二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

NARUTО 木の葉の里の大食い少女
日時: 2012/07/28 22:52
名前: わたあめ (ID: tdVIpBZU)

九尾襲撃以前に餓死した狐者異一族の生き残り、「狐者異マナ」が木の葉にて暴れる話。主に食卓の上で。
アンチ・ハーレム・チートはなしの方向で。

1.荒らし・中傷・パクリにきたという方はバックプリーズ
2.この小説はにじファンにて載せたことがあります
3.原作批判・過度な原作キャラマンセー及びキャラアンチはお断り 
4.残酷な描写が一部に見られます、ご注意を
5.亀☆更☆新

それでもいいというかたはどうぞ

メニュー

第一章 純粋すぎるのもまた罪。
 ∟アカデミー編 >>1-5
 ∟班分けと鈴取り編 >>6-11
 ∟巻き物奪還任務編 >>12-20>>28 
 ∟お見舞い編 >>21-27

第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
 ∟第一試験編 >>29-33
 ∟第二試験編 >>34-48
 ∟第三試験予選編 >>
 ∟第三試験本戦編 >>

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11



第十五話 敵にミジンコ呼ばわりされ、蜘蛛の足に囚われる。 ( No.15 )
日時: 2012/07/12 10:17
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「テンテン先輩って何が得意でしたっけ」
「忍具よ。そっちは?」
「えーとまあ、食遁とトラップ系ですね」

 ならいいわとテンテンは表情を引き締めた。マナの耳元に作戦を囁くと、マナも顔を引き締めて頷いた。二人してサンカとミソラから間合いを取る。マナが懐からワイヤーを取り出すと、テンテンも巻き物を取り出した。

「先ずは——これからいくぜっ!」

 煙り球をサンカとミソラの間に向かって投げる。両人の間で爆ぜた煙り球から紫の煙りがあふれ出た。これではマナもテンテンもサンカとミソラを見ることが出来ないが——見なくとも二人を攻撃する術はある。

「いけっ、苺大福!」

 マナの頭の上から飛び出した紅丸が一直線に煙りの中に突っ込んだ。サンカの悲鳴が上がり、戸惑ったミソラの声が聞える。煙りかゆっくりと消えていったその瞬間を狙って、テンテンがクナイを投じた。咄嗟に反応できないミソラの右肩にクナイが突き刺さり、ミソラは痛みに歯を食いしばりながら左手でそれを引き抜く。一方サンカが必死に引き剥がそうとしているのは右手の甲に噛み付いた紅丸だ。傷ついている場所をつくとは卑怯だが、しかし汚い手を使ってでも敵を倒し任務を完成させるのが忍びというものだ。

「っこのミジンコがぁ……! ミジンコの癖に生意気よ!」

 紅丸を引き剥がすのは諦める代わりに、残虐な笑みを浮かべながらサンカは石を持ち上げた。紅丸を石で潰すつもりだと、紅丸も悟ったのだろう。サンカの右手を離そうとするが、逆にサンカの手が紅丸の顎を掴み逃させない。

「クソッ、やめやがれ!」

 思わず駆け寄るマナの前にミソラが立ち塞がる。彼女が印を組んだ。

「青行燈流・百物語」

 ミソラの足元から何か巨大な腕のような脚のようなものが伸びてきた。黒い毛が生えたそれをクナイできりつけるも、それは次から次へと現れてくる。よく見ていてそれが巨大な蜘蛛の足だと、そう気付いた。視界の隅に石を振り上げるサンカが目に入る。
 ——苺大福が、しんじゃう
 その恐怖に目が潤んだ。
 キバから貰った子犬が。
 アタシの苺大福が。
 死んじゃう。殺されちゃう。壊されちゃう。

「——嫌だあああああッ!」

 テンテンが手裏剣を投げてサンカの左手やわき腹へと突き刺すが、しかしそれでも彼女は石を持つ手の力を緩めない。いっそ胸や首を打って殺してしまえとも思うが急所は守られておりどうにも出来ない。サンカの残虐な笑みが広がり、石が思い切り振り下ろされた——

「……っう、ええ……苺大福ゥ……」

 蜘蛛の足がマナの体に触れた。そして包み込むようにそれらが一気に距離を狭めてくる。ぐいと、それらがマナに抱きつく。気味の悪い感触に震える暇も無かった。マナを掴んだそれは、マナを地中へ引きずり込もうとする——

「マナッ、しっかりしなさい!」

 手裏剣が飛んで、蜘蛛の足を切りとばす。涙で霞んだ視界のまま見上げると、背中からダラダラと血を流すテンテンが目に入った。その手に握ったクナイはサンカの首に当てられている。
 どうやらテンテンはサンカと紅丸の間に割って入って紅丸への攻撃を食い止めたのだと、そうとわかってマナは呆然と立ちすくんだ。足はもう踝のあたりまで沈んでいる。

