社会問題小説・評論板
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- いじめと反省
- 日時: 2015/09/23 17:18
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
はじめまして。
小説カキコで初投稿させて頂きます波坂です。
いじめ等の描写が多くなると思います。
誤字脱字の事やアドバイスをよろしくお願いします。
僕は朝霧介斗[あさきりかいと]。中学生だ。
- Re: いじめと反省 ( No.9 )
- 日時: 2015/10/01 23:41
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
死ぬかと思った。
スタンガンの電流では気絶しなかった。が、それが逆に俺を苦しめた。
「……跡ができてる」
今は家で風呂に入って鏡を見ている。僕のスタンガンを当てられた部位、背中の右下辺りに跡ができていた。
「チッ。理め……」
僕の中で、凄く黒い感情が膨らむのを感じた。
三週間と少し後。僕は放課後に呼び出された。無論、職員では無く理に。
僕は一応鞄を教室に置いて呼び出された場所へ赴いた。
来たのは焼却炉のある校庭の隅。周りには誰もおらず、今は使われてはいないはずの焼却炉が炎を上げてユラユラと揺れていた。
「……今度は何だよ」
もういいかげん面倒くさいのである。こちとら暇な訳でもなく、Mな訳でもないので1ヶ月も続いているいい迷惑である。
「お前さぁ? どっちが上かわかってんのか? 朝霧君よ」
人間の価値で言うと僕が当然上だ。
しかし理は[自分=エリート]という現実では絶対起こり得ない方程式を組み上げているので当然分からない。
「お前さぁ。やってて最近面白く無いんだよ」
あ? だったら止めろよ。時間とお前の腐った脳に動かされる細胞とお前みたいなクズに食われた植物及び動物を分解した栄養素の無駄だ。
「だからさぁ。お前の結構大事なもの燃やすわ〜」
そういって理が上に上げたのは……俺のグローブ。ファーストミットというファーストだけが身に付けるファースト専用のミットだが……。
「何でお前が持ってるんだよ!」
僕は荷物を教室に置いたはずだ。何故アイツの手にある?
恐らく僕が出たあとに誰かが理に渡したんだろう。
「どうでもいいや。つか要らねーからお前の捨てるわ」
そして理は俺のミットを容赦なく焼却炉に投げた。
「あ、焼却炉に入ったわ。ごめんね〜」
僕のミットは炎に包まれ燃えて行く。
「ああああああ!」
急いで焼却炉に向かいファーストミットを取ろうとトングを持ってー。
「熱っ!」
トングは物凄く高温になっていた。そしてそれを思いっきり掴んだ僕の手は火傷を負った。
結局、ミットは完全に炭化してしまった。
僕は膝を落として項垂れた。
理はそんな僕を見て行った。
「お前なんて所詮その程度だったんだよ」
その言葉を残して理は取り巻きたちと何処かへ行く。
……許さない。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。
絶対。地獄へ落とす。
僕の手は思ったより火傷がひどく、全治1ヶ月と診断された。
今が五月下旬、治るのは七月中旬。とても総体には間に合わない。
チームの皆は悪く無いんだよ。など言ってくれた。僕は申し訳ない気持ちでいっぱいで、もう、何をすればいいのか分からない。
そして、そんな中一人、笑っている奴がいた。
当然。理だ。
- Re: いじめと反省 ( No.10 )
- 日時: 2015/10/04 15:49
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
今日は総体の市の大会だった。
僕は未だに火傷が治っておらず、予定よりも少し治るのが遅れている。
今は7月、とても暑いこの季節に手に包帯をグルグルと巻き、学生服で野球を観戦する僕の姿はどことなく浮いていた。
キン! と金属音が響いた。野球のバットと言うのはマンガやアニメのように当たっただけでかなり音が出るイメージがあるが、実際はジャストミートとはいかなくともヒット性の当たりが出ないと中々音は響かない。
打ったのは、元々六番だったのが僕が居なくなって五番バッターに繰り上がったレンだった。
きっと今年のレベルなら県大会に出場しても、いい結果が残せただろう。
僕が火傷しなければ。
別に僕が上手いとか言ってる訳じゃない。僕意外にファーストをやっている選手が居なかったのだ。
そして今は別の選手がファーストをしているが……正直論外だ。
これも下手とか言ってる訳じゃない。むしろ急に作った急造選手の割りにはできている。ただ、レギュラー選手に比べ、二段ほど落ちている。
まあ市の大会は勝てるだろうと思っていた。
と、思っていたら、いつの間にかレンが三盗(三塁への盗塁の略)を決め、それをスクイズでホームに帰してレン達が一点をリードする展開となった。
そしてその試合はそれが決勝点となり、チームは勝利した。
殴られたのはこれで何度目だろう? 蹴られたのはこれで何度目だろう?
