二次創作小説(紙ほか)

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【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】
日時: 2013/07/28 09:36
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: NgR/a8mA)
プロフ: http://id16.fm-p.jp/517/tyabana/

 忍たまSS(短い物語)リクエスト(という名のネタ)募集中
 詳しく(?)は下参照

 こちらの板でははじめまして、紫と申すものです。
 ゆかり、でなく、むらさきなのです。

 普段はシリダクや複ファジに生息しているのですが、二次創作をいつかやってみたいと思っていたのと、こみ上げる落乱への愛をどこかで発散するために、やってしまった感たっぷりです。でも後悔はしてない
 だいたい、愛故に春休み高知行くついでに尼崎(兵庫県)へ寄り道して聖地巡礼しとったし、夜行バス二日連続も愛さえあれば平気
 この漫画、ギャク漫画ですけれど、よく考えるとすごく切なくなります。時代背景とかね、でも、そう言う時代でも庶民はたくましく生きていて、きっと彼らもそうなのかなと、いろいろ妄想が膨らみました。

 忍たま好きへ、というより、そうでない人でも、一つの物語として楽しめるように書いていきたいなー、というのが目標。知らなくても大丈夫って胸を張って言える文章が書きたい今日のこの頃。

 リアルがワタワタしています、でも、8月はほとんど短期留学に行くのでいないという、今のうちに夏休みのレポート片付けないと 

 URLは茶華名義の創作置き場。そのうちこっちのハンネも茶華にするかも
 作りかけで、完成までの道のりは長いけれど、忍たまゲームブック(選択肢によって進み方が変わる小説)計画進めています、たぶん乙女ゲーム風味になる予感
 文章は全く気にしてないよ

 それから、忍たまのSS書きたいなーという。でもネタがないんでリクエストあれば教えていただけるとありがたいです。時間はかかるかもしれませんが精一杯書かせていただきます。
 ※この物語に沿ったものでなくても、落乱および忍たまなら何でも良いです。よろしくお願いします。
 こちらに書き込んでいただいても、URLのフォレストページからでも大丈夫です。
 
 注意
 二次創作で、捏造、妄想がたくさん。
 原作から年齢操作しています。
 ギャク要素はないです、あまり、たぶん、シリアス
 漫画の設定を参考にしますが、アニメのほうから設定を取ってくる場合もあります。
 六年生愛してる、五年生も好き、四年生は勉強中、何より、用具委員会が大好きだ!
 でも、今は三ろ三人への愛が溢れてる、特に富松作兵衛
 紫は、日本中世史の勉強をはじめたばかりで、時代考証がお粗末です。勉強が進み次第直していきます。高校生に毛の生えた程度の知識しかないよ
 文章ボロボロ、構成めちゃくちゃ、誤字脱字の宝庫、とまあ、そんな感じです

 お客様
 蒔さん(フォレストページより)

 閑古鳥が鳴いている小説だよ、竹谷先輩のペットですね、きっと

 アドバイス、感想等、二十四時間募集中です、お気軽に!
 何よりの励みになります^^

 それでは、落第忍者乱太郎、二次創作「戦雲の月(仮)」のはじまりです。

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.4 )
日時: 2013/04/09 00:56
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

 潮江文次郎が重いまぶたを開けたそこは、薬草を煎じた異臭が染み付いている、見慣れた場所であった。
 よく知っている天井に、何度も世話になった薬棚、そして身体が覚えている保健室の布団。

「兄上!」

 首だけを動かして周囲を確認していると、不意に高い少年の声が降ってきた。知っている。鼻の奥がツンと痛む。何よりも、ずっと聞きたかったその元気そうな声。

「若!」

 文次郎は、すぐに大きな声を上げて、布団から起き上がろうとした。
 だが、できない。途端に、脇腹に激痛が走った。低いうなり声をあげて、思わず大きく目を開く彼の視界に、まだ幼い少年の顔が入る。心配そうに見つめる、そのいたいけな瞳。
 文次郎は痛みをこらえ、片手を伸ばしてその丸い頬をなでた。

