二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- NARUTО 木の葉の里の大食い少女
- 日時: 2012/07/28 22:52
- 名前: わたあめ (ID: tdVIpBZU)
九尾襲撃以前に餓死した狐者異一族の生き残り、「狐者異マナ」が木の葉にて暴れる話。主に食卓の上で。
アンチ・ハーレム・チートはなしの方向で。
1.荒らし・中傷・パクリにきたという方はバックプリーズ
2.この小説はにじファンにて載せたことがあります
3.原作批判・過度な原作キャラマンセー及びキャラアンチはお断り
4.残酷な描写が一部に見られます、ご注意を
5.亀☆更☆新
それでもいいというかたはどうぞ
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第一章 純粋すぎるのもまた罪。
∟アカデミー編 >>1-5
∟班分けと鈴取り編 >>6-11
∟巻き物奪還任務編 >>12-20>>28
∟お見舞い編 >>21-27
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
∟第一試験編 >>29-33
∟第二試験編 >>34-48
∟第三試験予選編 >>
∟第三試験本戦編 >>
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.35 )
- 日時: 2012/07/18 22:11
- 名前: わたあめ (ID: 0YLhVMcO)
木の枝を蹴ってサスケは走り出した。草忍は赤い写輪眼を晒した彼に向かって余裕の笑みをみせると、印を結んだ。そしてその草忍が両腕を大きく広げるなり、その周りから衝撃波が起こる。
それを写輪眼で見越していたサスケは宙に舞い上がり、チャクラを纏った足で大樹の枝や幹を蹴ってくるくると空中で回転し、方向転換しつつクナイを投げていく。
草忍は相変らず余裕の顔つきでそれを避けていたが、不意にチャクラを纏った足で木の幹を蹴り飛ばし、掛け声と共に襲い掛かってきた彼の体術に余裕の顔を崩して、サスケの蹴りをクロスさせていた両腕でガードする。
己の後方へ飛んでいくサスケに飛ばした蹴りも間一髪のところで回避され、すうっと彼は数メートル離れた地に着地する。
そして両者は互いに距離を縮め、凄まじい体術の攻防を繰り返した。
——……見える
とうとう本気を出したのだろう。草忍の姿が消えた。後ろで気配がしたかと思って振り返ると、既に草忍は風塵を巻き上げて消えている。かと思いきや付近を走っていく風の筋に、確かに草忍の纏う衣服の色がついていた。その下半身が伸びて、蛇のような風情になっている。
——見える!
けれどそのような、一般人には見えないような動きも、写輪眼の持つ動体視力から逃れることは出来ない。
「見えるぞっ!」
草忍が着地するであろう場所にめがけて火遁を放つ。一発、更に威力を強くして二発目。炎の竜巻が形成され、草忍は燃え盛る火の渦の中、閉じ込められる。
その火が消え去った頃に地面を潜って進んできた草忍を飛び退って交わし、その攻撃の手が数秒止まったのを見て大きく息を吐く。しかし緊張は緩めずに、素早く構えなおした。
草忍が口元に笑みを浮かべ、人の形態を取り戻して立ち上がる。そして掛け声とともに両掌を木の枝に叩きつけた。伝わっていく衝撃波に木肌が剥がれ落ち、サスケはさっと別の木へ飛び移った。彼の元いた枝が折れてぎぎぎと音をたてて落下していく。
飛び移ったその枝から素早く飛び降り、丁度真下にいた草忍の体を捕らえて木の枝からそいつの頭を下へ向け、まっさかさまに急降下した。
「もらったぁあああ!」
