複雑・ファジー小説
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- ひっそりと生きている。
- 日時: 2011/09/24 08:05
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=10755
( 世界の隅っこで小さく脆く息をして )
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どうも初めまして。またはお元気ですか。知ってる方は知ってる蟻と申します。
まずこの小説は気まぐれと無計画の二つしかありません。つまり話の筋を全く決めていないわけです。ファジー板に立てたのはどのジャンルに転がるか分からないので立てさせていただきました。
ゆっくり見ていってくれるとありがたいと思っています。
ついでに宣伝ですが参照から短編集に飛べちゃいます。
※ この小説はおそらくシリアス成分が含まれています。
@お客様
京助さん 水瀬うららさん 赤時計さん
@目次
#00 - 僕は生きていた >>1
#01 - 過去の絆 >>2 >>3 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>18 >>19 >>20
#02 - 結びなおす糸 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
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@ 2011/7/31 スレッド生成
- #01 - 過去の絆 ( No.18 )
- 日時: 2011/09/23 09:48
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「縁、遊びに来た……」
襖から覗く様に、顔だけ出して舞雪は言うが、その光景を見て言葉をつまらせる。そして、呆れ気味に溜息を吐いた。
その光景とは、縁が村の人間の血を吸い尽くしている途中の光景だった。縁は人間を毛嫌いしており、目が合っただけでその人間は縁の体の一部となる。血を吸い尽くして殺すのだ。手から、首から。あらゆる所から人の血液を吸い出す。
縁はもう既に死んでいるであろう人間の口から自身の口を離して舞雪を見ると、舞雪に駆け寄った。
「舞雪! 久しぶりね! もー、暇で暇で仕方なかったから人間漁りに行ってたのよ。そしたら『妖怪だ!』なーんて面白くもないしかめっ面で私に銃を向けるのよ。どうせならもっと素敵な顔になるかもっと変な顔にしなさいよね、全く!」
と。舞雪の顔を見るなり一気に話し出した。綺麗で、淑やかな彼女は、口を開いてしまえばその雰囲気もぶち壊しである。どちらかと言うとお転婆で、元気な少女の様だった。
相変わらず愚痴を楽しそうに零す縁。そんな縁の話を舞雪は苦笑しながら聞いている。
「ところで、舞雪は何があったの?」
ようやく自分の話を止めると、舞雪に訊ねた。舞雪は、白く長い人差し指を頬に当てて思い出す素振りをする。そして一生懸命になって考えて、口を開いた。
「ここで、忘れちゃった! と私じゃない様に可愛く言ったら?」
「つーまーんなーいー! って駄々をこねちゃいます」
縁の返答を聞いた後、数秒舞雪は黙る。そして、声にも顔にも表情を込めずに言う。
「忘れた」
「はーあ、予想通りよ。でもつまんないからとりあえず何か話して頂戴」
わざとらしく溜息を吐いて舞雪に無茶振りする。舞雪は何か話題は無いものかと辺りを見渡す。すると、横たわっている男の死体に目を向けた。そして、声を漏らす。何に反応を見せたのか気になった縁は、嬉しそうに訊ねる。
「何、何があったのよ、舞雪」
「ソレ、見た事ある、様な……」
人指し指で死体を指して、詰まり詰まりの言葉を口から零し、何らかの恐怖に怯える舞雪。縁はああ、と相槌を打って、冷たい視線でその死体を見つめる。
「どこかで会ったんじゃないかしら? そこまで怯える必要は無いわよ」
冷たい深緑の瞳は、死体を一瞥しただけだった。
- #01 - 過去の絆 ( No.19 )
- 日時: 2011/09/23 09:50
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「そうね、たかが人間、だもの」
