二次創作小説(紙ほか)

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【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】
日時: 2013/07/28 09:36
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: NgR/a8mA)
プロフ: http://id16.fm-p.jp/517/tyabana/

 忍たまSS(短い物語)リクエスト(という名のネタ)募集中
 詳しく(?)は下参照

 こちらの板でははじめまして、紫と申すものです。
 ゆかり、でなく、むらさきなのです。

 普段はシリダクや複ファジに生息しているのですが、二次創作をいつかやってみたいと思っていたのと、こみ上げる落乱への愛をどこかで発散するために、やってしまった感たっぷりです。でも後悔はしてない
 だいたい、愛故に春休み高知行くついでに尼崎(兵庫県)へ寄り道して聖地巡礼しとったし、夜行バス二日連続も愛さえあれば平気
 この漫画、ギャク漫画ですけれど、よく考えるとすごく切なくなります。時代背景とかね、でも、そう言う時代でも庶民はたくましく生きていて、きっと彼らもそうなのかなと、いろいろ妄想が膨らみました。

 忍たま好きへ、というより、そうでない人でも、一つの物語として楽しめるように書いていきたいなー、というのが目標。知らなくても大丈夫って胸を張って言える文章が書きたい今日のこの頃。

 リアルがワタワタしています、でも、8月はほとんど短期留学に行くのでいないという、今のうちに夏休みのレポート片付けないと 

 URLは茶華名義の創作置き場。そのうちこっちのハンネも茶華にするかも
 作りかけで、完成までの道のりは長いけれど、忍たまゲームブック(選択肢によって進み方が変わる小説)計画進めています、たぶん乙女ゲーム風味になる予感
 文章は全く気にしてないよ

 それから、忍たまのSS書きたいなーという。でもネタがないんでリクエストあれば教えていただけるとありがたいです。時間はかかるかもしれませんが精一杯書かせていただきます。
 ※この物語に沿ったものでなくても、落乱および忍たまなら何でも良いです。よろしくお願いします。
 こちらに書き込んでいただいても、URLのフォレストページからでも大丈夫です。
 
 注意
 二次創作で、捏造、妄想がたくさん。
 原作から年齢操作しています。
 ギャク要素はないです、あまり、たぶん、シリアス
 漫画の設定を参考にしますが、アニメのほうから設定を取ってくる場合もあります。
 六年生愛してる、五年生も好き、四年生は勉強中、何より、用具委員会が大好きだ!
 でも、今は三ろ三人への愛が溢れてる、特に富松作兵衛
 紫は、日本中世史の勉強をはじめたばかりで、時代考証がお粗末です。勉強が進み次第直していきます。高校生に毛の生えた程度の知識しかないよ
 文章ボロボロ、構成めちゃくちゃ、誤字脱字の宝庫、とまあ、そんな感じです

 お客様
 蒔さん(フォレストページより)

 閑古鳥が鳴いている小説だよ、竹谷先輩のペットですね、きっと

 アドバイス、感想等、二十四時間募集中です、お気軽に!
 何よりの励みになります^^

 それでは、落第忍者乱太郎、二次創作「戦雲の月(仮)」のはじまりです。

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.14 )
日時: 2013/04/27 00:05
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

 幾分か、辺りが明るくなった。
 古木に背を預けて根を閉じていた青年は、ゆっくりと顔を上げる。
 夜が明け、日差しが身体に降り注ぐはずだったが、彼に降り注ぐのは冷たい秋雨のみであった。

「雨か、どこかで雨宿りしてから、動こうかな」

 青年は、伸びをしながら立ち上がった。隣に置いていた大きな木箱を、軽々と背負う。
 多少乱れた茶髪の一本結びに気を止めることはない。最後に笠を被ると、すっかり汚れた修験者のような白い着物を軽くはたき、足を進めようとした。
 すると、どこからか聞こえてきた。ほんの小さな、静かな雨音に紛れて、本来なら分からないような、かすかな音。
 だが、青年——善法寺伊作には、はっきりと聞こえていた。

「足音、誰か一人、ゆっくりと、違うな、ふらついてる、消音の心得はあるみたいだけど、重い……」

 伊作は、普段の人の良さがにじみ出た顔を、至極冷静なものにして一人つぶやいた。
 足音は、徐々にこちらへと近づいてくる。懐に手を突っ込み、体勢を低くして身構える伊作だったが、途中で何かに気付いたようだ。冷静な表情を崩し、大きく目を開く。