数えようと思えば数えられるもののそんな事のために時間を費やしては意味が無いので止める事にした。
このゴミは俺が火傷を負っているにも関わらず、まだ暴力を振るってくる。
もう青じみが頻発して、僕の身体は弱点だらけだ。
スタンガンは死にそうだった。
火傷した所を踏まれた時は殺してやろうかと思った。
ずっとずっと耐え続けた。
そして、嬉しい事もあった。
野球部は県大会でベスト4まで進んだらしい。どうやら俺の怪我がみんなの同情とやる気を呼んだらしい。
だが、最後の試合の結末は僕に代わって出ていたファーストのエラーだった。
その選手の泣き顔は今でも忘れられない。
そして、とあるきっかけからの事態の急展開となった十月が、今、始まる。
「……遅いな……」
少し肌寒くなった季節とは言えまた長袖は暑いので僕は半袖のシャツの上に青い半袖の服を着てズボンはGパンだ。
今日は最近のストレスを解消できそうだったので非常に楽しみだった。
と言うのも今日は奈手葉との映画鑑賞(デートじゃ無いよな。うん)の日で僕の好きなアニメの映画だったので誘いを受ける事にした。
僕は野球部で高身長の上にそこそこ日焼けしているのでアニメなど見てなさそうに見られるようだが、僕はアニメやゲームが大好きである。奈手葉からの紹介により一度見るとハマってしまい、いつの間にかゲーマー・アニメファンとなってしまったが。
ふあぁ。とあくびをしながら腕時計を見る。集合時間八時だが、今は七時五十五分だ。奈手葉はいつも集合の十分前には来ているのだが、今日は珍しく遅い。いつも僕が言われるはずの「遅いわよ」を今度は僕が言ってやろうか。だが脛を抱えて悶絶する僕が頭に浮かんだので止めておく事にした。
「ごめんなさい。待ったかしら?」
噂をすれば影。奈手葉の登場である。ここで、本当の事を言うと十分くらい待ったが集合時間は一応間に合っているので待ったとは言わない。
「大丈夫だぞ。別に集合時間に遅れた訳じゃないからな」
「あら、そう……ふふっ」
僕の返事がおかしかったのか奈手葉は手を口に添えて笑う。
「なんだよ急に」
「いや、介斗前から変わらないなって」
「……それは誉めてるのか? 成長が無いって事か?」
「一応誉めてるわ。そうやって相手に気を使わせずにどうでもいいやって思わせるような言葉を選択する所とか昔から変わって無いわ」
「そーかい」
「むー。素っ気ないわね」
「俺は良くも悪くも変わってないんでね」
そして映画館を目指して歩きながら軽口を叩き合う。
今日の奈手葉はかなり美少女である。
成分的には可愛い4割綺麗6割といった所か。長い髪に白を基調とした服にスカート(僕は服について詳しく知らない)をはいている。最も奈手葉が美人だとすでに一年前には認めた事なので今更と思ったが今日は一段と良かった。
「今日の服装、どうかしら」
僕の思考を読んだように訊かれた質問。奈手葉はきっと面白がっているだろう。
「……まぁ……に、似合ってるぞ」
女性経験など皆無である僕にとっては答えずらい質問を僕は顔を逸らしながらも回答に成功した。
「顔が赤いよ? ど〜したのかな〜?」
この小悪魔めぇ!
