複雑・ファジー小説

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【第一部】ウェルリア王国物語-紅い遺志と眠れる華-【完結】
日時: 2015/03/17 15:15
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jwkKFSfg)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16841

┝━━━━━━━━━━━━━┥
│奪われた小箱——     │
│ 失われた記憶——    │
│  彼らの存在意義——  │
│             │
│  此れ等が交わる時   │
│ 全ての物語は      │
│終焉を迎える・・・    │
┝━━━━━━━━━━━━━┥
  〜『レーゼ=ファミリアの手記』より抜粋

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■お知らせ!■ 2014.07.21 <閲覧ありがとございます>

・【無 事 完 結 !】<ご感想いただけたら嬉しいです
・上のURLは【続編:ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-】にとびます。
 〆こちらもよろしければ‥合わせてお願いします^^

・昔まとめていたキャラの設定
 追加投下しました(^^ゞ じ・こ・まん! >>214


<目次はこのスレの下の方にあります↓↓↓>

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■イメ画とか!■

>>115 書き述べる様がなんと、
 とあるゲームのキャラメイク機能で、キリのモデルを作ってくださいました♪
・キャラ画、描いていただきました♪
 本当に、ありがとうございます。

【キリ&アスカ】>>083 by Noelle様
【イズミさん】>>084 by 多寡ユウ様
【ユメノ皇女】>>117【リィさん】>>118
【キリ】>>119 by 萃香様

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■あ・ら・すじ■ >>018 主な登場人物紹介

失われた記憶、紅い宝石、それぞれに秘められた過去——
主人公のキリは仲間とともに奪われた【小箱】を求めて旅に出る。
そこで待ち受けていたのは、果たして——

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
【ウェルリア王国物語〜紅い遺志と眠れる華〜】
・・・目次・・・

主な登場人物 >>018

補完:表向きの歴史 >>025

プロローグ:始まりの場所 >>002

第一章 出会い編
 第一話:出発の朝 >>003-005
 第二話:梟と少年 >>006-009
 第三話:嘘つきの代償 >>010-012
 第四話:予想外の襲撃 >>013-016

第二章 旅立ち編
 第一話:それぞれの思惑 >>021-022
 第二話:不穏な行動 >>023-024
 第三話:虚偽の王子 >>027-028 >>031-032
 第四話:見破られた正体 >>033-034 >>039

第三章 潜入編
 第一話:囚われた少年少女 >>040 >>043-044
 第二話:侵入者の取引 >>045 >>048-049
 第三話:脱走、その後 >>052-054

第四章 捜索編
 第一話:喫茶店ジュリア—ティ >>055 >>059
 第二話:呪術師 >>062-063
 第三話:不穏な動き >>071-072 >>074
 第四話:華麗な脱走計画 >>076-078

第五章 手がかり編
 第一話:ウェルリア王国の歴史 >>079-086
 第二話:小箱の行方 >>087-089 >>092
 第三話:再会 >>093-095 >>098-099
 第四話:再び、ウェルリア城へ >>100-103

第六章 真実への序章編
 第一話:闇の中 >>104-105
 第二話:イズミの過去、キリの過去 >>107-109
 第三話:突然の来訪者 >>112-114 >>120-121
 第四話:うごめく影 >>124 >>126-128 >>130-131 >>134-136

第七章 解決編
 第一話:誘拐 >>139-144
 第二話:邂逅 >>145-147
 第三話:異変 >>148-151 >>154-158 >>161-164
 第四話:姉弟 >>165-166 >>171-173

最終章 終焉編 
 第一話:独白 >>174-176
 第二話:正体 >>177-181
 第三話:動機 >>182 >>185-188
 第四話:終幕 >>189-194 >>197-198

エピローグ:再び始まりの場所へ >>201-203 >>206

あとがき >>207


☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
【この小説のお客様♪(コメライ時含む)】
*七海 様 *紫隠 様 *友桃 様 *小虎。様 *カサゴの刺身 様 *シア 様 *書き述べる 様 *凛 様 *伊織 様 * tatatatata 様 *はる 様 *雨 様


