二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- As Story〜過去分ちょっと修正
- 日時: 2012/11/12 00:39
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7lLc0QEy)
初めまして!
書き述べると申します。
この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!
カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。
混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。
更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!
【最新話直前の状況】
犯罪組織の先手を打つべく、警察が技術の粋を尽くして開発した時空間走査システム。システムは無事起動したが、早速時空間を移動したと思われる人間の反応を示した。一時、フロアは騒然とするが、反応の正体は、本稼働前に引き揚げ損ねたテスト用人員だった。そして初回の走査処理を終える直前、2012年1月の期間に、42件にも及ぶ正体不明の反応。正真正銘の時空間犯罪者の可能性が限りなく高かった。
【お客様(引っ越し前の方含みます)】
アメイジング・グレイス様
アサムス様
友桃様
通りすがりの者です。様
【目次】
1話 >>1
2話 >>2-3
3話 >>4-5
4話 >>6-11
5話 >>12-13
6話 >>14-19
7話 >>21-25
8(1)話 >>29-31
8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75
9話 >>81-82 >>87-88
9(2)話 >>90-91
9(3)話 >>95-96
9(4)話 >>98-100
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
- As Story〜9話(2) 〜アップしました! ( No.94 )
- 日時: 2012/08/18 20:44
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
こんばんは〜
9話(3)アップします!!
そういえばこの作品の名前のAs、英単語としての「As」以外にいくつか意味を重ねているのですが、そのひとつに主人公格の人物の名前の頭文字の組み合わせがあります。
A・・・梓(Azusa)
S・・・静(Shijima)
こんな感じです。。。。
梓は出番少ないし、静は頼りなさげですが、物語の核になっていきますので、どうか応援してやってくださいっ(土下座)
他にも二つ意味を重ねてます。判明するのはだいぶ先になるとは思いますが。。。
じゃ、第9話(3)です!!
- As Story〜9話(3) 〜時空間走査システム ( No.95 )
- 日時: 2012/08/18 21:03
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
システム——それは互いに影響を及ぼしあう複数の要素が、特定の目的のために構成する「全体」である。巷には名前の末尾に「システム」という単語のつく名詞が、都会に潜むクマネズミよりも多く氾濫しているが、よく見るとほとんどのシステムの名称はある一定の規則がある事に気付く。その規則とは、「システムの目的」+「システム」という文字列という組み合わせである。例えば、「成績管理システム」といえば、そのシステムの目的は生徒の成績を管理すること——即ち、生徒の氏名等の基本情報の記録、目標点の設定、成績の推移などを行うためのシステムということになる。一般人でも目にすることのできるシステムの例としては「新幹線運行システム」がある。これは時速300kmを超える速度で走行する新幹線の車両と、それを運転する運転士、総延長2000kmを超える線路のどこかを走っている車両の位置や状態を遠隔で監視するコントロールセンター、車両の緊急停止を制御するATC等、これらを利用し新幹線を安全かつ正確に運行する仕組みのことを指す。そしてこれらの集合体は、自らの名前に刻まれた「目的」を滞りなく遂行し続けることで評価されるのである。