「——テンテン先輩っ」

 叫んで手を伸ばして必死に彼女に近づこうとするのに、足はずぶずぶと沈んでゆく。届かない。どうしよう。届かない。サンカがテンテンを蹴り飛ばす。血の跡をずるっと残して、テンテンは地面に転がった。それきりピクリとも動かない。

「——うわああああああ!!」

 情けない悲鳴をあげて、マナは狂ったかのようにもがきだすも、足は膝まで沈んでいく。

「ワンッ」

 紅丸が飛んできた。手を噛み付かれる。
 ああそうだよ自分は最低な主人だ。
 自分の忍犬が殺されそうになっているのに蜘蛛の足に囚われて泣くことしか出来なくて、今度は自分の忍犬を守ってくれた先輩を呆然と見ることしか出来なくて?
 最低だ。
 そんな自分の情けなさに、涙が溢れて止まらない。

「ごめんなさいぃ……っ」

 太腿まで沈んでいく。いっそこのまま沈んでしまえ。生き埋めになってしまえ。

「ワンッ! ワン、ワンッ」

 紅丸が叫ぶ。
 その体を左手で撫でた。その瞬間、キバの声が脳裏で響く。

 ——獣人分身ってのは、忍犬に自分のチャクラを与えて——

 最後の望みだ、と、そう思って。
 紅丸を撫でる左手に、チャクラを集める。

「ワンッ」

 腰まで沈んだ。目の前に現れたもう一人のマナが微笑む。地面を蹴って飛び上がったマナの姿をした紅丸がいたところにサンカの拳が命中する。倒れたテンテンを抱え上げて、そのマナが唸る。

「——苺大福」

 腹まで沈む。このまま沈んでいるわけにはいかない、と思い至ってマナは笑った。

「うおおおおおおッ!」

 蜘蛛の足を素手でもぎ取り、無理矢理体を引っこ抜く。それを構えてサンカとミソラに向き直った、その瞬間——

「ウラヤマシイ——」

 これは——ユヅルの声?
 振り返る。ユヅルの左胸から、獣の形をした実体を持たぬものが吹き出ていた。
 まさかあれが——あれが彼の呪いの力なのだろうか。

第十六話 体術系先輩を川に突き落とし、走馬灯を見させる。 ( No.16 )
日時: 2012/07/12 10:17
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「じゃー行かせてもらうよっ」

 カイナの右腕が伸びる。標的ははじめだ。はじめは咄嗟に傍で咳き込むネジを引き寄せ盾にした。カイナの腕はネジの頬に触れ、ネジの咳きがさらに激しくなる。熱も出たのだろうか、触れている肌が熱い。

「おまっ、ごほっ、え、わざとげほっ、か!? げほっ、ごほっ」
「……は、反射で……」

 駄目だ、眩暈がしてきた。ふらふらと覚束ない足取りで、とりあえず流れる川の水を汲み取って飲みたいという気持ちを押さえ込む。今川なんかに近づいたら百パーセントの確率で流されてしまう。

「……も、申し訳ない……水遁・水車輪!」

 半ば誤魔化すかのように術を発動する。水を纏った手裏剣がしゅうしゅうとカイナとケイに向かってとんだ。ケイはただぼんやりと空を見上げている。
 カイナがケイを抱え上げて手裏剣を交わした。ケイの虚ろな瞳は空を見つめたままだ。あいつは戦わないのかとも思ったが、逆に都合がいい。
 
「あ、一個教えてあげよーか? 白目っ子くん、キミの白眼は俺には通用しないよ。何故って、キミの手の纏ったチャクラが俺に触れただけでも、症状は悪化するもの」

 ぴたりと伸ばした掌が止まる。何故俺にそんな情報を教えた? 罠か? それとも……?

「ま、信じなくたっていーけど?」

 カイナの拳が飛ぶ。触れただけでも病気にかかる——これは体術使いのネジには不利だ。
 ケイがネジに向き直って、妖しく笑う。虚ろな瞳にネジの姿は映らずとも、空っぽの視線とネジのまっさらな視線は確かにぶつかりあう。彼になら柔拳を使っても構わないはずだと判断して、構えを取る。と、ケイが手招きした。スローモーションでその手の動きが残像を残してぐらぐら上下に揺れ、ぐわんとネジの視界が歪む。幻術だと思った時にはもう遅かった。体が熱い。肺の中で雑音がこだまする。幻術返し。どうやるんだったっけ。頭が動きを止めて、何かを考えるのが億劫になる。
 
「水遁・水球!」

 水の塊を二連射。手招きしていたケイに内一発がぶち当たり、ケイは悲鳴の一つすらあげずに、そそり立つ二つの像のうち、うちはマダラの像へと吹っ飛び、マダラの足に直撃した。ずるずるとそのまま地面に倒れこんでぴくりとも動かない。

