複雑・ファジー小説

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 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

【第一部】ウェルリア王国物語-紅い遺志と眠れる華-【完結】
日時: 2015/03/17 15:15
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jwkKFSfg)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16841

┝━━━━━━━━━━━━━┥
│奪われた小箱——     │
│ 失われた記憶——    │
│  彼らの存在意義——  │
│             │
│  此れ等が交わる時   │
│ 全ての物語は      │
│終焉を迎える・・・    │
┝━━━━━━━━━━━━━┥
  〜『レーゼ=ファミリアの手記』より抜粋

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■お知らせ!■ 2014.07.21 <閲覧ありがとございます>

・【無 事 完 結 !】<ご感想いただけたら嬉しいです
・上のURLは【続編:ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-】にとびます。
 〆こちらもよろしければ‥合わせてお願いします^^

・昔まとめていたキャラの設定
 追加投下しました(^^ゞ じ・こ・まん! >>214


<目次はこのスレの下の方にあります↓↓↓>

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■イメ画とか!■

>>115 書き述べる様がなんと、
 とあるゲームのキャラメイク機能で、キリのモデルを作ってくださいました♪
・キャラ画、描いていただきました♪
 本当に、ありがとうございます。

【キリ&アスカ】>>083 by Noelle様
【イズミさん】>>084 by 多寡ユウ様
【ユメノ皇女】>>117【リィさん】>>118
【キリ】>>119 by 萃香様

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■あ・ら・すじ■ >>018 主な登場人物紹介

失われた記憶、紅い宝石、それぞれに秘められた過去——
主人公のキリは仲間とともに奪われた【小箱】を求めて旅に出る。
そこで待ち受けていたのは、果たして——

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
【ウェルリア王国物語〜紅い遺志と眠れる華〜】
・・・目次・・・

主な登場人物 >>018

補完:表向きの歴史 >>025

プロローグ:始まりの場所 >>002

第一章 出会い編
 第一話:出発の朝 >>003-005
 第二話:梟と少年 >>006-009
 第三話:嘘つきの代償 >>010-012
 第四話:予想外の襲撃 >>013-016

第二章 旅立ち編
 第一話:それぞれの思惑 >>021-022
 第二話:不穏な行動 >>023-024
 第三話:虚偽の王子 >>027-028 >>031-032
 第四話:見破られた正体 >>033-034 >>039

第三章 潜入編
 第一話:囚われた少年少女 >>040 >>043-044
 第二話:侵入者の取引 >>045 >>048-049
 第三話:脱走、その後 >>052-054

第四章 捜索編
 第一話:喫茶店ジュリア—ティ >>055 >>059
 第二話:呪術師 >>062-063
 第三話:不穏な動き >>071-072 >>074
 第四話:華麗な脱走計画 >>076-078

第五章 手がかり編
 第一話:ウェルリア王国の歴史 >>079-086
 第二話:小箱の行方 >>087-089 >>092
 第三話:再会 >>093-095 >>098-099
 第四話:再び、ウェルリア城へ >>100-103

第六章 真実への序章編
 第一話:闇の中 >>104-105
 第二話:イズミの過去、キリの過去 >>107-109
 第三話:突然の来訪者 >>112-114 >>120-121
 第四話:うごめく影 >>124 >>126-128 >>130-131 >>134-136

第七章 解決編
 第一話:誘拐 >>139-144
 第二話:邂逅 >>145-147
 第三話:異変 >>148-151 >>154-158 >>161-164
 第四話:姉弟 >>165-166 >>171-173

最終章 終焉編 
 第一話:独白 >>174-176
 第二話:正体 >>177-181
 第三話:動機 >>182 >>185-188
 第四話:終幕 >>189-194 >>197-198

エピローグ:再び始まりの場所へ >>201-203 >>206

あとがき >>207


☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
【この小説のお客様♪(コメライ時含む)】
*七海 様 *紫隠 様 *友桃 様 *小虎。様 *カサゴの刺身 様 *シア 様 *書き述べる 様 *凛 様 *伊織 様 * tatatatata 様 *はる 様 *雨 様


