二次創作小説(紙ほか)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 狐のお嫁は笑うのか?【妖怪松】
- 日時: 2017/07/22 23:19
- 名前: 真珠を売る星 ◆xlDLNzYf9o (ID: 9E/MipmP)
はじめまして、真珠を売る星と申します。
小説初挑戦となります、よろしくお願いします!
注意!
・おそ松さん落ち夢小説です。
・人間の六つ子は出てきません(妖怪松が出てきます)。
・主人公があの末っ子よりドライです。
・舞台が名も無き東北のど田舎です。
・ほとんどオリキャラです。
・最終的に恋愛小説ではなくなってしまう恐れがあります(作者の好みの問題)。
・キャラ崩壊の可能性大いにあり!「いや、こいつはこんなんじゃねえよ!」と思った方はご指摘していただけると作者が泣いて喜びながら修正します。
・長男、四男多めです。
・後半に行くにつれ、主人公が変態と化していく恐れがあります。
・作者がものすごくメンタルが弱いため、途中で止めてしまうかもしれません。
古いパソコンを使っているため、唐突に消えたり、いきなり話が飛んだりするかもしれませんが、そんなときは生温かく見守っていてください。
コメントを頂けるととても嬉しいです。
亀更新になってしまうと思いますが、よろしくお願いします。
- きゅう ( No.23 )
- 日時: 2017/08/11 00:44
- 名前: 真珠を売る星 (ID: 9E/MipmP)
ボフォフォフォッ、と不気味な音を立てておじいちゃんの軽トラがよろめきながら猛スピードで道を突き進む。薄汚れた軽トラにはもみじマークもクローバーマークも付いてないていない(おじいちゃんはとっくに80歳を超えている)。
不安にかられてトウモロコシもろくに食べられずに、おじいちゃんの手元を見ている私に気付いているのかいないのか。おじいちゃんは私に「とうもろこしくせえぞ!とっととけえ!!」と、エンジンに負けぬ音量ではちきれんばかりに怒鳴ってくる。一瞬起こったのかと不安に思ったが(だとしたらものすごい理不尽である。なぜって、トウモロコシの匂いを私以上に漂わせているのはおじいちゃんの汗なのだから。ちなみにおじいちゃんは思いっきり糖尿病である)、おじいちゃんの表情は可愛い自分の孫と二人っきりでお出かけできる喜びに満ち、デレデレとしか言いようのない締まりのないものだったからだ。この怒声も、そういやおじいちゃんの通常運転だったなと思い出した。
実家から車を飛ばして40分くらいのところにおじいちゃんの山がある。……まあ、山のほんの一部の面積だけなのだが。しかし、使用範囲はさらに狭い。
牛舎を除けば小さい畑と、牛舎の後ろの倉庫のみなのだ。牛舎もかなり小さくてせいぜい5,6頭が入るくらいだろう。飼っているのはみなメスで、食用である。ブランドものではない。まことに残念ながら。
その後ろの倉庫——あまりに小さな倉庫であるため、親戚はみな「小屋」と呼ぶ——は、実は結構ないわくがついていたりいなかったりするのだ。
小屋には、昔祖父や祖母、母、叔父、叔母たちが読んだまま捨てたと思っていた書籍がごみ同然に大量に詰め込まれていて、攫った犯人(おじいちゃん)の言い訳としては、「いつかまとめて読むつもりだった」……のだそうだ。実際のところ、これは母やおばあちゃん、ついでに叔父さんたちに聞いた話であって、実際のところ幼い時に来た私はそんなものには目もくれず牛に餌をやってばかりいたため形すらも知らないのだが。
おばあちゃんによると何十年もの間、何冊もの本(有機物)が虫干しもされず、雨漏りと空気穴くらいにしか役立たない穴だらけの天井の下山になっているのだという。……確実に腐っている。
私と同じように「あの小屋はすでに腐海のようになっている」と考えたのが私の母で、次女である叔母であり、長男と次男である叔父たちだった。
私はその小屋の存在を知ったとき齢三歳だった私は「くさそう……」と呟くことしかなかったが、当時末の叔父もすでに三十路入りを果たしていたため、この四兄弟(主に長女である私の母)の行動は迅速だった。
小屋の中の強制大掃除。
おじいちゃんが隣町にまでちょっと長めの買い物を行っているうちにやってしまおうという計画がすぐに組まれた。だが、その計画はすぐに頓挫することとなる。
おじいちゃんが買い物を忘れていた……とかいう落ちではない。あまりに臭過ぎて、誰一人として小屋に入れなかったのだ。
相当のものだろうと予想されていた臭気などの対策は十分に組まれていたはずなのに、なぜそんな事態が起こったのか。理解できた者はいなかったという。
唯一小屋の中に自らが先陣を切って入ったわれらが母上は一向に口を割ろうとはしなかったし、叔母や叔父たちも気まずそうに眼を反らし、話を反らすばかりで誰もまともに取り合ってくれなかった。ただ一人、子供慣れしていなかったためかポロリとこぼしてしまった末の叔父によると、母はその小屋から出てくるなり、朝食を含め、胃の中に入っていたものをすべてその場でリバースした、とか。 本人が黙秘を続けるため、真相は闇の中に消えてしまった。
しまった、が。手掛かりとなるような情報をおばあちゃんが握っていた。……この人本当はこの話の黒幕か何かじゃないのか。
「じいちゃんは、あそこで猫飼ってんだってね」
さりげなくおじいちゃんに聞いてみたものの、返事はない。おじいちゃんが歩く屍でないとすれば、黙秘権の行使かただ単に耳が遠くて聞こえないだけか。……後者のほうが有力であると、私は見た。
……そう、おばあちゃんによると、おじいちゃんはあそこで拾ってきた野良猫を飼っているというのだ。なるほど、猫の姿は見えないのにおばあちゃんの家の廊下に積まれていた大量の猫缶はそのためのものか。
ちょうど猫を飼い始めたのはお母さんズがあの計画に乗り出すよりも少し前だったという。それによる私の仮説はこうだ。
『おじいちゃんが飼っている猫が死んで腐った』
だが、これには大きな穴があった。肝心の猫がいなければ、廊下に在った猫のえさに説明がつかないというもの。では猫は、生きているんだろうか。……きっと、それはない。
人間の嗅覚でも、一歩踏み入れただけで胃の中のものを吐き出してしまえるような悪臭に、まして人間をはるかに凌駕する嗅覚というのは、相性最悪だ。
死んでるだろ、確実に。
私は、幼い私はおばあちゃんにその考えを伝えた。私はすでに、生きていたものの、死体の腐る臭いというものを知っていたからだ。
……結論から言えば、私のその推理は、仮説は外れていた。
おじいちゃんが野良猫とを飼っている……飼っていることは、今となっては周知の事実だったが、その猫のえさ代がおばあちゃんの預金から引き出されていると知っていたのは、私と引き出している本人のおじいちゃん、引き出されている当人のおばあちゃんの3人だけだった。
なぜ私が知っていたのかと言えば、おばあちゃんがこっそり口止め料という名目でお小遣いをくれるためにわざわざ教えてもらったのだが。
さすがに私が尊敬してやまないおばあちゃんでもこれだけは言わねばならぬ。
さすがにおじいちゃんに甘すぎだろう!
