複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【第一部】ウェルリア王国物語-紅い遺志と眠れる華-【完結】
- 日時: 2015/03/17 15:15
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jwkKFSfg)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16841
┝━━━━━━━━━━━━━┥
│奪われた小箱—— │
│ 失われた記憶—— │
│ 彼らの存在意義—— │
│ │
│ 此れ等が交わる時 │
│ 全ての物語は │
│終焉を迎える・・・ │
┝━━━━━━━━━━━━━┥
〜『レーゼ=ファミリアの手記』より抜粋
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■お知らせ!■ 2014.07.21 <閲覧ありがとございます>
・【無 事 完 結 !】<ご感想いただけたら嬉しいです
・上のURLは【続編:ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-】にとびます。
〆こちらもよろしければ‥合わせてお願いします^^
・昔まとめていたキャラの設定
追加投下しました(^^ゞ じ・こ・まん! >>214
<目次はこのスレの下の方にあります↓↓↓>
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■イメ画とか!■
・>>115 書き述べる様がなんと、
とあるゲームのキャラメイク機能で、キリのモデルを作ってくださいました♪
・キャラ画、描いていただきました♪
本当に、ありがとうございます。
【キリ&アスカ】>>083 by Noelle様
【イズミさん】>>084 by 多寡ユウ様
【ユメノ皇女】>>117【リィさん】>>118
【キリ】>>119 by 萃香様
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■あ・ら・すじ■ >>018 主な登場人物紹介
失われた記憶、紅い宝石、それぞれに秘められた過去——
主人公のキリは仲間とともに奪われた【小箱】を求めて旅に出る。
そこで待ち受けていたのは、果たして——
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
【ウェルリア王国物語〜紅い遺志と眠れる華〜】
・・・目次・・・
主な登場人物 >>018
◆
補完:表向きの歴史 >>025
◇
プロローグ:始まりの場所 >>002
◆
第一章 出会い編
第一話:出発の朝 >>003-005
第二話:梟と少年 >>006-009
第三話:嘘つきの代償 >>010-012
第四話:予想外の襲撃 >>013-016
第二章 旅立ち編
第一話:それぞれの思惑 >>021-022
第二話:不穏な行動 >>023-024
第三話:虚偽の王子 >>027-028 >>031-032
第四話:見破られた正体 >>033-034 >>039
第三章 潜入編
第一話:囚われた少年少女 >>040 >>043-044
第二話:侵入者の取引 >>045 >>048-049
第三話:脱走、その後 >>052-054
第四章 捜索編
第一話:喫茶店ジュリア—ティ >>055 >>059
第二話:呪術師 >>062-063
第三話:不穏な動き >>071-072 >>074
第四話:華麗な脱走計画 >>076-078
第五章 手がかり編
第一話:ウェルリア王国の歴史 >>079-086
第二話:小箱の行方 >>087-089 >>092
第三話:再会 >>093-095 >>098-099
第四話:再び、ウェルリア城へ >>100-103
第六章 真実への序章編
第一話:闇の中 >>104-105
第二話:イズミの過去、キリの過去 >>107-109
第三話:突然の来訪者 >>112-114 >>120-121
第四話:蠢く影 >>124 >>126-128 >>130-131 >>134-136
第七章 解決編
第一話:誘拐 >>139-144
第二話:邂逅 >>145-147
第三話:異変 >>148-151 >>154-158 >>161-164
