複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【第一部】ウェルリア王国物語-紅い遺志と眠れる華-【完結】
- 日時: 2015/03/17 15:15
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jwkKFSfg)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16841
┝━━━━━━━━━━━━━┥
│奪われた小箱—— │
│ 失われた記憶—— │
│ 彼らの存在意義—— │
│ │
│ 此れ等が交わる時 │
│ 全ての物語は │
│終焉を迎える・・・ │
┝━━━━━━━━━━━━━┥
〜『レーゼ=ファミリアの手記』より抜粋
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■お知らせ!■ 2014.07.21 <閲覧ありがとございます>
・【無 事 完 結 !】<ご感想いただけたら嬉しいです
・上のURLは【続編:ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-】にとびます。
〆こちらもよろしければ‥合わせてお願いします^^
・昔まとめていたキャラの設定
追加投下しました(^^ゞ じ・こ・まん! >>214
<目次はこのスレの下の方にあります↓↓↓>
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■イメ画とか!■
・>>115 書き述べる様がなんと、
とあるゲームのキャラメイク機能で、キリのモデルを作ってくださいました♪
・キャラ画、描いていただきました♪
本当に、ありがとうございます。
【キリ&アスカ】>>083 by Noelle様
【イズミさん】>>084 by 多寡ユウ様
【ユメノ皇女】>>117【リィさん】>>118
【キリ】>>119 by 萃香様
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■あ・ら・すじ■ >>018 主な登場人物紹介
失われた記憶、紅い宝石、それぞれに秘められた過去——
主人公のキリは仲間とともに奪われた【小箱】を求めて旅に出る。
そこで待ち受けていたのは、果たして——
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
【ウェルリア王国物語〜紅い遺志と眠れる華〜】
・・・目次・・・
主な登場人物 >>018
◆
補完:表向きの歴史 >>025
◇
プロローグ:始まりの場所 >>002
◆
第一章 出会い編
第一話:出発の朝 >>003-005
第二話:梟と少年 >>006-009
第三話:嘘つきの代償 >>010-012
第四話:予想外の襲撃 >>013-016
第二章 旅立ち編
第一話:それぞれの思惑 >>021-022
第二話:不穏な行動 >>023-024
第三話:虚偽の王子 >>027-028 >>031-032
第四話:見破られた正体 >>033-034 >>039
第三章 潜入編
第一話:囚われた少年少女 >>040 >>043-044
第二話:侵入者の取引 >>045 >>048-049
第三話:脱走、その後 >>052-054
第四章 捜索編
第一話:喫茶店ジュリア—ティ >>055 >>059
第二話:呪術師 >>062-063
第三話:不穏な動き >>071-072 >>074
第四話:華麗な脱走計画 >>076-078
第五章 手がかり編
第一話:ウェルリア王国の歴史 >>079-086
第二話:小箱の行方 >>087-089 >>092
第三話:再会 >>093-095 >>098-099
第四話:再び、ウェルリア城へ >>100-103
第六章 真実への序章編
第一話:闇の中 >>104-105
第二話:イズミの過去、キリの過去 >>107-109
第三話:突然の来訪者 >>112-114 >>120-121
第四話:蠢く影 >>124 >>126-128 >>130-131 >>134-136
第七章 解決編
第一話:誘拐 >>139-144
第二話:邂逅 >>145-147
第三話:異変 >>148-151 >>154-158 >>161-164
第四話:姉弟 >>165-166 >>171-173
最終章 終焉編
第一話:独白 >>174-176
第二話:正体 >>177-181
第三話:動機 >>182 >>185-188
第四話:終幕 >>189-194 >>197-198
◇
エピローグ:再び始まりの場所へ >>201-203 >>206
◆
あとがき >>207
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【この小説のお客様♪(コメライ時含む)】
*七海 様 *紫隠 様 *友桃 様 *小虎。様 *カサゴの刺身 様 *シア 様 *書き述べる 様 *凛 様 *伊織 様 * tatatatata 様 *はる 様 *雨 様
いつもありがとうございます(^^ゞ
もっともっと精進します。
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
※2014冬カキコ内の小説大会・複雑ファジー板で
【銀賞】を頂きました(#^.^#)ありがとうございます。
★━━━━−−———————————————————————————————
『複雑・ファジー板』書き始め日*2013.07.08〜2014.06.26
参照50突破*2013.07.10 参照100突破*2013.07.15
参照333*2013.09.14 参照400突破*2013.09.22
参照540突破*2013.10.30 参照600突破*2013.11.06
参照700突破*2013.11.13 参照940突破*2013.12.23
参照1600突破*2014.01.18 参照2000突破*2014.01.25
参照3000突破*2014.02.16 参照4000突破*2014.03.07
参照5400突破*2014.04.24 参照5880突破*2014.06.26
参照6000突破*2014.06.30 参照7000突破*2015.03.16
■□■
参考『コメディ・ライトでの戦歴』2013.06.15〜2013.07.08
参照50突破*2013.06.17 参照100突破*2013.06.20 参照200突破*2013.06.27
参照300突破*2013.06.30 参照400突破*2013.07.05
- ありがとうございます(*^^*) ( No.168 )
- 日時: 2014/03/14 01:23
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: GUeCGhoP)
>>167 書き述べるさま
お久しぶりですー!