「若、無事忍術学園に来れたんだな、偉い」
「頑張ったもん、若丸。兄上も、ほら、ここ、いつも言ってた忍術学園だよ、もう大丈夫なんでしょ、ここに来れば」

 泣き出しそうな“弟”の頭を、優しくなでる“兄”の大きな、包帯を巻かれた手。
 いつのまにか、痛みも忘れてしまう程、幸せだった。
 そんな時、保健室の戸がそっと開いた。障子越しで弱かった朝日が、これでもかという程、文次郎の疲れた目の中に入ってくる。
 その先。戸を開けたのは、くすんだ緑色の忍び装束を纏った、眼鏡の人の良さそうな少年であった。

「……乱太郎、か。久しいな」
「やっぱり、潮江先輩なんですね」

 泣き出しそうな顔で、自分の記憶よりずっと大きく大人びた少年は、静かに微笑んだ。優しげな声が、頭の中を駆けていく。後輩の雰囲気、誰かに似ていると思った。
 保健室の敷居をまたごうとする乱太郎。だが、突然後ろから思いっきり突き飛ばされたらしい。「わ!」と悲鳴を上げると、体勢を崩し、さらに戸の角に足の小指をぶつけ、患部を押さえながらうずくまってしまった。

「伊作に似てきたな、不運なところから何から何まで」

 入り口で横たわる哀れな後輩を見る目は、哀れみというより、諦めを込めていた。その様子を、忍術学園で同期だった友人と重ねる。彼も、転んだり穴に落ちたりする程度の不運は日常茶飯事であった。

「潮江先輩!」

 久しく会っていない友人へ思いを馳せる文次郎は、乱太郎ではない威勢の良い声に、やっと戸の方へと目を向けた。
 そこには、朝日を背に纏い、目元には濃い隈ができている少年。走ってきたのだろう、息が上がっている。乱太郎を突き飛ばした張本人。そして満身創痍の文次郎を忍術学園まで馬で運んだ馬借の倅。

「お前、まさか、団蔵、か? 会計委員会で一緒だった」
「じおえぜんぱい、ぶじで……」

 団蔵は、その立派な体型に似合わず、ボロボロとその場で泣き出してしまった。次に続く言葉が喉から出てこないようだ。足の小指を押さえる乱太郎は、そんな同級生を見て、小言を言うことはなく、優しく微笑んでいた。

「大きくなったな、二人とも。五年も経つか、俺が卒業して、一年だったお前らは、もう六年生になったんだな、というと、もう十五か」

 優しい声だった。
 おそらく、布団から動けたのであれば、傍に駆け寄りたかっただろう。文次郎はその代わりに、“弟”を撫でたのと同じ手で、横になりながら二人を手招きした。
 駆け寄る二人の後ろ姿こそ十五の少年であったが、その輝く表情と軽い足取りは、まるで十の子供のようであった。忍術学園で言うところの一年生。
 文次郎は、そんな二つの姿を重ね合わせて、目を細めていた。

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.5 )
日時: 2013/04/26 05:53
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

「久方ぶりの再会をしているところ悪いんだが」

 中秋の、冷たい朝風が入ってくる。開けっ放しになっていた戸の前には、黒い忍び装束の男が、いつの間にか立っていた。まだ三十路くらいだろう。ボサボサ髪を一本でまとめ、背丈は高く、人の良さと整った顔との二つを絶妙に調和させ、爽やかに微笑んでいる。

「土井先生!」

 声を聞くなり、乱太郎と団蔵はすぐに戸口へと顔を向ける。黒服の男はそんな二人に静かに目配せをして、文次郎の横に座った。土井半助。忍術学園六年は組、つまり乱太郎や団蔵の教科担当の若手教師である。文次郎が忍者のたまご、忍たまだった時代から、この学園で教師をしている男だ。

「文次郎、もう少し寝かせてやりたいが、学園長先生が話をしたいらしい。もう話せるようなら呼んできても構わないか?」
「はい、土井先生。それと……」

 文次郎はまだ隈のついた目を動かし、土井先生とは逆側できちんと正座をしている“弟”に目を向けた。相当疲れていたようで、兄が目を覚ましてほっとしたのか、気が抜けてウトウトとしている。

「若、バカタレ、眠いならちゃんとしたところで寝ろ。おい、団蔵、乱太郎、こいつを忍たま長屋で寝かせてやってくれ」

 すっかり船をこいでいた頭に響いてくる兄の厳しい口調。男の子はすぐに目をぱっちりと開けて、自分をまっすぐに見つめる疲れきった兄の目を見た。

「ずっと先輩を心配して起きてたのに、そんな風に言わなくても」

 乱太郎はちらりと文次郎とその弟に目を向けながら、口を尖らせてつぶやいた。
 一晩中、保健委員長として看病を続けていた乱太郎は知っている。若と呼ばれたこの男の子は、夕暮れに忍術学園に転がり込んでから、今に至るまで一睡もせずにいるのだ。
 