「もしかして、怪我してるのか! 大変だ、すぐ手当てしないと!」

 考えるや否や、伊作は走り出していた。大きな荷物を感じさせないその速さ。癖とも言うべきか、雨の降る中、足音はほぼ完全に消している。
 やはり近くに、足音の主はいた。雨の降る森を、大きな木の根に足を取られそうになりながら歩く、一人の商人らしき男。 

「大丈夫ですか?」

 大声で呼びかけながら、青年は走った。男が、静かに、声もなく顔を上げる。
 みすぼらしい商人姿の男の目に、伊作の姿は映っていなかったのだろう。雨の中、朦朧としているようだった。
 だが、男の顔を見た瞬間、伊作の表情は変わる。知っているのだ。この男を。

「文次郎か……?」

 五年も前。卒業して以来、接点はなかった。
 だが、その顔は、今でもよく覚えていた。
 元忍術学園六年は組にして、保健委員長まで勤め上げた青年、善法寺伊作は、目の前でふらつき、倒れていく旧友を、唖然としながら支えていた。


 現保健委員長の猪名寺乱太郎が、保健室にいたはずの重傷人、潮江文次郎の姿が消えたのに気付いたのは、その日の朝になってからであった。
 保健室は、敷いてあったはずの布団すらなかった。きれいに片付けられている。机の上には簡潔な礼と、弟のことを頼む手紙が置いてあるだけ。
 
「まだ動いて良い怪我じゃないのに……」

 乱太郎は拳を握りしめてつぶやくと、すぐに保健室を後にした。
 向かった先は忍たま長屋。朝の、日差しとも言えぬ鈍い日差しの中、校庭を走り、くすんだ緑色の忍び装束は、雨でびしょびしょにぬれていく。
 一年生の長屋につく頃には、頭からつま先まで、水と泥にまみれていた。


 <雑文>
 善法寺伊作。前から微妙に出してはいましたが、しっかり出るのは今回からでしょうか。
 彼はなかなか面白いキャラクターだと思います。というより、保健委員が、でしょうか。
 倫理学では規範倫理学という分野があります。正しいとは何か、どう行為すべきか、そういう話です。
 まだ読みかけですが、今日、本でちょろっと読んで、真っ先に保健委員会が頭に浮かびました
 なぜ敵なのに手当てするのか、と問われたら、彼らは保健委員だからと答えます。
 実は規範倫理学の考え方の一つで義務論というのがあって、純粋に義務を果たすのが正しいという考え方です。保健委員だからというのは、これに近いのかもしれません。
 誰かのために、という行為は、最終的には全部自分のためという考え方もあります。困っている誰かをほっておけない自分のために助けた、ということです。この考え方も、保健委員っぽいのかもしれないとも思います。
 彼らはなぜ人を助けるのか。ここをしっかり考えつつ、この小説につなげていきたいものです。
 そういうわけで、真面目に倫理学の勉強もしてみようかと。高校で取れば良かったなぁ

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.15 )
日時: 2013/04/29 01:12
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

「潮江先輩!」

 きっちりと閉まった長屋の戸を、力の限り、勢い良く開ける。叩き付けられた戸は外れんばかりだった。
 あまりの大きな音に、周りの部屋の一年生達はゾロゾロと各自の部屋から出てくる。まだ寝間着姿の上に寝ぐせ頭。猪名寺先輩、乱太郎先輩、不運委員長などと、気合いの抜けた迷惑そうな声で口々につぶやき、それぞれが眠そうな目をこすって最上級生を見つめていた。

「おはようございます、猪名寺“先輩”、どうかされたんですか?」

 一方で、朝、突然の訪問だというのに、若丸はきちんと着物を着て、髪もきれいに結っていた。布団もすでに片付けられ、これから先輩となる忍たまを、すっきりとした笑顔で迎える。
 乱太郎は、そんな後輩となる少年には目も向けず、眼鏡の奥で両目を前後左右へと素早く動かした。隅々まで、天井や机の下も。
 だが、どんなに見ても若丸以外いなかった。

「潮江先輩は? どこに行かれたか知らない?」
「兄上は昨晩、お仕事で学園を出ましたよ。あ、怪我ならおかげさまでもう大丈夫だと言ってました」

 礼儀正しさの中に、罪のない無邪気さ。
 若丸の言葉に、乱太郎は顔を青くした。大丈夫なはずがない。彼には、保健委員長の乱太郎には、よく分かっていた。
 外に目を向ける。この天気だ。雨が降り続いている。ただでさえ、満身創痍であった。もし外にいるのなら、確実に体力を奪っていくだろう。
 口を開きかける。取り返しがつかなくなると、そう思わず口から滑り出そうになった。
 しかし、それは後ろから誰かに背中を強く蹴られて、寸前のところで飲み込むはめになる。