いつもありがとうございます(^^ゞ
もっともっと精進します。

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆

※2014冬カキコ内の小説大会・複雑ファジー板で
 【銀賞】を頂きました(#^.^#)ありがとうございます。


★━━━━−−———————————————————————————————


『複雑・ファジー板』書き始め日*2013.07.08〜2014.06.26
参照50突破*2013.07.10 参照100突破*2013.07.15
参照333*2013.09.14 参照400突破*2013.09.22
参照540突破*2013.10.30 参照600突破*2013.11.06
参照700突破*2013.11.13 参照940突破*2013.12.23
参照1600突破*2014.01.18 参照2000突破*2014.01.25
参照3000突破*2014.02.16 参照4000突破*2014.03.07
参照5400突破*2014.04.24 参照5880突破*2014.06.26
参照6000突破*2014.06.30 参照7000突破*2015.03.16

■□■
 参考『コメディ・ライトでの戦歴』2013.06.15〜2013.07.08
参照50突破*2013.06.17 参照100突破*2013.06.20 参照200突破*2013.06.27
参照300突破*2013.06.30 参照400突破*2013.07.05

おかげさまでありがとうございます…! ( No.200 )
日時: 2014/05/28 09:19
名前: 明鈴 ◆tY2FzMBEVw (ID: YhMlOecY)

>>199 書き述べるさん

コメント書き込み、ありがとうございます…!
話の結着は大体決めていたのですが、あまりにもあっさり終わってしまったら折角の余韻が台無しに…!という不安はありました。
私的に淡々と進め過ぎないように気をつけたのですが、うーん、クライマックスって、難しいですね(⌒-⌒; )
もっと表現力が欲しい…です汗
しかしいずれにしても、無事に終結まで至ってよかったかなあ、と。
イズミとキリのやり取りの内容は、バックアップが全滅する度、書き直す度に変わっていきまして(⌒-⌒; )
キリに物凄い重荷をおわせてしまって…ごめんよ、キリちゃん。
エピローグが1番苦労ものですね…(^_^;)
それより何より、ここまで書き続けてこれたのも書き述べるさんが毎回コメントをよせてくださるお陰です(^^)
本当にありがとうございます。
エピローグ、頑張って執筆します(⌒-⌒; )!
それでは!

明鈴

あと少ーし、続きます(^^;; ( No.201 )
日時: 2014/05/30 09:50
名前: 明鈴 ◆0UYtC6THMk (ID: bFB.etV4)

【エピローグ:再び始まりの場所-restart-】


そして、少女は目を開いた。

ぼんやりとした頭で上半身だけ起こし、しばらくベッドの上でぼんやりと一点を見据える。
そうして、少女は立ち上がった。
目の前の窓を開け放ち、次いで、枕元に置いていた短剣を素早く右手で掴みとり、胸の前で強く握り締める。

「…………私、生きてる」

開け放った窓の外には、変わることのない町並みが広がっている。
吹き込むそよ風が少女の前髪を揺らした。

「おはよう、キリ」

短剣の柄にはめ込まれた紅い宝石が、朝陽を受けてキラキラと輝いた。


++++++++++++++++++++

「キリ君はまだ起きてこんのか」

ウェルリア王国のとある時計店の一室で、クラーウ氏がぼやいた。
その言葉を受けて早めの朝食を済ませたイズミが軽く肩を揺らす。

「ええ、多分……」
「アンタらが尋ねてきて3日……その間、彼女は一向に目覚めん」
「僕も1階に降りてくる前にキリさんの容体を確認してきましたが、まだ眠っているようですね」

イズミの言葉を聞きながら、クラーウ氏はその隣で黙って壊れた鳩時計をいじり始めた。
イズミはイズミで、食後の紅茶を優雅にたしなんでいる。
2人の間に沈黙が続く。
それからしばらくして、クラーウ氏がふとその手を止めた。
それは、まるで独り言のように呟かれる。

