複雑・ファジー小説

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ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-13更新!
日時: 2013/11/24 14:50
名前: 風猫  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=873

 プロローグ

 世界は1度滅びた。
 正確には人間という存在が生まれた星はなくなったってこと。
 俺が生まれる500年以上も昔。
 人間たちは過ぎた力に自制を失って、第三次世界大戦引きおこす。
 圧倒的な破壊の嵐。
 命はゴミのように消え、環境は崩れちった。
 生きのびたごく僅かな人間たちは、シュナイデンという博士が戦時に提唱(ていしょう)した時空間移動装置(ワープマシン)を使い新天地を目指す。
 未完成だったマシンで空間移動に成功し、人間が生きていける惑星へ到着したのは奇跡以外の何者でもないだろう。
 
 それからご先祖様たちは必死に、人類の復興を推進した。
 本来なら全滅を待つだけである状態から、当時最先端のクローン技術や開発技術をすべて使い、何とか生きながらえた彼ら。
 だが、彼ら全員には危惧することがあった。
 すでに自分たちの技術は1つの惑星で収まりきるものではないと気づいていたのだろう。
 彼等は命をつなぎとめると、次はワープを完成させ宇宙開発を開始した。
 交渉し、時には武力を使うことすらためらわず、手当たり次第に知的生命体にコンタクトをとっては、併呑していく。
 それはまるで、過ぎた力を求める神々への冒涜ようなものだっただろう。
 だが、神のために滅べるほど人間は大人じゃなかった。
 
 「そう、大人じゃなかった。俺は餓鬼(がき)だ。だから、望む。宇宙のどこかにあるラストシャンバラ」

 俺は今時分珍しい、プレミア物の紙製書物を閉じてつぶやく。
 今俺が住んでいる世界は箱庭だ。
 見上げれば突き抜けるような、青い空がある。
 
 あるはずのない青空。
 本来、溶岩惑星の上に存在するガルガアース第14居住天体フレイムには有り得ないもの。
 悪条件という天然要塞に建てられた安全都市フレイム居住区は、巨大なドーム上の鎧に囲まれた全てが人工でできた世界だ。
 絶対溶けることのないとされる鉱物でつくられ、完璧な温度制御装置を有する最先端都市。
 これが俺達の住む世界の姿。
 馬鹿げた安全神話と、見て見ぬふりで塗りつぶされた偽りの空間。
 だから、俺にとっては全てが空ろに映る。
 色はついているさ。
 でも、その色に何も感じられないんだよ。
 ただ1つを除いては……

 
 しかし、遅いな。
 待ち合わせ時間1時間過ぎてるよ。
 普段は俺が待たせる立ち番だが、待つってのは意外と辛いもんだな。
 そんなことを考え嘆息(たんそく)したとき、俺の名を呼ぶ飴玉を転がすような甘い声。

 「ヴォルトォ!」

 “ただ1つを除いては”
 そんな中で唯一(ゆいいつ)色鮮やかに見える女
 今時珍しい横巻きツインテールの活発な笑顔を絶やさない、俺の幼馴染ノヴァ。
 透き通るような白い肌と、小柄ながら整ったその容姿はどうしても目をひく。
 俺の通(かよ)う高校ではミスコン常連(じょうれん)だ。

 「やっと来たか」
 「うー、おめかししてたら遅れてしまいましたぁ。それにしても相変わずヴォルトは暇だと空見てるねぇ? 嫌いだって言いまわってるわりにはさ?」

 そっけない声で言う俺。
 本当はやっと彼女にあえて泣きたいほど嬉しい情けない自分。
 だって、彼女がいないと俺はこの空虚な世界で1人になっちまう。
 親父なんざどこにいるかも分からないし、母も空虚にしか見えないから。
 
 あぁ、また俺空眺めてたのか。
 でもさぁ、仕方ねぇじゃん。
 俺の目的、ラストシャンバラは——
 偽者の太陽を握り潰すように手中に収めて、俺は胸中で決意を固めるように握り拳をつくる。
 するとノヴァは俺の横へと歩み寄りささやく。