それが何なのかである事を否定する様に、舞雪は作り笑いを浮かべて言葉を吐き出した。
そんな舞雪の姿を見た縁は、気遣う様にして舞雪の手を引いて、木でできた艶のある廊下を駆け出した。
「え、ちょっと……縁?」
「喉渇いたから、お茶にしましょう?」
縁のいきなりの行動に戸惑う舞雪だが、縁の笑顔を見て、その顔は柔らかい微笑みを浮かべた。
「うん」
微笑みを浮かべたままで、舞雪は頷いた。
廊下を駆けて、庭へと移動する二人。縁の名に相応しく、沢山の緑の植物が植えられていた。緑以外にも、赤、青、紫、黄色。色とりどりの花が緑の景色を鮮やかに彩っていた。
「そこの使用人さん、柚子茶持ってきて頂戴」
花の手入れをしていた使用人に、縁はそう命令する。使用人はその言葉に会釈をしてその場から去った。
他の使用人も、二人に遠慮してかもう既に居なくなっており、庭を見ているのは舞雪と縁の二人だけだった。
縁は、その場に座り込む。それを見て、舞雪も少し遅れて座り込んだ。
「遠慮なんかしなくたって、いいのにねえ」
縁は、先程の使用人が向かった先を見つめて、つまらなそうに言った。人間に対する冷たい態度ではなく、いつもの縁の姿に舞雪は安心しながらも、苦笑する。
「あ、ところで舞雪。さっきの人間との関係はどういう事?」
「さっきの……記憶にはないけど、多分あれ、生きてる筈……死体なのに、変な気があったから」
俯きながらまた途切れ途切れになって説明する。その言葉を聞いて、縁は「嘘!」と、声を荒げて驚く。暫く沈黙が続くと、使用人が柚子茶と団子などの茶菓子を二人のもとへ持ってきた。縁は使用人に「ありがとう」と、顔を向けずに言い、それを聞いて使用人は会釈をしてその場から去った。
完全に誰も居なくなり、二人だけとなった庭。縁は柚子茶を口に付けて、庭の花を見て話す。
「……舞雪がそう言うのなら、きっとそうね。警戒しておく」
「多分あれは、檻の中に入れていた方が良いと思う」
妖怪、人間、この世の生物は、全ての可能性を持っている。それが多いか少ないのかだけの話で、無い訳はないのだ。
舞雪も、その一つの可能性を持っていた。雪女としての雪を操る力は勿論——生物の気を視る力も。
- #01 - 過去の絆 ( No.20 )
- 日時: 2011/09/23 09:51
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
舞雪の持つ生物の気を視る力は、雪女が当たり前に持つ、雪を操る力と同等な位に強かった。
偽善者は、善を偽ろうとするから悪意が見える。偽善者の悪意を視る位なら、普通の人間にも視れる人は居るだろう。
しかし、善者の中に潜む一パーセントの悪意は見えるのか。普通の人間なら、無理だ。だけど、生物の気を視る力が強ければ、その悪意は見抜ける。他人が見てる気だから、多分という曖昧な形なのだが。
舞雪はそんな曖昧な能力を持っていた。それも、強力な。だから、縁が殺した筈の男の死体の違和感にも気付いたのである。とは言っても、死体には何も無いから違和感を見つけるのは人より比較的簡単な事である。
男の話の後は、遊んで、喋って。重苦しい話など無かった事にして、楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。
「じゃあ、縁。今日はありがとう」
「うんうん、ちゃんとあの男については警戒しておくから大丈夫よ」
「よろしく」
空は夕暮れ。雲は夕日の色に染まり、辺りの木も橙に彩られていた。
二人はお互いに手を振り、舞雪は帰り道に背を向けた。舞雪の後ろ姿を縁はじっと見つめ、大声をあげる。
「また来ないと駄目よー!」
舞雪はその大声に驚いて目を見開く。そして笑みを浮かべて、大声をあげた。
「分かってる!」
「…………私は縁に、また遊びに来る事を約束したんです」
今までの話を聞けば、まだ何も起こってない。むしろ舞雪さんと縁さんの青春の一ページの様な、明るい話なのに、舞雪さんはずっと悲しそうな顔をしていた。ずっと重苦しい雰囲気。僕にとって、息苦しい雰囲気だった。
「ふうん、それで?」
流が話の続きを訊き出す。舞雪さんは「はい」と間を置いて、また話し始めた。
「私は後日、縁の所へ遊びに行きました——」
- #02 - 結びなおす糸 ( No.21 )
- 日時: 2011/09/23 09:54
