二次創作小説(紙ほか)
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- ダメ同士、愛してやまない
- 日時: 2018/09/24 05:50
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
可愛い可愛い切原赤也くんがいつの間にかただのヤンキーと化した!
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.20 )
- 日時: 2018/10/21 10:03
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
赤也を止める人は誰もいなかった。本来なら止める人間が赤也には必要なのだ。だから真田や柳は赤也が興奮状態に入っても、いざとなれば制止できるので安心して野放しにしていた。誰もいないんだよな。大阪に引っ越してきてからまともな友人を作ってこなかった。民度の低さや地元恋しさ、人を信用するとか関わるとか、全て面倒になった。
「あれ?なんか今日暗いね」
「…いつもじゃない」
さやかは不思議そうに赤也を見た。ダイニングに座る赤也にココアを注いだ。
「切原さん。明日、うちのデイサービスセンターにいらっしゃるんですよね?」
「行かんわ」
「え、でも…」
「必要ないわ!」
こないだは行く気満々だったのに、とうとう曽祖父もボケ始めたか。今日はサッカーを見ながら野次を飛ばしている。最近なんだか他人に当たりが益々キツくなっているのに、物忘れや独り言が多い。終いにはご近所さんに暴言を吐くらしい。
「じーちゃん、そんな言い方ないだろ」
「…」
「不貞腐れてんなよ」
怒ってよろよろと畳の部屋に行ってしまった。
「あ、」
「いーよ。どうせすぐ忘れるし」
そうだね、とさやかは頷いて晩御飯を作り始めた。その姿を目で追ってしまう。何でこの人が好きなんだろう、俺は。
「いいなぁ。高校生、楽しそう」
野菜をきざむ音と共にさやかは口を開いた。
「楽しくねーよ」
「そうなの?」
「ケンカばっかだし」
さやかは思わず吹き出しそうになった。今どきの高校生ってケンカするんだ。
「赤也くんはケンカするの?」
「…ふっかけられたらやってやるけど」
「想像つかないや」
そんなもんか、そして赤也はココアを飲み切った。マグカップをシンクに入れようとすると、さやかが上の棚に手を伸ばしていた。背伸びをして、恐らく上にある圧力鍋を取り出そうとしている。頑張って持ち手の部分を掴もうとしているが無理そうである。赤也が後ろから圧力鍋に手を伸ばしたところで、遂にさやかは持ち手を掴んだ。
「危なっ…」
さやかが鍋を無理やり引っ張る形で取り出すと、さやかは後ろへよろめいた。赤也は反射的に後ろからさやかの肩と腰を抱えて受け止めた。鍋は床に落ちて、そこそこでかい金属音である。
「ごめんね」
「いや、別に」
近すぎ。赤也は息を飲んだ。
「私ダメダメだね」
顔が近いからか、さやかは大きな声を出さずに掠れるくらいの声量で赤也を見つめたまま小さく笑った。
「んなことないだろ」
本来なら顔を背けるか、ぶっきらぼうに振る舞う赤也も何故か目が逸らせずにさやかを後ろから抱きしめた形のまま固まっている。
「ううん…私、本当にダメなの」
さやかは赤也の腕の中で体を密着させたまま、赤也と向き合うように体を反転させた。ゆっくりとさやかの顔が近づいて。これは俺を試しているのかなんなのか、今なら拒否ることだってできるはずだ。赤也は短い間に考えていたが、もはや健全な男子高校生として後に引く理由はなかった。赤也からも近づいて、遂にはさやかとキスをした。ゆっくりとさやかは顔を離した。
「おじい様、来ちゃうかな?」
「…今更何言ってんだよ」
男子相手にこんなことされたら、溜まったもんじゃないだろう。赤也は生きててこれが初めましてのキスだった。あんたがダメな奴なら俺はもっとダメだ。毎日だるいだるいって何もしないし高校生活だって自堕落なのに、こうやってすんなり好きな女と雰囲気で一緒になれたら、とか考えちゃうから。そんな、努力したって手に入れられないものがあるって、俺はよく知ってるはずなのに。そんなことを考えながらも、さやかと赤也は長い間唇を合わせていた。
「部屋、来る?」
うわ、俺キザすぎ。言った後に赤也は恥ずかしくなったのか、顔を逸らした。それ終始を見て、さやかはまた「可愛い」と笑った。
「俺、本気なんだけど」
「え?」
「あんたのこと…」
赤也が何かを言おうとして口を開いたが、それよりも襖が開く音に2人はビクっとした。曽祖父が出てきたらしい。2人は慌てて体を離し、見るからに気まずい雰囲気のまま曽祖父がダイニングにやって来た。雑紙が重ねてあるところから新聞紙を持って、リビングに戻っていった。
「あ、5時半だ」
ここを出るのは本来5時のはずであるが、気がつけばもう時間は過ぎていた。急いで赤也とさやかは家を出た。
「さっき、なんて言いかけたの?」
「…」
1番聞かれたくないやつ。赤也は黙り込んだ。
「こんなおばさんでごめんね」
「おばさんじゃないって」
だってまだ21だろ。俺は17だけど。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.21 )
- 日時: 2018/10/23 10:49
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
「ダメだ」という言葉で自分の全てを表した気がした。本当に、私はいつも弱い。自分の意思なんかもはやなくていいし、周りに何かを求められることだってそうそうないのに。ここらで自分の欲が出てきてしまう。
「ちょっと、あんた遅いで」
「…すみません」
さやかは慌てて働いている施設へ駆け込んだ。50代くらいのお局であろう、割腹のいい厚い口紅の女性が捨てるように言い放った。さやかはバッグを胸元に抱え、肩をすくめるように頭を下げた。