草忍が頭から地面に激突する。ここも木の枝とはいえ、上との差は十メートル以上にもなる。あんなに高い木の上から落ちて無事なはずはない。ぴしっと木に亀裂が入り、草忍は逆さまになって頭ごとのめり込み、大きな目が見開かれる。痙攣していた青白い手がばたりと体の両脇に落ちた。
すっとその体から距離を取ると、更に今まではサスケに支えられていた両足がぱっくりと外向きに倒れてかくんと折れる。
それを数秒長めていたサスケは、やがてその体が色を失って土くれとかすのを見た。
「変わり身!?」
途端クナイの群れが飛び交い、サスケは写輪眼を用いてそれらを交わすと、両手の中から伸ばしたワイヤーを木にひっかけ、倍化の術を使用したチョウジが三十人くらいの幅を持つ大樹の周りをくるりと回転する。そして足場を見つけてワイヤーを放し、その上に着地。後ろを振り返ったその瞬間、前から聞えてきた足音に振り返ると、顔面に拳が叩き込まれた。
今回は草忍の優勢だった。サスケが反応する暇すら与えず、膝や拳を次々とサスケの体に叩き込んでゆく。強めの拳を一撃叩き込めば、サスケの体は呆気なく吹き飛んだ。
「っサスケくん!」
自分がいれば逆に足手まといとわかっていて見るだけにしていたサクラも、倒れたサスケを見て悲鳴に近い声で彼の名を呼ぶ。
「他愛のない……、うちはの名が泣くわよ? まあまあ、このままじっくりと嬲ってから殺してあげる。——虫けらのように!」
気絶したふりをして目を瞑っていたサスケは、ゆっくりと写輪眼を開く。いつでも動けるように体を緊張させた。そろそろ仕掛けが発動する頃だ。
「——っうぁあ!?」
草忍の衣服に取り付けられていたものが爆発し、草忍が前のめる。その隙を狙っていたサスケは素早く飛び上がって続けざまにワイヤーを草忍の周囲に張り巡らし、やや離れた木の枝の上に着地する。内数本を口で、そして残り数本を両手で操り、草忍を木の幹へ縛り付ける。草忍の顔が苦痛に醜く歪んだ。
ワイヤーが緩まないよう口でワイヤーを噛み締め、両手で火遁の印を結ぶ。
——火遁・龍火の術!
自分の周囲から巻き起こった炎がぶわりとワイヤーに燃え移り、そして滑るように草忍の方へと向かっていく。飢えた火は燃え盛る口で草忍を、草忍の縛り付けられた木ごと飲み込んだ。火の粉の爆ぜる音に混じって草忍の凄絶な悲鳴が響き、「やった!」と嬉しそうに輝くサクラの声が耳に届いてくる。明るく嬉しそうなサクラの声と苦しさに悶える草忍の悲鳴は奇妙なコントラストを成していた。
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.36 )
- 日時: 2012/07/18 22:53
- 名前: わたあめ (ID: 0YLhVMcO)
——アタシの標的は、嗅覚型の感知タイプ——キバとか、もしくはそれに似た奴だ
——さっきクズリが通ってったろ? したらクズリの糞発見したんだけどよ、これすっげえ臭いだから、使えると思うんだ。嗅覚型の感知タイプの奴は確実に悶絶するぜ、間違いない。それに相手がそうじゃなくてもだ、この臭いをつけた敵が風上にいたらいやでもそっちに注意が向く。囮に使うには持ってこいってこった
——で、アタシの唾液弾を使って、相手のホルスターを攻撃するんだよ。そういうのって普通リーダーか一番強い奴が持ってるから、弱そうな奴か馬鹿そうな奴か日和見そうな奴かうるさそうな奴に狙いを定めればいい。ベストは恐慌に陥ってくれること。警戒心を起こされても別にいいさ、クズリの糞の囮で注意をそっちに引き付けて、ユヅルのチャクラ糸で縛る。そんではじめが巻き物を取ってくれ。こういう場合グダグダしてねーで早く巻き物取った方がいいから、スピードが九班一のはじめに任せる