第四話:姉弟 >>165-166 >>171-173
最終章 終焉編
第一話:独白 >>174-176
第二話:正体 >>177-181
第三話:動機 >>182 >>185-188
第四話:終幕 >>189-194 >>197-198
◇
エピローグ:再び始まりの場所へ >>201-203 >>206
◆
あとがき >>207
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
【この小説のお客様♪(コメライ時含む)】
*七海 様 *紫隠 様 *友桃 様 *小虎。様 *カサゴの刺身 様 *シア 様 *書き述べる 様 *凛 様 *伊織 様 * tatatatata 様 *はる 様 *雨 様
いつもありがとうございます(^^ゞ
もっともっと精進します。
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
※2014冬カキコ内の小説大会・複雑ファジー板で
【銀賞】を頂きました(#^.^#)ありがとうございます。
★━━━━−−———————————————————————————————
『複雑・ファジー板』書き始め日*2013.07.08〜2014.06.26
参照50突破*2013.07.10 参照100突破*2013.07.15
参照333*2013.09.14 参照400突破*2013.09.22
参照540突破*2013.10.30 参照600突破*2013.11.06
参照700突破*2013.11.13 参照940突破*2013.12.23
参照1600突破*2014.01.18 参照2000突破*2014.01.25
参照3000突破*2014.02.16 参照4000突破*2014.03.07
参照5400突破*2014.04.24 参照5880突破*2014.06.26
参照6000突破*2014.06.30 参照7000突破*2015.03.16
■□■
参考『コメディ・ライトでの戦歴』2013.06.15〜2013.07.08
参照50突破*2013.06.17 参照100突破*2013.06.20 参照200突破*2013.06.27
参照300突破*2013.06.30 参照400突破*2013.07.05
- Re: 【感想お願いします】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.24 )
- 日時: 2013/07/11 04:25
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)
そこには、時計店の受話器を耳に押し当てたイズミの姿があった。
誰かと電話をしているようだ。
「なあんだ、イズミさんかあ。ビックリしたあ」
胸を撫で下ろし、キリはそのままどんどん階段を降りていく。
降りると同時に、イズミの声もだんだん聞き取りやすくなってきた。
微かにだが、聞き取れる位置まで来た。
イズミは電話に集中しているのか、キリが階下に降りてきていることには、気がついていない。
「……で、…………そうか。よろしく頼みますよ。……はいはい。ではまた後ほど、……様」
電話を終えたイズミはふうと深い溜息をついて——キリに気がついた。
「えっ? うわっ……。き、キリさん?! い、いいいつからそこに?!」
「さっきからだけど」
「さっきって、え、……そんな。まさかこんな時間に降りてくるとは……」
気がつかなかった、と、珍しく慌てふためくイズミに、キリは「ああ」と気楽そうな声を出した。
「心配しないで、イズミさん。電話の内容、さっぱり分からなかったから♪」
ケロっとした口調のキリ。
イズミはひとまず、コイツが馬鹿で良かったと安堵した。
「で? 何の話してたの? こんな時間に。誰と?」
畳み掛けるようなキリの質問に、イズミは冷や汗を流しながら答える。
「あ、あれですよ。色々あるんです、僕も」
「ふうん」
ここで更に問い詰めたくなるのが人間の性。
しかしキリの心中は、好奇心よりも食欲の方が優っていた。
「ところで何か美味しいものないかなあ〜〜」
イズミに背を向けてキッチンに向かおうとするキリ。
その肩をイズミが軽く掴んで進行を阻んだ。
「キリさん」
「へ。あ、ハイ」
間の抜けた返事をして、イズミを振り返る。
「何か用ですかね、イズミさん」
「一つお聞きしたいことがあるんです」