「……さっさと(映画館に)行くぞ!」
「照れてるな〜。照れてるな〜」
「うるさーい!」
映画館の中でドリンクだけを買った僕はずっと座って上映を待っている。その姿はいかにも普通に見える。
そう、席が普通なら。
「……カップル席なんか頼んでんじゃねぇよ……」
僕はずっとカップル席に座っている。横に仕切りの壁があって、二つの席が並んでいるという仕様だ。
「ふふっ。受付の時の介斗ったら可愛かったわ。顔を赤くしてびっくりしてた。ま、空気を読んだのはさすがね」
「もういいや……それなんだ」
「チュトリスよ。食べる?」
チュトリスというポッ○ーを巨大化してチョコを削ぎ落としたような物を持っている。俺の方に差し出すのは何でだろう。
「あーん」
「止めて下さい」
「ふふっ。介斗はからかいがいがあるわ」
どうやらからかわれただけのようだ。
にしても今日の奈手葉は何か何時もよりちょっかいを出すが僕は特に気にする事は無かった。
『止めろ! そんなことしたって何も戻らないぞ!」
『うるさい! アンタは知らない! 分からない! だから何にもできないし、アンタは私を理解できない!』
『当たり前だ! 知らないし分からないし理解できない! だけど! それがお前を救わない理由にはならない!』
「むぅ……主人公結構厳しそうね」
「相手が自殺しようとしているし、相手がその気になれば主人公が消されるかも知れないからな」
「ま、そこが主人公のみせどころよ。にしても感情を燃やして力に変える能力なんてよく思い付いたわね」
「まあ強くも弱くもなる能力だからな。アニメの時に最初のヒロイン救うために恋心を燃やしたからな。結果初恋を失ったけど」
「あ〜。あれは切なかったわ」
『じゃあね。メッキのヒーローさん』
『させるかぁ!」
『……うそ! アンタ……このままじゃ死んじゃうよ!』
『見せてやる……メッキのヒーローの意地ってやつを!』
「ヒロインが飛び降りたのを主人公が追いかけて飛び込みキャッチしたな」
「でも二人とも落下中よ。どうするのかしら」
「さぁ? 今度は意地でも燃やすんじゃねーの?」
映画の上映が終了し、昼頃だったので近くのマッ○に来ている。
「まさか介斗の言った通りになるとわね」
「自分でもびっくりしたわ。でも主人公プライドがなくなったな」
「ま、プライドなんてまたできるわ」
さっき見ていた映画で何気なく言った一言がそのまま現実になった。自分でも意外である。
「どうする? もう帰るのか?」
「実はもうひとつあるの」
「へぇー。どんなの?」
「恋愛映画」
「帰る」
僕は恋愛映画が苦手だ。どうしても感情移入をしすぎてしまう。
「お願い! 一緒に見たいの!」
結局僕は恋愛映画を見る事になったとさ。おしまいおしまい。
……であるはずがなかった。
- Re: いじめと反省 ( No.11 )
- 日時: 2015/10/06 17:38
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
『ヨーコ! 君が好きだ!』
『ケン、ジ? 本当に?』
『そうだ! だから俺と付き合ってくれ!』
劇場のスクリーンでは恋愛映画が放映されている。
なぜかカップル席で映画を見ている僕だが、こういう映画を観ていると感情移入し過ぎたりたり恥ずかしくなったりするので観たくはない。というより進んで観たいとは思わないのだが、これを観たいと言ったのは隣に座っている奈手葉なのだ。
この映画は幼馴染みの主人公とヒロインが、色々な人物とのやり取りの中、お互いの好意に気づいていく。というストーリーである。そして今はクライマックスのシーンである。
こういう感じの物を観ると隣でそこそこ密着(カップル席なので、二人が座れる椅子がひとつあるだけだ)している奈手葉を意識せずにはいられないのだ。アニメの時は集中していたため気にはならなかったが、今は気になって仕方がない。きっと僕の頬は少し赤いだろう。
不意に隣の奈手葉の方に視点を動かす。
「…………」
「…………」
いつから見ていたのだろうか、僕の方をじっと見ていた。目が合ってとても気まずい雰囲気となったが。
「……ねぇ介斗」
「ど、どうした?」
緊張した中、急に声を掛けられ噛んでしまう。だが奈手葉はそれを気にした様子は無かった。
「好きな人って、いる?」
…………………。
「…………」
一瞬思考がショートしたが、冷静に考えよう。何故こんな質問したんだ? 何故今聞いた? 何故僕の方に顔を向けない?