「■■、■■!■■■■!!」
どうやら畑のある山に到着したようだ。
不機嫌にうなる軽トラのエンジンの上、運転席からおじいちゃんが何かを言ったようだった。しかし、停止している状態で、運転中よりもさらに不機嫌なエンジンの上で何を語ろうにも当然のようにかき消された。
おじいちゃんの軽トラは、山道を二人も乗せて走るという大仕事を終えて、畑と、駐車場となっている砂利道の奥の、少し広がった場所までつながる分かれ道あたりに止められている。
きっと、畑に着いたことを伝えたかったんだろう。だがおじいちゃんよ、どうせ車を止めているのだから一度エンジンを切って黙らせてから言えばいいのではないか。
一応、「おじいちゃん、今なんて言ったの!?」とは聞いてみるものの、もとより返答は期待していない。
大体予想通りに「■■■■■!?■■■■■■■■■■!!」と聞き返してきた(様だった、まったく何を言っているのかは分からなかったが)。
白ヤギさんと黒ヤギさんでも、こんな至近距離ならばもっとましな対話が可能なはずだというのに、何だろうこの不毛なやり取り。
「■■■■、■■!!■■■■■■■■!!」
……だから。何言ってるのかわからないんだって。じいちゃんにも私の声は届いていないのだろうから、それぐらいのこと、考えてほしい。まだボケていないのだから(こんななのに)。
でもまあ、大体の想像はつく。きっと「さっさと畑へ行け」とでも言っているのだろう。
私は、しぶしぶクーラーの効いた軽トラから降りた。途端に、未だやる気を失っていなかった太陽が私を叩きつけるように熱した。私を見て確かに頷くおじいちゃんを確認してから助手席のドアを勢いよく閉める。白いカラーリングなのに、真夏の太陽の元を数十分走行し続けた軽トラのドアの取っ手が痛いほど熱せられている。
全く、本当に……暑い。東北なのに、なんでこんなに暑いんだ。いや、都会とは違ってアスファルトの照り返しがないだけ、まだましなのかもしれない。
「■■■、■■■■■■!■■■■■■■!!」
「はいはいはい、先行ってるから!牛舎で待ってればいいんでしょ!!」
きっと、返答としては間違っていないだろう。——ちゃんと伝わったかは別として。
最後まで私が何と言っていたのか解っていなかった様子のおじいちゃんだったが、私が背を向けて木陰のある、畑への一本道へ進んでいくところを見て、何か伝えたかったことを諦めたらしい。
急発進して、駐車スペースへと走り去った。エンジンの爆音に驚いて後ろを振り返ると、すでにやや茶色くなった薄汚い軽トラはそこに無かった。代わりに荷台に積まれていた大きなボロボロの緑のビニールシートが置き去りにされている。……必ず何かしら忘れていくところが、さすが私のおじいちゃんといったところか。
やれやれと呆れながら改めて一、二歩畑に向かって歩いてから、自分の腕に何かがかかっていることに気付いた。どうりで腕が重いと思ったのだ。腕に引っかかった(という表現も、なんだか変だが)ビニール袋の中身を見れば、道中で胃の中に収めたトウモロコシの軸と、もう一つの袋には墓地から帰ってくる最中に買った物が諸々全て入っていた。これが覚醒遺伝という奴かとも思ったが、両親も、父方の祖父母もさらにその両親も忘れっぽかったようだといつか父が溜息交じりに行っていたのを思い出し、自分が忘れっぽい家系の末裔に産まれたことを思い返した。恨みつらみ(主に食べ物関連)と漫画の発売日は別だが。
自分を生んださぞかし忘れっぽかったのであろう祖先に思いを馳せつつ、今にも足を痛めそうな急な下り坂を畑に向かって進む。
全く、今日の私は坂道に呪われてでもいるのだろうか。山間の集落に居るのだから仕方がないといってしまえばそれまでだが、それにしたって歩き詰めだ。がっつり帰宅部の私としてはこれほど面倒で疲れることはない。田舎が好きだといっても坂はそこまで好きではないのだ。まあ、田舎にいることのメリットの方が私にとってかなり高いので、坂道を歩くことは、まあせいぜい漫画の新刊のラッピングを剝がすくらいの手間だ。冬になると静電気で手にくっつくのが嫌になる。
……余談。
まあ、つまり目的のためらな多少の手間は厭わないということなのだが。
しかし残念なことに、手間、というか災難はまだ続いた。
藪蚊やら虻である。
山に居れば藪蚊に刺されることもそりゃあもちろんあるのだろう。しかし、それにも防衛策は一応ある。一応だから、一時しのぎであることに変わりはないのだが、無いのとあるのでは大きく違ってくる。虫除けスプレーやそれに類するものを持っていると、RPGゲームで言うところの最初の方の村でかなり安く買いたたかれている薬草ぐらいには役立つ。
しかし、唐突に連れ出された今の私がそんな代物を持っているわけもない。自発的に外出していたさっき(おそ松さんを問い詰めるための旅)までなら一応一通り虫除けスプレーもかけておいたのだが、今やすっかり汗で流されてしまっている。
カエルや小鳥のようにこいつらを捕食できる勇猛な種以外はこいつらを愛せないのではないだろうか。あと、蚊によってまき散らされる感染症の菌やらウイルスの類くらいか。
……更に災難は続いた。