「うん」
「アスカ、くんのことについて、なんですけど」
「アスカ? アスカがどうかした?」
「キリさんはアスカくんのことについて、どのくらい知ってるんです?」
「……ハイ?」
突然の質問だった。
キリは思わずあっけにとられた様子でイズミを見上げていた。
「どのくらいって……それ、どういう意味?」
「あ、いや、まあその…………色々ありまして」
電話が終わった直後から、イズミが妙に挙動不審だ。
キリは訝しがりながらも、指折り答えていく。
「えーっとね、アスカはフクロウ飼ってるでしょお。なんか突然走り出すでしょお。女のことを見くびってるでしょお。王子探してるでしょお。平民って言ってたでしょお。なんかに怯えてるでしょお。……このくらいかな」
「…………」
「イズミさん?」
「本当に、それだけですか」
「うん」
「それだけ、ですか」
「うん」
「……そうですか…………」
予想はしていた、が。
イズミは思わず口の中を噛み締めていた。
——いくらなんでも、鈍すぎだろ。なんなんだ、この女は。
アスカがウェルリア国王位継承者第一王子であるのは、読者の皆様も知っての通り。
イズミも当然知っているのだが、キリは気づいていないという。
こんなにそばに居るのに。
そのことについて、イズミは納得出来ないでいた。
「ありがとうございますキリさん。お答えいただいて」
「いやいや〜」
気楽に返事をして、キリは再びキッチンに向かっていた。
その後ろ姿を眺めながら、リビングに一人残されたイズミは凝然としていた。
——まあでも。
自問自答するように心の中で呟く。
——アスカ王子の正体を知られていない方がこれから遂行する作戦に支障は出ないだろう。……アスカ王子には悪いけど。
そしてちらりとキッチンの方を見た。
キリは何食わぬ顔で他人のキッチンからクラッカーの缶を取り出していた。
何も知らずに。
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次⇒【CHAPTER13 旅立ち-It is meaningless.- 】>>27
⇒【用語解説1 表向きの歴史-explanation-】>>25
- Re: 【感想お願いします】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.25 )
- 日時: 2013/07/10 00:56
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)
■用語解説1■表向きの歴史-explanation-
【ウェルリア国】
正式名称:ウェルリア王国
建国から約200年間、【ファーン家※別項目参照】によって統治されていた。
今から約10年前に【ウェルリア大革命】が起こり、現在は【ウィルア家】がこの国を統治している。
北部・中部・南部に分かれていて、順に、農業中心の街、商業中心の街、【呪術師】中心の街である。中部は城下町であり、港もあるので、ウェルリア国の中心部でもある。
【ウィルア家】
現在、ウェルリア国を治めている王族。
【ウェルリア大革命】の中心人物。元は農民。
現在の当主はライベル=ウィルア。
妻(王妃)はレミリア=ウィルア。
子どもが二人おり、第一王位継承者・アスカと、6歳の皇女・ユメノ。
【ファーン家】
ウェルリア国建国時から約200年間治めていた一族。八代まで続いた。
【ファーン三世】の時代より、戦争を始める。
【ウェルリア大革命】にて反政府軍によって抹殺。
近年、【ファーン家】の手の内の者が【ウィルア家】に復讐を果たそうとしているという誠しなやかな噂が流れているが、果たして……。
【ウェルリア大革命】
今から10年前に起こった、民衆による反乱。
戦争で貧困に陥った民衆の不満が募りに募って、王族に対する大暴動がおきる。
中心人物は後に国王となるライベル=ウィルア。
その際に【ファーン家】は抹殺。
【ファーン城】もこの時に壊される。
大革命が起こった発端は、【ウェルリア大革命】以前に起こった【呪術師暗殺事件】。この事件の2年後に【ウェルリア大革命】が起こった。
【呪術師暗殺事件】
今から12年前に起こり、【ウェルリア大革命】の引き金となった事件。
事件概要は、ファーン八世の助言者であった【呪術師】レーゼ=ファミリアが何者かに毒殺されたもの。犯行は複数の過激派によるものと言われている。