「いいから行け!」

 寝たままでも、その迫力は流石元地獄の会計委員長。毎回大乱闘と化す予算会議も物ともせず戦ってきた彼に、“不運委員会”保健委員長の乱太郎が敵うはずもなく、睨み返そうとするも怖じ気づき、目を伏せて立ち上がった。
 一方、現“地獄の会計委員会”委員長の団蔵は、文次郎の意をある程度汲めたらしい。一度元委員長と目を合わせると、真面目な様子で静かに頷いた。そして、次の瞬間には持ち前のおおらかな笑顔で、文次郎の“弟”を軽々と肩車した。

「さあて、忍たま長屋まで直行便な。御者は乱太郎で良いや。加藤村馬借自慢の高速かつ快適な旅、いざ!」

 ご丁寧に、馬の鳴き声の真似までして走り去っていく団蔵。その無造作に結った髪と相成って、その姿はまるで馬。御者という名目で巻き込まれた乱太郎は、くすんだ緑色の装束の襟を掴まれて引きずられていく。いくら暴れようとも、力は団蔵のほうが強いようだ。
 乱太郎の悲鳴、そして、何よりも“弟”の楽しそうな笑い声が響く。戸から入ってくる朝日の中で、土井先生は苦笑いを浮かべ、文次郎は満足そうに微笑んだ。
 すると、突如として、部屋に白い鞠のようなものが投げ込まれた。僅かに煙を発している。食満留三郎がしんべえから逃げるときに使ったのと同じ、鳥の子だ。
 害がないのは分かっている。しかし、教師としての矜持から、怪我している文次郎を庇うように、土井先生はその前に立ちふさがる。
 その途端に鳥の子は爆発し、保健室に煙が充満した。

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.6 )
日時: 2013/04/24 23:16
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

「人払いか、文次郎。どうじゃ? 後輩達は良い忍たまに育ったじゃろう」
「学園長先生、相変わらずですね、その登場の仕方」

 爆発した鳥の子。その煙の中から、一人のおかっぱ白髪頭の老人が現れた。
 名を、大川平次太秦。文次郎は引きつった笑顔を浮かべた。今ではこのような、少々迷惑なところのある老人だが、かつては優秀な忍びとしてその世界に名を轟かせた人物である。
 学園長は、一度大きく咳払いすると、いつもは長い眉毛に隠れている目を、フッと上げて、独特の光を纏わせた。

「……文次郎、フキノトウ城とゼンマイ城との戦の話は聞いておった。お前さんの連れていた男の子、彼は」
「さすが、学園長先生。全て、話さなければなりませんね、今後のためにも」

 二人の間で進んでいく会話。横で黙って聞いている土井先生は、真剣な表情で「私は退席したほうが良いか? 文次郎」と、聞いた。口を開きかける昔の教え子。だが、土井先生は答えを聞く前に立ち上がろうとする。何となく、入り込むべきではないと思ったのだろう。
 だが、それはほかでもない文次郎によって止められた。

「土井先生も聞いてください。聞いて、若を、どうか、正しく導いてください」
「文次郎……?」

 必死な形相だった。疲れきって濃い隈のついた目が、強く語りかけてくる。ただ事ではないと、土井半助は直感した。何より、卒業したとはいえ、教え子が助けを求めている。それが、逃げ腰になる彼を突き動かした。
 一度頷くと、土井先生は静かに腰を下ろす。文次郎は満足そうに息を吐いた。

「先生方もご存知の通り、俺は卒業後、フキノトウ城に就職しました。城主の雪下幸左衛門様は人望もあり、領民からも慕われる方で、殿の元で俺は忍組頭を務めて。殿と、可愛らしい姫君、そして若様、充実した日々でした——」

 ——朝日差す、山の中腹にある一軒の古びた寺。周りは崩れ掛った土塀で固められ、中の様子は、補修されずに空いた壁の穴からのみ、窺い知ることができる。
 そんな廃寺へと、枯れ葉を踏んで、歩みを進める男がいた。
 頭からつま先まで、黒ずくめの忍び装束。木漏れ日の中、その表情は影を落とし、装束も乱れているが、気にも留めていないようだった。