「病遁・腐敗水!」

 チャクラを練って出来た水は一瞬にして汚染され、ばちゃりと地面に飛び散るなりじわじわと地面を浸食し始める。病遁とは大した血継限界だ、とはじめは心中悪態をついた。

「水遁・水車輪!」
「おおっとそれが通用するとでも! 病遁・破銅爛鉄(はどうらんてつ)!」

 水を纏った手裏剣を容易く交わし、カイナが手裏剣とクナイを投擲する。じわじわと腐ったクナイが一本地面に突き刺さると、そこから浸食が広がっていった。幻術をかけられたのか、ぼうっと一点を見つめたまま動けないネジへと手裏剣が襲い掛かる。

「——っせんぱい!」

 咄嗟に体当たり。元々覚束ない足取りだったネジは容易く宙を飛び、その拍子に幻術が解けたのか、はっと目を見開き、そして——
 ぼちゃん、と盛大な音を立てて川の中に落ちた。

 ——かわいい子ですね、父上——
 ——ネジを預かるぞ——
 ——ネジ、お前は生きろ——
 ——彼は正に、日向始まって以来の天才——
 ——お前は誰よりも日向の才に愛された男——

 ——第三班、ロック・リー、テンテン、日向ネジ——
 ——夢は、体術だけでも立派になれることを証明すること——
 ——お前、忍術が使えない時点で忍者じゃないだろう——
 ——ネジはリーと違って、天才なんだから——
 ——天才がなんなんですか!——
 ——これは運命なんだ——

 ——何してんのよ早く逃げなさい!——
 ——リー! 大丈夫か、リー!——
 ——僕は一体何を……?——
 ——ネジ先輩! アタシにぼったくられてください!——
 ——八卦六十四掌!!——

 ——あ
 走馬灯を見ている場合じゃなかった。そう思って目を開けた瞬間、水が目に入ってつうっと刺されたような痛みが走る。途端に呼吸困難に陥り、水面に顔を出したくとも流れが速い為に泳ぐこともままならない。水が冷たくて寒いやら体が熱で焼けるように熱いやら、気持ちの悪い感覚に吐きそうになる。
 ——もし宗家を潰せる日が来たら、とりあえずその次にはマナとはじめをぶちのめしてやる
 川の中からなんとか脱出し、濡れ鼠になって咳きだけでなくくしゃみもしはじめながら、よろよろといまだ交戦中のはじめとカイナの元へよる。マダラの足元でケイが体を起こした。寒さに震えながら地面を蹴って飛び、柔拳を喰らわせる。それを受けて再び地面に転がるケイだが、彼はおもむろに立ち上がるなり、再び手招きをした。
 ケイの姿がブれ、そして亡き父ヒザシの姿と重なる。
 その顔の目があるべきところに、ネジと同じ白い目があるべきところに、ぽっかりと黒い空洞が二つ、開いていた。

「ッ——!」

 また、ヒザシの姿がケイの姿へと戻った。虚ろな瞳でケイがこちらを見つめる。
 桂男。月に住まう妖。
 月とは元々、人の生死に密接に関係しているものだと聞く。そしてケイのような少年が手招くのを余りにも長い時間見ていると、月へと招かれてしまうことも。
 だからケイの動作はいつも緩慢なのだ。月の時はここに比べてはるかに長い。反応も何もかも遅いけれど、相手に自分を長い間見させるだけで、月を見せてやれるのだ。月の向こうにある死を。
 不意にぐいと、引っ張られた。何があったんだと思った瞬間、胸元あたりに誰かの腕が触れる。カイナだ。ということは——

「げほっ、はじめ、くしゅんっ、お前はげほがふっ、俺にぐしゅんっ、恨みでもあるのがほっ、かげほっ!?」

 咳きとくしゃみを交えた声で怒鳴ると、はじめは数秒おろおろしてから、

「……せ、先輩には免疫が……」
「あるわけないだろっ!」

 ネジの渾身の柔拳を受けたはじめの体が宙を飛び、地面に這い蹲ってネジが咳き込みだす。
 その瞬間、誰かの声が聞えた。

「ウラヤマシイ——」

 振り返ると、そこにはユヅルが立っている。
 左胸から獣のような何かが吹き出ている。咳き込みながらネジはそれを見つめた。
 
 あれは。あの獣は。
 まさか——
 

第十七話 過去の幻を見せられ、鬼火女と対峙する。 ( No.17 )
日時: 2012/07/12 10:19
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「あの妖——お前の召喚したものか?」
「ああ。子供とは言えそれなりに力はある」

 いや、大人より子供のほうが手懐けやすいんだろう。そんな言葉を飲み込んで、ガイは蓮助にアッパーを食らわす。それを左手で食い止め、蓮助が右手で殴りかかってきた。腕を軽く動かして蓮助の腕を掴み、一本背負いで投げ飛ばす。蓮助は投げ飛ばされた空中で体勢を整え、右足で着地すると同時に左足でガイを蹴っ飛ばした。蹴り飛ばされたガイも直ぐに体勢を整え、木の葉旋風を放つ。一段目こそ避けられたものの、二段目で蓮助は見事に吹っ飛ばされた。吹っ飛ぶ蓮助にすかさずダイナミック・エントリーで真正面からのとび蹴りを放つが、蓮助が咄嗟に印を結ぶ。一本の丸太がばっ、と地面にぶつかった。