【呪術師】・レーゼに関しては、前々から民衆の間で、「ファーン八世に何か良からぬことを吹き込んでいる。そのせいで戦争が悪戦苦闘に陥っているのだ」との噂が広まっていた。
この事件以降、国は【呪術師】の生業を表向き禁じた。
【呪術師】
【呪術師暗殺事件】以降、国に表向きの活動を禁じられた。
ウェルリア国南部に多く暮らしている。
水晶やタロットカードなどを使って占う。魔女のような存在でもある。
現在は自営業を営んでいる元呪術師が多いが、中には未だに裏でひっそりと呪術師の仕事をしているのもいる。
【ファーン城】
国で一番大きな湖の中央に建築された城。【ファーン三世】が命じた。
城へ行くには船で渡るか、もしくはある一定の時間がくると、陸につながる一本の道が現れるのでそのタイミングで歩いて向かうかの二択。ちなみに道が現れるのは、潮の満ち干きが関係しているのではないかとのこと(学者談)。
【ウェルリア大革命】の際に反乱軍によって破壊された。
【ウェルリア城】
【ファーン城】の跡地に建てられた城。
ウィルア国王が【ファーン家】の復讐を恐れて2年前に建築要請した。
国中の腕の良い大工を呼び集め、建築した。
【ファーン三世】
【ウェルリア国】を戦争の惨禍へと導いた人物。自身は戦争が大好きで、非常に傲慢な性格であった。自分の意見以外を聞こうともしなかったという。
2013.07.10 現在*執筆中…
- 独り言〜 ( No.26 )
- 日時: 2014/02/21 21:48
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: ZfyRgElQ)
【小箱】がぬすまれてしまいました。
盗んだ集団は【小箱】の存在をもとから知っているようです……
一体、この【小箱】はなんなのでしょうか。
——とか、なんかRPGじゃないけど、そんな感じでストーリー性のあるゲームとか漫画にしたいなあとかなんとか言うだけタダだからッ!()
- Re: 【7/10*更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.27 )
- 日時: 2013/07/11 04:17
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)
■CHAPTER13■ 旅立ち-It is meaningless.-
ゴーン…ゴーン…ゴーン…。
鐘が七つ鳴り響く。
時計塔が午前7時を知らせた。
キリ達は朝食を済ませると、各自で身支度を整えていた。いよいよ出発だ。
「……よしっ」
腰に短剣を提げて。
姿見で自分の姿を確認したキリは、満足げな表情でその場を後にした。
++++++++++++++++++++
「忘れ物はないかー?」
支度を終えて集まった時計店の玄関先で、キリとアスカとイズミは、クラーウから再度確認を受けていた。
「うん、大丈夫っ!」
「無茶するんじゃないぞ」
「うん!」
満面の笑みで答えるキリ。
横で見ていたアスカは心の中で、本当に大丈夫なのかよ、と、ぼやく。
「じゃあお爺さん、行ってきまーす!」
「気ぃつけてなあ!」
手を振って、キリ、アスカ、イズミは城を目指して歩き始めた。
フクロウのシィはクラーウの肩にとまってお留守番。
名残惜しそうにアスカを見て、弱々しくホウと鳴いのだった。
++++++++++++++++++++
しばらくして。
「お腹すいたあ〜。休憩〜」
立ち止まって、クラーウに持たせてもらった弁当箱をいそいそと開け始めるキリ。その手を強引に掴んで止めるアスカ。
「まだ歩いて30分も経ってないんだぞ。我慢しろ」
「お腹すいたんだもんー」
「さっき朝食食べたばかりだろうが! しかも食パンを5枚頬張ってたのは何処のどいつだ?!」
「此処のコイツでーす!」
「分かってんだったら、食べるな!」
アスカの言葉に、キリはぶつくさ言いながら肩からかけていた鞄に弁当箱を仕舞いこんだ。
その様子を見て、イズミが苦笑する。
先程からこの繰り返しであった。
少し歩いては「お腹すいた」少し歩いては「お腹すいた」——一体、キリの胃袋はどうなっているのか。
確か朝食を食べる前にクラッカーを食べ漁ってたよなあ、この女——と朝のことを回想していたイズミだが、朝のことについてはあまり蒸し返したくなくて、心の中にそのことを留めておく。
三人は、特に邪魔者に阻まれることもなく、順調に城への道を歩き続けていた。
出発から1時間程歩いたところでイズミが休憩をしましょう、と提案した。