——まあ最適の相手は嗅覚型の感知タイプだろうけど、そうでなくても相手の注意を引ければ同様に使える作戦さ。場合によってはクズリの糞を使わなくてもいーけど、役に立つかもだから一応とっとこう
——そんで最後は起爆札で派手に締めくくろうぜ。こういう時は、逃げるが勝ち、だっけ。あ、そうそう。三十六掌逃げたらシカニク。ネジ先輩の必殺技。え? 違う? どうでもいいんだよそんなの
それがマナの立てた作戦だった。今の紅丸は川で体を洗って貰っている。
「ありがとなー紅丸ー。臭かったろー?」
鼻に洗濯バサミの痕が痛々しい。紅丸の体を泡まみれにしているのはマナがポケットの中に持っていたサポナリア、別名シャボンソウというもので、葉から石鹸のような泡を出すことが出来、石鹸の代用となるものだ。彼女がそんなことを知っていたとは、と軽く驚きながらユヅルとはじめは話し合う。
「マナにはサバイバルは向かないと思ってたけど、訂正。マナも意外にやれるもんだね」
「ああ——単純だがわかりやすい計画だな」
高度なテクニックや凄まじい威力の技を必要としていない。クズリの糞、風下と風上——嗅覚型でなくとも十分使える作戦ではあるし、唾液弾もチャクラ糸も、使用される技は皆他の技に変わっても構わないような技だ。例えばこれが七班なら、唾液弾は豪火球、チャクラ糸は普通の縄、もしくは縛る必要すらないかもしれない。
以前は女子のドベだからと侮っていたところもあったのだろう。けれど彼女は予想以上だった。
「これならきっと第三試験だってばっちりだよ。そう思わない? はじめ」
「まあ……あっさりやられるような、無様な真似は晒すまい」
マナが体を起こす。すっかり綺麗になった紅丸がはしゃいでマナの足元でぐるぐる回っていた。
「じゃあ塔へ向かうぞ、おー!!」
拳を空に向かって突き上げたマナに、ユヅルが微笑んでみせる。相変らず無表情なはじめも、僅かに目元を緩めた。
けれど一歩も進みださないうちに、焦げ臭いにおいが鼻をついた。思わず振り返ると、森の一部だけが明るく燃え上がり、周囲の闇に更なる影を落としている。目のいいユヅルには、細めた目の先で、確かに鮮やかな桜色を目に捉えた。
「……サクラ? それに……ナルトも?」
眩しい金色が、オレンジの服をクナイで固定されている。気絶しているのだろう、だらんと四肢が垂れ下がっている。
「じゃああの火遁はサスケか。流石じゃねーか、もうじき巻き物ゲットしてこっちくんじゃねーの? ……おい、ユヅル?」
マナが能天気な声で笑うが、ユヅルは笑わなかった。地面に蹲って肩を震わすユヅルに、どうした、とはじめが屈みこむ。ユヅルの息が荒い。脂汗が滲み、そしてその服越しに、明滅する青白い光が零れていた。
「ユヅル? ……なあ、ユヅル?」
「いたい……」
「……え?」
いたい、とまた彼が呟いた。体ががくがくと震えていた。青白い光の明滅の頻度が上がり、彼はうわごとのように呟く。
「痛い、痛い痛い痛いよ。痛い痛い痛い————ッ」
赤い瞳の中に新たな赤い光が現れた。澱んでいてそれでいて澄み切った赤。醜悪でありそれでいて美しい赤。忌々しくそれでいて神聖な赤。危険を示すと同時に欲望を示し、憎悪と同時に愛を示す赤。
それがユヅルの赤い瞳に広がっていく。その真紅に恐怖を覚えて、はじめは一歩後退った。
〈あの蛇め。覚えておれ、覚えておれ——! この恨み、晴らしてやる——〉
ユヅルが胸元を掻き毟った。そこからしきりに聞えてくるのは犬神の、笑尾喇の憎悪に満ちた声だ。
〈待っておれ——あの蛇が。呪われた生き物めが! 待っておれ——覚えておれ!〉
ユヅルが地面を蹴って跳ね上がる。その口が動いて、呪いの言葉を吐いた。
——ユヅルが、笑尾喇に乗っ取られている。そう感じたマナとはじめは顔を見合わせる。紅丸が唸り声を上げた。
これはいくしかないと、二人と一匹はユヅルの後を追って走り出した。