一威の目の前に鎮座している時空間走査システムも、与えられた役割を一心に遂行していた。彼の役割は「時空間の走査」。それもただの走査ではない。指定した範囲の期間を時間単位あるいは日単位に区切り、その都度5.1億平方キロメートルにも及ぶ惑星の全表面を走査し、警察の手を逃れたと安堵の息をついている犯罪者を秘密裏のうちに発見する任務を担っているのである。だがシステムの稼働開始式典が催されている今日、彼の努力を良く評価しようとする者は皆無であった。それどころか、彼の行為によって、一人の男が首が飛ぶか飛ばないかの窮地に立たされていた。ギロチンの刃を吊るしている痛んだ縄は、ミシミシと張りつめた音を立てながら、着々とちぎれる瞬間に近づいている。
警察組織に配属されて何年経っただろう。40年くらいか。内閣府警察庁情報局局長の七髪一三(ななはつ いちぞう)は、暗号化通信用端末越しの会話とは全く関係のないことに意識がそれた。窮地におかれた男が、耳を閉ざすことのできないこの状況で、現実から逃避できる唯一の方法であった。
飛ぶ鳥を落とす勢いで成長するユーラシアの国々から見放されたように、極東の海に浮かぶジリ貧の島国のごとく、七髪は来賓の人だかりから3メートルほど離れたところで猫背になり、肩身の狭い思いを周囲にまき散らしながら佇んでいた。今の彼が極東の斜陽国と違うところは、彼と同じ場所に居合わせる警察組織の重鎮や警備員、そのほかのあらゆる警察関係者達から火傷を負いかねないほどの熱い視線を浴びせられているところだ。彼のこめかみから氷のような汗が一滴、大地をえぐる氷河のごとく、頬をずるずると垂れていく。今日このハレの日のために新調した背広の背中一面には濃灰色の汗じみの世界地図が描かれていた。早朝に目を覚ましてからこの瞬間まで、一秒たりとも極度の緊張を解く暇のなかった彼は、既に冷や汗で脱水症状になりかけていた。
「あのう、聞いてますか?七髪さん」麗しき過去の思い出の世界に逃げ込んでいた中年の男の意識が、通話の相手の粗谷参義(あらや さんぎ)の呼びかけによって、地獄よりも陰鬱な現実世界へ再び引きずり込まれようとしていた。科学技術演算関連の中堅ソフトハウスに勤めていた粗谷は、大手システムインテグレータの子会社であったがために、受注は安定していたが、儲けの少ない現状に嫌気がさし、二十八の時に志を共にする同僚、後輩社員らと会社を辞め、システム受託開発専門の「アラヤ・システムズ」を起こした。アラヤ・システムズは全国の地方自治体を顧客とし、都市開発に関連する高度なシミュレーションシステムを構築して高い評価を得ていった。そして、当時県の情報システム部門のプロジェクトリーダーを務めていた七髪の目に留まり、都市開発だけに限らず、あらゆる分野のシステムを二人三脚で構築してきた。七髪が政府機関の情報部門に大抜擢されてからも、彼らの関係は変わらず、現在に至るまで約30年来の付き合いとなっていた。身内には話せないことでも、二人の間では腹を割って意見を言い合うことができた。実のない愚痴をこぼしあうこともあった。いい年をして口論が白熱して殴り合いになることもあった。そんなつーかーの関係の二人が気の遠くなるような歳月をかけ、実現を目指してきたものがいま七髪の背後で不穏な信号を発しているシステムであった。
粗谷は前日に発生した別のシステムの障害に対処するため、武蔵野のサーバセンターから離れたところで、自身のノートパソコンから時空間操作システムの状況を監視し、先程発せられた信号について七髪に説明を終えたところであった。
