複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【第一部】ウェルリア王国物語-紅い遺志と眠れる華-【完結】
- 日時: 2015/03/17 15:15
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jwkKFSfg)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16841
┝━━━━━━━━━━━━━┥
│奪われた小箱—— │
│ 失われた記憶—— │
│ 彼らの存在意義—— │
│ │
│ 此れ等が交わる時 │
│ 全ての物語は │
│終焉を迎える・・・ │
┝━━━━━━━━━━━━━┥
〜『レーゼ=ファミリアの手記』より抜粋
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■お知らせ!■ 2014.07.21 <閲覧ありがとございます>
・【無 事 完 結 !】<ご感想いただけたら嬉しいです
・上のURLは【続編:ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-】にとびます。
〆こちらもよろしければ‥合わせてお願いします^^
・昔まとめていたキャラの設定
追加投下しました(^^ゞ じ・こ・まん! >>214
<目次はこのスレの下の方にあります↓↓↓>
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■イメ画とか!■
・>>115 書き述べる様がなんと、
とあるゲームのキャラメイク機能で、キリのモデルを作ってくださいました♪
・キャラ画、描いていただきました♪
本当に、ありがとうございます。
【キリ&アスカ】>>083 by Noelle様
【イズミさん】>>084 by 多寡ユウ様
【ユメノ皇女】>>117【リィさん】>>118
【キリ】>>119 by 萃香様
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
■あ・ら・すじ■ >>018 主な登場人物紹介
失われた記憶、紅い宝石、それぞれに秘められた過去——
主人公のキリは仲間とともに奪われた【小箱】を求めて旅に出る。
そこで待ち受けていたのは、果たして——
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
【ウェルリア王国物語〜紅い遺志と眠れる華〜】
・・・目次・・・
主な登場人物 >>018
◆
補完:表向きの歴史 >>025
◇
プロローグ:始まりの場所 >>002
◆
第一章 出会い編
第一話:出発の朝 >>003-005
第二話:梟と少年 >>006-009
第三話:嘘つきの代償 >>010-012
第四話:予想外の襲撃 >>013-016
第二章 旅立ち編
第一話:それぞれの思惑 >>021-022
第二話:不穏な行動 >>023-024
第三話:虚偽の王子 >>027-028 >>031-032
第四話:見破られた正体 >>033-034 >>039
第三章 潜入編
第一話:囚われた少年少女 >>040 >>043-044
第二話:侵入者の取引 >>045 >>048-049
第三話:脱走、その後 >>052-054
第四章 捜索編
第一話:喫茶店ジュリア—ティ >>055 >>059
第二話:呪術師 >>062-063
第三話:不穏な動き >>071-072 >>074
第四話:華麗な脱走計画 >>076-078
第五章 手がかり編
第一話:ウェルリア王国の歴史 >>079-086
第二話:小箱の行方 >>087-089 >>092
第三話:再会 >>093-095 >>098-099
第四話:再び、ウェルリア城へ >>100-103
第六章 真実への序章編
第一話:闇の中 >>104-105
第二話:イズミの過去、キリの過去 >>107-109
第三話:突然の来訪者 >>112-114 >>120-121
第四話:蠢く影 >>124 >>126-128 >>130-131 >>134-136
第七章 解決編
第一話:誘拐 >>139-144
第二話:邂逅 >>145-147
第三話:異変 >>148-151 >>154-158 >>161-164
第四話:姉弟 >>165-166 >>171-173
最終章 終焉編
第一話:独白 >>174-176
第二話:正体 >>177-181
第三話:動機 >>182 >>185-188
第四話:終幕 >>189-194 >>197-198
◇