「サスケくーん! やったね!」
太い枝を駆け下りて、サクラはチャクラの使いすぎだろうか、荒い息をつくサスケの下へ駆け寄った。
しかしサスケは答えずに、息をするのですら苦しそうにはあはあと荒い呼吸を繰り返す。足が疲労に震えた。サクラの喜びの色はすっかり顔の影に潜んでいく。
「……大丈夫? しっかりして!」
ぷつんとワイヤーが切れて、草忍が数歩進んだことにサクラもサスケも気付かない。そしてその草忍は、印を結んだ。使用したのはアカデミーレベルの忍術だが、しかしその草忍が使用すると、威力も並みのものではない。サクラは数秒抗っていたが、力に押されて崩れ落ちてしまい、サスケはなんとか抗おうと必死だが、体は思うように動かない。
「——金縛りかっ!?」
「その年でここまで写輪眼を使いこなせるとはねえ……流石うちはの名を継ぐ男だわぁ」
草忍の顔の表面はぼろぼろになり、偽の皮が破れかけていた。その下から病的な青白い肌と爬虫類じみた金色の瞳が除く。草忍が手をどけると、草隠れを示していたはずの額当てに、音符マークが——音隠れの忍びであるということを示すマークが現れた。
「やっぱり私は君が欲しい」
草忍が——いや、大蛇丸が笑う。そんな大蛇丸を背後から襲ったのは、赤い二つの光。
〈はっ、——ほざいてろこの呪われた生き物め! 殺してやる殺してやる殺してやる——!〉
「っ!?」
「なっ、ユヅル!?」
白い髪を靡かせたユヅルのクナイが、咄嗟にかわした大蛇丸の服を裂いた。勢いあまったユヅルはサクラとサスケの近くに滑り込むも、枝を蹴って大蛇丸のところへと飛んでいく。人間の口寄せはめんどくさい、と彼が呟きながら、扇子を口寄せした。
一瞬集中力を散らした大蛇丸によって、サスケとサクラにかけられていた金縛りの術は解け、いきなり術がとけたことに、サスケは咄嗟にバランスがとれずに崩れ落ちかけたが、それをはじめが支えた。
「はじめ? それにマナも」
「大丈夫か、二人とも?」
「わ、私は大丈夫だけど——」
サクラが気遣わしげな目線を向けたのは、疲労困憊しているはずのサスケと、クナイで大樹に固定された気絶しているナルト、そして目を血走らせたユヅルだ。
「サスケ……それは、写輪眼か?」
「そんなことはどうでもいい、それよりユヅルは——?」
はじめの問いかけに若干焦った声で答えて、サスケは扇子で大蛇丸と戦うユヅルを見つめた。マナが短く答える。
「犬神っつー奴が、ユヅルの体を乗っ取ってんだよ」
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.37 )
- 日時: 2012/07/19 13:27
- 名前: わたあめ (ID: NsAz6QN0)
「そう。貴方は犬神なのね?」
〈忘れたとは言わせんぞ、この呪われた生き物が! 蛇は蛇らしく地を這っておればいいものを——砕いてやる、お前の頭をかち割ってやる!!〉
歯をむき出して、ユヅルの扇子が激しい勢いで舞ってくる。それをクナイで受け止め、受け流したりしながら、大蛇丸はユヅルと——正確には笑尾喇と応戦していた。
「悪いけど私の邪魔をしないでくれるかしら。私はもっぱら、うちはの男の子に興味があるんだけれど?」
〈っが、ぐァアアアアア!〉
にこりと笑って見せた大蛇丸にユヅルの白い髪が逆立ち、ユヅルは叫びのような、呻きのようなもの声を出す。大蛇丸が印を結ぶ。ユヅルが吹っ飛び、マナ、サクラ、サスケ、はじめ、紅丸は飛び上がって散り散りになった。
マナがナルトを固定していたクナイを抜き、重力に手繰られ落下していくナルトをはじめが受け止め、上へと飛び上がった。着地したその傍にはサスケがいる。
「……サクラは?」
呟いた瞬間、引き攣った悲鳴。振り返れば太い木の枝の上でサクラがゆっくりと後退っている。