わざとわかりにくくているのではと勘ぐってしまうほど時空間とシステムの専門用語の応酬だった粗谷の説明のうち、七髪は最初の1分しか覚えていなかった。だが、七髪にはそれで十分だった。あいつは自分に都合の悪いことが起きると、鱗一枚分しかない核心部分に尾ひれ背びれ、内臓、肉、骨、えら、体の各器官をつけて大間産の本マグロにしてしまう。しかし、ことさらに報告書を求められることの多い行政機関相手に、何千何万回と報告を重ねてきた下請け会社の社長は、報告内容の核心を先頭に持ってくる習慣が、テフロン加工の剥げ落ちたフライパンの焦げみたいに己が身にこびりついている。だから、最初の二、三文とその時の彼の表情さえ見ておけば全く問題ない。
火気厳禁のサーバルーム内でニコチンがきれそうな一部の幹部が、しきりに革靴で床を叩き始めている。七髪に残された時間はあまりなかったが、粗谷の報告を慎重に分析した。「つまり、あのシステムに表示された輝点はテスト用人員で、全部で四名、現在とはことなる時空間に配置されているということだな?」
「——はい」一瞬の間を置き、粗谷が抑え気味の声で短く返事をする。「だが——」間髪いれず七髪が言葉をつないだ。
「なぜ彼らがまだ残っているのだ。テスト用人員は昨日のリハーサルが完了した時点ですぐに引き揚げさせろといったはずだろう」七髪の一言で、自身の滝のような冷や汗をかく役回りはは粗谷に引き継がれた。粗谷の返事を待たずに七髪が話を続ける。そのまえにやれやれと大きくため息ついた。「起きてしまったことはしょうがない。確かテスト人員は、2059年から2020年までの40年間を10年ずつ区切り、各10年ごとに一人配置しているんだったな?」
「はい」
四人のうちすでにひとりは探知されている。つまり残っているテスト人員は、三人。大仰な台詞回しで単純な引き算をいるうちに、再び背後で甲高い電子音がした。——二人か。
七髪が伝言を簡潔に済ませ、端末の通話を切断した。腹を決めて身を翻すと、泰然として立ちはだかる長官を先頭に、剣呑な視線と悪態を投げつけてくる重苦しいツイードの団体に向かっていった。男が長官と一歩ぶん隔てたあたりまで接近すると、深々と頭を下げ、今回のトラブルについて一部始終を説明した。七髪が言葉を吐き尽くした頃に、しつこくクレームを繰り返す幹部が1,2名いたが、全体としては落ち着きを取り戻していた。情報局局長のわかりやすくまとめられた報告を、サーバールームの隅で耳をそばだてて聞いていた警備員らも一部を除き表情をこころもち崩していた。緊張の糸がだらしなくたるみ始めた空間を貫くように、3回目の電子音が鳴り響いた。時間を遡るにつれ、矮小な惑星の殻の表面で蠢く人類の数が減るため、電子音の鳴動する間隔も短くなっていた。一部の幹部たちがタバコの自販機の場所について、確認し合っているうちに最後の電子音が鳴り響いた。
数秒のち、七髪の通信端末が鳴動した。粗谷からの報告のメールだった。先ほど探知した4名の国民基本情報IDと氏名、そして全員のテスト要員リストでの存在を確認した旨の文章が書かれていた。七髪たちのいる時代、2060年では既に、国民背番号とも言うべき、国民基本情報IDが、全国民にあまねく割り振られていた。このIDによって、日本国民は身元とこの国の手厚い社会保障を受ける権利を保証されていた。もし、IDを持たないものがいるとすれば、その者たちは不法滞在者かIDを割り振られるべきではない極めて稀有で特殊な職務についている人間であるということがわかるのだ。メールを二度読み返し、七髪が右の腰のあたりで目立たぬように拳を固めた。システムの画面が、2019年の世界の走査を開始したことを告げていた。時空間の走査はテスト人員が配置されていない期間に入った。システムのスキャニング処理は2000年までに設定されていた。残り20年。七髪はシステムの目の前に張り付いている必要はないだろうと、このあとのスケジュールを確認するべく、幹部たちに金魚の糞のようにひっついている補佐官らのもとに足を向けた。振り帰り際に若い女性警備員と目が合い、にわかに人類の約半数の人びとに宿る女への煩悩が七髪の左胸の片隅で湧き上がったが、表情は微動だにさせずその場を去った。
- As Story〜9話(3) 〜時空間走査システム ( No.96 )
- 日時: 2012/08/20 01:15