「変わり身の術、か」
「おや。そう言えば五大国では変わり身だったな。俺たちの国では空蝉と呼ぶ」
「お前たちの国——?」
「かつて滅びし鬼の国。鬼影が統べる、妖隠れの里」
 
 聞いたことがあるな、と呟いてガイは手刀を叩き込んだ。ぐは、と呻き声をもらして蓮助がよろめいたかと思いきや、左足を軸にして思い切り右足を回転させてガイを蹴ろうとする。その右足を掴み、蓮助を投げ飛ばすが、彼は岩壁を蹴って方向転換し、構えたクナイを一斉に投げてくる。一瞬、彼と目があった、瞬間。

「——!?」

 短髪の女の子がぴょんぴょん飛び跳ねていた。黒い髪をポニーテールにした少年が静かに読書し、緑の全身タイツを着たリーによく似た——いや、リーのよく似た——少年が真っ白い歯をきらきらさせて笑っている。長い黒髪を中わけにした童顔の女の人がこちらを見ていた。
 幻術だ、そう思った瞬間場面が切り替わる。
 ——先生! 先生!!——
 拷問されて死んだ女の死体。ガイの担当上忍だった女性が、御座敷童子(みざしきわらべこ)が、そこで息絶えている。その傍で椅子に縛り付けられ、涙の筋を頬に浮かべながら気絶している少年がいた。——若き日のハッカだ。呆然と立ちすくむガイが背負うのは、だらだら血を流して失神しているチームメイトの少女、ユナトだ。
 ——痛いから触んないで! お願い、触んないで!——
 また場面が切り替わる。大きな傷痕をつけた右腕を庇いながらユナトが泣いている。傷口から病が伝染したとその医療忍者は言った。ユナトの右腕を、切り落とさなければならないと。
 そしてそこに移植されたのは。御座敷童子の右腕だった。
 ——先生の手——
 また場面が切り替わって、ユナトは椅子に座っていた。左手でハッカの黒い髪を撫でている。ハッカはユナトの右腕を掻き抱き、撫ぜ、じっと熱っぽい視線をユナトの右腕に、御座敷童子のだった右腕に注ぐ。
 ——ハッカ——
 ——僕は目の前にいたんだ。いたのに、先生が拷問されてるの見てることしか出来なかった。先生、すっごい苦しそうだった。すっごい痛そうだった。なのに僕何も出来なかったんだ——
 ハッカがユナトの右腕を抱きしめなくなるまで、半年くらいした。
 いや、もしかしたらもっと長くかかったのかもしれない。何故なら半年後に、ユナトはハッカの記憶を消してしまったのだから。
 御座敷童子の右腕で、ハッカに術をかけて。その記憶を消したのだ。
 だから今は、ガイたちの当時の担当上忍は男性だったということになっている。そして任務で殉職したと、そう記憶を書き換えた。日焼けしたユナトの左腕と、真っ白い童子の右腕のコントラストが鮮明だったのを憶えている。

「狂ったまでに愛していたようだな、御座敷童子のことを。あいつの名前はシソ・ハッカだったか? 知っているか、彼女もも妖隠れの里の生まれなんだ」

 座敷わらしなんだよ。と蓮助は笑う。
 ああ、だから童顔だったのか。赤い羽織の彼女を思い出し、ガイは目を閉じる。そして目を見開くのと同時に、蓮助に思いきり殴りかかった。


「——初代火影千手柱間……私も耳にしてはいますよ。私は鬼の国妖隠れの里の生まれなのですけれど、木の葉にはずっと憧れておりました」

 長い髪を垂らした初代火影の像の上で、レミとハッカは対峙していた。

「水遁・水牙弾!」
「火遁・豪火球の術!」

 圧縮回転がかけられた水の塊が一斉にレミを襲う。豪火球の術でいくつかを蒸発させるレミだが、しかし内いくつかに撃たれてしまうのを避け切れなかった。水牙弾は殺傷力が高い。衣服がざっくりと裂け、ぼたぼたと柱間の左肩に血が滴る。レミの傷口が一瞬ぶれる。

「水遁・水龍弾の術!」

 大量の水が持ち上がり、龍を象ってレミを柱間の肩から叩き落し、地面にぶつける。ばしゃばしゃとふりかかる水は傷口にはかなり痛いはずで、呻き声を上げるレミを追ってハッカも飛び降りる。一瞬レミの姿が消えたような気がした。

「水凶刃の術!」

 はじめがよく使う水遁・水車輪に似た術だ。水車輪が手裏剣であるのに対し、こちらはクナイや刀などに用いられる。
 左腕を刀で押さえつけた。このレミとか言う女、妙に弱い。弱いというか——なんというのだろう。誰かのコントロールを受けている……?
 しかし傀儡というわけでもない。なら、彼女は——