「まぁ反省なんかしてないやろ、なぁ甲田さん」
「そーよ」
「どこほっつき歩いてんだか知らんけどぉ、いい加減にしろや」
「ごめんなさい…以後、無いようにします」
さやかが施設へ戻ることを遅れたのはこれが初めてである。他のヘルパーは10人ほどいるが、皆おばさんである。もう1人同期で女子がいたが、パワハラやいびりに耐えられなかったようでもはや無断欠勤を通り越して、解雇。今月の初めに退社したのだ。
「市山さん、あと今夜の非番代わって」
「わ、私今日7時上がりなんです」
女性職員はさやかが恐る恐る話すのが終わると、明らかに眉をひそめ手にしていた書類を乱暴にデスクに叩きつけた。
「あのさぁ!わかるやろ?うちら人数少ないねんから、助け合いやろ?」
「…あ、あの」
「無理言ったらアカンよ佐東さん。ゆとりは使えんてー」
妙に低い囁くような笑い声がさやかを包んでいく。どうしよう、でも、私このままだと、3日間夜勤だ。
「…分かりました」
「ちょっと!何泣いてんの!うちが悪いみたいやろー?泣き止んで?」
ティッシュ箱が足元に投げつけられた。さやかはちょっとの抵抗のために、自然と零れてきた涙をそのままにしておいた。若いから許される。許されなくても、一時なら私がこれで満足するから。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.22 )
- 日時: 2018/10/23 21:33
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
赤也は仁王雅治に今日の出来事をLINEで送り付けていた。深夜にベッドで寝転がりながら、さやかを思い返していた。憧れの大好きな年上の女性から抱きしめられた挙句、あんな濃厚なキスを食らった。赤也自身、口を開いてさやかの舌を受け入れるので精一杯だった。そのことも仁王に送信した。
未成年に手出したんかw
やばかったっすー
遊ばれんように気をつけてな
ただの童貞キラーなだけかもしれんし
確かに。その考え方もある。所詮周りのヤツらも付き合うとか考えなさそうなのばっかだし、今どき珍しくもなんともないから。そのまま仁王への恋愛相談やノウハウが続いた。
「赤也、年上捕まえたらしい」
「え?マジかよ」
「まぁ年上といる方がよさそうだけどな…」
神奈川ではジャッカル、仁王、丸井の3人で丸井の家に泊まっていた。
「21歳介護士」
「うわっ…介護士ってえろい」
「ブン太、お前大丈夫か」
「凡人には伝わんねーよな」
「え、えー?」
これでも彼らはインターハイで団体戦優勝したのだ。引退ライフを満喫している。仁王はセンター試験だが、まともに勉強しているのか謎である。一方の赤也は近々さやかと顔を合わせたときに気まずくなりそうなことに悩んでいた。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.23 )
- 日時: 2018/10/23 21:45
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
朝はさやかの作り置きのおかずと炊いたご飯を平らげて、洗面所で顔を洗ってうんたらかんたら歯を磨いて髪を適当に整えて、学ランの下にセーターを着た。それでもって家を出て駅に向かう。いつもと変わらない朝、本当に起きるのがだるいしそもそも1日何時間も幽閉されるのも嫌だし。もう、なんのために学校に行ってるのかわからない。赤也には友達と呼べるような学友はいない。赤也も大阪に来てからロクに他人と関わらないでいる。
「駆け込み乗車はお辞め下さいー」
車掌のアナウンスで通勤ラッシュに一気に飲み込まれる。そうそう、神奈川にいたときはチャリ通か、同じく電車だったけどこんなに混んでなかった。赤也はイヤホンをしてドアの入口すぐのところで手すりに寄りかかっていた。不意に誰かの視線を感じたので、目を上げるが誰も知る人はいなかった。
「…」
切原くんや。朝から会えるとかばり幸せやし、最寄り駅あそこなんやな。サラリーマンと学生の隙間から赤也が見えたのだ。祐花は小さくガッツポーズをした。
- Re: ダメ同士、愛してやまない ( No.24 )
- 日時: 2018/10/23 22:55
- 名前: だー (ID: RO./bkAh)
駅から降りて15分。改札口を抜けたところで先を歩く赤也の背中に、祐花は飛びつくように声をかけた。
「切原くん、おはよ」
「…」
朝から面倒なのに絡まれた。赤也は無視している。
「ねぇ、今日体育祭の種目決めやろ?何やるん?」
「…決めてない」
「まじか!!切原くん運動神経ええやろからリレーとかアンカー走って欲しいわ」
祐花はずっと赤也のとなりで何かを話している。赤也は聞く耳を持ち合わせていなかった。財前とか言うヤツらとこの女子はグルっぽいので嫌いだ。中学のときにミーハーなノリで赤也に近づいてくる女子は皆こんな感じだったのもある。
「あはは…私、切原くんに嫌われてるみたいやなぁ。ちょっと、悲しいわ」
「本当かよ」
「え?」
「人いじめてんなら、無視される奴の気持ちくらい考えるいい機会じゃねーの」
赤也の隣にくっついて歩幅を合わせていた祐花の足が止まった。どいつもこいつも分かってない。でも、急に反論が出来ない。
「は?それただのイジりやし?大体なんなん?自分も偉そうに言っとるけど、ただのイキっとる陰キャやろ。いちいちいじめいじめ騒いだら友達なくすで?友達いたことないん?」
友達は立海には沢山いた。今まで生きてきて陰キャだの陽キャだのいじめっ子だの、そんな人はいなくてただ皆同じ…あ、そうか。
「…俺は今まで、人に恵まれてたんだ」
だから気が付かなかった。人々は祐花をじろじろ見ているようだった。赤也は自身に頷いて、学校へ歩き始めた。
「ホンマにひどい…うちだって…」
祐花はしゃがんでその場で泣き始めた。