体が燃え上がるように熱くなった。三つもハッカ特製の兵糧丸を食べて無理矢理チャクラを増量させたのだ、体へかかる負担は大きいかもしれないが——これも皆を守るため。
「水遁・水分身!」
水陣壁の外部に現れた三人のはじめが、無表情のままに腰を落とす。水分身のはじめが無表情なのに対し、本体はかなり顔色が悪い。
「水車輪!」
一気に投擲されたそれらは目くらましに過ぎない。本当の目的はそれを避けようとしたドスたちが、新たに作成された三人の水分身に背後から術を喰らう時。
「水牢の術!!」
三人が三つの巨大化した水球のようなものの中にそれぞれ閉じ込められる。中も水というわけではないのでちゃんと呼吸も出来るようになっているから、ちゃんと生きていけるだろう。はじめが水陣壁を解き、六人になっていた水分身の内、三人を水に戻す。
「古きものは即ち基礎……古臭いと貶めているだけで、古きから極めようと思わないお前等は、どんなに新しきを極めても強くはなれない……!」
息絶え絶えになりながらも、はじめは水牢の中の三人に向かって叫ぶ。水牢の中の彼等の顔が怒りと恥辱に歪んだ。
「……とは言え、これは流石に厳しいな……っ」
水陣壁・水分身・水車輪に水牢を使ったのだ。兵糧丸を食べていたとは言えチャクラ消耗は激しいし、兵糧丸を食べ過ぎた所為で体の具合もおかしくなり始めている。元々兵糧丸というのは食べ過ぎると体に毒という。食べる量については個人差があるが、はじめの場合四つは多すぎたらしい。頭がギンギン痛む。
「うぅ……っ」
地面に這い蹲って、それでもなんとか術は維持する。
「ちょっとはじめ、大丈夫!?」
「おい、大丈夫か、はじめ!」
サクラとマナが駆け寄ってきた。視線を巡らすと、樹上にはじめに変化した紅丸が立っている。ということは、救援を呼ぶことには一先ず成功したらしい。一応、十、三、八班に頼んでもらうことにしたが、一体どの班が呼びかけに応じてくれたのだろうか。
「げぉっ、ぐ、おぇぇ……」
吐き出した胃液の中に混じっていたのはぐちゃぐちゃになった、未消化の兵糧丸の爽やかな空色だ。兵糧丸が吐き出されるのと同時に、燃えるように熱かった体から体温が逃げていくような気がした。すうっと寒気がする。指先からチャクラが逃げていくような感覚。
そしてはじめのチャクラは、もう水牢と水分身の負荷には耐え切れなかった。
「っく……!」
拳で地面をどんと叩いても何にもならない。水牢と水分身が水となってばっしゃりと地面に散る。水牢から脱することの出来た三人が、不敵に笑いながらはじめを見下ろした。
「結局、君も古きを極めきれなかったようですね……!」
「か、は……っ」
出し抜けに振るわれた右腕から発された拳を腹に食らって、吹っ飛んだはじめの体がずるずると地面を削る。更にその腕から発された音に、はじめは耳を押さえて蹲った。つうっと赤い血が耳から流れ出る。はじめの両腕がぶるぶる震えながら持ち上げられ、何かの印を結ぼうとした。しかしその手は印を結び終える前にぱったりと地面に落ち、はじめの頭ががくんと下がった。苦悶の色を浮かべた瞳からしてまだ意識はあるようだが、もう戦える状態ではないだろう。
これからはもう、マナとサクラと紅丸で戦うしかなくなった。
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.43 )
- 日時: 2012/07/22 23:28
- 名前: わたあめ (ID: HyoQZB6O)
「はじめ!」
「くっそーてめえら、アタシの仲間と先輩に手ェ出しといてただで済まされると思うなよ!」
マナの隣にはじめに変化した紅丸が飛び降りて、獣人分身を解いた。いくぞサクラ、と自分より小柄なその少女はクナイを構えて言う。マナが走り出して、クナイに結びつけたワイヤーをドスに巻きつけんとするが、それは簡単にかわされてしまう。ドスが袖を捲り上げて、右腕でマナを攻撃しようとした。そうはさせないと、その注意を逸らす為にサクラは手裏剣を投擲する。
——私だって、私だって!
