二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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NARUTО 木の葉の里の大食い少女
日時: 2012/07/28 22:52
名前: わたあめ (ID: tdVIpBZU)

九尾襲撃以前に餓死した狐者異一族の生き残り、「狐者異マナ」が木の葉にて暴れる話。主に食卓の上で。
アンチ・ハーレム・チートはなしの方向で。

1.荒らし・中傷・パクリにきたという方はバックプリーズ
2.この小説はにじファンにて載せたことがあります
3.原作批判・過度な原作キャラマンセー及びキャラアンチはお断り 
4.残酷な描写が一部に見られます、ご注意を
5.亀☆更☆新

それでもいいというかたはどうぞ

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第一章 純粋すぎるのもまた罪。
 ∟アカデミー編 >>1-5
 ∟班分けと鈴取り編 >>6-11
 ∟巻き物奪還任務編 >>12-20>>28 
 ∟お見舞い編 >>21-27

第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
 ∟第一試験編 >>29-33
 ∟第二試験編 >>34-48
 ∟第三試験予選編 >>
 ∟第三試験本戦編 >>

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第十話  一文字家にて、チームメイト二人を怒鳴りつける。 ( No.10 )
日時: 2012/07/12 09:20
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「すいません、はじめくんは——」
「ヒトツの姫さまですね。少々お待ちくださいませ」

 にこりと笑った茶髪の召使いがすっすと広い廊下を突き進み、マナ、紅丸、ハッカとユヅルはぽかんとしてその場に立ち尽くした。

「ヒトツの姫ぇ? 確かに無駄に可愛い顔してっけどさぁ」

 と呟き終えるか終えないかの内に、廊下の向こう側から、誰かが歩み寄ってきた。
 紫の地に水色の小鳥が空を舞う着物に、淡い水色の帯。紅を塗った唇、真っ白い瞼に頬紅を塗ったのか薄っすらと赤い頬。あやめ色の髪にはオレンジ色の髪飾り。

「ようこそいらっしゃいました」

 頭を下げたどうみても女にしか見えないその子の声は、間違いなく声変わりした少年の——はじめの、もので。

「一文字ヒトツでございます」
「「「ええええ!?」」」
「わうーん」

 泣きそうに潤んだ灰色の目でこちらを見上げたはじめ——ヒトツの姫に、マナたちは暫く唖然としていた。


「父上、ヒトツが参りました」
 
 指を整えて、お辞儀。入れ、という声に戸を開け、優美な仕草ではじめは中に入っていく。自然と体が固まってしまい、こわばった仕草でマナとユヅルもお辞儀をした。ハッカもお辞儀をし、紅丸は服従を示す為か腹を上へ向けている。
 ——この犬、アタシにすらそんな仕草見せたことないくせに 
 長いあやめ色の髪の男性が、静かにそこに座っていた。左側の髪だけを低いところで団子状に纏めている。彼こそが現一文字家当主、一文字一矢(かずや)だ。
 ハッカがはじめが任務に赴くにあたって命の危険があるかもしれないことなどを述べると、彼はすんなりと頷いた。一文字は忍びの一族。そんな判断があるのは当然だろう。

「だが——現時点でこの家を取り仕切っているのは私ではなく、長女の初だ。彼女は大層ヒトツのことを気に入っていてな、」

 つまり一文字初の許可を得ねばならないらしい。びくっと体を震わせて、オレンジの髪飾りをしゃらしゃら鳴らしながら、はじめは「失礼します」というなり、ゆっくりと歩き出した。


「……姉姫様、ヒトツが参りました」
「どうぞお入りなさい、ヒトツちゃん」

 優しい声が答えて、はじめはそろりそろりと中に入った。ハッカがお辞儀をし、ユヅルがそうっと戸を閉める。
 初姫は、青緑の髪をした美しい少女だった。はじめとおそろいの着物を身に纏い、赤い帯を締め、小首をかしげてゆったりと微笑んでいる。日向ぼっこしていた猫のようにとろんとやや眠たげな目だ。

「初と申しますの。本日はわざわざお越しいただき、誠にありがとうございますわ。いつも妹のヒトツちゃんがお世話になっておりますわね」

 ——妹?
 はじめがこの家での身分はどうやら初姫の妹、一文字一矢の娘であり一文字家の次女、ということになっているらしい。はじめはアカデミーで一番早く声変わりしだした少年だ。そんな彼が、どうして女の身分で女の服装で過ごさねばならないのだろう。