いつもありがとうございます(^^ゞ
もっともっと精進します。

☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆

※2014冬カキコ内の小説大会・複雑ファジー板で
 【銀賞】を頂きました(#^.^#)ありがとうございます。


★━━━━−−———————————————————————————————


『複雑・ファジー板』書き始め日*2013.07.08〜2014.06.26
参照50突破*2013.07.10 参照100突破*2013.07.15
参照333*2013.09.14 参照400突破*2013.09.22
参照540突破*2013.10.30 参照600突破*2013.11.06
参照700突破*2013.11.13 参照940突破*2013.12.23
参照1600突破*2014.01.18 参照2000突破*2014.01.25
参照3000突破*2014.02.16 参照4000突破*2014.03.07
参照5400突破*2014.04.24 参照5880突破*2014.06.26
参照6000突破*2014.06.30 参照7000突破*2015.03.16

■□■
 参考『コメディ・ライトでの戦歴』2013.06.15〜2013.07.08
参照50突破*2013.06.17 参照100突破*2013.06.20 参照200突破*2013.06.27
参照300突破*2013.06.30 参照400突破*2013.07.05

リィさん×アスカ ( No.175 )
日時: 2014/03/21 11:15
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 0.ix3Lt3)

いぶかしむアスカを前に、リィの口調はとても落ち着いたものだった。

「————そう。私はキリとウェルリア王国に降り立ったあの日、あの【小箱】がウェルリア兵の奴らに奪われたのを街中で見かけたの。その後すぐに喫茶店にいる反政府軍の彼らのところに行って、ウェルリア兵の奴らから【小箱】取り返すように頼んで————そのあと時計店にキリを迎えに行ったら…………アスカくんは、あの子がなんて言ったか覚えてる?」

問われたが、アスカは微動だにしない。

「『【小箱】を取り返しにお城へ行きます』——って。あの子、そう言ったのよ。私、本当にびっくりしちゃったわ。まさかあの子の口からそんな言葉が飛び出してくるなんてね」

何がおかしいのか、クスクスと笑い声を漏らす。

「……でも私はもちろん、キリに【こんなこと】に関わってほしくはなかった——【私がやろうとしていること】に。関わって欲しくなかったからこそ、私は今までキリに内緒で喫茶店に通って反政府軍の人たちと会っていたし……」

けどね、とリィは眉尻をゆっくりと下げた。

「…………けれどそれよりも、私は自分の『私利私欲』を優先させたのよ」
「私利私欲…………」
「反政府軍の彼らが【小箱】を取り返すことができる確率は100%ではない——そう考えて、私はキリがお城に行って【小箱】を取り返すことに賛成したの。保険としてね。 ——そのあと、キリにラプール島行きの船を見送ってもらったんだけど、私はその船には乗らずに、【反政府軍の彼ら】と落ちあった。そこで、ウェルリア兵士たちから奪ってもらった【小箱】を受け取ったわ。そして私は【小箱】を取り返してもらった代償に、反政府軍の彼らに情報提供するため、ウェルリア城にメイドとして潜入した。あなた達の言っていた『黒髪お団子頭のメイドさん』としてね」

『黒髪お団子頭のメイドさん』——何度もイズミが気にしていた人物だ。
アスカは思わず息を飲んでいた。

「でもお城の中で運悪くキリに2回も出会ってしまった。…………その時は本当に焦ったわよ、しかも出会ったのはよりによってキリよ。バレたんじゃないかってヒヤヒヤしたもの。もしも万が一バレていた時の保障として、ウェルリア兵たちに複数の不審者がいるって情報を流したりしたんだけどね」
「アンタは……一体…………」