〈小娘……お前か、この術をかけたのは、お前か!?〉
看ればユヅルの左胸に円形の封印がかけられてある。そこが繰り返し明滅していた——成る程、とマナは瞬時に状況を理解する。笑尾喇はユヅルから出たくても出れないのだ。あれは恐らく封印術で、そしてそれがかけられたのは恐らく、ユヅルが健康診査をしにいったあの日。
「違う……私じゃない、私じゃないって言ってるでしょ!?」
〈大蛇丸め、お前か? 呪わしき生き物よ、お前か? 我を人間の小僧の体の中に閉じ込めようと、そういう魂胆か? いいだろういいだろう、受けてたとうではないか——!〉
そしてユヅルの胸の封印の明滅が更に激しくなり、そしてそこから犬の頭が現れた。ユヅルは上半身を仰け反らせるような体勢になり、その瞳から光が消えて虚ろになる。
〈ああああああ!〉
犬神の胴体が封印を突き破って出て来んとする。封印から言葉によって形成された鎖が現れ、犬神を繋ぎとめようとするが、しかし犬神はそれすら突き破って表に出てこようとしていた。けれどそれがユヅルの体に与える負荷もかなりのものだ。
ユヅルの口から唾液が滴り、顔は血の気を失って土気色になる。ネジかヒナタだったら、白眼で経絡系が犬神と共にその体からつかみ出されていくのを看ることも出来たはずだ。
「そこまでするなんて、見苦しいわよ笑尾喇——犬神はもっと崇高であるはずの存在ではないのかしら?」
大蛇丸が浮かべた笑みに、犬神の叫びが更に怒気を帯びたものになる。
〈黙れ! 黙れ! お前だ。お前が我をつくったのだ! 目の前に食べ物を置いておいて、我を柱に縛り付けて、そして餓死するなり我が首を切り飛ばしよった! そして我は、お前への怨念で生まれた! お前の頭を砕いてやる、首を折ってやる、目を抉って手足をもいで、内臓を喰らいつくしてやる。殺してやる殺してやる殺してやる!!〉
笑尾喇を生んだのが大蛇丸。その事実にマナもはじめも目を見開いた。大蛇丸といえば里のSランク犯罪者だ。その上笑尾喇を柱に縛って、目の前に食べ物を置いて、餓死するなり首を切って笑尾喇を殺したなんて。それは笑尾喇みたいな犬神が生まれるわけだ。
「ひっでえ……っ!」
マナが顔を引き攣らせる。そのような死に方はマナにとって死刑以上の拷問だ。そんな死に方したらマナは確実に幽霊どころか悪霊になって嫌がらせをしまくるだろう。というかそんな死に方死んでも死に切れない。とりあえずマナなら首を切られても確実に首だけは食べ物へぽーんしそうな死に方だ。
「ふふ……精々喚いているがいいわ」
めきめきとユヅルの体が嫌な音を立てる。だめ、とサクラが叫んで、無理矢理ユヅルを木の枝に押し倒すなり、服を捲り上げて封印式に視線をやった。犬神は言霊の鎖に縛られながら尚も外へ出ようともがいている。
「サクラ、危ない! 離れろ!」
サスケが叫んだが、サクラは聞いていなかった。
「この術式、看たことがあるわ! 確か術の解き方はこうだったはず——!」
サクラが慎重にチャクラを込めて、封印式に手を当てる。逆封印と呼ばれる解き方だ。封印式をかける手順を後ろからやっていけばこの術は解ける、はずだった。
「サクラ、やめろ!」
サスケがサクラを抱えてユヅルの傍から去る。ユヅルの封印は解かれなかったものの、しかしサクラのお陰かはたまたその所為か、術は緩くなったらしい。言霊の鎖を断ち切り、笑尾喇が更に出てこようとしていた。
〈ありがとよ、小娘——いつか礼を言おう〉
笑尾喇が笑って、出てこようとする。しかしその前に、ろくろ首のように首を伸ばした大蛇丸が、ぐさりとその歯をユヅルの首の付け根にあてていた。
「見苦しいわね——まあ、そこまでするのなら。貴方をまた違った方法で封印してあげるわ」