「え、ええ——お、いえ、妹さんは大層優秀で」
「次席などに意味はございませんわ。火影の名は誰にもずっと覚えられます。ですが火影候補の名はそこまで知れ渡るわけではございません。“一で無くば憶えに残らぬものとせよ”。——これが一文字家の座右の銘でございます。そうでしょう、ヒトツちゃん」
「……はい。私は一文字家の恥でございます」

 戸惑うハッカに笑顔でそんなことを言ってから、初姫ははじめに視線を戻した。どきっと身を竦ませてから、泣きそうに静かな声ではじめは言う。俯いてしまったままその頭が持ち上げられないようだ。
 なんて姉だろう、と思った。はじめが一文字の恥であると、彼女は直接には口にしなかったものの、遠回りしてそう言っていたのだ。そして間接的に、はじめがそれを口にするようにも促していたのだろう。
 日向ぼっこをいていたかのような柔和な笑顔で、初姫は笑い、少しの間二人きりでいさせてくださいませんかと言った。一瞬こちらを振り返ったはじめの無感動な灰色の瞳が、縋るような色を映していた。

 別室にて、マナとハッカは胡坐をかいていた。ユヅルは膝の上の紅丸を撫でている。

「……俺さ、始めて見た。はじめがあんなにびくびくしてるの」
「アタシも。嫌いなものは特に無いとかぬかしやがってたけど、ありゃ嘘だろ」

 二人ともはじめが心配で仕方ないのが、ハッカにも感じ取れた。
 それから約十五分後のこと、青白い顔のはじめが中に入ってきた。頬紅には涙の筋が伝い、額にはびっしりと冷や汗をかき、衣装も僅かながら乱れている。

「はじめ、てめー大丈夫かよ?」
「……大差ない」

 そう言えば手裏剣を手足に突き刺していたときも、そういいながらそれを引っこ抜いていたっけ。けれどそれを抜く彼の顔には脂汗が滲んでいたのを憶えている。

「ヒトツの姫様。お手当てに参りました」

 茶髪の召使いが入ってきて、救急箱を開けた。はじめの顔が一層血の気を失う。「い、いやだ……」と掠れた声で呟いて、はじめは這うようにしてハッカの後ろに隠れた。
 だめですよ、はじめ様、と召使いの少年は言う。呼称がヒトツからはじめへ変わった途端、はじめはハッカのシャツを掴む手を緩めた。ほら、とハッカははじめを前に出す。見るな、とはじめは小声で懇願したけれど、マナもユヅルもハッカも紅丸も、それを聞いてはいなかった。
 その召使いがハッカの着物を脱がせ、帯を緩めた。襦袢も慣れた手つきで脱がしてしまうと、はじめの冷や汗が滲んだ背中が露出した。そこに引っかいた後やら大きな火傷の跡がいくつかあって、ひっと悲鳴をあげてユヅルがしがみついてくる。

「では、ちょっと我慢しててくださいね」
「……っ」

 茶髪のその召使いにしがみつくはじめ。その召使いは傷痕を見て顔を顰めると、消毒液に浸した綿をそこにつけた。叫び声を上げることこそ必死に我慢しているはじめだが、呼吸はどんどん荒くなり、体の震えは大きくなるばかりだ。その召使いにしがみ付いたまま身を捩る。

「今回は焼いたクナイの刃ですか? 全く、クナイは投擲に使うためのものなのに、初姫さまも困ったお方だ」

 呟きながら、召使いはさっさと着物の裾を翻すと、太腿あたりの青アザに布で包んだ氷の塊をあてた。 
 他にも、足裏には鞭で打たれた痕があったし、膝の裏に出来た傷からは血と組織液とが流れ出ていた。よく頑張りましたね、と一言言って、召使いはようやくはじめを離したかと思うと、はじめをさっさと彼が普段着ている服に着換えさせ、部屋を退出した。そこで部屋に沈黙が降りる。

「——なんでさ、お前らはさ。我慢してんだよ」
 
 はじめの痛々しい傷痕を見て、マナの怒りは爆発寸前だった。

「なんでさ、とーちゃんに疫病神だとか言われても何にも言い返さないんだよ! なんでねーちゃんにあれだけ虐められてもいい子の妹のふりして綺麗な服きて頭下げてんだよ!」

 はじめがユヅルを見た。ユヅルは口元を引き結んで俯いている。

「なんでいってやらねえんだよ、俺はお前の息子なんだって、それ以上言ったら呪ってやるぞって! なんで殴り返してやらねえんだよ、なんで逃げださねえんだよ!? それが親子の情ってもんなのか!?」
 