お忙しい中、寄って下さりありがとうございます。
そうなんてす、気づけば更新三昧で容量が物凄いことに……(^=^;
長々と連ねてますが、読んでいただけると嬉しいです(><)
ありがとうございます!またお待ちしております^^
明鈴
- Re: 【最新話更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.171 )
- 日時: 2014/03/15 08:35
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: hDIDYMPI)
【本編再開】
「姉……さん…………?」
目の前のメイドが、にっこりと微笑んでいる。
けれどその女性は、イズミにとっての——。
「アリス……姉さん、なの…………?」
「…………」
メイドは、なおも黙ったままだ。
イズミは大きく深呼吸をすると、今起きている出来事を自分なりに理解して、それからゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「え……だって…………。……いや、確か姉さんは10年前のあの日、僕を置いて行方不明に……」
「あの時は——本当にごめんなさい、イズミ」
メイドの表情が暗く沈む。
そうしてため息をついてから、近くの椅子に腰をかけた。
「あの日、私はファーン城の様子を見に行ったの」
燃え盛る炎——
倒壊寸前の建物——
『貴方は先に安全な所へ行きなさい。 お姉ちゃんはちょっと様子見てくるか ら』
10年前——小さな弟にそう告げ、アリスは1人、つい先日まで過ごしていた城に戻った。少し様子を見るだけだった。
なのに————。
「……農民たちの激しいクーデターのせいで、城は崩壊。私は崩れ落ちてきた城壁に押し潰されそうになって——気がついたら、どこかの民家のベッドの上だったの」
それは、現ウェルリア国王にあたるウィルア家の自宅であった。
「奥様のレミリアさんが傷だらけの私を拾ってくれたのよ。——丁度1歳になる我が子もいるし、面倒を見て欲しいって。その直後だったわ、ウィルア家の当主がウェルリア王国の国王になったのは」
アリスは当時の記憶をぽつりぽつりと語りながら、視線はどこか一点を見据えていた。
イズミは壁にもたれかかったまま、静かに話を聞いている。
アリスの話は続く。
「私はまだ10代だったけれど、レミリア奥様に言われてアスカ王子の遊び相手をよくしていた。それは可愛らしかったわよお、王子様。————それからユメノ様がお産まれになって……」
「…………」
「私はユメノ様のお世話係としてウェルリア城で正式に働くことになりましたとさ」
「それ、は……」
「でもその反面、私は密かに【別の目的のため】に動いていたんですよ」
それを聞いて怪訝そうに眉をひそめたイズミに、アリスの視線が絡み合う。
「【別の目的のため】……?」
「そうよお。自分がレーゼの実の娘だとバレないように正体を隠してね」
「正体を……」
「そう。私があのレーゼの実の娘だってバレたらヤバイでしょう。だからあの日以来、私は【アリス=ファミリア】って名前は封印して、【ウィンク=モンテカルロ】としてずうっと過ごしてきたのよ。その時が来るまでね」
アリスはバッチリと片目を瞑った。
「それでその目的っていうのはね、——まず1つ目、【ウェルリア大革命の真実を暴き出すこと】。これは、レーゼ父さんの遺言の通りね。【本当の歴史を、隠された真実を、必ず暴き出す】————ドジっ子メイドさんのふりをしていると、結構みんな油断して情報漏らしてくれたりするのよ」
そうして再度バッチリと片目を瞑る。
——女って怖いな。
アリスの話を聞いてイズミが率直に思ったのは、そのような感想だった。
そうとは知らない実の姉は、自己満足というようにしきりにウンウンと頷いて、
「そしてもう1つは——」
ぐっとイズミを見据える。
「【あの日生き別れになった実の弟を見つけ出すこと】よ」
イズミの目が大きく見開かれた。