「どうなんだろうか……」

止まった手が、再び作業を開始する。

「ワシは、アンタらが何処で何をして来たのか知らん。いや……知らなくても良いと思っておるから、ワシはアンタらから何も聞いてはおらん。ただ……」

イズミはティーカップを手にしたまま、左隣の老人をちらりと一瞥いちべつした。
そして、

「イズミ君。君は、"後悔"しているかね?」

突然の問いに、イズミは豆鉄砲をくらったかのような表情を浮かべた。
しばらくして、薄っすらと笑みを浮かべる。
その流れで、イズミはコトンと乾いた音を立てて、空になったティーカップを机の上に置いた。

「僕は……。はっきり言いますけど、…………後悔、しています」
「ほお」
「キリさんたちに関わってしまったせいで、僕は、僕の今後の人生を大きく左右する羽目になってしまった。けれど……」
「ねえ、イズミちゃーんっ!」
「…………これで、……良かったのかもしれない」

微笑むイズミの視線の先に、寝間着から普段着に着替えたアリスの姿があった。
アリスは寝起きだというのに、朝から騒々しいテンションでイズミに近寄る。

「おはよう、イズミちゃん。今日も良く眠れたかしら?」
「おはよう姉さん。うん、良く眠れたよ」
「そう、良かった。じゃあお姉ちゃん、朝食の準備してくるわね」
「今日はパンとスープとサラダじゃぞ」
「あら。おはよう、クラーウのおじいちゃん。分かりましたわ!」

ひたすら1人で喚き散らしたあと、上機嫌でキッチンに姿を消したアリスを目の端に、イズミはクラーウ氏に向かって苦笑した。
そうして、困ったように首をかしげる。

「………………多分」

そのイズミの一言に、クラーウ氏は豪快に笑うのだった。

+++++++++++++

アリスが、先ほどクラーウ氏が作業をしていた机で朝食をとっている間、イズミは真向かいの席で思案の表情を浮かべていた。
家主であるクラーウ氏は、やっと直し終わった鳩時計を届けに、外出していた。

「あら、……どうしたの? イズミちゃん」

不安そうにしているイズミを覗き込むようにして、アリスがパンを頬張りながら尋ねた。
イズミは、ああ、と顔を上げて、抑えた声で告げる。

「姉さん、これで本当に全て終わったんでしょうか」

エピローグ、長くなっちゃう…(^^;; ( No.202 )
日時: 2014/06/06 23:49
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: n1ZeCGPc)

「…………?」
「今回の一連の首謀者は捕まった。それに加担した反政府軍のやかららえられた。そして、僕らの求めていた歴史の真実もーーまだキチンとした裏付けは出来ていませんが、辿り着くことができました。……けれど、1人、忘れているんですよ」

アリスがごくりとつばを飲み込んでそれに言葉を繋げる。

「そう……ウェルリア兵士の、彼ね」
「そうです」
「結局、彼、あの後からずうーっと行方不明なんでしょ。何者なのかしらね、あの兵士くん」
「それが気になって、直接会っているアスカ王子にあの後聞いたんです。彼のことを。そしたら王子、興味深いことを教えてくれましたよ」

何? とアリスが首を傾げる。
イズミは一呼吸おいて、目の前のアリスに向かって言葉を続けた。

「彼が首謀者に加担する羽目になったのは、首謀者に【とあるヒミツ】を握られていたからだって」

「ヒミツ、ねえ……」ーーそう呟いて、アリスはトマトを1つ頬張った。

「ヒミツって、何かしら」
「さあ…………でも、そのヒミツを知っていた唯一の人物も、もうすでにこの世にはいないですし……その件に関しては分からずじまい、ですね」
「それでもって、その兵士くんは行方知らずって訳ね」

アリスは最後の一口であるパンをゴクリと飲み込み、

「……まあ、ひとまず一件落着ってことで、ね。父さんのことに関しても一応は決着がついたし、なにより、イズミちゃんともこうして久々に会えたし」

その場の空気を変えるかのようにあっけらかんとした口調でアリスはそのようなことを述べ、それから目の前のイズミを笑顔で見つめた。

「姉さん……」

姉の気持ちを察し、イズミは思わず微笑した。
と、そのように場が和んだところへ、

「イズミしゃんはいるのだーっ?!」

またしても甲高い声が割って入ってきた。
玄関先のドアを乱暴に開け放ち、その声の主はズカズカと勝手に店内に入り込む。
そのような傍若無人な態度に、イズミは思わずひきつってしまった顔を無理やり笑顔にした。