 聞いたことがあった。
 「お父さんって何」「お母さんって何」「兄弟ってなんなの」。
 羨んだことがあった。
 両親を。兄弟を。親戚を持つ、他の生徒達を。
 でもこれは違う。こんなのは。こんなのは違う。優しくて一杯の愛をくれるのが家族だと思っていたけれど、これはちがう。
 自らの子を疫病神と詰り、弟に女の服を着せて虐待するのが。そしてそれを泣きそうになりながら、泣きながら、叫びたいのも堪えるのが。親子の、情?
 こんなの絶対、違う。

「お前らさ、なんかもっと言えよ!」

 どうしてされるがままなのだろうか。
 どうしてそこまでして耐えるのだろうか。
 これが親子の情だなんて、思わない。思えない。
 灰色の目と赤い目がそれぞれ自分を見上げている。耐え切れなくなって、マナは一文字家を飛び出た。
 

第十一話 里のどこかの丘にて、チームメイトと話し合う。 ( No.11 )
日時: 2012/07/12 10:12
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「マナ」

 どこからか盗ってきたせんべいをバリバリ食うマナに呼びかけると、むすっとした顔で彼女は振り返った。わん、と紅丸が鳴いて、彼女の両足の間に収まる。

「貴様、そう拗ねるな……」

 ただっぴろい丘に胡坐をかくマナに苦笑しながら、ハッカがその傍に腰を下ろす。続いて、はじめもユヅルも腰を下ろした。はじめは無表情で、ユヅルはちょっとだけ怯えているようだった。

「拗ねてねーです。怒ってるだけです」
「……そうか?」
「はいそうです」

 拗ねてるようにしか見えないぞ、とハッカは苦笑いをする。暫くの沈黙の後に、ユヅルが口を開いた。

「皆に知ってもらいたいことがある」

 皆に知らせるのも、知ってもらいたいのも、知ってもらうのも、全部俺のエゴだけど。
 それがチームワークを乱してしまうかもしれないけど。
 自分勝手だけど、でもでも知ってほしいの。
 一人で抱えるのに、その秘密は大きすぎたから。

「俺が一瞬でも羨ましいと思った人は風邪をひく。何度も羨ましいと思った人は病気にかかる。一年も二年も羨ましいと思って妬んだ人は、——死んじゃうか、持ってるものを失う」

 はじめが眉の根に皺を寄せ、ハッカは片眉を持ち上げた。ユヅルの妹であるヤバネからそのことを聞いていたマナだけが静かにその言葉を聞いている。
 自分を締め殺そうとした母。頭がいいと背が高いと、力持ちだと友達が多いと、そう羨み、妬んだ四人の兄。長い髪が綺麗と誰にも愛されていると、羨み妬んだ、二人の姉。自分を疫病神と散々詰った父は、村一番に力持ちで頭のよかった父は、病にかかってしまった。家には医者に見てもらうためのお金もなく、今は双子の妹がその田を耕している。

「ごめんね。引くでしょ。引くよね。あ、あの、羨ましいって、出来るだけ思わないようにしてるんだ。自分の持ってるものを大切にしようってさ。ごめん。——ごめん」
「……いやさ、なんであんたが謝ってんの?」

 こんな力を、ユヅルは望んで手に入れたわけじゃないはずだ。
 兄や姉や母の死が、父の病が彼の所為だったとしても、それは彼が望んだ力じゃないはずだ。
 他の人を全く羨まず妬まず、自分のもつものだけを見て幸せに感じられるほど高潔な人間は滅多にいないだろう。きっと誰しも他人の何かを羨んだり妬んだりするものだ。ユヅルの場合、そんな当たり前の想いが誰かを傷付けることになってしまっただけで。

「……ユヅルが望んで人を傷付けたわけじゃないんだろ。なら仕方ねえよ。いや、死んだ人達やあんたのとーちゃんやヤバネちゃんとかは仕方なくないだろうけどさ」

 でも謝ったってどうにもならない。死人は戻らないのだから。

「そんなことうじうじ言ってる暇があったらもっと自信をつけろっつーのっ」
「お前の力については承知した。……だが私やマナは大丈夫だろう。私達はどちらもあまり羨ましく思われる要素を持ち合わせてはいない」
「うん、そうだな。大食いになったり女装したり大食いになったり大食いになったりお姉ちゃんにいじめられたり大食いになったり大食いになったりはちょっと嫌だよね」
「え? ……何それ無駄に大食いが多くね?」