「火遁・鳳仙火の術!」

 びゅびゅびゅ、とレミの口から吐かれた火の玉が飛んでくる。水凶刃がいくつか相殺され、また残りのいくつかがハッカの服を焦がす。
 彼女は妖隠れ(あやかしがくれ)の生まれだと言っていた。恐らく蓮助もそうなのだろう、とハッカは判断をつける。髪色が似ているから、同じ一族だったりするのかもしれない。
 妖隠れにはたくさんの妖がいたと聞く。口寄せで有名な里だ。二代目鬼影が手下に殺された後に滅ぼされ、今では土の国に属している。

「考え事をしている暇はありませんよっ! 火遁・絵筆菊!」

 ぼっとレミの右手が燃え上がる。燃え上がった手刀を振り下ろしてくるレミ。右に飛んで裂けると、初代火影の足元に亀裂が走る。どうか初代さまの像が傷つきませんようにと心中祈りつつ、ハッカは出来るだけ初代火影の像から離れ、水際によった。水遁が得意であるハッカには水辺にいるほうが有利だ。

「水遁・水波刀!」

 チャクラを水練りこみ、水の刀へと変換させる。ハッカがつくったオリジナルの術だ。まだ実際の戦闘に用いたことはないが、やってみよう。

「たあっ!」

 レミの手刀が降ってきた。水の刀を一閃させる。あ、とでも言うようにレミの目が見開かれるのと同時に、レミの右手と手首が分離した。

「——な」

 こんなに威力が高い技だったのかと驚く暇もなく、切り落とされたレミの右手が宙に浮く。血は一切流れていない。それどころかこれを形成しているのは肉ではなく、
 右手と右手首が抱きつくように接着する。傷痕のかけらもなくそれは再生された。にっこりとレミが笑う。

「蓮助さんによるとこれは私たちの一族の血継限界だそうなんです」

 鬼火で形成された体がか。
 何故「蓮助さんによると」とか、「血継限界だそう」という表現をとったのだろう。二人とも同じ一族のはずならレミが自分の血継限界に知らないはずはない。何故レミは知らなかった?
 後ろで何かの声が聞えた。そして微かではあるが何かのまがまがしい気配も。

「——貴方達のところに私たちの仲間がいるとは驚きです」
 
 レミの声に振り返る。
 白い長髪の少年が立っていた。両手の先からはチャクラ網が迸り、傷をいくつか受けている。見開かれた赤い目が燃え、その左胸から何かが吹き出ている。
 獣のような形状のもの。
 ——レミたちの仲間——即ち、妖。

第十八話 文字通りの槍の雨に打たれ、呪いの力を暴走させる。 ( No.18 )
日時: 2012/07/12 10:25
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「雨降り流・槍ノ雨!」

 クゥが印を組むと、リーとユヅルに向かってふってきている雨粒が一瞬にして無数のクナイや手裏剣へと姿を変える。素早く身構え、危ないものだけを見切り、錘をつけた足を振るい、腕で払って弾き飛ばす。当然、ユヅルの援護も忘れない。

「この術にどれだけ耐えられるかなぁー?」
「キミこそ、どれだけこの術を使っていられるのでしょうね?」

 無邪気を装った笑顔でクゥが笑う。見下したような青い瞳は氷のように冷たい。
 クナイも手裏剣も弾き飛ばしながら、リーは冷静に切り返した。この中にはクゥとカイの持っているクナイや手裏剣も含まれているが、多くがチャクラを練りこまれて変換された雨粒だ。それは弾いた途端はじけて消えることからもわかるし、一度に多くを払うと水しぶきが散ることからもわかる。これだけの雨粒を全てクナイや手裏剣に変換するにはかなりのチャクラが必要なはずであり、クゥがこれを持続できる時間はそう長くないはずだ。

「——ふうん、言ってくれるねッ」

 痛いところをつかれたのか顔色を換えて雨粒の量を増やすクゥに、オイ馬鹿やめろとカイがストップをかける。上手く挑発に乗ってくれたと知り、リーは僅かに微笑んだ。風を呼び雲を作り雨を召喚する能力を持つ雨降り小僧と言えども、子供は子供だ。きっとそれは他の五人にも当てはまることなのだろう。どんな妖と言えども、子供は子供なのだ。
 ただクゥが量を増やしスピードを上げたことで、リーの方もスピードを上げねばいけなくなった。見切るのが難しくなり、とりあえずユヅルと自分のもとに降りかかるのは片っ端から跳ね飛ばすことにする。内一枚の手裏剣がユヅルの肩に突き刺さってしまったが、リーはそれを引き抜く暇も、守りきれなかったことを謝罪する間もない。