足に厳しい坂道をクリアし、目的の牛小屋へ。さあその閉まり切った戸を開放せんとノブに手をかけたのだが。
「……、…………」
前に押した戸はわずか一センチほど進んで動きを止められた。ノブの真ん中を見れば、鍵穴がついている(当たり前だ、牛が逃げ出したりなんてしたらたまったもんじゃない、商売あがったりだ)。
どうやら鍵は閉められたままの様で、そしておじいちゃんは鍵を私に預けずにそのまま車を置きに行ってしまったようだ。
しばらく、戸を押したり引いたり上げたり下げたり叩いたり蹴ったり殴ったり体当たりを繰り返してみたりしたものの、無駄だった。
潔く諦めた私は、牛舎の裏の腐海へ飛び込むことにした。
いきなりどうしたと思われかねない行動だろうが、なんてことはない……私は猫を見たいだけなのだ。見たいし、できれば触れたい。もふもふしたい。ふわふわでも、ふさふさでも、モフモフでもなくもふもふだ。私の中でこの差は大きい。
ただでさえ昨日今日と謎のチャラい赤い狐に絡まれてストレスがかなり溜まっているのだ。少しくらい、猫に癒されたっていいじゃないか。私は一応猫派でも犬派でもない。せいぜい、触り心地の一点のみにおいてこだわりを持っているくらいだ。
もふもふ撫でまわしたい、肉球フニフニしたい、もうこの際少しくらいなら引っ掻かれてもいい!イヌ科の動物は、もうこりごりだ!
覚悟を決めた私は日航の奪い合いに必死な夏草どもをかき分けて牛舎の裏の小屋へ足を進める。丈の短いソックスと、四季関わらず着用しているお気に入りのジーパンの裾の間からごわごわした夏草がすでに虫刺されによってかゆみの治まらない足首を撫でる。
まあこのくらい、これから受けられるであろう癒しに比べれば些細なことだ。
期待に胸を膨らませながら歩けば、すぐに小屋の入口へたどり着いた。
小屋の戸は、開いていた。というより、壊れてただの四角い穴と、それと同じ大きさの板になっていた。
元が物置小屋で窓がないためか中は真っ暗で先が見えない。せいぜい、入り口から半径二メートルといったところか。あちこちにクモの巣が張っているのが見える。だが、足元にはあまり埃は積もっておらず、どうやら頻繁にこの周りだけ人が出入りしているようだ。まあ、おそらくがつかなくてもおじいちゃんだろう。あの人しか考えられない。おばあちゃんも山には来るようだが、全くと言っていいほど来ないらしい。そりゃそうだ、おばあちゃんは道の駅で田楽と味噌餅を売ってるんだから。道の駅の味噌餅最高。……それは置いといて。
さらに、入り口からぎりぎり二メートル離れたところにプラスチック製の赤い塗装のはがれかけた小汚い皿が見えた。あれには、見覚えがある。確か、おばあちゃんの家で昔飼っていたゴールデンレトリバーのごんちゃんが使っていたものだ。
「ゴールデンレトリバー」の「ゴン」ちゃんなどという実に安易な名前は私の従兄が幼い頃につけたものなのだが、それはまあそこに置いておいて(ちなみに笛子さんよりも年上で、今は確か、専門学校に通っていたと思う。詳しくは、あまり顔を合わせたことがないので知らない)。
——いる。確実に、おじいちゃんはここで何かしら飼っている。猫とは限らないが。
私はそう確信し、小屋の中へ足を踏み出した。
- 一 その1。 ( No.24 )
- 日時: 2017/08/28 09:17
- 名前: 真珠を売る星 (ID: 9E/MipmP)
「——さい、笛子。……起きなさ——笛子。起きなさい、いい加減に起きなさい、笛子!」
「——……、さ、ッむ!」
体を大きく揺すられ、目を細く開く。車内に突如として入り込んできた師走の冷気に寝起きの体を大きく震わせた。せめて起こすときの文句ぐらい、平日とは別のものにしてほしい。一瞬、かなり本気で焦った。ガラガラと左右に開閉する重いドアを勢い良く開けた私の母は、若干呆れ顔である。
アパレルショップで購入した持ち運びの楽な薄いダウンジャケットは東北に構えられた母の実家の前に敗北を宣言した。というか、私が宣言した。なんだこの寒さ。異常気象で少しは暖かくなっているんじゃなかったのか。そして中二にもなって未だこの寒さに耐えられない私……。
「だから言ったでしょ、そんなのじゃ寒いって」
「わかってますぅ、そんなことぉ。ただ昨日の時点じゃ予想気温マイナス零か一あたりだったじゃん、大丈夫かなって思ってたんだよ」
小言をいう母上にぶー垂れる。今日も絶賛反抗期中だ。
「さては馬鹿だな、最初っから最高気温って明記してあったろう。最低気温はマイナス十度行くって、堂々とお前の嫌いなお天気お姉さんが言ってただろ」
「嫌いじゃないよ声が苦手なのさ。そしてその声が聞きたくない私は二階に逃げてました」
「お前、馬鹿なんだな」
「今更分かったあんたもな」
「俺は薄々気づいてたよ。全く、親の顔が見てみたい」
「それでは今すぐ洗面台へ行ってご自身のお顔をご覧になられるといいですわ、お父様」
「気持ち悪いなお前」
「うるせえ」
我が父上、別名オヤジ、カッパハゲ……私の父が私にいちゃもんをつけてくる。母上と違ってお小言のトーンでないのが楽なので、茶化しながら話を進める。