アスカのつぶやきに笑みで返して、リィの話はなおも続く。

「そして、私と反政府軍の彼らは、私の潜入捜査に気づいてしまったある1人の兵士を誘惑したのよ」

しばらくして、アスカがゆっくりと口を開いた。
ここに連れてこられた時のことを、思い出しながら——。

「それは、Aクラスの、フィアルか」

リィは、「良く出来ました」と言わんばかりに笑みを浮かべている。
それをにらみつけるようにして、アスカはリィに言葉を放つ。

「けど、ウェルリア兵士たるもの、そんなやすやすとヤツを引き抜けるわけがないだろ」

アスカの言葉に、驚きで目を見開いたリィであったが、それも一瞬であった。
すぐに笑みをこぼす。

「それが彼には誰にも言えない【大きなヒミツ】があってねえ〜。それを餌にして何回も接触したら、彼、反政府軍に協力してくれたわよ〜」
「なにっ…………!」
「政府に仕えし者が、政府を非難する立場の者達に手を貸すなんて、ねえ」

リィは「ふふふ」と笑い声を漏らした。
アスカの鼓動が大きく跳ねる。

「そして彼には、今回アナタを誘拐するのにも、一役買ってもらったわ」
「っ…………」

息苦しく感じる。
——気分が悪い。
なんなんだ、この人。
なんなんだ……。
この人の考えていることが、分からない。否、分からないほうが正常なのだ——けれど、分からないことが、気持ち悪い。
それに、一体なにを考えているんだ、【反政府軍】とやらは。この【リィ】という人物は。
この人間たちの考えていることが、ワカラナイ——。
様々な想いが一気に渦巻き、嘔吐えづいて思わず口を押さえたアスカは、見下ろすリィの眼下でゆっくりと呼吸を整えて、それから気になった言葉を反芻はんすうした。

「フィアルの……【大きなヒミツ】、だと?」
「ヒミツはヒミツよ」

笑っているのだが、目は笑っていないように見える。

「リィさん…………大勢の他人を巻き込んでまでこんなことをして、…………アンタをそこまで追い込んだ要因は、一体何なんだ」
「…………」
「答えろよ。……大切に育ててきたキリまで巻き込んで……アンタは、一体、何者なんだ。【アンタのやろうとしていたこと】ってなんなんだ、……オレを誘拐した目的は、…………一体何なんだ」
「…………」

アスカの口から次々と吐き出される言葉を黙って聞いていたリィは、全ての質問に、静かに微笑してこう答えたのだった。

「ヒ・ミ・ツ、よ」




キリ×ユメノ ( No.176 )
日時: 2014/03/23 10:33
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: J3GkpWEk)

+++++++++++

「誘拐犯から犯行声明です!」

イズミとウィンクの2人がヨハンに連れられて地下の保管庫に向かったあと、しばらくして、対策本部室の内部はめまぐるしい対応に追われていた。
ウェルリア王国第一王子アスカの誘拐犯から、犯行声明が送られてきたからだった。
『ライベル=ウィルアに告ぐ。王子を返して欲しくば、今すぐ王位を返還しろ。』
無機質に連なった印字からは、何の感情も感じ取れなかった。
けれど、相手の要求からして、国王に相当な反感を抱いていることは確かであった。

「やはり反政府軍の仕業か」
「しかし……奴らにしては手際が良すぎます」
「そうですな……。近年、我々と対抗してきた奴らは、どちらかというと体力勝負の連中だった」
「……新たに、頭の切れる何者かが協力している、ということでしょうか」
「それに関して間違いはない……ですな。うーん。これは厄介ですなあ」
「ソラリ先生! こちらに来てください……!」