「……すごい」
「お褒めに預かりありがとうねっ! ほら、キミへのスペシャルだ! 雨降り流・集中雨槍(あまやり)!」

 呟いたユヅルににっこりとクゥが爛漫な笑顔を見せた。雨粒がリーのそばを離れ、ユヅルへと集中砲火——ではなく、クナイや手裏剣に変じた雨粒によって構成された集中雨槍で襲い掛かった。なんとかそれを弾こうと躍起になるリーだが、ネジのように白眼を持って後ろすら見ることが出来るわけでもないので難易度は上がる。標的を一つに絞れる為か威力もスピードも増していた。

「ったく、クゥ、お前って野郎は……」

 カイが溜息をついてから、嬉しそうに笑った。

「加勢させてもらうぜ! 雷遁・雷槍(らいそう)!」

 雷の槍がカイの十本の指先から迸る。手近にあった石ころを投げると、石ころは黒こげになって地面に転がった。それと同時に雷の槍も消える。そこまで威力が強いものではないらしい。腕で雨槍を弾き、足で蹴飛ばした石ころで雷槍を相殺するが、相殺し切れなかったものがユヅルの右手に命中し、大きな火傷の跡が出来た。一瞬チャクラ網が歪む。

「ッう——」
「ユヅルくんッ!」

 一度ならず二度までも。内心歯軋りしながら、リーはそれを弾き続けるも、その動きに当初の切れやスピードはない。ただ雨槍に込められたチャクラもそこまでではないというのが救いだった。しかし今ではカイの援護射撃も入ってきている。
 辛くなってきたなと思わず弱気になってしまった自分を励ますも、左肩に衝撃が走った。敬愛するガイより譲り受けたタイツが焦げている。ぢりぢりとした痛みに顔を顰めて、次なるクナイを払う——

「っ、ユヅルくん、危ない!」

 ユヅルの心臓を狙ってとんだクナイを弾き飛ばすのと同時に、背中に何かが突き刺さった。ばっと稲妻のように痛みが走り、一瞬何がなんだかわからなくなる。

「ッう、あ……っ」
「リー……さん?」

 呻くリーの首筋に叩き込まれたカイの手刀。ゆっくりと崩れ落ちるリーを支えることすら出来ずに、十本の指からチャクラの網を放出しながら呆然とその様子を眺めるユヅル。
 さらに雷の槍が一本、リーの足に突き刺さる。混濁させられた意識は一瞬で回復し、痛みを堪えながらリーは木の葉旋風を放つ。敬愛する師に詫びながら、リーは腕に巻きつけた包帯を解いた。
 大切な人を守る時にだけしか使ってはいけないと言われた術。ユヅルとは会って一日も経たないけれど、でも彼は大切な木の葉の仲間だから。
 ——仕方ないですよね、ガイ先生。

「——表蓮華ッ!」

 木の葉旋風で二人を空へと巻き上げ、その背後を取って飛ぶ。包帯で二人を縛りつけた後、頭から地面へと突っ込んだ。

「——なっ」

 ずがん、という音と共に地面に亀裂が走り、傷ついた二人が地面に転がる。左腕と右足とをふるふるさせながら、リーは立ち上がろうとする——

「雷遁・剣雷!」

 咄嗟に急所から外すも、鋭い雷撃に打たれたリーは呻き声を上げて地面に崩れ落ちる。その姿を見ていたユヅルの心の中に、一瞬湧き上がったもの。
 ——羨ましい
 雨粒をクナイや手裏剣へ換えてしまうクゥが、雷の槍を飛ばせるカイが、雷槍を二発受け雨槍を一つ受けても尚立ち上がりあんなにも素晴らしい体術を見せるリーが。
 
「ウラヤマシイ——」

 それは呪いの呪文。
 ユヅルの口からではなく、ユヅルの中にいるそれから発せられた呪いの言葉。

 ——噫(ああ)、羨ましい——

 ユヅルの体から吹き出るように何かが溢れてきた。けだものの姿をした実体を持たぬ何かにカイが唸ってあとじさった。クゥが目を見開いてそれを見つめる。気付けば全ての者が動きを止めて自分を見つめていた。
 激しく咳き込むネジ、唇を半開きにしたはじめ。だらんと両腕を下げたケイ、右腕を伸ばしたカイナ。戦うガイと蓮助、水際に立つレミとハッカ。倒れたテンテンを抱き上げるマナに変化した紅丸、蜘蛛の足を握ったマナ。黒い歯を覗かせるミソラ、驚いた顔のサンカ。

 ユヅルの中にいるもの——犬神が、ユヅルの胸から吹き出ていた。 

第十九話 犬神と桂男が戦いだし、犬神が主に血を吐かせる。 ( No.19 )
日時: 2012/07/12 10:34
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「あれは——犬神」

 蓮助が呟く。犬神だと、とガイが聞き返した。

「ああ。——憑くやつだよ。あいつはお前の生徒か?」
「いや、違うが……」
「ならよかったな。あいつに羨まれるとひどいことになるぞ」

 犬神。憑いた人間——犬神持ちの望むものを持ってきたり、犬神持ちが羨んだり妬んだりした者や犬神持ちを傷付けたものに病や災いを齎すという妖怪の一種だ。その元は食べ物を目の前にして餓死した犬の霊からなるという。
 また、他人ばかりを襲うのではなく、犬神持ちが犬神に敬意を払わなかったり蔑ろにしたりするとやはり災いがふりかかり、噛み殺される場合もあるのだという。また、犬神持ちはどんな死に方をしても死ぬと体に犬の歯型がつき、そして犬神に憑かれると以前よりもずっと嫉妬深くなるそうだ。