「お帰りなさい、食満先輩」

 廃寺の土塀。その上から降ってきた声に、男、食満留三郎はハッとして顔を上げた。
 目を向けた先。崩れ掛った土塀の上には、彼と同じような装束の男が座っていた。前髪は無造作にはねながらもきれいに真ん中で分かれていて、その下からは心底ほっとしたような、優しい目が留三郎を見つめていた。

「先輩ではない、頭と呼べ、作兵衛」

 留三郎は、眉をしかめて部下をたしなめた。作兵衛と呼ばれた青年は、土塀からひらりと木の葉の敷かれた地面へと降り立つ。土塀の修復でもしていたのだろうか、その手には漆喰がついていた。

「いや、こんなひどい土塀を見ていたら、元忍術学園“修復担当用具委員”としてほっとけなくて、ほら、俺先ぱ……頭の卒業後、委員長してましたし」

 どこか遠い目をしながら、作兵衛は前髪を指先でくるりといじった。漆喰が、その茶髪につく。彼は忍術学園の卒業生で、食満留三郎と同じ用具委員を務めていたのだ。
 用具委員の仕事である漆喰を見ていると、どうしても昔が思い出されるらしい。ついでに、ぽつりと「しんべえたちがいれば、もっとはかどるんですけどね」と、後輩達をまぶたの裏に描き出し、懐かしそうに微笑みながらつぶやいた。

「……しんべえと、会った」

 留三郎は、作兵衛の顔を見ることなく、その横を通り過ぎながら言った。一瞬だけ、部下の顔が青くなり、影を落とす。
 だが、ほんの息をつく間であった。
 作兵衛は通り過ぎる先輩の横に立ち、無理矢理笑顔を貼付けた。

「先輩は、相変わらず優しいんだから」

 “先輩”と、その呼び方を再び使った部下を、留三郎が咎めることはなかった。
 山を、早秋の冷たい風が流れていく。木漏れ日の中、影を落とす森を通り、そして、廃寺の中へと消えていった。


 <雑文>
 ここまでが、一章の時は流れる、の段ということになりそうです。実は我ながらびっくりする程無計画に進めているんですよね……
 この段には“鳥の子”という忍具が出てきました。直径5から6センチ、重さは20から25グラムと言われています。この小説ではもう少し大きめかもしれません。というのも、原作でそれなりの大きさがあった気がするので。周りが白いのは紙でできているからで、中に火薬をつめてあります。それで火をつけて爆発させ、煙を出して、その隙に逃げるというわけですね。でも、危なくないかと思ってしまうのは現代人だからでしょうか?
 それでは、これからもお付き合いいただければ幸いです。

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.7 )
日時: 2013/04/14 23:50
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

 二章 

 ——フキノトウ城は、ご存知の通り、真ん中を大きな川の流れる、豊かな稲作地帯の中心にあります。

 俺は、この城下町、潮江酒屋の長男として生まれました。
 学園長先生も、その辺りの話はご存知でしょう? 
 俺の家にはよく、城から買い付け注文が来ていて、その関係で領主の雪下幸左衛門様には幼い頃から可愛がっていただいていました。
 え? 土井先生、酒屋がなぜそんなに領主と親しいかって? ああ、そうですね、先生にはお話ししていませんでした。祖父が、帳簿係をしていたんです。それと、学のあった父が若様や姫様の教育係も。
 酒屋をしながら銭貸しもしていましたから、経済的に潤っていたんです。
 でも、俺が忍術学園六年生で就活ついでに忍び込んだときは、たいそう驚かれていましたね。お前、忍びになったのか! 我が城の帳簿はどうするつもりだ! と。
 ……ええ、土井先生。苦笑いはごもっとも。幸左衛門様は、そういうお方です。忍びになった、ということより、会計係がいなくなるのを危惧されたんです。おかげで、俺は帳簿係を表の顔として、就職し、その裏では忍組頭を任され、動いていました。
 平和な日々でした。今年十六歳になられた姫様も、十歳の若様も、昔一緒に遊んだことを覚えていらっしゃるようで、俺を、それこそ実の兄のように慕ってくださいました。

 そこまでを言うと、潮江文次郎は、ほうと息を吐き、寝たままの姿勢で、どこか遠い目をした。見つめるのは天井。その何も面白みのない板の上に、文次郎は満ち足りた日々を一つ一つ描き出していた。
 不意に、腕組みをして聞いていた学園長が、咳払いをして頷いた。