エピローグ:再び始まりの場所へ >>201-203 >>206
◆
あとがき >>207
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
【この小説のお客様♪(コメライ時含む)】
*七海 様 *紫隠 様 *友桃 様 *小虎。様 *カサゴの刺身 様 *シア 様 *書き述べる 様 *凛 様 *伊織 様 * tatatatata 様 *はる 様 *雨 様
いつもありがとうございます(^^ゞ
もっともっと精進します。
☆:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::☆
※2014冬カキコ内の小説大会・複雑ファジー板で
【銀賞】を頂きました(#^.^#)ありがとうございます。
★━━━━−−———————————————————————————————
『複雑・ファジー板』書き始め日*2013.07.08〜2014.06.26
参照50突破*2013.07.10 参照100突破*2013.07.15
参照333*2013.09.14 参照400突破*2013.09.22
参照540突破*2013.10.30 参照600突破*2013.11.06
参照700突破*2013.11.13 参照940突破*2013.12.23
参照1600突破*2014.01.18 参照2000突破*2014.01.25
参照3000突破*2014.02.16 参照4000突破*2014.03.07
参照5400突破*2014.04.24 参照5880突破*2014.06.26
参照6000突破*2014.06.30 参照7000突破*2015.03.16
■□■
参考『コメディ・ライトでの戦歴』2013.06.15〜2013.07.08
参照50突破*2013.06.17 参照100突破*2013.06.20 参照200突破*2013.06.27
参照300突破*2013.06.30 参照400突破*2013.07.05
- 【第一章 出会い編 第一話:出発の朝】 ( No.4 )
- 日時: 2014/02/21 21:33
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: ZfyRgElQ)
ここは人口300人ほどという小さな島国、ラプール島。
キリは、育て親であるリィと共に、ラプール島が一望できる崖の上に暮らしていた。
朝昼晩と、崖下に打ち寄せる波の音を聞きながら、キリは育ってきた。
キリには、実の親がいない。
というよりも、「分からない」と言った方が正しいのか。
リィが言うには、「小箱に入った状態で海岸に打ち上げられていたのだ」という。
赤ん坊のキリを拾ってくれたのは、島で一人暮らしを始めたばかりのリィだった。
同じように身寄りのないキリを拾い、10年間、勉学、武術、馬術など生きるうえで必要な様々なことを教え込んできた。
そんなこんなで身寄りのないキリだったが、リィのおかげでなに不自由なくこれまで暮らしてきた。
そして、島の中のほとんどが顔見知りのため、周囲の人たちともわが子同然のお付き合いで、充実した暮らしを送っていた。
しかして、離島は、とにかく、便が悪かった。
島には生活用品がほとんど揃っていない。
そのため、島の住人のほとんどが、隣国のウェルリア王国に買い出しに出かけていた。
ウェルリア国は世界でも1、2位を争う強国で、他国からも沢山の人々が訪れるため、商業も盛んである。
ラプール島の人々はそこへ出稼ぎにでたり貿易をしたりと、交流を盛んに行っていた。
当然、ラプール島の住人であるキリとリィも、月に一度、隣国のウェルリア王国に買い出しに行っていた。
隣国と言えど、ラプール島は四方八方が海で囲まれているため、ウェルリア王国に行くには、約1時間ほどかけて船で国間を行き来するしか他に手段はないのだが——。
「キリー? ウェルリア国には行かないのー?」
「行く行く行くっ! 起きます起きます起きます!! 一気に支度しますう!」
キリは先ほどベッドの角にぶつけた額をさすりながら、急いでクローゼットから着替えを取り出していた。
お決まりの黒のプリーツスカートに白のブラウスである。
それを引っ掴んで自室で手早く着替えてから、素早く2階の洗面所で洗顔を済ませた。
次に、肩あたりまである髪の毛をものすごい速度で梳かし始める。
普段、どれだけ剣を振り回していても、どれだけ大食いでも、どれだけ寝相が悪くても、やはり女の子である。
ゴムを口にくわえながら、ほつれている髪の毛を綺麗に梳かし、茶色がかった髪の毛を二つに結わえた。
鏡で出来を確認して、一人「よし」と頷く。