「ゆ、ユメノ様じゃあないですか……」
「イズミしゃーん! 久しぶりなのだーっ」

だあっと飛びついて、ユメノはイズミの首元に腕を絡める。
イズミはその反動で思わず椅子ごとひっくり返りそうになり、慌ててユメノを受け止めた。
しばらく沈黙を挟み、イズミが確かめるように目の前のユメノを見つめる。

「で……。ウェルリア王国の皇女が、どうして城下町なんかにいるんですか」
「イズミしゃんに会いに来たんだぞ」
「答えになってません」
「それにな。ーーアリスにも、……会いに来たのだぞ」
「お、お嬢様……!」

いつの間に隣に立っていたのか、アリスが涙ぐみながら潤んだ目でユメノを見下ろしていた。
ユメノがイズミの上からぴょんっと飛び退き、アリスに抱きつく。
その光景は感動の再会そのものであるのだが、イズミは割れそうにうずく頭を抱えて、恐る恐るユメノに尋ねてみる。

「ユメノ様は、どうやってここまで来たんですか?」
「モチロン、父上や兵隊さんたちにバレないように抜け出して来たのだぞ!」


…………何てことだ。

イズミはついにはうめき声に近い声を上げ、ユメノを恨めしそうに見やる。

「ユメノ様。……それって、もちろん黙って来たんですよね」
「そうだな。ユメノたちは今、外出禁止令が出されているからな!」

胸を張ってそのように答えるが、イズミの気分は反対にズブズブと沈んでいた。
「外出禁止の皇女が城を勝手に抜け出して自分のところへやってきた」
それはユメノが勝手にやったことである。
ーーしかし、だ。

「そんなの、僕たちが罰せられるに決まってじゃないですかっ!」

突然立ち上がって咆哮を上げたイズミを、アリスとユメノは目を瞬かせて見つめる。
何事かと、お互いにぽんわりと顔を見合わせている。
イズミはそのような雰囲気を振り払い、自身の身に既に降りかかっている災難を言葉にして表した。

「外出禁止令が出されている皇女と一緒にいるだなんて、国側から重罰受けますよ?!」
「それは違うな」
「どう違うんです!」

これ以上、自分の身に災いは降りかからないで欲しい。
イズミの魂の叫びは、次に発せられたユメノの言葉で粉々に砕かれたのだった。


「ユメノだけではない。ウェルリア王国第一王子、アスカも一緒だぞ!」

笑顔全開のユメノの後ろから、翡翠色の髪を揺らしてアスカがひょっこり顔を出した。
イズミの胃がキリキリと痛んだ。

Re: 【エピローグ】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.203 )
日時: 2014/06/19 23:51
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: up0sn.la)



「えっと……アスカ王子も、ご一緒だったのですね」
「悪いか」

アスカの言葉に、イズミはぶるんぶるんと己を全否定する勢いで大きく首を振る。

「そんなっ……とんでもございませんよ、王子。王子こそ、どうしたんです。お久しぶりですね。まあた、キリさんのことが心配でいらっしゃったのでしょう……」

ーーと。直後、イズミの顔面に大きなクッションが飛んできた。

「っ…………」

唸って、顔面に当たったものを引き剥がす。
イズミの目に、荒い呼吸を繰り返すアスカの姿が飛び込んできた。
肩で大きく息をしながら、アスカはまるで威圧するかのようにイズミに告げる。