 仕方ないと思うぞ、とはじめが溜息をつく。ぶう、とマナが頬を膨らませた。

「姉姫様は、妹が欲しかったんだ」

 姉の膝を枕にして、姉に纏わり付くような、可愛い妹が。
 けれど生まれてきたのは、弟だった。人形のように愛らしい顔の弟だったから、初ははじめに女物の服を着せては喜んでいた。
 けれどそれだけじゃ満足できなくなって、もっと可愛く、もっと女の子みたいに、もっと妹らしくなって貰いたかったのだろう。口調まで女のものに似せて、召使いにすら彼を姫と呼ばせた。だけどはじめは声変わりをして、低く沈んだ声で喋るようになった。以前の甲高い声とは違った声で。
 初はきっと不満に思ったことだろう。不満に思って、そしてそれを素直にぶちまける余りに、はじめを鞭打った。はじめが余りにも女のようにさめざめと泣くから、それからは彼を度々泣かせた。泣いているときの彼は、どんなときのはじめよりも女らしく見えたからだ。

「なんだそれ。なんつーの、歪んだ愛、ってやつか?」
「……否。歪んではいない。ただあまりにも純粋すぎるんだ」

 純粋すぎて逆にいびつに思える、その感情。
 初のあの灰色の目が映す光も、とても純粋だったことを思い出す。でもそれはあまりに純粋すぎて。純粋すぎて。

「それはマナ、狐者異一族も同じだ。ほら、狐者異一族は食べることに純粋だろう?」

 拾い食いに対しても無銭飲食に対しても罪の意識はない。ただ食べたかったから、食べた。それだけだ。
 人の外見も、人の性格も。全て食べ物に関連した思想で片付けてしまう。だから狐者異は純粋だ。お腹が空いたから食べる。食べたくなったから食べる。マナもそんな、人間だ。

「——そーだなあ」

 問うたことがあった——両親とは、兄弟とは、親戚とは何かと。
 羨んだことがあった——両親を、兄弟を、親戚を持つ人を。
 恨んだことがあった——何故自分はそれを持っていないのかと。
 それでも——今の自分は幸せだから。餓死して死んでしまった彼らに少し申し訳ないけれど、でも今の自分はたらふく食べられて、すっごく幸せだ。
 なら死んだ者のことは考えないことにしよう。

「まあ、悩み苦しみ間違うのも、青春の一部だ! さて、今日は私が何か奢ってやろうか」
「えっマジ! 先生後で後悔するなよ!」
「ただしマナ、お前は易いものを最低で五杯だけしか食べてはいけんぞ! 忍耐も忍びに必須なことだ」
「えーッ、何それヒッデー!」
「わうーん」

 紅丸に促されて視線を西に向けると、目玉焼きのような夕日が丘の向こうに沈もうとしている。
 どうか明日も、またこの四人と一匹で楽しく過ごせますように。

第十二話 火影室にて、ガイ班と共に無理矢理任務を強奪する。 ( No.12 )
日時: 2012/07/12 10:13
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「……あうあうあー」

 目を覚ませばそこは見慣れたアパートの一室だ。昨日の三十個もの連続任務のお陰で筋肉痛である。いずれも簡単なものではあったが、初日で三十個も任務を仕入れてくるハッカはどうかしているとしか思えない。まあ四分の三くらいはハッカがせかせか働いて片付けていたのだが。

「わんっ」

 駆け寄ってくる紅丸は殆どマナの頭の上で昼寝をしていたので特に疲れた様子はない。そんな紅丸を恨めしく思いながらも、マナはベッドから転がり降りて、シノから貰ったお握りを一個、一口で丸呑みした。ドッグフードを紅丸の皿に入れて、自分の皿にも入れ、一緒にぱくぱくと食べ始める。

「さて、いくぞー苺大福」

 ジャージを羽織り、紅丸を抱き上げる。そしてマナは、電気も水も止められた家を後にした。


「おっはよーございまっす」

 遠くに見える三つの影に気の抜けた声で挨拶し、手を振れば「遅いぞマナ!」とハッカが両手を腰にあてる。「そんなこと言ってセンセーどうせ一時間前からここにいたんでしょ……」、とユヅルが溜息をつく。甘いな、とハッカが不敵な笑みを見せた。

「五十三分と29.062秒前だ!」

 「29.062秒」と、そんな数え方をするのがシソ・ハッカだ。これには呆れるしかない。l異常なほど時間に敏感な割には時空間忍術が上手というわけでもないらしい。
 今日も任務を受けに火影のところへと赴かねばならない。とりあえずついたら火影さまからなんか食べれるもの貰おうかな、と考えながらマナは屋根の上に駆け上がった。
 前方をはじめが駆け、その後にユヅル、マナと続く。ハッカの姿はない。手加減の三文字を知らないあの上忍は音も立てずに生徒を置き去りにして駆け去っていった。普通ちょっとスピードを落としてくれたって損にはならないと思うのだが。