そして枕元に置いていた小型の短剣——柄の部分にはめ込まれた紅色の艶やかなルビーを主としていて、その周りに小さな宝石が散りばめられている。非常に手の込んだ装飾が施されている——を掴むと、腰に提げた。
この間、わずか3分。
手慣れたものである。
キリは脱兎のごとく自室から飛び出すと、リィのいる1階のキッチンへ駆け込んだ。
「じゃあああん! ほら、準備完了! さ、早くウェルリアに行こう! 早く!」
「その前に、」
誇らしげに胸を張るキリに、リィが笑顔で言う。
「まずは、私の作った朝ごはんを食べましょうね。キリ」
「……はあい」
終始笑顔のリィだったが、放った言葉は凍るようなトーンであった。
++++++++++++++++++++
キッチンと対面したテーブルの椅子に座り、キリは1人、食べ物と葛藤していた。
詰め込むだけ食べ物を口に詰め込んで、かき込めるだけ食べ物を口にかき込んで、牛乳で口の中のものを胃に流し込む。
「ごひほうはまれひた〜(ごちそうさまでした)」
いっぱいいっぱいになりながら、ドンドンと胸板を叩いてむせ返るキリ。
やはり一気に食べると苦しいものだ。
しかし早く食べないとリィにおいて行かれる。
……このような状況になってしまったのは、そもそもは寝坊したキリが全て悪いのだが。
食べ終わったキリは食卓から立ち上がると、ふとキョロキョロと辺りを見回した。
今まで近くにいたはずのリィの姿が見当たらない。
「あれれ。リィさーん?」
自室に戻ったのか。
キリは2階に上がり、階段のすぐ脇にあるリィの寝室に向かった。
寝室のドアは閉まっている。
「リィさあーん…」
「…………」
ドアの向こうから、返事は無い。
「リィさーん、入るよー?」
首をかしげながらキリはゆっくりとリィの寝室のドアを開ける。
寝室の中に、人の気配はなかった。
シン——と張り詰めた異様な空気が寝室に蔓延している。
「なんだろ……この感じ……」
しばらく神経を研ぎ澄ましてリィの部屋に立ち尽くしていたキリは、そこで、机の上に無造作に置いてある小箱に気がついた。
ちょうど、キリの両手にすっぽりと収まる大きさの正方形の箱である。
この箱の周囲だけ、明らかに空気が違う。————気がした。
キリは、思わずゴクリと生唾を飲んでいた。
『今ここで、この場で、この箱の中身を、確認しなければならない』
瞬時にキリはそう判断した。
キリの頬を冷たい一筋の汗がつたう。
何故だか分からないが、直感的にこの箱の中身を見なければとの思いに駆られる。
——中身を確認しなければ。
ゆっくりと息を吐き出し、周囲を伺う。
————ドアを閉める。
そうして机に向き直ると、両手でそっと掬うように小箱を持ち上げた。
蓋を開けようと左手を添え——。
「キリー、もう食べ終わったのー?」
「っ……?!」
- Re: 【初めまして!】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.5 )
- 日時: 2013/09/24 00:22
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: DboXPOuE)
声を聞くやいな、キリは小箱を元の場所に放り投げていた。
と同時に、ガチャッとドアの取っ手が回り、ドアの隙間からリィが顔を出した。
「キリぃ。こんなところで、何してるの?」
裏表もない、素直で率直な質問だ。
「あ、あの……あのろろろっ……」
「ん?」
焦ってろれつが回っていないキリに、リィは満面の笑みを向ける。
——ああ、笑顔が眩しいっ!
「ななな何してたって、そそ、そう。り、リィさんを、探してたの、よ。うん。一体全体、どこ行ったのかなあーって。うんうんうん」
「ああ、ごめんごめん。洗濯物を取り込んでたのよ。用意はもう出来た? じゃあ、行きましょうか」
「う、うん」
あくまで平然を装って、キリはリィの寝室を後にするのだった。
++++++++++++++++++++
「ああっ……!」
玄関に向かう途中でリィが思い出したように声をあげた。
「ごめんキリ。大事なものを持ってくるの、忘れてたわ。取りに戻るから、キリは先に外に出て、待ってて」
「あ、うん」
ごめんね、と眉尻を下げてパタパタと廊下の奥へと姿を消したリィを肩ごしに見送って、キリは靴をつっかけて表へ出た。
青い空に白い雲。爽やかな風がキリのスカートをはためかす。
今日は絶好のお出かけ日和だ。
「んーっ!」
新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで、深呼吸。
「やっぱり朝の空気は新鮮だなあ」
————でも……。
空の状態とは打って変わって、キリの胸の内は、もやもやしていた。
——さっきのあの箱、あれは一体……。
嫌な感じがした。言い現わせない何か。