「そんなことは、ない。ユメノの、おりだ」
「はあ……」
「まあでも、……アイツのこと、気になってないことは無いんだ。……イズミ、…………キリは?」

アスカの言葉に、イズミは軽く微笑した。

「相変わらずの傍若無人っぷりですね……」

つぶやいて、困ったように眉尻をさげる。

「アスカ王子、そのことなのですが……」

申し訳なさそうにイズミが口を開いた、まさにその時であった。

「あっれー、アスカじゃない。それに、ユメノちゃんまで……!」

数日ぶりに聞いたその声は、すでに明るさを取り戻していた。
ふっと声のした方を振り向くと、そこに、身支度を整えたキリの姿があった。

「キリ……さん」
「おはよう、イズミさん」

にっこりと微笑んだその表情には、まだ少しかげりが見えたがーーそれでも当人は満足そうに鼻を鳴らした。

「うんうん。そろいもそろってーー全員集合って感じだね!」
「キリさん、お身体の調子は……」

イズミの言葉に、キリは目を大きく見開いて、それからくしゃっと表情を崩す。

「……もう平気だよ。ありがとうイズミさん」
「キリさん……」
「あ、それで、みんなに相談したいことがあるんだけどね」

突然の切り出しに、イズミを含めた全員が目をしばたたかせた。

「何ですか?」
「あ、ああ……ウン。いやあ、起きて早々なんだけどさ」

恐縮したように頭をかき、キリは出し抜けにこう切り出した。

「私、帰ろうと思うの。ラプール島へ」


++++++++++++++++++++

ーーいつか、こんな日が来るんじゃないかと思っていた。
否、誰もがそう思っていただろう。

1日に数本しかないラプール島行きの連絡船に乗るために、一行いっこうは近くの港に来ていた。
もちろん、出張から帰ってきたクラーウ氏に事情を説明し、クラーウ氏も見送りに来てもらえるよう頼んだのだが、あいにくまだ仕事が残っているらしく見送りには来なかった。ただ、もう一度店を出る前にクラーウ氏はしっかりとキリの両手を包み込むように握り、しっかりとした目線をキリとかわした。

「また、いつでも帰っておいで」
「ありがとう、おじいちゃん」

今にも溢れそうな涙を堪え、キリとクラーウ氏はそのような言葉をかわす。
クラーウ氏は満足そうに頷くと、そのまま出張に出てしまった。
そうして、今に至る。
周囲には同じようにラプール島行きの連絡船を待つ人々で意外とごった返していた。
その多くはラプール島から出稼ぎに来た者たちで、数少ない連絡船を逃すまいと1時間前には既に多くの人々が港に集まっていた。

「本当に。ありがとね、みんな」

キリが提げている短剣の紅いルビーが太陽の光を跳ね返す。
キリは鼻をすすってイズミたちを見回した。

「キリぃ…………ぐすん。ユメノ、哀しいのだああ……」

ユメノがキリとの別れを惜しむようにして目を潤ませた。

「ユメノちゃんっ……。……ほら、可愛いお顔が台無しだよ?」
「こっ、こんな…………の、……か、関係、無いのだ……」

ぐずぐずと鼻をすすりながら大粒の涙を溢すユメノに、キリは苦笑交じりにハンカチを差し出した。
それを受け取ったユメノは、そのハンカチで勢いよく鼻を咬む。
アリスが慌ててユメノの手からハンカチを奪いとり、その持ち主であるキリに使い物にならなくなったハンカチに対しての謝罪を全身全霊を込めておこなった。
イズミは一連の流れを見て声をあげて笑いはじめ、キリは困った表情でイズミに視線を向けた。

一見、何でも無いような日常風景。
アスカは1人、ぼんやりと蚊帳の外で4人のやり取りを見つめていた。

「キリ…………」

思わず口をつく。
誰も気づいてはいなかった。
それほど微かにつぶやかれた、名前。

ーーオレ、お前がさ、


そう言いかけて、慌てて口をつぐむ。

否、自分は一国の王子、そして彼女はーー。


「なるほどね」

何が「なるほど」なのか。
刹那、イズミはそう呟いたかと思いきや、いきなりユメノを背後から抱え込んだ。
不意をつかれて、ユメノは思わず「ふおっ」と素っ頓狂な声を上げる。

「さ、ユメノ様は僕とこっちに行きましょうか」
「突然何をするのだイズミっ! こらっ、抱きあげるなっ、かかえるなっ! まだキリと話したいことが沢山っ……!」
「なるほどお、そういうですよねえ。そういうことですよねえ。ハイ、イズミちゃん、ユメノ様、行きましょう」
「あっ、アリスまでっ……。なあにが『そういうこと』なのだっ、全くもって、意味がわからんっーー!」
「ハイハイ、お子様はこちらです」
「お子様ではなあいっ!」