「貴様ら、遅いぞ!」
「……センセー、竜とトカゲを比べるのはやめてください」

 ユヅルの溜息混じりの突っ込みに、「む! 竜か、それもいいな!」とハッカの顔が子供のように明るく輝きだす。まさに火影室に入ろうとしたその瞬間、中から声が聞こえた。

「大変です、火影さま! ……狐者異一族に伝わる大切な巻き物が盗まれました」
「……なんじゃと!?」
 
 マナが息を呑んだ。マナは狐者異のことについては余り知らされずに育ってきていた——狐者異の様々なことについては、知らない方がいいという火影の判断ゆえだが……。
 また火影も、マナが他の子供たちと馴染めるように、アカデミーの図書館などで公開している、狐者異に関する書物は最重要な秘密には触れぬ程度のものとし、他のものは蔵に封印した。それが盗まれたりしたら——
 
「……狐者異の巻き物奪還任務を命じる! ゲンマ、お前が——」
「ちょおおおっとまったああ!」

 がちゃっとドアを開け放ち、ずかずかとマナが中に入っていった。ハッカたちも慌てて後に続く。唖然とした表情の火影に向かって、マナは大声で言い放った。

「その任務、アタシが受けさせてもらうぞ!」
「……なっ、」
「よくよく考えて見りゃあアタシは狐者異のこと何も知らねえし、狐者異がアタシ一人になった今、狐者異のことが知られて一番危ないのはアタシだ。自分の身に降りかかるキノコは自分で食べる、それがアタシの忍道! ——アタシが自分でなんとかする!」

 暫しの静寂。そしてはじめの一言と、ユヅルの突っ込みが入った。

「自分の身に降りかかるキノコは自分で食べる——自分のことには自分で責任を持つということか」
「マナ。それを言うなら、自分の身に降りかかる火の粉は自分で振り払う、なんだけど。つーかはじめも納得しないで」
「……じゃが、マナよ——」

 思わぬ助け舟は、火影室の外からやってきた。

「火影様! その任務、我らと彼ら九班で受けましょう!!」

 振り返るとそこには真緑の全身タイツの男が立っていた。その後ろにはいつぞや無銭飲食した時に投げ飛ばした体育会系先輩と、苦労性な暗器使いの先輩と、八卦六十四掌でズタズタにしてきた体術系先輩もいる。
 おお、とハッカが目を見開いた。ガイも目を瞠る。

「ハッカ! 我が青春の盟友よ!」
「おお、ガイよ!」

 たたたっと走りあった二人がぎゅっと抱擁しあうさまは正直暑苦しくむさ苦しい。激太の眉の黒髪おかっぱ真緑全身タイツと、背高黒髪長髪赤いシャツの二人が抱き合っているのだ。テンテン及びユヅルの顔が青くなり、「うおーっ! これぞ青春!」とリーは感極まり、ネジはまるで「俺はこいつらの知り合いじゃありません」とでもいうかのように目を逸らし、それを見たはじめがそれを真似て目を逸らす。紅丸は怯えて縮こまり、マナはぽかんとそれを見上げる。
 ガイはガタイがよく筋肉もたくさんついているいかにも暑苦しそうな外見で、ハッカは痩せていながら肩幅は広く背はずばぬけて高い。そんな男二人の抱擁は、さぞかし年頃の少年少女に強烈なインパクトを与えたことだろう。

「話は聞いたぞ!! 自分の身に降りかかるキノコは自分で食べる、か! 素晴らしい! 素晴らしき忍道だ!!」
「ええ! なんかちょっと違うような気がしますが、素晴らしい忍道です!」
「……だから自分の身に降りかかる火の粉は自分で振り払うって、あっちの子もいってたでしょ……」

 感動しているらしいガイに突っ込むテンテン。こんな先生だけどよろしくね、とこちらに向き直って笑う。

「…………」

 尚も唖然としている火影に、笑いながらガイが宣言した。

「ということで火影様、この任務は我ら三班及び九班が受けましたぞ! いやーはっはっは、ゲンマよ、出番を奪ってしまって悪いなあー!」
「……いや、別にいいんだが……」

 呆れた声で答えるゲンマ。
 かくして三班と九班は火影室を離れた。

第十三話 終末の谷にて、巻き物を巡って戦う。 ( No.13 )
日時: 2012/07/12 10:14
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「さて、これからどこ行くんだ?」

 マナの尤もな質問に、ユヅル、テンテンが「全く考えてなかった」という顔をする。リーが期待に満ちた顔でガイを見た。はじめがぎぎぎぎぎと首を動かしてハッカを見る。

「ネジ」
「——わかっている。白眼!」

 かっと見開かれた大きな白目の近くに浮んでいるのは血管か神経か筋肉か。ネジの視界が一瞬で白へと変じた。すうっと遠くへ目を走らせる。任務中の木の葉の忍、修行中の下忍か中忍、そして——