「幸い大して欲深そうではないが、ただそれでも憑かれると嫉妬深くなるからな。俺もよく見て来たよ、犬神を払おうとして逆に噛み殺される哀れな犬神持ちをな」


「あれが……ユヅルの呪いの力……?」
「わうーん……」

 紅丸が体を窄めた。獣人分身がとける。そうだ。今のマナや紅丸にとって、ユヅルも犬神も脅威でしかない。

〈主よ。我、そなたの望みを叶えん〉

「っ笑尾喇(えびら)!」

 ユヅルが叫ぶ。笑尾喇と呼ばれたその犬神は、にたりと笑って見せた。そしてするっと体をうねらせたかと思うと、目にも留まらぬ速度でリー、カイとクゥの間に突っ込んでゆく。ユヅルの左胸から吹き出た笑尾喇は白装束を纏った二足歩行の犬へと変じ、持った扇子を構えた。

〈いざ〉

「雨降り流・集中雨槍!」
「雷遁・剣雷!」

 クゥが叫んで雨槍を一斉に飛ばす。カイの手からも雷の剣が飛んだ。カイの剣雷を飛び上がってさけ、クゥの雨槍を扇子で弾くその姿はまるで踊るかのように美しい。笑尾喇は妖しい笑みを浮かべたまま、つぎつぎと二人の間への距離をつめていく。
 マナたちの側には思わぬ助っ人が現れた、というところだろう。鮮やかな戦い方だった。
 
〈邪魔だ、小僧どもめ〉

 チャクラ切れを起こして倒れたクゥと、そんなクゥを介抱するカイの前に、カイナ、ケイ、ミソラとサンカがやってきた。それぞれがそれぞれの印を組み、術を発動する。

「青行燈流・百物語!」
「病遁・破銅爛鉄!」

 蜘蛛の足が地中からごごごと湧き出るのを飛び上がってさけ、そしてまたその中心に着地すると、持った扇子を広げて一回転。すっと蜘蛛の足に込められたチャクラが散り散りになり、蜘蛛の足が霧散する。次いで襲ってきた腐ったクナイや手裏剣を折りたたんだ扇子で弾き飛ばし、一歩二歩と能楽者のような足つきで華麗に前に歩みを進めた後に空へと飛び上がり、ぱしっと扇子でカイナを弾き飛ばした。そして足でミソラとを弾き、サンカの投げた石の前に扇子を構えて念じるだけで石を空中停止させる。さらに扇子を振り下ろすと、石ころは地面に落ちた。
 ケイが手招きをする。馬鹿の一つ憶えか、と笑尾喇は呟いた。

〈桂男のケイ、貴様は百年前から何もかわっとらん。百年前からお前は月に泳がず地を這い手招きばかりして、一体誰を招く気だ?〉

「……おぼえていた……のか、笑尾喇」
「何よアンタ、この犬と知り合いなの!?」
「……百年前に、友達に……なった」

〈お前は月より墜ちたのだ〉

 ゆったりとした口調で喋るケイに、サンカが食ってかかる。月より墜ちた、と笑尾喇は繰り返す。月より墜ちて、そして二度と月へ舞い戻ろうとはしなかったのだ。兎が餅をつき、嫦蛾やかぐや姫や天女たちが舞う月の世を。手招くだけで人の寿命を奪う力を失い、幻しか見せられないようになっても。
 それでもケイが選んだのは月でなく地だ。

「……ここが……好きなんだ。……月より、きれい」

 ケイが微笑む。弱弱しく漂うような笑みではない。にっこりと微笑んでいる。虚ろな瞳にきらきらと明るい光が生まれる。

「……もう一度……戦おう、笑尾喇」
〈受けて立とう〉

 笑尾喇が優美な仕草で扇子を振るう。ケイはクナイを握った手を緩やかに振った。
 
 そして途端二人が加速した。扇子とクナイがぶつかりあい、ケイの片手が笑尾喇の鳩尾をつく。それを扇子で掬い上げるように跳ね上げ、一歩進んでケイの懐に踏み込む。
 激しい咳きをしながら、ネジはそんな二人の戦いに見入るカイナを見た。やるなら今の内だ、と自分に言い聞かせる。そしてこれが出来るのはもう彼の手に“罹った”自分だけだ。白眼でカイナの懐に入った巻き物に見つけるなり、チャクラを纏わせた掌を喰らわせた。うわっ、と驚いた声をあげてカイナが地面に転がる。それを追って飛び上がり、すかさずクナイでその衣服を裂くと、巻き物が出てきた。それを手にして、叫ぶ。