 「ラストシャンバラ、あると良いねぇ?」

 この宇宙には楽園があるという。
 人々はそれをラストシャンバラ(最後の楽園)と呼ぶ。
 そこには、人々が望む全てがあるという。
 もちろん、多くの人々は眉唾(まゆつば)だと吐き捨てる類のものだが、俺はそいつを信じてる。
 いや、こんな場所で一生暮らしたくないだけさ。
 例えなくてもあると信じて求めたい。

 「あるさ……神様は残酷でふざけた奴だが、だからこそ」

 ノヴァは俺の言葉をいつも肯定(こうてい)してくれる。
 常識ある9割以上の人間が戯言と笑う俺の夢を。
 だから、だからこそ俺はっっ。
 手にしたいんだ。
 この住み辛い世界から逃げるだけじゃない。
 自分の目的をこの手に握って、ノヴァと愛を育(はぐく)むと。
 ノヴァが俺の手を握る。
 小さい手。
 細い指。
 かすかに、だけどたしかに伝わる温もり。

 「見つけたら、私も招待してほしいな」

 ただでさえ小さい体をかがめて、彼女はにこりと笑った。 

 「何言ってやがんだよ? お前はクルーになるに決まってんだろ?」

 俺は間髪いれずに言う。
 それは俺にとっての決定事項。

 「ははっ、それが嬉しいなぁ」
 
 彼女はいつのように笑った。
 本当の日溜りってのは知らないが、きっと太陽みたいな笑顔ってのは、こういうのを言うんだろうな。

  ________________________________

※一番上の参照は、シリダクで書いているラストシャンバラ〔B〕のURLです。
この物語は、主人公2人の視点から描かれる形になっています。

初めましての方々は初めまして。お久しぶりの方々はお久しぶり。
いつも来てくださっている方々はいつも有難うございます。
風猫と申します。

今回は、SF能力ファンタジーという詰め込みまくりのジャンルをやろうと思います。
最も、正直科学知識などの面は、?となる所が沢山あると思いますがそこは生暖かい目で
ちなみにこの作品と同名のヴォルト・ジルとは違う主人公視点で描かれるタイトルをシリダクで描きたいと思います。


<注意>
1.宣伝や雑談、中傷、荒しといった行為は行わないでください。
2.恐らく物凄く更新頻度は低いです。ご了承を。場合によっては1ヶ月以上あくこともあるかと。
3.突然、更新をやめる可能性があります。そこもご了承を。
更新を打ち切るときは宣伝し、ロックします。
4.感想や指摘、誤字脱字の報告などは大歓迎です^^
5.エロ描写やグロ描写が入ると思われます。

<お客様>

柚子様
メフィストフェリス様
よしの、様
アスカ様
利丙様
F様
黒田奏様
氷空様
日向様
萌姫様
天様

只今、11名
コメントくださって本当にありがとうございます!

<更新話>
ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園—
第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 
Part1 >>10 Part2 >>22 Part3 >>29  Part4 >>40 PART5 >>42 Part6 >>47 Part7  >>52 Part8 >>54 Part9 >>58 Part10 >>61 Part12 >>63 Part12 >>67 Part13 >>71



<その他>

月森和葉様作 ノヴァ >>41
モッチリ様作 リズリー >>50
モッチリ様作 クリミア >>55

貰い物や番外編、企画など



10/17 更新開始 

Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-4  ( No.40 )
日時: 2013/03/05 20:23
名前: 風死(元:風猫  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照: エロ注意 萌姫へ Yes! ここですよ♪

 ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
 第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part4

 「ついたついたー」
 「そんなにはしゃぐなよ? 大した距離歩いたわけでもないのにさ」
 
 目的地に着いた安堵感からか、ノヴァが伸びをする。
 少しはしゃぎ過ぎに見えるが、少し前に俺が倒れたわけで。
 分らなくはない。
 彼女は、カラオケボックスを指差し、店舗名を口にしながら駆け出す。