「終末の谷に他国の忍がいる。何かしらの封印がつけられた巻き物を持っているようだから、あいつで間違いないだろう」
「外見の特徴は?」
「……スリーマンセルだ。ウエーブした髪の男と、ツインテールの女、それからセミロングの男。額当ては……音符か。どうやら最近田の国に出来た音隠れとかいうマイナーな隠れ里だったな」

 言い終えて白眼を解くと、鮮やかな色を持った目の前の世界と、真っ白な全てを透かす遠くの世界の差に一瞬くらっとする。体調が悪い時は決まってこうなるのだ。げほげほと咳きが出た。大丈夫ですかというリーの手を払いのける。

「……大丈夫だ。うつるからどけ」

 視界の隅に、白髪の少年が映る。名はいとめユヅル、だったか。なんだそのうしろめたそうなそうな目は。目を瞑って、さっさといくぞと気だるげに言う。ネジの言うとおりだ、とガイが笑って、そして三班と九班はその音忍の後を追った。

「……ユヅル。さっきのあれ、お前か?」

 ネジから少し距離を取って、はじめがユヅルを見つめた。突然咳きをしだしたネジと、そんなネジをうしろめたそうな目で見ていたユヅル。まさかあの力が発動したのでは、とはじめは眉根に皺を寄せる。

「違うよ。白眼ってあんまり好きじゃないんだ、怖いから。だから羨ましいとは一度も思わなかったと思うん、だけど……」
「あーもー、ハッキリしろよー。お前のあれって無意識のも含められんのか?」
「えーっと、それはわかんないなあ。全部の風邪が俺の所為ってわけでもないし」

 確かに世界中の風邪がユヅルの所為というわけはないだろう。ネジの体調が悪いのも単なる偶然かもしれない。
 そう言えばなんか人数が減ったような——思いつつ顔を上げると、赤シャツ——ハッカが消えていた。

「むっ、我が青春の盟友ハッカはどこに——?」
「どうせ“ふはははははは! この私に追いつけれるものなら追いついてみるがいい!”みたいなノリで高笑いしつつ全力疾走しちゃったんだろ?」

 呆れたように溜息をついてから、マナは完璧にハッカの口調を真似てみせる。ハッカはつい昨日そういいつつ目にも留まらぬスピードでゴミ拾いを完成させ、“私の……勝ちだな”、ニタリと笑っていたのだ。あまりにその声真似が似ていたのでユヅルは思わず吹き出し、樹上から落下しかけたのをリーに捉えられた。テンテンが顔を紅潮させて笑っている。ネジはくだらない、というような表情で、はじめは相変らず無感動だ。

「おお! ハッカは昔からかけっこが得意だったからな!」

 とガイは思い出に耽り始める始末だ。
 ……というか、担当上忍が下忍に成り立ての生徒と駆け比べするもんなのか? という突っ込みは心の内にとどめておくことにした。

「……どうやら追いついたようだぞ」

 ネジがぽつっと呟いた。ハッカが奴らに追いついた、ということらしい。ガイは流石ハッカだ! と目を輝かせ、リー諸共恐ろしくスピードアップしった。ネジもすぐさまそれに追いつき、はじめもそれを追おうとスピードアップする。ユヅルとテンテン、マナは後ろで追うしかない。

「マナ!」

 はじめの声に頭を上げると、はじめの手の中に干し肉があった。きらーんとマナの目が輝き、ユヅルとテンテンの腕を掴むないなやその肉を追って全力疾走を始めた。チャクラが活性化している。紅丸が心地悪そうにマナの頭にしがみついていた。
 あっという間に追いつかれたはじめはそれをガイの方へと投げ、すささささとマナはあっという間にはじめ、ネジ、リー、を追い越しガイへと飛びついた。ガイは干し肉を持った手を振り回しながら全力疾走する。
 そうこうすること約五分、終末の谷にたどり着いたガイは干し肉を思い切り投げた。投げられた魚を飛び上がって受け取るアザラシさながらにジャンピングし、がぶっと干し肉にかぶりつき——そして戦いのど真ん中に墜落した。

「な、オイどうする!」

 三人の、自分たちと同じくらいの年の少年少女だった。ハッカ相手になんとか戦ってきたのが、一気に七人も加勢してきたのだ。取り乱したねこっ毛セミロングの少年を片手で制し、ウエーブした髪の少年は軽く首を傾げた。