- Re: 【最新話更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.172 )
- 日時: 2014/03/15 23:43
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: hDIDYMPI)
「僕を……」
「そうよ。これはすぐに任務を果たせたわ」
アリスの言葉に、それが何故なのかと聞こうとしたイズミであったが、すぐさま思い当たる節を自身で見つけ出して、思わずつぶやいていた。
「そうか……僕がウェルリア兵にいた時期……」
「そーよ、正解っ」
アリスの表情は、とても嬉しそうであった。
「【イズミ】って名前を聞いて、すぐにピンっときたの。とても優秀な兵士さんがやってきたって。メイドの間でも随分噂になっていたのよお」
「そう、なんですか」
「アナタ、幼い頃から器用だったもんねえ。【イズミ=ファウシュティヒ】、——ううん、【イズミ=ファミリア】だって、すぐに気がついたわ」
それから実の弟との接触を図ろうと試みたのだが、イズミが城から逃げ出してしまったことに触れ、「タイミングを逃した」とアリスは語った。
「けれどね——こうして久々に会えて…………お姉ちゃん、感激だわ!」
「それはこっちのセリフだよ……10年ぶりだもん……ね。なんだか、ビックリしてるよ」
はにかむように笑みを浮かべるイズミ。
「でも、——嬉しい。見つけてくれて、ありがとう」
「イズミちゃん…………!」
「姉、さん」
軽く抱擁を交わし、すぐに身を硬くする。
「イズミちゃん、追われているのよね」
「ハイ。まあ、【ある人物】のせいですけどね」
リークの姿を思い浮かべて、イズミは軽く眉をしかめる。
「脱出口でしたらお姉ちゃんに任せなさいッ! ここのことを調べてるうちに随分とお城に詳しくなっちゃったんだから!」
メイド服の両腕を捲くりあげ、声を張るアリス。
イズミは慌ててその口を塞ぐと、嬉しそうに顔をほころばせた。
「城からの脱出口……やっぱりあるんですか、隠し通路が」
「そうよお。お姉ちゃん、見つけちゃったんだから!」
そう言いながら、何故か部屋の奥へ歩を進める。
そしてしばらくして元いる場所にやってきたアリスの手に握られていたのは——。
「それは…………」
「ウェルリア兵の制服よ」
これを着て逃げなさい、と、アリスは半ば強引にイズミにそれを押し付けた。
「まあイズミちゃんのことだから、兵士さんたちに見つかることはないと思うけど。念には念を入れて、ね」
イズミはそれを受け取って、お礼を述べると、
「……姉さん」
「なあに?」
しばしの沈黙。
ひと呼吸のちに、
「また、……会える、かな」
「もちろんよ」
大きく頷いて、イズミの手を包み込むように自身の手で覆う。
「お互いに、別々ではあったけれど……ちゃんとお父さんのいう通りに真実を追い求めていた。もしかしたら、ここでこうして再び出会えたのも【父さんの予想範囲内】だったのかもね」
くすりと笑って、己が運命を嘲る。
「そうだわ! イズミちゃん、——私、明日ね、城下町に買い出しに出かけるの。その時に、会いましょうよ」
「姉さん……」
イズミはゆっくりと頷いた。
「分かった。また連絡します」
「うん、またね。気をつけて……」
——
————
————————
「そうして————僕は兵士さんに紛れながら隠し通路を通ってお城の外に逃げ出したんです」
「なるほどお。だからイズミさん、濡れてなかったんだね」
「……その後に、僕はキリさんと一緒に時計店で一夜を明かして、翌日、改めて呪術師のお婆さんのところに向かったんです」
「そのあと……確かイズミさん、『用事が出来た』とかって言って、私に先に時計店に行けって…………」
そこまで言って、キリが「ああっ」と声を上げる。
「イズミさんの『待ち合わせしてた人』って、まさか、【お姉さん】……だったの?!」
「全く……相変わらず変なところで記憶力が良いんですから」
イズミは微笑して、ゆっくりと頷いた。