 「スカイハーィ!」
 
 俺達の前にあるのは、いつものカラオケボックス。
 名をスカイハイ。
 ガルガアース全体では人気だけど、フレイム居住区では珍しくて、この東区店を含め5店舗も存在しないらしい。
 紫を貴重とした、少し悪趣味なアートが特徴的な外観の店だ。
 値段はワンコインでリーズナブル。
 えっ、リーズナブルの意味は、安いではありません。
 そんな細かいことは気にしないでください。
 あっ、口調が敬語調なことも、突っ込まないで……って、俺は誰に言ってるんだろうな。
 とにかく、安い。
 時間はあるけどお金がない、が歌い文句の高校生全般には優しいところってわけよ。

 「でも、俺の財布にはえるなぁ。本当これで打ち止めだよ」
 「ふっふーん、愚痴りながらも、愛する女のためにお金使うぅ。ヴォルトのそんなところが格好良い!」

 それでも金欠気味の俺にとっては、辛かったりするのだが。 
 俺はぼやきながら、ノヴァに手をひかれて、店に入る。
 扉を開けると、趣味の悪い外装とはまるで違う、統一感のある綺麗な内装が目に飛び込む。
 清潔感のある白を中心とした彩(いろど)り。
 そして、店内の細部に西洋的な意匠がほどこされていて、なかなかにお洒落(しゃれ)だ。

 店に足を踏み入れると、店員の女性が明るい声で挨拶してくる。
 髪の色は茶髪、目の色は青。
 ショートボブからのぞく、健康的な白いうなじが色っぽい馴染みのお姉さんだ。

 「いらっしゃいまえぇ!」

 名前はリカさん。
 なんでそんなことを知ってるかって。
 あぁ、スカイハイ系列の店員さんは皆、ネームプレートをしているんだ。
 何回もここに足を運んでいれば、嫌でも覚えるってもんさ。
 
 俺はリカさんに作り笑いを浮かべ、小さく会釈する。
 そして、プランを選ぶ。
 慣れた手つきで、いつもの一番安い奴。
 店員さんは「かしこまりました」と言って、俺達に部屋番の記載されたプレートを渡す。
 そして、周りに俺とノヴァ以外に客がいないことを確認してから、耳打ちする。

 「で、どうなのよぉバカップルゥ? 進展してるのぉ?」
 
 俺は相変わらずお節介な姉さんだなと苦笑いしながら、頭をふるう。

 「そういう私語は現金なんじゃないですかぁ? そもそも、バカップルって」

 呆れた口調で俺はリカさんの台詞を受け流す。
 それでもリカさんは、俺に話しかけてくる。
 どうやら、朗らかな笑顔はやっぱり営業スマイルで、結構話相手に困っているらしい。
  
 「ぶーぶー、そんなもん周りが見てなけりゃ良いんですよぉ! 気になるじゃん、そういうのぉ!」
 「あのねぇー」

 あぁ、こりゃぁ、8番目の彼氏も駄目だったんだなぁ。
 他人事ながらに、俺は同情の溜息を吐く。
 リカさんには結構お世話になっているので、付き合ってあげたい気持ちもあるが。
 俺はここに何しに来たんだっけ。

 少なくとも行き遅れ間近の姉さんと駄弁(だべ)るためではないと、断言できるよね。
 愛人にカラオケ誘われたからスカイハイというカラオケ店に立っているわけで。
 いい加減に断ろうとしたときだった。
 絶妙のタイミングでノヴァが、俺に助け舟をだす。

 「ヴォルトォ、いつまでオバサンの相手してるのぉ? そんなことしてたら歌う時間なくなっちゃうよぉ!」

 嫉妬心に満ちた目でリカさんを見つめながら、俺の腕に自分の腕を絡める。
 まるで、絶対に俺を手放さないとでも、宣言してるかのようだ。

 そして、ノヴァは力ずくで俺を引きずっていく。
 華奢な容姿やいつものふわふわした雰囲気からは、想像もできないようなパワーで。
 年齢とかもそうだけど、女って見た目じゃ本当分らないよな。
 そんな容姿とのギャップも、俺にとっては愛すべきところだが。
 