胸がざわつく……。
気のせいだと思いたい、が。
「うんそうだよ。気のせい、気のせい!」
「何が『気のせい』なの?」
「うわわわわ!」
背後から声をかけられ、キリは思わず反射的にのけぞっていた。
もちろん、声をかけた人物は、リィその人であった。
「んな、なんでもないよ! うん!」
「そう?」
「ところでリィさん! 忘れ物、とりに戻れた?」
「ええ。ほら」
リィが差し出したそれは、キリが先ほどから気にしていた例の【小箱】であった。
相も変わらず、小箱は異様な雰囲気をまとっている。
「あ、うん。そっかそっか。それは良かったよ。……ですよ。アハハハ」
取り繕った言葉でしか反応ができず、キリはひきつった笑顔を浮かべてその場を収めた。
『ボーッ』
その時、船の出航合図の汽笛が辺りに響き渡った。
身体を揺さぶるような汽笛の音と同様に、キリの心も不安に揺さぶられるのであった。
- Re: 【初めまして!】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.6 )
- 日時: 2013/09/24 00:34
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: DboXPOuE)
【第一章 出会い編】
〜〜第二話:梟と少年〜〜
「うっわあああ! すっごいキレイー!」
目の前には太陽の光を反射してキラキラと輝いている海が広がっている。
キリは手すりを掴んで思わず身を乗り出していた。
ここはウェルリア王国に向かう渡船の甲板の上。
船内は、出稼ぎや観光、買い出しなどの様々な目的でウェルリア国に向かう乗客たちで溢れかえっていた。
キリはしばらくの間、船から身を乗り出して潮風を浴びていた。
と、次の瞬間、ものすごい勢いでリィを振り返り、
「ねえねえリィさん、見て見て見てっっ! 海、キレイだよお!」
現状報告をする。
キリの声は興奮で上ずっている。
リィは風に髪をなびかせながら、船の甲板ではしゃいでいるキリを見て、クスリと笑った。
「ああ。そうそう、キリ」
「ん?」
ふとリィに声をかけられ、キリは、はたとはしゃぐのをやめた。
「なに?」
「ウェルリア国についたら、どこに行きたい?」
「え、好きなところ行って良いの?!」
キリの目がぱあっと光輝く。
「私も着いたら少し寄りたいところがあるし。帰りの船までたっぷり時間もあるし」
「わあっ」
「どこ行きたい?」
「じゃあじゃあっ、えーっとね、えーっとねえ」
キリの頭の中に、沢山の食べ物が浮かんでは消えていく。
「ウェルリア国名物ジャンボたこ焼きでしょお、元祖バニラ味のソフトクリームにい、……あ、この間お隣さんに貰ったマドレーヌも美味しかったなああ。あのマドレーヌ、ウェルリア国限定品なんだって! ……って、あれ。リィさん?」
よだれを必死で拭いながら指折り数えて話していたキリは、リィが左手で額を押さえていることに気がついた。
「どうしたの? あ、もしかして、船酔いした?」
「キリ。まったくあなたって子は……」
「ほあ?」
幸せそうな表情を浮かべるキリに対して、リィはため息混じりに「仕方がない子なんだから」と呟くのであった。
しばらくの間、船上からの景色を楽しんでいたキリとリィは、
「ごーがいっ! 号外だよお!!」
突如発せられた男性の声に、思わずびくりと身を震わせた。
大きな声に驚いたキリがキョロキョロと辺りを見回すと、先ほど声を上げた男性がショルダーバックから紙を無造作にひっつかんで、船内にばらまいている。
「号外、号外! ウェルリア国第一王子についてのニュースだよー!」
「ゴー、ガイ……? リィさん、号外って……?」
「『号外』っていうのはね、事件とかをいち早く私たち国民に伝えるために臨時で新聞を発行して、こうして配布してくれるもののことを言うのよ」
甲板に落ちていた紙を片手に、リィが教えてくれた。
ほうほうと納得しているキリの目の前にも、一枚の紙がひらひら舞い落ちてきた。
周囲の人々も床に落ちた号外を手に取り、しげしげそれを眺めている。
「ほおお……。大事件、ですか」
「まあ……ねえ。ウェルリア国にしたら、一大事なんだと思うわよ」
「へ?」
「ほら」
言いながらリィが差し出した紙には、『ウェルリア国の第一王子、家出?! 城から逃げ出す』という見出しがでかでかと紙面を飾っていた。
記事の概要は、『国王は国軍から兵士を手配し王子を探しているが、依然消息は掴めていないため捕まえた者には褒美を出す』というものだった。
何故王子が脱走に至ったのか、王宮に関する専門家の(憶測)解説付きで紙面の端から端までびっちり文字で埋め尽くされている。
しばらく黙って記事を眺めていたキリは、
「逃げ出した王子様……って、……王子様なのに、…………」