「そっか、潮江先輩が良くなったなら嬉しいや、これから編入するんだってな、若丸、絶対俺たち会計委員に来いよ!」

 乱太郎を蹴ったのは、かの馬借の倅、現会計委員長の加藤団蔵であった。
 一点の曇りのない笑顔は、乱太郎の振りまいた暗い雰囲気を良い意味で壊し、若丸も、何も疑問を持つことなく、突然乱入してきた会計委員長に微笑みかけた。

「加藤先輩、若丸は絶対に会計委員会で兄上を目指して頑張りますから、よろしくお願いします!」
「おう、潮江先輩への路は長く険しいけどな、期待してるよ、潮江若丸」

 馬術で鍛えた筋肉質の大きな身体。それは、どこか兄の文次郎を彷彿とさせた。
 若丸ははち切れんばかりの笑顔で頷き、団蔵も団蔵で、そのきれいに整えてあった後輩の頭をくしゃくしゃに撫でた。
 そして、軽く手を挙げると、そのまま、ずぶぬれの保健委員長乱太郎を引きずって忍たま長屋を後にした。
 しばらく歩く。団蔵は降り続く雨の中、無言で同級生を馬小屋まで引っ張ってきた。無造作に結った一本結びからは、雨水が静かに滴っている。
 そして一頭、目つきの悪い馬を連れてくると、やっと口を開いた。

「よし、乱太郎。潮江先輩を探しに行くぞ。ひどい怪我なんだろ? まだそう遠くには行けていないはずだ」

 そんなことを言いながら、団蔵はひらりと愛馬に飛び乗った。さらに後ろを指差して、乗れと、無言で指示する。目つきの悪い馬も、催促するように高い声で嘶いた。
 雨音が、だんだんと強くなる。

「ごめん、団蔵、さっきは、うっかり若丸に心配かけるところだった」

 馬に乗ることなく、表情に影を落として頭を垂れる乱太郎。止まない雨が突き刺さる。いつもふわふわとしている乱太郎の茶髪は、べったりと背中に張り付いていた。
 
「そりゃ立場の違いだ。乱太郎は保健委員長で、怪我の深刻さを知っていた。俺は潮江先輩の後輩だから、先輩の気持ちを先に考える。ようはそれだけ、ほら、一刻も早く見つけたほうがいいんだろ?」

 加藤団蔵は、こういうさっぱりとした気風の良い男であった。泥にまみれても、その土を自分の身にし、雨にぬれながらも、さらに磨きがかかって雫ごと輝き出す。
 自責の念で動けなくなっていた保健委員長は、ハッとして顔を上げた。団蔵は清々しく笑っている。
 乱太郎は一度強く頷くと、同級生の後ろに飛び乗った。
 雨の中、泥を跳ね上げて走り去っていく目つきの悪い馬。
 駆け抜けて行くひずめの跡が、ぬかるんだ地面にくっきりと、先へ先へと続いていた。 




 <雑文>
 加藤団蔵の実家は馬借、というのは捏造ではありません。
 馬借というのは馬を使った運送業者で、落乱の舞台である畿内地方に多かったと言われています。有名なのは坂本や大津ですね。
 室町時代と言えば、一揆が多く起きたことが有名ですが、馬借が先方を務めていたと言います。
 確か高校のとき、情報が集まるから、機動力に富むからと教科書かなにかで読みましたが、最近読んだ本で、米屋が洛中に入って来る米の量を調整したからだという話を目にしました。米の流通を減らして利益を得るという具合です。すると、米の運送をする馬借は仕事が減るわけですから困ります。それで、一揆に参加して洛中になだれ込むという構図です。
 そういうわけで、この時代の馬借は、なかなか大変な生活をしていたのかもしれません。

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.16 )
日時: 2013/05/02 01:27
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

 ——なぜ、この戦いは終わらない?

 青年は、暗闇の中で、誰に対してでもなく問うた。
 森の木の上に立ち、眼下に広がった燃え上がる広大な屋敷、その赤色を茶色の瞳に映す。
 離れたこの場所までも届く、断末魔の叫び。生温い風が青年のほうに吹いてきて、焼けこげた臭いを運んできた。

 ——誰が将軍になるかが、そんなに大切なのか?