歩き疲れた二人が賛同して、近くの木陰で一時休息タイムとなった。
アスカは木の幹にもたれかかってぐったりとしている。キリは、やっとご飯にありつけるとばかりに勇み足で座り心地の良い岩を見つけて腰掛けると、鞄から厳かに弁当箱を取り出した。
丁寧に包みを開き、かぱっと弁当箱の蓋を開ける。
そこには、色とりどりの野菜が、そしてケチャップライスが詰められていた。一気にキリの目が輝く。
「いっただっきまあーす!」
物凄い勢いで手を合わせ、早速ご飯にありつこうと——。
「おい! そこの者っ!」
声をかけられたようだが、それよりも今は食事だ。食事。
何事もなかったかのように、キリはトマトを1つ、口に含む。
「無視するでない! こら、そこのボンクラ娘っこ!」
甲高い声と共に、キリの目の前から弁当箱が突如として消え去った。
悲鳴を上げて弁当箱の行方を追ったキリは、弁当箱をふんだくってむくれている一人の子どもと目が合った。
「我は王子であるぞ!」
子どもは、確かにそう言った。
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次⇒【CHAPTER14 虚偽の王子-Sister-】>>28
- Re: 【旅立ち】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.28 )
- 日時: 2013/07/11 23:18
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)
■CHAPTER14■ 虚偽の王子-Sister-
「我は王子であるぞ!」
キリの弁当箱を奪い取り、目の前の子供は確かにそう言った。
王子。王子。王子。キリの頭の中でその言葉が無数に反響する。
しかし、キリは構わずに、涙目で弁当箱を返せと訴えた。
"王子"と名乗った子どもは怯んだように黙り込み、すぐに言い返す。
「……っわ、我は王子であるぞ! 無視することないであろう!! 弁当を返して欲しければ、ちゃんと謝るのだっ!」
「分かった、分かりましたああ。ごめんなさい〜〜。もう無視しないから。だから、お弁当返して〜〜」
食料を取り返すためだったら、どんな恥ずかしいことでもやり遂げるキリである。
情けない声を出して、ひたすら弁当奪還を求める。
その様子に、推定年齢6歳ほどの子どもは満足そうにふんぞり返ると、
「しょうがないのう。謝られたら、返すしかないな。ほれ」
「ありがとう、王子様!」
キリは差し出された弁当箱を満面の笑みで受け取った。
そして、
「……ん? 王子、様?」
子供の顔をじっくりと見た。
そのまま、ゆっくりと呟くように、言う。
「ねえ、キミ、女の子だよね」
「違うぞ! 我は王子なのだ!!」
「えー……。どう見ても、目がクリクリした、可愛い女の子にしか見えないけど……」
「えっ、そ、そうか? 可愛いか? ……っではなく、ゴホン。我は、王子なのだ! 誰がなんと言おうとも!!」
「うっそおお……」
「王子と言ったら、王子なのだ!! 王子なのだあああ!!」
ジタバタと暴れ始めた少女に、それまで木陰で休んでいたアスカが無言で近づいていった。
かと思うと、いきなりその頬をギュッと抓る。
「ひててててっ!!」
涙目の少女に、キリがもう一度問う。
「ね、キミ、女の子だよね」
「だあから、我は王子で……!! …………ひてててっ」
涙目で暴れる少女、その頬を無言で引っ張っているアスカ、問い詰めるキリ。
イズミはその光景を傍から見つめながら、
「これは、立派な集団リンチですね……」
呟いたのだった。
そんなイズミの存在に気づいた少女。
手を伸ばして助けを求めた。
「イズミしゃああん! 助けてなのだああっ」
キリとアスカがその言葉に瞬時に反応した。
「……イズミさん。この子と、知り合いなの? なんでイズミさんの名前を知ってるの?」
とキリ。
「おいイズミ。なんでコイツがこんなところにいるんだ。説明してもらおうか……!!」
とアスカ。
イズミの頬に冷や汗が伝う。
と、少女が口を開いた。
「イズミしゃんは我の下僕であるぞ! な、イズミしゃん?」
「……ユメノ様、…………もう、大丈夫です。ハイ。お付き合い、ありがとうございます……」
「なに? もう王子の真似はしなくても良いのか? ふうっ。それは良かった」
自己完結型にそう言うと、ユメノはアスカを見据えた。