 「オバサンってなぁ。あたしはぁ、まだ26だ。って、もう、いねぇよ……畜生。青春羨ましいなぁ」

 背中からリカさんの嘆きの叫びが聞こえてきたように感じたが、これ以上付き合ってはいられないので無視する。
 
 ————————

 階段を上り、2階へいく。
 ここは2階建てで、10の位が2の部屋は2階にある。
 しばらく歩き、俺達は立ち止まった。
 あらためて、番号札を再確認。
 どうやら、22号室で間違えない。
 万一間違えて入った部屋に先客がいたりしたら、笑い話だからな。 

 左横にいるノヴァを一瞥。
 入るぞと眼で訴え、俺はドアを開けた。
 足を並べて、一緒に入る。
 ノヴァのこだわりだ。
 どうやら、結婚式を意識しているらしい。
 あの新郎新婦が、歩幅合わせて歩く奴。
 俺は早計過ぎると思うんだけどな。

 ノヴァは、部屋に入るとすぐにソファへとダイブ。
 スカイハイの間取りは、全室同じつくりだ。
 床は赤絨毯(あかじゅうたん)でおおわれ、部屋の中央に巨大なシャンデリア。
 テーブルを囲むように4つのソファがあり、左端に巨大なモニターが設置されている。
 ちなみに壁は完全防音で、監視カメラなどのセキュリティはない。
 ある意味、犯罪や隠れてしたいことにはもってこいの空間だ。
 もっとも、殺人などの大犯罪にしは対策がとれるよう施されているが。
 
 携帯タブレットで時間を見ると、あと1時間半程度。
 ノヴァはすでに、上着を脱いで臨戦態勢に入っている。
 俺を誘惑する甘い声が、俺の耳にとどく。
 
 「じゃっ、始めようか」
 「綺麗だ。飽きることができない」
  
 まばゆいばかりの白い肌。
 情欲をそそるポーズ。
 あぁ、俺はここに陳腐で無意味な歌をさえずるためにきたんわけじゃない。
 目の前にはノヴァって名前の、最高にして最愛の楽器があるのだから。
 
 「あぁ、俺も我慢できない」

 俺は、服を一気に脱ぎすて、挑発的な表情を浮かべるノヴァに、ようしゃなく抱きついた。
 ブラジャーのホック強引に外し、茶色い小ぶりの乳首を嘗め回す。

 「あっ! ふっ……」

 ノヴァのあえぎ声が響く。
 乳首が立つ。
 俺は優しく胸を揉みながら、彼女のスカートを脱がす。
 そして、黒い紐(ひも)パンを一、相変わらずエロい下着だなと胸中で呟きながら、彼女のパンツを外した。

 そして、彼女の恥部に指を突っ込む。
 すでに準備ができているのか、愛液で溢れる彼女の陰部。
 液体をかき回すような音がひびく。
 いっそう大きな声でノヴァがあえぎだす。
 
 「くぅっ、ふっあぁ。ヴォルト、そろそろ良いよ? 入れて」
 
 彼女の了承を聞き、俺はギンギンにそり立ち爆発しそうな性器をねじ込む。
 そして、彼女の小さな手を強く握り締め、強く突き上げた。

 「うぁっ!」

 涎を流しながら、彼女は声を上げる。
 少しずつノヴァの手を握る力が強まっていく。
 じょじょに、彼女の骨を砕く音が響きはじめ。
 最後には派手な音を立てて、指の骨が折れた。  
 それと同時に我慢できないと言うように、ノヴァが悲鳴を上げる。 

 「あっあ゛あぁぁぁっ!?」
 
 ノヴァのまぶたからは涙がうるむ。
 体が痙攣(けいれん)して、ノヴァは何度かソファで釣り上げられた魚のようにはねた。

 「悪い。また、やっちまった」

 俺はわざとらしくノヴァに謝罪する。 
 
 「大丈夫だよ。明日には元通りだから……」

 俺の平謝りにたいして、ノヴァは微笑を浮かべて言う。
 彼女は特異な存在だ。
 大抵の怪我は、次の日までに治ってしまう。
 だからだろうか。
 俺達のスキンシップは人目がないというだけで、相当に度を越していて。
 生を交えている最中に、彼女の骨を折るとか当たり前だったりする。
 彼女もそれを許し喜んでいるのだし、全然オーケーだと思う。