 火の手はますます強くなる。
 その屋敷は、さる公家の保有するものだった。前日までは雅な生活を楽しみ、当たり前の幸せがあった場所。
 火の手が四方を囲み、中の住人達を炎の中に閉じ込めるまで、あっという間、逃げる時間などなかったと言っても良い。
 何せ、一流の忍びとしての教育を受けた忍者が、自ら作戦を遂行したのだから。

 ——なら、将軍を。

 暗闇の中、ふいに白い光がぼんやりと辺りを照らした。
 燃え上がる屋敷も、立ちこめる臭いも、全てぼやけ、幻のように遠のいていく。
 青年——善法寺伊作は、洞穴の土の上で、差し込む鈍い光に目を細めながら、静かに目を開いた。

「寝てたのか……」

 伊作は、茶髪を結び直しながら、ぼんやりとする目を、洞穴の外に向けた。雨の中、かすかな太陽の差し込む位置を見るに、大して時間は経っていないらしい。つい、うたた寝をしてしまった程度だろう。
 ちらりと、洞穴の奥に目を向ける。 
 そこには、一人の青年の姿。着物の上に寝かされている彼は、かのフキノトウ城忍組頭、潮江文次郎である。
 無茶をして忍術学園を抜け、夜通し傷ついた身体で歩み続けた。既に体力の限界だったのだろう。そして早朝、旧友の善法寺伊作に保護されたというわけだ。

「文次郎に会えるなり、あの時の夢を見るなんてなぁ」

 顔を抑え、ため息をつく青年。指の合間から微かに見える表情は痛々しく、どんどん崩れ落ちていく。
 彼は、学園時代から不運の代名詞とも言うべき人物であったが、今回ばかりは、不運という言葉で片付けるわけにはいかなかった。
 “あの時”が夢に出たのは、不運ではなく、当然の結果、という語がまさに適切なのだ。
 雨音だけが、止むことなく青年の耳を突き刺す。洞窟の中にも雨は振り込み、伊作の身体を冷やしていった。
 雨音の中に、何か違う音があるのに気付いたのは、それからすぐのことであった。
 馬の嘶く声に、地面を蹴っていく蹄の音。誰かが、近づいてきているようだ。
 しかも、速さや地面のぬかるんだ状況を鑑みるに、なかなかの腕前である。
 さらに、誰かの声まで聞こえてきた。

「潮江先輩、どこですか!? 出て行くんならせめて怪我が治ってからにしてください!」

 どこかで聞いたことのある声だと、伊作は思った。声の音、というより、その言葉の持つ雰囲気が、というほうが正しい。
 思い出すのは五年前。忍術学園で保健委員長をしていた、あの頃。フワフワとした茶髪の少年の笑顔が、雨に冷えきった心を暖かく照らす。
 善法寺伊作は、静かに微笑みを浮かべ、洞穴を出た。

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.17 )
日時: 2013/05/08 00:23
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

「乱太郎!」

 ありったけの声で、ありったけの思いを込めて、後輩の名を呼んだ。
 こちらに気付いたのだろう。木々の合間を抜けて、馬が疾走してくる音が聞こえる。
 雨の中で、洞穴の前に立つ伊作はずぶ濡れ。中秋の朝雨の中で、どんどん体も冷えていくはずだが、それが気にならないほどに、暖かく満ち足りた笑顔を浮かべていた。
 全速力で走ってきた馬が、伊作の前で急に止まった。その圧力たるや、思わず、青年は目をつむる。目つきの悪いその馬は、雨に濡れたたてがみをブルブルと振ると、白い修験者服の伊作に荒く鼻息をかけた。

「あなたは……」

 馬を操っていた深緑色の忍び装束を着た少年が、またがったまま伊作に目を向けた。無造作な一本結びに、馬を操るのに足るがっしりとした身体。
 開きかかった口は、なおも言葉を紡ごうとする。だが、それは後ろから飛び降りた少年にかき消されてしまった。

「伊作先輩! 善法寺伊作先輩ですね! お久しぶりです、私は猪名寺乱太郎です」

 乱太郎はそう言って、直角に腰を曲げて礼をした。雨ですっかり勢いのなくなった茶髪も、その例で大きく飛び跳ねる。
 目の前にいる白い修験者の格好をした青年。彼は、元忍術学園六年は組にして、さらに保健委員長まで勤めていた男である。つまり、現保健委員長の乱太郎にとって、尊敬すべき先人という位置にいるのだ。

「うん、やっぱり乱太郎だよね、声だけでも、そんな気がしたんだ。そっちは、団蔵かな、相変わらず馬術、良い腕してるね」 

 微笑みながら言う伊作は、見る人すべての心を洗うようだった。
 優しい瞳はすべてを許し、穏やかな声色はすべてを包み込む。
 雨の中かけずり回り、心身ともにへとへとになっていた乱太郎と団蔵の目に、ほっとしたような、穏やかな色が戻った。
 