そのようなやりとりを目の当たりにし、キリとユメノは片隅で静かに待機していた。
両名とも、身体を抱えるようにして、隅の方に体育座りで座っていた。

2人はイズミとウィンクの関係性が未だに理解出来ずにいた。

姉弟……なのは、先ほど詳しく説明してもらったので、疑いようのない真実であるといえる。
けれど、それでも……。

「キリ……」

ギュッとスカートの裾を掴まれ、隣を見ると、ユメノが唇を噛んでこちらを見上げていた。

「イズミしゃんと、…………ウィンクのことなんだが……」

掴んだ手が、小刻みに震えている。
キリは心の中で小さく頷くと、ユメノの手を握り返した。

「ユメノちゃん。イズミさんとウィンクさんの、こと?」
「そう、なのだ……」
「うん……」

キリは黙って、ユメノの次の言葉を待つ。
決して「大丈夫だから」「心配しないで」などの気晴らしの言葉はかけなかった。
「どうしたの?」とも。
どうしたもこうしたも、ユメノがそうして不安に思う原因は、すでに見当がついていた。
今のユメノには、どんな言葉をかけても、結局は重しにしかならないとキリは思ったのだった。
自分を赤ん坊の時から育ててくれた、どんな時も自分の味方であると信じて疑わなかったウィンクが、なんの因果か、よりによって敵対していた一族の側の人間だった——。
そうした事実を、若干6歳の少女が受け止められるわけがないのだ。

キリ自身が、そうであるように……。

「……ウィンクは、ユメノのお世話係なのだ」
「うん」
「アリスなんかじゃないのだ」
「……うん」
「イズミしゃんの、……お姉さんじゃあ、ないのだ」
「ユメノちゃん……」

無理矢理にでも、涙を我慢しているようであった。
人前では泣かない——泣けない。
本人ではないのでその本心は見当もつかないが、ユメノは唇を噛み締め我慢していた。
一国の皇女としてのプライドからくるものだろうか。
それにしても6歳の少女にとっては過酷な状況である。

「…………怖いのだ」
「怖いの?」

ユメノがキリの手をギュッと握り返す。

「怖い……ん。そうだな……。ウィンクが、ユメノから離れていってしまうのではないかと」
「そう……」
「よく分からんが、ウィンクは本当はファーンの奴らの仲間なのだろう? ウィルアが中心になってそいつらをやっつけたんだろ? ……そんなの、ウィルア家であるユメノのことなんか、……きっと、本当は嫌いに決まってる……」
「そっ、それはないよっ!」

キリは反射的に立ち上がっていた。

「ない! 絶対、ないっ!」
「キリ……?」

必死に否定するキリを、ユメノは呆気にとられて見上げる。

「だってさ、ユメノちゃんはユメノちゃんじゃん。ファーン家とか、家が敵対しているとか、そんなの、関係ないよ!」
「そ、そんなことキリには…………」
「確かに私には分からない。——でもさ、ウィンクさんとユメノちゃん見てたら分かるよ。なんだかんだで産まれた時からずっと一緒だったんでしょ。ずっと、面倒をみてくれてたんでしょ。その時2人の間にあったのは、嘘の関係性だったの? ウィンクさんと過ごした日々は、全部偽りだったって、言うの?」
「うっ……ウィンクの思ってることは分からんが、でも…………ユメノ、は……」

みるみる内に、ユメノの大きな瞳に涙が溢れ出る。
大きな声を上げ、ユメノは大粒の涙を流すと、ついに泣き始めた。
その声はわんわんと室内に響き渡る。
——と、水晶玉を持ってきたあとアスカの居場所を特定する情報員をアシストする作業に当たっていたノアルが、我慢が限界に達したのか、顔をしかめながらキリとユメノの元につかつかと近づいてきた。