私にだって戦える。私だって忍びなんだから!
四枚の手裏剣を連続で投擲するが、それはドスに届く前に、ザクの手に穿たれた穴から出る空気圧に跳ね返された。自分の方へ飛んでくるそれをなんとかかわす。風が止んだと思った次の瞬間、頭皮が引っ張られる感覚に尻餅をつく。
気付けば後ろに立つキンが、サクラの髪を掴みあげていた。
「あたしのよりいい艶してるじゃない、これ。——髪に気を遣う暇があったら修行しろ!」
そしてぐらぐらとその手を揺らす。髪が右に左に引っ張られて頭皮が痛い。甘いんですよ、という声が聞えたような気がして、視線を左に流せば、ドスに腕を捻り上げられたマナが身長足らずのために空中で宙ぶらりんになっていた。
「いっちょ前に色気づきやがって。——ザク! この色気虫の前で、そのサスケとかいう奴を殺しなよ。ついでに、あのマナとかいうチビもね」
「おーいいねー」
愉しそうなザクとキンに、ドスは「おいおい……」と言うものの阻止する気は全く無い。寧ろクナイをマナの喉元に構えてそれを実行する気満々である。
「動くな!」
少しでも動こうとすると、直ぐに髪の毛を引っ張られてもとの位置に戻される。
——サクラさん……!
目を覚ましたリーは直ぐにサクラの窮状を見てとったが、体が上手く動かない。どうにかして彼女が脱出してくれるかを望むことしか出来ずに、リーはサクラを見つめる。
——体に、力……入らない
悔しさと悲しさと自己嫌悪と怒りと後悔と、様々なものが交じり合って、そして涙となって零れ落ちた。堪えようと必死になるも、涙は止まらず落ちていく。
——私……また、足手まといにしか、なってないじゃない……!
いつだってそうだった。落ち零れと言われるナルトでさえ自分より頑張っているし、波の国でも、大蛇丸との戦いでもナルトとサスケは各々自分の全力を尽くして戦っていた。
——いつだって守られてるだけ。……悔しい……!
ナルト、サスケ、リー、はじめ。死の森で一体何人の人に助けられたことだろう。
——今度こそは、って、思ってた
自分をいつも守ってくれたナルトやサスケが倒れて弱っている時、今こそ自分が二人を守らなければとそう思っていたのに。結局リーに助けられてはじめにも助けられて、それなのに今はまた、サスケとマナが死ぬのを看ていることしかできない。
——今度こそ、大切な人達を……私が守らなきゃ、って
拳を握り締める。「じゃ、やるか」と残酷な笑みを浮かべて、ザクがサスケのところへと近づいていった。マナが足をばたばたさせてもがき、紅丸がドスの足に噛み付いている。サスケは相変らず苦しそうだ。
マナの目と一瞬視線が会った。彼女もまた悔しそうに顔を歪めている。足をばたばたさせたって何の意味もないと、きっと彼女だってわかっているはずなのに——
サスケを守らなければ。ナルトを守らなければ。マナを守らなければ。
——今度こそ、私が皆を守らなきゃ!
ホルスターからクナイを抜き取って、構える。その動作に気付いたキンが冷たく言い放った。
「無駄よ。あたしにそんなものは効かない」
「何を言ってるの」
サクラは不敵な表情で振り返った。絶対に負けられない——いや、負けない。皆は絶対自分が守る。
「——何ッ!?」
そしてサクラは、その場にいた全員——叢の中で様子を伺っていた十班も含む——の驚愕の視線を受けながら、クナイで桜色の髪を断ち切った。
それはかつて、サスケが長髪の子が好みと聞いて、長い時間をかけて伸ばしていた髪だ。切られた髪に沿うようにして、額あてが地面に落ちていく。
——私はいつも、一人前の忍者のつもりでいて。サスケくんのこと、いつも好きだといっといて。ナルトに、いつも偉そうに説教しといて。……私はただ、いつも二人の後姿を見てただけ。それなのに、二人はいつも、私を庇って戦っててくれた
——リーさんも……はじめも。二人とも必死で戦ってくれた。私なんかの為に
——リーさん。貴方は私のこと好きだと言って、私の為に、命がけで戦ってくれた。貴方に、教えてもらった気がするの
——私も、貴方たちみたいになりたい
立ち上がる。桜色の髪が舞い散る桜の花びらのように空を舞う。かちゃんと音をたてて、額当てが地面にぶつかった。
——皆、今度は……
拳を握り締める。
——私の後姿を、しっかり見ててください!!