「伊作先輩、私たち実は……」

 かくかくしかじかと、乱太郎は自分たちが潮江文次郎を探していることを、素直に伝えた。
 もう少し、この親しかった先輩とは他愛のない話をしていたいが、それを時間が許さないのはよくわかっているのだ。
 伊作は、静かにうなずく。洞穴にちらりと目を向けて、腕組みをすると、再び乱太郎と団蔵に目を向けた。今度は優しい微笑みではなく、真剣そのものといった表情だった。

「文次郎は、僕が今朝保護して治療済みだ。君たちが今の文次郎についてどこまで知っているかは知らない。だけど、文次郎は忍術学園を離れて、やらないといけないことがある。だから、無理をして学園を出たんだ」

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.18 )
日時: 2013/05/08 00:01
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

「潮江先輩の、やらないといけないこと……?」

 団蔵は、馬からゆっくりと降りつつ、怪訝な顔つきで繰り返した。乱太郎にとって伊作がそうであるように、団蔵にとって、潮江文次郎は追いかけ続けた先輩なのだ。やはり、気になって仕方がない。
 
「そう。その事情が何かは教えてあげられないけど」

 雨音が、森の中で四方、六方、八方、様々な音を立てる。
 腕組みをして、まるで洞穴への道を遮るように、そこに立つ伊作。その先にいる友人へ、たとえ親しかった後輩であろうとも、決して近づかせようとはしない。これが、同じ学年か否かの差というものか。
 乱太郎はうつむき気味に、それでも心配そうな瞳を眼鏡の奥からのぞかせて、洞穴を見つめた。おそらく、この中に潮江先輩はいる。まだ怪我の治っていない先輩が。
 そんな後輩の様子に気付いたのだろう。伊作は再び優しい微笑みを浮かべた。

「心配しなくても乱太郎、文次郎には僕が同行するよ。ちょっとは役に立てるはずだ」
「伊作先輩が? でも、先輩には先輩の用事も……」

 どこまでもお人好しな先輩だと、後輩二人は揃って思った。相変わらず、人を助けるためなら自分を犠牲にしてしまうような、そんな人だと。
 雨が降り続く。顔についた無数の雨粒は、表情すらも変えて見せる。
 微笑んでいるはずの伊作は、雨粒に顔を濡らしながら口を開いた。

「ちょっとだけ、教えておこうか。文次郎は今、大変な状況下にいる。そして、その責任の一端は、間違いなく僕にある。さらに、目的は違うけど、僕も同じ方向に用事がある。なら、僕が文次郎に同行して、旅を続けても問題はないだろう?」
「伊作先輩……」

 秋雨は、どこまでも体の熱を奪っていく。
 すっかり濡れて、水の滴る忍び装束。その深緑色は黒に近づき、そんな中で、伊作の白い修験者服だけは、どんなに濡れても色が変わることはなかった。
 まるで、時が止まったかのように、真っ白いままなのだ。
 
「もう、忍術学園に戻りな、二人とも。文次郎のことは大丈夫だから。それと、ちゃんと帰ったら熱い湯船につかって体暖めるんだよ、今は風邪を引きやすい時期だからね」

 そう言って微笑む雰囲気は、五年前、保健委員長を務めていた頃と、全く同じだった。
 雨の中でも変わることのない、その暖かさ。
 伊作は、すっかり自分と同じくらいの身長になった後輩たちの頭を、それぞれくしゃくしゃに撫でると、くるりと背を向けて洞穴の中へと戻っていった。
 後を追おうと思えば、二人とも追えたはずであった。だが、洞穴との間に、明らかに見えない何かがある。入り込んではいけない何かが。
 
 伊作は、洞穴の中でずぶ濡れの服を脱ぎながら、外に耳を傾けた。
 馬が、泥を跳ね上げて走り去っていく音が聞こえる。はっきりと、そして遠くのほう、忍術学園へ。
 白い修験者服を脱ぎ終わる頃には、馬の音も、もう既にしなくなっていた。



 <雑文>
 今日は、コナモンの日です、雑渡さんの日ですね。もしかしたら、投稿する頃には日付が変わっているかもしれませんが。
 雑渡さんは自称忍たまの味方ですけれど、卒業後も味方なのかなーと考えると、感慨深いものがあります。
 でも、相変わらず保健委員会関係には甘いと良いなーという妄想、この物語に出てくるかは未定だけれども、でも尊奈門への愛で出すかも……
 次回:いけどん!
 これからもお付き合いいただければ幸いです^^


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