「お前たち、うるさいぞ。ここから出ていけ」
「うるさいって、でも、この状況を……!」

キリが珍しく声を上げてノアルに食ってかかり、ユメノがそれを目で制す。
それからグスっと鼻をすすると、ユメノは口を開いた。

「……貴様は、皇女にそんな口聞くのか?」

いつものトーンで。
ユメノはあくまで平然を装って、そう切り返した。
ノアルは皇女の言葉を受けてウウンと唸ると、メガネを光らせ、しばらく黙り込んだ。

「…………」

そして、ひとしきり黙り込んで2人を見つめたあと、ノアルはキリとユメノに背を向けてその場を去っていったのだった。

「ユメノちゃん……」

即座にキリがユメノに声をかける。
ユメノは、バッとキリを振り返ると、キリに向かって「してやったり」と舌を出した。
そして、腰に手を当てて、こうつぶやく。    

「全く、奴は失礼なヤツであるっ」
「……ふふふっ」

キリは思わず笑みを浮かべた。
良かった、いつものユメノちゃんだ——。

『キリ…………』
「ん?」

刹那、声がした。
辺りを見回すが、それらしき人物は見当たらない。

「……どうしたのだ? キリ」
「…………私のこと、呼んだ?」
「ううん。呼んでいないぞ」
『気づいて……キリ…………』
「やっぱり、誰かが私のこと、呼んでる!」

ユメノが眉尻を下げて、心配そうにキリを見上げる。

「キリ? どうかしたのだ……?」

どうやらユメノには声が聞こえていないらしい。
キリはそれには構わずに、ふらふらと歩き始めた。
——声のする方へ。

『こっちへおいで、キリ』

——そっちへ。

『こっちに来るんだ、キリ』

————そっちへ。

この声の主は、アスカでもイズミでもない。
別の誰か。男の人。
けれど、何故だか心地良い響き……。

「キリっ…………!」

ユメノの叫ぶ声が聞こえる。
でも…………。

キリは対策本部室の扉を開けると、おぼつかない足取りで声に誘われて歩を進めていった。
その先に何があるとも知らずに。


作者もごちゃらごちゃらしてきた…汗 ( No.177 )
日時: 2014/03/23 12:49
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: J3GkpWEk)

【最終章 終焉編】
〜〜第二話:正体〜〜


「お前に見せたいものがある」

そう言われて連れてこられた地下の保管庫に、イズミとウィンクはただただ目を見開いてその場所に立っていた。
幾重ものセキュリティシステムで厳重に管理された扉の向こうに広がる膨大な数の戸棚と本棚は、溢れんばかりの資料と共に壁を埋め尽くしていた。
それらの中身は、全て【大革命】によって滅亡するに至った【ファーン家】に関するものであった。

「先生……ここは……」
「トップシークレットだ」

ヨハンの言葉を受けて、ウィンクが両手を打つ。

「ああっ、聞いたことあります。このお城の何処かに、トップシークレット……隠し部屋があると」
「そう、私たちウェルリア兵は、一部の研究家と合同で黙秘にファーン家の実態を調べていたんだ。過去の歴史と、その半生をね。ここにある資料は、この城の周りにある湖に沈んでいるファーン城から引きあげたものだ。イズミ、好きに使いなさい」
「先生…………」

確かに凄い量である。
年代別や種類分けはされているようだが、全て見ようとおもったら凡人だと少なくとも数ヶ月はかかるであろう。
イズミはごくりと唾を飲み込んで、しかし後ろ髪を引かれる思いで口をゆっくりと開いた。

「けれど、…………僕もアスカ王子の行方を探さなければ……」

ヨハンは即座に首を横に振った。

「いいや。その件は私たちで何とかする。……この機会だ。イズミ、自分の知りたい事について、しっかり調べなさい」
「でも……」
「イズミ。よーく聞くんだ」

ヨハンの声が急に鋭くなった。
イズミの顔つきもそれに比例して少し険しくなる。

「イズミ、お前は今回の件で国から厳重に取り調べられるだろう。【あのレーゼ】の息子だったんだからな。お姉さんもしかりだ。そうなったらこの先、決して自由にはなれない。今この時間ときを、大切にしなさい」