「キン、やれぇ!」
印を高速で組みだしたサクラの背後に、キンが千本を思い切り突き立てる。しかしサクラの体だと思っていたそれは一瞬にして一本の丸太にかわった。
「変わり身の術……!」
「マナ!」
ワイヤーに括りつけた木の実を投げつける。それがマナの口に届く前にワイヤーを回収すると、マナの顔色が変わった。
「うらぁああああああああ!」
食べ物の恨み効果でマナのチャクラが暴走しだし、マナは体を前後に揺らすと、勢いをつけて後ろへ向かって蹴りを飛ばす。ドスの顎に命中したその蹴りに、彼の手が一瞬緩んだ。体を捻って脱出すると、紅丸の体に手を置いて、紅丸を自分の姿に変化させる。その時のサクラはもう、既に次の行動へと移っていた。
「キン、離れろ!」
ザクが印を結んで両手をサクラに向ける。風の進路にいたキンに離れるよう命じて、投擲されたサクラのクナイを空気圧で跳ね返す。途中、彼女が変わり身の印を結んだ。跳ね返されたクナイが彼女にぶつかり、そしてそれは一本の丸太に変じる。
「二度も三度も通用しねえって言ってんだろーがよォ……」
空から落下してくる、変わり身の印を結ぶ少女にザクはクナイを四本取り出す。どうせ変わり身、己の技を使う必要すらない。
「おめーはこれで、十分だッ!」
投擲されたクナイが、咄嗟に急所を庇った少女の手や足に命中する。「次はどこだァ?」とあたりを見回していると、不意に右頬が濡れた。目の前にふっと影が落ちる。
「なんだとっ!?」
——このアマ、変わり身じゃねぇ!
先ほどの印を結ぶ動作はフェイクだったらしい。自らに突き刺さったクナイを抜いて襲い掛かってくる。咄嗟に顔を庇おうとした右腕に彼女のクナイが突き刺さった。そして左腕にサクラが噛み付いてくる。前方に立っていたキンに吹っ飛んできたドスの体が命中、二人が地面に転がり込む。クナイを両手に持ってドスとキンの方へ襲い掛かったのは二人のマナだ。
「放せこら!」
クナイの突き刺さった右腕で、必死に噛み付いてくる女の頭を殴る。何度も何度も繰り返し殴っているのに、その顎が緩む様子はない。寧ろ殴れば殴るほど尚更ムキになって噛み付いているようだった。
「くっそ、放せ!」
額や頬や鼻や顔からだらだらと血が流れ出す。それでもサクラは決してその顎を緩めない。死んだってずっとこの腕に噛み付き続けてやると、そう言わんばかりに。
叢でその様子を伺っていたいのに、数々のサクラとの思い出が浮かび上がる。彼女がいのには負けないと言ったのを思い出した。
「サクラ、持ちこたえろ! こっちが済んだらアタシもそっちい——っ!」
そっちいくから、その言葉が言い終わらない内に、ドスの音の攻撃を受けたマナが地面に崩れ落ちる。
「くそ、サクラ!」
ザクに加勢しようとしたドスの足に右腕でしがみ付き、ドスのクナイの攻撃を左手に握ったクナイで防ぐ。先刻ザクの攻撃にしようした骨を拾い上げた紅丸は、それを使ってキンの千本と応戦していた。
サクラが痛みに涙を浮かべても、血をだらだら流してもザクに噛み付いているのに、自分はここで隠れている。サクラもマナも、こんなに必死で戦っているのに、自分はここで隠れている。
——サクラ……それに、マナ
殴られたサクラの口から血が流れる。それでもサクラは必死になってザクに噛み付いた。
——私は……私が……!
不意にその顎が力を失って緩んだその瞬間、ザクがサクラを叩き飛ばす。ギャン、と叫びをあげた紅丸が地面を転がり、二度目の音の攻撃を受けたマナが、あの驚くくらい胃の丈夫なマナが、今度こそ吐いた。そのマナがサクラの直ぐ近くに投げつけられる。
——私が……皆を守んなきゃ!