色々と考える事があって、訳がわからなくなったが質問には答える事ができた。
「いるぞ」
お前だ。と付け足せなかった俺は弱虫だろう。
「……そっか」
その後はずっと、二人で黙って映画を観た。
映画館から出ても沈黙は続いた。
お互い恥ずかしがっている……かはわからないが、僕は恥ずかしがっている。
「……奈手葉」
「ひ、ひゃい!」
……一体どうしたと言うのか、さっきの僕と似たような返事だった。だが、僕もここはツッコまずに質問をした。
「あの質問って。何だったんだ?」
「……あのさ」
「……質問してるのは僕だぞ」
「ここで朝霧介斗君に問題で〜す!」
何時ものテンションより少し高めの無理矢理なテンションを作った奈手葉は僕の言葉を無視して問題をいい始める。
「私こと、月夜奈手葉の好きな人は誰でしょーか? ヒントは同級生!」
「……広いな……あと景品でもあるのか?」
「見事正解した方には女神のキスを差し上げま〜す!」
こいつは僕を困らせたくてこんな事を言ってるのか。
まったく小悪魔みたいな性格になったな。
しかしもし合っていたら気まずい上にキスをしなければならない。さすがに好きでもないような人にはしたくないだろう。
という訳で僕は絶対に外すような回答をした。
「……朝霧介斗で」
これは七割良心三割願望の答えだ。好きな人には自分を好いて貰いたい。当たり前の事だ。だがこれは有り得ない。奈手葉のような美少女ならきっと彼氏など選び放題だからな。そんな激戦区に僕のようなオールB~Cの人間が勝てる見込みはない。
「…………!」
奈手葉は驚いた表情をしている。ま、自分を指名なんて思って無かっただろう。
「介、斗。……ちょっと頭を下げて」
「へ?」
「いいから!」
訳がわからないまま言われるがままに頭を下げた。
奈手葉はこちらに顔を向けて少しずつ近づいてくる。何がしたいのかはわからない。
奈手葉と僕の今の距離は、というか顔と顔の距離は1cmしかない。もしかしてここで大声でも出すのだろうか。やめて欲しいが俺に止める権利などない。
そして耳に息遣いがわかるほど接近した。鼓膜が心配だ。
フーッ。と息を吸ったのがわかった。もう僕の鼓膜は死んでしまうのだろうか。
そして。
僕の顔を襲ったのは、大声でもなければ鉄拳でもない。柔らかな、小さくて瑞々しい感触だった。そして、十数秒程して、感覚が頬から消えた。
僕がそれをキスだと認識するのには数十秒の時間を要した。
「なななな奈手葉ァ?」
思わず声が裏返った。が、そんな事はどうでもよかった。
「じ、じゃあね!」
そして奈手葉は走り去って行く。
僕はそれが視界から消えるまで呆然としていた。
- Re: いじめと反省 ( No.12 )
- 日時: 2015/10/10 17:00
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
あの日から数日がたった。
僕は夢と現実の差を実感していた。
「オラッ!」
ドボッ! ウインドブローカー(ウインドブレーカー)に軟式野球ボールが当たって音を出す。
「ぐっ!」
当たったのは僕の横腹、助走込みで投げられたボールはとても痛く、思わず苦悶の声をあげる。
「ワリーワリーww。気を付けるわww」
投げたのはもちろん理。この野郎は最近部活中にもこういった嫌がらせを仕掛けてきた。
にしてもだ。流石にバッターに向かって後ろからボールを投げるのは何がしたいんだろう。僕の頭の中にはそんな行動が無いんだが。
もう最近は学校が嫌になってきた。あと数日前から奈手葉と話していない。と、言うのも迎えに行っても既に行っているし、クラスの中では避けられる。僕は嫌われたのだろうか。
そんな訳で、最近僕はとても憂鬱な気分だ。
一日後。
「なぁ、朝霧。ちょっといい?」
僕に話を掛けてきたのは理……ではなくあまり僕と話さない男子グループ5人。特に用事が無かったので付いていく。
トイレに入った時だった。後ろから押されたのは。
「お前さあ。最近理からいじめられてんじゃん」
おかしいな。理はそれを口外していない。じゃないと僕が脅せないからな。と、言うことはコイツらは多分、影から見ていたんだろう。
「でもさ。お前全くやり返さないからさー」
「俺達のサンドバックにもなれよ。な?」
あ? 何? お前ら死にたい? 自殺願望あり? 別にお前らカーストが俺より低い奴の集まりだろ?