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7lLc0QEy)
誰かに指示されたわけでもなく、滞っていたサーバー室の警備体制は、正常な体勢に戻っていた。予定より遅れていはいるが、あと2分でサーバ室内と部屋の外の建物内部、建物外部の警備のローテーションが開始されることが、暗号化通信端末を通じ、警視庁の警備担当官から各警備員に告げられていた。タイルの床を叩く革靴の音が慌ただしく響き渡る。各警備会社は前もって入念に警備場所と移動ルートを確認してはいたが、どの会社も経験のない場所な上に、廊下が熱帯域のアリのつくる蟻塚のごとく三次元に入り組んでいるため、ローテーションのたびに、付近にいる警備員どうしで、全フロアの図面が記載されているリーフレットを取り出し、確認し合う光景が見られた。新堂も先ほどの七髪の報告を立ち聞きし、通常の警備に戻っていた。そしてこの男もご多聞に漏れず、付近にいた他社の中年の警備員にローテーション先への移動ルートについて確認をするべく声をかけたところだった。
「帝栄警備の新堂だ」羽目板状に並べた社員証と入館許可証を左手で掲げた。相手は2万名を超える屈強の警備員を世界に擁する国内最大手の警備会社の警備員だった。もちろんその会社の選りすぐりの警備員である。その警備員が新堂の掲げた社員証を見て、かすかに目を丸くした。帝栄警備は、警備員、非警備員を含め、総勢100名をわずかに超える程度の中小警備会社であるが、個々の警備員の技量、素質が非常に優れていることで有名であった。そして帝栄の筆頭警備員である新堂は、一部の警備員のあいだではカリスマのように崇められている動きさえあった。だが他の警備会社において、職業がら新堂の顔を知るものは皆無であり、先の新堂の相手の反応は全く不思議なものではなかった。30秒でルート確認を済ませようと、二人で手際よくリーフレットの各ポイントを指差し確認していく。突如、相手の警備員が確認作業とは関係のない話題をふってきた。
「ところで新堂さん。今日はお美しいパートナーがいらっしゃいますね。実にお羨ましい」新堂が訝しげな表情をあらわに、カエルを睨む蛇の如き目線で相手の顔を射抜く。豹変した若者の形相に中年の警備員が焦って言葉を続けた。「あ、申し訳ない。いや彼女、さっきからひっきりなしに何を見ているのだろうと思いましてね」
カリスマと崇められる男の顔がたちまち蒼白に染まる。留め具が外れた虎バサミのように首を回すと、相棒が件のシステムを睨みつけている。あいつ、さっきまで警備してたのに。顔面の皮膚が氷のような薄青色から煉獄の紅色に変化した新堂が、男に軽く会釈をすると、仕事をしない相棒のもとへ大股で向かっていった。
女の足は完全に止まっていた。持ち場の出入り口の扉から離れた場所で、右に左に流れていく警備員の隙間の奥に控えるサーバマシンの20インチのディスプレイを遠巻きに見ていた。コンピュータ関係の担当者と思しきの説明を聞いても、あの胸騒ぎはおさまるどころか時間と共に強くなる一方であった。ディスプレイのそばにいる来賓たちに気付かれないように、警備をしながら、チラチラと顔を動かしていた。が、いつの間にか足を止め、顔をうつむき加減にし、目の前に垂れている漆黒の絹糸のように艶やかなすだれ越しに、画面の下に映っている緑色の線を食い入るように見つめていた。そして裸眼で2.0以上を保ち続けてきた視力を総動員し、緑の線のさらに下に表示されている小さな文字を判別した。2013——。不意に緊張で右腕にしびれが走る。腕に鳥肌が走り指が痙攣した。
「すいうつ!」拳の突きの寸止めのごとく語尾を短く切った野太い声が、静の不安を力づくで吹き飛ばし、前とは異なる恐怖で静を覆い尽くそうとした。すっかりグラフに気を取られていた静が、わずかにとび跳ねつつ体を先輩警備員の方にひねる。最後にディスプレイを一瞥したとき、「2012」の文字が画面下に映し出されていた。
「よそ見するな!持ち場にもどれ!任務を遂行しろ!」前に突き出した右腕を、静の持ち場の方へ振り回したその時、