 俺はノヴァの中に精液を注ぎこみ、静かに陰茎を抜いた。
 あぁ、彼女は卵巣が生まれつきないので妊娠の心配はない。
 つまり、出し放題というわけだ。
 あぁ、俺最低だな。
 でも、止められねぇんだよ。
 しばらくの間、普通とは程遠い自分のセックスライフを鑑(かんが)みながら、俺は天井を見つめ続けた。

 「結構、時間あるね? もっかいやる?」 

 ノヴァの声が聞こえて、俺は唐突に思考を止める。
 残り時間は1時間くらい。
 あと何度かは抜けるだろうが、これ以上やる気にもならなくて……俺達はそれから普通のカラオケらしく歌を歌った。

 そのあとはトランスポーター酔いをすることもなく。
 自分の家でノヴァと別れた俺は、サンファンカーニバルでノヴァに何をプレゼントしようかななどと考えながら、ベッドの上で目をつぶる。
 今日は少し、疲れた。

 「なんでいまさらぶりかえすかなぁ……クソッ」

 思い出したくない体験が、脳裏をよぎる——
 今は考えたくないと、ムリヤリ記憶をすみへと押しやった。

  

End

Next⇒Part5へ
 
________________________________


Re: コスモエデン〔A〕 —宇宙の楽園— 1−1-4 更新 ( No.41 )
日時: 2013/02/19 22:43
名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: 5XOfwI4L)
参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/1026jpg.html

このレスの参照は月森和葉様の書いてくださったノヴァです。

Re:ラストシャンバラ 〔A〕 —最後の楽園— 1−1-5 ( No.42 )
日時: 2013/03/05 20:24
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)

 ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
 第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part5

 うるさい目覚ましの音が響く。
 起き上がり、目覚し機能を止める。
 みょうに長く感じた日曜日が終わった。

 「寝起きが悪いな、肩がいてぇ」
  
 俺は狭いベッドの上で、肩の凝りをほぐすために手を振り回す。
 二段ベッドだったら、上にぶつけて裂傷おこしてたところだろう。
 あぁ、なんと思慮の足りない。
 そんなことを脳内でぼやきながら、俺はベッドから出る。
 まだ、ねみぃし時間もあるので普段なら二度寝するところだが、今日はどうにもそんな気になれず。
 あぁ、こんなときはさっさと飯食って、ノヴァに会いたい。
 家の中にいたって、なんの面白みもないしな。

 俺はカーテンも開けず、部屋を出てキッチンまでむかう。
 いつものことながら、職務開始時間の早い母はすでに出勤したようだ。
 ノヴァから乗り物酔いを起こしたことを聞いていたらしく、昨日はものすごく取り乱していたのだが、さすがは俺の母親というべきか。
 普通とは違う精神の持ち主で……
 俺が疲れたと言って寝たあとは全く騒がなくなったし、俺に声をかけることもなく出ていったらしい。
 少し寂しい気はするが、それでいいと思う。
 しょせん、母なんて俺にとってノヴァとは比べるべくもない位置づけの人物だ。

 テーブルの真ん中には、インスタント臭丸出しの容器に入ったカルボナーラ。
 ずいぶん経っているはずなのに湯気が立ち続けているように見えるのは、単なる視覚を利用したトリックだ。
 最近のインスタントは冷めていないから旨いですよと主張したいのか、白い蒸気を放ち続ける仕掛けがほどこされている。
 今日の朝食。
 俺は食器置き場にあるフォークを無造作に取り、グラスに水をくんで手を合わせた。
 
 「いただきます」  
 
 食材に感謝の言葉を送る。
 そして、俺はフォークを使い、カルボナーラをいっきに食う。
 味なんて感じるつもりはない。
 流し込む。
 そして、グラスに注がれた水を飲み干す。
 