ゆっくりと三つの勾玉が浮ぶ。そして大蛇丸は更にサスケの元へ首を伸ばすなり、同じ場所に噛み付いた。
「——ユヅル!」
「サスケくん!!」
安心してねと、大蛇丸はちっとも人を安心させられない、おぞましい笑顔を口元に浮かべた。
「ユヅル君、だったかしら? あの子のはついで。本命はやっぱりサスケ君よ——サスケ君、もし貴方が私に、この大蛇丸に会いたいと思うなら、この試験を死に物狂いで駆け上がっておいで」
首を元に戻した大蛇丸が取り出したのは、数時間前サスケが渡してしまった天の巻き物だ。それが緑色の炎をちらつかせながら大蛇丸の掌で滅びていく。
「——巻き物がっ!」
サクラの目が驚きに見開かれる。ふふふと大蛇丸はまたおぞましい笑い声をあげた。
「てんめえ、サスケとユヅルに何しやがった!?」
「別れのプレゼントよ」
怒鳴るマナに大蛇丸は微笑してみせる。
「サスケ君、貴方はきっと私を求める。——力を求めてね」
君の力が見られて楽しかったわ。
笑いながら大蛇丸は、木の中に溶けこむように消えていった。
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.38 )
- 日時: 2012/07/19 13:29
- 名前: わたあめ (ID: NsAz6QN0)
「サスケくん、ねえ……! サスケくんってば」
つけられた“呪印”の痛みに失神したサスケを抱きしめて、思わず泣きそうになってしまう。泣きそうに歪むの頬に、そっとはじめの手が添えられた。
「落ち着け、サクラ」
その言葉はただサクラの涙を流させる切っ掛けになっただけに過ぎなかった。安堵と恐怖が綯い交ぜになって、つうっと涙が彼女の頬を伝う。彼女は目を瞑って、抱きしめているサスケの黒い髪に頭を埋めた。
「わたし……私、どうしたらいいの」
頼れるチームメイトが二人も倒れてしまって、サクラのような、チャクラコントロールと頭しか取り柄の無い少女が一体どうすればいいというのだろう。そんなサクラに、「大丈夫だ」とはじめが静かにいった。その顔は相変らず無表情だ。
「私達が、ついているから」
はじめなりの、精一杯の励ましだった。そうね、とサクラは儚く笑って、サスケを抱えあげる。マナが背伸びして、サクラの桜色の髪を撫でた。
「紅丸がいいとこ見つけたつってたから、そこ行こうぜ、サクラ」
「うん……二人とも、ありがとう」
マナもユヅルを抱え起こした。犬神の憤慨が、ユヅルの体を通して伝わってくる。
どうやらサスケの呪印とユヅルの呪印は似て非なるものであるらしい。サスケのが禍々しい黒であるのに対して、ユヅルのは灰色だ。効力の方はサスケのが上らしい、というのは多分間違っていない。元々大蛇丸の本命はサスケだ。ユヅルの方は、暴走しかける笑尾喇を抑止する為につけたに過ぎないのだから。
それでもユヅルの状態もよくはないのは、恐らく笑尾喇が関係している。憤慨する笑尾喇を、封印式と呪印の二つが邪魔しているのだ。笑尾喇は尚更ユヅルの体内で暴れ、呪印と封印式は尚更それを止めようと発動し、そして結果ユヅルの体にかけられる負荷も多くなっている、ということだ。
ナルトを背負ったはじめが行くぞ、と言う。サクラとマナは頷くと、紅丸を追って移動を開始した。
大樹の根元、ちょうど何らかの戦闘かで根っこがもりあがってしまっているような場所で、マナやサクラ達は野宿を開始した。
怪我人三人を横たわらせ、念の為に火は焚かずにいる。はじめの水球の術で出した水で手拭いを濡らし、高熱を出し始めたサスケの額と、時たま体を痙攣させるユヅルの額に置く。しかし暫くして、痙攣するユヅルの額においても落ちるだけと察して、そちらはマナが団扇で仰いでやっていた。