全く、自分の娘に「気持ち悪い」とは何だ。良心が痛まないのか。
「義父様って言えるのはクラ●スだけだ」
「ちょっと待てキモ親父、『義』が付いたら私はあんたの娘じゃなくなるぞ。そしてそれは『おじさま』だ」
「クラリスが娘に欲しかった……」
「私だって次元先生がお父さんに欲しかった!」
このキモヲタ……もといキモヲヤジ。リビングで夕飯を待つ娘の前で堂々とギャルゲーをする、ヲタク根性のあるオヤジなのである。ただ者じゃない。
「おいオタクども」
「はーいなんでしょー」
母上の、辺りを包む冷気にも勝る視線が私たちに注がれた。私は何とか場を和ませるためにさっきのままのテンションで返事をしたのだが、どうやら気に食わなかったらしい。眉間の皺がさらに深まった。とっとと働けということだろう。仕方ない、働き蟻のように働いてやる。
仕方なく、私は荷物の上に無造作に放り込まれた青いどてらを着ると、防水加工された滑り止め付き手袋を嵌めた。学校とも兼用の為、校則に倣った黒い手袋は左右が分からずに嵌めるのに手間取る。
最後に紺色のネッグウォーマーを着けて外へ出た。これぞ完全防御体系。クソダサいが、同じ名を関する技を使っているときの殺せ●せーより動けるし、何より温かい。
「ふるおぉっ」
しかし、あまりの寒さに、変な声が出た。……お父さんが、そんな私を見て噴く。覚えていろ。百の半分まで行った私の重量で、マッサージの名を語りその横に膨らむ背中のぜい肉を踏み潰してやる。
嫌々ながらも母に指示されるままに父の車のトランクを開け、次々に荷物を出していく。十二月も終わる直前。母の実家に親戚で集まって年越しを過ごそうという、恒例行事だ。違うところがあるとすれば。
「今回は豊受家が勢ぞろいなんだよね ?」
「ええ、まあそうね。だって明後日結婚式だし」
「……」
結婚式。もちろん私のではない。伯母さんのだ。
私の母上の姉。長女という絶対的地位に君臨する伯母さん。
四十代にもなって未だバツイチ子持ち未亡人を貫いていたあの伯母さんが、ついに再婚することになったという知らせが来たときは、家族三人そろってしばらく呆けた後、「何かの間違いなんじゃないか」「槍が降るんじゃないか」「いや隕石が……」と大騒ぎになったほどだ。あの病み過ぎて鬱になった伯母さんが。再婚。
結婚式は神前で、明日の元日に。
相手方のお母さま直々のお願いだそうだ。
「ってことはさあ!」
アニメや漫画の缶バッジがついた赤と白のボーダーのバックパックを引っ張り出しながら母上に問う。
「葛葉ちゃんと師匠、来るよね!?」
「ん?あんた、そんなに葛葉ちゃん好きだっけ。っていうか師匠って誰」
「そっりゃあ!!」
鼻息を荒くしながら答える。
まず、葛葉ちゃん。伯母さんの一人娘。
今年で四歳になる葛葉ちゃんは、伯母さんの前の旦那さんとの娘さんで、旦那さんの若い頃とよく似た、可愛らしい丸くて大きい目をくりくりと良く動かす実に愛らしい子なのだ。伯母さん譲り、というか私にも確実に遺伝として受け継がれているはずの低い鼻と天然パーマがチャームポイントとして昇華されている。
人見知りであまり笑ってくれないが、微笑みは天使。ほっぺのもちもち具合は言及できない。絵本を持ってきて「これ読んで」とせがんでくる姿は、鼻からの流血で失血死確定だ。
……これ以上葛葉ちゃんの説明をするのは止めよう。私がロリコンの変質者みたいだ。自主規制。
ともかく、彼女は私の最高の癒しであり天使なのだ。
今回の主役である伯母さんは明日の昼が到着予定なのでそれまでの辛抱である。
そして、師匠。本名、豊受賢治。専門学校生。私のオタクとしての師匠。長男である叔父さんの一人息子で、私の従兄。師匠と呼ばせて貰っている。ちなみに私の師匠の師匠は私の父上。
師匠からは少年誌と深夜アニメとラノベとゲームについて数多く教わった。今ではすっかり、漫画やらOVAやらを貸し借りする仲だ。
私はNL厨だが彼は完全な百合好きだ。一度銀●のカップリングについて信神と沖神で論争が起きたが、「結局沖神信もいい」というように収まったこともある。これも分からない人は調べてみてください。あくまで二次創作の話なので好みは分かれると思いますが、話の内容上触れてみただけです。予めご了承ください。沖神は公式が補給源だから最強だと思う人、ぜひ挙手を。語り合いましょう。
「色々要らない説明のせいで分かりづらかったけど、つまり葛葉ちゃんはあんたにとって天使みたいな存在で、師匠っていうのは賢治のことだったって意味なのね?」
「言わされたみたいな要約ありがとう母上」
はあ、と実にどうでもいいことを聞き終えた時の面倒臭そうな溜息をつく母は、「いいからさっさと降ろしなさい」と母の鞄の取っ手に手をかけたまま止まる私の手をバシ、と叩いた。
しぶしぶ鞄を持つと、「早く」と怒られる。あんたはあれか、ハーレム系ライトノベルで主人公ヘタレ男子を使いまわす黒髪ロングのツンデレお嬢様か。……実際に言うともろに怒られるので、この愚痴は師匠と後々共有することとしよう。
「おお、よう来たなあ」
「……!ばあちゃん!」
外までわざわざ出迎えてくれた我らがばあちゃんの声に、ぱっと空気が和らいだ。さすが、豊受家最強の名だけある貫禄と、可愛らしさをお持ちである。