「——どうする、か。心配するな」

 その少年が目を瞑る。リーダー格らしい彼に襲い掛かろうとするハッカを、「させない!」とくすんだ紅い髪の少女がクナイで応戦する。そのクナイを持つ手を掴んで少女を投げ飛ばすのとほぼ同時に、しゅっと岩壁から五つの影が現れた。

「忍法・音寄せの術」

 リーダー格の少年がうっすらと笑った。子供が三人と、大人が二人というのはこちらにあわせているつもりなのだろうか。投げ飛ばされた少女が背の高い女に受け止められる。

「大丈夫、サンカ?」
「レミ先生! あの、巻き物を先に持って帰ってください!」
「そうはさせないわよ!」

 テンテンが叫ぶのと同時にクナイを放った。恐ろしく的確な狙いでサンカの手の甲を打つ。その手から巻き物が落ちた。しかしそれを今度はセミロングの少年が拾い、そして彼はそのまま踵を翻そうとする。

「——逃がして、たまるかっ!」

 巻き物が相手の手の内にある間はこの繰り返しだ。指先から放出したチャクラ糸を網のように交差させ、ドーム状に谷を覆う。 
 そして戦闘が始まった。狐者異の巻き物を巡って。

第十四話 終末の谷にて、音より出てきた妖どもと戦う。 ( No.14 )
日時: 2012/07/12 10:16
名前: わたあめ (ID: mwHMOji8)

「このアマぁ……よくも私の右手を! 覚悟なさいッ」

 サンカが傷を受けていない左手一本で手近な大岩を掴み、そしてそれを高々と天に掲げた。チャクラコントロールの上手い人間はチャクラを手に集めることで怪力を発揮することが出来ると言うらしいが、これはチャクラを使ってはいなかった。くすんだ紅毛が陽光に照らされぎらぎら光る。

「——まさか」

 サンカが岩を投げた。恐ろしいスピードを持ってして飛んでくる大岩から、相当力を込めて投げられたのだろうと想像がつく。逃げなきゃ、とテンテンは自分に言い聞かせた。しかし体は中々思うように動いてはくれない。
 ——動いてよ!
 心の中で悲痛な叫びをあげるも、足が動かない。いや、動いてはいる。しかしその動作はひどく緩慢だ。——テンテンの動作が緩慢過ぎるのか、岩が速すぎるのか? それすらもわからないままに逃げ出そうとする——

「のろのろしてんじゃねえぞテンテン先輩!」

 マナの捨て身の体当たりを受けて、テンテンは地面に転がった。その体が二メートルほど地面を削る。体当たりしてきたマナを抱きしめながら、テンテンは呻き声を上げた。ちりちりと焼かれるような痛みに擦りむいた肌が悲鳴をあげる。左の米神から汗が流れたかと思ったら、血だった。

「のろのろ、してなんか……っぐ!」

 それでも先輩としての意地を張って言いかえそうとするテンテンだが、額を襲う痛みに顔を顰めてしまう。ったく、と悪態をついてホルスターから水を取り出し、テンテンの傷口に注いだ。サンカの二発目の攻撃をすんでのところで避け、テンテンに包帯を投げてよこすと、彼女はさっさとそれを巻いた。振り返ると、サンカが投げた二つの岩は地面に大きな亀裂を残して砕け散っている。

「なんて馬鹿力なの……」
「改めて紹介をさせてもらおうか。私の名前はサンカ——赤頭のサンカよ!」

 赤頭のサンカ。なるほど通りでぎらぎら輝く赤毛なわけだ。
 赤頭(あかあたま)というのは怪力をもう妖の一種だ。五寸釘を素手で、そして指一本で抜いたりさしたりすることが出来ると言われている子供の妖(あやかし)。もしサンカがその赤頭の末裔ならば、岩を軽々と持ち上げ投げ飛ばすことが出来るのにも説明がつく。

「赤頭——だと」
「……わたしは、青行燈のミソラ」

 青行燈(あおあんどん)のミソラと名乗る少女が、サンカの傍に立った。長い黒髪で、頭の両側からは黒い角が生えている。にこりと笑った時に見えた歯も真っ黒だった。白い着物を纏った鬼女——伝承にある青行燈と同じ姿だ。
 ——なるほど、赤頭と青行燈が私とマナの相手ってわけ? 受けてやろうじゃない。
 クナイを軽く回転させる。赤でも青でもどうでもいい。わかっているのは負けられないということだ。

「いきますよーテンテン先輩っ!」



「用はお前のチャクラ網を解けばいいってことだろっ!?」

 藍色の髪をポニーテールにした少年の踵落としに一瞬怯むユヅルだが、しかしそのかかと落としはクロスさせられたリーの両腕によってせき止められる。チッ、と舌打ちを零して少年は一歩後ろに飛びのいた。その傍に明るい茶髪の少年が立つ。