ヨハンはそう言うと、くるりと背を向けた。

「イズミ、お姉さん、……ここは好きに使って良い。見張りの者にもそう伝えておく。王子が見つかったらまた呼びに来る。良いな」

深く頷く。
ヨハンはそのまま振り返ることなく地下の保管庫を後にしたのだった。

「じゃあ姉さん、片っ端から調べていきますか」

若干何かしら含んだ言い方で、イズミはウィンクを振り返る。

「そうね。じゃあまずは、その革命時の発端にあたる【戦争】をウェルリア王国に引き起こした人物辺りから、調べましょうか」
「戦争を始めた人物——【ファーン三世】ですか」
「うん」
「そうですね。……何事も、根っこから引き抜いていかないとスッキリしませんしね」
「その通り! さっすが私のイズミちゃん!」
「いつアナタのモノになったんですか」
「うふふっ」
「…………全く……」

2人は手分けして、膨大な資料からファーン三世に関する資料をそれぞれ持ち寄った。
保管庫の中央部に置かれている大きなテーブルの上にそれらを広げ、2人は片っ端から読んでいく。
いくら厳選したからと言っても、その量も相当な物である。
しかし2人には速読という技術があり、凡人よりも遥かに効率よく対処できた。

「…………あ」
「ん? どうしたの、イズミちゃん」
「姉さん、これ……」

イズミが示した箇所に書かれていたのは、

「えーっと、……『ウィルア家はもともとファーン家に仕えていた』…………ど、どういうこと?!」
「……この手記には、そう書かれていました」

イズミが手にしているのは、どうやら当時ファーン家に側近として仕えていたウィルアの日記であった。

「——ウィルアって、今この国を治めている、あの、ウィルア国王……の……ご先祖さま?」
「そのようです」
「でも……【大革命】を起こした時、ウィルアは【農民】で……」
「それに関してですが、……ホラ、ここを読んでください」

イズミに手渡された日記を、ウィンクもしっかりと確認する。
羊皮紙に書かれた文字はインクがにじんで読み取り辛かったが。
それでも何とか読解していく。

「『3/17。ファーン三世が戦争をやめてくれない。注意すると一方的に追放された。 以後ファーン三世の命により、農民として暮らすことに。この怨みつらみは末代まで続くだろう』……イズミちゃん、これって…………」
「どうやら僕らは、勘違いしていたようです」

イズミは小さくため息をついた。
最初は呪術師レーゼを恨んだ何者かがレーゼを暗殺したのだと考えていた。
しかし、水晶玉に眠っていた魂の破片——父親の言い分は、【正体が自分にバレてしまったのではないかと恐れた人物に殺された】。

「……ああ、そうだったのか……」

——考えはした。
考えてはいたけれど、そう思いたくは無かったのだ、多分。

【ウィルア家】が先祖代々恨みつらみを受け継ぎ、このタイミングで自らを貴族から農民へとおとしめた【ファーン一族】に復讐を果たしたのだ。
【ウェルリア大革命】を引き起こして、滅亡に追いやったのだ。
——無関係な国民を巻き込んで。
——無関係な呪術師を巻き込んで。
——無関係な自分たちを巻き込んで。
そうして、あわよくば自らがトップに立ち、先代の地位につこうとたくらんだのか。

「…………なんてことを……」

沢山の人たちが犠牲になった。
たった1つの一族の恨みつらみのために。——否、確かにファーン三世から始まった戦争で、沢山の人たちが命を落とした。
けれど……それでも……。

「父さん、カノン…………」

そこでイズミははっと息をのんだ。

「姉さん、カノンは……」
「……知らない、けど……。イズミちゃん、アナタ、会ったの? カノンに」

ウィンクが不思議そうにイズミを見る。
イズミはそれには答えず、1人で思案し始めた。

——一番最初に彼女と出会った時、確かにどこかで会ったことがあると錯覚したこと。
そして、キリとカノンが重なって見えたこと。……けれどそれはそうではなく、そのキリを育てた人物が、イズミには重なって見えていたのだった。

「やはり……彼女、リィさんだ……」

確かリィは記憶喪失であると言っていた。
父レーゼの予言で共に城を逃げ出して、その後行方が分からなくなっていたカノン。昔、一緒に生活していた少女、カノン=ラステル。
ファーン家に仕えていた使用人の一人娘であった彼女は——。