ピーン、ピーン——。真っ先に画面を向いたのは七髪、数分の差もなく静がそれに続いて顔をディスプレイに戻す。1秒おいて他の警備員たちが条件反射で各々の利き腕の側の腰にぶら下げているホルスターに手をかけ、片膝を突き、臨戦態勢をとっていた。一威ら幹部たちも二つ目の電子音の残響が、彗星の尾のようにフェードアウトし終える頃には、混乱の根源の方を向いて立ち尽くしていた。最後に自らのどなり声で電子音を聞き逃した新堂が、周囲の警備員の動きを見て異変に気付いた。
七髪が通信端末の短縮ボタンを力任せに連打した。あいつもすでに察知しているはずだ。そんな思いをよぎらせ、端末を耳にあてると、一回目の呼び出し音が鳴り終える前に聞く者の生気を吸い取るような弱々しい男の声がした。一瞬、七髪は奈落の底にかけてしまったかと本気で考えてしまった。
「何なんだ!あの二つの」思わず七髪が言葉を詰まらせた。このシステムは、高度化する犯罪に先手を打つために開発されたはずだったが。我々は再び犯罪組織の後塵を拝したのか?それともこのシステムは周囲の人々の目線をくぎ付けにするために開発されたのであったか。ならばもう少し、映し出す内容をショッキングではないものにして欲しいものだ。トラブルの連続で息切れしかけていた七髪の脳みそに、軽い冗談の文句が浮かびあがっていた。不謹慎極まりない己のユーモアに苦笑を浮かべていた。一方、ディスプレイを見つめる落ちくぼんだ瞳は表面を分厚い水の膜に覆われていた。男はゆっくりと首を左右に振った。端末の向こうの気の置けないシステム屋の男もすでに異変に気付いているに違いない。右手がだらりと垂れさがり、力の抜けた右手から通信端末が抜け落ちた。硬質のタイル床で通信端末が鋭い音を立てて2回バウンドした。
今回ばかりはお手上げだ。俺の、せいじゃない——。
七髪の見つめる先の画面に映し出された線が激しく波打っていた。電子音が連続して鳴りつづけていた。
先輩警備員の拳骨の一発を寸でのところでまぬかれた女性警備員が、双眸を細め、ディスプレイに表示されている数字を読取った。女は再び瞼を持ち上げると、激しい緊張で言うことを聞かない声帯に鞭をうち、遠くにいる一威に叫んで伝えた。
「日付、ふたまるひとにぃ、まるいち、ふたまる、時空間走査システムに42件の反応あり!おそらく——」静が息をついだ。すこし声を抑え、この場に居合わせた誰もが絶対に耳したくない言葉を発した。
「時空間犯罪者です」
- Re:As Story〜9話(4) 〜副長官、乱心 ( No.97 )
- 日時: 2012/10/07 17:31
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
こんにちは〜!
一か月以上ご無沙汰しておりました。
すみませぬっ。。。(汗)
己の失敗のせいで、仕事が忙しゅうて、忙しゅうて。。。。(泣)
ほんと更新を一時停止しようかと思いましたが、なんとか今回のアップにこぎつける事が出来ました。。。(安堵)
では、9話の括弧4です!
- As Story〜9話(4) 〜副長官、乱心 ( No.98 )
- 日時: 2012/10/07 17:34
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
件のシステムが稼働を開始してから、まだ20分も経っていなかった。3月の太陽はもうすぐ南中になろうというのに未だに低く、レースカーテンをすり抜けてきたような柔らかな光を武蔵野の大地に降り注がせていた。
丘陵地帯の鬱蒼とした森林の樹幹と内側では、仄かに地面を照らす日光を頼りに、視覚によって狩りをする生き物たちの、少し早いランチタイムという名の修羅場が繰り広げられていた。厳しい冬を類い稀なる忍耐力で乗り越えてきた虫たちが、ようやく活動を始めようとすると、それを待っていたかのように翼をもつ捕食者たちの動きも活発になってきた。彼らもまた、餌が極端に少なくなる厳寒の森で、仲間たちが次々と餓死していくのを目の当たりにしながら、辛くも生き抜いてきた者たちなのである。連日連夜、餌にありつこうと血走った眼をして薄暗い森の中を縦横無尽に飛び回っていた。