とてとてと歩くばあさまに手を貸しながら、私は母上の荷物を開きっぱなしの玄関に、先に家の中に入っていた「ばっち来い!」な(腰を落とし、両腕を広げるキーパーの)姿勢で待ち受ける父上に向かって投げた。
「……人の物を投げないの」
母上(黒髪ロング風)に睨まれた。
氷のような母上の視線が痛いが、こればかりは私の方へ歩いてきたばあさまと「ばっち来い」な父が悪いので、スルー。
母上とは逆に、にこやかにおばあちゃんの歓迎を受ける。
「ただいまー、おばあちゃん」
「おお」
縦皺が刻まれたばあちゃんの顔が、横に「にいっ」と歪む。八十代にしてまだ立派に白く光る歯が口の端から覗いた。総入れ歯のじいちゃんと違い、一切の入れ歯の無いおばあちゃん。かっこいい。私の将来の夢はきっとおばあちゃんだ。
普段の農作業で前のめりになった背中を向けると、私の手を取って玄関に向かって歩き始めた。
皺だらけで私の物とは比べ物にならないくらいに硬い掌はその感触とは裏腹に温かい体温を伝えてくる。手袋越しに伝わるその温かさが、ばあちゃんの存在の大きさを知らしめる。
……なんていうんだろう、これ。ばあちゃん沼とでも言っていいのだろうか。
「待て。ばあちゃんに沼るってどういう状況だ、それ」
出迎えられてからわずか数分後。私たちが来る二時間前にはもう到着していたらしい師匠が、リビングで某低予算ファンタジー(笑い)ドラマのDVDを鑑賞しながらアプリゲームに勤しみながら私を見ずに言った。
器用な方である。しかも、見ると父のお土産のいぶりがっこを噛みながら言っていた。物凄く器用だ。
疑問に思われたことを不思議に思いつつ私は仏壇に手を合わせてから振り返る。
「なんていうんですか、家族愛なんですけどね?ファンになりたい、グッズどこで売ってますか、みたいな」
「おばあちゃんのグッズはどこにも売ってねえよ」
「例えですよ。えっと、葛葉ちゃんを愛してるのと近い感じ?」
師匠の顔が不意に上がった。「葛葉ちゃん」に反応したようである。
師匠も、私と同じく葛葉ちゃんのファンだ。しかもその愛の深さは私を大きく上回っている。
「……理解した」
理解された。
師匠は私に向かってゆっくりと、確かに頷いてから視線をスマホに移した。その指は画面をタップし続けている。
「解っていただけて幸いです。……それより、どうしたんです?さっきからずっとスマホ叩いてますけど」
私がスマホを指しながら言うと、「ああ」と何でもないことのように返事が来た。
「通信が遅くて」
「田舎に通信速度を求めるのは無謀だと思いますよ、師匠」
師匠は無表情のまま「だから、苛々してんだよ」と言ってきた。本当に苛々しているのか、正直分かりずらい。若干口調が険しくなっているのが、証拠と言えば証拠だろうか。
「何やってたんです?」
「ソシャゲ」
「ほお」
「今度アニメ化するやつ」
「さてはそれが狙いでしたね」
「いや、声優。坂本真綾さん最高」
「決死にして必死にして万死の吸血鬼」
「鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼の方な」
「あれ、デストピアじゃないでしたっけ」
「キスショットだ。劇場版はちょっと前に終わったばっかりだぞ」
茶番を続けつつスマホと格闘する師匠の向かいに座り、私は持ってきたバックパックの中身をテーブルに広げ始めた。お気に入りの赤と白のボーダーのバックパックの中には、バックパックの形が四角くなるくらいぎっしりと漫画やラノベが詰まっている。一番上には、割れないように箱に入れた古いDVDプレーヤーが。これは、師匠がOVAを貸してくれた時に一人で観賞するためのものだ。さすがにオタク色満載なアニメを堂々と、親族の使うテレビで観賞する勇気は、無い。
それをやって一度酷い目に遭ったというのもあるのだが、まあそれは私一人のトラウマとしてしまっておいて。
「即席アニメ化原作本レンタルコ〜ナ〜」
「やっと来たか」
広げ終わった後に某ネコ型ロボットのような口調で呟くと、師匠が顔を上げた。
テーブルの上には、次クールからのアニメ原作本が私がリサーチしていた分だけ乗っている。全巻持って来る訳にもいかなかったので、お薦め以外は一巻のみ。お薦め作品は、一応三巻まで揃えた。
- 一 その2。 ( No.25 )
- 日時: 2017/08/28 09:18
- 名前: 真珠を売る星 (ID: 9E/MipmP)
「おぉ、毎度のことながらどこから出てくるんだその量を買う金は」
「クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントと色んな懸賞を片っ端から大量に申し込んで得た図書カードを消費した結果です」
「地道な努力が涙ぐましいな。もっと他に欲しいプレゼントは無いのか」
「グッズはあまり買わない主義ですし、アニメは放送された分は自分でダビングしてますし、今の時代インターネットさえあればどんな萌えも消化できますし、何より最強の絵師が目の前に鎮座されているじゃないですか」
「最強ではねえよ。俺よりすごい絵師はたくさんいる」