——やはり、彼女が……。

…………そうだ。
そうすると、合点がいく。
リィがレーゼの水晶玉を持っていた、その理由が。

カノンとレーゼ姉弟は、歳が近かったため、よく一緒に遊んでいた。
カノンの両親は住み込みの使用人であったため、カノンはレーゼの元にきてはよく占いのマネごとをして遊んでいたものだ。
あの日までは——。

カノン ( No.178 )
日時: 2015/09/10 02:23
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: PFFeSaYl)


『イズミ、アリス。父さんはもうすぐ殺される。この城も崩れる。皆殺しにあう。だからお前たちは逃げなさい』
『でも……』
『逃げなさい。早く』
『でもお父さんっ……!』
『父さんを信じなさい』
『っ……』
『………………わたし、死ぬのは、嫌だ』

はっと声のした方を振り返ると、そこにはちょうど遊びにきたカノンが顔面蒼白で立っていた。
定まっていない視線。
今までひっそりと話を聞いていたのだった。
精神不安定の状態にあるカノンを、このまま突き返す訳にも行かない。
では、どうするか。
レーゼは命の次に大切にしていた水晶玉を一番年上であるカノンに預けると、こう言った。

『この水晶玉を、お前に託す。時が来るまで大切にするんだよ。肌身はなさずね。……さあ、逃げなさい。君たちは未来がある子どもたちだ。さあ、早く!』

そうして3人は逃げ出した。
ファーン城を。
誰の目にもつかずに。

そうして3人は城下町に身を寄せ合って暮らし始めた。
傍から見れば、子どもだけで、と、不思議に思っただろうか。
けれども当時のウェルリア王国の戦況は悪化しており、両親や家族がいない家庭はざらであったため、つつましやかに生活していれば、特にとがめられることもなかった。

そして。
——呪術師暗殺事件が起こったその日。
カノンは自身の両親の身を案じたのか1人先に飛び出していき——。
カノンはそのまま行方が分からなくなったのだった。

あれから数十年——
もしもカノンが生きていれば、齢は24,5歳であろう。

「じゃあ……そうすると……」

【カノン】——彼女の正体は。
イズミの体中を、嫌な予感が駆け巡る。
【リィがカノンであった場合】、彼女がやることは、大方予想がついていた。

——自分が【ソレ】に駆られたように。

「——イズミちゃん?!」

ウィンクの声を背に受け流し、イズミは地下から脱していた。
……確証はまだ無かった。
その確証を得るために会わなければならない人物——リィのことを良く知る人物に、イズミは会わなければならなかった。

「対策本部室っ——……!」

キリに、会わなければ。
会って、話をしなければ……。

「キリさんっ…………!」

息荒くイズミが対策本部室に駆け込んだ頃には時すでに遅し。
求めていたキリの姿は、既にそこには無かった。


「えっ……キリさん…………?」

周囲を見回してキリの姿を探すが、オレンジ頭のプリーツスカート少女の姿はどこにも見当たらなかった。

「一体……どこに…………」
「イズミしゃん……」
「ハッ…………」

見下ろすと、ユメノがイズミの服のすそを申し訳程度に引っ張っていた。
どうやら、キリについて何か知っているらしい。

「ユメノ様、キリさんはどうされましたか……?」
「それが……それが……」

小さな肢体がかくかくと震えている。
何故か顔色も優れない。

「……ユメノ様、落ち着いてください。何があったんですか?」

しゃがみこんで、ユメノの肩を揺さぶる。

「ユメノ様、キリさんは……?」
「…………どっかに、行ってしまったのだ」
「……どこに?」
「分からぬ。だが、普通ではなかったのだ。……何かに、呼ばれているように、ふらふらとここを出ていってしまった」
「どこに行かれたかは、わかりますか?」
「分からぬ……何も、何も、わからんのだ……。もう、何が……なんなのだ…………兄上もいなくなって、……キリも、…………なんなのだ、もう……」