「あら、王子様も立派な一人の人間よ、キリ」
「それは分かってるけどさあ……、……はあああー。王子様、かああ……。……はあああー……」
「……キリ?」
刹那、嫌な予感がして、リィは思わずキリの顔を覗き込んでいた。
なんだか話の雲行きが怪しくなりそうな予感がする。
「【王子様】、だってさ。【王子様】っ。私がもし王子様だったら、こんな風に逃げ出さずにさ、……えーっとね。そう。毎日美味しいモノ、いーっぱい食べてえ、……幸せに暮らすと思うんだけどなああ」
「…………」
さて。
こうなったキリには何を言っても無駄である。
妄想世界へトリップしたキリは、聞く耳をもたない。
「でもって、もし私が王子様だったらあ……うふふふ。シュークリーム食べてえ、チョコパフェ食べてえ……、あ! ジャンボたこ焼きも良いなああ。ぐふふふ」
しまいには変な声が漏れ出している。
今なら、「この子が王子を誘拐しました」と国王へ突き出しても通じるであろうほどの変質者っぷりである。
リィは手におえないとばかりに、そんなキリから少し離れた場所に身を置くことにした。
即決に他人を決め込んで、少し離れた場所にあるベンチに腰を下ろす。
その脇に号外紙を置く。
そして、
「………」
何とも言い難いような表情でしばらく空を仰ぐのであった。
どのくらい時間が経過したのだろう。
そこへようやく妄想世界から現実世界に戻ってきたキリが、どたどたと駆け寄ってきた。
「リィさんっ!」
「キリ……」
駆け寄ってきたキリの息はとても荒かった。
リィに駆け寄るために全力でダッシュしたためと、先ほどの妄想による興奮が原因に違いない。
そんなキリを見上げ、リィは静かに微笑む。
そして、
「ねえ、キリ」
突然愁いを帯びた顔でキリの名前を呼んだ。
キリが「ん?」と首をかしげる。
リィの瞳が揺れる。
「キリ、……私って一体、……【何者】なんだろうね」
リィのその呟きは、キリの心にもズシンと重たく圧し掛かるのだった。
「自分は何者なのか」
——そんなこと、キリにも分からない。
その昔、リィは記憶喪失でラプール島に流れ着いたという。
キリ自身も赤ん坊の頃にラプール島に流れ着いた身である。
自分自身の生い立ちどころか、両親の顔もロクに覚えていない。
「……何者、なんだろ、ね。私」
——不安。
そうだよ。王子様は、王子様であって、他の何者でもないの。
では、とキリは心の中で自問自答をする。
————私は、私であって……。何?
しばらく考えてから、キリはすぐにあっけらかんとした表情を浮かべた。
考えるだけ無駄だと思った。
例えキリ自身が何者であろうと、リィが何者であろうと、関係ない。
何がどうなろうと、この人から離れることはないとキリは思っていた。
——ラプール島も。リィさんも。
「……みんなが、大好きだから。どうでもいーやっ」
「ん? 何か言った? キリ」
「んーん。なーんでも無いっ」
- Re: 【初めまして!】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.7 )
- 日時: 2013/09/15 23:11
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: JcxyhtqZ)
++++++++++++++++++++
船は暫くして、港に着いた。
汽笛を背にキリとリィは船を降りる。
そうして2人は、海沿いの街を歩いていた。
「これから、まずはどこに向かうの?」
ひたすら石畳の道を縫っていく。
傍らには漆喰の壁で囲まれた住居が規則正しく並んでいる。
しかしリィは周りの景観には一切目を向けず、とにかく黙々と歩いていった。
うって変わって周囲に興味津々のキリは、見慣れない植物を見つけては立ち止まり、見慣れない昆虫を見つけては立ち止まり——そうしているうちにリィの背中が少しずつ遠のいていく。
キリはその度にリィの後を駆けていくのだが、また立ち止まっては周囲を見渡し、距離が開いてはまた駆ける——。
目的地にたどり着くまで、キリは終始この行動の繰り返しであった。
そのうち、前方にレンガ造りの建物が見えてきた。
リィの歩む速度が次第にゆっくりになっていく。
入口の前で立ち止まると、リィは、少し遅れてやってきたキリを振り返った。
「キリ」
「ん?」
「これ、預かっておいてくれる?」
リィがそう言ってギュッと押し付けるようにしてキリに渡したのは、キリがリィの寝室で見つけた例の【小箱】だった。
「これはね、とっても大切なものなの。だから少しでも中の物を見たり、触れたり、ましてや壊してしまうなんてことは、絶対にダメよ。もし守れなかったら、タダじゃ済まないからね」
いつものように終始穏やかな笑みを浮かべているが、リィは脅しともとれる言葉を羅列して、もう一度キリに強く念を押した。