横たわるチームメイトの姿を眺めて、サクラは拳を握り締める。マナ達は既に巻き物を得ていて、こちらは天の巻き物も地の巻き物もない。その上チームメイトたちは傷つき疲れきり、呪印にも苛まれてとても戦える状態ではない。マナ達がサクラを助ける義務なんてどこにもないのだから、もしユヅルが回復してからは、それからはサクラ一人でナルトとサスケを守らなければいけない。サクラたった一人で。
——私が……私が守らなきゃ
一人は片想いしてきた相手。もう一人は少し前までうざいと思っていた、でも今では掛け替えのないチームメイト。
両方守らなければならない。両方とも自分にとってはとても大切な存在だ。だから尚更守らなければならない、自分の力で。
「サクラ」
「どうしたの、マナ?」
はじめは紅丸と共に食物採取だ。曰くマナはつまみ食いするので駄目、ということで、マナとサクラ、女子二人が残されている。今晩は三人が交代制で見張りと看病を努める予定だ。
「これ、やるよ」
投げてよこしたのは地の巻き物だ。受け取ったサクラは目を白黒させてマナを見つめる。
「巻き物二つも無くなっちゃったんだろ? そっちあげるから。あ、それとも天の巻き物の方がよかったか?」
「ま、マナ!? ちょっとやめてよ、これはマナやはじめ達が手に入れたものでしょ!? 私には——っ」
「とっとけよ。役に立つかもしれねえから。おべんとつくってくれたお礼だからさ!」
にやっと悪戯っぽく笑って、マナは人差し指を立てる。
「これで貸し、一個返したからな!」
「……なによ、マナったら……こんなの、幾ら借りがあっても足りないくらいよ……っ」
また溢れてきた涙を拭って、サクラは渡された巻き物を握り締めて笑う。暫くの間することもなく横たわる三人を見つめていたマナとサクラだったが、その内サクラがうつらうつらと船を漕ぎ始めた。その頭がすうっと下がりかけて、しかしサクラはぱっと頭を起こすなり、ぶるんぶるんと頭を振った。先ほど一番の見張りには自分がつくと決めたばかりなのに。
「サクラ、寝たら?」
マナが声をかけてきたが、いいの、とサクラは首を振った。
「大丈夫よ。ちょっとぼーっとしてただけだもの。最初の見張りはやっぱり私がやるわ」
「……いいよ、アタシがやるから。寝てろよ。バテるぞ」
先ほどの戦闘でサクラは見ていることしか出来なかったとしても、精神的な消耗は酷かったはずだ。
「でも、マナは」
「アタシは特になんもしてなかったし……ちょっと寝てろよ。あとでまた起こしてやるから」
「……そう? じゃあ約束ね。マナの番が終わったら、私を起こして。それからは私がはじめを起こすから」
うん、とマナは頷いた。月明かりに照らされたマナの顔はいつも以上に大人びていて、神秘的に見えた。
目を瞑る。大丈夫。もうじきはじめは帰ってくるはずだし、マナも傍にいるから。
サクラは夢のない眠りの中に堕ちていった。マナに凭れ掛かりながら。
マナはサクラの桜色の髪に顔を埋める。そこからする匂いは花や香水の匂いではない。汗と血と、それから土の臭いだ。それは戦いの臭い。いい匂いとは言えない。これは女の子の匂いじゃない。けどこれはくノ一の臭いだ。それもこれは、戦うくノ一だけの臭いだった。
マナはどこかでこの臭いを嗅いだことがある。それが誰からの臭いからはわからない。けれど若しかしたらそれは母の、狐者異ネリネと言うらしい母の臭いなのではないかと今なら思う。
「……お腹空いたなあ」
はじめ、早く帰ってこないかなあと空を見上げる。腹がぐう、となった。
マナは凭れ掛かってくるサクラの白い手首を掴んだままにぽっかり浮んだ月を浮かべて、小さく溜息をついた。
- Re: NARUTО 木の葉の里の大食い少女 ( No.39 )
- 日時: 2012/07/22 00:34
- 名前: わたあめ (ID: XVANaOes)
——最低だ最低だ最低だ!!