「ユヅルくんには指一本触れさせませんよっ!」
「ほー。そりゃー大した自信だなっ!」

 地面を蹴り飛ばして、回転蹴り。しかしそれを受け止めたリーは、その足を突き放すのと同時に彼の上体めがけて強烈な蹴りを放った。それに反応して体を屈めるポニーテールの少年にすかさず下から蹴りを飛ばす。“木の葉旋風”——一発目の蹴りをフェイクとし二つ目を当てる木の葉の体術だ。
 吹き飛ばされた彼を追って跳ね上がり、彼の上を取る。ハッと彼が目を見開くが時既に遅し、拳をぶつけてリーはその体を叩き落す。

「うあああッ!」

 茶髪の少年が振り下ろしてきた手刀を弾き飛ばし、僅かに距離を取ってから飛び蹴りを放つ。その少年はもう一人のポニーテールの少年を巻き込んで地面を削った。

「成る程? ——俺にこれを使わせるってか。いくぞクゥ」
「わかってるってば、カイ。雨降り流・雨乞い!」

 クゥ、と呼ばれた少年が印を組むのと同時に、雲ひとつない青空からぽつぽつと水滴が落ち始めた。いや、違う。ユヅルのチャクラ網によって囲われた部分にのみ雨が降っているのだ。黒雲がドームの内部のみに現れ、笑いながらカイがその上に飛び乗る。ぴかっと雷が迸った。

「俺達は雨降り小僧のクゥと、火の車のカイ——以後お見知りおきを!」

 雨を呼ぶ童——雨降り小僧と、雷雲を引きつれ死肉をあさる化け物、火の車。成る程二人はタッグを組むのには適している。

「……一つ聞いていいですか、ユヅルくん」
「……はい」
「どうしてあの、あそこのセミロングの子をチャクラ糸で操らなかったのですか」

 彼をチャクラ糸で操れば巻き物を奪うことは容易かったはずなのに、彼は敢えてチャクラ網でドーム状に谷を覆った。そうなることが彼を無防備にさせてしまうとしても。
 ユヅルは目を伏せてから、言った。

「俺の中のモノが、だめだって言ってるから」


「さーて、俺様の名前はカイナで、こっちがケイなわけだけどさーあ」

 カイナ、というらしいセミロングの少年が首を傾げた。

「大丈夫なの、そこの白目っ子少年。さっきから咳きばっかじゃーん? あ、まーそれ俺の所為なんだけどー」
「……はあ? どういうことだっ、」

 言いかけてネジは激しく咳き込み、はじめは眉根に皺を寄せて虚ろな瞳をしたケイと、楽しそうな顔のカイナを見比べた。カイナが右腕を差し出す。その肌には茶色のまだら模様が浮いていた。

「俺ね、人を病気にさせちゃう化け物なんだ。疫鬼っつうんだけど。疫鬼のカイナだ、よろしくねえ」

 カイナによると、カイナは朝巻き物を奪った際に偶然ネジを見かけ、新開発の術をかけてみたというのだ。ネジの風邪はユヅルの所為ではなかったらしい。

「俺……は。桂男のケイ……だ」

 虚無的な瞳をした少年はそう呟くように言って、にこりと笑った。弱弱しく漂うような笑顔だ。でもその虚無の奥に何か果てしないものを見つけた気がして、はじめは意図せずネジとの距離を縮めた。


「二対二ずつになってるのね。丁度いいわ」
「——ふふ、マイト・ガイにシソ・ハッカ、だったか? 俺の名前は蓮助。こちらのは我が恋人、レミだ」

 鎖骨までの朽葉色の髪をかきあげてレミが笑い、胸骨までの朽葉色の髪を揺らして蓮助も笑った。ゴーグルのようなものをつけているためか、その目があまりよく見えない。

「さて——さっさとここから出してもらおうか」
「残念ながらそれは出来ないぞッ」

 居丈高に言い放った蓮助に拳を叩き込まんとするガイだが、蓮助はそれを軽く避ける。しかしガイとて避けられることを考えていなかったわけではない。地面に激突した拳を軸に体を折り曲げ、ばっと素早く蹴り飛ばす。腕でガードしたものの僅かに靴底で地面に痕を残した蓮助は小さく呻き声を上げた後、ガイを睨んだ。隣では連助を気にかける暇もなく、レミがハッカの素早い攻撃に対応している。

「ふん。いいだろう、相手になってやる」

 そして終末の谷にて、戦いが始まった。


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