ついついイラついて一人称が変わったがそんなのどうでもよかった。
「……つまりお前らは俺をいじめると」
「そーそー。理解早くて助かるー」
コイツらニヤニヤしてるけどバカだろ? 今、決定的証拠を出したぞ。
「これ、聞いてみろ」
そういって俺が取り出した物。ICレコーダー。要するに録音機だ。
カチッ。とスイッチを入れると音声が流れる。
『お前全くやり返さないからさー』
『俺達のサンドバックにもなれよ。な?』
『……つまりお前らは俺をいじめると』
『そーそー。理解早くて助かるー』
俺がこれを流した時、コイツらは顔面蒼白となった。
「これを先生に聞かせていいですか〜? まぁお前ら死にたいらしいから絶対聞かせるけど」
「や、止めろ!」
「じ、冗談! 冗談だよな!」
「そ、そうそう冗談!」
「で? その手に持ってるカッターナイフを見てどこが冗談なんだ? あ、これも録音してるから」
全員が、一斉に黙る。
「て訳で……全員顔面ぶん殴るけど快く了承してくれ。俺にやろうとしたことを返されるだけだ」
たった今から、俺の番だ。
- Re: いじめと反省 ( No.13 )
- 日時: 2015/10/12 18:31
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
あの後、トイレではとても一方的な攻撃が行われた。
最も、行ったのは何を隠そうこの僕だ。
担任の教師にはこの事は伝えていない。実際に被害が出たのはこちらではなくむしろあちらだからだ。
だが生憎あちらはそこまで頭が回っていなかったらしく一切口に出さない。流石にカッターナイフはまずかっただろう。
「x+5=7の切片をわかる人……朝霧」
「5です」
「正解だ」
僕が当てられたので答える。ついでにさっきの面子の方を見る。目と目が合った。が、すぐに剃らされる。まああんな脅迫紛いの事をされて目を合わせろと言う方が無理だと言う事は百も承知である。
「ただいま〜」
「お帰りなさい」
僕の母親は専業主婦なのでいつも家にいる。暇な時は内職をしているらしいが。
階段を登って自分の部屋に入る。
いつも基本的には荷物を置いて下に行くのだが、今日は少し違う事をしようと思っていた。
充電器からケータイを取る。スマホなどのタブレットではなくパカパカするタイプのケータイだ。
×××ー××××××××と番号を打ち込み電話を掛ける。
プルルルルルルプルルルルルプルルルルル、ピッ『もしもーし』
「俺だ。奈手葉」
奈手葉に電話を掛けただけだ。だがやつは。
ブツッ。プーップーップーッ。
何故か電話を切った。
今度は電話帳から電話を掛ける。さっき打ち込んで掛けたのは、自分の名前を表示させない為だ。
『……ごめんって』
「いや何で切ったんだよ」
今度は素直に電話に出た奈手葉はいきなり謝る。
『だって! 数日前にあんなことしたばっかりなのよ!』
「それがどうした。こっちは避けられて嫌われたかと思ったぞ」
『……ごめん』
今日の奈手葉はえらく素直だなと思った。
「で。……あれなんだよ」
『あれって?』
「おい! お前が俺にした行為だよ! 女神のキスだの言いやがって!」
別に嬉しくなかった訳ではない。後々めっちゃ喜んだ。だけどいまいち意味がわからない。
『あ、あれでもわからないの! この鈍感介斗!』
うるさぁい! 僕だって分かってるよ! きっとお互いに好きなんだろうね! 分かってるよ! ただ勇気がないだけなんだよ!