イズミとアリスがユメノを連れてその場から離れる。
キリは突然の出来事に何事かと目を瞬かせ、残されたアスカと2人、その場にしばらく立ち尽くしていた。

「キリ。…………実はオレ、お前に、言いそびれていたことがあるんだ」
「え?」

そうしてやっと口にしたその言葉は、キリにとっては全くもって先行きの見えないものであった。

「……何?」

キリにそう聞き返され、アスカは思わずぐっと言葉に詰まる。
ここで返さなければならないのだがーー頭が真っ白になって、次に言うべき言葉が出てこないのが現状である。

「アスカ?」

キリが不安そうになおも聞き返してくる。
ここは、何が何でも、行き着くところまで行かなければならないようだ。

「…………お前、さ。オレと一番最初に出会った時に言っていたことを覚えてるか?」
「最初に?」
「そうだ。最初にだ」

キリはアスカとの最初の出会いを必死に思い出そうと記憶を掘り起こしーー。

「……なんだっけ」

「…………はあ」

思わず拍子抜けするアスカだったが、否、まだまだ予想内の反応である。
気を取り直して。いざ、ゆかん!

「『アンタがあんなところから飛び出してこなければ』って。お前、そういったよな」

ーー未だにキリは首をかしげている。が、今良いところなんだ。構うことは無い。そのままにしておこう、続けよう。

「オレ……オレはあの時、…………お前に出会えて良かったと思ってる」

ざああっと辺りの木々がざわめきを上げ、潮風の匂いがキリの鼻をかすめる。
突然そのような言葉を吐かれ、キリは思わず乾いた笑い声をたてた。

「…………な、何、改まっちゃって、……あははは! アスカらしくなーい」
「ちゃんと聞いてくれ」

がっとキリの華奢な肩を掴むアスカ。

「大事な、話なんだ」
「え……?」

大事な話と聞いて、キリが神妙な顔つきになって口をつぐむ。
周囲のことなど、2人はとっくのとうに気にはしていなかった。

そして、その言葉は、唐突に告げられた。

「キリ、好きだ」

Re: 【エピローグ突入】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.204 )
日時: 2014/06/22 23:00
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)

こんばんは〜!

ついにエピローグですねぇ!

冒頭のシーン、壮絶な前回の話から続けて読むと、胸がいっぱいになります。。。
窓のそばに立つキリの後ろ姿が、目に浮かぶようです。
そういえばこの物語、全編にわたって話のシーンがとても想像しやすかったですよ。

文章が読みやすいのも一因なのだと思いますが、それ以外に色々そうなる要素が散らばっている気がします。

ユメノという大女優兼皇女という女の子の存在もその一因なのでしょう(笑)

今回も大活躍でしたねぇ!
あのシーンで「ふおっ!」はなかなか言えないです(笑)


そして、最後の最後にアスかが、、。
アスカは色々と長かったですからねぇ。キリに初めて会ってから、この瞬間にたどり着くまでが。。
なのでどうにかしてあの一言まで持っていこうとするアスカの奮闘ぶり、応援せずにはいられなかった。。。(苦笑)

でも、過去に大きな因縁のある二人。アスカはいうこと言ってしまったけど、どうなっていくんだろう。。。。


エピローグでもキリやアスカたちが物語をぐいぐい引っ張ってく元気の良さがあって、いい感じですねぇ!
そして羨ましぃです。
自分のスレは、みんな首輪につないだヒモ引っ張らないと話進めてくれないような状況なので。。。。ちょっとどころじゃなく停滞気味です。。



少々私事が入ってしまいましたが、、、登場人物全員が満足のいくエンディングが迎えられることを祈っております!!

あと、前回の明鈴さんのコメで、小生などにはもったいなさ過ぎるお言葉をいただきまして、なんと感謝すればいいのか。。。。恐縮しております。
ホント好き勝手に自分の思い込みを書いてるだけなので。。。。(汗汗汗)


最後まで執筆頑張ってくださいっっ!!!
それでは、また〜〜!


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