キリが「うん」とも「はい」とも返事をする間もなく、リィはそのまま吸い込まれるかのように建物の中へ入ってしまった。
「ほへ……」
表の看板には、『喫茶ジュリアーティ』と洒落た書式で書かれている。
「喫茶店……」
しばらく呆然と建物を見つめていたキリは、勢いよくぶるんぶるんと顔を振った。正気を取り戻す。
「なによお、リィさんのクセして。喫茶店なんだったら、なにも外に締め出す必要なんてないでしょうがっ……!」
リィに対する不平不満をひとしきりぶちまけて、ひと呼吸。
うん。満足。
それから、どこかに休憩できる場所はないか辺りを見回すキリ。
が、周囲は白を基調とした住居しかなく、建物の間は細い路地が敷いてあるのみだった。
「……困った」
手にしている小箱をギュッと握り締める。
——と。
突如キリの耳に、僅かにだが、何やら荒い息遣いが飛び込んできた。
「路地裏……?」
キリは咄嗟に、腰の短剣に手をかけた。
- Re: 【初めまして!】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.8 )
- 日時: 2013/09/24 00:50
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: DboXPOuE)
微かに、荒い息遣いが聞こえてくる。
喫茶店の路地裏から。
「————っ?!」
突然の出来事に驚いたキリは、リィから預かっている【小箱】を危うく地面に叩きつけるところであった。
態勢を立て直してから雑念を振り払うために頭を左右にぶるんぶるんと振ると、キリは【小箱】をゆっくり且つ丁寧に、そっと石畳の上に置いた。
——落ち着いて。
【小箱】の位置を目の端で確認するとキリは、凝った装飾が施されている鞘から、すらっと短剣を抜いた。
右手でしっかりと握り、右耳の横あたりで構える。
柄の部分にはめ込まれているルビーがキラリと光った。
——来るッ!
荒い息遣いが聞こえていた細い路地裏から、黒い影がさっと飛び出してきた。
と、同時に、
「とりゃあああっ! お命頂戴いいい!!」
勢いよく振りかぶったキリの短剣は、石畳の割れ目に深々と付き刺さっていた。
「……は、れ?」
外したっ……!!
慌てて短剣を引き抜こうとするキリ。
その目の前に、ふわりと何かが舞い落ちてきた。
「羽……?」
薄茶が若干混じった白色の羽だった。
見上げると、一羽のシマフクロウがバサバサと羽を羽ばたかせながら宙に待っていた。
「フクロウ……」
キリは、石畳の割れ目に突き刺さった短剣を引き抜くことも忘れ、柄の部分を握り締めながら、ただただ呆然と宙を見上げていた。
澄んだ青空に舞うシマフクロウの姿に、ただただ見惚れていた。
さて。
そのような状況下にあったので、キリの全神経はこの時、残念ながらシマフクロウに集中していた。
従って、先ほどの路地裏から新たに足音の主が息を荒げてやって来ている状況に瞬時に反応することは出来なかったのだった。
キリがその人物の気配を感じ取った時には、もう、その人物はキリの眼前に迫っていた。
「うわあああっ!」
「きゃああああっ……!!」
ドガッと鈍い音がして、キリはそのまま後ろへ吹っ飛ばされた。
そして、
『ガッ』
嫌な音がした。
キリの右足の踵が何かを蹴っ飛ばした音だった。
「あれ……?」
そのまま態勢を大きく崩し……。
『グシャッ』
実際はそのような効果音では無かったのだが、キリの耳には確かにそう聞こえたのだった。
地面に置いてあった『何か』を『潰して』しまった音を。
「………」
顔面蒼白なキリは呼吸をするのも忘れて、自分の尻の下敷きになっている『何か』を恐る恐る確認する。
それは、元々【小箱】だった【モノ】であった。
キリの尻に敷かれ、最早原型をとどめていない【小箱】であった。
そのへしゃげた【モノ】を直視して、ショックのあまり凝固するキリ。
もはや救いようはない。
そんなキリと対峙する形で、一人の少年が尻餅をつきながら頭をさすっていた。
フクロウの次に路地裏から飛び出してきた人物であった。
キリとぶつかった時の痛みに声を漏らしながら、腰をさすって、ゆっくり立ち上がろうとしている。
一方でキリは、未だに思考回路がぷっつり停止していた。
石畳に視線を落として、フリーズ状態である。
少年は立ち上がると、身にまとっていたマントに付着した埃をおもむろに手で払い、それから、無言でキリに手を差し出した。
「ん…………」
反応、無し。
少年はもう一度その行為を試みようとして、——やめにした。
どうせ結果は同じだ。
となると——。
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