羽のある虫はただでさえ短い一生を更に短く終わらせまいと死に物狂いで逃げまどっている。悲惨なのは、卵からかえり、数日しか経っていない昆虫の幼虫達だ。羽どころか機敏に動く足さえも持たない彼らが身を守るための装備といえば、自らの皮膚に描かれている鳥の目を模した斑点や、木の幹に似せた迷彩調の模様だけだった。不運にも木の幹から落ちてしまった者、不用意に動き回ってしまった者たちは、迫りくる捕食者に気付く間もなく肉体を食べやすい大きさに切り刻まれ、ひとかけらの食品と化する憂き目を見ていた。暗緑色の天蓋から舞い散る落ち葉の流れに逆らうように、志半ばにして命を絶たれた彼らの魂が無数の迷彩柄の霧状の塊となって天を目指していく。啓蟄を迎えて間もないころは、この霧状の塊が木々の隙間を埋め尽くすほどに発生し、常日頃から淀んでいる空気の流れが動きを失い、太陽の光半分ほどが魂の靄に吸収され、陰鬱とした森の情景を一層増長させていた。歩けば棒にあたるからといって木の幹でじっとしていれば生存が保証されているわけでもなかった。気の遠くなるような鳥類の歴史において、子々孫々へと連綿と引き継がれ改良を重ねてきた擬態を見抜く術の前に、代わり映えのしない小さき者たちの擬態は数百年前には殆ど意味を失っていたのである。餌がふんだんにあるときは、自身を隠しきれていない哀れな者から処分していくので、少し凝った欺瞞が全身に施されている種類の虫達はやり過ごせたと安堵混じりの大きな息をついていられるが、少し餌がなくなり始めると、欺瞞の有無にかかわらず、動きの緩慢なものは手当たり次第食い殺された。ほとんど丸腰の状態で地上に現れてきた幼虫たちが、陰惨な死に様を晒していく光景は、映画『スターリングラード』の冒頭で登場する、防弾性能の低い軍服と粗末な小銃一丁を渡されて戦場に放り出された新人の歩兵たちを彷彿とさせる。
武蔵野の大自然で鳥たちが嘴を虫けらに向けているとき、データセンターの一角では、人間が人間に銃口を向けていた。銃を握っているのは、室内の警備をしていた三名の警備員。銃口の睨む先では、壁際まで追いやられ、おしくらまんじゅうのように寄せ集められている報道機関のレポーター、カメラマンたちがいた。彼らを招いた警察は彼らに時空間走査システムが正常に起動し、今世紀初頭までの時空間走査処理がつつがなく完了したことを、翌日のマスメディアを通じて世に知らしめてくれることを期待していた。今となってはそれが深刻な仇となっていた。予期せぬ四二件の反応。時空間犯罪者——。記者という動物が、人類史上初の時空を渡るシステムの稼動開始という誇るべきの式典の中、彼らの野次馬根性に満ちた本能をむき出しにし、式典中の トラブルや不祥事が発生するのを舌なめずりをして待ち構えてい矢先だった。警察庁長官一威正一の鋭い号令が発せられるや否や、報道関係者らが状況を理解できぬうちに、集団の外側を三人の警備員に囲まれていた。用足しから戻ってきた記者がひとりいたが、彼もまた、二つのつぶらな瞳に映し出された戦慄の光景の意味を飲み込めぬまま、警備員の一人にアゴで誘導され、哀れな羊の集団に加えられた。
殆どの記者たちは望まれざる四二件の走査結果に関する一切のメモや画像データの提出を求められると、無言で指示に従っていた。威勢のいい三十前後の若い男のカメラマンが、警察のあまりにも唐突で理不尽な要求にくってかかろうとしたが、向けられた銃口のやや後方、銃身の下につけられているアタッチメントを見るなり口をつぐんだ。全身の筋肉が硬直し、ねっとりとした冷や汗がこめかみから一筋、右のあごの際にそって垂れた。その器具は単一型乾電池と大きさも形状もそっくりな外見をしていた。間違いない。カメラマンは喉の奥から嗚咽がゾンビのように這い上がってくるのをこらえた。それは法執行機関の特殊部隊がテロリストなどの武装した犯罪者との近接戦闘時に装着する小銃用電撃アタッチメント、つまりスタンガンだった。音も光も全く発することもなく、AEDの二十倍もの電圧と電流量を有する電撃を一秒間に最大十回ターゲットに叩き込むこの電撃銃は、重装備の歩兵でさえも、自身が攻撃されたことに気きづく前に、彼もしくは彼女の意識を奈落の底に引き釣り込むことができる。