『わかるまで学校で話掛けんな!』
ピッ、プーップーップーッ。
「……………」
正直、電話を掛けても掛けなくても変わんなかった気がするのは僕だけか。
「ああもう!」ドン!
「どうした」
僕が突如机を叩く。それを見てレンが一応心配してくれる。
「ああ! ストレスが溜まる!」
奈手葉と話したい! でも勇気が無い! そして理が腹立つ! そろそろぶちのめすか。
今のように理の様なストレッサーの発生源と奈手葉の事が僕の中でぐるぐる回っていつもよりストレスが溜まっているのだ。
「ま、またお前と野球ができるな」
「もうすぐシーズンオフだけどな」
今は十月の中旬。あと一月ほどで、練習は走るのみと化す。この練習は思ったよりきついので僕の嫌いなシーズンだ。
「……ま、頑張ろうぜ」
「そうだな」
ま、色々な問題もあるが、表面上はとても充実した日々を送っているように見えている訳だ。とりあえずあと少しで理の件も解決する予定だし、頑張るか。そう思って僕は教科書を出す。かなり、と言うか意図的にしないとならない様にボロボロだが、もう僕はこんな事には馴れていた。
「……あーあー。これはひどい」
何が起きたのかと言うと。
「……まさか椅子のネジを全て外すとはな……」
僕が登校した時、既にこうなっていた。机もネジがすべて抜かれていて、物を置いたら机が落ちて……考えないでおこうか。
仕方なく、僕は適当な物を挟んで置いた。きっと今日位は持つさ。
……と思っていたら別の事件発生。
それは給食時間の出来事だった。
今日の献立のシチューを食っていた時だった。
ガギィと、金属を噛んだ様な音がした。
否、金属を噛んだ音がした。
少し口の中に鉄の味がし始めたので一度トイレに行く。
ぺっ、と吐き出した物。
それは机と椅子のネジだった。
鉄の味は血が出たらしい。
まさか給食に金属を突っ込むなんて事は予想をしていなかった。と言うかこのまま飲み込んだら俺死んでたかもよ? 理ももう少し地雷臭プンプンなのを避けて欲しい。
「実は……理の事が……好きなの!」
「はぁ? 奈手葉何言ってんだ!」
「え? アンタだれ?」
「」
「実は……理の事が恋愛対象的に好きなんだよ!」
「レン! お前頭大丈夫か! 脳外科は生憎知らないんだが!」
「うるせぇ。金属バット投げるぞ」
「」
「ふははははは! お前は俺に二人の恋人をとられたのさ、この負け犬」
「いや、レンは違う。断じて無い」
「どうだ? 恋人を二人とられた気分は?」
「人の話を聞けぇぇぇぇぇ!」
「うるせぇ」
「ぐわぁぁぁぁ!」
「あああああ!」
そこは僕のベットだった。
……あ、夢か。にしても凄い夢だったな。良くも悪くも。
つーかレンにバットで殴られて夢オチってなんだよ。こえーよ。今日からあいつとどう接するんだよ。
僕の想像力は逞しいな。と思った。
「おはよう。介斗」
「金属バットは持って……無いな」
「? どうした?」
「な、何でもない」
一瞬レンが金属バットを持っていないか警戒してしまった。やっぱり正夢にはならなかった。……ホモっぽいレンは僕の記憶の奥底に沈めた。
……だが仮に、あの夢のように、もし奈手葉が僕から離れたらどうすればいいんだろうか。
奈手葉なら僕の代わりくらい、いくらでもいる。その中に、宝くじの様な確率で選ばれたのは僕だ。だったらチャンスのはずだろう。
だが仮にだ。フラれたらどうする? 僕達の関係は壊れるだろう。僕はきっとそれが怖かったんだ。
……でも……。
動いた方がいいのではないのだろうか。仮に動かなければ奈手葉は僕の前にはいなくなる。それならいっそ、思いきった方が良いのではないだろうか。
……バカだな僕は。こんな簡単な事にも気付かないなんて。人の事を言えたもんじゃない。
覚悟を決めろ。勇気を持て。
僕は決心をした。だからせめて……表すのは明日にしよう。
……結論、僕はやはりチキンなのかもしれ無い。