「マナ」
——貴方も見ていて。私の後ろ姿を
「このガキどもがァ!」
ザクが両手をサクラに向ける。殴られた左目の瞼が腫れ上がって、左の視界がよく見えない。それでもサクラは、マナと紅丸を守ろうと両腕を広げる。せめて二人だけでも守ろうと。
そしてその瞬間、目の前を三つの影が覆った。
「へっ。また変なのが出てきたなぁ」
それは正しく猪鹿蝶——第十班の三人だった。
「……いの?」
「サクラ、あんたには負けないって、約束したでしょ!」
目を見開くサクラに、いのは笑って見せた。
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.44 )
- 日時: 2012/07/26 01:23
- 名前: わたあめ (ID: 7xKe7JJD)
「いの、どうして」
「サスケくんの前で、あんたばっかいいカッコさせないわよ!」
いのがサクラの目の前に立ち、シカマルがその右隣に、長いマフラーをシカマルにつかまれた状態でチョウジがいのの左隣に立っている。
「またうようよと……木ノ葉の虫けらたちが迷い込んできましたね!」
「二人とも何考えてんだよぅ!? こいつらヤバ過ぎるって!!」
「めんどくせーけど、仕方ねーだろ! いのが出て行くのに、男の俺らが逃げられるか!」
腰を抜かしたチョウジは、シカマルがマフラーさえ掴んでいなければ逃げ出していたであろう勢いだ。しかしシカマルはマフラーを掴んだまま放さず、めんどくさいといいながらも戦う気でいるらしい。
「巻き込んじゃってごめんね〜でもどうせスリーマンセル、運命共同体じゃな〜い」
「ま、なるようになるさ」
不敵な表情で相手に向き直るシカマルといのだが、チョウジは未だに逃げようとしている。
「嫌だぁあ! まだ死にたくなああい! マフラー放してよぉお!」
「あーもーうるせぇ! じたばたすんな!」
後ろを、つまりマナとサクラのいる方向を向いて体をじたばたさせなんとか逃げようとするチョウジを見て、ザクが小ばかにした発言をする。
「お前は抜けたっていいんだぜ、おデブちゃん」
おデブちゃんん、その言葉をチョウジが耳に捕らえた瞬間、サクラとその後ろで目を醒ましたマナは見てはいけないようなものを見てしまった気がした。そしてその殺意が自分に向けられているのと思い込んだマナは目を硬く瞑って狸寝入りをした。サクラがごくんと唾を飲む。
「……今、なんて言ったのあの人? 僕は、よく聞き取れなかったよ」
静かな声に、やっと殺意が自分に向けられたのではないと悟ったマナは薄目を開けた。紅丸が震えて縮こまる。
マナもサクラも覚えている。男女共同の体術の授業、デブと嘲られたチョウジがキレた時のことを。
「ああん? 嫌なら引っ込んでろつったんだよ、このデブ!」
「ひぃいいいい!」
そしてチョウジの凄まじい形相を見たマナと紅丸は二人して抱き合うと、サクラの後ろに逃げ込んだ。その時のチョウジの形相は怒りに彩られて筆舌し難い恐ろしい形相になっていたので、そこらへんの描写は省くとしよう。
「ぼォオくはデブじゃなァアアい! ぽっちゃり系だ、こるァアア!」
「ぽ、ぽっちゃり系ですそうです寧ろ痩せてますごめんなさい食べたら美味しそうなんて言ってごめんなさい!!」
何故か謝ってるのが背後のマナだったが、チョウジの耳にそれらは入っていない。
「うぅううううるぁああああああ! ぽっちゃり系、万歳!」
チョウジの全身から湧き出るチャクラのオーラにマナがびくびく怯えてサクラにしがみ付き、サクラは体中の痛みもピンチに同期が駆けつけてくれた感動も全て忘れて、呆れるやら状況が飲み込めないやらで、目をぱちくりさせていた。
「よぉおおし、お前等わかってるよなァ!? これは木ノ葉と音の戦いだぜい!」
「……ったく、めんどくせーことになりそうだぜ……」
「それはこっちの台詞だ!」