「私にとって身近にいる絵師としての最強という意味ですよ」
そうなのである。師匠こと私の従兄、豊受賢治。『ヨダカ』の名前で主に二次創作絵(特に百合)をイラストコミュニケーションサイトに上げている結構偏った趣味嗜好を持つファンのいる絵師なのだ。
私も趣味がイラストなのだが、その出来栄えは初心者に産毛が生えた程度で、到底萌えの自給自足なんぞ出来そうにもない。だからこそ師匠を『師匠』として崇めているのだが。
「何でコミケでようとしないですか、もったいない」
「しょうがねえだろ、地方勢なんだから。深夜枠さえもまともに機能しない地方勢なんだから」
「あぁ、深夜枠さえまともに確保できないという——恨みは……大きいですね……」
「北海道でやってるのになんで俺らのところでは放送しないんだろうか」
「北海道の人口の方が多いですから……仕方ないですよ」
二人の間に、わずかに沈黙が流れた。絶対にアニメ化するだろうと睨んでいた話が地元で放送してくれなかった時のショックはすさまじい。特にそれが、他の地方では放送しているところもあるのに地元だけ置いてけぼりにされていると、辛い。特に北海道。宮城は仙台があるからまだわかるんだ……。たまに、青森はやるのにこっちはやらないとか、福島はやるのにこっちはやらないとか、置いてけぼり感がものすごい。もっとここでやってくれてもいい気がする。
「ということで俺はコミケに行かねえ。そして行く金がねえ」
「最後のが本音ですか」
「高校生の財布事情なめんじゃねえぞ」
「舐めてないですよー。そっちこそ中学生の財布事情なめないでくださいね。なぜか毎月月初めに貰えるはずのお小遣いの千円が実際のところもらえるのは三か月に一度」
「俺のところそう変わらねえよ。諦めろ、豊受家の遺伝子を受け継いで生まれたからには親も自分も記憶力ステータスはどれだけ頑張ってもマイナスだ」
「だから貰ってないことにも気づけない、と」
「それな」
なんて悲しい家系だよ。
しかもこの家系、高確率でオタクになるらしく、師匠の座るソファーの横の壁にある大きな本棚にはびっしりと某有名グルメ漫画が全巻そろえてあった。そしてその横には某有名バスケ漫画が埃をかぶっている。
「どうか葛葉ちゃんが私たちのようになりませんように……」
「まず無理だろうな」
「何故!?」
「ほら、いとこの俺らがこんなだから」
「……それを言っちゃあ、もう打つ手がないでしょう……」
思わず頭を抱えた。記憶力が悪いと成績にも響くのでかなり苦しいのだ。しかも、オタクになると成績もそうだが何より財布が圧迫される。リスクの高い趣味なのだ。……極論、どれも嵌ってしまえばそんなものだろうか。
「でも」
と、師匠が言葉を続ける。
「?」
「葛葉ちゃんの記憶力が悪いと、ただの馬鹿ではなく『ドジッ子』になる可能性が大いにある」
「おお!!」
思わず歓声を送ってしまった。そんな考え方はしなかった。なんだそのリアル萌え。滾る。しかもその萌え方は本命路線のキャラじゃないか。
「というわけで萌え系アニメはないか?」
「良作はどちらかというと前期に偏っていましたが、局地的な萌えのゲリラ豪雨ならありますよ」
「どういう例えなのか全然わからん、もう少し具体的に言え」
「私は何も知りませんよ。あなたが知っているんです、賢治師匠」
「言いたかっただけだろ」
「それもあるんですけどね。今期、終わりますよ。二夜連続放送ヒャッフウ」
ガハラさんのツンデレは最強だと九割九分信じている私である。巨乳に合うのは萌えでなくエロであり、少しくらい小さいほうが萌えると思う。別に、元委員長に萌えが無い訳ではないけれど。猫耳は良い。猫耳パジャマとか。早口言葉とか。
「馬鹿な。それは夏アニメの話ではないのか」
「残念ながら作者の進捗状況のせいでなぜか夏の話を冬に書き、冬の話を夏に書いているため本当はここに来年の冬アニメの話が入るはずだったんですけど調べるのも面倒だということでこうなりました」
「淡々とメタ発言してんじゃねえよ、ただでさえ母親のパソコンをこっそり借りてたのがばれて保護者設定厳重に設定され直したせいでパソコンがぶっ壊れてUSBにデータを移そうとする前にデータが全部吹っ飛んで書き直したけどそのたびに吹っ飛んでいくもんだから諦めて、自分用で新しく買い替えてもらったはいいものの書いてる最中に父親に覗かれそうになったり母親に消されそうになったりでまともに進められなかったんだからな、仕方ねえんだよ」
「師匠の方が堂々とメタ発言して更に言い訳してますけど。言い訳の余地がないほどに今オリキャラしか出ていないわけですけど」
「それはあれだ、あらすじを忘れた」
「自分の書いてる話のあらすじを忘れんなよ……」
「しかも前のパソコンでのいろいろのせいで精神的に苦しくなったためにこの話を書いてんだからな。茶番が書きたいということで」
「追い込まれ方が独特過ぎてついていけませんね……」
閑話休題、ではなく。言い訳。
もう半年も過ぎていたことにびっくり。
しばらく師匠と今期のアニメの話題で盛り上がっていると、外から犬の唸る声が聞こえた。
師匠と二人、顔を見合わせてからカーテンを開く。
「おい誰だせっかくのオタク談義を台無しにしてくれたのはよお」