「受け取れ、マナ!」
「っ!」

 投げ飛ばした巻き物は見事マナの両手の内に収まった。やばい、という顔をしてサンカが石を投げつけるが、それを意識を取り戻したリーが援護する。他の妖からも攻撃が飛んだが、リー、ガイ、はじめ、ハッカの援護も加わり、マナは巻き物の軸を抜き取って投げ捨てた。ぐしゃっと巻き物を握り締め、そして——
 口の中にねじ込んだ。
 くしゃくしゃと音を立てて咀嚼する。ごくん、とマナがそれを飲み込むのを、妖も忍びも驚いた顔で見つめていた。 
 マナの体から炎のようにチャクラのオーラが吹き出た。すっと半開きになった唇に唾液がてかり、ニヤリとマナが笑みを見せる。

「食遁奥義・唾液弾!」
「病遁・破銅爛鉄!」

 咄嗟に反応したカイナのクナイや手裏剣に、マナの唾液弾——悪く言えば唾かけなわけだが——がかかる。どろどろとクナイや手裏剣が溶け出した。浸食されているのではない。“消化”されているのだ。マナの唾液弾も一部は腐敗させられてしまったが、しかしマナのこの新術が齎した衝撃は大きかった。
 安堵したのか驚いたのか、はたまた犬神に体力を奪われたか、チャクラ網が歪んで消えた。どさっとユヅルが地面に崩れ落ちる。ミソラが不満げに唇を尖らして、印を結んだ。

「青行燈流・櫛刺し!」

 ミソラの掌から現れた櫛が背後から笑尾喇を襲い、ぐっさりとその体に突き刺さる。しかし笑尾喇の動きは数分も衰えずなんの狂いもない。一体どういうことだと目を瞠っていると、ユヅルの呻きが聞えた。

「っぐはぁ」

 振り返ればユヅルの両掌と口元が血でべっとりと濡れていた。痛みによる無色の涙と鮮血の赤が交じり合う。白い服の腹のあたりには花のように赤い染みが浮んでいる。最初からこうすればよかった、と呟いてカイが剣雷を笑尾喇に飛ばす。ユヅルが更に血を吐き、胸元にまた赤い染みが浮んだ。

「っユヅル!」
「くっそ、唾液弾!」

 マナの唾液がミソラが更に飛ばした櫛をどろどろに溶かし、紅丸が渾身の力でカイに体当たりをする。戦うのはもう無理であろうというネジ、気絶したテンテンとユヅルはガイによって木陰で休まされていた。

「アタシの先輩やアタシの仲間を傷付けといてこんだけですまされると思うなよッ!」

 マナの瞳が血走り、頬が怒りで朱に染まる。拳は関節が白くなるほど握り締められた。
 笑尾喇を攻撃することで遠まわしにユヅルを攻撃するやり方は卑怯だと思った。時には卑怯な手を使わねばならないのが忍びであるとしても、受けたダメージをすべてユヅルのものへと変換できる笑尾喇に攻撃を浴びさせてユヅルを傷付けるのはひどいと思った。
 いやもしかしたらこれは卑怯でもなんでもないのかもしれない。ひどくないのかもしれない、ただ笑尾喇を攻撃したのが結果的にユヅルを傷付けた、それだけなのだ。カイの剣雷は明らかに故意のものだが敵の隙を突かないでどうする。
 それでも、仲間が傷付けられたのは事実だ。ネジに激しく咳き込ませたのもユヅルが血を吐いたのも、テンテンが頭を打って気絶したのも、事実だ。敵同士だからといって片付けられるほどにマナは大人ではないし、敵同士であるとしても信じあった味方が傷付けられて憤らない人はいないはずだ——とても冷酷な人ではない限り。
 そして敵同士だからといって彼らが仲間を傷付けたことを許すことは出来なかった。
 理不尽かもしれない、こちらだって相手を傷付けた。でもそれが何だというのだろう。それはマナの知ったことではない。自分勝手かもしれない、自分の仲間が傷付けられれば憤り相手を傷付けたのならどうでもいい、というのは。それでも忍びの世界も妖の世界も、正論で組み立てられてはいないのだ。
 笑尾喇がさっさとユヅルの中に戻らないことにも腹が立った。確かに笑尾喇は強いが、その体がユヅルを傷付けていることを知らないのだろうか。それとも笑尾喇にとってユヅルなどとるに足らない存在なのだろうか。
 どうせこの世界は正論では出来ていない。マナは食べることしか知らないような人間だ。はじめがいつか言っていたように、マナは食べることに純粋な人間で、そして食べるためならば無銭飲食だって拾い食いだってなんども出来る。正論なんて通用しない、マナは屁理屈しかいえない。でもそれでいい、サスケが言っていたように、マナはウスラトンカチなのだ。

「テメエら覚悟しやがれ!」

 ワイヤーを結びつけたクナイを握り、マナは地面を蹴って駆け出した。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11



この掲示板は過去ログ化されています。