「そうです」
「そうなのよお〜。あの時イズミちゃんったらキリちゃんたちに見つかっちゃってね。結局会えなかったのよね。あの時は悔しくって、思わず唇噛んじゃったわよ、お姉チャンっ!」
ウィンクの妙に弾んでいる声が室内に響く以外は、再度水を打ったように静まり返っていた。
直後、ひそひそと兵士たちが影で話を始める。
「城の中に内通者がいたなんて……」
「どういうことなんだよ」
「つまりはファーン家の奴らで……」
「敵じゃないかっ!」
「どうするんだよ、城の中にこいつら野放しにしておくのかよ」
「アスカ王子も、まさかこいつらの仕業なんじゃあ……」
「さっきもヨハン先生を殺ろうとしてたんだよな」
「そうだよ! こいつら……」
「お前たち、仕事に戻れッ!」
ビリビリ——と。
ヨハンの声が室内全体を震わせた。
まさに鶴の一声と言えるか。
「イズミたちの処分はのちのち私たちでなんとかする。お前たちは目の前のことに集中しろ。良いな、無駄な私語は一切慎めッ!」
兵士たちは一気に押し黙ると、即座にそれぞれの仕事に取り掛かっていた。
ある者はパソコンで土地の掌握を図り——
またある者は連絡があるまでその場で待機をする——
勿論、すぐにでも出動出来るように用意は万全だ。
ヨハンは、それらの行動を無表情のまま見届けると、隅の方で大人しく身を寄せているイズミに視線を投げかけた。
- 間違えて投稿しちゃってました(;´∀`) ( No.173 )
- 日時: 2014/03/17 00:44
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: hDIDYMPI)
「イズミ、」
「………………はい」
振り返ったその表情は、優しかった。
「イズミ。——ウェルリア大革命の【本当の歴史】を知りたいと、言っていたな」
「…………」
無言で頷くイズミ。
ヨハンは「そうか」とつぶやくと、そのまま言葉を続けた。
「イズミ、そしてお姉さんもついて来なさい。君たちに見せたい物がある」
「…………先生……」
イズミとウィンクはお互いに顔を見合わせていた。
ヨハンが先陣を切って歩き出す。
イズミはウィンクの横で俯くと——否、床を蹴った。
そして、ヨハンに駆け寄る。
「先生っ……」
イズミに声をかけられ、ヨハンが扉の前でゆっくりと立ち止まって振り返る。
「なんだい?」
「あの…………ありがとう……ございます」
ヨハンはイズミの言葉に拍子抜けしたような表情を浮かべたが、すぐに表情を曇らせた。
「すまない。……私には、これくらいしか出来ない」
「え…………?」
「イズミ、私は少しでも君の力になりたいんだ。私に出来ることは、……これくらいしか」
「罪滅ぼし、……ですか」
「許してほしいとは言わない。でも……。もう……私、は……」
「先生」
震えているヨハンの声を、イズミは語気を強めてさえぎる。
「確かに、許せませんよ。たった1人の大切な人を、貴方のせいで亡くしたんだ。——けど、…………過去を変えることは誰にも出来ません。僕にも、先生にも」
「…………」
「だから、もう止しましょうよ。……先生、」
いや、と頭を振る。
「……ありがとう、【お父さん】」
「いず…………」
「僕の味方でいてくれて、ありがとうございます。……ね」
柔らかいその笑みは、イズミがこれまでのどの人にも見せなかったものであった。
ヨハンはそれを受けてしばらく黙り込むと、その両手で力一杯扉を開け放った。
「では、行くぞ。【地下の保管庫】に」
- 最終章突入! ( No.174 )
- 日時: 2014/03/21 11:02
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 0.ix3Lt3)
【最終章 終焉編】
〜〜第一話:独白〜〜
両手を縛られ、強引に椅子にくくり付けられた。
現在、アスカは薄暗い部屋にぽつりと1人、閉じ込められていた。
これが独房というものだろうか——。
成すこともなく、ただ椅子に座って項垂れていたアスカは、そのようなことを思った。