しまいには目に涙をためて、ユメノは崩れるようにしゃがみこんでしまった。
イズミは困ったように頭をかくと、ユメノをゆっくりと抱きかかえた。

「キリさんを捜しに行きましょう」

ユメノの耳元で優しく声をかける。
ユメノはイズミの肩に顔を埋めたまま、こくりと頷いた。

5000閲覧ありがとうございます…! ( No.179 )
日時: 2014/03/28 10:48
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jwkKFSfg)


+++++++++++

『キリ、こっちだよ』

声が明瞭になってきた。
こっち……こっち……。

「……ところで貴方は、ダレ?」

自分の名前を知っている相手。
男性なのは確かであった。
少年? 青年?
でも……私は、アナタのことを知っている……。

「ねえ、答えてよ…………」
「答えるのはアンタの方よ!」

突然、キツい印象を受ける女性の声が辺りに響いた。
ん。誰だっけ……?

「アタシのこと、忘れたなんて言わせないわよっ」
「覚えてるようっ。……えーっとお、水色さん!」
「まんまじゃないっ!」

目の前で憮然とした態度でキリを見据えているのは、Sトリオの1人、アロマであった。
水色の髪の毛を、おでこが見える髪型ポンパドールにくくっている。
見た目通り、性格もキツくて有名であるアロマだが、そのことについて本人はこう語っている。

「男性ばかりの兵隊の中で女性がやっていくには、この位キツい性格でないとやっていけないのよっ」

だそうだ。

「まーったく。久々の登場なのにこの不遇な扱い。どうにかして欲しいわよね!」
「アロマぁ、それは言わない約束ッスよ」

地響きのような低音ボイスは、同じくSトリオの一員であるファズであった。
180キロの巨体は、ウェルリア兵の中でもトップクラスのものだ。
ファズの言葉に「それはそうだけどさあ」と、しかし、納得出来ていない様子で腰に手を当ててアロマはキリを振り返った。

「で、もう一度聞くけどさ。アンタ、ここで何してんのよ」
「えーっと……」
「ちなみに。アタシたちはアスカ王子捜索隊の一端を担ってるわ。アンタはどうなのよ」
「んーっとお……」

ここで、『聞こえてきた声に誘われてやってきました』と答えてしまったら、確実にアロマに罵られるだろう。
キリはその何かしらの不遇な扱いを受けている自分が容易に想像がついたことに思わず身震いしていた。
キリは想像を取っ払うようにぶるんぶるんと首を振ると、

「わたっ、私もアスカ、お、王子を捜しにきたのっ!」

ひとまず笑って誤魔化した。
誤魔化しきれたと、言いたい。

「……ふうーん」

いぶかしむアロマの視線が痛い。

「そ、そう言えばもう1人のお仲間さんはどうしたの? アロマさんっ。ホラっ、あの、メガネさんっ!」
「だからメガネさんではないと言うにっ!」

突然、甲高い男性の声が辺りに響き渡った。
ふいをつかれて目を白黒させているキリを尻目に、アロマとファズは普段通りの口調で声をかける。   

「あら、ノアル」
「実験は終わったんスか?」

噂をすればなんとやら。
何処から湧いて出たのか、ノアルが肩で息をしながらキリとアロマの間に割って入っていた。

「全く……」

全速力で走ってきたのか、荒い息づかいである。

「全く……このボクが見つけてやったんだから。感謝しろよ、イズミ」
「イズ……?」

キリがその言葉の意味を問う前に、本人が柔和な笑い声をたててノアルに謝辞を述べた。

「ありがとうございます、ノアルさん。さすがですねえ」
「キミに言われると嫌味にしか聞こえないけどね」
「あはははっ」
「い、イズミ……さん?」

つぶやきながら声がする方を向くと、そこにはイズミがユメノを抱きかかえて立っていた。


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