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
#02 - 結びなおす糸
空は曇り空。風が強く、木は激しく揺れる。舞雪は植物の蔦が巻きつかれている、立派な屋敷の門に立ち、空気の違和感を感じ取りながら、屋敷を見上げる。
「静かな空気……」
不安を口に出して、屋敷内へと入る舞雪。数分歩いた後、いつも通りに使用人が舞雪を笑って迎えてくれた。舞雪は使用人に会釈して、そのまま屋敷内を歩く。使用人と少し距離があくと、舞雪は安心したのか、溜息を漏らした。
しかし、人を見つけても、相変わらずに空気は静かだった。さっき安堵の溜息を吐いた筈なのに、冷たい空気でやはりまた不安が芽生える。人を見つけては安堵し、人が居なくなると不安の繰り返し。舞雪は多少疲れている様だった。
暫く歩いて、縁の部屋に着く。舞雪は唾を飲み込み、障子を開けると——そこにはいつもと違う縁の姿があった。
「どうしたの、縁!」
心配そうに縁の元に駆け寄る舞雪。
痩せこけて、皺だらけの美貌を失った縁の体は、あの時の死体に寄り添い、もう皮だけしかないであろう体に血を求めていた。確実に死体となったその男に、縁は縋っていた。
舞雪の声に気付いた縁は、鋭い、憎悪を込めた目で舞雪を睨む。鋭い棘のついた視線を向けられた舞雪は、硬直する。威圧感。今まで、舞雪に接してきた様な態度ではなかった。それはまるで————。
「驚いてる、の?」
人間に向ける様な、冷たい態度。
響く高らかな嘲笑。舞雪は驚愕し、そして恐怖する。他の人は全く変わらないのに、縁だけ、たった一人変わっている事に。
「あはははははっ! 舞雪。アンタ、勘違い。私が変わったんじゃない、アンタが変えたの。そして私だけじゃないわ。皆、変わってるのよ?」
障子の向こうを指差して、縁が、変わらない、いつも通りの笑い声をあげる。笑い声は変わらないのに、その笑みは、歪んでいた。舞雪は、縁が指差した方向を見る。
それは、色とりどりの花が舞っている。花びらは、舞雪に向かって飛んできた。
「私の意思の分、その花びらは何よりも強く、硬く、鋭くなれるのは、知ってるでしょ?」
縁の使用人は、全て縁が植物から生み出した物である。そして、縁の能力は、山姫の名の通り、植物を操る能力。縁は植物を武器にする事も、盾にする事も、簡単な事だった。
- #02 - 結びなおす糸 ( No.22 )
- 日時: 2011/09/19 15:33
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
舞雪に向かってきた花びらは、舞雪の体に傷を付ける。しかし舞雪は、痛みに顔を歪めるものの、そこから一歩も動かなかった。薄い水色の着物は、花びらが当たった場所が赤く染まっていた。
「どうして……どういう事」
「私は、あなたに言われてこの死体を封印しようと思ったわ。アンタの言う通り、これは死体なんかじゃなかった」
縁は、その細すぎる足で死体を踏みつけて、見下す。舞雪は、怪訝そうな顔をしたままで、ずっと縁を強く見つめ、話を聞いていた。
「けどね、これは……いや、もう居なくなった魔道士は、と言うべきね。魔道士は、強かったわ。最終的に私は魔道士に負けた。そして魔道士は、根こそぎ私の、全てを呼び寄せる力を奪って行った」
舞雪は、縁の話を聞いて静かに驚愕した。
全てを呼び寄せる力——それは縁のもう一つの能力であり、悪用してしまうと、世界の全てを操れる程の恐ろしい能力だった。
縁の山姫と呼ばれる、能力の高さと、美貌。それも全てを呼び寄せる力の一部であった。
「それだけなら、私はアンタを許せた。けどね……魔道士は、アンタに案内された、って言ってたのよ」
「違う! 私は……」
「やってないって?」
舞雪の言葉を遮り、また睨む。舞雪は息を詰まらせ、俯く。縁はそんな舞雪を見て、暴れないのを確認してから話し出す。
「アンタは私をここに連れて来たわ。お馴染みの気を読み取る能力で。でも、本当は分かっていたんでしょう? この死体の存在が。これは強いモノだって。だからアンタは、これの中に入っていた魔道士から逃げた。私に任せて、ね」
否定しようと舞雪は口を開けるが、言葉を出すその前に、舞雪は足をふらつかせて、そこに倒れた。縁は舞雪を一瞥して、また死体に目を向けた。
「私の為に、動くだけよ」