「やはり王子とは堅苦しいものだな。な、アスカ兄上」
「……兄上…………?」
少女・ユメノの言葉に、キリは思わず首をかしげる。
そこにアスカが慌てて割って入る。
「あっ、あっははははははは!!」
笑ってから、アスカはユメノを素早く振り返り、素早く頭を叩いた。
その顔は焦燥感たっぷりだ。
「こらユメノ! 何言ってんだ! 兄上言うなっ!!」
「え〜〜。良いではないかあ。どうせ城では一人だし。遊び相手といえば、お世話係のウィンクだけ。……奴はドジな上にバカだからユメノの遊び相手としては暇を持て余すのだー。だから、兄上といたほうが楽しいのだ!」
「んな問題じゃないっての!! ……って、お前…………」
ユメノの言葉に、アスカの顔からサッと血の気が引いた。
「今、"城"って……言ったか」
「言った。それがどうかしたのか? ユメノたちの住んでいる"ウェルリア城"のことだが……」
「わあああああっ!!」
アスカの叫び声に、キリは驚いた。
そしてユメノの言葉を反芻する。
「"ウェルリア城"……?」
「あ、い、いや、それはそのっ……!!」
どうすることも出来ず、ひとまず頭を掻いてごまかすアスカ。
イズミはその様子を内心ハラハラと見守っていた。
どうすることも出来ないので、黙って見ているしかない。
——しかし…………。
イズミは心の中で、一人ごちた。
——この女、やはりもうアスカ王子のこと、気がついているんじゃないか……?そうじゃないと、いくらなんでも鈍すぎる。
というか、バレているバレていない云々よりも、もはやこの妹さんが素でアスカ王子の正体をバラしにかかっている。
「ねえ、アスカ。顔色悪いけど……」
「な、なんでもない! 大丈夫だ。いや、本当に。……とにかくキリ、コイツ(ユメノ)には構うな」
「兄上〜。この者はなんなのだ? 兄上の彼女なのか?」
「いっ……?!」
そう言ってアスカの後ろからひょっこりと顔を出したのはユメノだった。
アスカの表情が固まった。
キリは"彼女"という言葉の意味が理解できておらず、首をひねっている。
「ちっ、違うっ……!!」
「じゃあなんで一緒にいるのだ?」
「こっちにも色々とワケがあるんだよっ!」
「やはりアレか、"駆け落ち"ってやつか」
「違うっ! というかお前、どこでそんな変な単語を覚えてきた。……さてはウィンクの仕業だな」
「いやあ、"昼ドラ"というのは面白いモノだな。この前ウィンクがビデオを持ってきてくれたので、一緒に鑑賞会をしたのだぞ」
「あんのメイドっ……!!」
6歳の少女に、ドロドロ不倫三角関係ネタ満載の昼ドラを見せる"お世話係"がどこにいる。
アスカは頭を抱えた。
それを横目に「そう言えば」とキリがユメノに尋ねる。
「ユメノちゃん、だっけ」
「そうなのだ。ユメノ=フィファルーチェ=ウィルアであるぞ! ここに来たのは、今朝イズミしゃんに電話で呼ばれてなのだが……」
その言葉にイズミがギクリと身を震わせた。
全く、要らぬ事まで喋ってくれる娘である。
怒りに震えていたアスカが、イズミに詰め寄り、
「おいイズミ。どうしてユメノを呼んだんだ」
「だ、だってですよっ、お城に入るには証明用のカードを出さないと入れないじゃないですかあ。ホラ、特に今、城は、反政府軍を警戒していますし。おかげで近年、入門チェックも厳しくなったと聞きます。僕だけ侵入するならまだしも、アスカ王子とキリさんの三人で"潜入"となると……。とすると、ウィルア家のお嬢様のお力を借りてですね……」
「そ、それだったらオレも王子だぞ! お前も元々兵士じゃないか!」
「しかし、アスカ王子と僕はお城から逃亡中の身なんですよ? もし城に入れたとしても、同行していたキリさんは牢屋行きとなる可能性だって……!」
「んなの、まだバレてないんだから大丈夫だろ?! それに、なんでよりによってユメノなんだよ。オレ、ユメノ苦手で…………!!」
キリをそっちのけで話がヒートアップしていた二人は、「ねえ、」とキリに声をかけられ、思わず我に返った。
「……ねえ、さっきから"王子""王子"って、……アスカって、王子なの?」
……どうやら地雷を踏んでしまったようだ。
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次⇒【CHAPTER15 追跡者の考察-At a Wellria castle-】>>31-32
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