複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ひっそりと生きている。
- 日時: 2011/09/24 08:05
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=10755
( 世界の隅っこで小さく脆く息をして )
.
どうも初めまして。またはお元気ですか。知ってる方は知ってる蟻と申します。
まずこの小説は気まぐれと無計画の二つしかありません。つまり話の筋を全く決めていないわけです。ファジー板に立てたのはどのジャンルに転がるか分からないので立てさせていただきました。
ゆっくり見ていってくれるとありがたいと思っています。
ついでに宣伝ですが参照から短編集に飛べちゃいます。
※ この小説はおそらくシリアス成分が含まれています。
@お客様
京助さん 水瀬うららさん 赤時計さん
@目次
#00 - 僕は生きていた >>1
#01 - 過去の絆 >>2 >>3 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>18 >>19 >>20
#02 - 結びなおす糸 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
.
@ 2011/7/31 スレッド生成
- #01 - 過去の絆 ( No.8 )
- 日時: 2011/09/23 09:40
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
流の部屋に入ると、クーラーがよく効いた寒すぎる部屋でゲーム真っ最中だった。
「おい、ご飯できたぞ」
「後で行くわ」
即答だった。なんか突き放された気分になった。怒ってるのかなアイツ……ご飯遅いから怒ってるのかなアイツ……。僕は少し不安になりながらも、ご飯を食べてこようと思って畳間に向かった。
畳みに正座で座り、「いただきます」と挨拶をして朝食を食べ始める僕。うむ、やっぱり和食は美味い。野菜炒めも卵焼きもご飯にしっかりとマッチしている。白米に合うのはやはり和食しかない。
三十分か四十分ぐらい経ったところで、僕は朝食を全て食べ終え、そして食後の挨拶をした。
——それにしても、遅い。流はご飯の時間には、絶対食べる筈なのに。何よりも食事を優先する筈なのに。ゲームに夢中だなんて事有り得るか? いいや、有り得ない。さっき怒ってたから僕と一緒の時間帯には食べたくないとか? それは流石にショックだぞ。
僕は、頭の中で巡るマイナス思考を無視して、自分が使ったお箸とご飯茶碗を台所に置き、再度流の部屋に向かった。
流の部屋のドアを開ける。何回往復して何回このドア開け閉めしてるんだろ、僕。そんなくだらない事を考えていると。
「アレ……?」
クーラーが付いたままの状態の寒すぎる部屋。そこには、流の姿が無かった。それにしても寒いなここ。風邪ひいたりするんじゃないか。僕はクーラーの電源を消して部屋を出た。
じゃなくて。アレアレアレ。何で流の姿が無いんだ? アイツと僕はどこにも行けない筈だろ。一生外に出られない筈だろ。なのに何故アイツがいない。いや、多分すれ違いで流は畳に行ったに違いない。僕はそう思いながらまた畳に向かう。
「りゅーうー」
「ふぁい?」
僕がちょっと心配して流を呼びながら移動していると、間抜けな返事が聞こえた。僕は食事スペースの畳間を見ると、卵焼きを食べている流の姿。
やっぱりただのすれ違いだったのか。と、僕は安堵の溜息を吐く。むしろ心配損だったが。
「なあ、流」
「……何よ」
朝食を食べる流の姿を見ながら、僕が話しかけると、流は口に入っている物を飲み込んでそう言った。
「お前、部屋クーラー付けたままだったろ」
「そうだけど」
「何、お前わざとそうしたの」
「そうよ。別に無駄でも無いでしょ。どうせ私が居るんだから」
「その通りです」