それこそ、当初は何度もここからの脱出を試みたアスカであったが、灯り取りの小窓以外に窓は無いし、出入り出来る所は目の前に黒く重たく存在している鉄の扉だけであったため、「脱出するんだ」との強い想いを抱いていたアスカは、酷い虚無感に襲われた。
後ろ手に括られた麻の縄が擦れて、手首は焼け付くように痛い。
それでも悲鳴を上げなかったのは、既に受けた痛みよりもその痛みが生易しいものだったからだ。
——もう、どうにでもなればいい。
考えることを放棄して、アスカは何をするでもなく、ただ黙ってその時を過ごしていた。
こうやって大人しくしたほうが、自分も、誘拐犯も、楽であろう。
何も、しない方が、良い——。
冷たいコンクリートの床がぼやけて見える。
意識が朦朧とする。
——一体、今は何時だろう。
まだ数時間しか経ったていないのであろうが、アスカにしてみれば、半日と言われようが一週間と言われようが、納得出来得る精神状態であった。
と、不意に扉が乱暴に開かれた。
ゴトンと鈍く重たい音が密閉された空間に響いた。
現れたのは、先ほど己に暴行を振るっていた複数の輩であった。
「アスカ王子か」
主犯格の男が凄むようにアスカに詰め寄る。
アスカは黙ったままだ。
「——ッ答えろ」
髪の毛を引っ掴まれる。
もう感覚は麻痺していた。
無反応なアスカの様子に、男は舌打ちをすると、パッとその手を離した。
そして、乱暴に椅子を蹴った。
椅子が物凄い音を立てて軋んだが、アスカは項垂れたままである——既に半分、意識がどこかに飛んでいた。
そんなアスカの頭上に、凛とした声が降り注ぐ。
「しばらく放っておいてほうが、頭冷えるんじゃないかしら?」
「そうか? いや、しかしだな……」
「あら、『王子様も立派な1人の人間』よ。ただの"人間"——孤独でツマラナイ、ね。それにその子、まだ混乱していて、まともに会話が出来ないんじゃないかしら」
「…………貴様がそこまで言うのであったら……」
「ふふふ。リーダー、頭は賢く使わなくっちゃね」
女の言葉に、複数の足音のが遠のいていった。
直後、ガコンと扉が閉まる音が響く。
男たちが出ていったようだった。
「——アスカくん、ごめんなさいね」
そして、聞き覚えのある声。
アスカがハッと顔をあげると、目の前には整ったリィの顔があった。
——なんで……この人が、ここに?
「アスカくん。痛かったでしょ?連れてくるとき、なるべく軽く殴ったつもりだったんだけど。ごめんなさいね」
なんでこの人に殴られなくちゃいけないのか——霞みゆく意識の中で必死に心当たりを探し出し、自身が【小箱】を壊してしまった出来事に思い当たった。
そうか、それで、こんな仕打ちを……。
思わず納得してしまい、しかしそれだけでこんなに殴られなければならないのか——否、それほどまでに大切な物だったのかと、意味不明な自己解釈をする。
さて、迷走しているアスカの目の前でリィが微笑みながら落ち着いた声で話し始めた。
「キリの面倒みてくれてありがとう。あの子、馬鹿でしょう? でも、一緒にいると、なんだか元気になれるの」
まるで道端で世間話でもするように。
優しい笑みを浮かべて。
そのように当たり障りのない話をする。
そんなリィを下から見上げる形で、アスカは先程から疑問に思っていたことを口にしていた。
「なんで——リィさんがオレのことを誘拐したんだ?」
その問いに、リィがすかしたようにアスカを見返す。
「……『なんで』って?」
「だって——リィさんはキリの育て親で、ラプール島にずっと暮らしていて、……反政府軍の奴らと手を組む理由が見当たらない」
「それが大ありなのよ。ねえ」
にっこりと。
だが、浮かんだ笑みはとても冷ややかなものだった。
「…………アスカくん。私はね、貴方の【お父さん】が大っ嫌いなのよ」
「何……言って…………」
「——ううん。この【王国】自体、大っ嫌いなの」
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