何気にキャラまですごいかわってしまっているのだが、大丈夫だろうか。溜息をつくシカマルに、ザクも不機嫌に吐き捨てる。さっきまで逃げ腰だった奴がここまでキレるとは思ってなかったらしい。
「サクラ、マナ。——後ろの人達、頼んだわよ」
「——うん」
「ラジャーっ」
「わんっ」
いのの声に、新たな力が湧き出たようにサクラは頷く。マナも敬礼し、紅丸もさっさとサスケやナルト、ユヅルのところへと駆けていった。
サスケの体からは紫色のチャクラが染み始めている。サクラとマナは頷きあって、リーとはじめをサスケとナルトの近くへ引きずりだした。
「——それじゃあいのチーム、全力で行くわよ!」
「おう!」
「フォーメーション、いの!」
「シカ!」
「チョウ!」
掛け声を出して、先ずはチョウジが一歩前に進む。
「頼んだわよ、チョウジ!」
「オーケイ、倍化の術!」
チョウジの腹部だけが衣服ともどもぼん、と膨らみ巨大化する。
「続いて、木ノ葉流体術・肉弾戦車ァー! ごろごろごろごろごろ!」
手足と頭を衣服の中に引っ込め、自分でごろごろごろと効果音を出しながら前へ向かって転がる。破壊力は満点だ。こんなコミカルな体術が見れるのも恐らく木ノ葉だけだろう。
「なんだこのデブ? デブが転がってるだけじゃねえか! ——斬空波!」
両手から空気圧を放ってその巨体を弾こうとするが、しかしその回転力はかなりのものだ。ザクの空気圧をもってしても弾けない。更に空気圧が強まると、チョウジは回転したまま空高く飛び上がる。
こちらに向かってくるチョウジをどう始末しようか迷っているザクにドスが駆け寄るが、シカマルがそうはさせない。奈良一族秘伝の影真似の術でドスの影を縛り付ける。ドスの動きが止まった。そしてドスは彷徨わせた視線の先、ニヤリと笑うシカマルの姿を見つけた。
「ドス! こんな時に何をやっている!?」
キンが罵声を飛ばしたのも同然だ、ドスは蟹股になり、両腕で丸を描いて両手を自分の頭にあてるという、なんとも間抜けなポーズをとっているからだ。いや、正確にはとらされている、というべきだろうか。ドスの前ではシカマルが同じ姿勢をとっている。
「いのー、後は女だけだ」
「うん! シカマルー、あたしの体、お願いねぇーっ」
「ああ」
印を組んで、キンに狙いを定める。はっと目を見開いた少女目掛けて、いのは心を飛ばした。
「忍法・心転身の術!」
いのの体が崩れ落ち、シカマルがそれを受け止める。ドスがシカマルの前で、何かを受け止める手つきになった。勿論かれの目の前には空気しかないわけだが。
「キン!」
転がりまわるチョウジを避けながらザクが叫ぶ。キンは気をつけの姿勢で、目を瞑ったまま動かない。「どうした!?」と焦った声で問いかけるドスに、キンは勝ち誇った表情でクナイを喉につきつけた。
「これでおしまいよ!」
「——!!」
「あんた達、一歩でも動いたらこのキンって子の命はないわよ! ここで終わりたくなければ、巻き物を置いて、立ち去るのねあんたたちのチャクラが感じられなくなるまで遠のいたら、この子を解放してあげるわ」
いのはキンの声を借りてそう宣言する。しかしドスとザクが浮かべたのは嘲笑だ。
——こいつら、何がおかしいの……?
焦ったいのは、慌ててチョウジを振り返った。
「チョウジ!」
「——やばいっ、そいつらは!」
サクラの焦燥に満ちた声。サクラがいのに、キンの体を離れるよう呼びかける前に、ザクの掌から放たれた空気圧がキンの体を吹き飛ばし、その背後の大樹に叩きつけた。キンの口から血が一筋伝い、シカマルに支えられたいのの口からも、やはり血が伝った。
「なんて奴らなの……仲間を、傷付けるなんて……!」
「油断したな!」
「我々の目的は巻き物を得ることでもなければ、ルール通りにこの試験を突破することでもない……」
ドスはその名を口にした。彼の主人がご執心の、少年の名前を。
「サスケくんなんだよ」
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