そう、流が居るから僕たちはここで暮らせている様なもんだ。お悩み相談所なんて言う店で、儲けがある訳もなく、その金でこんな大きな屋敷に住んでいるとなれば、電気代が凄い。半端じゃない。しかし、何故僕らが暮らせているのかと言うと、節電してるから——でもなく、実はお金持ちでした、てへぺろ! なんて事もなく、単に流の魔術を使っているからである。
それならご飯だって服だって何だってお金はかからない、と思う人も少なくないと思う。
そういう非現実すぎる事はない。まあ魔術と言う言葉も非現実だが、魔術で操れる事は生きない物のみだ。例えば雷だったり水だったり、風だったり炎だったり。常に流の魔術が働いて、この屋敷は何とか保っている。ガス代電気代その他諸々。植物などは生物で、食べ物とか衣服なんかは植物とか動物とか、とにかく何らかの生物でできている。その為、金がかかるのである。
- #01 - 過去の絆 ( No.9 )
- 日時: 2011/09/23 09:42
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「アンタ消したの?」
「ああ、消した」
僕が流の質問に答えると、流は食べ物が喉に詰まってむせたみたいで、咳き込む。苦しんでいる姿の流。数秒して咳が落ち着いてきた流は水を飲んでから一息吐き、僕を鋭い目で見つめる。
「な、何だよ。そんな目で見て」
「いや、今は夏よね」
「ああ、そうだけど……何か問題でもあるのか?」
何か怖いぞ。やっぱりコイツ怒ってるんじゃないか? 無表情って言うのがまた僕の恐怖をかきたてる。僕がそんな事を思っていると、流が口を開いた。
「零」
「はい、何でしょうっ」
表情を込めずに、それはもう無機質な機械の様に、僕の名前を呼ぶ流。もうやだ。敬語使う程怖い。恐ろしい流。
「……何敬語使ってんのよ」
「いや、それは——まあ何でもない」
僕の敬語が相当嫌だったのか気色悪かったのか何なのか知らないが、流は、僕の事を引いている様なしかめっ面で、見つめた。僕と流の距離も実際に離れている気がする。敬語を使ったのは、流が怖いからなんて事を言ってしまったら、戦争時に時間を戻されるか、あるいは魔術を使われて殺される危険性があるのでやめておいた。今の姿の様に大人気なかったりするのだ、流は。
「まあいいわ。私の部屋に行ってクーラー付けてきなさい」
「んな、面倒な事……」
「そんな事言わずに。このまま放っておいたら、アナタ、誰か殺すわよ? 雑用」
「お前、僕を殺人犯にしようとしてるのか!?」
「いいえ、強姦魔で殺人犯よ」
「恐ろしい奴だ!」
いくら僕がナイスバディとか素敵な女の人が好きだからって強姦魔は酷い。僕はもっとレディに優しい筈だ。
僕は強姦魔にも殺人犯にもなりたくなかったので渋々あのシンプルイズベストを押し出している流の部屋に向かうため立ちあがると、流が笑って言う。
「可愛い女の子が居たからって、手を出しちゃ駄目よ?」
「僕はそんなセクハラ行為をしない!」
僕の言葉の後に、クスクスと笑ってご飯を食べる流。全く、強姦魔ではないと何度も何度も……言ったっけ。とにかく、僕の事を疑い過ぎだ。失礼過ぎる。
と、僕はそう思いながら流の部屋に向かうのだった。
- #01 - 過去の絆 ( No.10 )
- 日時: 2011/09/23 09:42
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
流の部屋に付いた。僕は真っ暗な部屋の電気を付ける。
——何かが倒れていた。何だろうこれ。さっき行った時は居なかった筈だけど。
近付いて見てみると、ぐったりとしている人の姿。体のライン的に多分女の人。青白い肌に、青のかかった黒いおかっぱの髪。水色の着物に青帯。どう見ても和風、と言うか一昔前の人と言うか、とにかく妖しい。それでいて綺麗な人だった。妖艶。その言葉に限る。