 食器を片づけ、外へでしょうとする俺を止める声が響く。
 機械的な女声。
 40年くらい前から普及し始めて、今ではフレイム住民にとってなくてはならない存在。
 通称オペレーティングシステムだ。
 しょうじき、俺はこいつが苦手だったりする。
 一々、栄養計算だの宿題やったかだの、まるでやかましい姑(しゅうと)みたいな奴なんだよ。
 まぁ、そうプログラミングされてんだから仕方ねぇけどな。

 「ヴォルト様、パジャマデオ出カケニナルツモリデスカ? 今日カラ学校デスノデ制服ニ着替エルコトヲ推奨シマス」

 機械的な口調で指摘するシステム君。
 しょうじき、うざったいが奴の言うことは正しい。
 さすがにこの格好では外にいけないよ。

 ってことで俺は、自室に戻ってクローゼットから制服を出し、着替える。
 紺のブレザーに赤のネクタイ、どこにでもある一般的な制服。
 好きではないが、さすがに2年以上着ていると結構なじむ。
 俺は髪をとかし、歯磨きをすると今度こそ外に出る。
 途中でオペレーティングシステムがなんか言ってきたが、無視だ無視。

 外に出ると、すでに到着していたらしいノヴァの姿。
 多分、俺が心配でいつもより速く来ていたのだろう。
 近所の野良猫を捕まえようとしている姿が微笑ましい。
 スマートフォンのタブレットを見て、俺は時間を確認する。
 いつまでも見ていたいものだが、そうも行かないからな。

 「よーし、猫ちゃーん、逃げるなよぉ」
 「ニャアァッ!?」
 「あっ、またにーげぇらーれーたあぁぁぁぁっ! そんなっ、そんなに私のことが嫌いか猫ちゃん」
 
 ノヴァが射程圏に入る直前のところで、猫は悪寒を感じたのか気勢をあげ逃げ出す。
 頭を抱えながら、また捕まえられなかったあぁぁっと大声で嘆くノヴァ
 彼女はけっこうな猫好きで4匹ほど猫を飼ってます、はいどうでも良い情報ですねすみません。
 嘆く姿もかわいらしいのでいつまでも見ていたいが、やはり学校という予定があるのでいつまでもというわけにもいかない。
 今日は少し長めに見れたからいいやと、心に言い聞かせながら俺はノヴァに声をかける。

 「ノヴァ、そろそろいかないとまに合わなくなるぞ?」
 「ほっほえぇっ!? いつのまにいたのヴォルトッ!?」
 
 どうやら完全に俺の存在には、今まで気づいていなかったらしい。
 仰天し危うく倒れかけるノヴァの手を、俺はつかみ体を支える。

 「お前、不注意すぎ。全く世話が焼けるぜ」

 あきれた表情をする俺。
 そんな俺に、なぜか赤い顔をしてノヴァは謝ってきた。

 「ゴッゴメン!」
 「ん? 当たり前のことしたつもりなんだが、なぜ謝るんだ?」

 いぶかしがる俺の手を強引に握ってノヴァは、テレポートマシンへと駆け出す。
 どうやらなんか俺は失敗をおかしたらしい。
 だがその失敗が全くわからず、俺は思案する。
 彼女と知り合いもう長いが、分からないことのほうが多いのは俺が鈍いからだろうか。
 そうは思いたくないが。

 そんなこんな戯れているあいだに、テレポートマシンが迫ってくる。
 昨日は、レジャー街まで歩いて行ったが。
 徒歩だと時間的に間に合わないだろうし、成績優秀優良青年でいたければ使うしかなさそうだ。
 昨日あんなことが起こったばかりだってのに、俺少し暢気すぎじゃねぇ。
 あーぁ、俺もノヴァをとやかく言えないな。

 「ヴォルト、テレポートマシン大丈夫?」
 「どうだろうな。できれば遅刻しても歩いて行きたいが……」

 わざわざテレポートマシンの近くまで引っ張ってきたのは、どれだけ俺がコイツに恐怖しているのかを確認するためだったらしい。
 ノヴァはいつもとは違うまじめな口調で俺に問う。
 俺は嘘をついても仕方ないと、間髪いれずに本音を口にした。
 ノヴァは予想通りの返答だ、と笑みを浮かべながら言う。
 俺はホッと胸をなでおろす。
 これでテレポートマシンを回避できると思ったからだ。
 だがノヴァは、容赦なく俺をテレポートマシンへと突き飛ばして言う。