そのため、近接戦闘の中でも歩哨と鉢合わせする可能性の高い、建造物内での突入経路確保に威力を発揮するのだ。だが今、奇妙なことに電撃銃の電極は、丸腰の若い男の民間人の方をまっすぐ向き、人間の肉に飢えた単眼の巨人の如くうめき声を漏らしながら男の心臓を睨み据えている。もしあれが一瞬でも触れたら、俺は——。刹那、残りの一単語が瞼の裏を右から左によぎる。その文字列が何か瞼の裏の映像を見るまでもなくわかっていたが、決して言葉にはしたくなかった。真正面に立ちはだかる濃紺の警察の犬に気づかれぬよう目線を動かしてみる。己の胸の中央から相手の銃口までを一条の線でつないだ。男の胸と豆粒ほどの電極の間隔は40センチメートルほど。カメラマンの眼前で小銃を抱える警備員が噂通りの選良ならば、コンマ1秒もかけずに男の胸骨上に電極を当てられるはずである。下唇を噛み締めるカメラマンの緊張の糸が、鋭い音を当てて張り詰めていく。
「100年以上昔の特高のつもりか貴様ら!民主社会で検閲がまかり通ると思ってるのか!」窮地に立たされ、地蔵のように押し黙ってしまった若者を見兼ねて、群れの奥からどすの効いた中年の男の罵声が轟いた。
「まかり通ると信じてやみませんよ」警察に抗する一部の記者たちが男の野次の勢いにのり、にわかに勢いづこうとする出鼻を砕かんとばかりに、即座に反駁の文句が無機質な空間に響き渡った。声の主を見て驚嘆の声がまばらに聞こえてきたのは、拘束された人々の群れではなく警察組織の幹部達のほうだった。壁際に追い詰められたレポーターの群れにゆっくりと距離を詰めていくダブルのダークスーツを羽織った猫背の人影、その光景を目の当たりにした幹部の誰もが、人影の名前を思い出せるものはだれもいなかった。それでもその人影が常に長官の傍らで影のごとく静かにつつましくふるまっているのを知っていた。主の足元に映る影が主から離れた。思わず幹部の一人がタバコで汚染された呼気を零した。主から離れた「影」は視線をやや下に落としたまま一歩、また一歩と左右の足を前へやり、部屋の四方を囲む打ちっぱなしのコンクリートの壁で反響する自身の足音を味わうかのようだった。
「影」は血の気の多い一部の記者らの地獄耳に届く程度のわずかな声で話したにも関わらず、三挺のスタンガン付き小銃に囲まれた記者達の顔面にはうっすらと霜が降りている。そして恐怖と憤りの入り混じった視線を、わざとらしく丁寧な物言いをし、独り歩きする「影」に向けていた。「影」は記者のやじなど全く気にも留めないといったように菩薩の微笑みを彼らに向けている。
——言論の自由が保証されたこの民主主義国家で公然と検閲が行われるなど、話にならん…。
——うつけ役人のハッタリだろ…。
——だいたいあいつは何者なんだ?何の権限があるってんだ…。
恐れを振り払うかのように、記者たちが「影」への侮蔑の念を百様の形をなして頭上に浮かび上がらせようとしていたが、「影」の醸し出す異様な余裕のためにそれをできないでいた。
「仁田、検閲とは、まさかお前」背後から一威に呼び捨てにされ、「影」が足を止め、首だけを横にひねる。同時に、大半の記者が一威が口にした「影」の苗字を耳にするなり、眼前に迫る男に目線を奪われていた。「長官、検閲の決定権は私にもあります。本件の処理は私に一任ください」
決定権、本件の処理、一任——。「影」の言葉の端々が、男の素性を知ってしまった記者たちの精神に深々と突き刺さり、致命傷を与えた。猫背の小柄な「影」の名は仁田 次博、警察組織のブレーン、警察庁副長官であった。仁田は記者たちを制した時とは打って変わり、謙虚で誠実さに満ちた声色で長官に返事をした。仁田がへりくだった態度をとったり、呼び捨てにされるのをおとなしく受け入れるのは長官の一威に対してだけである。それが仁田が強大な権力には従順である性格ということなのか、もしくは一威への純粋な尊敬の念の顕われなのかは誰も知らない。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
この掲示板は過去ログ化されています。