普段無表情な師匠の額に青筋が浮く。若干眉は寄っているが、それ以外の普段との違いが声音くらいしかないのが結構怖い。しかもよく見ると目が据わっている。
萌え談義もそろそろ白熱していたところだから、邪魔されたのがよほど不快だったのだろう。
というか後半、萌え談義というかほとんどメタ談義だった気がする。
「師匠、青筋。青筋浮き立ってますから。あなたのキャラクターボイスは小野Dではなくむしろ斉藤壮馬さんですから。今にもガードレールを引き抜きそうな怖い声止めてくださいお願いだから。無表情で青筋浮いてるの見たら普通の人は逃げますから!」
「うちのかまちゃんかよ、おいかまねこぉ!ふざけんなよ!!」
「違います、そうじゃないですって!いや確かに騒いだのはかまちゃんですけど、そうじゃなくて、客人!!」
ちなみに「かまちゃん」というのは師匠の飼い犬のことである。本名「かまねこ」。犬のはずなのになぜ猫なのかと師匠に問うと、「俺は猫派だから」という答えが返ってきた。だったら最初から猫を飼えばいいのに、残念ながら師匠のお母さんは猫アレルギーなのだ。
かあいさうに。窯猫だけに。
窓の奥を見ようとしても暗くてよく見えないため少しどころではなく寒いが、窓を開ける。しかし。
「誰もいねえな」
「かまちゃんにビビって帰っちゃいましたかね」
「かまちゃん怖えもんな」
窓の外、ゲージから出てきたかまちゃんは「そんなことないよ?」とでもいうように首をかしげて見せるが、そんなことある。かまちゃんなんてかわいい呼び名だが、かまちゃんは三歳のオスのボルゾイだ。でかい。唸ると怖い。超怖い。
これは飼い主の影響のせいもあるのかもしれないなと、師匠の方を見る。
だって、何気この人怖いんだもの。叔父さんとの親子喧嘩とか、本当にガチの殴り合いだ。
「野良猫でもいたのかもしれませんよ?ほら、ここいらにはよく出るじゃないですか」
「……ああ」
なんだか釈然としない様子の師匠だったが、私があまりの寒さに耐えかねて歯をガチガチ言わせ始めたところで窓を閉じた。
かちゃ、と鍵を閉める音が鳴る。なんだか窓の鍵を閉める音にしては音が大きかったような気がしたが……古い家なので、そういうこともあるのだろう。
「さーむいっすね」
「お前が弱いだけだろ」
「いや、さすがに冷凍庫より寒いのは死にますよぉ」
ぶぇっくしょん!!と、盛大なくしゃみをすると、師匠が「もう少し静かにやれ」といってきた。
「お前はおっさんか」
「女子校に通ってると普通にこうなりますよ。気を遣う相手も特にいないし」
「俺に気を遣え。唾がこっちまで飛んできてんだよ」
「こりゃまた失礼を……」
はっはっは、と笑えば、呆れたようにため息をつかれた。
「じじいか」
「おっさんより年齢上がって言ってるじゃないですか。くしゃみはまだわかりますけど、何で笑っただけでじいさん扱い受けなきゃならないんですか」
「そう思うか。ならお前の後ろにいる人物を見ろ」
「……?」
私の後ろに居るのは、椅子に座りながら某公共放送番組を見て何が面白いのかひたすらに「はっはっは」と全入れ歯をひけらかして笑う我らが爺様だけである。
……?……!!
笑い方が、同じだと!?
「遺伝だな」
「なんででしょう、あまり嬉しくありません……」
「何を言う、喜べ。あの磯野さん所のじいさんに勝るとも劣らない光を反射するあの生え際を見て喜べ」
「尚更喜べない現実を突きつけないでくださいよ!言っておきますが、それブーメランですからね!あなたもこの血を継いでるんですからね!?」
「安心しろ。まだ保険はある……。見よ、我らがおばあちゃんの頭を……!!」
奥の台所で母上たちと笑いながら唐揚げを作るおばあちゃんの頭。
「ふさふさ!!」
「老後はああなりたいものだ」
「そうですね……」
——遠回しにおじいちゃんを二人でディスっていた。ごめんよおじいちゃん、嫌いなわけじゃないんだ。
「おいこらオタクども」
静かに師匠と二人おじいちゃん(の、今は亡き頭髪)に向かって合掌していると、いきなり固い物が勢いよく頭に叩きつけられた。
- 一 その3。 ( No.26 )
- 日時: 2017/08/28 09:20
- 名前: 真珠を売る星 (ID: 9E/MipmP)
「痛ったぁ!」
「ぃっ……」
パコン、パコンという良い音とともに、差別的発言が降ってくる。
師匠のところの親父さんだ。残念ながら、この方はオタクでも何でもないのである(本人談)。ガン●ラは作るけど。
「ラノベだのアニメだの漫画だので盛り上がってる暇があるなら夕飯運べ!」
「二次オタ舐めないでくださいよ!これがなくなったら死んじゃうんですよ(精神的に)!!」
「そうだ、ふざけんな。俺なんて今年同じクラスに同士が見つからねえからオアシスが必要なんだよ」
「それは辛いですね」
「だろ?」
気のせいか、師匠の視線が遠い。ボッチは辛いだろうなあ……。
「オタクのあるあるネタより夕飯を運べ。でないと今年のお年玉が俺の手によって管理されることになるぞ」
「それはダメな奴だろ」
「それはダメな奴ですね」
おじさんの一言で、私と師匠が即座に立ち上がる。