 「多少荒療治(あらりょうじ)になるけど、けっきょくはマシン酔いは慣れでしか解決しないみたいだよ?」
 
 くそっ、医者の野郎、余計なことを吹き込みやがって。
 だが、その日俺は全く違和感なくテレポートを済ますことができた。
 それから、毎日テレポートを使ったが4日経っても一度も症状はでない。
 けっきょく、あれはなんだったのだろう。
 ただの乗り物酔いとは決定的に違うなにかを感じた“アレ”は一体——


 
 

  

End

Next⇒Part6へ
 
________________________________




Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-5 更新 ( No.47 )
日時: 2013/04/13 15:21
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照: あれ、展開が遅いな(汗

 ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
 第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part6

 明日で暦上は冬か。
 まぁ、人工的に温度とか調整されたこの歪(いびつ)な居住区じゃ、季節とかなんの意味もないけどな。
 さて、5日前のテレポートマシン酔いも大きな問題だと思うが、俺にはもう1つ大問題がある。
 自分の命なんて二の次だが、ノヴァへのプレゼントが決まっていない。
 由々(ゆゆ)しき事態だ。
 もちろん、俺が倒れることもノヴァがいる限り、あれなのだが。
 ほら、ノヴァはきっと俺が死んだりしたらそうとう悲しむ。
 あぁ、いや、そうじゃない。
 今、俺が気にすべきなのはあれだ。
 ノヴァへの贈り物。
 それが決まっていないこと。

 「やばい」

 あーっ、サンファンカーニバルまであと2日だよっ。
 今まで何度もプレゼントとかはしたことあるが、ことサンファンカーニバルの日にってのは経験がない。
 このカーニバルは1週間の長期にわたって行われる大祭で、そんな日に贈呈(ぞうてい)しますとか言ったら、特別なものじゃないと。
 あぁ、全く思い浮かばねぇ。
 しかたないから、近くにいる女子に聞いてみるか。
 そもそも、放課後4時半じゃいる奴もすくないけどさ。

 俺は教室内はすばやく見回す。
 すぐ目に付いたのはピンクのショートボブ。
 わが学級の委員長、リズリー・アーシュロヴその人である。
 女子からはリズって愛称で呼ばれてて、ノヴァともそこそこ仲が良い。 
 おっとりとした顔立ちの巨乳姉さんだ。
 右目が紅色なのにたいし、左目は琥珀色。
 この時代においても珍しい、オッドアイの持ち主である。
 我が校の制服である、白いブレザーに青のスカートをコーティングしたりせず、しっかりと着こなすさまはまさに委員長といった感じだ。
 本来なら部活や委員会で放課後などいないはずだが珍しいこともあるもんだ、と思いながら俺は委員長に声をかけた。

 「なぁ、委員長!」
 
 呼ばれたことに気づいて彼女は、ゆったりした動作で俺のほうへと振り向く。

 「どうしたのヴォルト君。君が僕に話しかけてくるなんて、珍しいなぁ」

 可愛らしく首をかしげながら、用件を問う委員長。
 俺は話し慣れない相手に、少し戸惑いながら口を動かす。

 「実はさ、悩みがあるんだが……」
 「ふーん、どうせ、君の悩みは愛しのノヴァちゃんがぁ、ってことでしょう?」

 言葉をさえぎるように委員長は言う。
 その口調はからかっていると言うよりは、少し羨ましそうな嫉妬の入り混じった感じだった。
 さすがに学校ではいちゃつくのは控えているんだが。
 どうやら、案外周りには駄々漏れっぽいな。
 嫌だなぁ、ノヴァは美人だから、男子生徒は大半興味あるだろうし……
 委員長が鋭いから、気づいてるってだけだと嬉しいけどなぁ。 
 
 「否定はしない。それでサンファンカーニバルでプレゼントを交換することになったんだが、女の子が喜びそうなものってなんだ?」
 「君は率直だな」

 このままでは話が進まなさそうなので、俺は相談の本旨を口にする。
 委員長はなぜか頬をりんごみたいに赤くして、目を泳がせた。
 率直なのがなにがいけないのだろうか。
 訳が分からない。