「じゃが、長くは続かなかった。そうじゃな、文次郎」

 そうです、学園長先生。そんな日々は長くは続きません。かねてより、西に位置するゼンマイ城。ここに我が城は狙われていました。
 折しも、京の将軍様の後継者争いが勃発。その余波を受けた形です。我が殿と懇意にしていた候補者が敗れ、それに乗じて、ゼンマイ城の渦々善前が、同盟軍とともに攻め込んできました。
 応戦虚しく、城は、我が殿、雪下幸左衛門様とともに、業火の中に消えました。そして姫様も、落城前にお逃がししたはずが、ゼンマイ城の手に落ちたと聞いています。
 ……先生方は、ご存知ですよね。この辺りの話は。

 文次郎の言葉に、二人は静かに頷く。忍術学園は、全国に卒業生が散らばっている関係で、情報の宝庫でもあるのだ。
 自分の城の悲劇を、あくまで淡々と話した昔の教え子。土井先生は思わず表情を暗くし、心配そうに文次郎をちらりと見る。濃い隈が、いっそう痛々しかった。
 それに気付いているか、気付いていないか。文次郎は、再び口を開いた。

 俺がお伝えしたいのは、ここではありません。幸左衛門様のことも、姫様のことも、これはフキノトウ城忍組頭の俺の問題。忍術学園を巻き込むつもりはありません。
 ただ、一つだけ。
 若様は、当初、幸左衛門様とともに果てる手はずになっていました。俺が、幸左衛門様のご自害を見届けた後、若様が苦しまれることなく、殺すことになっていたんです。
 ですが、できませんでした。
 お父上が、目の前で自ら命を絶ち、ご自身も死ぬ覚悟を固めていらっしゃった。そういう風に、教えられてきたのですから、仕方ありません。
 若様は俺にいうんです。「もんじは生きて、姉上を守って」と。まっすぐに、言うんです。
 忍術学園で言うと、一年生ですよ。できませんでした。その目を見れば見るほど、俺が六年生だったときの一年生の顔が浮かんだ。い組の佐吉、は組の団蔵、あの頃のあいつらと、同じで、重なるんですよ。目が、鼻が、頬が、髪が、手が、足が、目まで……

「文次郎、もういい、もういいから、分かったから」

 土井先生は、とうとう黙っていられずに口を挟んだ。
 辛かったのだ。
 文次郎は、途中から震えた声で、そして、最後には包帯を巻いた片手で顔を覆いながら、それでも言葉を続けていた。在学中は、地獄の会計委員長と恐れられた、心身ともに強い生徒であった。その彼が、ここまで追いつめられている。その事実が、まだ若い土井半助には厳しすぎたのだ。
 文次郎は、顔を片手で覆ったまま、一度、息を大きく吐いた。手を離す。充血こそしていたが、目からは雫一つこぼれることはなかった。

 若様を無理矢理つれて、俺は燃え落ちる城を脱出しました。物陰に隠れて、仲の良かった侍が殺されるところ、家老が自害するところ、若様の目と口を塞ぎながら。
 焼ける城下町を逃げ延び、領地を流れる川に着いた頃、若様は、ご自身が何者か、すっかり覚えていらっしゃいませんでした。
 俺を、兄だと思っているようです。逃亡中も、兄上、兄上と、慕ってきました。本当のことは、言えません。記憶が戻らない限り、俺も言わないでいようと思っています。そっちのほうが、若様にとって幸せでしょう?
 俺がこの学園に頼みたいのは、若様をここで学ばせてやってほしいということです。俺と旅をするのは、危険すぎますから。金はあります。どうか、どうか、若様を、一人前の人間に育ててやってください。
 潮江文次郎の愛する弟、潮江若丸として……