とりあえず流の言う通りクーラーを付ける。ウイーン、とクーラーが動く音(クーラーは昔の製品だった筈)がしてから僕は朝に起きて放っておいたままの睡眠セットを畳んで、この部屋にある唯一の収納家具、クローゼットに片付けて流の天蓋付きベッドにダイブする。そしてゴロゴロと動き回ってから妖しい人の方を観察してみる。
数分後、涼しくなって来た頃にその妖しい女の人はもそもそと動いた。え、ちょっと怖い。ゾンビ? その妖しいゾンビはもそもそもそもそと、虫の様な動きをしたままでこっちに来た。
「ちょっ待って、怖い怖い怖い怖い!」
ホラー映画を見てる気分だ。むしろ僕がホラー映画の主人公である。ホラーとかそんなの嫌いなんだよ、怖いし。ベッドから落ちそうな所で僕が留まっていた所で、部屋のドアが開いた。
「死んではない様だけど……強姦魔として警察に突き出される様ね。流石だわ」
「違うって! これ見て強姦されてると誰が思うの!? 逆に襲われてるよ!」
流に勘違いされた。流石とか言われてもやってねえよ。全て僕に乗っかってきてる女のせいだ。
——て言うか、さっきの強姦魔ってそういう事かよ! でも殺人犯の意図はよく分からないな。あれは確実にネタとか? いや、でも流は僕とゾンビさんを見た際に「死んではない様だけど」と確かに口にした。思い出せ、クーラーを付けてからコイツはもそもそ動き出したな……。コイツが有り得ない『客』だとすれば…………。
「艶術士様!」
僕に乗っかって威嚇をしていた女の人は、まるで犬の様に流に飛んで行って——抱きついた。
- #01 - 過去の絆 ( No.11 )
- 日時: 2011/09/23 09:43
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「えん、じゅつしぃ? 何だよそりゃ」
「何お前、艶術士様に近付くな」
何でそんなに態度違うの? 何で僕今その綺麗な手にくっついてる青い爪を喉に向けられてるの? 何でそんなに爪長いの? 何でそんなに鋭い爪なの? 色々気になるがとりあえずその爪が喉に刺さったら死ぬわ。殺人犯の疑いかけられる前に殺されるわ。
「まあまあ、落ち着きなさい舞雪。お互いに紹介だけど、アンタが今刺そうとしてるのは雑用の零よ」
「刺そうとしてるって止めろよ!」
「大丈夫よ、寸前で止めてあげるわ」
「心臓に悪すぎる!」
流といつも通りの会話をしていると、何だかぐさぐさと殺気っぽい物が背中に向けられている気がした。何だか、死亡フラグ立ちそうで怖いな……。まあ流が僕を捨てない内は大丈夫だろう。……おそらく。守ってくれるか不安だなあ。
「艶術士様、コイツぶち殺してもいいですか?」
「いや何で!? 何があった!?」
舞雪とか言った人の殺気が見えた。彼女は殺人と言う行為を行おうとしていた。銃まで手にして攻撃姿勢に入っている。僕逃げないと駄目だ。僕超逃げて。
「駄目よ。まずは紹介なさい」
流が何とか舞雪さんを制止して、促す。舞雪さんは犬の様に落ち込み、そしてまた顔を上げて僕と目を合わせる。ただし僕に対する嫌悪感が見えている。と言うよりそれしか見えない。
「名前は舞雪。雪女。好きな人は艶術士様一人。嫌いな奴はお前」
指を指されて強く言い放った。僕が何をした。
それにしても、雪女か……。まあここには色んな奴が来るから今更驚きはしないけど、成程。じゃあ舞雪さんが死にかけだったのは暑いのに僕がクーラー消したからだったんだな。ふーん納得。だから殺人犯とか言ったのか、只の冗談かと思ってたよ。ふーん。
「じゃねえ! 何でお前教えなかったんだよ! 僕殺人犯になりかけだったじゃねえか!」
「あら、私はちゃんと言ったわよ。ほら、強姦魔にも殺人犯にもならなかったじゃない。まあその代わり嫌われちゃったけどね」
「お前がもっと早く言ってれば僕も嫌われなかっただろうよ! ……え、ていうか僕が嫌われた原因ってそれ?」
「少なくとも、ちょっとは関係してると思うわよ。後早く言えって言うけれど、私達が会ったのはあなたがクーラーを消した後でしょ?」
——い、言われてみればそうだったーっ!