叔父さんの言う管理は、絶対不当に搾取される管理だ。実際、昔師匠がずっと漫画を読んでいたためにお年玉の六割を没収され、連帯責任で私のお年玉の八割がすべて百円玉に両替された。すげえじゃらじゃらいってたもんなあ。財布が重くてトラウマになった。
私たちは仕方なく愛しい炬燵に別れを告げると、奥にあるダイニングのテーブル上にぎっしり詰められた大皿を持った。手巻きずし用の大量の刺身や魚卵の類、卵焼き、正方形のノリがはみ出すぐらいに乗せられている。かける、二皿。
ここにいる人数でこの量を割ってもかなりの重量になる。
「これら食った後に年越しそばですかー、今年も胃もたれ確定ですね」
「お前の意が弱すぎんだよ。修行を詰め、修行を」
「それ何の修行ですか、大食いですか、腹から食い物に食い破かれて死に絶えますよ。わんこそばで二十杯もいかなかったですからね」
はいどんどーん、はいじゃんじゃーんって、そばの入れ物の蓋を閉めるも出続くあのシステム。めっちゃ怖い。何より、閉めようとして右手から端を離した瞬間にそばを入れてくるお姉さんたちの笑顔が怖い。隣で食ってた友達の前に積み上げられていた器の量も怖かった。軽く百は行っていた。鬼かと思った。
「百杯食っただけで鬼って、お前な。よく食う奴ならそれくらい行くだろ」
「私が十杯食ってる間に二十杯食ってたんですよ。引くでしょ普通」
「そりゃお前が食うのが遅いのだ」
お互い、ひとつづつ皿を運ぶと、二人そろって光の速さで炬燵の中に半身を入れた。
「いやぁ、温いっすね〜」
「炬燵を生み出した人に何か賞を贈りたい気分だ」
「もう死んでますけどね〜」
こたつに入って二人でぬくぬくしていると、また叔父さんに後頭部を丸めた新聞で叩かれた。私たちはGの頭文字を持つあの虫と同じ扱いらしい。働けということらしい。
「っち」
「くそ、ばれたか」
「ばれたかじゃねえよ。堂々とさぼんな」
「あだだだだだだだ」
「ししょぉー!おのれ師匠のお耳になんてことを!」
「茶番は良いからとっとと運べ」
耳を引っ張られそのまま引きずり出される師匠とともに温かき炬燵から這い出ると、母上からお盆に乗った大量の味噌汁を無言で押し付けてきた。
それを見ていた師匠が、すかさず私に近寄ってくる。
「お前の母ちゃん、ギャルゲーのツンデレキャラ?」
「黒髪ロング前髪ぱっつん、黒タイツの年上巨乳ツンデレキャラ。金髪ツインテでないところがミソ」
「そ、れ、な」
強い同意をいただいた。
小声で話していたはずなのに、とうのツンデレキャラ(うちの母上)が思いっきり私たちのことを睨んできた。地獄耳もいいところである。
仕方なくお盆を受け取り、二人でダイニングからすごすごと退場する。
私はお盆を手に、師匠は……。
「何で箸しか持ってないんですか師匠。狡くないですか」
「狡くない。ツンデレキャラに引っかかったお前が悪い」
「何その理不尽な罠!私だけエンカウント率高すぎるでしょう!」
炬燵の上に順番に箸やら味噌汁やらを並べていると、師匠が「ん?」と、可愛らしい声を出した。斉藤壮馬似の声でかわいいリアクションをとらないで欲しい。録音したくなるから。
「刺身が足りねえ」
「え、そうですか?」
「俺の狙ってたウニが消えてる」
「あー……、言われてみれば、確かに少なくなっているような気も……」
先ほどの大皿の上の、ウニを置いている場所が他よりスペースが空いていた。ただ、見ようによってはただ寄せただけの様にも見える。
「……気のせいじゃないですか?」
「いや、確かに数が足りない。誰かがこっそり食ったんじゃないか」
しばらくの間何かを考える様子の師匠だったが、ふと何かを思いついたように炬燵の中に入り込んだ。
「何さらっと入り込んでんですか師匠。仕事しないと私のお年玉まで消えますよ、そしたら夏休みに嘆くことになるのは私だけではないはず」
「違う、中に誰かいるんじゃねえかと」
ごそごそと、師匠が炬燵の中に潜っていく。天板がしばらくの間ガタガタとなっていたがすぐに収まり、そのうちに「ぐう……」と心地よさそうな寝息が聞こえてきた。
「何勝手に寝てんですかぁぁ!?」
すかさず、叔父さんが飛んできた。
「おいてめえら何やってんだぁぁぁぁ!!」
さらに、その後ろから師匠のお母さんが顔を出す。
「リビングで騒ぐんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
……私と叔父さんと母上の叫び声が輪唱のように重なって近所迷惑にもあたりに響き渡った。
- Re: 狐のお嫁は笑うのか?【妖怪松】 ( No.27 )
- 日時: 2017/11/12 01:59
- 名前: 真珠を売る星 ◆xlDLNzYf9o (ID: NdcMw1Hu)
突然ですが、ここでの連載を終了させていただきます。
お引越しすることに決めましたので、もし続きを読まれるときは、フォレストのページから「埋もれる星」というサイトをお探しください。
そちらでは、この小説と並行で「僕/の/ヒ/ー/ロ/ー/ア/カ/デ/ミ/ア」「銀/魂」の夢小説と、オリジナル中編小説、ついでにイラストをちょこちょこと掲載させていただいております。
お待ちしております。