 しばらく、沈黙したのち彼女は再び口を開く。
 しかし、委員長が挙げていくものはすべて、今までにノヴァに送ったことがあるものばかりで、なにかピンとこない。

 「なぁ、もう少し高級そうな奴を例えに上げてもらえると嬉しいんだが」
 「そっそう! 愛し合ってるなら、そんな値段とかじゃないと思うけどなぁ……うっうーん、指輪とかどうかな? 君達そうとう仲良いみたいだしさ!」

 指輪か。
 悪くないかもしれない。
 まだ、そういうのは早いかなとか思っていたんだが、結婚後につけて欲しいって言って。
 古典的かもしれないが、悪くは……いやいやいやいやいや、待て。
 俺の財布が何回死んでも買えないって、指輪とか。
 そうだ、委員長はけっこう裕福な家計だし言いだしっぺだ。 
 援助してもらおう。
 
 「委員長! それは良い案だと思うが、お金が足りないんだ。つまり、その借りたいんだが良いでしょうか!?」
 「君は本当にノヴァちゃん一筋だなぁ。他人にはいくらでも情けないところ見せても構わないってその心意気気に入ったよ」

 よし、最後の敬語が聞いたのか、脈有りだぜ。
 あと一押しすれば。

 「よっしゃぁ! 話が分かるぜ委員長! で、どれくらい支援ガフッ」

 殴られました。
 そりゃぁ、そうですよね。
 最初から分かってましたとも。
 委員長やってる人が校内でお金の貸し借りとか、立場上普通できないだろうしさ。 
 ばれなけりゃ良いなんて、不良的考えする奴そんな立場やらないのは当然なことだ。

 「どうしたものかな。いっそ、盗みでもグフッ!」
 「やめなさい」

 今度は後頭部にエルボー。
 いや、冗談だって分かってますよね。
 痛い。
 暴力反対です。 
  
 委員長は役に立たなかったので、次の女子にシフトしようかな。
 そう思って、場所を移動しようとした矢先。
 委員長は小走りで俺のそばへとくる。
 なにか言いたげな表情だ。

 「なに?」

 委員長はぐるりと教室内を見回す。
 放課後のせいもあって、残っているクラスメイトは少ない。
 たぶん、委員長に気のある奴がいないか、確かめたのだろう。
 確認し終えた委員長は、唇を俺の耳元へと近づける。
 そして、小さな声でささやいた。
 
 「そっか、ノヴァの奴、そんなこと言ってたのか」
 
 今までで1番有益な情報。
 俺は自然にガッツポーズを作った。 
 そんな俺を見て、なぜだか照れくさそうにする委員長。
 
 「ありがとな委員長! 参考になったよ!」
 「うっうん、役に立てたのなら僕は嬉しいよ」 

 委員長に礼を言うと、俺は走って教室をでる。
 なんだか世話好きの委員長らしい台詞が、後ろから聞こえたように感じたが無視。
 
 プレゼントするものは決まった。 
 お金も委員長から聞いたものを買うには十分だし、ノヴァもきっと納得してくれるだろう。
 本当に委員長様様だよ。

 たぶん、俺1人で悩んでたら絶対どツボにはまってたろうな。
 それにしても委員長、なんであんなに顔赤らめたりしてたんだ。
 俺に気があるとか、絶対ありえないだろうに……
 まっ、委員長のこととかどうでも良いか。


  

End

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Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-6 更新 ( No.49 )
日時: 2013/03/14 01:38
名前: 天 ◆/WoxWhHbYg (ID: 7tR/DNy8)

コメント遅くなってすみませんm(_ _)m
話の構成はもちろんのこと、キャラの個性もしっかり生きていて読みやすいです。
最新話でも巨乳でオッドアイな僕っ子委員長に
度肝を抜かれましたね笑
SFには小難しい用語がたくさんでてきて読みにくいイメージを持っていたのですが、風死様の作品はすらすら読めてしまいました。


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