僕が流を責めてもあんまり関係なかった。むしろ流じゃなくて僕が主に害を与えていたのだった。すまない舞雪さん。
僕は心の中で謝ったが、相変わらず舞雪さんは不機嫌そうに顔をしかめて僕を睨んでいた。可愛い顔が台無しだ。
- #01 - 過去の絆 ( No.12 )
- 日時: 2011/09/23 09:44
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「雑用が居ないから私がアイス持って来たのよ。主に舞雪の為にね。はい」
「あ、ありがとうございます!」
流が舞雪さんにアイスキャンディを渡すと、舞雪さんは顔を紅潮させてそのアイスを受け取った。
流の言葉に嫌味だなあ……と感想を持っていると、流が僕にアイスを渡す。と言うより乱暴に投げられた。
だがまあ、アイスを持って来た分、幾分マシだとは思う。例えば今みたいな、流の部屋に居る事で、僕がアイスを持って来れないから仕方なく流がアイスを持ってくる場合——とんでもない物を持ってくる。
持って来ないの選択肢ならまだしも、虫とか幽霊とかとにかく僕の嫌いな物を持ってくるのだ。カブトムシの幼虫アイスとかは悪質な嫌がらせどころの話ではなかった。流に訊くと、あれは自分でも気持ち悪いと思ったらしい。ならやらないでくれ。
アイスを開けてかぶりつく。幸せな一時だ。美少女に囲まれてアイスを食べる夏……リアル充実しすぎだ! 流と僕はどんどんアイスの量が減っていくが、舞雪さんは未だにアイスを開けていなく、自身の後ろに置いていた。あれ、後から食べる方なのかな。変な雪女。とか思っていたが、それは勘違いだった。そもそも雪女がこの世界に慣れている筈無かった。
舞雪さんはアイスをちらちら見て、そしてアイスを手に取り、開けようと色々引っ張ったり試すが、開かない。それを見る事数回。流は溜息を吐いて、開けなさい、と僕に指示を出す。僕は手伝おうかと声を掛けたが、拒否される。
「触るな。お前は嫌いって、さっき言った」
だと。僕を睨んで、嫌悪感を醸し出して。相変わらず僕を嫌う様子の舞雪さん。そろそろ僕は傷つきそうだ。デリケートマイハート。
流は再度溜息を吐く。いやまあそりゃそうだよな。そして溜息の後に舞雪さんのアイスを奪い取り容易く開ける。舞雪さんは驚いて暫く口をぱくぱくと動かしていると、流は舞雪さんにアイスを差し出す。
「魚みたいよ? その顔」
「……っえ、艶術士様にそんな事……!」
「アンタ、零を毛嫌いしてるんだもの。アンタ自身でそれも開けられないし。誰がそのアイス開けるのよ。そうしてる内に溶けるわよ?」
「申し訳、ないです」
アイスを差し出したままで流はそう言う。確かに、数分間冷蔵庫の外にアイスを出していたらあっと言う間に溶けてしまう。僕らが普通に暮らしている温度であれば、既に溶けている。しかし、流が舞雪さんの為にクーラーをできるだけ下げていたのでまだアイスは溶けていなかった。その代わり僕と流は布団を被っている。
頭を下げてそのまんまの舞雪さん。どんだけダメージ受けてるんだ。ずっとアイスを持って舞雪さんを見ている流が、またはあ、と深い溜息を吐き出す。
「アンタ、いつになったら私の手からアイスを取るの?」
「あ、申し訳ありませんですっ!」
言われて光の速さで流の手からアイスを取り、そしてかぶりつく。流はその速さに驚いて目を見開いている。僕も驚いている。本当、流の事を慕っているんだなあと僕はちょっと尊敬する。こんなぐだぐだしている老人に敬えないなあ、と僕は思った。