 <雑文>
 一人称と三人称、どちらかに統一して書くのが基本ですが、こういう書き方はありなのではなかろうかと、実験的な文章。私の知る限りだと、浅田次郎作品はこういう書き方も多い気がする。まあ、もちろん上手い人がやると効果的で、私なんかがやってもしょうがないだろという突っ込みも重々承知ですが。
 と言いつつ、しっくりこないんで、ここだけ変えると思います、時間ができれば(いつだろう
 ちなみに、文次郎の実家を酒屋としたのは完全に妄想設定です。
 酒屋、土倉、寺、これらはこの時代、高利貸しの代名詞とも言うべき職種でした。ようするに経済力があるんですね。また、座で商いを有力者に保護してもらうという時代ですから、おそらく潮江酒屋も雪下家に特権をもらっていたのでしょう。そのかわりに、莫大な銭が雪下家へと渡されていたはずです。
 この時代は、武士と農民、商人等がはっきりと分かれていない時代です。有力な地頭や国人などと懇意になり、そこから重要な役を任されることも、あったとおもいます。戦国時代ではそんな話がよくありますね。
 という、ちょっとした歴史のお話。もう少しマニアックな内容の話をしても大丈夫だったかな、ドン引きされないかな……小説とはあんまり関係ないので聞き流して大丈夫です

Re: 【落第忍者】戦雲の月、その影を【乱太郎】 ( No.8 )
日時: 2013/04/14 23:47
名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: bIwZIXjR)

 山の中に、時代の流れから忘れられたかのように、ひっそりと佇む廃寺。
 崩れかかった土塀から、そっと中をのぞいた。小さく、見えた。誰かが、握り飯を食べている。口の周りはご飯粒だらけ。おいしそうに、その目からは涙までこぼれていた。
 廃寺の中。そこには、二十人程のボロボロの衣服を纏った汚く汚れた男達。それぞれが、これ以上の幸せはないといったように、握り飯を口いっぱいに頬張っていた。

「頭ァ、うめえな、飯って、うめえな、うめえ……」

 浅黒い肌の、まだ三十路前であろう若い男が口いっぱいにご飯を詰め込みつつ、止めどなく涙を流してつぶやいた。口を開いても、そこから米の一粒も落ちることはない。握り飯を掴むその手はやせ細っており、さらに頬もこけていた。

「食えよ、もっと、腹一杯、もう良いってまで、食うんだぞ、たくさんあるから」

 頭、と呼ばれたのは、やせ細った男よりさらに若い男だった。
 優男風の、整った顔立ちに優しい笑みを浮かべ、彼自身も一つ握り飯を頬張っている。黒い忍び装束は一晩中駆けてきたため土と汗にまみれ、また肩部分は破れて穴が空いていた。
 頭。誰であろうそれは、ゼンマイ城忍組頭、食満留三郎であった。
 
「おら、こんなうめえもん食べたのはじめてだ」
「おいらも」
「うめえ」

 廃寺の、あちらこちらから、感極まった声が聞こえてくる。それぞれが、ふんだんに用意された飯を、次から次へと腹の中へと放り込んでいく。中には手ぬぐいで包んでもって帰ろうとする者もいて、仲間に「それは腐るからやめろ」と止められていた。
 その様子を横目で見ながら、留三郎は静かに微笑む。そして、自分は一つしか食べないで、抜け落ちそうな床を音もなく歩き、静かに廃寺の外、その朽ちた庭の真ん中に立って、鉛色の空を見上げた。
 
「食満先輩」

 またもや、土塀の上から声が聞こえた。やはり、先ほどと同じ、茶髪の髪をしている若者、富松作兵衛だ。
 その手には土塀修復用の漆喰に刷毛。留三郎がやってきたのを確認すると、高い土塀の上から、両手が塞がっているにも関わらず、猫のように軽やかな動きで飛び降りた。

「何度言ったら分かる、もう忍術学園時代じゃないんだ、頭と呼べ、作兵衛」

 留三郎は、ぐずついた空から目を離し、やや厳しい視線を部下へと向けた。
 それに、作兵衛が臆することはない。右手に刷毛、左手に漆喰の入った桶を持ち、真剣なまなざしで、かつての先輩を射続ける。
 一迅の風が、土ぼこりとともに二人の間を流れた。

「……大丈夫ですか?」
「誰が敵であろうと、あいつら、食べ物に苦労してきたあいつらを、腹一杯にしてやるためには、俺は何でもするさ」

 風が止み、舞い上がった乾いた土は、朽ちた庭で煙のように広がった。
 短い作兵衛の問の意味を、留三郎は正確に把握していた。自分をまっすぐ見て来る部下の視線に、こちらはそれ以上の誠実さと覚悟を込めて、言葉とともに返す。
 色のない廃寺。冷たい風が吹き、朽ちた庭の、何もついていない枝を揺らす。カラカラと、乾いた枝の音が響いた。


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