汗が滲み、体が震える。少女は泣きながら、背後の大樹に凭れ掛かった。
——嫌だ嫌だ……誰か。誰か助けて
いもしない助けを求めて、少女は泣き荒ぶ。
「おはよう、サクラ……って、もう朝?」
あの後はじめが帰ってきて、二時間ほど見張りをし、そしてサクラを起こしてからも数時間一緒に見張りをしていたが、やがて眠りについた。サクラは寝る間際のはじめに水球を水筒の中に足してくれるよう頼み、それから既に温くなった手拭いを取って、サスケの額に乗せる。ユヅルは先ほどよりもずっと落ち着いてきていた。笑尾喇ももう付近には大蛇丸がいないことを悟ったのかもしれない。ただサスケの熱は一向に下がらなかったし、とても苦しそうだった。それでもサクラに出来ることはこうやって看病し続けるだけだ。
——私が二人を守らなきゃ
ぎゅっと拳を握り締める。はじめもマナも、ユヅルさえ落ち着けばサクラ達を手助けする義理はない。はじめが採ってきた木の実を一粒、口の中で噛み潰した。甘酸っぱい味がする、と同時に、気持ち悪くなった。毒でも入っていたのだろうか? いや、それなら今はマナの傍で丸くなっている紅丸がはじめにそう警告していた筈だし、第一はじめがそれを食べてから眠ったのをサクラも目撃している。
腸が引きずり出されるような感覚に口元を押さえた。ぼんやりと遠くなりかけた意識の中で、穏やかに眠るユヅルの胸元が僅かに発光する。
——小娘。そう、お前だ。お前、この封印術を解けるか?
——貴方は……
二足歩行の犬が、白装束を纏ってそこに立っていた。これは幻覚だろうか? 目を擦っても、その姿は消えずに、犬の癖して紅を塗った口元を笑うように歪ませるだけだ。
——あの木の実は、食べた人間を眠りの境へ追い込む作用を持ってる。毒ではない、寧ろ薬に近いな。後ほどあの黒い髪の小僧にも食わせてやれ、幾分か落ち着くかもしれぬ
——眠りの境? ……それって、
——眠りの境に追い込まれれば、人は正気も狂気もない。一分でも多く留まろうとすればするほど、お前の目は冴えていく。……我はお前と交渉しにきたのだよ、小娘
笑尾喇が扇子をサクラの顎の下に宛がい、上を向かせた。
——この封印術を解け。これは白い目の男が、大蛇丸の実験体の女の息子だった男が我につけたものだ。まあ、そうはいってもあの男は大蛇丸のことなぞ露ほども覚えておらんが。寧ろ我へ対する記憶の方が深いらしい。まあそれも当然だろう、あの男は使い捨てにされた哀れな小娘に助け出されたんだから
くくと笑尾喇が笑う。
——白い目……日向一族?
——ああ——そうとかいったな。どうだ小娘、封印術を解いてくれはせぬか? 交換条件もそれなりに悪くないと思うが
——交換条件……?
そうだと笑尾喇は漂うような笑みを見せて、背筋を伸ばし、扇子片手にくるりと一回転、肉球のついた手のひらを差し出した。二足歩行の、白装束の犬が少女に向かって肉球のついた手を差し出す——それはある意味かなりシュールな光景だ。
——_____。____________
——!! ……でも
——さあ——解くんだ。これは我のため、我が主のため、そしてお前のためだ、春野サクラ。我は笑尾喇——しかし真の名は、__と言う
——_、_
成立だ、と笑尾喇が笑い声をあげた。サクラは身長にユヅルの服を捲り、印を組んでいく。これが施されたのとは逆の順序で。彼の左胸に浮んでいた二重丸の封印式がチャクラの塊と化して、持ち上げられていくサクラの左手に従って吸い取られるようにその肉体を離れていく。ユヅルがほう、と大きく溜息をついたかと思うと、呼吸は前に増して安定し、彼は安らかな表情で眠り始めた。
——礼を言うぞ——小娘。ふふふ……あの蛇の頭を砕いてやる! 殺してやる殺してやる——柱に縛って、食べ物を目の前に置いてやろう。あいつが餓死したらその首を切り、頭をかち割ってやろうぞ!
喜悦に歪んだ顔で笑尾喇が笑みに似たものを浮かべた。紅を塗った唇を真っ赤な舌が一舐めする。
サクラの意識が遠のいた。せめてマナを起こさなければと手を伸ばすけれど、その手が届く前にサクラの意識はもう、暗闇の中に沈んでいった。
サスケの瞳のような暗闇に。
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